カテゴリ: ウヴェ・ローゼンベルク

オラニエンブルガー運河はウヴェ・ローゼンベルグによる2人用の90分級
プレイし、きちんと面白い良作だと評価したため記事化する



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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①ヌースフィヨルドの後継者

 ②拡大、成長感はひかえめ
 ③やや理不尽な勝敗決着
 ④ウヴェ作品のなかで最もアドリブ寄り

 ⑤資源ホイールはオンリーワン的で◎
(4)考察1:システム面の読解
 ①資源のレート

 ②鉱石とは何か?
 ③起動効果の3つのデザイン的メリット
  [1]処理が明白
  [2]ストーリーに起伏を
  [3]快感の前借り
(5)考察2:カード解剖
 ①序盤のパワーカード―沿岸倉庫,工業用貯蔵庫
 ②勝つなら運河を―港湾事務所,催事会場
 ③経時変化を映す―中古品販売店,卸売店
 ④名声点を支払う―保税倉庫,裏庭,船積みドック,貨幣鋳造所
 ⑤経路の置き換え―建設チーム,近代化事務局
 ⑥フル起動欲をあおる―中間鉱石倉庫,鉱石加工会社,鉱石貯蔵所
(6)総評

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Oranienburger Kanal (2023)
 
Designer Uwe Rosenberg
Artist Harald Lieske
Publisher Spielworxx

(1)基本情報
人数:1-2人(2人ベスト)
時間:60-120分(初回インスト込み120分、慣れれば60分)
複雑性:3.05 (参考値:ヌースフィヨルド=2.84、ブルゴーニュの城=2.99)
ランク:4200位 (2023/3)
要素:7つのアクションスペースのシンプルワカプレ、ホイール上の資源管理、19世紀ドイツ、産業革命、馬車、運河、鉄道
言語依存:一定あり(カードに言語依存なく秘匿情報もないが、リファレンスを読まないとプレイ不可能)
流通:テンデイズゲームズから日本語版が販売されている。和訳のクオリティめちゃ高い

デザイナー:
ウヴェ・ローゼンベルグ
アグリコラ(2007)オーディンの祝祭(2016)をはじめ、本当に良いものをいろいろ作っている

アーティスト:

ハラルド・リースケ/Harald Lieskeはドイツのミュンスター在住のアーティスト
男性、現在48歳
大学のデザイン学科を卒業後、ゲームアートとコミックの分野を志し、ボードゲーム業界では28歳時にデビュー
インカの秘宝(2005)など、自身でシステムを手がけた作品も

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Inka(2005)


アート方面の代表作は、
・電力会社(2F-Spiele) 
・プエルトリコ(alea)
・ブルゴーニュの城(alea)
・ノートルダム(alea)

など
alea(アレア)社を中心に幅広い出版社の作品を手がけている

シュピールヴォルクス社(オラニエを出した会社)の先行作だと、
・ラ・グランハ(2014)
・アークライト(2014)
・ジェンティス(2017)

など

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Gentes(2017)


(2)テーマ
オラニエンブルクはドイツの地方都市
人口は45000人、北海道登別市(45000)や和歌山県海南市(47000)とだいたい同規模
ベルリンからは約40km(車で45分)とかなり近い

オラニエンブルクは直訳するとオレンジキャッスル
特にみかんにゆかりはなく、オラニエはオランダ語
プロイセン公(ドイツ全土を治めた領主)にオランダ王家のオラニエ=ナッサウ家から令嬢が嫁いできた(1646年)
令嬢ルイーゼ・ヘンリエッテ・フォン・オラニエンにプロイセン公がプレゼントしたのがこの町
ルイーゼが領地に建てさせたオランダスタイルの城がオラニエンブルク
元々ベッツォウという町名だったがオラニエンブルクに改名


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Das Schloss Oranienburg


この200年後の1832-1837年がゲームの舞台
白黒ブラスが1770-1870年であり、ちょうど同時代

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Brass:Birmingham(2018)

テーマもほぼドイツ版ブラスと言って良く、産業革命期のドイツ(当時はプロイセン)の地方小都市オラニエンブルグの発展に寄与する
ブラス同様運河を引き、鉄道を敷き、窯元製鉄所を立ち上げる

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ブラスにおいてプレイヤーはこれらの事業を手際よくやって大英帝国の牛耳ろうとする起業家となるが
本作ではプレイヤーの役割はルールブックに記されていない

国家規模の青地図を描くワレスと対照的に、もう少し小規模で家庭的な作風がウヴェの持ち味
記載はないが、オラニエンブルグの自治を任された地元出身の行政官くらいだと捉えている


余談だが、プレイヤーが誰で何をする人なのか明白であるほど、没入感が高まり、プレイ体験の質が向上する
ウヴェ作だと、

アグリコラ

プレイヤー=14世紀ごろのドイツあたりの貧乏な封建領主となる。
目的:召使や領民はいるが資産がない。この困窮から抜け出し、家族を養い発展しよう。

カヴェルナ

プレイヤー=ドワーフ、エルフ、人間などファンタジー世界の住人。
目的:狩猟採集と農耕で自身の生活を豊かにしよう。

オーディン

プレイヤー=10世紀ごろの北欧あたりのヴァイキング

これらは入っていきやすい

反対に、
ルアーヴル

港湾都市ルアーヴルの成長が描かれる
が、プレイヤー自身にあまりフォーカスされない

ヌースフィヨルド

ヌースフィヨルド村の発展を描いている
が、村長たちは別におり、プレイヤーが誰であるのか明白でない


などは少し曖昧で散漫、やや没入感を欠く

オラニエンブルガーは、ウヴェ作のなかでは変わり種的なテーマでめちゃ面白いが、質感は後者寄りと言わざるを得ない

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(3)魅力


①ヌースフィヨルドの後継者

ウヴェの先行作群のいくつかのミクスチャなのだが、ヌースフィヨルドが手触りとしてもっとも近い
ヌースフィヨルドのプロフィールは以下
1-5人用のワカプレ
・7ラウンド21手
60-90分
・魚と木材=所持制限のある下級資源
・お金=序盤流入に乏しいが、上限なく持てる上級資源
・森を切り拓き、個人ボードに10枚前後の建物カードを建てる
カードに拡張性があり、ミニ拡張で違ったプレイ感を楽しめる


オラニエンブルガー運河を同形式で記すと、
1-2人用のワカプレ
・10-11ラウンド25-27手
60-90分
・下級3種、上級2種の所持制限が課されたホイール上の5資源
上限なく持てるお金と名声点
・経路や橋を用意し、個人ボードに10枚前後の建物カードを建てる
カードに拡張性がある


②拡大、成長感はひかえめ

拡大再生産感の弱さも特徴的だ
先行作の典型例だと、
ワーカー(手数)を増やす(アグリコラ、カヴェルナの増員)
・ワーカーを強化(カヴェルナの武装)
定期収入(アグリコラ、カヴェルナの農業と畜産、オーディンの収入、ヌースの魚収入)
・食料支払いの軽減(ルアーブルの造船)
永続能力の付与(アグリコラの職業、ヌースの一部建物)


あたりがあったが、全部ない
手数は決まっていて増えない
なぜそうしているかだが
単に取り得な拡大パーツを配るような実装(永続的に使えるワーカーや、無制限に繁殖を繰り返す羊など)にウヴェ自身が飽きているのだと推測する

ちょっと


・アグリコラ
単純な増員


・ルアーヴル
造船による食料支払いを軽減
食料を取る手が浮くため実質的な手数増加だが、アグリコラの非対称的な手数増加がはらむ理不尽感やダウンタイムを解決できている

洛陽の門
畑が毎ラウンド野菜コマをもたらす
これも造船同様、増員の近似概念だが、過去2作と違って畑は複数回起動させると壊れる
この畑の実装が、永続的に、無限に起動させられる増員や造船と違った面白さを生んでいる
土地が痩せるテーマとも合っていて◎

と、時代を経るにつれアレンジを繰り返してきたが
オラニエの建物カードの挙動は洛陽の畑と少し似ている


建物は2回だけ起動でき、その都度即時効果を発揮する
記事後半で改めて触れるが、建物周りの実装はとても好印象
拡大・成長感が弱いゲームで生じ勝ちな単調さやマンネリ感を巧妙に回避している


③やや理不尽な勝敗決着

本作を最も勧めにくくしている要因
カードの強弱がかなり激しい
150点がウイニングスコアのゲームで、ぶっ壊れカードは2回フル起動させると1枚で40点くらい出てしまう
弱いカードは10点くらいしか出ない


どうしても気になるなら、
「あのヤバかったカードBANにしてもう1回やろう」で全く問題がない

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警察官舎=ボード上の線路、運河、橋がそれぞれ2/3/4/5枚以上なら、4/6/9/12金を得る
本作360枚中、最も強力で理不尽な一例



なお、若干煩雑さは増すが、
・各時代開始時に両プレイヤーがデッキ20枚から6枚を山引きし手札として持つ
・スタートプレイヤーがカード補充時に手札からカードを出す
・両プレイヤーの合計残り手札枚数が3/5/4枚以下になったら1/2/3時代目を終えて、残り手札は一度全部捨てる(基本ルールと同じ9/7/8枚を使用)

筆者はこのバリアントルールでやっている
・勝敗に対する納得感が増す
・素点が全体的に伸び、やりたいことがやれる

などかなり自分の好みに寄る



④ウヴェ作品のなかで最もアドリブ寄り

戦略的/場当たり的、

戦略的/開始時にやりたかったことは大体やれる/中盤までに終了形の見通しがつく/互いの意図や主張がある程度見える/実力者が勝ちやすい

場当たり的/「これをやり通したい」みたいな長期目標を持ちづらい/数手先は隠して読ませない/相手との押し引きよりガチャやダイス運を乗りこなす楽しさを/実力差が出にくい

のどっちかにボードゲームは偏りがち
ユーザーごとに好みのレンジは違うし、デザイナーも得意のレンジを持っている

ウヴェは戦略寄りのデザイナーで、代表作の戦略的:場当たり的の比率はざっくり以下
なお数値は完全に主観であり、特に論拠がない


カヴェルナ=8:2

かなり戦略寄り
途中のアクションスペースのめくれ以外ランダム要素、運要素なし。
ほぼ完全公開情報ゲーム。
基本版の硬さに対して、氏族拡張(忘れられた氏族)による非対称的なセットアップや狂乱の魔物拡張はよりゲームを柔らかく、解きほぐす方向で働いている。

アグリコラ=7:3

最初の14枚のカード配布とアクションスペースのめくれのみ運要素あり。

ヌース=6:4

建物カードのめくれ運は強いが、多くの枚数がめくれる。
特に強力な最後の得点系カードは各プレイヤーに一部公開されており、下準備もできる。

オーディン=5:5

・捕鯨や略奪ダイスのブレ
・職業カードのめくれ
食料供給ラウンド(拡張要素)

と、とても運要素は多い。
けっこうなアドリブ力を試される。

これらと比べると、

オラニエンブルガー運河=3:7

都度めくられる建物カードを活かしてアドリブ的に立ち回る必要がある。
また、ホイールからあふれた資源が蒸発する仕様が、
「ここは資源をため込んで…」
という長期計画を阻んでいる。

比較的マシなものを手早く建てて、手元に資源を残しすぎない必要がある。


なお余談だが、アドリブ性や場当たり性が上がるほどベスト人数は減る傾向にある
カヴェルナ基本版=4人ベスト
アグリコラ=4,5人ベスト
カヴェルナ氏族拡張=2,3人ベスト
オーディン=2,3人ベスト
ヌース=2、3人ベスト
オラニエ=1,2人

・戦略寄りで運が介在しづらいゲームは、他プレイヤーを乱数の意味合いで導入した方が楽しさが底上げされ、多人数戦の高評価につながる
・場当たり的、アドリブ的なゲームは手番中の思考時間が延びやすく、ダウンタイム軽減の意味で少人数戦の方が評価されやすい
・特にダイスが顕著だが、とても強い乱数要素が介在する場合、2人など少人数ベストとされやすい(参考:ブルゴーニュの城、グランドオーストリアホテル、ティルトゥム) 

あたりが原因と思われる


⑤資源ホイールはオンリーワン的で◎

粘土、木材、鉱石の3種の下級資源とレンガ、鉄の2種の上級資源を管理する
資源を得たり払ったりすると、トラック上の資源トークンを動かす

ここまではガイアプロジェクトの建材とお金トラックと同じ単なるトラック管理だが
毎ラウンド開始時、ホイールを回転させる収入が得られる
このとき、
「3種の下級資源を1個ずつ支払って、2種の上級資源を1個ずつ得る」
という処理が起きている


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上の画像だと、「2鉱石、2粘土、3木、1鉄、3レンガ」持っていたのが、

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ホイールを回転させると、「1鉱石、1粘土、2木、2鉄、4レンガ」に変化する

フレーバー的には、木材を燃料として、鉱石(粗鋼)を精錬してにし、粘土を焼いてレンガを作っている

未プレイの方は実機を触るか、hal99さんの動画なんかを観られる方が手っ取り早く分かりやすいのだが
ここの実装は抜群に良い
「ああ、ここが一番やりたかった部分なんだろうな」
と思わせてくれる

・下級資源コマ3個をストックに返して、ストックから上級資源コマ2個を取る

という工数の多い仕事を、
・ホイールを1/16回転させる

で置換している

オーディンのインタビューで、
「これまで動物コマをストックに返して、2食料をストックから取って、それを収穫フェイズにまたストックに返すことで食料供給をやっていた。
でも動物をポリオミノタイルにして、給仕ボード上に乗せさせたらどうだろう?
食料支払いがもっと直観的に分かりやすくなるし、かつ処理も簡単になるよね」

という旨の発言をしていたが、同種の優れたソリューションだ

ホイール上での資源管理は、祈り働け(2011)ルアーヴル・内陸港(2012)でもやっていたが
今回の仕様は知る限り誰もやったことがなかったもので、新奇性がとても高い
大げさに記すなら、ユーロゲームをまた1歩前進させる小さな発明だと評価する

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Ora et Labora (2011)

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Le Havre: The Inland Port (2012)



(4)考察
以後既プレイの方向けの記載となる

①資源のレート

おおざっぱに、各資源の価値は、

粘土、木材、鉱石=2
名声点=3
お金=4
レンガ、鉄=5


くらい
「1レンガ(5)は2粘土(4)よりは価値高いけど、3粘土(6)には及ばないくらいかな。
2木(4)と1名声点(3)だとさすがに2木の方が価値が高いが、2木(4)と1金(4)はほぼ等価と言って良いのでは」
くらい
もう少しだけ画素数を大きくすると、

粘土=8
木材=10
鉱石=11
名声点=12(開始時)→15(終了時)
お金=20(開始時)→15(終了時)
レンガ=22
鉄=25


って感じ(約5倍に拡大)

レーティングの根拠は以下(読み飛ばし推奨)
「下級資源の中でも、粘土(8)は運河を引いたときに得られるため若干価値が低い。木材(10)鉱石(11)はほぼ同じ。
名声点は開始時(12)には使い道に乏しく相対的に低価値。反対に最終盤のヨセでは重要度が高まる(15)
お金は最序盤得る手段がなく、めちゃ価値が高い(20)。が、毎ラウンド6金が場に流入し続けるため、終盤はインフレし、名声点と同水準(15)にまで価値が目減りする。
レンガ(22)鉄(25)は、初期資源が0鉄1レンガスタートなのもあって、ほんの少し鉄が高価値」

数字のつけ方は完全な主観
反証や立証のしようもなくあまり意味がない

また実ゲームだと建物カードの要求コストや産出資源によって価値は増減する


なお、ホイールの回転は毎ラウンド収入として1回できるが、ゲーム中2金を支払うといつでもできる
この2金1回転はややコスパが悪く、1ゲームあたり0-2回程度しか行われない
「お金がジャブつく終盤などに、鉄かレンガがどうしても欲しいときにやる」
って感じ

これについて、
粘土(8)+木(10)+鉱石(11)=29
レンガ(22)+鉄(25)=47

差は18で、だいたい1金程度
「無料ならほぼやり得だけど、2金払ってのフリーアクションはちょっと損」

という実感とだいたい計算が合う

このフリアクのコストを、適正レートの1金でなく2金にしているのはセンスが良く、好感が持てる
もし1金にするとやるべきなのか微妙であり、プレイヤーがいちいち迷ってしまいテンポが削がれる
いつでもやれるフリアクはあえて非効率にして、
「できればやんない方がいいですよ」
と導線を引いてあげた方が無難で親切


先行作だとウヴェのディベロップしたテラミスティカ(2012)がまさにそうで、1金や1ワーカーを生み出すフリーアクション(パワーアクション)の変換レートは故意に低く設定されている

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Terra Mystica (2012)


②鉱石とは何か?

本作、鉱石を必要とするアクションは存在しない
全ての建物カードのコストにならない
4種の経路(運河、鉄道、道路、小道)のコストにもならない

じゃあ何のためにあるねんってところだが
ホイール回転のコストとなっている
回転では1木、1粘土、1鉱石を支払って1レンガと1鉄を得ている

ウヴェの先行作だと、アグリコラやカヴェルナの食料が最も近い実装
食料そのものを建設コストにする建物や小進歩カードはほぼない
が、定期的に食料支払いがあり、けっこうな手数を食料確保に持っていかれる

本作では各ラウンド終了時に、本来は2金かかる1回転が無料で行える
ウラを返すと、
「毎ラウンド終了時までに1木、1粘土、1鉱石を余らせておいてね。
さもないと、2金相当のボーナスをみすみす逃すことになるよ」

デザイナーのメッセージ

ペナルティとボーナスを裏返したような実装
アグリコラ(2007)→オラニエンブルガー運河(2022)と同じような反転を、別デザイナーのルチアーニがロレンツォ(2016)→グランドオーストリア(2015)
でやっている
ロレンツォにおける破門トラックは、進めていないと相当手痛いペナルティを食らう
オーストリアの皇帝トラックでもペナルティは形式的に存在するが、一定以上進めたときのボーナスがメインとなっている
両作ともとても素晴らしいが、破門トラックよりは皇帝トラックの方がプレイ感が良い

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Lorenzo il Magnifico (2016)


余談だが、鉱石を経路や建物タイルのコストに含めることは可能っちゃ可能
アグリコラの大進歩カードのコストに食料を入れてもゲームは成立するように
ただ、細かい言語化は省くが、あんまり美しくないよね



③起動効果の3つのデザイン的メリット


記事前半で記したが、本作はヌースのように建物カードを個人ボードに建てていく
ヌースに存在した永続能力やアクション強化をもたらす建物は全廃されて、すべての建物が即時効果を持っている


建物の周囲には経路(細長い紙タイル)を配置でき、周囲4辺を経路で囲い切ると建物の効果を起動できる
またそれと別で橋(木ゴマ)も建設でき、橋は2個接続するとまた効果が得られる
合計2回起動できるようになっている


この実装の良い点はおおまかに3点あげられる

[1]処理が明白

この実装の最大のメリットは処理の明白さ
永続効果を廃し、即時効果にするだけでほぼ処理忘れはゼロになるが、
・4辺を囲い切っている
・橋2本と接続している

と見た目でわかりやすいのもなおよい
とても明白で漏れがほぼ起き得ない


[2]ストーリーに起伏を

起動条件を2つに分けたことで、展開に起伏が生まれている
橋による起動は4,5枚建物カードを建ててから、ゲーム中盤からやることになる
建物を建てる
・4辺を囲い切って1回目を起動する
・起動に使った経路を再利用すべく、他の建物を隣接して配置
・建物同士をつなぐように、も接続して2回目の起動を狙う
・最終的に橋を閉じ切る(閉じないかぎり、橋2本で1回起動、3本で2回起動…とN-1回しか起動できないが、閉じると4本で4回起動など、1回分多く起動できる)

と進行に応じてやるべきこと、やりたいことが変わっていく

デザイナー目線だと、即時効果だけで(永続効果ナシで)こういった起伏や盛り上がりを用意するのはなかなか難しい
どうしてももっと単調になってしまいやすい

引き合いに出すのは少々酷だが、フレイムクラフト(2022)を一例として出す
フレクラでは、資源を払って獲得したカードの効果は即座に適用される
・提示されたカードを買うべく資源を集める
・買ったカードから得たボーナスや、そのお釣りを使ってまた新しいものを買う

という流れは楽しいのだが、これは本来20-40分級向きの実装
アートワークとコンセプトが抜群に良く、掛け値なしの大成功作だが、システム面は本来90分向きではない
90分級に引き延ばしたのはマーケティング的な意味合いが強いと推測する
単価と購買者数的にもっとも売上が立つのは60-120分級の中~重量級であり、そこに合わせるべくやや無理やりプレイ時間を延ばしたと評価する

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Flamecraft(2022)


[3]快感の前借り

(本節は戸塚さんうちばこや氏のアイディアに拠る部分が大きい)
建物カードは即時的だが、建てた瞬間に適用するのでなく、発動を遅延させているのもワクワク感を向上させている

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指令センター=個人ボード上の橋1個につき、異なる資源1個を得る(各1個ずつまで、最大7回)

このカードが典型的で、
「建てたあとに工夫してうまく起動させると、後々タダで最大7資源もらえる」
と書いてある
ちょっと言語化が難しいのだが、プレイヤーはこの建物を建てた時点で自分が7資源フルでもらった未来の像をイメージし、一定の幸福を感じている
「宝くじは夢を買っている(期待値的に買う意味がないが、買った時点で数億円手に入れた未来の像を空想することができる、実利云々でなく、そういう幸福感を買っている)」という言説に近い

仮にこのカードの実装を反転させ、
「建てた時点での橋の個数を記録しておき、今後の起動ではその個数に応じたボーナスしかもらえない」
とするとワクワク感が一気にしぼむ


(5)考察2:カード解剖


自分の備忘もかねて、特に印象的だったカードを各デッキ数枚ずつ挙げていく

序盤のパワーカード―沿岸倉庫,工業用貯蔵庫

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沿岸倉庫=隣接する運河1本につき1木1鉱石を得る。
工業用貯蔵庫=小道1本以下と隣接しているなら、2木、2粘土、2鉱石を得る。

序盤の典型的な強カード
建てやすく素点も高い
特に沿岸倉庫の6点は破格であり、隣の工業用貯蔵庫の4点が適正数値
起動効果ももちろん強い、3種の下級資源が揃うのが強力
沿岸倉庫では粘土が湧かないが、運河を建てたおまけで粘土が生じる
この2枚に、Aデッキのカードは素直なものが多い
コストが高すぎず、起動効果もシンプルでバランスが良い


勝つなら運河を―港湾事務所,催事会場
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 港湾事務所=運河4枚以上個人ボード上にあり、4/5/6/7枚の建物カードが運河と接しているなら5/6/7/8金を得る。
催事会場=2金を得る。道路1枚以上と接しているなら、配置した運河1枚×1名声点を得る。

運河、道路、鉄道と3種の経路のうちの運河のコンボパーツ

詳細省くが、
運河=10.0(中コスト、建てる機会少なめ、めちゃ強い)
道路=8.0(低コスト、建てる機会多い、単純に強力)
線路=3.0(高コスト、建てる機会少なめ、強いがなかなか建たない)


くらいパワー差がある
運河自体も強いがコンボパーツも強力なものが多い
なかでも港湾事務所&催事会場は、
「このゲームは基本的には運河をやって勝つんだよ」
と教えてくれる2枚
これを取られたら運河2本引きのアクションをカットし続けましょう


経時変化を映す―中古品販売店,卸売店
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中古品販売店=2/3/4種の経路と接しているなら、3金と0/1/2鉄を得る。
卸売店=隣接する経路の種類ごとに1木と1名声点を得る。

背景の物語が感じられる2枚
効果はほぼ同じで、たくさんの種類の経路と隣接させるほど起動効果が高まる


・運河(船)
・道路(馬車)
・線路(機関車)
・小道(市民)
であり、異なる経路が集まる結節点=多様な人間が利用する店 となる
そういった雑多な土地で中古品販売店は繁盛するのも納得
卸売店は、中古品販売店で得られるお金と鉄をそのまま建設コストに加えると建つ感じになっている
「中古品販売店が繁盛したから、2号店として卸売店を出店したのかな」的なストーリーが読み取れて楽しい


④名声点を支払う―保税倉庫,裏庭,船積みドック,貨幣鋳造所


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保税倉庫=1名声点または2金を支払うと、レンガか鉄を3個になるまで補充する。
裏庭=小道1枚以下と接するとき、1名声点または2木を支払うと1鉄、1レンガ、3鉱石を得る。
船積みドック=線路1枚以上と接するとき、1名声点を支払い2レンガまたは2鉄を得る。道路1枚以上と接するとき、1名声点を支払い5鉱石または5金を得る。
貨幣鋳造所=道路2枚以上と接するとき1/2/3鉱石と1名声点を支払い5/6/7金と2木を得る。


記載が死ぬほど複雑だが、全部「名声点を支払って何か得る」と書いてある
この系統はAデッキでは0枚だったが、Bデッキでは4枚と多用されている

システム的にはアルマ・マータの勝利点の実装にかなり近い
既存のユーロの文脈だと、勝利点(名声点)は資源やアクションの変換の終着点
いちばん最後に得られるもので、勝利点から変換して何かを得ることはできなかった
が、アルマ・マータでは、
・増員の条件
・研究トラックを進める際のズル(条件無視)のペナルティ支払い

と、ゲーム途中の勝利点にいくらか意味を持たせている

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Alma Mater (2020)


本作のBデッキも似た実装
1名声点または2金を支払うと、レンガか鉄を3個になるまで補充する(保税倉庫の効果)」
を建てたプレイヤーは、
「2金払って3鉄でも悪くはない。でもせっかくなら名声点で払いたい、どこかで名声点は得られないか」
と工夫し始める



テーマ面において名声点とは何かを少し掘り下げる
支払うよりも得る手段を見る方が分かりやすい

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音楽堂=運河1枚以上と隣接するとき、10/20/30金を支払って15/27/40名声点を得る。
アーケード=道路2枚以上と隣接するとき、その道路以外3/5/7/8枚以上あるとき、5金と2/4/6/7名声点を得る。


音楽堂ではパトロンとなり、コンサート(音楽会)を誘致している
たくさんのお金を支払うほど大規模な企画ができ、市民の支持を多く集め、また彼らの文化水準を高められる
アーケードは商店街を形成し、一般市民の雇用を安定させ、集客を生み出している

・人口
・市政への支持率
・市民の幸福度や文化レベル
・集客
・町の賑わい

的なフレーバーを持つカードに名声点が割り当てられている

名声点を支払う場合は市民の支持を損なうようなテーマがあてがわれやすい
さっきの写真の保税倉庫が好例




⑤経路の置き換え―建設チーム,近代化事務局



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建設チーム=1名声点と3粘土を得る。小道1枚を道路1本への無料で置き換える。
近代化事務局=1枚以上の道路と隣接していて、印刷済の小道の置き換え数が0/1/2本のとき、4/6/8名声点を得る。

ややこしい記載だが、「無料の置き換えボーナス」と「置き換え回数に応じて得点」と記してある

本作、すでに配置してある小道を無料で除去でき、別なタイルを敷くことができる
普通に1手かかるし、建設コストも正規で支払うので基本的に手損
「どうしても起動効果を得たい人用の救済措置」って感じだったが
この2枚をはじめとして、Cデッキは置き換えを意識させるカードが多い

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馬車停留場=2枚以上の道路と隣接していて、かつボード上に小道より多くの道路があるなら、4金と3名声点を得る。
計画開発局=1枚以上の道路と隣接しているなら2粘土を得る。ボード上の最も種類の少ない経路1枚ごとに1金を得る。
鉄鋼会社=小道と隣接していないなら、持っている鉄2個につき1回、鉄1つを4名声点に交換できる。
工業用住宅=2枚の道路か2枚の線路か2枚の運河と隣接している建物1枚につき1名声点を得る。

上記は小道を別な経路に置換させる方向性の4枚
フレーバーとしては小道=未舗装の生活道路であり、小道をより機能的な道路に作り変えるCデッキでプレイヤーが担うのは「近代的で計画的な設計、効率的な都市計画」って感じ
「計画開発局」「近代化事務局」など、建物名と挙動が合致していて好印


⑥フル起動欲をあおる―中間鉱石倉庫,鉱石加工会社,鉱石貯蔵所


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中間鉱石倉庫=1回目の起動で4鉱石を得る。2回目の起動で2/4鉱石を支払い、7/10金を得る。
鉱石加工会社=2道路と隣接するとき、1/2回目の起動で、4/1鉱石を支払い、8名声点を得る。
鉱石貯蔵所=2線路と隣接するとき、1/2回目の起動で、3/5鉱石を支払い、4/12名声点を得る。


建物は、
・経路4枚で囲い切る
・橋2個と接続する

で起動する
全建物中、ざっくり半数が2回起動はできない
(両プレイヤー合わせて橋は12-14本。建物11枚建てて6橋取れたとしたら、5-6枚のみ起動)


「建てたからには全部2回起動させたいよね
でも全部起動させる手数は用意されてないよ」

と欲求を煽る構造なのだが

この3枚はさらに、

「建てたからには2回目の起動までいけると本当にお得だよ」

と煽っている
このゲーム、感想戦で、
「なんでなんだろ、鉱石が大事なときにいつもちょっと足りなくなる
全然使ってるつもりないのに」

とクレカ浪費マンのような台詞が発せられがちなのだが
この3枚をはじめとした高効率カードの起動コストが軒並み鉱石で、そこで支払っている影響が大きいと思われる



(6)総評

ウヴェの傑作群と比べてしまうのはやや荷が勝つが、見るべきところのある良作だと評価する
1-2人用というレンジの狭さ
カードの強弱がややラフ

この2点は明白な短所
ただ、アルルの丘(2014)紅茶と貿易拡張(2017)(2人専用のアルルの3人戦拡張)のように、人数を増やす余地もある

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Fields of Arle: Tea & Trade (2017)

シュピールヴォルクス社がもし売上に対して手ごたえを感じているなら、そういった拡張も出され得ると思われる



Web キャプチャ_10-3-2023_19225_boardgamegeek.com

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ウヴェ・ローゼンベルグへの、オーディンの祝祭についてのインタビュー

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【翻訳に至った経緯】
オーディンの祝祭(2016)はローゼンベルグの最高傑作の一つ
アグリコラ(2007),カヴェルナ(2013)と並べて、筆者が勝手に重量級3部作として捉えている

オーディンの祝祭を先月買って、ここ1か月寝食も仕事も忘れて没頭している
以下のような所感を抱いている
「この魅力は何だろう
この人はなんでこんなに楽しいゲームが作れるんだろう
元々アグリコラのファンだったから、ローゼンベルグは天才だとは思ってたけど、オーディンはヤバい
この快感はすごすぎるだろう
人間の作れるゲームの域を超えてるんじゃないか」

強い驚嘆を感じたので、本記事を探してきて和訳した

2017/10/25に投稿された記事の翻訳
2016年のエッセンシュピールでの録音を書き起こしたものとのこと
https://lestmyopinions.com/2017/10/25/an-interview-with-uwe-rosenberg/


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A Feast for Odin (2016)
Designer Uwe Rosenberg
Artist Dennis Lohausen
Publisher Feuerland Spiele + 11 more


――――
※意訳・改変行っている



2016年のエッセンにローゼンベルグが持ち込んだのはオーディンの祝祭でした
このゲームの成り立ちについて教えていただけますか?
思いついた瞬間はどうだったか?
このゲームのコアの部分など?


どこから話そうか
まず、オーディンの祝祭はヴァイキング(中世の北欧の海賊)のテーマなんだけど
ヴァイキングというテーマに、ここ最近魅了されていたんだ
というのも、歴史的にみて、たくさん切り口があるから
多重にレイヤーを持っている豊かなテーマだ
彼らの陸地での生活にフォーカスしてもいい
あるいは、海上で起こった出来事を取り上げてもいい
こういうテーマには、たくさんのアイディアを詰め込むことができる

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ヴァイキングのドラゴン船

でも、オーディンの祝祭がどこから来たかというと、始まりはそこじゃないんだ
ヴァイキングテーマが起源ではない
一番最初にあったのは、意外と感じる人が多いと思うんだけど、アグリコラについて再考していたんだよ
アグリコラを仔細に観察して、どの部分を変えることが可能か検討した

アグリコラでは収穫フェイズがある
そこでワーカーに対して食料の支払いをする
でも、アグリコラではお金の概念がない
お金の代わりに栄養的な価値を持った商品、食料に変換できる資材を用意している
羊なら2食料、猪なら3食料分に該当する
この食料の部分のUIを良くしたい(もっとtangible/タンジブルにしたい)と考えたんだ
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Agricola(2007)


アグリコラでは、食料支払いは、あくまで単なる支払い処理なんだ
「3ワーカーだから6食料必要なんでしょ
だったら羊3頭で払っときます」

って
でもさ、もし羊が1×2の大きさのタイルだったとしたら?
で、イノシシは1×3のタイル
で、食糧トラックをそのタイルで埋めて支払いする
ってなったら、面白くない?
どのタイルを払えば支払いが足りるかパッと見でわかる
羊やイノシシがどれくらいの価値を持つのかが可視化される
これは絶対面白いって思ったんだ

これだよ、やったよって
こうしたらもっとタンジブルだ
タイルを手に取って動かして、目で見て理解できる
プレイヤーは間違いなく夢中になる
ヨコ長の食卓があって、そこにその晩食べる食料を並べる
羊タイルや猪タイルを
FeastForOdinFeast
ヨコ長の饗宴テーブル

これがオーディンの祝祭の、最も古いアイディアだよ

ただ、これだけじゃゲームにはならないよね
メカニズムですらないし

そこからアイディアを広げていった
まず、
「同じタイルを2個使いたい場合は向きを変えないといけない

というルールを作った
5×1の強力なタイルは、食卓を5マス埋められるけど、2個目を使うなら向きを変えないといけないから、1マスしか埋められない
だから、どうにかして2個目のタイルを同じラウンドに使わないようにプレイヤーは工夫する
このルールを導入したときに、
「どうせ向きを変えさせるなら、1×5とか、細長いのにこだわらないでいいじゃないか
3×5とか、もっと分厚いタイルを用意しよう」

と考えるようになった
動物が育つとか、繁殖するとか、そういうことが起きてタイルが分厚く育つ
とりあえずパズルタイルを用意して、トラックを埋めて遊ぶゲームを作ってみた
そこで、さっき話した、元々温めて調べていたヴァイキングテーマを乗せることにした
ヴァイキングは陸地や海から、様々な商品を持ってくるからね

この時点でプロトタイプの概観が決まってきた
ただ、まだゲームとしてはスカスカだよね
食料支払いしか要素がなかった
食料支払い以外でのタイルの使い道ってなんだろう?
答えは明快だった
たくさんタイルがあるなら、碁盤の目状のグリッドボードを埋めればいい
この時点で、ヨコ方向だけの1次元から2次元に思考がシフトした

「パズルゲームを作ろう」というアイディアに着地したんだ
・パッチワーク(2014)
・コテージガーデン(2016)
・オーディンの祝祭(2016)

あとまだ世に出していないプロトタイプが2個ある
これら5作品は全て、「ボードをポリオミノのパズルで埋める」という同じコアメカニズムを持っている
全部、この瞬間に生まれたんだ
※インディアン・サマー(2017)とスプリングメドウ(2018)だと思われる

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Cottage Garden(2016)

オーディンはだんだんとゲームの形になっていった
程よく悩ましく、楽しい
気持ち良い
そういうパズルを作った
ボーナスマスの周りを埋めきることで報酬がもらえる
そういう、適度に難しいパズルとそれに対する報酬を用意した

タイル配置ゲームを作る上で無数のアプローチ法を見つけた
なかでも気に入っているアイディアは、
・タイル自体に獲得コストを書き込む
・グリッドボードに対角線上に収入を記載する
という2つの方式だ
この2つともを同じゲームに入れるのは難しかった
だから、タイルにコストを書き込むルールはパッチワークで採用した
また、グリッドボードに収入を記すのはオーディンで取り入れた
オーディンの収入の概念には思わぬ副産物もあった
というのも、どこからパズルを埋めたらいいかの指針をプレイヤーに与えてくれたんだ
収入メカニクスとグリッドボードが加わったことで、オーディンはにわかにゲームらしい形を得た
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タイルが敷き詰められた個人ボード

以上がオーディンができあがる顛末だ

オーディンができあがるプロセスは、僕の設計のなかではちょっと特殊だったと思う
「食卓にタイルを並べる
触って楽しい、見てわかりやすいタイルを使う」

という最小構成が決まった段階で、このメカニクスでいける、と判断した
だからすぐにテーマを探し、ヴァイキングテーマをあてがった
そのあとで、補完的なサブメカニクスを作って、全体をなじませていった
テーマとメカニクスの接続をよくしていった

こういう風にアイディアが進展するのは僕のなかではあまりないこと
いつもの僕のアプローチはもっとアブストラクトだ
メカニズムの段階で、もう少し時間をかけて練り上げる
プレイをencourageする(勇気づける)ようなメカニズムを、時間をかけて構築する
抽象的なノンテーマの構造としてしっかりと成立させてから、テーマを与えて統合させていく
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オーディンの祝祭は、アグリコラに立ち返って再考することで構築した
という発言がありましたが、そういう設計方式をよく取っていますか?

アイディアをすぐにひらめくことができない
だからいつも考えている
ひらめいたものを形にして、細かい部分を変えながら、調整していく必要がある
少し変えてみて、その変更によってどんな変化が生じたかを見る

また、昔のやり方だけど、新作をプレイするのもいい
他のデザイナーの新作を遊んで、何が自分にとって気に入らないかを追求するんだ
「自分だったらこうしただろう」
ということを掘り下げて考える
で、実際にその部分を変えてみて、ゲームを作ってみる

でもこのやり方は過去のものだ
昔は尋常じゃない数の新作をプレイできていた
でも今僕は4児の父親で、それは物理的に無理だ
(インタビュー時点で47歳)
また、新しいものを発見できなくなりつつある
他のデザイナーのゲームから何かを学ぶのが難しくなっているんだ

だから最近は、自分の過去のゲームについて考えることが増えた
さっき言ったオーディンがそうだよね
「アグリコラの収穫フェイズの動きがもっさりしている
もっと洗練されたかたちはないか」

と考えて、タイル配置のメカニクスを思いついた
こういう風に、過去のゲームのあちらこちらを改変するやり方を取っている
自分の作ったゲームの、それぞれの細かい部分がどうなっているのか
各メカニズムが組み合わさって、ゲームとして統合し、機能しているのか
そういったことを理解することで、ゲームのメカニズムの深い部分にまで手を突っ込んで、探索することができる

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ゲーマーはライト層とヘヴィ層に大別できると思います
ローゼンベルグは、ヘヴィなものも作れば、比較的軽いものも作ります
軽ゲーと重ゲーでは、何か別なアプローチを取っていますか?

結論から言うと、僕は本質的には重量級ゲームに強みを持つデザイナーだよ

たとえばライナー・クニツィアのゲームについて、
これはライナーのゲームだ
でもこっちはクニツィアのゲームだね

っていう風に言われることがある
重いのと軽いので、まるっきり味付けを変えて出しているわけだ
※Reiner's game なるものは軽ゲーで、Knizia's game なるものは重めのゲームなのかもしれない
なお、筆者はそんな言い回しを聞いたことがない

僕はそういう技能を持っていない
軽いゲームを仕上げることへの職能を有していないんだ
自分は本質的には、大箱ゲームのデザイナー
そこに強みがある
ただ、自分の手がけたメカニズムを、とてつもなく長い時間をかけて触っている
だから、それについて誰よりも多く知っている
そのノウハウ・経験の蓄積があるから、1つのメカニズムをヴァリエーションを変えていくつもの作品に変奏することができる

上のようなやり方じゃなくて、もし僕が一からファミリーゲームをつくろうと思ったら、たぶんうまくいかない
だって、そういうゲームを面白いと感じるセンス・感覚をそもそも僕は持っていないから

重量級のコアメカニズムを用いて、普段出しているゲームよりもっとシンプルなかたちで再構築する、という方式を取れば、よりシンプルなゲームを僕は上手く作ることができる

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プレイをencourage(勇気づける)メカニズム、についてもう少しお話いただけますか?
何か
具体例など?

初めてサンクトペテルブルク(2004)をプレイしたことを今でも思い出す
あまりに感動して、プレイ後10分もしないうちに、このゲームを購入していた
すごい、ウォアwhoaな瞬間だった
だって、これまでこんなゲームはなかったから
そういう、サンクトに始めて触れたときのようなウォアな体験は、自分のゲームデザイン中には生じない
だって、完成品として構築できていないものを触るわけだから
・メカニズムができてくる
・それにテーマを加える
・馴染ませて発展させる
どの過程においても、そこに熱狂はない
情熱の爆発/
熱烈な体験はない
ただのプロセスだ
ただ、オーディンについては例外的な順序で作ったから、普段よりもいくらか心躍ったかもしれない
最初に得られた着想に、後からいろいろなメカニズムを付け加えていったわけだから

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Saint Petersberg(B.Brunnhofer, 2004)

ゲームデザインは錬金術に似ていますか?
いくつかの素材や触媒を鍋にぶち込んで、「純金に錬成できないかな」と祈るような体験ですか?

僕は手工業/craftに似ていると捉えている
たくさん経験を積むほど、本能が研ぎ澄まされる
僕が他者よりゲームデザイナーとして優れているのは、「このアイディアはダメだ」と気づく、判断の早さだと思う
天才的に悪いアイディアをたくさん思いついてしまう、という欠点もあるけど、それを破棄する早さもまた随一だと思う
いいアイディアが出るまで、捨て続けるしかない


あなたはコメントしました、多くのゲーマーは家族を持つ運命だと
そして、ゲームができる時間が短縮していっていると
でもあなたは毎年エッセンシュピールに来ます
これまでのエッセンでの体験について何か話してくれますか?

そうだね、まずエッセンでゲームをプレイすることが減ったね
15年くらい前、エッセンは僕にとってゲームをプレイする場だった
当時は会場でプレイして、さらに滞在先のホテルでもやっていた
でも今では、回復期間を設けないと保たない
それに、今ではエッセンは僕にとって、ゲーム自体をするよりも、友人と会って話す時間を優先する場になっている

ただ、良いこともあって、ここ最近は、かつてよりもたくさん、楽に作情報を仕入れられるようになった
ポッドキャスト、YouTube、動画がたくさんあるからだ
新作の情報をキャッチアップすることができる
こういった情報のおかげで、新作について興味を持てそうか、そうでもないかという取捨選択がはかどる
もちろん、今回のエッセンでも10タイトルくらい、個人的注目チェックリストがある
ただ、実際にフェアが終わってみないと、注目に値するものだったのか、つまらない凡作だったのかはわからない

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ローゼンベルグが「このゲーム3㎏あるんだぜ!」とはしゃぐ写真
かわいいね

最後の質問です
今年、あなたはフォイアーラント社の人間として来ています
・ゲーマーサイド
・デザイナーサイド
・出版社サイド
様々な立場としてエッセンシュピールを見てきたと思います
エッセンシュピールはここ数年で変わってきていますか?
より専門的な方向性が強まりましたか?
それとも、ゲーマーに指摘されているように、新規参入者の殺到の方が顕著ですか?

まず前提として、僕は大箱ゲームのデザイナーだから、話題を大箱だけに限定する
パブリッシャーとして入ったことで、気づいたことが何点かある

事実として、デザイナーの数はここ数年増え続けていて、質も高まってきている
学習・発展し、より良いゲームが作られるようになってきている
コミュニティのなかで相互影響しあっている
希望的観測だが、ゲームデザイナーのコミュニティ全体がある種の方向性を持って、年々発展・成長していたら良いな、と感じる

僕は本当にすごいゲームにしか興味がない
しょうもないゲームや、ギリギリまあOK、くらいのレべルには興味がない
この先2年くらいは、いいものも悪いものもいっしょくたにされやすい時代が来るかもしれない
名作と駄作を分かつものはなんだろう?
それを理解したいと考えている
ゲームそのものを、より抽象的に、哲学的に考えてみたいんだ
かなりの数のデザイナーも同じことを考えていると思う

テストプレイの改善
分析眼の向上

こういった諸条件の改善を加味すると、この先数年のあいだ、
より洗練されたデザインの、構造がまとまったゲームが増えると思うよ
ある種の予言みたいだけど

ゲームデザインは黄金時代に差し掛かっている、と考えますか?
さらに良くなっていくと?

今黄金時代にいるとしたら、自分の置かれた状況を認識するのは難しい
わからない
ただ、さっき言ったような直感があるんだ
もしこの先5年くらいで僕の言ったことが当たっていたら、
「ほら僕がいったじゃないか」
ってそこかしこで言うよ

このインタビューを受けてくださってありがとう
いつか、もっと多くゲームをプレイできる時間が取れるといいですね
それと、会場ではすごい注目度ですね
たくさんの人があなたと話し、写真を撮ることを求めています

実際、今年は一番忙しかった
エッセンは楽しいんだけど、正直ちょっと僕には荷が重い
普通にホールを見て回りたいんだよ
だから、おおっぴらににこにこ愛想を振りまかないように気を付けている
だって、自分がすごくワクワクしてるって気づかれるのがイヤだから

僕のことを気づいてくれるのはgreatだ
挨拶される
賛辞を受ける
こういったフェアでは、いつも圧倒される
そういった熱狂を離れて、家に帰って、ゲーム制作の仕事に戻ると
とりあえずそういう楽しい思い出を忘れて、いったん距離を置かないとならない
仕事にならないからだ
ただ、フェアでの体験は力もくれる
上手くいかないとき、行き詰まったときは、会場でかけてもらった言葉を思い出して糧にしている

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【後記】

本当に素晴らしいインタビューだった
無数に切り口のある豊かな内容だが、筆者にとって個人的に有益だったのは、彼がなぜパズルゲームを連発していたのかを理解できたことだった

パッチワーク(2014)からこっち、ポリオミノを用いた似た作品ばかり連発して、正直不気味に感じていた
「ポリオミノが彼のマイブームなのかな
どれも面白いからいいけど
でもなんなんだろう
謎だな、怖いな」

と、若干筆者は引いていた
本記事を通して、当時のローゼンベルグが何を考え、何を体験し、何を作ろうとしていたかを追うことができ、大きな満足を得た

【黄金時代】

ローゼンベルグは、2016年時点で、
「この先数年はボードゲーム市場は黄金時代を迎えるかもしれない」

と予想していた
2016-2020年において、ウヴェの予言が当たったのだろうか?

本節では思考材料となりそうなデータをいくつか挙げる
判断は読者に委ねて記事を終えることとする


ゴールデン・ギーク・アワード(BGGのファン投票)の大賞:
2016 サイズ:大鎌戦役
2017 グルームヘイヴン
2018  Root
2019 ウイングスパン

エッセンシュピールの来場者数:

https://en.wikipedia.org/wiki/Spiel

2011 147000
2012 149000
2013 156000
2014 158000
2015 162000
2016 174000
2017 182000
2018 190000
2019 209000 (参考:2019秋ゲムマは29300)
ざっくり10年で150%に増加

キックスターターの成功数:

https://www.polygon.com/2019/1/15/18184108/kickstarter-2018-stats-tabletop-video-games

2020-05-12 (3)
2012年の900例→2018年の3300例、6年で350%に増加
(テーブルトップゲーム、カードゲーム、その他カテゴリも含む)


2020-05-12 (6)
テーブルトップゲームとビデオゲームの成功数比較
テーブルトップは4年で250%に増加
反面、ビデオゲームは横ばい~漸減で推移

ボードゲームの市場規模:

https://www.statista.com/statistics/829285/global-board-games-market-value/
2020-05-12 (1)

2019/8時点での試算
7.1兆ドル(2017)から、12兆ドル(2023)まで、7年で170%程度まで伸びると予測されていた
リンク先の適当な別のページを開くとわかるが、他の多くの市場はここまで顕著な伸びを見せていない


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テラミスティカ(2012)は時代を切り開いた傑作

カタン(1997)プエルトリコ(2002)もそうだと思うが、テーブルゲームの歴史のなかで、他を圧倒する傑作、金字塔、まぎれもないマスターピースがある
登場以前/以後でガラっと時代の空気を変えてしまうような
転換点、基準点となるような
そういう奇跡的な作品が、10年に一度くらい現れる
テラミスティカはまさにそのたぐいの傑作だ
同作の成り立ち、舞台裏について本記事では掘り下げる

―――
(1)1998-2010年 構想と迷走
(2)2010-2012年 転換点―ウヴェ・ローゼンベルグとの出会い
(3)2012年‐現在 フォイアーラント・シュピーレ(テラミスティカの出版元)の設立と後日譚

考察
(1)ハンスは金の魚を逃したのか?
(2)フォイアーラント社とローゼンベルグの関係性
(3)テラミスティカフォロー作品群と「建て替え」
(4)サイズ:大鎌戦役のプロモーションとテラミスティカ



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Terra Mystica (2012)
Designer Jens Drögemüller, Helge Ostertag
Artist Dennis Lohausen
Publisher Feuerland Spiele + 14 more


(0)構成など
素材としたのは、
①ヘルゲ・オシュテルタークへのインタビュー
https://blog.tabletopia.com/helge-ostertag-interview/

②BGGの同氏のデザイナーノート
https://boardgamegeek.com/blogpost/12287/designer-diary-finding-way-terra-mystica

③フォイアーラント・シュピーレのHP
http://www.feuerland-spiele.de/en/verlag.html


上記を再構成し、1つの記事とした
意訳、改変行っている

上記記事の1つの和訳に上杉カレー/I was game氏の、
https://iwasgame.tumblr.com/post/94340602801/%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AB%E3%81%B8%E3%81%AE%E9%81%93

があります

本記事を訳しているときに、
「あれ、これ絶対どこかで読んだぞ、でも自分で訳した形跡がない…」

と不思議に思っていたが、ちゃんと調べると先行訳が存在した
ちょっともうろくしている

記事をアップすべきでないかとやや悩んだが、内容が多少異なるし、まあいいんじゃないかと判断し、いったんアップすることとした
何か問題等起きれば削除すると思われる



―――以下本文―――


僕(ヘルゲ・オシュテルターク)は芸術療法家で、今はドイツ、フランクフルトの心身医学系の病院に勤務している(2016年現在)
兼業デザイナーだ
日中の仕事は、たくさんの人と会う
彼らは多様で、とても興味深いよ
カホン(木箱型の打楽器)を趣味で習っている

テラミスティカをいつ作り始めて、どのようなプロセスをたどったのかをここでは話す

時は1998年にさかのぼる

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(1)1998-2010年 構想と迷走


1998年、マックを買った
PCゲームをいくつか触って、古いタイプの4X系(探検,拡張,開発,殲滅)のゲーム、スペ―スワード/Spaceward Ho!に出会った
それにはハマったし、「宇宙に入植する前には、まずテラフォーミングしないといけない」という原則を学んだ
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Spaceward Ho!
ガイアプロジェクトをほうふつとさせるゲーム画面

テラフォ―ミング→入植というメカニクスは最高だと思った
そのころ僕の兄弟のアンセルムも、ボードゲーム制作を始めるんだけど、彼もテラフォ―ミングを主軸に据えたメカニクスで設計していた

同時に、カタンの開拓者(1995)が登場し、流行っている時代でもあった
だからカタンもとにかくたくさんプレイしていた
カタンをやっていれば、そりゃ自然とモジュラー方式のボードに親しみを覚えるようになる
カタンとスペ―スワードを合わせたような、
モジュラーボードでテラフォ―ミングをやるゲームを作って、家族や友人とテストした
そしてフライブルグの定例会に持ち込んだんだけど、「ミュンヘンでゲーム開発者の国際フェアがある」と聞いた
その国際フェアでパブリッシャーらに僕たちのゲームを見せることにした
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ミュンヘン,マリエン広場


我々の試作品はゴロド(ロシア語で都市)という
そこでハンス・イム・グリュック社の目にとまった
その後同社で何回かテストする機会を得たが、結局ハンスは出版しないと決定した
そこで、ゴロドの制作はいったん中止し、塩漬けとすることとした

1年ほど経ち、僕がブレーメンに引っ越してから状況が変わり、また再開することとなった
再開したのが2001年~2002年ごろだ
ブレーメンには学生の立場で、当時の学友にゴロドを見せると、みな気に入ってくれ、再度テストできる環境が整った
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ブレーメン,マルクト広場

当時のテラミスティカの原型は、まず地形が5種類しかなかった
最終的には7種類になる
また、地形に対応した5種類のファンタジーな種族もいた
それぞれ固有能力があるが、前種族が「できるだけ自分の部族を拡大させ、ゲームボード上に建物を多く建設すること」を共通目標としている
建物を建設するためには、まず地形をテラフォ―ミングする必要がある
自分の部族に適合した環境にしないといけないからだ
建物は、
・住居
・メイン建物(城塞?)
・寺院
の3種だった

リソースは、
・ワーカー
・お金
・アクションカード(オラクルカードと呼んでいた)

の3種だった
今のテラミスティカと比べると、建物の種類は少ないし、まだパワーサイクルがない
また、ラウンドブースターや都市ボーナスのタイルもない

テストプレイ自体は当時も常に楽しんでいたが、ハンス社からの拒絶を機に、
「どこが悪かったのか、何が拒絶の原因だったのか」
を真剣に考えるようになった
そして、
アクションカードは運要素が激しくしすぎる
このゲームになじんでいない

ということに気づいた
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当時のオラクルカード

まず必要なのは、オラクルカードの弱体化だった
さらに5個の地形から2個加え、7個にした
モジュラーの可変式ボードはいったんやめ、ボードを固定とした
建物の種類は増やしては減らした
それでも、出版できると判断できるまで至らなかった
僕はゴロドの制作はそこで再度置くこととし、今度は兄弟とPfifficus Spieleというパブリッシャーを立ち上げて、エッセンにブースを出した
2004年のことだ
ゴロドはまだ出せる状態ではなかったため、より小型のゲームを何個か出版した
Desperados、Kaivai、Guru などだ

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Desperados(2004)

Pfifficus Spieleは創業から4年やったが、僕は2008年に抜けた
というのも、「自分はパブリッシングよりもゲームデザインの方が好きだ」と気づいたからだった

2009年には、フランクフルトにほど近いエップシュタインに引っ越した
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エップシュタイン
やまあいの村、遠くには城址が見える

ここでゴロドを取り出し、ようやく完成版に近いかたちに至った
シヴィライゼーション(文明化)の要素をより強化することとした
建物を改築し、より文明的にする
各種族には文明化を補助するような能力を与えた
2009年、Spielewahnsinn Herneのアンドレアスとベルナデッテと会って、そこの定例会に入った
ゴロドを持ち込んだが、この段階でもオラクルカードは入っていた
7地形14種族だった
そこの会で2010年にデザイナーとパブリッシャーを呼んで、10日間にわたって集中してゲームプレイと試作品のテストを行う、というイベントが行われた


(2)2010-2012年 転換点―ウヴェ・ローゼンベルグとの出会い
2010年の10日間にわたるゲームイベントでウヴェ・ローゼンベルグと会った
ウヴェはゴロドをいたく気に入ってくれた
ウヴェは、
「ゴロドは将来的に出版まで持っていける作品だと思う
ただ、まだかなり改善の余地があるように見える」

と話した
「まず、オラクルカードは一度全部抜いてしまったらどうか
そして、7種族の違いをもっとハッキリさせた方がいい」

とインプットを与えてくれた
ウヴェも会場近くの友人宅に泊まっていたので、その10日間のあいだ、かなり集中してテストすることができた
そこでウヴェは、
・ジェンス・ドロゲミューラーJens Drögemüller
・フランク・ヘーレンFrank Heeren

の2人とも引き合わせてくれた
ドロゲミューラーは最初はテスターとして加わってくれた
のちに何度もセッションを重ねて、僕の方から「共同制作者にならないか」と誘い、テラミスティカの共同デザイナーとなった

フランク・ヘーレンはのちにフォイアーラント・シュピーレを立ち上げて、テラミスティカはそこでパブリッシュすることになる
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ゲームイベント中の1枚
左手前の上半身裸の男がオシュテルターク
右手前にウヴェがいる

最終調整はジェンス、フランク、そしてウヴェによる助力も大きかった

時期としては、メカニクスはほぼそろっていて、あとは全体を洗練させていく段階にあった
ジェンスが大きく寄与したのはパワーサイクルの機能調整と、最終的な種族能力の決定

ゴロドのころからの、
・テラフォーミング
・建設
・造船
・ヘックスマップ
・プレイヤーの個人ボード
・ボーナスタイル
・ラウンドブースター
・建設時の隣接ポイントのパワーボーナス
このあたりは、ほとんど僕単独の設計だ

それで、2010年からジェンスと2人での制作体制となったわけだが

2人体制の利点について少し話そう
共同制作の利点は大きかった
まず単純だが、同じゲームを違う角度からみられる
メカニクス、プレイ感、フィードバックを、すべて別々の視点からみることができる
さらに、テストするときも、特に召集をかけなくても最低2人のテスターが確保できている、というのも大きなメリットだ
とくにディベロップの初期の段階ではとても大きい
とにかくめまぐるしくルールが変わるからだ
こういう最初期の段階で、もし共同制作者じゃなくて、ヒラのテスターにテストさせるのは危険だと僕は考える
どうしても疲弊させてしまうし、申し訳なさがあるからだ

これは、ゲームデザインをやっている人へのアドバイスだけれど、テスターに見せる前に、できるだけたくさんの状況を想定してテストした方がいいと思う
というのも、その試作品が最低限ゲームのかたちをしていて、最後まで興味を持ってやり通せるレベルにある必要があるからだ

話を戻すけれど、ドロゲミューラーが加わってから、本当に長いテスト、テストを繰り返して、14種の種族と固有能力を決め、バランスを調整した
2012年に晴れてフォイアーラント社からパブリッシュした

あとは、テラミスティカについて考えていることをいくつか記す

多様なゲームだ
マップは固定だが、
・セットアップの配置状況
・他プレイヤーの種族選択

によって展開がガラっと変わる
このセットアップ時のドキドキは、本作がもっとも成功している部分だと思う
リプレイ性についても「とりあえずどの種族も1回は触ってみたい」と思うプレイヤーは多いだろう
そういう強いインセンティブが働く
さらに、もしもそれぞれの種族で上手くなりたいと思うなら、もっとリプレイを重ねてくれるだろう
また、マップの作りの良さも成功に寄与していると僕は考えるが、それについては過小評価されていると思われる


(3)2012年‐現在 フォイアーラント・シュピーレの設立と後日譚

フォイアーラント・シュピーレ社(テラミスティカの出版元)はウヴェ・ローゼンベルグの旧知の友人、フランク・ヘーレン/Frank Heerenによって2012年に設立された

ウヴェとフランクが出会ったきっかけは学生時代の地理の101クラスだった
ボードゲームという共通の情熱を持っていたこともあり、彼らは長い間友人であり続けた
ウヴェは、よく知られているように、すぐにゲームデザインを始め、ボーナンザ、アグリコラで大成功を飛ばした
フランクはプログラマーとなり、長い間''単なるゲーマー’’でしかなかった
しかし、2011年の終わり、テラミスティカがフランクに転機を与えた
ウヴェによってテラミスティカのデザイナー、オシュテルタークと会ったフランクは、ボードゲームの生産、出荷、流通を行うフォイアーラント・シュピーレを設立した
ウヴェのノウハウやコネクションは同社を大いに助けた
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―――


考察:
あまりまとまりがないが、いくつか思考を羅列し記事を終える

(1)ハンスは黄金の魚を逃したのか?

ゴロド(テラミスティカの原型)は、2000年にハンス・イム・グリュック社で何度かテストされたが、最終的に出版されなかった
この事実以上の何かを読み解くことはできないが、せっかくなので、2000年、という時期、時代性を少しだけ掘り下げてみよう
カタン(1997)は存在したが、プエルトリコ(2002)アグリコラ(2007)は影も形もない
テラミスティカは重く、能力非対称で、ゲーム中に個人能力が強化されていく
オラクルカードを見る限り、テスト当時は言語依存もけっこうあったと思われる

テラミスティカと同系統の重量級ゲームは今でこそよく見られるが、2000年時点はどうだったのだろう

現在流通している作品から類推するかぎり、あまり一般的でなかったと思われる
ハンスに見せた当時ではまだゲーマーのなかで、テラミスティカクラスのヘビーゲームが許容される素地が用意されていなかった可能性がある

(2)フォイアーラント社とローゼンベルグの関係性

ローゼンベルグはフォイアーラント社とどういう関係なのか
同社の人物紹介のページにはローゼンベルグががっつり紹介されているのだが、メンバーの一員だという記載は1文字もない
出資関係にあるかもけっこう調べたのだが、記載はない

推測だが、
「ウヴェとフランクは本当にただ仲の良い友達で、友情出演、箔付けのようなかたちでフォイアーラント社のHPに登場してもらっている」

と筆者は見て取る
情報ソースがなさすぎて、それ以外の見立てをしようがない

余談として、フォイアーラント社のその後も記す
設立当初はコネクションのあったウヴェの、
・グラスロード(2013)
・アルルの丘(2014)
・オーディンの祝祭(2016)

などを手掛けていた
また、テラミスティカの後継作、テラミスティカ:ガイアプロジェクト(2017)も同社の代表作

近年の同社はウヴェやオシュテルターク&ドロゲミューラー以外のデザイナーからなる、
・ローランド(2018)
・マグナストーム(2018)
・クリスタルパレス(2019)
なども出版している
新人デザイナーのディベロップの補助にローゼンベルグもつけて、「ウヴェ・ローゼンベルグ監修」として銘打ってシリーズ化もしている

ローゼンベルグのこの動きについても、「コンサルティング業で荒稼ぎってわけではなく、単に友人のよしみ、好意で助力していそう」
と筆者は見て取る
テラミスティカにまつわるエピソードも加味すると、「ローゼンベルグは、根本がゲーム好きで、好奇心旺盛で、面倒見がいいのだろうな」と感じる
ファンのひいき目かもしれないが

なお、日本ではテンデイズゲームズが同社と契約を結んでおり、一手に日本語版の翻訳・日本での流通を引き受けておられる



(3)テラミスティカフォローのメカニクス
「テラミスティカ形式の個人ボード」という用語がある
個人ボード上にある準備された建物を建設することで、盤面に影響できる
かつ個人ボード上で空白が生じるので、そこに記された能力や収入が解放される
という
1回コマを動かすだけで、2回美味しいことがある
一石二鳥で楽しい
とても理にかなったメカニクスなので、テラミスティカ以降、数えきれない数のゲームで流用されつくされている

・バラージ
・クランズオブカレドニア
・アクアスフィア
・ローランド
・サイズ:大鎌戦役
・タペストリー

など
テラミスティカフォローのゲームを作る際の難しさは、ジレンマを付与させにくい点にある
建物を建てると一石二鳥で美味しいのだから、プレイヤーは建物を建てまくって収入を増やしたいと思う
また、ゲームの構造として、序盤に収入を増やすのはどうしたって強くなる
ただ、勝利ルートがそれ1本になってしまうと、ゲームが有機的に機能しない

本家のテラミスティカ、およびテラミスティカ:ガイアプロジェクトは建て替えというメカニクスによって単調さを回避していた
上級建物に建て替えると特殊能力が付与されるが、かわりに下級建物で得られていたはずの収入は失うことになる
下級建物をメインで建てようとしても、建てるのに適した地形が不足して、テラフォーミングに余分なコストがかかってしまう
というような

この建て替えの設計は巧妙で、丁寧で、とても美しい

テラミスティカ方式の個人ボードはさまざまなゲームで取り入れられるが、建て替えのメカニクスはほとんどの場所では取り入れられない
(理由は単純で、建て替えはデザイナーにとってもプレイヤーにとっても、きわめて複雑だからだ
建て替えが起こるなら、建設をそのゲームの中心に据えるべきだし、そうなるとテラミスティカと差異化しづらい)


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テラミスティカ以外も少しみてみよう
たとえばバラージ
バラージでは、建て替えと別な方法でジレンマを生じさせている
・収入は必ず同種2個以上作らないと得られない
発電所(最も強力な建物)では収入が得られない
の2点だ
同種2個作るには、特殊技術タイルやジョーカータイルがないとできない
また、発電のことを考えると非効率的な場合も多い
発電システムを1セットだけ作るなら、各種1個あればいいからだ
「収入がほしい
そのために、本来必要でない建物だけど、もう1個建てたい
でもそうなると発電が遅れてしまうぞ」

という
そういう悩ましさがバラージの魅力だ
効率が悪い動きをあえてやらないと、収入を上げられないようになっている

少し余談になるが、ワカプレのメカニクスも、バランサーとしてとても良く機能している
建設だけ/発電だけをやろうとするとワーカーをたくさん消費してしまうのだ
1ワーカーあたりのアクション効率だけを考えると、建設も発電もほどほどにやっていく必要がある
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クランズオブカレドニアも、テラミ/ガイアフォローの代表作だ
クランズもまあ、とにかくコマを場に出して収入を増やすのが王道
テラミのような建て替えがないから、出せば出すほど強くなる
「序盤は足作って終盤バーン」的な、一本道の単調な展開になりかねない
ともすればバランス調整が難しい設計なのだが、クランズでは「終盤になればなるほどVP効率が悪くなるという調整で、単調さを回避している

勝利点を得るためには契約タイルの予約が必要なのだが、序盤は+5金もらえるのが、最終盤は1枚15金払うハメになる
収入が50とか60金しかないゲームなのだが、差し引き20金かかってくる
また、ラウンド中は契約タイル補充がないので、最終盤では、高価な契約タイルを死にもの狂いで奪い合うハメになる
ゆえに、ゲームに慣れてくると、
「ほんとは最終盤の5ラウンド目だけに向けて足を作りたい
でも、4ラウンド目くらいから得点化してかないと間に合わない
いや、場合によっては3ラウンド目の途中くらいからでも契約達成を意識しないと」

と、メタ的な思考が生じてくる

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(4)サイズ:大鎌戦役のプロモーションとテラミスティカ
サイズ:大鎌戦役は、筆者の知るなかで最も成功したキックスタータ―だ
17000人以上がバッカ―となり、2億円を売り上げた
すでにワイナリーの四季やユーフォリアは手がけていたが、サイズ:大鎌戦役を出した当時、ジェイミーとストーンメイヤーは今と比較すると無名に等しかった


サイズのスマッシュヒットは偶然だろうか?
革命は狙わないと起こせない
成功の裏には理由があると見て取るべきだと筆者は考える
間違いなく一定の勝算があっての仕掛けだ
サイズ:大鎌戦役のキックのページは、素材としてとても勉強になるのだが、本記事では冒頭の説明文を引用する

――サイズのルールとPnPファイルをチェックしてみてくれ
そしたら、テラミスティカのエンジン構築システムと、ケメトの決定論的な戦闘システムをブレンドしていることがよくわかるだろう

この紹介のあとに、引力を持ったヘックスマップと美麗な個人ボードがバーンと出てくる

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読み手は引き込まれる、

「このアートワーク
パラレルワールドの20世紀初頭
東欧!
この世界観でテラミスティカができるのか!!」

と、そういう欲望の誘導があった

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この売り文句とアートワークを見せられたら、そりゃ飛びつかない方がおかしい
誰だってこのアートワークでテラミスティカしたい

サイズの上手い部分はここだと思う
サイズのガワはテラミスティカに似せられているが、メカニクスを微細にみると、テラミスティカとはまるっきり異なっている
サイズと最も似ている作品は、マック・ゲルツの古代(2005,Gerdts)

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サイズのアクションの魅力を一言で表すなら、
「連続アクションができない個人ボード上で、いかに効率よく動き続けるか」
にある
この縛りはロンデルとほぼ同じと言って良い
サイズの個人ボードは、ジェイミーによる変則ロンデルと筆者は捉える
エンドトリガーが6個の小目標達成なのも古代からそのままの流用だ

古代もサイズも、それぞれがオリジナルな魅力を持った傑作なので、基本骨格が似ているのは構わない
また、古代とテラミスティカを比べると、どう考えてもテラミスティカの方が売れ筋だ
ゆえに、キックのプロモーション的の売り文句にテラミスティカフォローを謳うのは理にかなっている
恨み節を言うのははばかれるが、ジェイミーが古代とサイズの関連性について触れた記載をいちども見たことがないので、なんというか、ちょっと寂しさがある

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ヌースフィヨルド
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ローゼンベルクの2017年の新作
とてもバランスの良い軽~中量級
筆者はとても好きになったので、本記事で細かく掘り下げていく

目次:

(A)テーマ
 (1)おおまかな魅力
 (2)テーマ
 (3)歴史
 (4)背景知識
 (5)人数/時間

(B) メカニクス
 (6)どのようなプレイヤーに勧められるか
 (7)プレイ感
 (8)株要素
 (9)長老アクション
 (10)給仕のインタラクション
 (11)短所

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Nusfjord (2017)
Designer Uwe Rosenberg
Artist Patrick Soeder
Publisher Lookout Games + 4 more

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(A) テーマ

(1)おおまかな魅力
とても軽いながらもしっかりやった感のある、とてもバランスの良い良作
既プレイであれば3人戦で1時間程度
短いのに、終えるとけっこうな充実感、ちょっとした重ゲーをやったときくらいの満足感を得られる
建物カードが3デッキ、累計100枚以上あるので、ある程度のリプレイ性がある


(2)テーマ
フィヨルドとはノルウェー語で、氷河に侵食されてできた、入り組んだ湾岸の地形を指す
ノルウェーにはロフォーテン諸島という観光・漁業エリアがある
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地図でいうと相当北のほう
そこで最も歴史が古い漁村がヌースフィヨルド
プレイヤーは漁村ヌースフィヨルドの有力な一家となる
森を切り開き、材木を集める
漁船を編成して、魚を捕る
外貨を稼いで建物を建てて、漁村を繁栄させていく


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ロフォーテン諸島の風景
このアングルから撮るのは人気らしく、ググると箱絵と同じ構図の写真が大量にみられる

(3)歴史
ヌースフィヨルドの歴史は古く、中世の昔にさかのぼる
当時からタラとニシンの漁業基地として発展した
精油所や燻製工場などの加工工場もたくさん擁していた
1800年代半ばにはその最盛期を迎えた
本作はその時代を描いていると思われる
漁村として長く栄えたものの、2005年の強風の影響で漁業の中心地を移転せざるを得なくなった
ヌースフィヨルドはあわや廃れ、衰退していくかと思われたが、ノルウェー政府は当地を観光資源として活かすことに決定
今では文化遺産的な立ち位置で、国内外で人気の観光地となっている
(裏がとれておらず、誤情報を含む可能性がある)


(4)背景知識など
適宜読み飛ばし推奨

・ロフォーテン諸島
ヌースフィヨルドを抱えるロフォーテン諸島は自然が豊富
タラやニシンだけでなく、海鳥やヘラジカもいる
またサンゴ礁も発展している
山と入り組んだフィヨルドが名物で、海のアルプスと呼ばれる景勝地
今でも1~4月は漁がさかんな時期で、各地から数千もの漁船が集まる

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タラを抱える漁師

・ノルウェーの赤い家
ヌースフィヨルドの表紙絵にもあるが、北欧には赤い外壁の家が多い
これはかわいらしさを狙っただけでなく、実用性も兼ねている
木材にベンガラ/Indian redという塗料を塗りこんで作っている
ベンガラはインドのベンガル地方原産で、酸化鉄でできている
木の耐久性・対候性を上げ、防腐効果もある
日本でも土器や建材に昔から用いられている
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山と海と赤い家
とてもよく映える


ゲーム中に登場する船舶:
いずれも蒸気機関・熱機関が導入される前の時代の船
キャットボート1本マストの小型ボート

スループ船1本マストの船

カッター船
1本マストの船
スループ船とはマストの位置が異なる
帆走もできるが、基本手でこぐ

スクーナー船
マストが2本以上ある帆船
遠洋に行ける
小回りが利くため、沿岸部での輸送もやれる



(5)人数、時間
人数:1~5人 (BGGベストは1or3人)
目安時間:
既プレイ=人数×20分
初プレイ=人数×40分


(B)メカニクス

(6)どのようなプレイヤーに勧められるか
重量級の楽しさを短時間で
筆者にとってヌースフィヨルドの最大の魅力はそこにある
料理でいうと、2~3時間級フルコースのおいしさ・ぜいたく感を、お求めやすい価格で再現
ヌースフィヨルドには、そういう安くて美味いレストラン的な良さがある
プレイ時間はとても短いが、基本骨格は重ゲーだ
ローゼンベルクの重ゲーシリーズと大差ない顔つきをしている
建物カードのテキスト量はけっこう多い
魚コマの動き方も少し複雑だ
個人のストックと倉庫が別にあり、リソースの管理も単純ではない
ゆえに、「重量級がほんとうは好きだが、1時間級の回しやすいゲームを探している」という方には強く勧められる
重ゲー好きにとっては、重いものと遜色ない面白さを1時間で回せる
非常に魅力的なゲームだ
ただ逆に、「重量級ゲームの要素の多さや複雑さがあまり肌に合わない」という場合は、強くは勧めづらい

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(7)プレイ感
7ラウンドのワーカープレイスメントだ
増員はなく、全ラウンド3ワーカーを用いる
必ず21アクションで終わる
例外はない
ボーナスアクションもほぼない
メカニクスとして面白いと感じたのは、魚資源をめぐる株要素と、長老の扱い
次の項で少し細かく取り上げる


(8)株要素
株はゲームに導入されやすい
面白いので
相当な脱線となるが、一般的な株要素について本項では掘り下げを行い、ヌースフィヨルドの例について論じる

株式の定義は、株式会社の構成員の特権のこと
株主は資金を支払い、権利を買っている
株券発行者は、資金をもらうために権利を売っている
では、どういった権利か
筆者は以下の3権利に分解して理解している

(1)アクション権の移譲 (アクションの権利)
(2)配当金の分配 (配当を得る権利)
(3)市場価格の上下 (権利を売買する権利)

いいかえると、
・株式会社の経営決定に口をはさむ権利
・会社の報酬から配当金をもらう権利
・上記の2権利を、他者と売買する権利
この現実世界における3種の権利のやりとりをゲーム上でやるのが株ゲームだと筆者は定義する

ただ、3要素すべてを盛り込むかどうかはゲームによる
3つ全部盛り込んでいるのが18XXシリーズインペリアル
株を中心にした重ゲーであれば3つそろえても良いが、いささか重すぎる感はいなめない
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インペリアル
株+陣取り 
運要素がなく、交渉も必須ではないが、濃厚なインタラクションがある

ライト化するために、1つの要素だけを抽出したような作品も多い
少し脱線するが、いくつかの株系ゲームを触れておく


①1920ウォールストリート:市場価格のみの例
1920ウォールストリート(2017)市場価格の上下だけに着目している
ロンデル形式のボード上で、
・株券の購入/売却
・市場価値の操作
を繰り返して、資産を増やしていく
シンプルな佳作だ
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②箱庭鉄道:アクション権+市場価格のミックス
箱庭鉄道(2017)は、配当金の概念をゲームから除外している
配当金の複雑な計算がまったくない
お金の概念が存在しない
そのおかげでとても見通しが良くなっている
(ただし、見通しが良すぎるおかげで、非常に激しいキングメーカー問題、という別な弱点が生まれてしまっている)
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③蒸気の時代 逆株券ゲーム
ワレスによる蒸気の時代(2002)は、これまでの作品と真逆で、株主ではなく株券発行者になるゲーム
①~③のうち、アクション権は保証されているものの、
・配当金の分配
・会社価値の上下
が、株主でなく株式会社の立場で生じる
蒸気のプレイ感はキツい
やりがいがあるが、そのぶんとてもキツいゲームだ
キツさの根源は、株主―株券発行者の立場の違いに着目すると説明できる
蒸気において人は、資金と引き換えに配当金の権利を売り渡さないとならない
この毎ラウンドの配当金がとてもキツいのだ
株主(ゲームシステム側)に対して資金を分配し続けなければならない
借金のトンネルを抜けた向こうに経営的成功/経済的自由があると信じて走り続ける
蒸気は成功者になるためのゲーム
反対に、18XXシリーズやインペリアルは、プレイヤーはゲーム開始時からすでに成功者であるゲーム
会社を1,2個買収して動かすだけの初期資本と権力を最初から持っている
蒸気の時代と18XXでは、ゲームの見た目はとても似ているが、プレイヤーに与えられるロールと、そこから起因するプレイ感は真逆と言ってもいい

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これまでの流れを踏まえると、「じゃあ株主でもあり、株券発行者でもあるゲームってないのかな、作れないのかな」と思う方もいるかもしれない
ゲームデザインが好きな方であれば特に
で、それがあるのだ
ヌースフィヨルドなのだ


本作では、
・アクション権
・配当金
・市場価格
の3要素のうち配当金の分配のみを採用している
立場としては、株主であると同時に株券発行者でもある
ただ、配当金のみにルールを絞ったことで過度に複雑化はしていない
「株要素もあるワカプレ」くらいのちょうど良いあんばいに仕上がっている
このあたりにはローゼンベルクの力量を感じる

プレイヤーは自社の株券を持ち、ゲーム中に発行することができる
発行すると、1アクションで3勝利点を得られる
(余談だが、ヌースフィヨルドは40点取れれば勝ちくらいの相場だ
全21アクションなので、1アクション=3点はたいへんコスパが良い)
自他問わず、発行された株券は購入アクションで買える
買うと株主になる
株主になると、漁で得た魚を分けてもらえる
自社株を買うのも、多く魚をもらうためには有効である
逆に未発行の自社株が多いと、魚のうち大半が倉庫に行ってしまう

このメカニクスは総じてとてもよくできている

まず感心したのが、「株券は発行したいし、発行された株券は買いたい」と素直に思えるところだ
このゲームでは、最序盤に現金を得る手段はほぼない
ただ唯一株券を発行すればすぐさま2金を得られる
このゲームはとても現金がカラい
特に序盤は、株券発行の2金はとても貴重
建物カードや船舶も、1~2金を要求するものが多い
プレイヤーは自然と
「エンジンを作りたい
そのために先立つ現金が欲しい
株券を発行したい」
と思える
株券発行の動機づけがとてもスムーズだ
逆に購入したいという気持ちも持ちやすい
最序盤に相手の株券が買えると、それはそれでとても有利だ
何せ株券が1枚あるだけで、毎ターン1魚をもたらしてくれるのだから
株券が発行されると、
「相手の株券が欲しい
堅い収入源を得たい」
と思える

株券を発行したい
発行された株券を買いたい
どちらの感情もとても自然に生じるようにできている
書いていて理解したが、わかりやすくエンジン構築にかかわる部分だからなのだろう

さらに、相手に対してネガティブな感情を持ちづらくなっている
株券を買われると、下記のような感じを抱く
「株券買われたか~
魚あげ続けるのイヤだなあ
でもまあ、相手にあげる魚も、どうせ余らせると倉庫に行ってしまう分だし
おすそわけするって感じ
まあしゃあないか」
と、嫌悪感は抱くにせよ、あまり深刻なしんどさはない
(ただし漁獲量が少ない場合、株主にあげる魚が死活問題になってしまうことがある)

序盤だけでなく、終盤の動きも工夫されている
終盤になると株券の値段が下がる
「未発行の株券が余ったなあ
1アクション3点行動なら、最後に発行しておくか」
と発行が起こるし、買う側も
「値段が下がっているなら買っとくか」
とそういった動きになる
終盤はエンジンではなく、単なる勝利点行動として株券売買アクションが十分機能している
単一のアクションが、序盤から終盤にわたって、別な意図を持たれながら機能しつづける
というのは、デザイン設計としてとても美しく感じる

この項をサマライズすると、ヌースフィヨルドにおける株券売買では、
・需要と供給のバランスがほどよい
・売り買いをめぐって生じる感情がとても丁寧にコントロールされている
・不快な感情が生じないような工夫がある
・プレイ感がとても良い

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(9)長老アクション
ヌースフィヨルドにおける、株要素と並んで特記すべき特徴が長老だ
長老カードが場に並んでいる
カードを獲得すると、今後個人のアクションスペースとして利用できる
通常のアクションより少し強力
また、建物建設や造船のアクションはよく混みあうので、自分専用の建設アクションスペースを確保できるのは悪くない
また、多く長老を持っていると魚を手元に多く残せる(詳細は省く)
そして長老と関連して、魚の給仕をめぐってのインタラクションもある
筆者にとって株券売買のインタラクションはかなりしっくりきたが、この給仕の駆け引きはあまり好感を持てなかった
魚の給仕をめぐっては、相手をじっと待つような動きが生じるのだ

(10)給仕のインタラクション
長老アクションを打つには、共有ボード上の宴席に魚がないといけない
長老が働くと魚が減っていく
誰かが給仕しないといけない
給仕をすると、魚をたくさん持っていると、だいたい1アクションで3~5金くらい稼げる
1金=1点なので、給仕アクションはけっこう大きな勝利点行動となる
また、一度給仕されると、しばらくは全プレイヤーが長老アクションを打てるようになる

魚の給仕も株券発行は、そのときどきでやりたそうなプレイヤーがいたり、いなかったりする
株券売買については、前述のとおり、筆者は悪い印象を持っていないのだが、魚の給仕はちょっと場が停滞することが多い
魚がたくさん取れるプレイヤーがたくさんいないと、以下のような膠着状態におちいってしまうことが多いのだ

プレイヤーA
「誰も給仕しないな…長老使いたいのに使えない
誰か給仕してよ

プレイヤーB
「自分は魚ないから、もしやっても2金しか儲からない
絶対やりたくない
Cがやってくれ」

プレイヤーC
「自分がやるとたしかに4金儲かる
でも強い長老持ってないし…
ほかにやりたいことある
まだやりたくない

みたいな感じで、順番待ちみたいな状況が発生する
こうなるとあまり生産的な世界ではなく、こういったインタラクションは個人的には特に好みではない
無為な順番待ちや他人の顔色うかがいなら、実生活でやる機会は十分にあるので、もっと非日常的な快感に浸らせてほしいと感じる

ただ、ローゼンベルクは、作品群のなかで単一のメカニクスを成長させることが多い
ゆえに、新作で長老―給仕アクションがより洗練されたかたちで復活する可能性は十分にあると考える

(11)短所など
上記とあわせて、最後に短所と感じた部分をいくらか記しておく
ヌースフィヨルドは総じて地味なゲームだ
まとまりは良いし、着々と村を発展させていく感じはとても好きなのだが、地味だ
地味さがしっくりくるプレイヤーもいるかもしれないが、個人的にはもう少し爽快感があっても良いと感じる

この地味なプレイ感はどこに起因するのかを、以下でいくらか論じる
最初に記しておくが、地味さ=欠点 だとは捉えていない
筆者は、以下のようにゲームを捉えている
ゲームはかならず
地味―――派手
のどこかにチューニングされる
プレイヤーは個々人が気持ち良いと感じる帯域を持っている
そして筆者は、ヌースフィヨルドよりも、ちょっとだけ派手寄りの帯域を好ましく感じている

地味さの起源
結論から記すと、以下の3つから生じていると感じる
(1)給仕や株券売買での「待ち」の多さ
(2)増員がないこと
(3)建物があまり強くないこと

(1)については上で触れたので、省略する
待ちは、裏を返せば手番順をめぐって強いインタラクションがあるともいえる
好みは分かれると思う

(2)増員がない
個人的には、強い喪失感を感じる
アグリコラ/カヴェルナのファンとしては、増員の快感は捨てがたいものがある
ないとやはりちょっと寂しい
ただし、あくまで直感だが、増員をめぐるルールを2,3加え、アクション数も可変的にしてしまうと、プレイ時間は+1時間くらいかかってしまう
すると、ヌースフィヨルドの最大の魅力の、「2時間級クラスの面白さを1時間で」というのが達成できなくなってしまう


(3)建物があまり強くない
アグリコラやカヴェルナでは、明確に強い建物や進歩カードというものがあった
逆に、かなり特殊な状況でないと何の役にも立たないカードもあった
ヌースフィヨルドでは、ほぼすべてのカードはコスト相応の動きをする
強いカードについては、
「強いんだけど、結構なコスト払うな
トータルであんまり儲からないぞ」
逆に弱いカードについては、
「コストはタダみたいだけど、さすがに弱すぎないか…
大事な1アクションを使ってまで取る意味があるのか」
そういった感覚を抱く
バランスは良いのだが、爽快感はあまりない
ただ、コスト感は全デッキで統一なので、初回プレイ以降はあまり違和感を抱かないと思われる

あとは、この(11)の項全体が、アグリコラ/カヴェルナ好きの人間から見た強いバイアスがかかっており、客観性が乏しい可能性が高い



【後記】
記事前半部のゲーム背景についての調べ物がとても楽しかった
私事だが、筆者の郷里も山と海岸しかないど田舎
たくさん海と山の写真を見ることができ、とても懐かしく楽しく作業ができた


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【次回記事など】
ゲムマ2019についての記事をあげると思われる


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前回記事ではカヴェルナとアグリコラの比較を行った
今回記事では、主にオーディンの祝祭を取り上げる

以下では、海外のウェブサイト「Hyper Bole Games」の、
そののち、前回記事も含めて考察を加える



――以下原文――
※和訳・改変・筆者の主観の取り入れ行っている
※元記事作成者の主観については「私」主語を、訳者の主観については「訳者」主語を用いた
※改変については、特にデジタルゲームのBrizzardやOver Watchに関する記述がけっこうな分量あったが、すべて省いている
ご興味ある方は原文を読まれることを勧める


どんな分野でも、一流の作り手は固有のスタイルを持っている
ゲームデザイナーにおいてもそれは同じ
私はウヴェ・ローゼンベルクというデザイナーがとても好きだ
彼は多作でありながら、実にシャープで、いつも新作を待ち望ませてくれる

多作であるというのは、裏返すと「前に作ったものを土台に、焼き直しの作品を作るのが上手」と捉えられなくもない

実際に、彼の作品群を以下のような流れとして追うこともできる

軽~中量級のパズル系:
パッチワーク(2014)→コテージガーデン(2016)→インディアンサマー(2017)

重量級のワーカープレイスメント:
アグリコラ(2007)→カヴェルナ(2013)→オーディンの祝祭(2016)
今回は後者の3作品の変遷について触れる

ただ「前の作品を単なる足場にしてステップアップしている」と捉えるのは間違いだ

ローゼンベルクは、単にゲームをスムーズにするだけでなく、満足度を上げている
新作ほど、面白いものに仕上げてきている


私がアグリコラをプレイしたのは何年も前のことだ
当時、漠然とすごさは認識できたものの、熱中はできなかった
いたずらにアグリコラを批判したいわけではない
当時の自分のキャパを超えた作品だった

数百枚とある個別カードの多さに圧倒された
終了時の得点計算が複雑で、難しく、直感的に理解しがたかった
そして、飯の支払いのキツさも相当なものだった


なお、当時はヘヴィーなユーロゲームになじみがなかったというのも大きかったのだと思う
1時間以上のゲームをほとんどプレイしたことがなかった
そういった時期にアグリコラをやるのは、まだ早かったのだと思う


アグリコラのあとには、数年前にカヴェルナ』をやる機会に恵まれた
この魅力にはすぐに熱中した
それから数年のあいだ、カヴェルナは私にとってベストゲームであり続けた

私にとってのカヴェルナの最大の魅力は、ルールの明快さだった
基本資源以外は、全てが勝利点になりうる
どんな建物タイルを取るかによって、自分のアクションと資源がもたらす勝利点が変化する

また、飯の支払いはアグリコラよりはいくらか楽になったのもありがたかった
支払い方がたくさんある
理解しにくくなったり、過度に複雑にならないのであれば、ストレスを取り除く方法がたくさんあるのは良いことだ

カヴェルナはまさに最高のゲームだった
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そして先週、はじめて『オーディンの祝祭』をプレイした
素晴らしかった
これもベスト3に入るゲームだと直感した
プレイ後、どのような体験が自分にとって刺さったのかをたびたび考えた

オーディンはローゼンベルクにとって、進化の最終形であると考えている

ローゼンベルクのデザインは、アグリコラから、微妙でかつ重要な変化を積み重ね、カヴェルナを生んだ
カヴェルナからさらに進化し、そして、ついにオーディンの祝祭という最高到達点に達したのだ

これには感動を覚える

アグリコラ→カヴェルナ→オーディンにいたるまでには、単にゲームが易しくなっただけではない
考える要素は増し、より面白くなった
そして、どんな要素がプレイヤーを幸福にし、苦悩をもたらすかも丁寧に考え抜かれている


ローゼンベルクは、常に制作のなかで挑戦を続けている
より容易で、アクセスしやすいかたちにゲームを作り変えている
ただ不用意に軽くしているのではなく、深さと戦略性を残している
既存の作品の悪い部分は除外したが、頭を抱えさせるジレンマは残している
こうしたディベロップは本当にハードでスマートな仕事だ

アグリコラ→オーディンにおいて、具体的にどのような変化があるか
これを以下の4点を切り口に見ていく

・ワーカー数のインフレ
・適度なストレス要素
・タイル配置ルールのシンプルさ
・定期収入の快感

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①ワーカー数のインフレ/Worker Inflation
アグリコラ、カヴェルナとオーディンの祝祭のいちばんの違いは、ワーカー数の増加の仕方

アグリコラ/カヴェルナでは、2人からスタートしてだいたい4人まで
多い場合は5,6人くらいまで増員する
オーディンの祝祭は、6人から始まり、自動で増員していく
7人、8人と増え、最終ラウンドでは13人に達する
どんなプレイングをしようが、全プレイヤーは必ず同じタイミングで増員する
オーディンを未プレイの方からすると、
「そんなにワーカー数がいるワープレだと、アクション数が増えすぎて処理が煩雑にならないか?
「選択肢が増えすぎて長考が多発したり、ゲームが崩壊したりしないか

こう思うかもしれない
ただ、そんな心配はいらない
オーディンでは、「配置コストもインフレさせる」というとてもエレガントなメカニクスを採用している
各アクションは、横4列のスペースを持っている
4つのスペースは左から1人、2人、3人、4人と固め置きすることができる
同種のアクションだが、大人数を固め置きするほど、一気に良い効果がもたらされる
デカく投資すればリターンも大きい
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元画像はこちら(音声注意)
たとえば第1Rだと、最初は6人のワーカーがいる
各プレイヤーは
4人、1人、1人の3アクションを行ってラウンド終了
みたいな感じになる
もちろん、1人ワーカーをちびちび使って6アクションするのもOKだ
しかし、アクションスペースを早く取りたい、という奪い合いもよく起こる
それに固め置きの方がコスパが良いことも多い
だから、1ラウンド3~4アクション以上行われることは滅多にない

1ラウンド3~4アクション
これはワーカープレイスメント系ゲームの黄金比というか、いちばんバランスが良い手数なのだろう
2,3アクションしかないとちょっとつまらないし、かといって6アクションも7アクションもあると、情報処理能力的にかなり厳しい
訳注:
将棋などはもっと遠くまで手を読み得る構造だが、商業的に売る重ゲーで可能な読みは、毎ラウンド3,4手程度だ
次のラウンド以降の深読みはやろうと思えばできるが、完全にはできないようにデザインされている
ランダム性や情報秘匿、複数人の読みがたい意図が深読みを阻んでいる
こうした不透明さは、プレイヤーを守る機能も果たしている

オーディンのワーカー数は大幅にインフレしているが、アクション数自体はカヴェルナやアグリコラの終盤とそう大差はない

では、アクション数がアグリコラやカヴェルナと同じであるならば、なぜ13人もワーカーを用意する必要があるのか?

まず挙げられるのは、インフレの快感だと思う
増員は成長だ
成長は快感をもたらす
オーディンではラウンドごとにオートで増員するので、快感が生じる
増員できると、3,4人固め置きの強いアクションも複数回打てるようになってくる
この快感は、週末に物価の安いカナダに買い物に行ったとき、USドルで買い物をしたときみたいな快感がある
訳注:
元記事作成者は五大湖のあたりに在住なのだろうか
日本人からすると、東南アジアなどに旅行に行ったときの感じだろうか
アグリコラと比べて、オーディンはとにかくストレスが少ない

アクションスペースによって消費ワーカー数が異なるのも良い
4人置きで大きく投資してがっつり稼ぐか
それとも1人置きを多用して多方面に稼ぐか
ワーカーが増えるほど、多様な戦略を取れるようになる
ただ、過度な複雑さはない
ワーカーコストが4種と多様だからこそだ
たとえば2,3アクションしたあとに、最後に2ワーカーしか持っていないとする
このとき、3,4ワーカーのスペースはみなくていい
現実的な選択肢は数個に絞られる
もし、全スペースが1ワーカーのアクションだと、ラウンドの終盤でもやれるアクションが多すぎて、かなり見通しが悪いものになるだろう
この変更がもたらしたものが大きい

そもそも、初見殺し、初見にとって難しすぎるのがワープレの難点だった
オーディンも、最初から全アクションスペースが解放されているという難しさはあるので、難点はあるものの、数R回せばかなり見通しの良いゲームだと気づける

なお、見通しの悪さ以外には、例外処理の多さなんかも難点として存在する

基本的に、ルールと戦略を考えるとき、人間は一定量の思考スペースしか有していない
ルールが複雑だったり、例外処理が多いと、そこに割く思考スペースが増える
そのぶんだけ戦略を考える余地は減ってしまう
戦略を自分で考えられないと、ゲームの楽しみがぐっと減ってしまう
ルールの処理が難しくなりすぎると、プレイヤーの集中の糸が切れかねないのだ
いちど集中が切れてしまうと、どれだけ面白い要素を持っているゲームでも、その魅力を十分に味わうことができなくなる
オーディンでは、そのターンに何がやれて、何がやれないのかは明白である
また、後述するが例外処理も少ないし、ルールが占める脳の処理量はかなり少ない
多くのゲームではそうではない
「現実的にはほぼ不可能だが、初見プレイヤーにとってはできそうに見えるアクション」というのがけっこうある
それらが並列に並んでいると、プレイヤーのメモリに負荷をかけてしまう

たとえばアグリコラとかだと、
「改築と種まきのアクションスペースが空いている
でも、いま現実的にやれないね
もしくはやるべきアクションではないね」
というようなことがある
この手のアクションのもつ付帯情報は、慣れている人からするとよくわかるが、ゲームに慣れていないプレイヤーにとって自明ではない

これはローゼンベルクのゲーム以外でもよく見られることだ
現実的でなくても、パッと見でできそうに見えると、不慣れなプレイヤーはそういったアクションまで選択肢に入れてしまい、どんどん長考するようになってしまう

オーディンにおいては、そこにも工夫と改善が入っている
オーディンの、各ラウンドの最初のアクションは非常にホット
4人固め置きが連発するし、選択肢も豊富
全員が深く思考する時間帯で、ある程度の長考も起きやすい
ただ、ラウンドの後半になると、徐々に冷えていく
ワーカー数が減るので、やれることも減る
ゲームテンポがスローダウンして考えやすくなる
こういう起伏のある展開になるようにデザインされている
集中すべき時間帯と、考えることが多くない時間帯が交互に来る
メリハリがある
見事だ


②適度なストレス要素 /Do everything, but with shapes

ネガティブな体験
これはローゼンベルクのゲームにつきものであり、魅力でもあった
数ラウンドごとの飯の支払いのシビアさ
食わせられなかったら家族を物乞いに出さないといけないみじめさ

ストレス要素は、多くのデジタルゲームでは極力排除されているが、ローゼンベルクはあえて残している

これは何のためにあるか
初心者にとって、わかりやすいとりあえずの目標になる
これはシンプルだが重要な利点だ
「そうか、とりあえず、次のラウンドまでに食料を取らないといけないのか」
と意識してプレイすることができる
不慣れなプレイヤーが道に迷わないための指針を与えてくれる
そして「飯の支払い」という小目標を達成すると、ちょっとした達成感がある
オーディンの主なストレス要素は、
・飯の支払い
・個人ボードの未使用スペースの減点(ゲーム終了時)

これら2つだ
後者は以下で詳述するが、どちらもハードすぎず、簡単すぎない
ちょうど良い難しさで、達成できるたびにちょっとした達成感を与えてくれる


③タイル配置ルールのシンプルさ
オーディンはワーカープレイスメントのアクションでタイルを持ってきて、そのタイルを個人ボードに配置して気持ちよくなるゲームだ
タイル配置のルールがとてもシンプルなのが良い
脳のスペースを取らないのだ
ルールは以下の5つ

オレンジの4色のタイルがある
同士は接してはいけない
・青は自由に置いてOK
オレンジはボードには置けず、飯の支払いに使う
オレンジをアップグレードすると同じかたちのになる(下級の食品を加工したり交易して上級の資材に変換する)

ルールはこれだけだ
極めて単純
例外処理もない
「飯としてある程度のタイルは残したい
でも緑や青に変えて個人ボードも埋めたい」
とバランスを取る必要がある
ルール理解に割くメンタルスペースが多くない

そしてタイル配置は楽しい
シンプルな快感がある
このゲームでは、個人ボードの空きスペースの分だけゲーム終了時に減点がある
逆に言うと、タイルを置いた分だけ得点があるのとほぼ同義だ
そんな感じだから、バカでかいタイルを取れたときの快感はなかなかのものとなる
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④定期収入の快感  /Perks along the way
逆に、細かくマスを埋めていくのもオーディンにおいては大事だ
マスを完全に埋めきると定期収入が増えるからだ
このパズルはかなり面白い
きっちり詰めておけたときの快感は相当なものだ
プレイヤーは
・バカでかいタイルを取ったときの快感
・細かくマスを埋めたらもらえる定期収入の喜び
これらを天秤にかけて、パズルに挑むことになる

ピースを回転させたり反転させて、どうにかしてきれいに埋める
という作業の楽しさ
これはデジタルゲームではなく、ボードゲームであること
指を動かしてコンポーネントを触って動かすことで得られる本質的な面白さ
ローゼンベルクは媒体の使い方がめちゃくちゃうまい
彼はプレイヤーに広く参加してほしがっている
タイルやコンポーネント全部をかちゃかちゃやって楽しんでほしがっている
オーデンだけに限らず、アグリコラやカヴェルナでもそうだった
ただ、そのさせ方が洗練されてきている


オーディンでは収入フェイズで、飯の支払いと同時に収入がもらえる
食糧タイルや銀だ

タイルをきれいに配置する楽しさ
きれいに配置したご褒美にボーナスが毎ラウンドもらえる楽しさ
そのボーナスをどういう風に使ってもいい自由度の高さ

こういうちみちみと積み重なる楽しさが、オーディンのコアの魅力だと私は考えている

こういうブーストする楽しさは、オーディン以前のアグリコラやカヴェルナでもあった
カヴェルナで、アクションのアシストをしてくれる建物を建てたときの楽しさとか
探索に出まくって戦利品を稼ぐときの喜び
一応用意されてはいたが、このボーナス感を得られるまでの過程が複雑で、あまり直感的でなかったりした

オーディンの方が
・デカいタイルを置ける
・マスを埋めきった
・定期収入が入る
と、プレイと正の感情がすぐに直結している

ーーー以上原文ーーー



【訳者後記】
これまでの2本の記事は、ローゼンベルクの主要3作品についての比較検討のために訳した
前半は
アグリコラvsカヴェルナ
後半は
アグリコラvsオーディン
というややいびつな構成であったが、3作品の比較を行う土壌はひととおり整ったと思われる
後記では、翻訳記事が触れていない点についていくつか掘り下げを行い、記事を終える

(1)ストレス要素の持つ役割
3作品の持つストレス要素と、それがもたらすメリット
ストレス要素① 個人ボードのマイナス点
メリット:ボードを埋めたときの、マイナス点をつぶした快感

ストレス要素② 飯の支払い
メリット:小目標を達成する快感
    :増員に対する歯止め
この2つのストレス要素があり、それらはメリットも持っている
ストレスは作品を追うごとにソフトになりつつあるが、オーディンでも一定のストレス要素は残されている
飯の支払いのもう1つのメリットに、
・アクションの価値の多様化
をここでは挙げる

ワーカープレイスメントはアクションスペースのドラフトだ
基本的には自分にとって価値の高いアクションから先に選んでいく
構造としてはとてもシンプルだ
もし、飯の支払いというデメリット要素がないと、単に自分が欲しいアクションを順番に取るだけのシングルタスクになってしまう
それでは、プレイや展開にあまり起伏が生まれない
飯の支払いによって、プレイヤーは
・強力なアクションを取りなさい
・いついつまでに、○飯を用意しなさい
というダブルタスクを与えられる
こうした、程よい悩みのためにも、飯の支払いは必要なのだと筆者は考える


(2)アクションスペースと個人ボードのバランス


筆者は、2010年代の重ゲーを
・相手とインタラクションする部分
・自分だけで完結するパズルの部分
の2要素の複合体であると考えている
カヴェルナでは、個人ボードのタイル配置がパズル要素
アクションスペースがインタラクション要素だ

アグリコラ→カヴェルナ→オーディンと経るにつれて、
インタラクションの厳しさ・複雑さは減り、逆にパズル要素が肥大していっている
アグリコラの小さい個人ボードと比べると、カヴェルナ、オーディンと徐々に個人ボードは大きくなっていく
逆に、アクションスペースやカードの非公開情報はどんどん減っていく
アグリコラでは、職業・小進歩カードは秘匿情報として各プレイヤーが持っていたし、最初には弱いアクションしか解放されていなかった
場に見えている情報を減らすことで、アクションスペースの苛烈な取り合いに集中してもらうのが意図であったと考える
カヴェルナでは、アクションスペースの自由度は少し増えた
・増員
・探索
・畑
・家畜
・鉱床
といくつかの分かれ道を作ったことで、他プレイヤーとつぶしあうようなことが減った
その代わりのような形で、カヴェルナでは最初から48枚の全建物タイルが公開されている
アクションの取り合いの脳の負荷は減らしたから、代わりに他の情報を入れてもいいだろう
とそういう判断だと思われる
アグリコラ→カヴェルナにおいて
「アクションスペースの取り合いは少なく
最初から公開されている情報は複雑に」
シンプル化と複雑化を同時に行っている
カヴェルナ→オーディンでも、上と同じような変化が起きている

オーディンでは、増員アクションが廃止されている
これは思い切った英断であると考える
増員をめぐる食料支払いのジレンマや、スタPの駆け引きがかなり排除されている
好き嫌いはあると思うが、オーディンクラスの複雑さを持つゲームに仕上げるなら、増員周りをばっさりカットするのは不可欠だったのだと思う

増員をカットして浮いた容量をどう使ったか
オーディンでは、全アクションスペースが最初から公開されている
全アクションスペースの説明を、初心者は受けることになる
これはなかなかハードだ

上記をサマライズすると、
アグリコラ→カヴェルナ→オーディンと経るにつれて、
「ジレンマやインタラクション、複雑なリソース管理の要素は減り、
かわりにスタート時の公開情報と個人ボードの情報量は増えた」
とまとめられる

あとはこの流れに続いて、第4作をローゼンベルクが作るかだが
この路線でいくと、オーディンよりもさらにパズル要素が増え、インタラクション要素が緩くなる
そうしたものが必ずしも必要だとは、筆者は考えない
そこまで行ってしまうと、パッチワークからなるパズル系ゲームの系譜と交差・合流しかねない
ただローゼンベルクは、タイル配置、ワーカープレイスメント、カードと
1つのメカニクスに深く沈潜して追及するタイプのデザイナーだと筆者は考える
彼が新たに何に興味を持って何を作るかには、とても強い興味を持っている


(3)カヴェルナの「忘れられた部族」拡張について
――部族拡張がもたらすのはアグリコラ化?オーディン化?
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最後に、カヴェルナの部族拡張(The Forgotten Folk)がもたらすプレイ感の変化について簡単に記し、記事を終える

最初に要旨を述べると、拡張によってアグリコラのようなランダム要素が若干追加された
かつオーディンのタイル置きのようなシンプルな快感も感じやすくなっている
総じて良拡張であると筆者は考えている

カヴェルナ拡張では、ドワーフ以外の部族が追加されている
・農場を作れないが洞窟はどんどん掘れるマウンテンドワーフ
・探索能力が高いが、飯をたくさん食べるトロル
など、8部族が追加されている
選ぶ部族によってタイル配置やアクションのルールが大幅に変わる
ざっくり言って「マルコポーロの旅路」のキャラ並みに性格差が大きい
部族に合わせた戦略を取ることをプレイヤーは要求される
ものすごくやれること/やれないことに差が大きいので、ドワーフのみのときよりもプレイ感は少し大味となる
競技的に追及してプレイするプレイヤーからはひょっとしたらあまり好かれないかもしれない
ただ、部族ごとの強弱バランスはある程度取れていると感じる
特化した部分がある分、必ず弱体化した部分もあるので、総合得点では拡張なしのドワーフとあまり変わりない勝利点となることが多い

部族拡張によって、以下2点がもたらされたと考える
・セットアップ時のランダム性の増加
・タイルのはみだし置きが多用される

①セットアップ時のランダム性の増加
どちらかというと、この要素によってカヴェルナはアグリコラのプレイ感に近づく
アグリコラ化と換言してもよいかもしれない
前半記事で触れたが、カヴェルナ拡張なしはスタート時の状況はまったく同じであった
それが部族拡張によってスタート時から多様な広がりを持つようになっている
これについては好みだと思う
筆者は個別能力もりもりの2010年代系重ゲーのありようは、個人的にとても好きだし、性に合っている
建物タイルが差し替えとなることもあいまって、リプレイ性の高さが良い
また、もし大負けしても「キャラの相性もあるから」などとゲームのせいにして、イージーで楽しい気分を保つことができる
ストイックに成長を求めるか、ゆるく楽しく、末永くリプレイするのを好むかは人によるが、筆者は後者寄りの人間だ
部族拡張はそういった人間にとってとても楽しみやすいものとなっている

②タイルのはみだし置きの多用
部族の
・人間
・マウンテンドワーフ
・青白きもの
などが、タイルをはみだし置きする能力を持っている
個人ボードからはみ出して配置すると、2金や2石など、けっこうな資源をその場でもらえて、すごくお得だ
これらの部族を使うときは、序盤のタイル配置からすでにけっこう楽しい
拡張なしのカヴェルナは、
・まずタイル配置をする
・その上に部屋や農場を作る
二重の手間がかかるゲームでけっこう大変だった
タイル配置の快感を得られるタイミングはあまりなかった
部族拡張では、最初のタイル配置の瞬間にちょっとしたボーナスをもらうことができる
これがなかなか楽しい
たとえば人間では、畑タイルを配置しまくっている限り、序盤は飢える心配がまずなく、どんどん食糧を稼ぐことができる
タイルを置くたびに得られる愉しさは、若干無理やりだがオーディン的になった、と形容することもできる

まとめ
カヴェルナ拡張はとてもいいのでぜひ買おうね


【次回など】
18Liliput/18リリパットというゲームをさせてもらって、とても楽しかったのでおおまかなレビューを挙げる可能性がある
18XXシリーズ(鉄道会社運営&株式投資のとても重いゲーム)をカード化・軽量化した2018年の新作

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