アルマ・マータはコインブラ(2018)の続編的なルックスの重量級ゲーム
しっかり面白く好みだったため、何がどう良いと感じたか記事化する

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(1)基本情報

(2)テーマ
(3)おおまかな魅力

 ①王道狙いの野心作

 ②シンプルさと分からなさの両立
 ③古典ワカプレ=ラウンド中のアクション価値は不変

 ④印刷によって変わるアクション価値

 ⑤相利的なインタラクション

 ⑥イージーな経済ゲーム
 ⑦研究トラック=学生の人気競争

 ⑧学生は捨てて教授へゴマすり
 ⑨タップワーカーとしての教授
 ⑩今風のセミオート増員

(4)その他

 
4人≧3人>2人=1人
 ワカプレの部分は△
(5)総評:バラージ(2019)によく似た良作


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Alma Mater (2020)
Designer Acchittocca, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto
Artist Chris Quilliams
Publisher eggertspiele + 5 more



(1)基本情報

人数:1-4人(ベスト4人)
時間:90-150分 
複雑性:3.76 (参考値:アグリコラ=3.64,黒ブラス=3.86)
ランク: 1000位 (2022/2/15)
要素:ワーカープレイスメント、プレイヤー間の資源売買、15世紀イタリア、盛期ルネサンス、学術振興、大学経営
言語依存:一部あり(数枚の学長カード、公開情報)
流通:アークライトより日本語版が発売中、2022/2現在定価以下で流通

デザイナー:
デザイナーはイタリア人4人で、自身らをアッキトッカと呼んでいる

以下https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/6601/acchittoccaの翻訳

”アッキトッカは2001年に誕生しました。
4人で行ったイタリアのゲームコンベンション、Mucca gamesからの帰り道、高速道路上で結成したゲームデザイナーグループです。
名前の由来はイタリア語の''a chi tocca?''(今、誰の手番?)から。
ゲーム中にこの質問をするたびに、サブリミナル広告のように名前を思い出してくれるでしょう。"


"A chi tocca?" は英語だとWho is touching now?(今誰がボード触ってるの?)くらいの意

4人は、
フラミニア・ブラジーニ(唯一の女性)
ヴァージニオ・ジーリ(アッキトッカ以外でも複数作成)
ステファーノ・ルペルト
アントニオ・ティント

主要作
アッキトッカ:

・エジツィア(2009)
・テラマラ(2019)

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ブラジーニ&ジーリ

・コインブラ(2018)


ブラジーニ&ジーリ&ルチアーニ
・ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)


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ジーリ&ルチアーニ

・グランドオーストリアホテル(2015)



【アートワーカー】

クリス・キリアムスはカナダ人のアーティスト
プランBゲームズの内製デザイナー
代表作:

・カルカソンヌ(2000)

・パンデミック(2008)
・アズール(2017)
・センチュリー3部作(2017-2019)

どれもシリーズモノで、めちゃめちゃ仕事している



(2)テーマ

アートワーク、テーマともにコインブラを彷彿とさせる
コインブラと本作はともにエッガートシュピーレから出ている
エッガートはアートワーカーの在籍するプランB傘下

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Coimbra(2018)

プレイヤーは1400-1500年ごろの架空の総合大学の学長
・ボローニャ大学(タイトルのアルマ・マータ/Alma Mater Studiorumが別名)
・ナポリ大学(法学に強い)
・パリ大学(神学がルーツ)
・オックスフォード大学

このあたりを混ぜた感じで作っている

メインボードは人材市場
・有望な学生をリクルート
・研究と教育に長けた教授をヘッドハンティング
・他校より高い研究業績を上げさらなる学生人気を狙う


史実でも、ヨーロッパ中のより優秀な学生が来てくれるように誘致する事例は多々あった
ナポリ大vsボローニャ大
ナポリ大学は1200年ごろフリードリヒ2世(シチリア王と神聖ローマ皇帝を兼任)が作ったのだが、当時は大学といえばボローニャ大だった
ボローニャ大は教皇のサポート下で、皇帝と教皇は何かと対立が絶えない
ナポリ大vsボローニャ大は、皇帝vs教皇の代理戦争でもあった
フリードリヒ2世による、
奨学金を手厚く
・大学周辺のアパートの家賃上限を設定、住環境整備
・カネを積んで著名な講師陣も招く

と、アグレッシブな国策で学生をガンガン呼び寄せてナポリ大は勝利、イタリア半島トップ校となった




ボックスアートの大学像はいくつかの大学のミクスチャで、モデルがある

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・遠くにそびえる円形の図書館=オックスフォードのラドクリフ・カメラ
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・手前のグリーンの校舎=ナポリ大学の学舎
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中央の柱廊=ローマのパンテオン
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(厳密にはパンテオンとは奥のドームであり、手前の柱廊はファサード(正面)を美しくする飾り。)


なぜ複数大学をミクスチャしたかだが、

・コインブラ大学をテーマにした前作が良かったから、今度は最古の大学ボローニャあたりをテーマにしよう
・1大学をテーマにすると、大学内で協力しないのも不自然、競争的なシステムを乗せにくい
・とはいえ、「ボローニャという町をめぐる物語」でいくとコインブラと被る
・ちょっと広げて、ルネサンス期の大学社会全体をテーマにしよう


こんな感じの流れだと推測する

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(3)おおまかな魅力


①王道狙いの野心作

重ゲーでやりたいことはだいたいさせてくれる
増員
・プレイヤーの個別能力
・経済的なインタラクション

いろいろ揃っているだけあって、1ゲーム200分近くかかってしまう

・180分越えで
・ゲーマーが好きな要素をなるたけ詰め込んだ重いやつ

こういう重ゲーを、筆者は勝手に総合小説型と呼んでいる

`'僕の考える「総合小説」っていうのは、とにかく長いこと、とにかく重いこと(笑)。そしていろんな人物が、特異な人から普通の人まで次々に登場してきて、いろんな異なったパースぺクティブが有機的に重ね合わされていく小説であること。`'(村上春樹,2009「るつぼのような小説を書きたい」)


小説だとカラマーゾフの兄弟なんかが好例だが
ボードゲームだと、
・アグリコラ(2007)
・ツォルキン(2012)
・オーディンの祝祭(2016)

・テラフォーミングマーズ(2016)
・ガイアプロジェクト(2017)

・バラージ(2019)

このへんが挙げられる

本作が、これらの傑作を棚から蹴り出して、オールタイムベストの座を奪えるかというと
さすがに厳しくはある

が、ちゃんと作られている良作だ
野心的に総合小説を書こうとしていて、かたちになっている
既存作の良いものはうまく活かしつつ、本作にしかない新しい何かも足せている
傑作とは言い難いが、十分意味のある良作と評価する


②シンプルさと分からなさの両立

本作の良さ、言語化が難しいのだが、一言で記すならこれだ
ルール分量は多くない
普通のワカプレで、資源種も本かお金のみ、めちゃ少ない
フローもシンプルで、
・ワーカーを使って本を生産、売買
・本を消費して学生や教授を雇用
・合間で研究トラックも進めたりマイルストーン達成

「本を作る→支払う」のみだ
ゲーム中に新情報も増えない、ガチャ、めくれ運、ダイスなし
インストは慣れれば15分程度

であるのに、なんというか、先が見えない
分からなさ、先の見えなさは快不快のどちらも与えうるが、筆者にとってはやや快寄りで、リプレイ欲求につながっている


・何が分からなさ/先の見えなさを生んでいるのか
・それらがなぜ筆者にとってあまり不快でなく、リプレイにつながる

を読み解いていく


結論から記すと、
本来アクションの価値が不変であるはずのワカプレで、アクションの価値を毎手番めまぐるしく変動させているから先が見えない
各要素の作りが丁寧で、設計に必然性があるから不快感が少ない

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③古典ワカプレ=ラウンド中のアクション価値は不変

ワーカープレイスメント
アグリコラでもナショナルエコノミーでも、ロチェスタードラフト(アクションスペースの早取り)でさえあればなんでもいいのだが
アクションスペースの価値はラウンド中不変であることが多い
アグリコラは古いだけあって分かりやすい
リソースが降ってきてアクションスペースの価値が変わるのは必ずラウンドの切れ目
ラウンドの最中に木や飯は降ってこない
ナショエコでも、共用のアクションスペースが増えるのはラウンドまたぎに設定されている

ラウンド中の価値の更新はノイズになり、ダウンタイムを延ばすことにもつながるからだ


本作では、ラウンド中に差し挟まれる印刷アクションによって、上記と顔つきが大きく異なっている

④印刷によって変わるアクション価値

1ワーカーを個人ボードのアクションスペースに置くことで、自大学の本を刷れる
バラージの建設アクションと同じ実装で、各人の印刷アクションは守られている
他人に奪われることがなく、好きなタイミングで打てる

本は一度に6冊まで印刷でき、刷った本は自分のストックにするか売り場に並べるか選べる
たとえば「6冊印刷、2冊は個人ストックに加え、4冊は売り場に並べる」みたいな感じ
個人ストックの本は自分の資源になる
売り場に並んだ本は他プレイヤーが買える

本以外にはお金と辞書しかリソースがなく、この印刷と売買のウエイトがとても大きい

他人の本を得るには、原則他プレイヤーから買うしかない
他プレイヤーが印刷した直後に購入が打てると、安くたくさん仕入れられる
直前に他プレイヤーが印刷してくれるかで購入アクションの価値が変動する

反対に、自分が刷った本はいつか他プレイヤーが買ってくれるが、それがいつか明白でない
買われると相手の手番中に急にキャッシュが降ってくるため、より動きやすくなる
直前に他プレイヤーが購入してくれるかで、取れる選択肢が増減する

このように、印刷と売買によってアクションの価値が毎手番大きく変わるので、その都度戦略を組みなおす必要がある
基本的にはプラス方向のプランチェンジであり、不快感につながりにくい

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⑤相利的なインタラクション

本を刷りまくってお互いに買いまくると点数がインフレするようにできている

少しだけ細かい数字の話をする、適宜読み飛ばしを推奨する
印刷アクションは1ワーカーと1金/冊かかる
たとえば6冊印刷して、自分用に2冊得、売り場に4冊置いたときは1ワーカー+6金がコスト
その直後に4冊売れたら相手から10金がもらえる
4金(相手から得た10金-印刷代6金)+2冊(自分用)が1ワーカーで得られる
自分の本1冊の価値=1.5-2金
なので、
印刷アクション1手の価値=7-8金
1手あたり2-3金が相場なので、雑に記すとうまくやれば平時の2-3倍くらいの打点になる
これは相手にとってもだいたい同じで、安く多く購入できるほど1ワーカーあたりの効率が良い

自分の利益を優先して動いた結果、商売相手の役にも立ち、共同体全体の公益にもつながる
経済ゲームのエッセンスが自然と感じられるようシステムが組まれている



⑥イージーな経済ゲーム

経済ゲーム、特にプレイヤー間での直接売買は設計もプレイも難しい
・値付けや生産個数の自由度が高すぎる
自社製品を自身で使えない
・ヘタなプレイヤーがゲームを壊す

このあたりに難しさがある

・コンテナ(2007)

・国富論(2008)
・キャプテンズ・オブ・インダストリー(2015)

このあたりと本作を比べ、見ていく


【値付けと生産の自由度】

どれだけ生産して、それをいくらで売るのかをプレイヤーが決められる作品が多い
相手はどれだけ欲しがってくれるかを正確に見積もり、
・相手にトクさせすぎない程度に高値で
・かつ競合他社に負けない程度に安く

そういったラインを探っていくことになる

【自社製品を自身で使えない】

生産した商品を自分自身で使えなかったり、なんらかのデメリットや縛りを設ける作品が多い
理由は単純で、経済ゲームを作る全てのデザイナーは適度に活発な売買をやってほしいと願っているからだ
自社で生産してそのまま自社で使うことについてなんらかの対策を講じないと、売買が起こらず場が冷え込んでしまう、経済ゲームとしては致命的

【ゲームが壊れる】

壊れるは言い過ぎだが、不当に安い値付けや過剰な生産をやってしまったプレイヤーが早期脱落したり、それによって不当に利益を得たプレイヤーがそのまま走って買ってしまう場合がある

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Captains of industry(2015)


これらと比べて本作はかなりイージーに遊べる

・本棚収入
・自社本も使える

この2点がイージーさを生んでいる

【本棚収入】

本棚とは個人ボード上部の売り場

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写真上部に6個の空きスロットがある
本棚の本が相手に買われず売れ残っている場合、ラウンドまたぎの収入フェイズで
1金/冊得られる
6冊フルに在庫を持っているなら6金
これが大きい
律儀に再販、重版をかけ、在庫を切らさずまめまめしく供給する
転売を許さない善良なショップのごとくふるまったプレイヤーが本作では得をする

「刷るのに1金/冊かかるが売れ残っても1金返ってくる」=刷るのは実質タダと言って良い
上記より、本は基本的に刷ったもん勝ちで、迷ったら限界まで増刷するプレイヤーが多い

経済ゲーム特有の生産数と売価決定の難しさがなく、ストレスフリー


【自社製品も使える】

本作で本は、
・学生タイル
・教授カード
を取るときにコストとして使える
それらの両方で自社の本が全然使える
2-4種の本が必要で、全プレイヤーの本は基本的に等価
「1種は自社の使ってOK、でも残りは他プレイヤーのを頑張って買って揃えてね」

と、そういう実装になっている


⑦研究トラック=学生の人気競争

本ならなんでもいいわけでなく、プレイヤーごとに微妙に序列がある
研究トラックを進めたプレイヤーの本は学生人気が高い
学生人気が高いと、学生タイルを買うときに支払いとして使いやすい
研究トラックは学生を買うときにだけ参照し、教授カードについては見ない

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これもとても良い実装だ
研究トラック、めちゃめちゃコスパが悪い
上げるのが手間なわりに得点能力が低く、エンジンにもつながってくれない
できるなら序盤は研究をサボりたい
「研究サボってエンジンフル強化→
最後の1,2ラウンドの余った手数でちょっと触って得点底上げ」
がおそらく最も効率が良い


が、学生をめぐる人気競争がそれを許してくれない
学生タイルはローコストでミニ収入や永続能力が得られる
また5人揃えれば増員ボーナスももらえる
序盤に絶対欲しい

自分の本を学生購入コストとして支払いたいなら、1位にならずとも、せめて2-3位をキープする必要がある
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4位は本当に人権がない、そもそも15世紀は基本的人権の発明以前だが
学生をタッチできないのもしんどいが、自社本の売れ行きが落ちるのが相当キツい
最安値でバーゲンセールし、盤外の会話で「本当に困ってるから買ってくれ」と泣きついているのに1ラウンド丸々買われない、みたいなことがけっこう生じる

この研究トラック、何がいいかと感じると、ペナルティが明確でないのが良い

・ロレンツォの破門トラック
・グランドオーストリアの皇帝ボーナス

のヴァリエーションなのだが、それらとは異なり、最下位になったときの罰則があいまいだ
学生を捨てて教授ルートで行けば最下位でもデメリットをある程度無視できる
また、本の印刷を絞ったり値上げするプレイヤーがいるなら、安さで勝負すれば全然買ってもらえる

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Lorenzo il Magnifico(2016)の破門トラック


⑧学生人気は捨てて教授へゴマすり

教授の設計もめちゃくちゃ良い
教授カードは12種のうち毎回8種使う
買うには6-10冊の本+5-10金の頭金が必要
これは意味不明なくらい重い
最速で用意しても、手をつけられるのは2,3ラウンド目になる

教授の買い方は「本Aを3冊、Bを2冊、Cを1冊」みたいに緩やかに指定されている
一度誰かに買われると、以降その支払い方しかできなくなる

トリテのマストフォローにちょっと似ている
自社の本を最も多く使わせるように指定できると、他プレイヤーにもその払い方を強要できる

「8種もあるんだから別な教授が買われるだけでは?」とも思えるが、
・すでに買われた教授には頭金が要らない(5-10金浮く)

・明白なパワー差があり、人気の教授は被る

などから、先に指定できるとけっこうな大きなアドがある
ゲームに慣れてくると、
「今回は学生レースたぶん勝てなさそう
それだったら全オリして足を貯めて
余ったリソースで相手より先に教授を買おう」

みたいな住み分けが生じる

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⑨タップワーカーとしての教授

学生はミニ収入や永続能力だったので、教授はゲーム終了時の得点なのかと思いきや
思いっきりエンジン的な能力がついている
教授は毎ラウンド使える疑似ワーカーであり、本1冊を支払うとタップできる
だいたい1.5~2ワーカー分くらいの働きをする

テラフォのドローや動物が湧くアクションカードや、筆者のアマルフィのアクション系人物カードに近い

タップするにはもっとも多く払った本を必要とする
もし他プレイヤーに先に買われていた場合は、買うときに他プレイヤーの本が必要なだけでなく、起動するにもその都度相手プレイヤーの本を用意する必要がある
このじわじわ首を絞めるような、上納金を払わせるようなインタラクションもとても楽しい


タップではお金や本といったリソースだけなく、VPが得られる教授もいる
2-6VPを毎ラウンド生産してくれる
本作の相場観は4人戦だと90点、3人戦だと150点くらい
もし最序盤に得点系教授が擁立できるとなかなか夢がある
バラージで、早めに建物を建て切って毎ラウンド10VPもらうときの快楽に似ている

ただ教授の実装は一長一短で、起動に1手番を使うので、終盤の
間延びの原因にもなっている
が、単なる無駄な実装でなく、起動アクションは相手が印刷してくれるのを待つ際に、いわばソフトパスとして利用できる
ベテランプレイヤーはこのソフトパスをうまく使いこなそうと試み、よりやりごたえが感じられるようになっている

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⑩今風のセミオート増員

4ワーカーのワカプレで、2体増員でき、最大6ワーカーでプレイする
維持コストはないので増員はし得
増員条件は、
・学生タイル5枚
・15勝利点
・増員マイルストーンを達成(毎ゲームランダム)

の3つ

・ガンジスの藩王(2017)
・シティ・オブ・ザ・ビッグショルダーズ(2019)
・クーパーアイランド(2019)

あたりが類似
このタイプの、条件達成式増員を筆者はセミオート増員と勝手に呼んでいる
それぞれのルートを一定まで進めるとボーナスとしてタダで増員がつく
アグリコラやカヴェルナのように、プレイヤーがコストを払って行うマニュアル(手動)増員でなく
オーディンの祝祭のように、毎ラウンド固定でワーカーが増えるフルオート増員でもない

初級者にとっては中盤には半自動で増員できるため易しくストレスがない
上級者にとっては、相手より1-2ラウンド早く増員するための工夫と技術が要求される

誰も不幸にしない安全で優れた実装だ
また、プレイヤーが望んで増員したわけではないので、本作含め、たいてい維持コストなどはかからないようになっている


本作に話を戻すが、3つの増員条件のうち、15勝利点の設計が特に良い
本作、ゲーム中にほぼ勝利点が入らない
・相手の本を買う(1冊あたり1-3点)
教授タップ(2-6VP)
10金捨てて7勝利点の特殊アクション

の3つしかない
上記のうち、本購入のVPは自然と入ってくる

そのため、何も工夫せずとも2-3ラウンド目には6-7VPは稼げる
こうなると15VPも視野に入ってくるわけで、欲が出てくる
この欲望の持たせ方、動機付けのさせ方がとても良い
さりげなく自然に盛り上げてくれる

「君7点も取ったの!?
ってことは10金→7VPのアクションをやると…14点
もうちょっとなんかやれば15VPだよ!whoa!!」

と、拳を握りしめ励ますデザイナーの幻影がボード上に浮かぶ
15VPは本当に絶妙な遠さだ
最速増員を狙いたいなら何かしら手を歪める必要がある


本記事、一生褒めていてバカみたいだが、まだ良いと感じる部分がある
15点まで貯めた勝利点は、研究トラックを進める際に切り崩して使えるのだ
研究トラックは、要求資源を持っていればタダで上げられる
いわゆる「見せ金」で、支払う必要がない
ハラータウ(2020)のカードメカニズムと同じだ

が、ない場合はVPやお金を支払っても進められる
15VPに一度到達しさえすれば、下回っても特に罰則はないので、今度は研究トラックのためにVPを切り崩すことになる

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(4)その他
4人≧3人>2人&1人

本作は1-4人用で、1,2人戦は特殊ルールがある
1-2人でも遊べはするが、売買のインタラクションを楽しむには3人以上は必要

3人戦は研究トラックで最下位になってもほぼノーダメージで、とてもイージー
そのため、
・みんな研究は最低限だけ
・リソースを効率よく使って拡大/成長
インフレ場に

って感じになりやすい

4人戦は研究トラックにおいて不毛な意地の張り合いが頻発し、ややデフレ場となる

どっちが好きかは完全に好み
筆者はインフレ場の方が勝ちやすいため3人戦の方が好きだが、4人戦こそ本作の魅力を最大限引き出せると感じる
また、デフレ気味の4人戦とインフレした3人戦はプレイ時間がほぼ同じで、そこにも美しさを感じる
多人数の方がかえってゲームが早く収束するテラフォにちょっと似ているかもしれない



ワカプレの部分は△
・印刷(本の生産)
・購入
・日雇い労働(外部からお金を得る)

上記の重要なアクションは全て守られていて、例外処理がある

ワカプレはゲーマーが理解しやすい枠組み、共通言語なので、雑に採用しちゃうのは全然アリだと思うが
本作は例外処理が多い
なんというか、ワカプレを選ぶ必然性がやや低く、あまり美しくない
筆者の体力の問題でもう細かく言語化しないが、バラージにも同じような雑味を感じる


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(5)総評
まとめていて強く実感したが、長短所はバラージにとても良く似ている

両作とも、
・長いダウンタイム
・2,3R目でしくじったときの絶望感
・2人戦の味気なさ

と短所も目立つが、

3-4人戦で真価を発揮し

・ブン回ったときの尋常でない快感
・5回以上のリプレイにも堪える堅牢性

と、欠点を補って余りある長所を持つ

遊ぶ価値のある良作だと評価する


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