カテゴリ: マーティン・ワレス

レイルウェイズ・オブ・ニッポン(2018)は、ワレスによる蒸気の時代(2002)のセルフアレンジ
プレイし、蒸気とは違った魅力を持つ良作だと感じたので記事化する

――――


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(1)基本情報
(2)長短所
 ①ゆるいファミリーゲーム

 ②3人=ベスト、4人=ちょっと長い、2人=世界が広い

 ③終了トリガーがちょっと遠い

 ④インタラクションはそれなり

(3)考察-蒸気の時代との比較検討

 ①負ければゲームオーバーの競り
 ②黙ってる人間が勝つ

 ③複雑なタイルコスト

(4)おまけ―全マップ総覧

 ①アメリカ東海岸(2005)

 ②ヨーロッパ(2008)
 ③メキシコ(2009)

 ④アメリカ西海岸(2010)

 ⑤スルータイム(2011)

 ⑥イギリス(2013)
 ⑦アメリカ北部&カナダ(2018)

 ⑧南極大陸(2018)

 ⑨ポルトガル(2019)

(5)総評


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Railways of Nippon (2018)
Designer Glenn Drover, Hisashi Hayashi, Martin Wallace
Artist -
Publisher Eagle-Gryphon Games



(1)基本情報
人数:2-4人、ベスト4人
時間:90-120分 
複雑性:2.38 (参考値:カタン=2.31,ウイングスパン=2.41)
ランク: 3000位 (2021/12/21)
要素:鉄道敷設、ネットワーク構築、ピック&デリバリー、ユニークカード
言語依存:中程度(ほぼ公開情報のみ,サマリなどで対応可能)
流通:アークライトより日本語版
本作を含めた全拡張セットをキックスターターで販売、約1200万円集めている(プロジェクトページ)

デザイナー:
メインデザイナーはマーティン・ワレス
歴史学をバックボーンに持つイギリス人の専業デザイナー
Wallace=ワレス/ウォレスwelsh=ウェルシュ、ウェールズの,よそ者の から転じた姓
「ウェールズ人」という語がよそ者の意を持つ理由は、征服者のアングロサクソン人から見たため
アングロサクソン人は5世紀ごろに今のドイツからグレートブリテン島に渡り、彼らから見た現地人をウェールズと呼んだ
Wallace氏がウェールズ人を人種的ルーツとして持つかは不明だが、長年拠点としていたマンチェスターはウェールズ地方から電車で1時間くらいの距離にある


マップデザインは林尚志氏、代表作は横濱紳商伝(2016)ユグドラサス(2020)
とても腕が良く、今回のマップをちょうど良い広さで遊びやすく作られている


3人目としてグレン・ドロヴァー氏も名を連ねている
イーグリ・グリフォンの創業者で、レイルウェイ
ズシリーズの全作品やエイジオブエンパイアIIIのクレジットにも名がある

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Age of Empires III: The Age of Discovery (2007)


本作の位置づけ:
ワレス
蒸気の時代(2002)発売!」

グレン・ドロヴァー
「蒸気最高!!
もう少し軽くし、コアゲーマー以外でも遊べるようにしてぜひイーグリからも出しましょう」

ワレス
「イーグリからレイルロード・タイクーン(2005)発売!
 Age of Steamをよりカンタンでテンポよいバージョンに落とし込む。
これが本作の狙いだ。
線路の建設に重点を置いて、他の要素はできるだけ省いた。
オークションは単純化し、ほぼ取り去った。
特殊アクションも廃止した。
株はラウンド開始時に発行するんじゃなくて、いつでもオートで発行できる。
オリジナルの『Age of Steam』をより単純化し、幅広い層向けにデザインしたんだ」

~数年後~

ワレス
「ライセンス関係で揉めてレイルロード・タイクーンがゲームタイトルに使えなくなった…
なのでレイルウェイズ・オブ・ザ・ワールド(2009)発売!
細かいルール変更はしたが、ベースはレイルロードタイクーンだ。
北米&メキシコマップを皮切りに、各国の地図を制作!
そしてレイルウェイズ・オブ・ニッポン(2018)発売!
今回は独立拡張で、ザ・ワールドを持っていなくても遊べるぞ」


余談だが、Steam(2009)も上のエピソードと似た感じで、蒸気の時代の版権で揉めたから作り直したとどこかで読んだ記憶がある

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Steam(2009)

参考記事:
Ender's Comprehensive Pictorial Review: A new base game for Railways of the World, and the ideal medium weight train game | BoardGameGeek

(2)長短所

①ゆるいファミリーゲーム

かなり軽い
重厚なアートと鉄道テーマであり、白ブラス、バラージ、蒸気の時代なんかをイメージしがちだが
チケライとかウイングスパンくらいの、肩の力を抜いてゆるく楽しめる良作だ

②3人=ベスト、4人=ちょっと長い、2人=世界が広い

3人が最も好みだ
テンポが良く、のびのびやりたいことがやれ、終了トリガーも遠すぎない

4人はマップの広さ的にはおそらくベスト人数
ほぼ必ず誰かとぶつかり合いが生じ、楽しい
ちょっとゲームが間延びする場合があるため、終了トリガーを適当に削ってもいいかもしれない

2人だとやや盤面が広い
電力会社のように、ゲーム開始時に中国地方や東北地方を封鎖などし、マップを狭くしてもいいかもしれない

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③終了トリガーがちょっと遠すぎる

前項でもちょっと記したが、本作は終了トリガー制
各都市にキューブを配置したあとは、蒸気の時代のように毎ラウンドの補充がない
規定数の都市からキューブがなくなったら終了となる

トリガーまで律儀にプレイすると、4人戦で180分くらいかかってしまう
序盤で大勢が決する軽めなゲームであり、45-90分くらいで終わって良いと思われる
筆者らの卓だと蒸気の時代方式で、3人戦=12ラウンド、4人戦=10ラウンドなど、開始時に合意を取って固定ラウンド化している
桃鉄の年数を最初に話し合って決める感じに近い

④インタラクションはそれなり

細かい話は後述するが、蒸気と比べるととても緩い
ワレスの3-4人ゲームで相手との絡み度合を比較すると、

蒸気の時代=10
ストラグル・オブ・エンパイア=9
黒ブラス=8
白ブラス=7
オートモービル=5
本作=4
ティナーズトレイル=3
ロンドン=1

くらい
例によってあまり意味のない主観レーティングだが
口数少なく勝利を追求するストラテジーゲームよりも、日本マップのフレーバーをダシにワイワイ雑談しつつ楽しむファミリーゲーム寄り

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(3)考察-蒸気の時代との比較検討

蒸気、機会を見つけてはリプレイしているが、好みからかなり外れている

・勝敗をほぼ決める最序盤の競り
黙ってる奴が勝ちやすい設計
タイルコストの分かりづらさ

上記3点が特に合わないのだが、本作はとても自分好みにチューンされている
それぞれ見ていく

①競りの簡略化

最初からほんの少しだけ脱線するが
ボードゲームには人生観が出る
プレイにおいてもデザインにおいてもそうだ
筆者は、
・自分の長所を探して
・手数を使って磨き上げ成長し
・他者とうまく住み分けて成功する

ようなストーリーが心底好きだ

自作には必ず住み分けと成長要素が含まれている
プレイする方でも、白ブラス、オーディン、バラージ、なんでもいいが、この2要素が組み込まれているゲームをリプレイする傾向にある

前置きが長くなったが、蒸気は住み分けと真逆の世界を持っている
他者との競合を避け、1,2ラウンド目の競りで安くオリるとそのまま負ける
工夫や妥協の余地はない
きちんと意地を張ってある程度の額を積まないと勝てない
安くオリるとスタートダッシュに失敗し、緩慢に死んでいく
かと言って高く突っ張った挙句競り負けると、その瞬間に脱落する
最初の競りを制したプレイヤーがそのまま逃げ切る場合が多い

最初の競りのウエイトが最も大きいこと自体はOKだと捉えている
「最初の数手番で大勢が決まってあとは答え合わせ」式の構造は、
重ゲーには割と多い
バラージの国家と重役競りやアグリコラのドラフトなど
バラージやアグリコラだと、うまく噛み合わずに早い段階で敗色濃厚となっても、
「今回はしゃあない、自分のせいだ
捨てゲーせずに、せめて何か学んで持って帰ろう」

であきらめがつく

蒸気があまり良くないのは、沈んだときに生じる感情が、「あいつに殴られたから脱落した」となるところにある
よほど人間ができていないかぎり特定の一個人にヘイトが向いてしまう

こうした感情が生じ得る機構はあまり今風でない
運よく脱落させた側に回ったセッションも自分は十分に楽しみ切れない
地蔵化したプレイヤーを120分間同卓させ続けるのはちょっと苦行すぎる

本作でも競り自体は残っているが、
・スタプレのみが競りの対象、2番手以降は時計回りで決まる(蒸気はすべての手番を競る)
・競り落とした人以外は支払いゼロ(蒸気は4人戦だと3人は何らかの支払いアリ)

と、蒸気と比較にならないくらい軽い
ルールだけ見ると、
「スタプレだけ決めてあとは時計回りって逆に大丈夫か…?
古い時代のワカプレの、
2番手がめちゃ有利になる問題が生じるのでは?」

と心配になるが
新たに追加されたカード要素のおかげで、理不尽感はほぼ生じない
ゲーム開始時に、最初に商品を輸送すると追加で収入値+1」のマイルストーンカードが用意されている
細かい話は省くが、スタプレを取ると絶対にこのマイルストーンが達成できる
他者が収入値+1止まりなところを、自分だけ+2収入でゲームを始められる
しかも最も強力な路線の敷設権までついてくる
2番手も強力な路線を選べてラッキーだが、初手の爆アドと比べると目立たない

カードは2ラウンド目以降も1枚ずつ新たにめくられ、競りにちょっとしたスパイスを与え続けてくれる
2ラウンド目以降のカードはマイルストーンでなくアクション系
マイルストーン式の自動達成でなく、1手使って場から取る必要がある
ハズレもあるが、ちゃんと使えれば5-10金儲かったり、1.5手程度の圧縮になったり、永続能力を得られたりと
かなり強力だ
カードは毎ラウンド1枚しかめくられないので、2ラウンド目以降の競りは、
「自分と噛み合うカードが売り場にあるなら初手を取りたい、そうでないならオリればOK」
くらいの単純な思考で挑める
カードの価値は見積もりやすいので、「どれだけ高くてもX金」と競りの上限も可視化される
蒸気のような意地の張り合いもない
ロクなカードがめくれず陣取りが平和に進んでしまうと、「数ラウンドにわたって全員0金でオリ続ける」みたいな事故も生じることもある


黙ってる方が勝ちやすい

蒸気の競り、一言もしゃべらず5借金くらいして、無言でレイズアップしてくる相手がいちばんやりづらいし、たぶん一番強い
さっきの意地の張り合いvs住み分けの話を再度出すが
意地の張り合い系のゲームはしゃべらない方が勝ちやすい
蒸気以外だとテキサスホールデム、ブラフ、麻雀なんかもそう
「ポーカーフェイスだとポーカー強いよね」くらいの意味しかなく、トートロジーだが

住み分けのゲームは反対だ
ある程度しゃべることで勝利に近づく
白ブラスなんかが顕著だ
第1ラウンドに、
「今回は窯元やってみたいし、そっち向きなカードも引けている、私と競合しないでください」

「こっちは鉄鉱さえやりきれれば産業はなんでもいいです」

みたいな
最低限の事前会話をやっておくことで、無益な衝突や潰し合いを回避できる
開始時や終了後に自然と会話が促進されるゲームであり、とても自分の好みに合っている


タイルコストの簡略化

蒸気、複線化や交差、中立都市との接続時のコストがあまりわかりやすくない
鉄道タイルの種類も多く、「やりたいことを実現するのに必要なタイルはそもそもプールにあるか」も明白ではない
特殊な動きをする前にはリファレンスやプールの確認が必須だが、「あいつなんか悪いことしようとしてる」と警戒されないようにこっそり見る必要がある
本作は地形タイルでのコストで統一し、鉄道タイル数も減らしており、とても易しい


(4)おまけ―全マップ総覧

ニッポン以外の9マップについておおまかな所見をメモしておく
本作のコンポーネントを用いればどのマップでも4人戦までは遊べる

①アメリカ東海岸(2005)

原点、長く愛されている
マップは広大で5-6人向け
北東部沿岸にうまみのある路線が集中、ハードな競りを楽しみたいプレイヤーに最適

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②ヨーロッパ(2008)

アルプス山脈をまたいでの接続が不可避
山岳によって敷設コストが上がりやすい
3-4人向け、タフなゲームが楽しめる
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③メキシコ(2009)

マップが手狭なため2-3人向け
過半数のヘックスがシエラ・マドレ山脈に覆われている
序盤からガンガン借金が迫られるハードな展開に
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④アメリカ西海岸(2010)

5-6人向け
一極集中型の東海岸と比べ、主要都市はまばらに点在
広々楽しめる

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⑤スルータイム(2011)

レイルウェイズファンのチャーリー・ビンク氏による拡張、3-4人向け
石器時代から未来まで8時代をまたにかける
写真は4人戦終了時、5つのミニマップで蒸気を5面打ちする感じか、危険な香り

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⑥イギリス(2013)
各都市同士が1-2ヘックスで接続でき、敷設コストが安い
ニッポンマップと似た易しい作り
4-5人向け、初心者でも遊びやすい
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⑦アメリカ北部&カナダ(2018)

3-4人向け
・中央に東西に走るスノーライン=もしまたぎたいならバカ高い追加コストが必要、うまく避けるテクニックが求められる
フェリーカード=北部の海洋ヘックスに敷設できる
鉱山カード=史実で鉱山があった都市に再度キューブを湧かせられる

など、種々の特殊要素で楽しませてくれる

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⑧南極大陸(2018)

ニッポンのキックプロジェクトのストレッチゴール
都市がない更地だが、2つのシナリオに合わせてランダムで研究所や都市を配置する

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⑨ポルトガル(2019)

2-3人向け
ポルトガル人ラセルダの手からなる
アゾレス諸島、マデイラ諸島への海洋ルートなど、オリジナル要素がみられる

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※各マップの所見は以下リンクを基に記載
Ender's Comprehensive Pictorial Review: A new base game for Railways of the World, and the ideal medium weight train game | BoardGameGeek
Ender's Comprehensive Pictorial Review: The Railways of the World franchise heads to Antarctica | BoardGameGeek
Ender's Comprehensive Pictorial Review: Railways of the World heads to Portugal with Vital Lacerda | BoardGameGeek

(5)総評
蒸気とは全く別ゲーの、ゆるくワイワイ楽しめるファミリーゲームだ

遊ぶ人を選ぶほどの激しさは削りつつ、
・鉄道を延ばし、各都市のニーズに応えて収入に換える爽快感
・うまみのある地域をめぐる他企業との競争

これら蒸気のオリジナルな魅力はそのまま残してある
シンプル化した分、いっそう良さが引き立っている

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マーティン・ワレスによる、1時間級の佳作
ブラスと同じ時代設定で、よりライトに、明るく、ちょっぴりパーティ寄りにチューンされている
ダイスをベースにしたゲームメカニクスと、蒸気エンジン×鉱山開発のテーマとの結合がとても良く、美しいと感じたので、記事にしていく

「ワレスのゲームはやったことあるが、ティナーズトレイルは未プレイ」
という方を読者と想定している

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(1)プレイ時間、流通、属性
(2)長所と短所
長所

 ①強いランダム性
 ②ユニークなテーマ
 ③シンプルな計算
 ④時間トラックのメカニクス的な面白さ
 ⑤見通しの良さ
 ⑥ハード過ぎない競り
 ⑦借金なし/定期収入なし
短所
 ①リプレイ性はそこそこ
 ②テーマ的なとっつきづらさ
 (3)テーマ
 ①スズの歴史
 ②銅の歴史
 ③プレイヤーの立ち位置 
 ④鉱山と地下水 
 ⑤対外投資
 ⑥相場の変動
(4)考察 黒ブラスの売却とティナーズトレイルの対外投資


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Tinners' Trail (2008)
Designer Martin Wallace
Artist Peter Dennis, Andreas Resch
Publisher Treefrog Games + 6 more


(1)プレイ時間、流通、属性
時間:説明15分、プレイ60分
人数:3-4人,ベスト4
流通:日本での流通は現状ない
和訳:BGGにアップされている方がおられるので、問題なく手に入る
属性:アクションポイント、競り、ダイス、時間トラック、19世紀イギリス、鉱山



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(2)魅力と欠点

取り回しのよいミドルサイズの佳作

BGGでは重さ2.83,プレイ時間60-90分
筆者としては、不慣れなプレイヤーとも遊べる、卓を立てやすい中量級枠だと感じている
同じサイズ感のものを例示すると、
・ヌースフィヨルド (2.9 /  30-100分)
・ホームステッダーズ (3.0 /  90分)
・ワイナリーの四季 (2.9 /   45-90分)

本項では、これらとティナーズを比較したときの長短所をざっと挙げる

長所:

①強いランダム性

ワレスの他ゲームより軽く、運要素が強めだ
ワレス作品は実力6/運4くらいのバランスが多いように思われる

基本の味付けは実力重視で、ランダム性はあくまでスパイスとして
というような

ティナーズトレイルは、運/実力=7/3くらい
ランダム性がゲームの中核にある

プレイヤーたちは投資家になって、銅と錫(スズ)の鉱山利権を求めてコーンウォールを右往左往する
のだが

金属の市場価値はダイスによって乱高下する
さらに、鉱山の開発権をせっかく競り落としても、いざ掘ってみないと埋蔵量が分からない
ダイスの出目が悪ければ、鉱石がスカスカで地下水でじゃぶじゃぶのゴミ山を扱うことにもなりかねない

そのあたりの悲喜こもごもは、1時間級のゲームとしては軽く、とても楽しい

余談だが、運要素の強い中量級は、初回プレイヤーと経験者が同卓するときにもっとも輝くと筆者は考える
筆者の好みだが、持ち込みインストする場合、戦略性が高すぎるゲーム、初回プレイヤーが勝つ見込みが低すぎるゲームはほぼ選ばない
たとえばコンコルディアやヌースフィヨルドなど
そういう作品は練度の差が点数の差に直結してしまう

それらと比べると、ティナーズは何回やろうが、勝敗を決める急所はダイスにかかっている
より広いシーンで選べるという点で、間口の広いゲームだと形容できる

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②ユニークなテーマ

詳細後述するが、テーマとメカニクスががっちりかみ合っている
ティナーズの舞台はコーンウォール、イギリスの鉱夫たちの町
銅とスズがこの時代たくさん採れて、産業でも重用された

鉱石を採掘するたびに、鉱山に水があふれる
水はとにかくジャマで、水が多いと採掘コストが増える
水平方向に通洞(排水路、運搬路)を掘ると水を処分することができる
蒸気ポンプを開発して水をくみ出してもいい

また、鉱夫を雇うと、1回あたりの採掘量を増やせる
みたいな
やっていることは鉱山の経営と投資なのだが、テーマとそれぞれのアクションと有機的にがかみ合っている
プレイヤーが誰で、どこで、何をしているのかが明白で、とても楽しい
ワレスの最大の特長である19世紀イギリスへの造詣の深さと、テーマをシミュレートする手腕の高さがいかんなく発揮されている

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コーンウォールと西デヴォンの鉱山風景(世界遺産)


③シンプルな計算

お金と時間の概念があるが、
お金=勝利点
時間=お金を節約するために使う

という感じで、かなり見通しが良い
お金を効率よく稼ぐために、時間を使って機材を用意する
お金を稼いで、適切なタイミングで、適切な案件に投資する
ティナーズに限らず、ワレスの経営ゲームは軸がシンプル
リソース種としては、現金がドーンとあって、現金の補助輪のようなサブメカニクスがゲームごとにちょこっと用意されている
・ブラス=収入ゲージとVP
・オートモービル=不採算キューブ
・ロンドン=貧困トークン

というように
とても見通しが良く、適度なジレンマがある


ワレスのこうした作風と対極にあるのが、アグリコラをはじめとしたワーカープレイスメントでよく見られる、複数の資源を並行して集め、変換するタイプのゲームだ

マルチリソースをマネジメントする楽しさ、ごちゃごちゃしたカオスのなかから整然とした何かを組み上げていく快感は、それはそれで最高だ
しかし、ワレスの純度の高さはやはりとても魅力的だ

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④時間トラックのメカニクス的な面白さ

テーベの東と同じ形式を用いている
・パッチワーク
・グレンモア
・ヘブン&エール

あたりともけっこう似ている
時間をいちばん消費していないプレイヤーが連続手番を行う
ゴルフもそうだ、最長距離のプレイヤーが連続手番を行う

白黒ブラスでは連続手番を取れるかが生と死を分かつほど重要だったが、ティナーズでは手番順の意味合いはそれなりだ
・ラウンドのはじめは先に動ければとにかく有利
・ラウンド後半は各々が内政をやるので、手番順はぶっちゃけどうでもいい

みたいな感じ
後半のどうでもよさ、消化試合感は、なんというか、もうちょっとどうにかならなかったのかとも感じなくはない
ただ、ラウンド
前半での悩ましさ、ジレンマの演出はとてもよく機能している


⑤完全公開情報
⑥言語依存ゼロ

秘匿要素がない
そして、テキストがない
これも初心者と遊びやすい利点だ
ワイナリーの四季はティナーズと同サイズだが、
・ルール分量の少なさ
・運要素の強さ

から筆者は高く評価している
初心者と遊ぶ際は、けっこう乱暴にセレクトしても、ちゃんと全プレイヤーがそれなりの満足を得ることができる
「インストがラクで食料事故が起きないアグリコラ」くらいな、扱いやすく、イージーでハッピーなゲームだと感じる

しかし、ワイナリーには明白な欠点もある
カードテキストが多い点と、そのカードを各プレイヤーが個別に持つ点だ

プレイヤーのバックグラウンドにもよるが、思考時間が延びたりゲームが機能不全に陥る最大のリスクだと感じる
秘匿情報でつまづくと、
・ほかの人に見せて相談するべきか悩む
・見せる
・経験者が読んで説明する

と、解決までに3アクションかかってしまう

ティナーズは要素が少ないゲームではないが、すべて見えている
そして言語依存がない
ゆえに、初見プレイヤーが混乱していたとしても、

「今の状況だと、自分の鉱山をまず持つことを目標にすると良いかもしれない
鉱山は見えているものだと、これかあれが美味しそうに見える
見えている鉱山がもしピンと来なかったら、運ゲーになるけど空き地で競りをやってもいいかも」

的なアドバイスがしやすい
インスト者の負担が少ないゲームだ

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⑦ハード過ぎない競り

ティナーズは競りをやるゲームだ
鉱山の開発権を賭けて競りをする
ワレスは手番順を競らせることが多い
蒸気の時代やストラグルオブエンパイアなんかは手番順や陣営が生死に直結することもあって、かなりシビアな競りと言える
ティナーズの競りは、他作品のそれと比べ多少気楽だ
競り落とせば、
効率の良い鉱山が取れる
先手番が取れる(良い開発アクションが打てる)

といったメリットがある
が、鉱山は人数に対しある程度十分用意されている
高値をつぎ込むよりも、後手番に回ってでも最低価格の1金になるまで粘って鉱山を用意する方が効率的な場合もある

⑧借金なし

借金はないが、早いラウンドではすぐにお金が枯渇する
そういうときは、1時間進めて1金もらう、残念賞アクションを全員で連打することになる
借金にまつわる悩ましさの消去は、軽妙さとテンポの良さを生んでいる

⑨定期収入なし

とても重要なことだが、ティナーズトレイルはいわゆる拡大再生産のゲームではない
収入が増えたり、アクションが永続的に強化されたりはしない
コーンウォールには、銅とスズという有限のリソースが埋蔵されている
それらを効率よく、かつ最適なタイミングで掘り起こして現金化/勝利点化する

そういう得点効率を競うゲームと言える


短所:
①リプレイ性はそこそこ

10回連続で遊べるタイプのゲームではない
マップは固定だし、ゲームごとの可変要素が多いわけではない
2,3回もやればいったん底が見えてしまうかもしれない
しかし、季節に1回くらい、「そろそろティナーズまたやりたいな」とぶり返す
そういうじんわりタイプのゲームだ


やや余談だが、テーマ的な面白さとリプレイ性はトレードオフなのかもしれないとも感じる
たとえばゲルツのコンコルディア
コンコルディアは相当リプレイ性が高いが、テーマ性はあまり高くない

「自分は今古代の属州長官で、今まさに属州を開拓している」というテーマを感じながらプレイしている人はあまり多くないと思う
それとは反対で、同じくゲルツのナヴェガドールはコンコルディアと対極にある
リプレイ性はまあそこそこだが、テーマやフレーバー
がしっかりプレイ感に乗っかっているゲームだ
ティナーズはコンコルディアよりはナヴェガドール寄りと感じられる

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②テーマ的にとっつきやすくはない

さっきテーマの良さについて記したが、万人受けするテーマではない
・19世紀中盤

・コーンウォール地方 (イギリスの片田舎 雑すぎるが、小倉とか北九州に近い感じ)
・銅とスズという、石炭や鉄よりもマイナーな産業

広い層にリーチできるテーマではない
が、ワレスファンであれば、
「ブラスや蒸気の時代と同じ19世紀大英帝国
この時代と国をもっとも得意とするワレスが、石炭と鉄とは別種の産業構造を丁寧に描写している」

というだけでハートは持っていかれうる
それだけの訴求性はある

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(3)テーマ

ティナーズトレイルは直訳するとスズ鉱夫の小径、ブリキ工のこみち
19世紀の1825-1870年の、イギリスのコーンウォール地方がゲームの舞台だ
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コーンウォールはイギリスの西端にある

コーンウォールでは銅とスズ産業が盛期を迎えていた
ワレスのゲームの多くは、背景に唯一無二の、リアルなテーマを持っている
そういう肉厚なゲームが設計できる稀有なデザイナーだ
興味のない方は適宜読み飛ばしを推奨するが、本項ではティナーズのテーマ設定について、できるだけ丁寧に紐解いていく


①スズの歴史

スズ、錫、Tin、ティン、Zn
スズといえば青銅(ブロンズ)の材料だった
青銅は銅(カッパ―)とスズの合金

スズが少ないと青銅、スズが多くなると黄銅(真鍮、ブラス)と呼ばれる
青銅は青銅器やブロンズの銅像が有名かもしれないが、今の10円玉も青銅だ

なぜ青銅が多く用いられたか
もし純粋な銅を得たいなら、鋳造するために融点1000℃を超えないといけなかった

もし純粋な鉄が得たいなら1500℃必要だ
でも、スズならたった200℃で融点に達する
専用の溶鉱炉がなくても、なんなら市販のガスバーナーでも200℃は出せる
青銅を作るのは簡単だ
スズと銅を同じるつぼに放りこんで火にかければいい

すると先に200℃でスズが溶け始めて、さらにスズと接した銅も1000℃以下ですぐに溶け始める
合金=青銅の融点は純銅よりも全然低いからだ
しかも青銅は純銅よりも硬度が高い
青銅は作りやすく機能性も高い
メリットしかない
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るつぼに入った青銅
青銅はこの作りやすさから、鉄器よりも多くつくられてきた
古代ローマの時代から青銅はもてはやされていたが、青銅の材料のスズの大産地が当時からコーンウォールだった
当時はブリタニア属州に過ぎなかったが、コーンウォールのスズが地中海全域のスズ需要をカバーしていた
古代に限らず、中世、近世とスズは合金の材料として根強い需要があり続けた
19世紀にはビン詰め、缶詰の技術が発展した
缶詰の材料としてブリキの需要が拡大

ブリキ=鉄をスズでメッキしたもの
ブリキの原料としてもスズ需要は伸び続け、コーンウォール地方は繁栄の一途をたどったが、1890年ごろには暗転する

植民地世界のマラヤ(マレーシア)の大鉱床が発見されたためだ
また同時期に、オランダ領東インド会社も安価で大量生産を始めた
コーンウォールのスズは国際的な競争力を急速に失って行った

鉱山は閉山に追い込まれたものの、鉱夫は特殊な専門技能を持った技術者なので、閉山後は各地で再雇用されたという
第一次大戦の際には塹壕戦でとても重用された
また、戦後は英国外の途上国の鉱山で技能をふるったという

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第一次大戦における塹壕


②銅の歴史

銅については、スズと異なり、古代からコーンウォール以外にもたくさん産地があった
スペインやアルメニアなど
産業革命以前はコーンウォールの銅は大して目立っていなかった
銅の用途はさまざまで、いちいち挙げないが、当時大英帝国の海軍の、戦艦の船底の保護剤として特に重用された
船虫に食い荒らされるのを、銅によるコーティングで防いでいたのだ
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カティ・サーク号の銅による船底保護

スズ同様、1870年ごろに産出のピークを迎えるが、同時期にチリでの銅の大鉱床の発見とともに、急速に国際的な競争力を失っていった


③プレイヤーの立ち位置
プレイヤーは投資家
オートモービル、蒸気の時代、ブラスとだいたい同じ時代の、同じような立ち位置にいると思ってくれてよい
未来を見通す視野、決断力、体力を持っているが、タネ銭の持ち合わせは少しだ
ブラスとは異なり、舞台は英国中央ではない
イギリスの西の果て、コーンウォールで一旗揚げることを目指す


コーンウォールの銅とスズ鉱山が、蒸気エンジンのテクノロジーと相まって、これから旬を迎えると
プレイヤーたちは強く確信している


④鉱山と地下水

どのように鉱山と蒸気機関とが組み合わさるか
蒸気エンジンで地下水をかき出すのだ

鉱山を掘れば地下水が出る

地下水は、雨や川の水が地中にしみ込んだもの
地面を掘れば必ず水は出る
採掘では水の処理問題がいつも重くのしかかる
ティナーズトレイル以前の時代は、基本的に人力でかき出していた
馬力や水車もあるにはあったが、たかが知れていた
蒸気エンジンはその常識を覆した
蒸気ポンプを持った投資家にとって、コーンウォールのひなびた銅/スズ鉱山はカネが湧く山に映った

プレイヤーたちは、
・鉱山の採掘権をいち早く競売で勝ち取る
・蒸気ポンプを導入したり、通洞を掘ったり、資本投下して大開発する
・蒸気エンジンで効率よく排水し、安価で大量に銅とスズを掘り起こす


これらをびしばしやっていくことになる
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鉱山における蒸気ポンプ


⑤対外投資

ただ、同時にプレイヤーたちは別な確信もあった
「コーンウォールは今こそが旬で、盛期はおそらくそう長くはない


コーンウォールの持っているアドバンテージは、最先端の技術を有するロンドンから距離が近い、というその一点にすぎない
技術は遅かれ早かれ他国に広がっていく

そうなると将来的には、英国であるがゆえの、賃金の高さが最大の足かせになるだろう
また、植民地世界では新たな鉱床が見つかりつつあるとの報も受けている
「地政学的優位にあぐらをかいていてはダメだ
コーンウォールの栄光はそう長くは続かない」

そうプレイヤーたちは気づいている
だからこそ、ワレスはティナーズトレイルにおいて、対外投資という概念を導入している
鉱山開発で稼いだ現金をそのまま寝かしていてもダメなのだ
現金のまま持っていても、0勝利点にしかならない
この産業革命の狂乱の真の勝者になるためには、さらに先、海外の鉱山の投資案件をできるだけ早期に買い付ける必要がある
コーンウォールから得た利益は、海外に資本投下することで始めて、勝利点化することができる
投資はスピードが命だから、早いラウンドで買い付けるほど利回りが良い
第1ラウンドでは、10ポンドで買ったものが12勝利点となる
しかし、最終の第4ラウンドになると、10ポンド=6勝利点、じつに半分のレートに下がってしまう
ただし、対外投資を急いでキャッシュフローを過度に細くしてしまうと、それはそれで資金繰りがどうにもならなくなってしまう
プレイヤーたち投資家は、コーンウォールの開発競争の足を止めないように注意しながら、英国内だけを見るのでなく、適宜海外にも資本投下していく必要がある

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マラヤ(マレーシア)の浚渫機(ドレッジャー)

⑥相場の変動
また、単純に掘っては売るだけではうまくいかないこともある
各ラウンドの銅とスズの売価はダイスで決まるからだ
もし出目が悪く、価格が大暴落している場合は、その年は計画的に減産して、次のラウンドに価格が回復するのを待つのもアリかもしれない
「せっかくこのラウンドに掘れる体制を作ったのに…
今年はスズは1個2金なんて…

クソみたいな値じゃないか…
今年はスズなんて、掘れば掘るほど損だ
それなら来年上がるのに賭けて、今年は減産だ」


アクションの最適化を基本的には目指すが、ときにはギャンブル的な判断も求められる
そういうプレイ感は、あまり他のゲームで見られないものだ

(4)考察:対外投資とブラスの売却アクション

ワレスによるブラス:ランカシャー(黒ブラス)と少しだけ比較し、記事を終える
ブラスは建物を建設していくゲームなのだが、建設した建物が特定の条件を満たすと売却できる
この売却をやることで、定期収入と勝利点を持ってきてくれるようになるのだが
「この売却とは何なのだろう
プレイヤーは何をしているのだろう
なぜ建設するだけでは、収入や勝利点が入らないのだろう」

と長らく疑問だった
ティナーズトレイルをプレイして、ある程度調べて考えがまとまったのでここに記す
黒ブラスにおいて、
・炭鉱から石炭キューブが枯渇する
・鉄工所から鉄キューブが枯渇する
・紡績所と港が接続する
・船が建設する

上記条件を満たすと、それぞれ売却される

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売却したときには、
・NPCに建物の経営権を譲り渡して、のれん分けする
・代わりに、名声(勝利点)と定期的なキックバック(定期収入)を要求する

上記が起こっていると仮定して、論を進める

なぜ売却に条件が必要なのか
あなたの建物が一定以上の価値があると示す必要があるからだ
もっと砕いて言うなら、稼働実績をある程度作って、おぜん立てをやってあげないと物件は買い手がつかないのだ

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たとえば紡績所と港が分かりやすい
かりにあなたが片田舎の山奥に最新鋭の紡績所を建てたとしよう
どれだけハイスペックでも、紡績所だけでは宝の持ち腐れ
その僻地に鉄道や運河を引っ張ってきて
なんなら外港も用意して
「よし、もう輸出できるよ」とそこまで体制が整えて、やっとはじめてNPCに魅力が伝わるのだ

港もそう
閑散とした港湾にぽつんと建物を建てても、それは経済的には無価値
まだ買い手がつかない
内陸の商材と運河や鉄道でリンクさせて初めて港湾としての機能が果たせる
価値が伝わる

炭鉱と鉄工所についてだが、炭鉱を説明した方が分かりやすいだろう
やはり炭鉱だけを作ってもダメなのだ
作られた炭鉱から一定石炭が掘り出される
石炭が周囲の土地開発に用いられる
そして、その一帯の実績が評価される
そうして始めて「その炭鉱は需要に応える能力がある」と評価され、買い手がつく
売却条件である石炭/鉄資源の枯渇は、表現の便宜上そうなっているだけで、実際はネットワークの接続と言い換えても良いと思われる
ゲーム上、売却された炭鉱は、石炭を生み出さないように見えるが、NPCのために稼働し続けていると考えるのが自然だ(そうでないとプレイヤーに定期収入をもたらす説明がつかない)

最後に船
船だけが例外で、
即座に売却できる
・定期収入はちょびっとしかもたらさないが、莫大な勝利点をもたらす

この船は、ティナーズトレイルにおける対外投資とほぼイコールと捉える

実際に船を造ってどうこうしているというよりは、植民地世界への投資案件に金を払っている
船が建設できるポイントがレアなのは、おいしい投資案件が転がり込んでくるかは運しだいだからだ
船の建設は莫大な資金が必要な上に、リターンするまでのスパンが長い投資だ
ゲームをやっている時代ではまだろくに収益に結びつかない
しかし、遠い未来その投資はあなたの経営の大きな柱となる
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ティナーズ、黒ブラスから離れて、議論をもう一段抽象化すると、以下のような命題が得られる
「勝利点に適したフレーバーは、以下のような特徴を持っている
ゲーム中は金銭的価値を生まない
ゲームが終わったあとも連綿と世界が続いていくと仮定した場合に、終わったあとの世界でプレイヤーを助け、収入の基盤になる」



これをもう少し敷衍させて、
勝利点とは何か
資源とは何か
・ゲームデザイン上の要請以外で、VPとリソースとをハッキリ分ける意味合いはあるのだろうか


といった話題に触れても良いかもしれない
今回は筆者の時間/体力/引き出し的なリソースの限界から、ここで記事を終える


参考文献:
https://core.ac.uk/download/pdf/145772092.pdf 第一次大戦後のコーンウォール錫鉱山業
https://www.y-history.net/appendix/wh1302-066_1.html 世界史用語 錫
https://en.wikipedia.org/wiki/Copper_sheathing Copper sheathing
http://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/report/2006-08/chapter1.pdf 銅の国際的な需給構造の歴史と変遷
https://www.teikokushoin.co.jp/journals/history_world/pdf/201402g/06_hswhbl_2014_02g_p09.pdf すずの世界史


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ここ数か月で白ブラス(ブラス:バーミンガム)黒ブラス(ブラス:ランカシャー)を数回ずつプレイした
白も黒も素晴らしすぎる
似ている部分と、明白に異なる部分とがある
とても感銘を受けたので記事化する

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黒ブラス(ブラス:ランカシャー,2007年)はイギリス人のデザイナー、マーティン・ワレスの代表作
・蒸気の時代
・産業の時代

などと並ぶ、産業革命期がテーマの重量級ゲーム

黒ブラスを現代風にアレンジしたのが白ブラス(ブラス:バーミンガム,2018年)
バーミンガムは箱が白いので日本では白と呼ばれることが多い

をやっていないと白ができないということはない
白黒がそれぞれが独立した作品で、個別に遊べる

ルールが8割方同じなので、片方が既プレイなら、もう片方をとても理解しやすい


白黒ブラスのbrain-burstingな楽しさを詳細に言語化するのが本記事の目的となる
なお、以下のニーズを持った読み手を想定し、構成した

・白黒ブラスのどっちを買おうか迷っている
・片方は既プレイだけど、両者の違いを知りたい
・ワレスの設計思想に触れたい


brass l

Brass: Lancashire (2007)
Alternate NamesBrass, Brass Deluxe + 5 more
Designer Martin Wallace
Artist Lina Cossette, Peter Dennis, David Forest, Eckhard Freytag, Damien Mammoliti
Publisher Roxley, Warfrog Games + 12 more
brass b

Brass: Birmingham (2018)
Designer Gavan Brown, Matt Tolman, Martin Wallace
Artist Lina Cossette, David Forest, Damien Mammoliti
Publisher Roxley + 7 more

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――――

(1)要旨 白/黒それぞれの特長
(2)BGGスレッド「白と黒の違いは?」から
(3)ワレスへのインタビュー
(4)考察




(1)要旨 白/黒それぞれの特長

白黒ブラスの共通点は多い
以下のような特徴を持つゲーマーにはしっくりくると思われる

複雑な足し算引き算がOK
・初回インスト込み3~4時間もいける
借金のストレスがイケる
鉄道を敷きたい、利権を得たい
蒸気機関車を動かしたい
炭鉱を労働者に掘らせたい
紡績所をフル稼働させて他社を圧倒したい
・19世紀大英帝国の薄暗いフレーバーが好き

aos

黒と白では、以下のような違いがある

借金で苦しみたい?
黒ブラスがいい
白はスタート資金が少し少ないのだが、その分収入を上げやすく、ユーザーフレンドリーになった

要素の多いゲームが好み

白ブラスが良い
どちらも相当ヘビーだが、黒の方がルールはシンプルだ

陣取り、駆け引き、殺し合い、協力――対人インタラクションが好き?

→断然黒ブラス
黒は建設タイミングの1手の差、手番順のちょっとした差で戦況がガラっと変わる
そういう危うさと愉しさを秘めている
反面白ブラスは、そういうタイミングのあやの重要性は薄れている
対人インタラクションは抑えた分、手元のリソースを管理して、効率よくコンボを作る楽しさを前面に出した作りになっている

リプレイ性の高さ?

白ブラスを推す
ランダムセットアップなので、ゲームごとに地形の価値が変わってくる
また、建物の種類も多いので、
「この地形、人数か
今回は窯元プレイで頑張ってみようかな」

みたいに、どのタイルで特化するか、ゲームごとに方針を変えて楽しむことができる

2人でやりたい?4人でやりたい?

2人なら白ブラスがお勧め
4人なら黒ブラスが良い
白黒ともに2-4人対応だが、白は3-4人ベスト、
黒は4人ベスト
白は陣取りの駆け引きが弱まった分、2人戦でも十分魅力的だ
黒は後述するが、建設アクションで他プレイヤーと対立/協力関係を築くので、2,3人よりは4人戦が良い

どっちが重い?長時間かかる?

ほぼ同じ
要素が多いのは白ブラス
しかし、インタラクションのハードさは断然黒ブラス
質は異なるものの、どちらも長考は誘発しがちだ
初回3,4時間、慣れれば人数×40分くらい

BGGのComplexity(複雑さ)は黒は3.87,白は3.90
(参考値:バラージ/Barrageは3.90、ガイアプロジェクトは4.30)


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(2)BGGスレッド「白と黒の違いは?」から


本節はBGGのスレッド、
「Subject: Difference between this and Brass:Lancashire ? (白ブラスと黒ブラスの違いは?)」を基に作成した
https://boardgamegeek.com/thread/2061283/difference-between-and-brasslancashire

意訳・改変行っている

白派、黒派それぞれ1人ずつの意見を載せる

意見①白ブラス派

僕は白ブラス、バーミンガムの方が好みだ
2007年出版の黒ブラスは正統派ユーロで、完成度がとても高い
しかし、現代(当時2018年)の観点からみると、単純に白ブラスの方がブラッシュアップされている

黒で僕にとっていちばんイマイチだと思うところを挙げる
定石がある程度決まってしまっているところだ
ブラスは運河の時代/鉄道の時代の2時代制
運河時代が終わると小決算が起こる
そして、タイルの大半が除去される
旧時代の遺産は捨て去られ、本格的な産業革命が到来するのだ
後半はいよいよ鉄道時代が到来するのだが、この変わり目が勝利のカギとなる

・鉄道時代第1ターンのスタートプレイヤーを取る
鉄道を大量に敷設する

これをやれるかが黒ブラスの明暗をわける
成功したプレイヤーが大きくリードし、たいていはそのまま逃げ切る
勝利点の高い鉄道は1本8~10点というハイパフォーマンスを叩きだすからだ
時代の潮目を読んで誰よりも早く動いた起業家が、うまみの大きい部分をかっさらっていくのだ

時代の変わり目の利益を独占するために、熟練プレイヤーは様々な工夫を凝らす
・運河時代の後半に炭鉱を仕込む
・運河時代の最終ターンはお金を使わず、借金だけする(鉄道時代のスタプレを取るため)

「これが王道」という動きのようなものがあった
もちろん、
・カード運
・各プレイヤーの手持ち資金
・ちょっとした手番順のズレ

これらによってかなりブレ幅はある
一つの勝ち筋をめぐっての上級プレイヤー同士の駆け引き、闘いは、それはそれで楽しいものであったが、
・研究されつくし得る
・絶対の正解が見つかり得る

黒ブラスはそういう危険をはらんだゲームだった

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白のバーミンガムはランカシャーとは異なる
まず目につくのは、
ビール(醸造所)という新要素
そして、輸出(売却)タイルがゲームごとにランダム配置される点
本当に素晴らしい解決法だ
これらの改変は黒ブラスの弱点を補うために用意されている
そして実際に、有効に機能している
ファンタスティックだ
白ブラスでは
「これが絶対の正解」というたった一つのルートはほぼ存在しない

まず黒ブラスで王道だった、「鉄道時代にスタプレ取って鉄道4本一気に引く」というもの
現実的な選択肢ではなくなった
ダブルリンクアクション(鉄道を1手番に2本引くアクション)は、2石炭に加えて、1ビール追加で必要になったからだ
この1ビールが重い
ビールという資源は、基本的にゲームを柔らかくする作用を持っている
いつでもラクに建設できるわりに、収入をしっかり上げてくれるからだ
しかし、鉄道時代の第1ターンに限ってビールの存在はプレイヤーを締め上げる
この1ビールのコスト増がとにかく重くのしかかる

もちろん運河の時代に、
・2ビール
・40金の手持ち
・石炭の余った炭鉱

これらを仕込んだなら、黒ブラスで王道だった動きが一応できなくはない
ただまあ、ややオーバーコストだ
かつての輝きはない
上の動きをやるなら、ビールも炭鉱もフリップしないまま運河決算を終えてしまうことになる
これはまあ、相当な機会損失となる
その手数を使ってまっとうに建設して収入を伸ばし、運河点を獲得した場合と、たぶん大差ない

白ブラスにおいて、鉄道時代の最初の鉄道敷設は依然としてホットではあるものの、そこだけ見ていれば勝てるゲームではもはやなくなった

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次に、輸出タイルのランダム性
輸出タイルはリプレイ性を格段に高めてくれる
白ブラスは、マップは固定ではあるが、輸出タイルがランダムになる
未プレイの方は「マップそのものは変わらんのだから大差ないのでは?」と思うかもしれないが、大きく変わるのだ
輸出タイルだけで、地形の意味が一変する
白ブラスにおいてはもはや、地形について考察されつくされるということがほぼなくなった


あとは、白ブラスの全体的なプレイ感

建物タイルは、
工場、紡績所、窯元、鉱山(鉄)、炭鉱(石炭)、醸造所(ビール)
の6種ある
多くて面食らうかもしれないが、まあ大丈夫だ
6種のうち、
「これはメイン、これとあれをサブで」くらいで2~3種に特化する場合が多い
黒ブラスもそうだが、ブラスはハイレベルな建物を建てて勝利点をがっぽり稼ぐゲームだ
まんべんなく低レベルの建物を建てるよりは、レベルIVの建物を狙う方が手数の効率が良い

最後に、

ランカシャー(黒)=テラミスティカ
バーミンガム(白)=ガイアプロジェクト
というたとえがあるが、とてもしっくりくる

テラミもガイアも最高に素晴らしいゲームだが、テラミスティカ→ガイアプロジェクトが生まれる過程で、
・より多様な戦略
・セットアップ時のランダム性

を生む工夫がなされている

ランカシャー/バーミンガムと相似だ

ランカシャーは10年以上前の傑作で、この間ボードゲーム業界も発展してきた
2020年の環境で見るなら、バーミンガムに軍配が上がると思う

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②黒ブラス派
上の、ガイアとテラミスティカのたとえはしっくりくる
自分は白派の①と真逆で、ランカシャー(黒)派で、テラミスティカ派
バーミンガム(白)で導入された新要素のすべてが、私にとってあまり興味をそそらない
むしろ、ランカシャーは建物タイルが少ない分、他プレイヤーとの明白な駆け引きがある
港タイルと紡績所タイルとが、シンプルでソリッドな関係性を持っている
黒の方がしっくりくる

やりこめる深さという点では、ランカシャー(黒)/テラミスティカに軍配が上がると思う

・間口の広さ
・セットアップのヴァリエーションの広さ
選択肢の豊かさ

ならバーミンガム(白)/ガイアプロジェクトの方が優れている
ただ、バーミンガム(白)/ガイアプロジェクトは自分のプレイ回数が少ないせいで、まだ見えていない部分がある、という可能性は一定ある
ランカシャーは数十回プレイしたが、バーミンガムはまだ数回しかやっていない

まず、ランカシャーを取り上げ、そののちにバーミンガムを取り上げる

ランカシャーはタイトなゲームだ
手数とキャッシュの限界が決まっているなかで、1手1手の効率を最大化する
そういう難しさ、悩ましさが魅力だ
ゲームを引き締めているのは、
・紡績所と港の力学
・開発アクションのタイミングの駆け引き
・鉄道網のネットワークの奪い合い

とてもインタラクティブなゲームだ


・紡績所と港の力学
コットンとポートのダイナミクス
まず、紡績所と港で収入を得るには、
・紡績所と港を場に出す
・両者を運河でつなげる


両方を満たす必要がある
(早取りで共通の港も取れるが、ここでは省略する)
これがまあ、めちゃくちゃ大変だ
基本的に、港と紡績所の両方を一人で用意するような手数は用意されていない
じゃあどうするか?
他プレイヤーと分業し、協力するのだ
紡績所に投資するプレイヤーが多いなら、港を良いタイミングで良いポイントに建ててあげると良い
そうすると、お互い効率よく得点行動ができる

逆に紡績所同士で競合すると悲惨だ
陣取りで殺し合うことになる、さらに売却アクションの早取りでも殺し合いが発生する

この、抜き差しならない協力/敵対関係が、僕にとって
ランカシャーの最大の魅力だ


・開発アクションのタイミングの駆け引き

黒ブラスの運河時代はとにかく開発アクションが重要だ
※開発
鉄2個を消費して、建物タイル2枚を破棄するアクション

弱いタイルを破棄して、終盤にブーストをかけるための足づくりをする必要がある
開発アクションは、ドミニオンのデッキ圧縮にちょっと似た楽しさがある

なので、開発コストのを生む鉱山はとても重要になる
全プレイヤーの開発意識が高いと、鉱山はすぐフリップして収入化できるし、勝利点もついてくる

鉱山を建てるタイミングが大事だ
建てるタイミングを逸すれば、他人に鉱山建て替えを許し、大きく失速する可能性もある
建て替えはエグいインタラクションだが、ゲームの肝でもある

鉱山の建て替え
市場の鉄や石炭を枯らすと、相手の建物を破壊して、その上に鉱山や炭鉱を建てることができる

たった1アクションで差し引き15点差くらい生じる
ブラスのなかで最もハードな対人攻撃であり、ちょっと人を選ぶ

・鉄道網のネットワークの奪い合い
①とだいたい同じだから省略するが、鉄道時代第1、2ターンあたりの鉄道敷設はとにかく大事だ
ここで利権を得られないと、あとの1時間はお地蔵にもなりかねない
鉄道タイルは8枚以上敷かないと、まず1位争いに食い込めないだろう
これについては、興奮するインタラクションというよりも、お決まりの展開となってしまう
慣れたプレイヤーにとっては、いささか作業感を感じかねない
やや退屈だ


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バーミンガム(白)の場合
上では、ランカシャー(黒)の3つのインタラクティブな魅力について述べた
こうしたインタラクション、駆け引きのすべてがバーミンガムではいささか弱い
・売却アクションの自由度の増加
・開発アクションの重要性の減少
・鉄道敷設のコスト増加

の3点で見て以降


・売却アクションの自由度の増加
売却アクションの制限がランカシャー(黒)と比べて弱まった
ランカシャーでは紡績所と港をコネクトする必要があったが、バーミンガムではビールが売却で必要になる
ビールは鉄とほぼ同じで、どこからでも飛んでくる
「他プレイヤーのビールを使うのか、どうするのか」
というインタラクションは多少あるが、ランカシャーのそれと比べると明らかに柔らかく、ライトだ

・開発アクションの重要性の減少
開発は黒ほど重要ではなくなった
もちろん必須ではあるのだが、白ブラスでは、
・初期資金が17金と減った(黒は30金)
・レベルの低い紡績所タイルの枚数が減った
・窯元、工場はあまり発展しなくても大丈夫


上記の要因によって、ざっくり、
「発展は最低2,3回は絶対やっとかないといけない
けどまあ、最低限やったらあとは普通に回りそう
もし発展特化で行くなら、4,5回やってもいいかも」
的な
こんな印象を持つようになった
戦略筋がたくさんあるため、相対的に開発の重要性は薄れた

開発アクションの重要性が薄れた関係で、鉱山がやや弱体化した
それによって、鉱山をめぐるタイミングの駆け引きも希薄になった

ただ、これは白ブラスの欠点とも限らない
ポジティブに捉えるなら、白ブラスの運河時代は、
「後半どの種類の建物で特化するか
どのエリアを自分の拠点にするのか

と長期的な計画をしやすくなったと言える
微視的な相手の動向に左右されにくくなった分、遠くまで見通す能力を競うことができる
黒にはない魅力だ

・鉄道敷設のコスト増加
ダブルリンクアクションにビールを要求するようになったのがデカい
白ブラスのコストアップは適正な措置だと感じる
鉄道周りのルールについては、僕も白くらい縛りをキツくする方が好みだ


まとめると、

ランカシャー:

アクションがとてもタイト手数の制限がキツい
なので、他プレイヤーと協力する必要がある
・他人の炭鉱を使わせてもらう
・他人の港を使って紡績所をフリップする
こういう精密なインタラクションがあった
協力が生じるので、建設タイミングがとても大事
とてもタイトで、狭く、シビアで、タイミングのコントロールが重要なゲームだった

バーミンガム:
選択肢が多い
いろんな戦術を選べる
カードマネジメントをやりながら、
・どの建物で特化するのか
・いつ、どこで売却するのか

を、基本的に自分の裁量で決められる(他者の動向を見る必要はあるが)
長期的視野を持ちながら、借金しすぎないように少しずつキャッシュフローを健全化していく

対人インタラクションを削った分、
「どちらが早く財政を健全化して、走り始められるか」
を競う
レース的な側面が強まった
キャッシュのマネジメントをしっかりやりながら、いかにハイスピードで拡大できるかを争う
コンコルディア的なレース感
こういう楽しさが白ブラスのコアにある
どの建物で行くか、決め打ちして、特化し、レースする

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(3)インタビュー

2015年のワレスへのインタビューを和訳する
本記事の要旨とあまり関わりがない可能性があるが、参考までに載せておく
意訳・改変行っている

元記事:
http://www.brassgame.com/i-always-start-with-the-theme-an-interview-with-martin-wallace/



①ブラスを作るきっかけは何だったんですか?
何にインスパイアされたんですか?
テストプレイヤーが「経済系のゲームを作ったらどうか」と提案してくれたんだ
そのころはマルチプレイヤーのウォーゲームを作るのに傾倒していたから、経済系というのはあまり頭になかった
それがきっかけだ
で、テーマをどうしようかと考えたんだけど、そのときちょうどマンチェスターに住んでいた
それもあって、産業の歴史に興味を持っていた
自分が一番興味のある19世紀イギリスでいこうと決めた
それと、経済史で学位を取っていて専門だったから、すでにおおかたのところを掴んでいた、というのも大きかった」
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Manchester,19thCentury

②ブラスはどのように着手したんですか?
テーマとメカニクスどちらから始めていった?
ゲーム制作はいつもテーマから始める
頭のなかにアイディアが出てくるまで、とにかくたくさん下読みをするんだ

③ブラスに着手したときはどんな感じだったんですか?
だいぶ昔で、様々なアイディアが混在していた
コアのアイディアはすぐにやってきたが、それぞれの産業タイルの強弱バランスを調整するのに大変なテストプレイを要した
着手からディベロップ、パブリッシュするまでに12か月を要したよ

④ゲームに出てくる地名には実際に行かれましたか?
観光にお勧めの場所などありますか
難しい質問だね
ここが特に良い、というのは言いにくい
マンチェスターにある科学・産業博物館はすごく良いよ
歴史上初めて建設された鉄道駅の近くにあるんだ
saim

⑤ブラスはどうしてベストセラーなのだと思いますか?
BGGランクも大変高いです
正直言って、ブラスが何部売れてるのか、僕は把握していないんだ
ブラスは複数のパブリッシャーから出しているが、それらの出版社がそういった数字を教えてくれないから
なぜ成功したのかは分からないけど、まあOKだ

⑥ブラスのあとに類似テーマの『産業の時代』も出しました
もう一度成功することを期待したのですか?
拡張が作れるゲームにしてみたいと思ったからだね
ブラスってマップ拡張を作れるようなゲームじゃないんだよ
カードに固有名詞が入っているから
拡張マップを作る=新カードまで作る ということになってしまう
そうなるとコストが高くつきすぎる
産業の時代は拡張マップを出しやすいゲームにしたいと思って作った
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⑦ブラスの大会優勝者の統計はご存知ですか?
ごめん、大会はチェックしてないんだ

⑧ブラスは何回くらいプレイしましたか?最高点は?
ディベロップ段階では数えきれないくらいやったけれど、パブリッシュしてからは全然やっていない
たぶんある程度の経験者と対戦したら、ほぼ間違いなく自分は負けると思うよ

⑨ファンが作ったゲームコンポーネントやプレイヤーエイドは見たことがありますか?
スペインマップをいただいたよ
すごく良かった
 ブラス カタロニアマップ
ブラス カタロニアマップ

⑩いちばん気に入っている作品はありますか?
今作っているものがいつも一番のお気に入りかなあ
一度パブリッシュしたら、滅多にプレイすることはないしね



(4)考察

①黒ブラスの紡績所と港
紡績所と港で疑似的な協力関係が生まれ、紡績所同士、港同士でカチ合うと競合が生じる

経済的なインタラクションだ

他作品で想起するのは、

コンテナにおける原料生産/仲買い
ナヴェガドールにおける植民地での原料生産/工場での加工

に似たものを感じた
こういう分業と競争を生むメカニクスって、いいですよね
導入がそこまで難しくないわりに、プレイヤーは手軽に経済的な面白さを感じられる

クランズオブカレドニアのような、中立マーケットを用意した相場変動よりもとても楽しいが、黒ブラスやナヴェガドールのインタラクションの方が洗練されていて、美しいと感じる

市場における分業/競合は明白で強固なインタラクションであり、他要素をそぎ落としてスリム化しないと、プレイヤーの集中が保ちづらいような印象も持つ
実際アップサイジングした白ブラスではインタラクションを意図的に削っている

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Container(2007)


②偵察アクションについて

※ルール誤認あったため修正を加えています通常アクションとして1枚カードを使用したのちに、カード2枚を捨て、ワイルドカード2枚を取得する
1手番を放棄するかわりに、のちに確実にやりたい動きができるようになる
使いどころはまあまあ難しいと思われる
0金1アクションが可能なため、スタプレを取りたいときなどに使っても良いのかもしれない
2人戦などでは紡績所などの産業カードがデッキ内にないことや、存在しない地域カードに建物を建てたい場面も増えるため、相対的に需要が高まると思われる


③ビールをめぐる動き

運河時代のビールは、運河を引けない山奥に建てられることが少なくない
できれば自分だけ使いたいからだ
山奥の醸造所から細々と出荷して、フリップする
ビールはフリップすると2コネクションパワーを持つ
この2コネクションパワーがおいしい
ゆえに、鉄道時代になって全エリアが解禁されると、鉄道各社が我先に山奥のビール地帯に鉄道を敷きに来る
2コネクションタイルが多いエリアを占有して得点をガメたいからだ

ここにザ・鉄道会社的な面白さを感じた
「山奥の未開拓の需要を見込んで、掘り起こすために鉄道整備する」という、不動産ディベロッパー的なムーブはとても心躍る
阪急電鉄の小林十三が、当時田畑しかなかった北大阪の地に住宅街を作って、自ら需要を生み出して、宝塚線沿線の価値を高めた
みたいな
鉄道ゲームで歴史を再現しているような面白さを感じる

ゲームシステムに沿ってプレイヤーが最適行動を取った結果このような状況が生み出されるというのは、ただただ美しいと感じた


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数エーカーの雪とHands in the Seaについて掘り下げる記事の後半
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前半では、
(1)未プレイ者向けの『数エーカーの雪』についての説明
(2)BGGの記事の翻訳:数エーカーの雪におけるデッキ圧縮戦術について

を記載した

以下後半では、以下を記す

(3)『デッキ圧縮』のテーマからの解読
(4)Hands in the Seaのディベロップ背景の推測


―――

(3)『デッキ圧縮』のテーマからの解読

『数エーカーの雪』は、テーマのシミュレート性が高いゲームだと筆者は感じている
ゲームを通じて、攻め合い・守り合いのじりじりとした緊張感や、戦争というものの不毛さ・やるせなさを感じることができる

この魅力がどこから生じているのかを、以下で考察する

まず、数エーカーとは別の、
・いわゆる普通の文明系ゲーム(シヴィライゼーションモノ)
・戦争系ゲーム
の場合、領土拡大がエンジン構築に結び付いていることが多い
新しく支配した領土は、資源/お金/勝利点をもたらしてくれる
その資源を使って徴兵したり、研究開発したりする
支配地域をさらに増やして生産力を高める
支配地域を増やしてエンジンを強力にして、最終的に他プレイヤーと戦う
並のボードゲームならそうだ
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しかし、数エーカーはそうではない

支配地域の拡大は、必ずしもプレイヤー(指揮官)にとって有利に働かないのだ
支配地域が増えると、新しいことをやれるようにはなるが、持つことができる手札枚数は5枚までだし、毎ターン2アクションまでしかできない
手数が増えなければ、アクションの強化もされない
むしろ、無闇に戦線を拡大して地域カードを増やしすぎると、必要なときに必要なカードが取れなくなる
前半記事でも触れた、ドミニオン的な「勝利点カードを増やすとデッキがかさばる」のジレンマだ
さらに、ドミニオンよりハードなことに、未使用の手札は捨て札にならない
よくあるシヴィライゼーション系ゲームのように、手あたり次第に土地を開拓してしょうもないカードを大量獲得してしまうと、にっちもさっちもいかなくなってしまう

テーマ的に読み解くと、ここでは以下のような事象が起こっていると思われる

支配地域が増えると、現地から兵を徴用できて、兵卒の頭数は増える
だが、それは必ずしも戦闘力の向上を意味しない
作戦開始時は精鋭揃いだった部隊の純度が下がる
古参兵と新兵のあいだで統一が取りづらくなる
士気が下がり、指揮系統が乱れる
指揮官の狙い通りに戦況をコントロールするのが、だんだんと難しくなっていく
支配地域が増えると勝利が近づくが、その分指揮官の戦況のコントロール力が減っていく

デッキ構築のジレンマが、テーマにぴったり合致している

デッキのだぼつき=部隊の混成軍化、指揮系統の乱れ

であるなら、反対に

デッキの圧縮=戦線の集中、指揮系統の統一

と言える
ここから、「ガバナー(行政官)のカードを使って地域カードを除外する」というアクションをテーマ的に読み解くと、プレイヤーは以下のようなことをやている

指揮官(プレイヤー)
「行政官よ
あなたにこの地域の統治・行政管理を一任する
自衛・自治を命ずる
あなたの管轄地域は正直お荷物だから、今後は軍司令部の手間をかけさせないでくれ
そのかわり、兵士の提供や徴税は強要しない
また我々の部隊の駐屯もさせない」

ガバナーカードで除外した地域カードは、戦略上の拠点から外れている
「ある地域を拠点から外して、非戦闘地域とする」という指揮官の決定が、デッキ圧縮の瞬間に起こっている

数エーカーというゲームでは、どの地域カードをいつ除外するべきか」はもっとも難しいテーマでもある
ソリティア的な最善手があるのかもしれないが、相手プレイヤーの動きをみながら、「この地域は外しても良いか、どうか」とその都度決定していく必要がある
この悩ましさは、

指揮官(プレイヤー)
「偵察兵から得た敵軍の作戦状況は、このような感じか
さて、どの地域を拠点とし、どこを攻略するか…
どこでどのような攻防を行うべきか」

というような指揮官の苦労に対応している

最後にいくつか述べるなら、上のようなテーマの読み解きは、単なる深読みとも取れるかもしれない
ただ、ウォー系のゲームではテーマの再現性は重要な要素だ
プレイしているときに、史実に沿った戦局や状況、指揮官の感情が再現できているのかどうか

例外処理や複雑なルールを用いれば、歴史的事実をシミュレートすることは難しくない
しかし、ワレスの数エーカーでは、そのような煩雑な処理は強いられない
ここでは、デッキ構築でなじみのあるジレンマが用いられている
テーマに適合したメカニクスが自然に選ばれている
テーマとメカニクスがよくマッチしている

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(4)Hands in the Seaのディベロップ背景の推測

最終セクションでは、数エーカーをリスペクトして作られたHands in the Seaについて取り上げる

【概要】

Hands in the Sea (2016)
Designer Daniel Berger (I)
Artist Jamie Noble-Frier, Naomi Robinson
Publisher Knight Works, LLC
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2人用、2時間
BGG評価としては、数エーカーよりわずかに軽い(数エーカーは3.03、ハンズは2.88)

【テーマなど】
数エーカーでは18世紀のアメリカ大陸における英仏の戦争であったが、ハンズは古代におけるローマカルタゴである
紀元前250年ごろに起きた第一次ポエニ戦役をモチーフとしてい
本記事では、「数エーカーをもとにして、どのようにしてハンズはディベロップされたか」を推測する
なお、作者のDaniel Bergerのインタビュー記事やデザイナーノートは一応探したが、やはりというべきか、見つからなかった
代表作の少ないデザイナーであると、インタビューの外的な需要や、ノートを遺したいという内的欲求はないのかもしれない 悲しいことであるが

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【歴史のはなし】
以下、出典は塩野七生の『ローマ人の物語』シリーズとWikipedia
かなり長くゲームと無関係の話題が続くので、興味ない方は適当に流すのをお勧めする
ディベロップ背景の推測のために、まずはテーマをみていく

(1)共和制ローマ
古代のローマ
「ローマは一日にして成らず」のローマだが、成立したのは紀元前500年くらい
最初は小さな都市国家で、共和制ローマとして、共和国の政体を取っていた

ローマ人は、総じて以下の得意分野や長所を持っていた

・街道整備
・水道の整備
・兵舎の設営
・橋の建設
・インフラ全般
・勤勉
・法律の整備
・多神教で、他民族の持つ宗教に寛容

逆に、以下のデメリットも持っていた

・戦闘能力は人並みよりちょっと劣る
・北方の蛮族と比べると背も低い

背が低いことはバカにされていたが、勤勉でインフラが得意なものだから、民族としてエリアを拡大する能力には長けていた
また、多神教であることも幸いし、他部族を徹底的に叩き潰すことはせず、不要な対立を生むことも少なかった
総じて支配地域を広げるのは上手だった
誤解を恐れずに言うなら、テラミスティカやスモールワールドにおけるホビットやハーフリング系の民族といったらわかりやすいかもしれない
戦闘能力は平凡だが、盤面の制圧力は高い
共和制ローマは250年かけて近隣部族を制圧し、傘下に入れていった
最初はローマの7つの丘という、東京ディズニーランドと大差ない広さしか支配できていなかったのが、紀元前250年ごろには、イタリア半島全域に支配が広がっていった

この時代、イタリア半島は完全にローマが押さえていたが、地中海の制海権と、南部のアフリカ大陸を取っていたのは別の国だった
カルタゴ/Carthageである

(2)海洋国家カルタゴ
カルタゴは今でいうチュニジアあたりに首都を持った海洋国家だった
フェニキア人の作った国なので、フェニキア、ポエニキア、ポエニ、この戦争の名はポエニ戦役と名付けられている
紀元前800年ごろには国として成立していたっぽく、ローマよりも古参である
建国当初は、海での通商をする海洋系の国民と、農業を営む国民とで対立と支配権争いがあった
海運vs農業の内乱めいた時代だった
海洋系がメインとなって、国として安定してからは、海で他国と争うようになった
地中海がナワバリなので、ギリシアとよく対立していた
ギリシアの都市国家群(ポリス)は、紀元前400年ごろには栄華を極める
アテネにソクラテスらがいたのもだいたいそのあたりの時代
ただ、いろいろあってギリシャの盤面コントロール力が弱まってしまう
ギリシアとカルタゴは地中海やシチリアをかけて争ったり交易したりしていた
ギリシアが弱った反動もあって、カルタゴがじわじわ勢力を伸ばしていく
紀元前300年ごろは、カルタゴの最盛期と言ってもいいくらい国力が高まっていた

以上をトータルすると、
・地中海~シチリアはカルタゴ優位
・イタリア半島全域をローマが押さえている

→ローマとカルタゴがシチリア島を取り合うようなかたちとなっており、ちょっとピリピリした空気になっていた

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シチリアの取り合い
シチリアはローマ・カルタゴ・ギリシャのちょうどあいだに位置し、どこに行くのも便利
古代地中海世界の交通の要衝でもあり、軍事的に重要な拠点でもあった

(3)シチリアでの武力衝突
こういう二大国家のあいだには緩衝地帯、どちらの統治下にも入らないエリアが置かれることが多い
シチリアにも緩衝地帯と呼べるような地域は一応はあったのだが、その地域で内乱が起こった(紀元前288年,メッシーナの危機)
共和制ローマの元老院は揺れた
「どうしようこれ、一応支配地域の隣接地で起きた争いか
武力介入してもいいですよね
した方がいいのかな?
国内の問題もあるし、外にリソース割いてる暇もないよね
やめた方がいいのでは?」
と議論がまとまらず、ちょっと介入には否定的だった

が、カルタゴはいちはやく部隊の投入を決める
カルタゴは海軍力がめっちゃ高い国なのだが、シチリアの港にカルタゴの艦隊が来てしまった
ローマとしては以下のような感じだった

「これはマジでヤバい…
『ローマの首元にカルタゴの大艦隊が存在する』という状況がすでにヤバい
安全保障もクソもない
それに、もしカルタゴが内乱を鎮圧して、しまうと、シチリアでのカルタゴの株が上がってしまう
それも看過できない
あいつらが手を出すなら自分たちも参戦せねば

とシチリアに兵を向ける
これが発端で、第一次ポエニ戦役は開始された


背景としてはここまで
プレイヤーは共和制ローマか、海洋国家カルタゴの指導者となり、第一次ポエニ戦役を戦う


(4)ポエニ戦役以降のはなし
史実の話をもう少しだけ行う
ローマといえば、ローマ帝国
「共和制ローマ」という語になじみがない人間も多いと思われる
よく知られるローマ帝国は、共和制から移行して誕生する
共和制→帝政の移行は、ポエニ戦役よりちょっと後に起こる
ポエニ戦争は、第1次ではローマが勝利するのだが、結局第2次・第3次と続いた
トータルで100年以上(!)かかったし、第2次ではとにかく戦に強いハンニバル・バルカに国土を蹂躙されたりして、もうとにかく大変だった
最終的にカルタゴを下して勝利したのが、国力が落ち、めっちゃ疲弊した
疲弊はしたわりに、領土は拡大した
兵役への不満が募ったし、領土が広がりすぎて共和制の政体だとコントロールが難しくなった
共和国は元老院による寡頭制、少数の支配層で合議し意思決定を行う政体だった
寡頭制は都市国家~中小規模な国家ではメリットが大きいものの、共和制末期までサイズがふくらむと、もはやまともに機能していなかった
意思決定がスムーズでないし、「首都ローマにはいないがローマ市民権はある」という市民が政治に参加できなかったり、不平等もあったりした
内側から瓦解する危険が高まった時期に、ユリウス・カエサルという傑物が生を享けて、いろいろあって紀元前50年ごろにカエサルは帝政に移行させた


【4つのエリア】
テーマを離れて、ゲーム本体にようやく話題を移す
Hands in the Seaの世界地図は、およそ4エリアに分けることができる

・イタリア半島(ローマ軍の本拠地)
・チュニジア半島(カルタゴ軍の本拠地)
・シチリア島(主な中立エリア。陸戦が中心)
・コルシカ島(サブの中立エリア。海戦が中心)
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写真↑と↓がローマとカルタゴの本拠地 ←がコルシカ島 →がシチリア島

数エーカーの雪も、よく似た構造を取っている
・沿岸部(イギリス軍の本拠地)
・デトロイト&五大湖付近(フランス軍の本拠地)
・内陸部(主な中立エリア。奇襲が中心)
・海洋エリア(サブの中立エリア。海戦・包囲戦中心)
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本拠地2エリアと、2つの中立エリア
お互いの動きを見ながら、どちらの中立エリアを攻めるか進軍ルートを決めていく

【数エーカーにおける最短ルートの存在】
数エーカーの場合は、上の4エリアに加えて、5つ目として
・首都同士をつなぐ最短ルート (一部フランス→イギリスの一方通行)

互いの首都は2マスしか距離がないので、「最短ルートで速攻をかけられるかもしれない」という緊張感を持ちながら戦闘が行われる

5つ目の最短ルートは、この緊張感を与えるために用意されていると筆者は考える

数エーカーは
・進軍
・デッキの圧縮
・交戦
を繰り返すゲームだ
両プレイヤーの意図にもよるが、けっこうゲームが間延びしやすい
最短ルートの存在は、そこを調整するためにあると思われる
最短で攻めこまれる可能性が、ゲームに程よい緊張感を与えている
逆にもし、数エーカーのルールで2つの首都がマップの両端にあったとしたら、ゲームの収束性がかなり悪くなると考えられる


【ハンズの、ローマカルタゴ遠い問題】
では、話を変えてHands in the Sea
ローマとカルタゴ
地理的にかなり遠い
地中海を渡るなり、アルプスの山越えなりをする必要がある

もし数エーカーのシステムをそのまま引っ張ってくると、収束性がややマズいことになりかねない

それを嫌ってかわからないが、Hands in the Seaでは収束性を上げるための新システムが採用されている

決算だ

【決算の長所と短所】
カルタゴのデッキがリシャッフルされるごとに決算(キャンペーン)が行われる
中立地域を多く押さえているとそこで勝利点が入る
また、都市化できている分だけ資金の収入も得られる
「次の決算までにできるだけ支配地域を拡大したい」という焦りが、ゲームに程よい緊張感を与えてはいる

与えてはいるのだが
筆者の主観として、「数エーカーの有していた魅力を半減させ、別ゲーにしてしまった」と捉えられなくもない

2010年代ゲームでよくみられる「基本構造はプレイヤー対ゲームシステムで、相手とのインタラクションもちょいちょいある」
というような、そういうよくあるプレイ感になってしまっている
・次に来る決算までに効率良く拡大できるか
のレースゲームを、プレイヤー対システムで行う
拡大を急ぎすぎると相手陣地に接近してしまって襲撃を食らいやすくなったり、デッキがかさばってしまったりとデメリットもある
かといってデッキ圧縮に専念しすぎると、レースに遅れを取ってしまう

基本はプレイヤー対システムで、相手プレイヤーとのレースや駆け引きも多少ある
これはこれで面白いのだが、数エーカーとはまったく別物のプレイ感と言って良い
別物だから、数エーカーらしさを期待してHands in the Seaをプレイするのはイマイチかもしれない
「失望した、期待外れだった」という感想を抱くこともあるかもしれない

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【領土の扱い】
プレイ感の違いについて掘り下げる
数エーカーとHands in the Seaでは、序盤に重視されるものが真逆だ

数エーカーで序盤にもっとも重視されるのは、自分のデッキのコントロール
デッキ枚数で多くしすぎないようにし、かつ相手に遅れず進軍を行う
最初に領土の急速な拡大を行うとハンドが回らなくなるので、領土拡張は相手のスピードを見て、慎重に行う必要がある
領土の勝利点の計算はゲーム終了時に行うので、極論を言えば、終盤まで拡大が遅れていても、それなりにどうにかなる

Hands in the Seaでは、序盤は領土拡張が重視される
決算のルールによって領土が勝利点と資金のエンジンになってしまっているからだ
エリアを広げているほど、数ターンごとの決算で勝利点が得られる

・中立地に村を広げて勝利点を得る
・自分の領地を都市化して現金収入を得る

の両方があるため、決算ルールにも微弱なジレンマはある

・村(勝利点)
・都市化(資金)
・デッキ圧縮(長期的な戦いやすさ)

この3要素のせめぎ合いは、なかなか悪くないジレンマとは言える
ただ、勝利点で25点差がついた時点で即時勝利してしまうため、基本は村(勝利点)を重視しないわけにはいかない
少なくとも相手プレイヤーに引き離されないくらいには陣取りに手数を割かないといけない

変更点として、現金収入の使い道をHands in the Seaでは増やしている
勝利点収入との強弱差が大きすぎるための、相対的な強化だと思われる
具体的には、カードコストの倍額を支払うと軍事カードを即座にデッキトップに持ってくることができる
本来なら捨て札に行ってから再度デッキに加わるのが、次のターンからデッキに入ってきてくれる
デッキが膨らみやすいからこそのルール改変だと思われる
たが、このルールによってデッキ圧縮の重要性が減り、相対的にいくらか弱体化されている


【数エーカーのジレンマ】
この段落では、作品の客観的記述をいったんやめて、筆者の嗜好の掘り下げを行う
Hands in the Seaのジレンマやインタラクションも悪くはないのだが、数エーカーの方がやはり好ましく感じる
数エーカーの何が好きなのかを、詰めて考えた

・盤面を介した相手との強いインタラクション
・言語を介さない深い部分での対話

以上の2点だと思われる
決算にせかされず、相手プレイヤーとじっくりしたやりとりができるのだ

受け側
「デッキのコントロールを優先して序盤は守る」

攻め側
「それなら今のうちに俺は陣地を広げる」

陣地が接しそうになれば、


受け側
「奇襲系のインディアンカードを取る
(機を見て奇襲でカウンターをしかけてやる)」

攻め側
「要塞カードを買う
(相手が奇襲で来るなら、こっちは要塞化してやろう)」

受け側
「軍事力2のカードを買う
(奇襲が利かないなら包囲戦だ)」

展開のなかで、自然にやりとりが行われる
こういった駆け引きは、基本的には言葉での会話には現れない
相手の手を見て行われる

この手の相手を見ながら行われる駆け引きとインタラクションが筆者は大好きなのだ
ボードゲームだけでなく、カードゲームや構築系のメタゲームの醍醐味だと考えている

大幅な脱線となるが、たとえば、ポケモンのネット対戦だと、以下のようなメタゲームが行われる
トップメタとされる、汎用性の高いシンプルで強力な構築(ニョロトノ&キングドラの雨PT)
②汎用性はやや低いが、トップメタに対して強い構築(スイッチトリパ、特殊受けボルトロス)
③一見トップメタPTだが、一部改変が入っており、対策PTへの対策を施した偽装PT(竜舞物理グドラ)

・その環境で流行っているPT
・それに対して高い勝率を出せるようなメタPT
・さらにそれをメタったPT
と流行が移り変わり、環境が回っていく


カードゲームならもっと単純で、
①終盤の制圧力が高いコントロール
②終盤に展開させる前につぶすアグロ
③アグロに対しては強いミッドレンジ

アグロ/ミッドレンジ/コントロール
の三すくみ構造がある
プレイヤーは環境と自分の嗜好・カードプールの状況をみながら、その時々で最適と判断したデッキを作り、戦う

話がそれた
数エーカーなどのボードゲームには基本的に対戦環境というものはないことが多いが、「相手の動きを見ながら、それをメタるように戦術を決める必要がある」という点では、やっていることはかなり似ている


【その他の新要素】
最後に、数エーカーにはなかった要素の
・艦隊(海戦/略奪/補給線の遮断)
・イベントカード
・戦略カード
について軽く触れ、記事を終える

基本的には「古代の地中海世界」というテーマを鑑みて導入されたのだと筆者は考える

【艦隊】
プレイヤーは船コマを1個ずつ持つ
お互いのスタート地点と4つの海域がある
1アクション消費し、隣接マスに移動することができる
3金+1入植者と1アクション消費し、艦隊数を1増やすことができる

海域に船コマがいると、以下のアクションが行える
・略奪アクション(全エリア)
・補給線を切る(主にコルシカエリア)
・海戦

①略奪アクション:
持っている艦隊数(最大8)÷2だけ相手からお金を奪うことができる
相手は手札でブロックすることができる

パっと見は数エーカーにおけるフランス側のルイスバーグによる海賊行為の焼き直しだが、やや意味合いが異なっている

略奪はおおざっぱな強さがあるアクションなので、艦隊力を上げるインセンティブになっている

②補給線を切る
自分の艦隊が単独支配できていて、相手の補給地からラインが切れている村があると、相手の村は陸上補給も海上補給もできない=補給線が切れているという扱いになる
補給線が切れていると、包囲戦のときに戦力を送れない
補給線を再度構築しないかぎり包囲戦ではまず勝てないので、じり貧になっていく

中立地の一つのシチリアは海域内にお互いの補給地をキープしやすいので、陸上補給が断たれることはなく、海軍力は大して重要にはならない
もっぱら対立が生じるのはもうひとつの中立エリア、コルシカである
コルシカには補給地がないので、海上補給が断たれるとすぐに支配が危うくなる
コルシカにおいて、艦隊力を上げて補給線を切って、海軍力で優位に立つと、わりと簡単に全土をコントロールすることができる

③海戦
艦隊数だけダイスを振り、お互いの船を沈め合うこともできる
お互い消耗する可能性が高いのであまり選ばれないが、艦隊数に大きな差がある場合頻繁に起こる


【イベントカード】
艦隊数は増やし得で、「とりあえず上限の8にしたらええやろ」となりかねない
イベントカードという新要素の追加でそこに調整を加えている

イベントカードは、毎決算時にどちらかの資源が減る悪いイベントが起こる
結果についてはダイスで判定される

筆者は初回プレイ時「イベントカード、何のためにあるのかな、単なる運要素だし、物を失うのは不快感を与えるし、本当に必要なのかな」と感じた
ただ、よくよく考えると、「艦隊を増やすことに心理的な制限をかける」のがイベントカードの最大の目的である、という結論に至った

イベントカードのうちのけっこうな枚数が嵐系のカードだ
嵐が起こると海域に進出した艦隊が沈む
全損させるカードや、半数を沈めるカードもあるが、基本的には艦隊に手数を割いているほど、被害が大きくなる

体感では1ゲーム中1,2回は必ず艦隊が沈む系のイベントはめくれるようになっている

「これだけの比率で艦隊は沈み得る」とお互いが理解していると、「相手より艦隊数は増やしたいが、かといって行き過ぎてもリスクが高い」
というせめぎ合いが生じる


【戦略カード】
戦略カードが売り場に並んでおり、
数金と1アクションを消費すると、固有能力を得ることができる
・手札上限+1
・艦隊を増やすアクションで一気に2隻作れる
・ダイスの出目を常に修正する
など
マルコポーロやクランズ的な、プレイヤーごとの個別能力の解放であり、現代的な要素だと筆者は捉える
筆者の主観としては、この手の個別能力は好みに合っている
ただ、どの個別能力を取るかは選べるし、ゲームの途中で能力を入れ替えてしまっても良い
カスタマイズ性が上がるので、単純に良い追加要素だと感じている



【まとめなど】
ゲームデザインとして、以下のような方向付けがなされている

・艦隊数は大事だが、増やしすぎるのもリスク
・圧縮も大事だが、毎決算ごとの勝利点も大事
・収束性は高く、必ず12R以内に終わるように

バランス良くプレイすることが、Hands in the Seaでは求められる
様々な重要なアクション/得点行動があり、どれかに特化させるよりは、ある程度バランス良く動く必要がある
というのも、現代の重ゲーではよくあるプレイ感だ

このバランスの良さが求められる感覚も、数エーカーとは別種のものだ
数エーカーでは、もし圧縮をかけるなら徹底的にやらないといけない
攻め込むならとにかく短期決戦でカタをつけにいかないといけない
陣地を広げるなら、バンバン都市化した方がいい

数エーカーでは、プレイヤーはあまりルールに縛られることがなく、自由に自分のありようを表現することができる
裏を返せば、Hands in the Seaは決算システムをはじめとした改変によってガードレール機能が強まった分、ゲームとしての自由度はやや低いものになっている

自由度については、数エーカーの方が断然大きい
プレイヤーが己を表現できる余地というものが大きい

『Hands in the Sea』はゲームシステムのレールに乗せられている感があるものの、現代的でよくまとまっている作品だ
『数エーカーの雪』は、グダるリスクもあるが、自由度の高さがなによりの魅力と言って良いと筆者は考える

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【次回など】
『グレート・ウエスタン・トレイル』のプフィスターの新作、『ブラックアウト香港/Black Out Hong Kong』を最近プレイさせてもらい、非常に面白かった
メカニクスとしてはデッキ構築+陣取りなので、数エーカーと同種と言って良いかもしれない
遠くないうちに軽めのレビューを書く可能性がある

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数エーカーの雪とHands in the Seaについてのレビュー記事
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『数エーカーの雪/A Few Acres of Snow(2011)』は、マーティン・ワレスによる2人用のウォーゲーム
デッキ構築×陣取りの傑作
別デザイナーが同じシステムを使って作ったのが、Hands in the Sea(2017)


数エーカーの雪、およびHands in the Seaを数回ずつプレイし、筆者は両作品に大きな魅力を感じた
しかし、自分が具体的にどのような部分に、何を見出しているのか現状把握しきれなかった
漠然と、
・数エーカーはむちゃくちゃ面白い
・ハンズには今風の面白さがある
・同じルールを流用しているが、数エーカーとハンズはかなりプレイ感が異なる
・個人的にはハンズより数エーカーの方がどこかしっくりくる

と感じた
こういった思考・筆者の嗜好を詳細に言語化し、精緻化するのが本記事の目的である

読者としては、「未プレイだが数エーカーやハンズにちょっと興味がある」というような方を想定している
客観的なゲームの内容紹介もある程度行うよう留意した

なお、対戦相手は友人のミキ氏(@Gikoneko4) で、数エーカーも彼の所有
この場を借りて感謝申し上げます

本記事の構成としては、前後半にわける

前半:
(1)未プレイ者向けの『数エーカーの雪』についての説明
(2)BGGの記事の翻訳(数エーカーの雪におけるデッキ圧縮戦術について)

後半:
(3)『デッキ圧縮』のテーマからの解読
(4)Hands in the Seaのディベロップ背景の推測


――――

(1)未プレイ者向けの『数エーカーの雪』についての説明

A Few Acres of Snow (2011)
Designer Martin Wallace
Artist Peter Dennis
Publisher Treefrog Games + 2 more
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【概要】
2人用、インスト1時間、プレイ1.5~2時間
ブラスよりは断然軽い
BGGの重さレーティングだと『コンコルディア』とほぼ同じ(3.03)


【テーマ】
19世紀のアメリカ大陸北部における、フランス軍イギリス軍の武力衝突
プレイヤーはどちらかの軍の指揮官となり、雪解けの地で泥沼の戦線を構築する
互いに支配地を拡大しながら、お互いの足を引っ張ったり、陣地を構築したりする
現地のインディアンを懐柔して斥候をさせたり
本国政府から大砲を輸入して包囲戦をしかけたり
かなり自由度が高く、さまざまなことができる

勝利条件は
・相手のキューブを一定個数奪う(相手を疲弊させきる)
・自分のキューブを盤面に置き切る(本国からの使命を果たし、アメリカの支配を盤石にする
・相手首都を陥落させる

のいずれか
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『数エーカーの雪』のマップと実際の地理
現在のカナダの位置にフランス軍が、アメリカ合衆国の位置にイギリス軍がいる


【おおざっぱな魅力】
デッキ構築と陣取りを合わせたゲーム
陣地を拡大し、軍事力を強めて勝利点を伸ばしたいが、拡大するとデッキをきれいな形でキープできない
というジレンマ
これが数エーカーの最大の魅力だと筆者は考える
ゲーム中、両プレイヤーはこの葛藤に悩まされ続け、お互いの動きを見ながらじりじりと戦局を進めていく
切れ味の鋭いジレンマに悩まされながら手探りで駆け引きを行っていく

このジレンマは元祖デッキ構築のドミニオンでもみられた
『勝利点カードを取りたいがデッキをかさばらせたくない』
という、あれのワレスなりの変奏だと筆者は捉えている
デッキ構築ゲームで導入されることの多いジレンマだが、ワレスは『戦線の拡大と疲弊』というテーマと巧妙にマッチさせていて、良くゲームになじんでいる
デッキコントロールの苦労が、そのまま雪解けの新大陸を行軍する司令官の不安・苦境と重なる

細かいルールとしては、土地カードと、移動系のカードをセットで出せると、その土地に隣接するエリアに移動したとみなされ、新しい土地が占領できる
新しい土地を占領すると、その土地名が書かれたカードが捨て札に加わる
ドミニオンでカードを買ったときと同じような処理で、リシャッフルがかかるとデッキに追加される

新しい土地のカードを使用すると、その土地にまた隣接するエリアも支配できるようになる
そうやって支配地域を増やして勝利点を増やすのがゲームのおおまかな流れだ
ただし、エリアを拡大して土地カードをデッキにたくさん入れると、デッキをかさばってしまう
適宜除去を行って圧縮を行う必要もある
さらに、相手と陣地が隣接すると、武力衝突も起こってくる
軍事系のカードを購入して、現地インディアンを使って奇襲攻撃を行ったり、正規軍を従えて包囲戦を行うことができる
相手との戦いが起きそうだと早めに判断して、遅れを取らず軍事系のカードもデッキに加える必要も出てくる
土地カードを取ったり軍事カードを購入したり、逆に圧縮をかけたりして、自分のコントロールしやすいデッキを作って行く
一定の運要素があるなかで、戦局を思い通りに動かせるか
数エーカーでは、そういった技量を争う2時間となる

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(2)数エーカーの雪のデッキ圧縮についてのBGGの記事の翻訳

具体的にどのような手順で圧縮をかけるべきなのか
ゲームの戦法を詰めて研究するのは、この記事の主たる目標ではないが、ここでBGGの攻略系の記事をひとつ翻訳しておく


『数エーカーの雪におけるデッキ圧縮戦術/About advantages of playing a small deck』
by Victor Strogow

数エーカーの雪における勝ちパターンは以下の2つだ
①内政持久戦タイプ
コントロールするエリアをじわじわ増やして、平和的に勝利する
②軍事速攻タイプ
相手の首都を一気に攻め落とす

数エーカーはぱっと見陣取りのゲームに見えるが、その本質はカードデッキのマネジメントにある
もちろん、「数エーカーの雪はデッキ構築だけのゲームだ」と主張するつもりはない
ただ、デッキのコントロール力が勝敗に大きく寄与する、という見解をここで共有しておきたいんだ

ここでは、デッキ圧縮を行う際の利点や、具体的なやり方について記述する


最初に、もしデッキ圧縮戦術をやりたいなら、ゲームの初期段階から方針を固めるべきだ
ドミニオンでも、途中から圧縮をするのではなく、最初に修道院を買うだろう?
あれと同じだ
どっちつかずで、途中から方針転換するというのはちょっとマズい

では、どれだけ圧縮をかけるか
目安として、コントロール力を高く保てるデッキ枚数は12~13枚というところだ
ほんとに理想を言うなら10枚以下が望ましい
場合によっては7~8枚になることもある
これくらいの枚数になれば、2ターンごとにデッキを回転させることができるようになる
理想的だ
逆に、20枚を越えるとマズい
デッキはコントロールを失って、とたんに回転が悪くなってくる

【序盤の動き】
どちらの陣営の場合でも、リザーブエリアを活用しよう

未プレイ者向けの訳注:
1アクション消費することで手札からリザーブエリアにカードを置くことができる
最大5枚まで貯めることができる
枚数×1金を支払うと、いつでもフリーアクションでリザーブエリアのカードは手札に再度加えることができる
ゲームデザインとしては、リザーブエリアはデッキ構築ゲームの運要素を緩和し、戦略性を高めている

最初は、不要なカードを2~3枚くらいまではリザーブに投げてしまっていい
そのあとで、相手プレイヤーが軍事/内政のどっちで来るのかをみて動きを決めていこう
あとはリザーブは序盤だけに限らず、ゲーム中盤以降でも使っていける

【買うべきカード】
ホームサポート/Home supportとガバナー/Governorは最速で買っていいだろう

※未プレイ者向けの訳注
ホームサポート/Home support
フリーアクションで3ドローできる
だいたいの場合役に立つ
デッキ圧縮をやらない場合でもたいてい早期に買われる

ガバナー/Governor
手札のカードを2枚までデッキから除外できる
数エーカーでは、デッキ圧縮ができる唯一のカード

ガバナーはわりと早く取っちゃっていい
中盤以降に取ると、デッキが結構膨らんでしまっていて、除去したいカード+ガバナー
という組み合わせをハンドのなかで作るのが難しくなってくる
具体的には、25枚を超えるようになると全然デッキ圧縮が利かなくなる


それとホームサポート
これも第1ターンで取って問題はない
・自分が軍事型で攻めるとき
・相手が軍事型で、守りたいとき
に特に有用だ
どちらかが速攻で盤面を動かしていく場合は、早く取らないと出遅れてしまう
ホームサポートは、フランス陣営では、トレーダー(毛皮×2金を持ってくる)で一気に何枚も出荷できる可能性を高めてくれる
といってもイギリスでもあれば便利なカードだ
ホームサポートでお金を稼ぎながらデッキを回すのが、序盤の動き方になる

また、中盤以降7~8枚の圧縮されたデッキを回すときは、ホームサポートは猛威を振るう
ほぼ確実に全デッキを1~2ターンでめくりきることができる
デッキの回転を加速させられる
新しい地域に進出して、そのカードがまた手札に来るまで、普通なら3~4ターンはかかるのだが、デッキを圧縮してホームサポートを使うと2ターンでそれが可能だ
すぐに新カードを使って再度陣地を広げる、という動きができる

※訳注:ホームサポートの細かいルール
ホームサポートの効果使用時に山札が枯れた場合、新版・旧版で
・リシャッフルをしても良い
・リシャッフルしてはならない
と記載が異なる
訳者らはリシャッフルOKだと強力すぎると感じたため、訳者らはリシャッフルなしのルールでやっている
なお元記事の著者はリシャッフルありでやっている様子

逆に、デッキ圧縮と相性が悪いのがインテンダント/Intendantだ

訳注:インテンダント/Intendant
2金を消費すると、捨て札から指定したカードを拾ってこれる

弱いカードではないが、デッキ圧縮とアンチシナジーだ
デッキが膨らんでいる場合に用いられる


【どのカードから除外するか】
内政型の場合は、都市化さえできれば自分の地域カードは用無しになることが多い
都市化が済んだカードのなかでも敵の攻撃がこなさそうなところから除外していくのがいい
ただ、地域カードには移動手段がついているので、船やカヌーなど、「最低1枚は絶対必要」というカードは慎重に残すべきだ

軍事攻撃型の戦術のときは、都市化を待たずに素早くデッキを削いでいっても良い
内政型との違いは、金を得る手段を豊富に持つ必要があるということ
戦争には金が要る
フランスでは、トレーダーカードはキーカードとなる
また、毛皮アイコンのついた地域カードも何枚かは持つべきだろう
しかし、中盤以降はトレーダーも除外してもOKだ
相手の首都に包囲戦をしかけられる地域カードだけ残して、軍事系のカードでデッキを染め上げよう
奇襲・襲撃・待ち伏せ/レイド・アンブッシュ系のカードが必要な場合は、インディアンカードは基本的に取らなくていい
デッキがかさばって美しくないからだ
イギリスならレンジャー/Rangers、フランスならクーリュール/coureur de boisで十分だ

※クーリュール
クーリュール・デ・ボワ(仏coureur des bois、クーリュール・ド・ボワcoureur de bois)は、「森林を駆ける者」という意味で、かつて毛皮交易のために、ヌーベルフランスや北アメリカ内陸部を旅して回った、独立自営的なフランス系カナダ人のこと

十分に圧縮がかかっている場合、1枚入っていればほぼ毎ターンかならず引いてこれる
奇襲の仕掛け合いになって、相手より奇襲力・ブロック力を高めたい場合は、1~2枚インディアンを買い足してもいいかもしれない


【後半以降の動き方】
デッキ圧縮戦術の最大の強みとして、可変性の高さがある
序盤~中盤では丁寧に圧縮をかけないといけず、なかなか大変だが、逆に後半はかなり動きやすくなる
相手を見て柔軟に戦術を変えられるのだ
もし「自分のアタックが成功しそうだ」と感じたらすぐに2軍事力7コストのカードを買って、包囲戦に向かう
次ターンには包囲戦を開始し、2軍事を打っていく
あるいは襲撃をしかけてもいい
襲撃カードを1,2枚デッキに仕込めば、毎ターン襲撃を打てるので、そのうち相手は根負けしてブロックが失敗する


最後に、デッキ圧縮戦術のおおまかな棋譜を2例出す


(A)イギリス側が圧縮→軍事速攻をしかけた一例

フランス
「最初に、イギリス領Pemaquid/ペマキッドに包囲戦を仕掛けます
デトロイトの内陸方面も拡大」

イメージ 6
マップ右下でフランスは←方向の攻めを行った
なお、ポートロワイヤル(フランス領)-ペマキッド(イギリス領)は互いに隣接しており、船で包囲戦を仕掛け合うことができる
最初の2~3ターンでいきなり戦闘が起こることも多い

イギリス
「イギリス領Pemaquid/ペマキッドの包囲戦は撃退!
こっちも攻勢に出よう、レンジャー要塞カードを購入
さっそくフランス領Port Royal/ポートロワイヤルに包囲戦
成功!
同地区を支配
さらに隣接するフランス領Fort Beausejour/ボーセジュールも支配!」

イメージ 7
イギリスは→に向かって進軍

フランス
「まずい、海洋エリアが荒らされまくっている
制海権が完全に取られた」

イギリス
「奪ったFort Beausejour/ボーセジュール は要塞カードでさっそく要塞化

フランス
「まずい、このままだともっと攻めこまれるか」

イギリス
「(いや、ちょっと地域カードが多くなりすぎてデッキがだぼついてきた
このまま首都攻撃に向かったとしても、じり貧になって撃退されそうだ
拡大路線はいったんストップして、デッキの圧縮調整をやるべき
デッキを整えてから一気に首都方面まで攻め込もう)

デッキのSt. Mary's, Philadelphia, Fort Beausejour, Pemaquid の4枚を廃棄!
(船アイコンもついていたカードだから、捨てるとお金稼ぎが若干きつくなるのが辛いな…
でもそこは他のカードで回すしかない)」

フランス
「いったん攻撃の手は止んだか
よし、とりあえず海洋エリアは捨てよう
しょうがない
逆に内陸部の支配エリアを増やして、勝利点を増やす
拡大のスピードはこっちも負けてないはず
最終的な勝利点ではまだ勝てる可能性がある」

イギリス
「2軍事力の正規兵/Regular Infantryと3軍事力の大砲/Artillery購入
海洋からLouis Burg/ルイスバーグを包囲戦、攻略」

フランス
「やばい、内陸の地域カードが多すぎて包囲戦に対応できない」

イギリス
「このまま首都ケベックも包囲戦、最終的に占領!」
イメージ 8

→電撃的な攻めが決まった一例といえる
フランスも防御策として軍事系のカードを数枚持ってはいたものの、デッキをかさばらせて対応が遅れたのが敗因となった
軍事カードをサーチするひまもなく、攻撃が決まってしまった

イギリスは圧縮に圧縮を重ねて、デッキの最終枚数は10枚であった
組成は以下

初期カード
・ボストン
・ニューヨーク
・ニューヘイヴン
・ノーフォーク

軍事カード:
・大砲
・正規軍/Regular Infantry,
・レンジャー 

敵地域カード:
・ルイスバーグ
・ポートロワイヤル

その他:
・ホームサポート

この10枚で2ターンごとにリシャッフルをかけて攻め落とした

なお、リザーブには要塞化とガバナーを入れっぱなしにしている
このように、用済みになったガバナーはリザーブに入れっぱなしにすると良いかもしれない


(B)フランス側が防衛に徹し、カウンター勝利した一例

イギリス
「内陸から攻め上げる
内陸部の
Cumberland/カンバーランドを支配
続いて Albany/アルバーニーDeerfield/ディアフィールド
Oswego/オスウェゴも取る
内陸からフランスを切り崩す
さらに海洋のポートロワイヤルも押さえた」
イメージ 9
イギリスは左、中央、右の3ルートから攻め込もうとしている
勝利点は伸びやすいが、戦線を分散させるとデッキのコントロールが難しくなりかねない

フランス
「ちょっと軍事化が遅れてしまった、まずい
デッキが強くない、攻め込まれすぎている
とりあえず要塞化カードを買って、イギリスに接している町を要塞化
合間にトレーダーで金を稼ぎながらハンドをどんどん回そう
ガバナーも使って要らないカードは除去
地域カードはほぼ全除去でいいだろう
あとは、相手と境界が接しているから、とにかく襲撃を打ちまくる戦法で行こう
カウンターサッカーで行こう
クーリュールとインディアンを購入
最終的に7枚デッキにまで圧縮した
必ず毎ターン全カードが使える
これで毎ターン2襲撃を行う」

イギリス
「毎ターン2襲撃はヤバい、対応できるわけがない
今のうちにエンドトリガーが引きたいが、キューブを一定個数奪う勝利も、キューブ置き切り勝利もまだ狙えない
どうしよう
それだけ守りが固いと、攻め手がないな
相手から2マス圏内に入ると即キューブを奪われてしまうし」

フランス
「奇襲が良く刺さった
最終的にイギリスより6個以上多く村を取れた
陣地的にはちょい負けだったが、勝利点計算で逆転勝利!」

こういった例のように動かして、デッキ圧縮をすると良いだろう
フィードバックやコメントを待っているよ

―――以上原文―――

後半記事に続く


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