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風来のシレン6(2024)は、ローグライクジャンルのデジタルゲーム、不思議のダンジョン2 風来のシレン(1995)のシリーズ最新作。

読み解くべき価値を感じたため記事化する。
シレンやトルネコなど、不思議のダンジョンシリーズを多少なり触ったことがある人間を読者として想定している。

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不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録(2024,スパイク・チュンソフト)



(1)魅力
 ①シビアな持ち物管理
 ②持ち物の圧迫ストレス→マゼルンとお店による解放
 ③鑑定タスクの消化
 ④食料とレベルのトレードオフ
 ⑤持ち物スロットの疑似的な拡張
 ⑥フロア移動直後の危機
 ⑦死=緊張の最高潮
(2)ボードゲームとの比較検討
 
カタン:建設資源のため込み⇔盗賊のリスク
 ②チケット・トゥ
・ライド:列車カードのため込み⇔他者の先行リスク
 ③
グレートウエスタントレイル:持ち物スロットとしてのウシ、マゼルンとしてのカンザスシティ
(3)私的雑記

(1)魅力
要旨は以下。

持ち物スロット
満腹度ゲージ

所持上限の厳しい上記2リソースを管理しつつ、
レベルアップ
・剣盾の強化
・未識別品の鑑定タスク進行

上記3パラメータを高めていく。
このリソース管理の悩ましさとタスク達成の快感が本作の最大の魅力。

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①シビアな持ち物管理
シリーズ共通して24個しかアイテムを持てない。
武器防具、腕輪、矢といった装備品を除くと正味20個程度。
たった20個の枠に、
食料(飢え死に対策)
巻物(モンスターハウス(大きな危機)対策)
(強い単体(小さな危機)対策)
・合成用の剣盾(+1~3の修正値や有用な特殊効果)
未識別アイテム
など数多の必需品が殺到する。
・キツい縛りのもと何を残すか選ぶ、取捨選択の悩ましさ
・その判断の成否についての素早い結果返し、テンポの良さ

このあたりがシリーズ共通の魅力で、大きな中毒性を生んでいる。

またこれに関連してアイテムドロップ自体のガチャ的な魅力も大きい。
毎フロア5-10個程度落ちており、途切れることなくガチャを引かせてくれる。
麻雀のツモでもFortniteのチェスト(宝箱)でもオートチェスでのリロールでもなんでも良いが、テンポよくガチャを引かせてくれるゲームは熱中を生みやすい。

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Fortnite(2017)


②持ち物の圧迫ストレス→マゼルンとお店による解放
マゼルンお店という2大お楽しみ要素がある。
これらとの遭遇はプレイヤー感情に大きな高揚をもたらす。
マゼルンは
大蝦蟇(オオガマ)の妖怪をモチーフにしたガマガエルのモンスターで、武器や防具を合成してくれる。

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合成によって、
・自身の少しの永続的な強化
・持ち物スロットが1個再利用可能
と一度で2つのメリットが生じる。
単一の工程が複数の意味を持っており、機能美がある。

お店も、
・9個の売り物(比較的高レアリティ)の購入
・未識別品の鑑定
・売る用に取っておいた腕輪や剣盾の換金

と、これもひと粒で2-3度おいしい。
識別と換金により、大量にアイテムスロットを空けることができる。


③鑑定タスクの消化
未識別品の鑑定はダンジョン攻略を通じて適宜進めておかないといけないタスク、宿題
お店を使って一気に片付けることができ、とても気持ち良い。


siren2
お店はレッド、マゼルンはイエローと鮮やかな配色であり、視覚的にもプレイヤーの高揚を高めてくれる。

④食料とレベルのトレードオフ
持ち物スロットと並ぶ2大管理要素が満腹度ゲージ
満腹度はターン経過で減っていく。
1フロアをくまなく探索すると50程度、探索後ターン制限ギリギリまでレベリングするとさらに100程度満腹度を消費する。
満腹度は100までしかスタックされないので、おにぎり(満腹度を50-100個回復する)などの消費アイテムを持つ必要がある。
ここでは満腹度ゲージの外的な延長としてアイテムスロットが費やされている。
満腹度がゼロとなるとApexの安地外やドラクエの毒状態のようなスリップダメージが入り、基本的にゲームオーバーとなる。
特に冒険の最序盤において、
メシの余裕はない…
が、次の階層の安定攻略のためにある程度レベリングもやらねば…」

食料とレベルのシビアなトレードオフが成立する。
食料のドロップ率は、地味ながらデザイン上かなり重要な事項と思われる。
満腹度ゼロでおにぎりや草を求めてダンジョンをさまよう体験は全く楽しくないため、頻発させるべきではない。
あくまで「欲張りすぎた際にまれに発生するペナルティ」くらいにとどめるのが無難と思われる。


ここで少しだけシレン6の話を掘り下げるが、同作は過去作と比べて食料ドロップがかなり甘い
食料だけでなく復活の草(いわゆる残機。飢え死にすると消費され満腹度マックスで蘇生)も手に入りやすい。
食料⇔レベルの経済系が崩壊してしまっている。

またこれに関連して前述のマゼルンが、
・過去作=特定の階層のみ出現
・シレン6=10F以後のほぼ全階層でごく低確率で出現
に変更されている。

これら2点により、
過去作=メシが余裕、マゼルンが出る、合成アイテムがあるときだけ絞って長居メリハリ◎
最新作=いつも制限いっぱいまでレベリング。冗長でテンポ×

となっている。
シレン6、ほぼ文句のつけようのない良作だと評価するが、この仕様から生じる99Fダンジョンの中盤以後の間延び感はかなり良くなく、好みから外れている。

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終盤の稼ぎ作業は眠気を伴う

⑤持ち物スロットの疑似的な拡張
持ち物スロットは絶対に24を越えないが、疑似的な拡張として、
・保存の壺
・最大満腹度の増加
がある。
保存の壺はマイクラでいうチェスト。
壺1つで3-5個のアイテムを保管でき、圧縮となる。
最大満腹度は初期100だが、最大200まで増やせる。
200までいくと食料枠を2-3個分程度減らす余裕が生じる。

⑥フロア移動直後の危機

緊張と緩和が周期的に用意されており、これも中毒性を高めている。
本シリーズは階段を下りた瞬間がいちばん死にやすく、緊張が高まる。
・敵に囲まれている
・モンスターハウスのどまんなか

などの窮地を、貯め込んだ巻物や杖をつぎこんで切り抜ける。
危機を脱すると今度はフロア探索の時間で、緊張から緩和フェイズに移行する。

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⑦死=緊張の最高潮
危機を乗り越えられず死ぬ直前、緊張の極致に達する。
死によって緊張から解放されるわけだが、哀れなプレイヤーはこの救済を受け容れず、再度1Fから長い旅路を始めてしまい、寝不足シレン中毒ループがここに完成する。
・緊張と緩和のサイクル
・緊張の極致で死によってゲームを閉じる

この構造はApex Legends(2019)Fortnite(2017)にかなり近いものがある。
両作とも、
・目ぼしいランドマークに降り立つ
・物資を手早く漁る
・同じ地点に降下した敵と接敵
・最初の交戦に撃ち勝つ

と、ここまでが最初の緊張フェイズだ。
続いて、
・ドロップした物資を漁る
・マップの収縮円を見て、次の目標地点をおおまかに決める
移動する

緩和フェイズが来る。
その後も、
・収縮円の内部をめぐっての交戦(緊張)
・漁り&移動(緩和)

と両フェイズが周期的に繰り返される。
そして途中で死ぬ場合でもビクロイ(1位)を獲れた場合でも、緊張の極致でゲームが閉じる。

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余談だが、同じシューターゲームのスプラトゥーン(2015)はこうした中毒ループ作りの鉄則、王道から大きく外れている。
ガチマッチでもナワバリバトルでも、マッチの最終局面に緊張のピークが来るような作りはしていない。大抵中盤には大勢が決まり、その差はあまり覆らない。
が、スプラにも十分な中毒性がある。
おそらくだが、2時間ごとにルールとマップが変わる点がリプレイ欲求に大きく寄与している。
プレイしながら必要なパーツを集めたり成長していくApexやシレンと違って、スプラは特に強化などなく、開始時に決めたブキとギアで5分間戦い続ける。
複数のマッチを繰り返しつつ「使える構成のうち、この条件下でいちばん勝率を上げられるのはどれか」を探していく。
デュオ・フルパの場合は味方との相性も見ながら決めていく。
この自分たちだけの局所的な最適解を探す試行錯誤が楽しい。
2時間というのがまた絶妙で、おそらく3,4時間だと長すぎるし、30分や60分だと足りない。

(2)ボードゲームとの比較検討

前項と関連づけられそうな作例をいくつか挙げる。

①カタン:建設のために多く持ちたい⇔盗賊のリスク

シレン2(2000)について、
「シレン2のシレン城建設ミニゲームはカタンから影響を受けた」

と制作チームの丸田さんが話されているが、外付けのミニゲームだけでなく、コアのプレイフィール(中核をなすプレイ体験)も両作はわりと近い。

・街道や開拓地を建設する
・他プレイヤーとの交渉材料にする
・4枚→1枚の港交易を行う

あらゆるアクションに資源カードは必要で、あればあるほど良い。
が、手札が8枚以上となると盗賊イベントでロストするリスクが生じる。
8枚以上の手札を抱え、盗賊から逃げ切って自分の手番を迎え、開拓地を建ておおせた際には相当な気持ち良さが生じる。
開拓地はプレイヤーの資源産出力を高めてくれる。シレンにおける合成(プレイヤーの永久的な強化)と同型。

*出典:
小舟の先輩たちのインタビュー - 丸田康司さん - 小舟のインターン - ほぼ日の学生採用企画 (1101.com)
"すごろくや"代表が語る、テレビゲームにはないボードゲームの魅力とは? | Games (redbull.com)

スクリーンショット_27-2-2024_133055_boardgamegeek.com
Catan(1995)


②チケット・トゥ
・ライド:
列車カードのため込み⇔他プレイヤーの先行リスク

線路カードのドロー
目的地カードのガチャ引き
・手札の線路カードのプレイ(線路の敷設)

のどれかを時計回りにやっていく。
詳述は避けるが、これも手札を集めるほど得点効率が向上する。
多く持ちたいが、
・最序盤の重要区間の取り合い
・最終盤の終了トリガーをめぐるレース

これらが資源集めにリスクを課している。

スクリーンショット_27-2-2024_133657_boardgamegeek.com
Ticket to Ride Map Collection 7: Japan & Italy (2019,基本版2004)


③グレートウエスタントレイル:
持ち物スロットとしてのウシ、マゼルンとしてのカンザスシティ

プレイヤーらはすごろく形式でマップを進み、ゴールのカンザスシティを目指す。
その道中で手札のウシカードをきれいに整えていく
ドローポーカーや麻雀の要領で、不要牌を捨ててはツモり、手役を作っていく。
ただ捨てるだけではなく、道中のサブアクションで特定のカラーのウシが必要になる。
よって手札が完成に近づくにつれ、打てるサブアクションにゆとりがなくなっていく

カンザスにゴールすると手役が点数化され、高得点を取れると永続能力がアンロックされる。
手札上限を開放したり、1手番に歩ける歩数を増やせたりする。
この決算が終わると手札はリセットされ、プレイヤーコマは振り出しに戻される。
振り出し→カンザス行を何度もループし、緊張→緩和を繰り返しながら種々の強化をもらってだんだん気持ち良くなっていく」というのがGWTのソロ方面の魅力だ。

この面白さはシレンの99Fダンジョン(裸一貫で1回だけ潜る)よりも、ストーリーダンジョンの周回(繰り返し潜って同じ装備を持ち越し、徐々に強化していく)により近いかもしれない。
なお3-4人の多人数戦より2-3人などの少人数戦の方が、こうした周回的な魅力が際立つ。

スクリーンショット_27-2-2024_143417_boardgamegeek.com
Great Western Trail: Second Edition (2021,初版2016)

(3)私的雑記
一般性の低い自分語りであり、読み飛ばし推奨。

友だちと遊べないゲーム
おそらく初めて自分の意志で選び取ったゲームがシレン/トルネコだった。
小さいころからゲームは好きで、
・スーパーマリオRPG(1996)
ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド(1998)
・ドラゴンクエストモンスターズ2 マルタのふしぎな鍵(2001)
など熱中し、長く遊んだ。
が、今思い返すと、おそらく級友と遊べるのが熱中の最大の要因だった。
学校で話題に挙げて楽しく、友人の家に行って遊んでも楽しく、モンスターを交換したり対戦するのも楽しい。
反対に、シレンやトルネコは周囲の誰も遊んでいなかった
「去年(2000年)に出たNintendo64のシレン2っていうゲームが面白いらしい」と、立ち読みしたVジャンプ(ゲーム紹介雑誌)か何かでたまたま見かけた。
ロクヨンはすでに旬を過ぎた機種(後継機のゲームキューブが2001年に発売)であり、やや迷ったが、どうしても遊んでみたかった。
親に無理を言って市内の中古ゲームショップ(当時は中古個人店の全盛期で、幹線道路には3kmごとに小さな店が建っていた)を回ってもらい、手に入れ、熱中してプレイした。
最終的に、
・風来のシレン2 鬼襲来!シレン城!(2000)
・風来のシレンGB2 砂漠の魔城(2001)
・トルネコの大冒険2:GBA(2001)
・トルネコの大冒険3(2002)
と4作を狂ったようにプレイした。
友達と遊べるわけでもなく話のネタにもならないのにここまで熱中したゲームは、本作が初めてだった。

ビックリの壺

ゲームについて話すこと、そして話すことで友人が増えたり交友が広がるのは、依然としてとても好きだったし、欲していた。
前述したとおりシレンやトルネコはそういった語りの喜びを与えてくれなかったが、ビックリの壺(ゲーム内に登場するアイテム)という公式のファンブック、今でいう同人誌に近いものがあり、それが需要を満たしてくれていた。

ビックリの壺
風来のシレン公式ファンブック ビックリの壺 | よもやまの壺 (kazenoko27.com)より

シレンにおいて、プレイヤーの感情曲線は死ぬ直前でピークに達する。
死に方は今でいうSNS映えするし、語り草になる。
ビックリの壺には読者投稿型の散り様コーナーが用意されていて、それがとても好きだった。
今でもいくつかのエピソードを暗記しているくらいに繰り返し、好んで読んでいた。

また伊集院光さん(1967-)ピエール瀧さん(1967-)らもシレンのファンを自称し著名人枠で寄稿されていた。
2000年前後はゲームやゲーマーに市民権がない時代だった。
30歳過ぎだった彼らはこの風潮に逆らい、
「ゲームは面白く、基本的に良いものだ。後ろ暗いもの、不健全なものだと決めつけるべきではない。自分たち大人も社会的な責務を果たしながら楽しんでいる」
と言語裡に肯定的なメッセージを発していた。
当時は言語化できなかったが、それが子ども心に嬉しかったのだと今では理解できる。
伊集院さん、瀧さんに対して今でもうっすらと親近感や好意を持っているが、この体験が起源なのだと思われる。

またこれらを承けて生じた「自分もゲームについて何か書きたい、作りたい」という感情、渇きは、消えない火種として残り続け、今の自分を強く形成している。
好きなゲームの魅力について饒舌に、理知的に、かつ熱情を持って語ることは当時の自分にとって何にもましてカッコよいことだったし、今でもそうあり続けている。


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フィスターの3作品についての連続記事

最終回はブラックアウト香港(BOHK)について

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Designer Alexander Pfister
Artist Chris Quilliams
Publisher eggertspiele + 7 more
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Case3: Blackout Hongkong
(1)作品紹介
(2)テーマ
(3)インタビュー
(4)メカニクス
(5)最後に――3作品を俯瞰して&最新作マラカイボについて





(1)作品紹介
概要:香港での停電からの復旧やレスキューを行う、リソース管理とデッキ構築ゲーム
人数:1~4人、3人ベスト
時間:初回=説明30分、プレイ人数×40分程度
重さ:モンバサ、GWTよりは少し軽い
言語依存:ほぼない
入手状況:日本語版出版のアナウンスは出ている、2019/9現在入手したいなら原語版を米アマゾンで買うしかないと思われる

大まかな魅力:

良くも悪くもとてもソロ感が強い
いかに手札をコントロールするか
リソースを効率的に運用するか
そういったリソース管理のパズルを楽しめるプレイヤーには、BOHKはもってこいだ
手元のパズル要素は悩ましいが、ちょっとした陣取りやカードの早取りなど、ある程度のインタラクションもある
とてもよくまとまっている良作
ただし、筆者にとってこの手のバランスのリソース管理ゲームは好みのど真ん中である
評価が甘くなっている可能性が高いので、そのあたりも差し引いて本記事を読まれた方が良いかもしれない
その他目立った欠点として、GWTと比較して、勝利点の経路があまり多くない
現状の拡張なしの状態だと「5回程度は全然楽しんで遊べるが、10回以上は少し見通しが良くなりすぎるかも」というような印象を持つ

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(2)テーマ

モンバサやGWTと異なり、歴史的な出来事がテーマではない
香港でかなり大規模な停電が起こった
今後数週間は復旧のめどが立たない
政府はあなた方を派遣し、状況を解決するために動き出した
復旧に最も寄与したプレイヤーが勝利する
史実ではないので、これ以上語るべき言葉を持たない

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参考:停電下の台湾


※追記
1971/8/16に台風が原因で香港大停電が起こっている
リンクはこちら
ゆえに、史実に基づいていないという記載を行ったが、誤記の可能性がある
ただし、もし裏設定があったとしても、BOHKはモンバサやGWTと違って、実際の地名がほぼほぼ出てこない
テーマ性はあまり感じさせないディベロップだと言える


(3)インタビュー

文字ベースのものは2019/9現在見当たらない
今回は、以下リンクの動画から紹介する
Gaming Rules! Podblast Episode 7 - Alexander Pfister: Great Western Trail, Port Royal, Blackout

筆者が面白いと感じた箇所がいくらかあったので、以下に箇条書きで記す
なお、BOHKパブリッシュ直後の録音で、基本的に作品紹介に終始しており、内容は少し薄い


①GWT

(GWTやモンバサのバランスがとてもよく、戦略の幅が広いというコメントを受けて)
バランス調整については、エッガートシュピールのエディターに大きな助力を受けた、とても感謝している

②BOHKのテーマ

・香港のテーマはパブリッシャーのオファーで決まった
・フィスターとしては、どうしても香港にしなければ、という理由はない
・今回は特にテーマについてリクエストしなかった
(口調としては「エッガート側から要請があったテーマだから応じたが、別にイヤではない」くらいな印象)


③BOHKのプレイ感

・モンバサとはとても似ているが、かなり違う
・特にカードを捨て札列から回収するときのルールの変化が大きい

④パブリッシュの間隔

・重ゲーはだいたい年1回くらいのペースで出そうと思っている
・また、それ以上のペースで出すとみんな消化できないだろう


⑤2019年新作のマラカイボ/Maracaibo

(2018年時点の情報であり、誤記含む可能性がある)

17世紀のカリブ海が舞台
・船を改良し、商品を積む
・ゲーム中にストーリークエストが存在する
・ゲームのなかで発展し、展開に応じてゲームボードが変化していく
・終了時、ゲームの終わりには、新しいタイルがめくられ、古い都市は衰退する
・1ゲーム目が終わるときに、ストーリーでいうところの第1章が終わる
・プレイヤーたちはやめてもいいし、第2,3章のゲームに進むかを選べる
・2019夏~の出版を予定している

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マラカイボ湖の位置、ウィキペディアより
ベネズエラ最大の湖で、海とつながっている
このゲームの時代の16~17世紀ごろには海賊などがいたのかもしれないが、調べてもあまり出てこず
むしろ「20世紀になって海底油田が発掘されてから発展した」という記述がよく見つかる
余談だが、英語発音だとマラケイボゥ、という感じに近い、通ぶりたい方は参考にされてください


(4)メカニクス
最後に、メカニクスについていくらか掘り下げる
モンバサに似た部分があるので、モンバサを下敷きに考察を深める
「フィスターはモンバサを作った経験から何を学び、ブラックアウト香港に何を活かそうとしたのか」を見ていく



考察を、
①資源とカード全体の設計
②カードルールの細かい変更点

の前後半に分ける


①資源とカード全体の設計

資源には下級資源上級資源がある
カードにも基本カードスペシャリストカードがあり、それぞれが対応している

下級資源が6種ある
・水
・本
・救急箱
・米
・工具
・ガソリン

これらはほぼ等価だ
すべて基本カードの赤・青・黄の基本アクションで取ってこれる
どの資源がどの色のアクションに対応するかはランダムで、毎ラウンドダイスで決められる

使い道は以下の2つだ
①カードを買うための支払い
変換アクションを行って上級資源に換える


上級資源はさまざまある
・万能資源のバッテリー
・資源変換に有用な輸送トラック
・探索アクションに用いるWi-Fi


など
多岐にわたる
基本的には
下級資源=エンジンを組むために必要
上級資源=勝利点を得ていくために必要

と思って良い

下級資源→上級資源に変換するためには以下の2方法がある
①紫のスペシャリストカードを使う
チェックマークアクションを行う

チェックマークアクションはBOHKの最大の魅力のひとつだ
モンバサとBOHKとをわかつ最大のポイントと言って良い
これは毎ラウンド得られる収入のようなもの
自分がやれるチェックマークアクションを増せば、単純な拡大再生産となる
数を増やして資源を回すと最高に気持ち良い

チェックマークアクションで下級資源を上級資源に変換する
変換して得た利益で勝利点を得たりカード購入を行って、エンジンを強化していく
こうしたパズルを組み上げていく気持ちよさがこのゲームの根底にある



②カードルールの細かい変更点

BOHKはおおむねモンバサと似ているのだが、2点重要な変更がなされている


1点目:資源の持ち越しが可能となった

モンバサでは、そのターンに出したカードのみを資源として適用した
お金しか持ち越せなかった
さらに、同種の資源を複数枚出さないとカード購入のときに意味がない
なので、カードの管理をミスると「永久にカードが買えず、全然強化できない」ということがまあまあ多発した(特に初回プレイなど)

反対に、BOHKでは、カード購入のために使う資源は何ラウンドでも場に置いておくことができる

場に残る情報は増えるが、資源の管理はとてもラクになった
多くのプレイヤーはBOHKのルールの方がストレスを感じにくいと思われる


2点目:カード予約→達成 の2段階方式となった

資源を払ってカードを買う形式のゲームの場合、

場に置いてあるカードを直接買う=直接方式
いったん予約して手元に移してから買う=予約方式


という2種類の方式がある
上記のように、直接方式予約方式とここでは呼び分ける
直接方式はスプレンダーカヴェルナなど
予約方式はブラックアウト香港以外だと、マルコポーロの旅路グランドオーストリアホテルクランズオブカレドニアなど

2015-11-21_104117
グランドオーストリアホテル(予約方式)の共有ボード
中央下部にゲストカードが並び、各プレイヤーは思い思いのカードを予約→達成していく


興味ない人は読み飛ばしてほしいが、以下ではゲームデザインにおける2つの方式の特徴の違いについて記す

直接方式のゲームは、取り合いのインタラクションがまあまあキツい
熟練したプレイヤー同士だと、
「相手が何を狙っているのか、今何を買えるのか」
を厳しくチェックし合う
重要なカードの場合、相手が買える状態(レディ)になった瞬間に、手を歪めてでも買いに走ることも多い


予約方式では、プレイヤーは一定守られている
一度予約スロットに置いたカードは他プレイヤーに奪われることはないので、自分の内政を優先して、好みのタイミングで購入することができる

直接方式予約方式は大差ないと思われるかもしれないが、上で挙げたようになかなかプレイ感が異なる

さらに直接/予約方式の違いを列記すると、

支払うリソースの数:

直接方式=少なめ、単純

予約方式=多め

【例】クランズオブカレドニアの契約タイル
一度予約してから資源を用意するまでに、1ラウンドくらいかかることが多い
重いコストのゲームは用意に手間がかかる
他プレイヤーに阻まれてしまうとげんなりするので、デザイナーは予約方式を採用し、プレイヤーの計画を破綻させないように工夫している
BOHKも支払うコストはまあまあ重い


カードの種類:

直接方式=ユニークで強力
【例】カヴェルナの勝利点系の部屋タイル
どれもとても強力だ
これがもし予約可能となると、先に予約したもの勝ちになってしまって、プレイ感はけっこう損なわれると思われる

予約方式=均等なバランス
たとえばグランドオーストリアの客カードでは、ある程度の強弱はあるものの、「どのゲームでも場に出た瞬間に予約したい」と思えるくらい決定的に強いカードはほぼない
だからこそ、先手番の人に良さそうなカードを予約されたとしても、「まあ、次のカードがめくれるし良いか」と気軽に構えることができる
BOHKのカードもユニークカードは存在せず、コストー効果のバランスがだいたい取れている


いくらか脱線したが、BOHKは予約方式であり、かつ予約方式の長所が活きるコスト感でカードが作られている
モンバサと比べると作りが丁寧で、筆者は好感を持っている



(5)最後に――3作品を俯瞰して

重ゲー3作品の比較検討は、数か月前にローゼンベルクについて行った
今回は2回目
フィスターはローゼンベルクとは似ても似つかない作風だが、設計のありようの変化にはどことなく共通点があると感じた
そのあたりを、うまく言語化できるか不明だが、最後に記述し連続記事を終える



アグリコラ(2007)→カヴェルナ(2013)→オーディンの祝祭(2016)と時代を経るにつれて、
・キツいインタラクションが減り
・手元のパズル要素が楽しく、小気味よいものとなり
・全体的に楽しいものになっていく

前作の魅力を残したまま、課題点がクリアされ、全体的に洗練されていく
ローゼンベルクにおけるオーディンは一つの完成形で、重ゲーの極致と言える
重ゲー路線の進化、その系統樹の最終形
筆者はオーディンの、その冗談みたいに重く、立方体に近いデカさの箱を持つと、何とも言えぬ感慨を覚える
進化の終着駅のような、そういうものに触れたような
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オーディンの箱
尋常でなく大きい

フィスターのBOHKはここまでの怪作ではない
かなりの良作だが、とてもきれいにまとまっているただ
BOHKの諸要素に、モンバサやGWTで培ったノウハウのようなものを感じる

モンバサのカードメカニクスの部分を再利用し、その面白さを最大限に活かしている
モンバサの株の複雑なインタラクションをそぎ落として、かわりに拡大再生産のエンジン構築を基調に据えた




最後に、モンバサには、明らかにフィスターのデザイナーとしての初期衝動が詰まっている
何せ14歳のころのアイディアを、20年以上経ってから結実させたのだ
愛着がないわけがない

訳す側としても、フィスターがモンバサについて語る場面では、ゲルツがインペリアルについて語るときのようなワクワクを感じた

また、マラカイボについても、インタビューを聴いた感じだと「フィスターも17世紀カリブ海というテーマへの愛着を持ってそう」という印象を覚える
プレイできる日を心待ちにしている


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gwt1


フィスターの作品についての連続記事
第2回はグレートウエスタントレイル(GWT)について


Case2:Great Western Trail
(
1)作品紹介
(2)テーマ
(3)インタビュー
(4)考察――キツい基本版、自由度を広げる北方拡張


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Designer Alexander Pfister
Artist Alexander Pfister, Andreas Resch
Publisher eggertspiele + 16 more


(1)作品紹介
概要:19世紀のアメリカ中西部を舞台にしたデッキ構築ゲーム
人数:2~4人、3人ベスト
時間:初回=説明40分、プレイ2時間半程度
重さ:初回プレイはとても重く感じるが、一度プレイすれば見通しは良い
言語依存:ほぼない
入手状況:アークライトからの日本語版が十分に流通している(2019/8現在)


(2)テーマ

グレートウエスタントレイルを直訳すると、偉大な西部の道のり
アメリカのロングドライブ、もしくはキャトルドライブという言葉をご存じだろうか
筆者はこの記事を作成するまで聞いたこともなかった

ロングドライブ
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Cattle drive

この写真の感じで、数百頭の牛をカウボーイたちが輸送していた


スクリーンショット 2019-08-30 16.18.22

キャトルドライブとは、上図のテキサスを出発して、牛の群れを率いながらカンザスを目指した長い道程のこと(南北の緑ルート)

カンザスで大陸横断鉄道に牛を積み込んで、西のサンフランシスコ方面へ出荷し、お金を稼いだ(東西の赤―青のルート)
帰りは牛がいないから、ゲーム的には一瞬で帰れる


大雑把な説明は上記だが、以下でもう少しテーマを掘り下げる

きっかけはゴールドラッシュだった

1848年、当時何もない僻地だったカリフォルニア州でが産出された
30万もの人間が押し寄せ、最終的に今の日本円で数兆円規模の金が採掘された
200人だったサンフランシスコの村落は、ゴールドラッシュの5年後には36000人にまで規模を拡大した
インフラは追いつかず、特に食料の枯渇が深刻だった

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サンフランシスコの港を埋める大量の船
船が渋滞している


一方、テキサスでは途方もない数の牛が余っていた

いきさつとは以下だ
①スペイン人が食用牛を連れてきてテキサスで飼っていた
②テキサスは領土をめぐる戦争で1848年にメキシコからアメリカに支配権が移った
③スペイン人は追い出されたが、連れていけない牛たちが取り残された
④アメリカ人は牛を食べる習慣がなかったので、ほったらかしにした
⑤牛たちがテキサスで大繁殖した(数百万頭規模)


アメリカ人は食べる習慣こそなかったものの、食えること自体は知っていたし、西側のサンフランシスコの食糧難も知っていた
また、東部でも高い牛肉の需要はあった
テキサスでは牛は金にならないが、出荷したら金になる
だいたいテキサスの相場の20倍で売れた
サンフランシスコでも、あるいは東海岸でもどこでもいいが、とにかく需要があるところに運ぼう
ということで、テキサスの男たちは、馬に乗って、余った大量の牛たちを運んだ
目的地は、北へ2000キロ、大陸横断鉄道の主要駅があるカンザスシティ
オクラホマの険しい山
牛泥棒
好戦的なインディアン

こういった様々な困難が彼らを阻んだ
プレイヤーはこの馬に乗った男たちとなり、テキサスからカンザスシティへの険しい行程を進む
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(3)インタビュー

https://theplayersaid.com/2016/12/08/interview-with-alexander-pfister-designer-of-great-western-trail-by-stronghold-games/
上記リンクの記事をもとに再構成した
※すでに和訳公開などがある可能性があり、その場合は大変申し訳なく感じる(検索した限り見当たらなかった)
※意訳、改変行っている(本記事の目的と関わりがない部分をかなりカット行っている)



①GWTのインスピレーションを与えてくれたものはありますか
また、テーマ/メカニクスのどちらが先行ですか
メカニクス先行だ、いつもそう、モンバサのときもそう

GWTで最初に考えたのは、建物タイルだった
全プレイヤーが同じルートを通る
そこに自分用の建物タイルを建設すると、インタラクションが生じる
それが始まりだった
カウボーイのテーマは後乗せだ
そのあたりの時代のアメリカ、というので行こうとは思っていたから、
・油田の採掘
・ゴールドラッシュの金鉱掘り

とか他のテーマもいろいろ考えていた
最終的に、西部のカウボーイが一番しっくりきた

カンザスシティまで、牛飼いたちは何度も何度も同じルートを通って、牛を運び、お金を稼ぐ
このゲームでは、なんどもふりだしに戻っては決算ができるあがりマスを目指して旅を行う
このあたりのテーマとメカニクスの連関がとても良いと感じたんだ
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②GWTはさまざまなメカニクスのサラダです
そのなかで、主となっているものはありますか?
また、採用はされなかったが試作段階では存在していたメカニクスみたいなものはありますか


さっきもいったように、全プレイヤーが同じルートを通る
建物タイルで止まることで固有のアクションを実行する
これがアクションのコアとなるメカニクスだ
変則的なロンデルだね
ロンデルとは、
・一方通行の道で、止まったマスでアクションする
・1~3歩など、歩数を自分で選べる
出目を自由に決められるすごろくのようなものだ

GWTではロンデルとは異なり、プレイヤーが建設を行うことで構造に関与できる
建設によってマップを書き換えることができるんだ
また、一部分岐路もある
変則ロンデルと言って良い
ロンデルのゲームは好きなんだ
というのも、
「あと1~3マス動ける
ってことは次のターンできるのは3択
となると、あれかこれくらいか」

っていう風に、選択肢が適度に狭まるから

この部分のメカニクスを固定して、GWTの設計が始まった



アクションのコアの部分を固定したのちには、種類を決めていった
GWTではワーカーを雇うことで、特定のアクションを特化し、強化することができる


プレイヤーは各方面に強化をし、得意なアクションを伸ばしていく
ワーカーはカウボーイ、機関車技師、大工の3種類がある

カウボーイを増やすと、牛購入アクションが強化できる
牛を買うと、毎ラウンドの決算での収入がどんどん上がる

機関車技師を増やすと鉄道アクションを強化
鉄道を進めると様々な恩恵を得られる

大工は建設アクションを強化してくれる
大工によって建物を建てると、自分だけが使える強力なアクションマスを増やせる


③GWTの目指しているものはなんですか?
つまり、プレイヤーにどういった体験をさせたいのですか?


・プレイヤーが長期的な視野でプランを立てられること
・ダウンタイムが長くならず、テンポよくゲームが展開すること

この2点を目指した

ボードゲームにおいて、プレイヤーは未来に対して計画を持つ
GWTだと、
・早く決算マス(双六のあがりマス)に行きたい
・強力なアクションを打ちたい


のように
そしてモンバサのインタビューでも話したが、僕は同時解決のメカニクスが好きだ
ダウンタイムが減るからね
GWTは手番制のゲームだが、ダウンタイムはあまり長くない
さっき言ったように、毎ターンの選択肢が3択くらいしかなく、やるべきこと/やりたいことがクリアだからだ

さらに、他プレイヤーの直前の干渉によって、予定していたアクションを潰されるということもほぼ起きない
もちろん、長い目で見るとワーカーの取り合いや建物タイルの建設などのインタラクションは大きい
ただ「直前のアクションによって計画が丸つぶれになる」ということはまずない
だから、相手の手番で前もって計画し、自分のターンが来たらすぐに実行できる

長期的な戦略性が高く、選択肢も多い
しかし、1ターンごとの選択肢は多すぎない

このゲームではそれを目指して実現することができた


④制作に要した期間は?
テストプレイヤーのインプットをどのくらい入れました?
変更の具体例など



初期のマップがこれだ
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開発初期のマップ
アメリカ大陸の形をしている
分岐路があったり、白い四角のマスがある
どことなくGWT感がなくはないが、下書き感が強すぎて、ちょっと判読が難しい


GWTは2011年から着手し始めて、2016年にリリースすることができた
なので、5年がかりになる
最初は建物にワーカーを配置して活性化するルールだった
今のように個人ボードにワーカーのタイルを置くのではなく、盤面にワーカーコマを置いていた
またワーカーは最初は3種でなく、1種類だった
あとは決算の方式も違った
「全員がゴールマスに着くのを待って、また振り出しから始める」というルールだった
なので、ダラダラたくさんアクションをする方が、いくつか余分にアクションができ、有利だった
このルールを捨てて、全プレイヤーのアクション回数を公平にしたのは重要な変化だったと感じる

決算まで待つ方式でもゲームとしては機能した
ただ、「このままだとどこかで頭打ちになってしまう」というような、そういう直感があった

あとは、決算時にディスクを配置できるが、「各都市に配置できるディスクはひとり1個まで
としたルールも重要であったと感じる
・デッキの持っている最大パワーを活かしたい
・無駄に手数を割いてまで手札を整えたくない
・ディスク配置の縛りもキツい

という三重の苦労をプレイヤーは解決することになる
デッキのパズル要素をとても面白いものにできている



⑤初期デッキについて、どのように捉えたらいいですか

牛14枚のカードが初期デッキだ
1パワー5枚、と2パワーが3種3枚ずついる
3パワー以上の牛は、市場でしか買えない
そのためにはカウボーイを増やしたい

初期デッキはとても弱い
手札が理想的にバラけた場合でも、決算で得られるのは2-2-2-1の7金が最大収入だ
あとは、手札を破棄するアクションも用意はしている
価値の低い初期デッキを適宜捨て札にしていく戦法も取ることができる



⑥カンザスシティまでの道のりはどういった意図で設計しましたか


4人戦の場合、最初は1ターンに4移動力まで持っている
ゲーム中に最大7移動力まで増やせる
2ルートに分岐するポイントが6か所ある

交差点は地理的にとても大事なので、各交差点には、必ず中立の建物を置くようにした
1プレイヤーが占有できてしまうと、有利すぎるからだ
中立の建物は全プレイヤーが利用できる

分岐路では、各プレイヤーが希望のルートを選ぶ
たいていの場合、片方のルートは災害タイル=プレイヤーを邪魔するものが配置されている
落石や洪水といった災害を踏んで、乗り越えるたびにプレイヤーは1~2金を失う
だからゲーム開始時は皆舗装されたルートを通る
ただ、他プレイヤーが舗装ルートに妨害系の建物を建てているときがある
この場合は、相手に1~2金を払わないといけなくなる
また、災害タイルはどかすことができる
どかすにはお金が必要だが、終了時の勝利点をいくらかもたらしてくれる
もしたくさんの災害が片方のルートにあるなら、もう一方のルートに妨害系の建物を仕掛けると、お金を儲けられるかもしれない
そういう風に、このゲームでは選択肢が多く設けられている

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⑦建物タイルについて、もう少し詳しくお聞かせ願えますか

建物タイルは、自分の希望のアクションを、希望する位置に建てることができる
たとえばカウボーイ特化で行く場合は、ふりだしにできるだけ近いマスに、自分用の牛購入タイルを建てると良いかもしれない
お金を持っているうちに牛を買えると良い
また、単純に、中立タイルだけを使うとしたら、すべてのアクションは1回ずつしか打てない
だから、もし機関車技師で特化している場合は、線路アクションができるマスを建設すると良いかもしれない
1決算までに2回以上列車を進められて、ゲームを有利に運ぶことができる
さらに、どの建物タイルも中立のアクションよりも少し強力なので、そこにもメリットがある

⑧デッキと、牛カードのセットコレクションについてお話願えますか

とても重要なことだが、デッキ構築は、GWTのメイン要素ではない
あくまで諸要素のうちのひとつ、小さな一部分だ
もしプレイヤーが重点を置いて、
・初期デッキの圧縮
・カウボーイの雇用
・牛の大量購入

で、デッキ強化をバンバンやるなら、それに見合うだけの点数とお金をもたらしてくれる
ただ、これはあくまで特化できるルートのひとつだ

たとえば収入を得たいのなら、牛で行くのではなく、証明書を集めてもいい
証明書は使い捨てだが、決算時の収入を底上げしてくれる
建物のなかには、毎ラウンド証明書をもたらしてくれるものもある
また、駅舎ルートで行くなら永久証明書も得られる
永久証明書を得るのは容易ではないが、使ってもなくならないのでとても強力だ

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ウェストハイランド種の牛
ゲーム中の4パワーの茶色のカード


⑨ってことは、牛なしでも勝てるってことですか
どうやってですか

できる
このゲームには3つのメイン戦略がある

・カウボーイ&牛
・技師&列車
・大工&建物


1種類のワーカーを増やすと、1アクションあたりのパワーが強化され、効率が良くなる
ただ、「完全に1種だけで特化する」というのは現実的ではない

たとえばカウボーイで行くにしても、補助的な建物を建てた方が動きやすいだろう
さらに、いくらかでも列車を進めておかないと、収入時に支払うお金もえらいことになって、全然儲からない
テーマ的には以下のようになっている
牛をテキサス→カンザスにまず陸路で運ぶ
そのあとに、カンザスからは鉄道で各地へ輸送し、お金を稼ぐ
プレイヤーは鉄道に投資することによって、牛の輸送コストを下げられ、それによって決算時に高い収益を得られる

⑩インディアンのテント/Tipiの意味合いはどう捉えたらいいでしょう
プレイヤーにどういった利益を与えてくれますか


インディアンタイルや災害タイルは、目的カードの条件を満たすのが主な役割だ

インディアンのティッピータイルを取る=インディアンと交易している
というフレーバーだ
インディアンのタイルが場に多く出ているほど、インディアンの集落がプレイヤーたちの近くにまで来ている、ということを表す
なので、交易によるお金の損失が出ず、逆に利益が出ることもある
たくさんのプレイヤーがインディアンタイルを取ると、インディアンの集落は遠くまで下がっていく
こうなると逆に交易コストは上がり、損失が出ることになる

USA-AN-INDIAN-CAMP-TEEPEES-Engraving
インディアンのキャンプ
プレイヤーはインディアンのタイルを取る際、-7~+10金のお金を得る


⑪ワーカーのコストがなかなか高いですが、「何から買う、どのように買う」といった戦略はありますか

ワーカーは5,6人目が4勝利点ずつもたらしてくれる
また、特定の人数を雇ったときにボーナスアクションをもたらしてくれる
機関車技師において、ボーナスアクションはとても重要になってくる
が、技師以外でもこういったボーナスアクションはとても大事だ
駅舎に労働者を配置してしまうと、せっかくの労働者を減らしてしまうのはつらい、とためらうプレイヤーもいるかもしれないが、思い切って配置してしまうと良い
そうやって労働者の切り捨てによってボーナスアクションを複数回行うと、勝利に近づくことができるだろう


⑫個人ボードの視認性について工夫した点など
言語依存を極力排した
手番の進行をサマライズしたものを上部に配置した
中央の広いスペースにワーカータイルを置く
左部分にはディスクを置いてあり、解放すると特殊アクションが打てるようになる
ディスクは特殊アクションだけでなく、移動力や、手札上限の解放をもたらしてくれるものもある
移動力と手札上限はこのゲームにおいてとても重要だ
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⑬中立の建物タイルは、推奨配置とランダム配置があります
どのようにゲームが変わりますか


初回は推奨配置が望ましい
2回目以降では、中立の建物タイルをランダム配置しても良い
また、3回目以降では、建物タイルのA面B面も混ぜて遊ぶのも良いだろう
ただ、全プレイヤーの組み合わせを同じにするのがとても大事だ
そこの初期条件が違うと、全然ゲームが成立しなくなってしまうから





(4)考察 キツい基本版、自由度を広げる拡張

最後に、拡張によって得られるプレイ感の変化について記述し本記事を終える
GWTは、現在「北部への道/Rails to the North」が存在する
結論として、「基本版のキツさと自由度の低さが、拡張によってかなり改善され、良いものになった」と筆者は感じる


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以下に所感を箇条書きする

基本版:

建物で相手をジャマするのも、されるのもあまり楽しくない
基本版だけだとカウボーイがとても強いため、後手番に回った人がカウボーイが取れず、仕方なく建物路線を選ぶことも多い

北方拡張:

選択肢が増える
路線ごとのバランスも良くなる
全体的にとてもプレイ感が改善される



建物を建てることで、プレイヤーたちは余計にお金と移動力を支払う必要が出てくる
特に序盤はこの1,2金の支払いがとてもキツい
そのせいで計算が狂い、1労働者、1牛が思うように買えない、ということも多い

ただ、このキツさはテーマの再現の上では有用であるとも感じる
テキサス→カンザスの道はとても険しい
オクラホマの山を越え、橋のかかっていない河川を渡河し、ときには賊やインディアンと戦う必要まである
その道程は2000キロにも及ぶ

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オクラホマの山々

これだけハードなテーマなのだから、イージーに拡大再生産させるのではなく、いくらか思うようにならないシビアな要素を加えるのは、テーマ再現を優先する観点からは理にかなっている


ただ「建物の建設が純粋に相手の妨害にしかならない」というのは正直あまり好みではない

たとえば、前述のモンバサとはまったく逆
モンバサでは株で強く相手とインタラクトする
ざっくり序盤は相乗り、終盤は殴り合い
「相手がこう出るから、自分はこう動く」
という非言語的な対話のようなものがある
それがとても楽しい

あるいは、GWTとはまったく毛色が異なるが、ケイラス/マグナカルタというゲームがある
ワーカープレイスメントで、一本道にアクションスペースを建設していく
一本道は全プレイヤーが共用で使用する
ケイラスでは他プレイヤーが建てたアクションスペースを使うことができるし、使ってもらうと土地の持ち主も少し利益を得られる
世界を改善することで相互利益が生じる、自由主義経済のようなゲームだ

GWTの建設は、残念ながらそういった豊かな対話は起きづらい
お互いの動きを見て戦略を練り、ぶつけ合う、というようなこともまずない

ただしGWTはとても要素が多いゲームだ
ゲーム自体としてはモンバサよりもやや軽いが、勝利点の経路ごとにゲーム内ミニゲームがあると言って良く、全体としての複雑さは引けを取らない
だから、他プレイヤーとのインタラクションを一定減らすことは必須だ
たとえば、「他プレイヤーの建物も利用できる」とか、そういった要素を足すだけでもプレイヤーは大きく戸惑うと思われる(小さな改変でも各アクションの選択肢を大きく増やしかねない)
建設での他者とのやりとりを極力シンプル化するのは、設計のありようとしては適切だと感じている

――――


次回記事ではブラックアウト香港を取り上げる
そこではよりインタラクション要素がGWTとは別方向で簡素化され、かわりに手元でのパズルの面白さがブーストされている

bohk




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