ブライアン・ボルはトリックテイキングで陣取りを行う中量級ゲーム
プレイし、良作だと評価したため記事化する


(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①ゲーマー好みにチューンした王と枢機卿
 ②4人>3人≧5人だがどれも◎
 ③トリックに勝ち続ければOKなシンプル構造
 ④勝ち続ける難しさ
 ⑤マップへの欲望の持たせ方は◎
(4)総評


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Brian Boru: High King of Ireland (2021)
Designer Peer Sylvester
Artist Deirdre de Barra
Publisher Osprey Games + 1 more

OIP


(1)基本情報
人数:3-5人
時間:60-90分(インストなしで45分程度)
複雑性:2.41 (参考値:王と枢機卿=2.44,ウイングスパン=2.45)
ランク: 1300位 (2022/6/13)
要素:トリックテイキング、陣取り、ブースタードラフト、11世紀アイルランド
言語依存:なし(日本語サマリがあると望ましい)
流通:2022/6現在日本語版の発表を確認せず、筆者は米国アマゾンで購入

デザイナー:
ペール・ジルフェスタ―(英語読みだとピア・シルヴェスター)は30-40代の男性デザイナー

代表作:
Wir sind das Volk! =我ら人民(2014)
The king is dead=王は死んだ(初版2015,第2版2020)

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インタビュー:
以下リンクで、ジルフェスター自身がブライアン・ボル含め主要作について語っている

Interview: Peer Sylvester, Designer of The King is Dead & Brian Boru - Diagonal Move

要旨としては、
・本作はテーマ先行。ブライアン・ボルをめぐるアイルランド史には長年興味があって温めていた。
・ブライアン・ボルの史実は多様な要素を持つ。内部の対立に勝つだけでなく、ヴァイキングを撃退し、婚姻関係を充実させ、教会とも強固に結びつく、多方面をこなして力をつけた。これらの諸要素をトリテの各スートにあてがうことで、難航していたデザインが大きく前進した。


(2)テーマ

950-1100年ごろのアイルランドが舞台

2022-06-13
イギリスの西に浮かぶアイルランド島、北海道よりちょい大きい

西暦1000年ごろのアイルランドは、
・海上からはヴァイキングの襲撃が絶えず
・150人以上の小君主が乱立して国土は分裂

とかなり弱っていた
別ゲームだが、オーディンの祝祭が800-1050年ごろの北欧ヴァイキングテーマ
両作は侵略する側/される側を両面から描いている

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オーディンの植民地ボードに用いられる地名、ヴァイキングは当時侵略の限りを尽くしていた

プレイヤーは乱立する小君主の1人となり、
支配地域の拡大
・ヴァイキングを撃退して名声を獲得
・カトリック教会への寄付&修道院の建設
・子女を各地方の名家に送り込み、婚姻関係を成立

これらをびしばしやっていき、未来のブライアン・ボル=アイルランド全島統一王を目指す

なお、原題のHigh king(上王)はアイルランド全土を支配する王の意で、無数存在した各地方の王(kings)と区別する意図で使用される
王のなかの王、あるいは戦国時代における諸大名に対する将軍って感じ


図3
https://boardgamegeek.com/image/6518924/brian-boru-high-king-ireland

(3)魅力
①ゲーマー好みにチューンした王と枢機卿

・慣れれば60分を切るプレイ時間
・メインの陣取りとサブ課題の2正面的なタスクを並行させるプレイ感

このあたりは王と枢機卿にけっこう近い
王と枢機卿やリメイク版のIwariと比べると、アクションシステムがチケライ方式のカード引きからトリックテイキングに変更された
ひとひねり利いていて、よりゲーマー指向となっている


②4人>3人≧5人だがどれもかなり良い
4人戦はゲームの魅力が最大限引き立つ、最も好みだ
が、他人数でもちゃんと面白い
3人戦ではトリックの勝敗や陣取りがコントロールしやすくなる
1人あたりの得点も伸びやすく、初回プレイ向きかも
5人戦はややアンコントローラブルすぎるが、追加ルールなしで十分成立しており、美しい

白ブラスは2-4人用で、ベスト人数が3人>2人≒4人であるが、ちょうどそれに+1人した感じに近いかもしれない


③トリックに勝ち続ければOKなシンプル構造
筆者および同卓者らはトリテはほぼズブの素人
だが本作は構造がシンプルで、1回通して遊べばだいたい勘所が理解できる

トリックに勝つと、
・メインボードにディスク1個置ける
・次の戦闘マスを指定できる

の2点のアドがある
本作の数字感は、全20-21手で、だいたい30点取れば勝てるゲーム
ディスク1個はたいてい1点以上生み、トリックに勝ち続ける=ゲームの勝利と言って良い
負けるとサブアクションが打てる

軍事、教会、婚姻アクションを1-3回打つ(スートによって変わる)
1-3金を得る

が主な報酬
軍事、教会、婚姻はラウンド終わりにトップなら2-3勝利点をもたらしてくれる
が、トップ保持に2-3手かかるうえに、2位でも1勝利点入るため小競り合いが頻発し、ディスク配置に比べると得点効率は落ちる



④トリックに勝ち続ける難しさ
1-25の数字で構成されており、トリテなのでハイナンバーのカードは勝ちやすい
特に23,24,25は各色の最強札
本作は各ラウンド最初にブースタードラフトで手札を作ってからトリテをやる
そのため、
「雑にハイナンバーのカードだけピックしとけばいいのでは」

と安易に考えがちだが
ハイナンバーのカードは、トリックで勝つ際にお金を消費してしまう
本作のゲームデザインでいう原子(最も小さい単位)は1金なのだが、このお金の実装が良くできている

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カードの上半分が勝利ボーナスで、写真左の15で勝った場合はタダでディスクが置ける
が、24で勝った場合は2金消費する
本作はお金がけっこうカラいゲームで、2金取り戻すにはほぼ丸々1手かかる
よってデカい数字だけドラフトピックしても息切れしてしまい、途中で失速する
なお、お金がないときに勝たされてしまうと本当に最悪で、1金あたり2勝利点を失う
アグリコラの、チャリを漕いでギリギリを攻めた結果食らわされる物乞いカードを思わせる
しんどさとスリル、とても好みだ

逆に低いナンバーでトリックに勝てると、リソースをもらいながらディスクが置ける

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写真左の2で勝てると2ヴァイキングトークン+1金がおまけでついてくる
1トークン≒1.5金のため+4金相当
手札の減ったラウンド終盤に狙って勝てるととても気持ち良い


デザイン面の掘り下げとしてカード一覧を出すと、

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こんな感じ
・トリック勝利ボーナス/ペナルティは、+4金~-2金まで7段階用意
・ボーナスはお金と1.5金相当の資源(赤ならヴァイキングトークン)の2種用意してゲームを適度に複雑に


という設計
3色7枚ずつと切り札スート4枚の25枚からなる

⑤マップへの欲望の持たせ方が◎

8エリアに分かれており、エリア内の総ディスク数が一定枚数を越えるとはじめて支配可能になる
すると単独トップのプレイヤーは支配タイルが保持でき、ゲーム終了時に3-7勝利点入る
カタンの最大騎士力と似ており、トップが変わると保有者が変わる
また、ゲーム終了時、1個でもディスクを置けているエリア数に応じて、1-10勝利点がh入る

この実装はめちゃくちゃ良い

たとえば支配で7点取れるエリアはめちゃ強なのだが、5個ディスクが置かれないと活性化しない
単独トップを狙って序盤からヘタに2個も3個もディスクを置こうものなら、他プレイヤーにとっては魅力的でなくなり、参入してくれなくなる

反対に他プレイヤーと適度に相乗りできると、少ないディスク数で支配可能エリアが増やせる
また終了時のエリア数加点も狙えて二重においしい
が、「勝者全取り&トップタイは全員ゼロ点」はもっともシビアなルールのため、1ディスク差のギリギリの勝負となりやすく、終盤の取り合いはたいてい加熱する
(4)総評
多要素にまんべんなく手をつけながら、ラウンド終盤に相手を出し抜いて、ほんの少しだけ上を取れたプレイヤーがもっとも大きく利益を取れる
これぞトリテの醍醐味、なのかはちょっとわからないが、トリックテイキングメカニズムの持つ長所が良く活かされている
遊ぶ価値のある良作だと評価する

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