ワイマールは4人専用の異作
プレイし、言語化する価値を感じたので記事化する
*記事作成にあたって、ミミー氏、はぬ氏、戸塚中央氏に画像提供、案出し、プレイ等で協力いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
―――
(1)基本情報
(2)テーマ
①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
プレイし、言語化する価値を感じたので記事化する
*記事作成にあたって、ミミー氏、はぬ氏、戸塚中央氏に画像提供、案出し、プレイ等で協力いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
―――
(1)基本情報
(2)テーマ
①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
②vsデンマーク
③vsオーストリア
④vsフランス
⑤ドイツ統一への他列強の反応
⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890
⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914
⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918
(2)おおまかな長短所
①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル
②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作
③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑
④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無
⑤マルチエンド制は◎
(4)考察:個別カードの読解
①市井の力、国会選挙
②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル
③ヴェルサイユ条約
④エーベルトの死去
⑤シュトレーゼマン/DVP(ドイツ人民党)
⑥シュトレーゼマンの死去
(5)総評
①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
ドイツ地方、今はドイツ連邦とオーストリアから成るが、ドイツ帝国ができるまでは数か国が割拠していた
・プロイセン王国
・オーストリア帝国
・バイエルン王国
など
この数か国をまとめあげドイツ帝国を作った立役者が、プロイセン王国のヴィルヘルム1世(国王)&ビスマルク(首相)のコンビ
ドイツ全土が統一されたのは史上初の快挙
本当に乱暴にたとえると織田や徳川のドイツ版って感じ
ビスマルク(1815-1898)は、しがない地主貴族の出
③vsオーストリア
④vsフランス
⑤ドイツ統一への他列強の反応
⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890
⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914
⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918
(2)おおまかな長短所
①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル
②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作
③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑
④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無
⑤マルチエンド制は◎
(4)考察:個別カードの読解
①市井の力、国会選挙
②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル
③ヴェルサイユ条約
④エーベルトの死去
⑤シュトレーゼマン/DVP(ドイツ人民党)
⑥シュトレーゼマンの死去
(5)総評
Weimar: The Fight for Democracy (2023)
Alternate Names Weimar: Der Kampf um die Demokratie + 1 more
Alternate Names Weimar: Der Kampf um die Demokratie + 1 more
Designer Matthias Cramer
Artist Christian Opperer
Publisher Spielworxx + 3 more
(1)基本情報
人数:4人
時間:120-360分 (6ラウンド制で1R60分、4-5Rで終わる場合が多い)
複雑性:3.86 (参考値:アークノヴァ=3.74、テラミ革新の時代=4.26)
ランク: 5300位 (2023/12/18)
要素:カードドリブン、綱引き、ダイス判定、ネットワーク構築、ドイツ近代史、ワイマール共和国、ナチズムと共産主義に対する民主主義の戦い、4人専用
言語依存:大(ほぼすべて非公開情報)
流通:ホビージャパンから日本語版が発売、とても質が高い
人数:4人
時間:120-360分 (6ラウンド制で1R60分、4-5Rで終わる場合が多い)
複雑性:3.86 (参考値:アークノヴァ=3.74、テラミ革新の時代=4.26)
ランク: 5300位 (2023/12/18)
要素:カードドリブン、綱引き、ダイス判定、ネットワーク構築、ドイツ近代史、ワイマール共和国、ナチズムと共産主義に対する民主主義の戦い、4人専用
言語依存:大(ほぼすべて非公開情報)
流通:ホビージャパンから日本語版が発売、とても質が高い
デザイナー:
マティアス・クラマーは52歳前後の兼業デザイナー
化学業界のITコンプライアンスマネージャーが本業
(マティアス・クラマー/Matthias Cramerインタビュー記事について (kanana82.wixsite.com)より)
代表作:
・グレンモア(2010)
・クラフトワーゲン(2015)
・ウォーターゲート(2019)
Watergate(2019)
(2)テーマ
相当長いため適宜読み飛ばし推奨
化学業界のITコンプライアンスマネージャーが本業
(マティアス・クラマー/Matthias Cramerインタビュー記事について (kanana82.wixsite.com)より)
代表作:
・グレンモア(2010)
・クラフトワーゲン(2015)
・ウォーターゲート(2019)
Watergate(2019)
本作はワイマール共和国の歴史再現
ワイマール共和国とは、
・1919年にドイツ帝国が滅亡
・1933年にナチス第三帝国が成立
この前後に挟まれて15年弱存在した政体
史実だとあっけなくナチの台頭を許した時代のあだ花のような国家
各党の党首となったプレイヤーたちは共闘してナチを退けつつ、自党へ利益誘導すべく混迷の時代を戦っていく
いきなりゲーム開始年代まで飛んでもいいのだが、前段階のドイツ帝国が生まれた経緯をまず描く・1919年にドイツ帝国が滅亡
・1933年にナチス第三帝国が成立
この前後に挟まれて15年弱存在した政体
史実だとあっけなくナチの台頭を許した時代のあだ花のような国家
各党の党首となったプレイヤーたちは共闘してナチを退けつつ、自党へ利益誘導すべく混迷の時代を戦っていく
相当長いため適宜読み飛ばし推奨
要約すると以下
・天才ビスマルクの神外交でプロイセン王国からドイツ帝国に拡大(1860-1890)
・2代目(ヴィルヘルム2世)の失策で外交貯金を切り崩し孤立(1890-1914)
・孤立から脱せず第1次大戦スタート、敗戦(1914-1918)
・敗戦の引責でドイツ帝国は解体縮小、ワイマール共和国創始(1919-)
・天才ビスマルクの神外交でプロイセン王国からドイツ帝国に拡大(1860-1890)
・2代目(ヴィルヘルム2世)の失策で外交貯金を切り崩し孤立(1890-1914)
・孤立から脱せず第1次大戦スタート、敗戦(1914-1918)
・敗戦の引責でドイツ帝国は解体縮小、ワイマール共和国創始(1919-)
①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
ドイツ地方、今はドイツ連邦とオーストリアから成るが、ドイツ帝国ができるまでは数か国が割拠していた
・プロイセン王国
・オーストリア帝国
・バイエルン王国
など
この数か国をまとめあげドイツ帝国を作った立役者が、プロイセン王国のヴィルヘルム1世(国王)&ビスマルク(首相)のコンビ
ドイツ全土が統一されたのは史上初の快挙
本当に乱暴にたとえると織田や徳川のドイツ版って感じ
ビスマルク(1815-1898)は、しがない地主貴族の出
強力な後ろ盾はなかったが有能さを武器に出世
ヴィルヘルム1世(当時65歳)に見込まれて、47歳で首相に任命される
任命後の首相演説で、
ビスマルク
「プロイセンに必要なのは投票や多数決といった民主主義的なやり方ではない。
血(軍隊)と鉄(兵器)だけ!!」
とぶち上げる
あまりに議会を軽視しており、議員たちはドン引き
Blut und Eisen(ブルートウントアイゼン、血と鉄)の演説から、鉄血宰相とややマイナスイメージであだ名される
議会との関係は最悪だったが、ビスマルク、外交巧者というか、とにかく他国に難癖をつけて開戦に持ち込むのが上手かった
Otto Eduard Leopold von Bismarck-Schönhausen(1815-1898)
②vsデンマーク
就任2年後の1864年
ビスマルク(プロイセン)
「おいデンマーク、ウチが目かけてる小国(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国)を、お前勝手に取ろうとしてるだろ??」
デンマーク
「いや、やってないっすよ」
ビスマルク(プロイセン)
「いややってた。
オーストリアさんも見てましたよね?」
オーストリア
「見てた。
あいつら良くないよな、やっちまおう」
でプロイセン&オーストリアvsデンマークで開戦、戦勝
③vsオーストリア
ビスマルク
「この2公国をどう割譲するかだけどさ、ウチが欲しいんだけど、いい?
ほら、ちょうどウチと陸続きだしさ、きっとこの国も統治されたがってるよ
(両公国が取れると相当良い位置に軍港が作れるんだよな~!意地でも欲しい)」
オーストリア
「いやいや、ないでしょ(笑)
絶対ダメ、山分け(共同管理)以外ないでしょ
最悪その2つはあげるから、代わりに代償地としてどこか領地分けてよ」
ビスマルク
「それはないな…
ちょっとウチら、話し合いじゃ無理かもな!」
でオーストリアと開戦(1866年,普墺戦争)、戦勝!
戦争の端緒となったシュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国(薄い赤と青の地域)
④vsフランス
ビスマルク
「オーストリア、併合まではいけなかったけど短期決戦で戦勝講和できたぞ~!
これでドイツ北部の覇権は確立されたな
あとは南部なんだけど、フランスの影響下にあって、このままだと統一は無理だな…
一回因縁つけてフランスもボコすか!」
フランスが理不尽な要求を全ドイツに対して叩きつけてきた感じになるよう全力で外交工作
ドイツ諸国の反仏感情を煽りまくる
そのうえで他のドイツ諸国&プロイセンvsフランスで開戦!(1870年、普仏戦争)
1871年戦勝!
宿敵フランスを打ち滅ぼした英雄プロイセン、ドイツの盟主プロイセン、という機運のもと、同年ドイツ帝国が成立
⑤ドイツ統一への他列強の反応
フランス
「ドイツなんて、ずーっと諸国で分裂しててくれりゃよかったんだよ
それがビスマルクとかいうカス野郎、ウチをボコった上にアルザス・ロレーヌまで奪っていきやがった
絶対許さん、いつか見とけよ」
オーストリア
「ウチもフランスと同じ敗戦国なんだけど…
国力ではドイツ帝国に大きく劣るし、しかも民族構成がかなり似てる
あちらにはこっちを併合する理由がありすぎる
頼む、殴らないでくれ~!」
イギリス
「”史上初のドイツ全土統一”ってのは、ちょっとさすがに悪目立ちしすぎ
見過ごせないな」
ロシア
「ウチとフランスでドイツを挟む地勢なんだけど、フランスが落とされるとパワーバランス的にかなりきついな
これ以上ドイツが増長するようなら、ちょっと腕ずくでシメるか」
ここまでデカくなると他国から目をつけられる
日清日露で大勝した大日本帝国を思わせる
⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890
が、マルチの鬼ビスマルク、ここでも外交能力(ヘイト管理能力)が光る
・本当にもうこれ以上領土拡大する気はない
・他列強の本土だけじゃなくて、アフリカとか新世界方面の植民地も奪いに行かない
と内外にアピール
言葉に偽りなく、実際に失脚する1890年までこの路線で外交を展開
ビスマルク
「フランスとの関係性だけは完全に終わっている、修復不可能
全面戦争したし、相当強く殴った(アルザス・ロレーヌ割譲した)からしゃあない
だからあそこだけはずーっと仮想敵国として想定する
軍事力レースの手は緩めないし、国境線から軍隊は引きあげず、警戒の手は緩めない
裏から手を引いてバチバチに内政にも干渉する
でもそれ以外の諸列強(イギリス、ロシア、オーストリア=ハンガリー、イタリア)とは全然話が通じるはず
彼らが対独大連合を組むのだけは絶対阻止したい
対仏大連合を組まれて袋叩きに遭ったナポレオンの轍は踏まない
フランスが落ちた今、ウチ(ドイツ)、イギリス、ロシアの3強
英露の片方とだけ接近するのは避けよう
いい感じでヘイトコントロールして、列強の盟主、3強の一角としてこの有利盤面を維持する」
結果的にこの方向でドイツ帝国は繁栄し、国力を大いに伸ばした
植民地を取りに行かなかった一手は一見悪手にも見えるが、結果的に植民地をめぐるイギリスvsフランスの対立を延長させ、英仏接近が回避できた
A Few Acres of Snow (2011)
英仏のケベックでの争い(1754-1763)が描かれる
ヴィルヘルム1世&ビスマルクチームの躍進は1862年から1888年まで続き、この時代の名はビスマルク体制と呼ばれる
が、1888年、ヴィルヘルム1世は91歳で崩御
孫にあたるヴィルヘルム2世が27歳の若さで即位
ヴィルヘルム2世
「おじいちゃんと一緒にやってたビスマルク(73歳)とかいうじいさん、功績はすごいんだけど…
これだけ国力と軍事力があって植民地を一切取ろうとしなかった消極的な姿勢はダメだな
普通にやってたら何個か植民地取れてたでしょ
しかも俺のやりたいようにやらせずに、一生グチグチ言ってくるし、何してるか分からんし
罷免(リストラ)しよ」
とビスマルクを辞職させ、政体を独裁(親政)に移行
Friedrich Wilhelm Viktor Albert von Preußen(1859-1941)
⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914
「イギリス、ロシアの両方とつかず離れずをキープせよ。片方とだけ接近するな」
というビスマルクの外交路線をさっそく破棄し、新生ドイツはイギリスと急接近
イギリスはアフリカを鉄道で南北縦断したいってプラン(ケープ・カイロ計画)を持っていた
敷設計画上にあるドイツ植民地を渡すかわりに別な植民地をもらうという、イギリス有利の交換条約(ヘルゴランド=ザンジバル条約,1890年)
ロシア
「イギリスとウチはアフガニスタンとかをめぐって、もう全力でアジア全域でグレートゲームをやってる真っ最中
ドイツお前、アフリカに鉄道通させるってことはイギリスの兵站を支援してるわけだよ
それがどういうことか分かってるよな?」
とキレてしまう
交換条約が刺激剤となり、ロシア&フランスが接近、露仏条約(1891年)が締結
しかも戦艦の増産を急ピッチで始めたことで、本命の同盟候補のイギリスからも、
「お前、海軍力でウチと張り合う気か?戦いたいのか?」
と警戒されてしまう
ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「海軍力を高めたのはアフリカ植民地を取るのに必須だからであって…
イギリスの海洋覇権をどうこうする気はないです…
なんなら独英同盟結びたいです(1901年)」
イギリス
「うちと結ぶってことは、ロシアと開戦する可能性も全然あります
あなた、本当にやれますか?」
ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「いや…うーん…」
態度の決まらないドイツを見限ったイギリスは同盟相手に日本を選択
1902年日英同盟締結、1904年日露戦争開始
またビスマルクじいさん、実はイギリスとフランスの仲が悪くなるようずーっと裏で工作していたのだが、そのあたりの外交工夫が途絶えたせいか英仏も接近、英仏協商(1904年)
さっきの植民地交換条約の英仏版
日露戦争は1905年日本の勝利に終わり、ロシアの地位は相当落ちる
イギリス(列強暫定トップ)
「ロシアが逝った~!!!
ずーっとロシアをライバルとして叩き続けたけど、もう潮時だな
次シバくのはドイツでしょう
今やドイツがウチの覇権のいちばんデカい脅威」
ドイツは「列強の全員が敵」という最悪の状態で10年ほど過ごす
孤立無援のまま手数を全部注いで軍拡を押し進めるが…
⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918
1914年、オーストリア=ハンガリーの皇太子の射殺を機に第一次大戦勃発
開戦後、ヴィルヘルム2世は統治能力を失い、ルーデンドルフ参謀本部次長が実権を握る
厳しい戦況ながら粘るも、ドイツの旗色は年々悪化
1918年、全リソースをvs英仏国境にぶちこんで、ワンチャン壊滅させ、どうにか有利な講和を引き出せないか賭けに出る(西部大攻勢)
が、押し切れず後退
同年9月、
ルーデンドルフ(政府発表)
「(さすがに敗戦とは言えんしな…)
国民諸君、休戦の方向で考えている」
これによって国民は「あ、これは敗戦が濃厚なやつだ」と察してしまい、民心が離れ革命の機運が高まっていく
同年11月1日、キールの水兵の反乱
兵士と労働者が兵営を占拠、共産主義的な労兵評議会(レーテ、ロシアにおけるソヴィエト)を設立
11月7日、ミュンヘンでも評議会が蜂起
バイエルン王(ヴィルヘルム2世の部下的な)が退位
11月9日、これらを承けてベルリンでゼネスト(全職業の労働者によるストライキ)が勃発
要求はヴィルヘルム2世の退位
第一次大戦敗戦についての引責辞任って感じであり、側近らも妥当な要求と判断
退位を呑むよう説得するも、長期独裁に慣れ切ったのかヴィルヘルム2世は「絶対退位しない」の一点張り
「このままだと国家転覆する」と判断したのか、皇太子のマクシミリアンが独断で父親と自分の退位を宣言
さらに政権与党であったSPD(社会民主党)のシャイデマンが帝政(君主制)から共和制への移行を宣言
この宣言によって成立した国家がワイマール共和国
ここでプレイヤーらが登場する
・SPD(社会民主党、左翼連立与党)
・Z(中央党、右翼連立与党)
・KPD(共産党、極左野党)
・DNVP(国家人民党、極右野党)
の4陣営に分かれて戦う
おおまかに、
・SPD&Z=6ラウンドのあいだ共和国を崩壊させず、維持させたい
・KPD=共産主義革命を成立させ、国家転覆したい
・DNVP=宿敵フランスやイギリスのご機嫌伺いをやってるような腰抜け政府をクーデターで打倒し、王政復古したい
このあたりを狙っていく
(2)おおまかな長短所
①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル
ルールはシンプル
作者の前作に2人用のウォーターゲート(2019)があるが、これを単純に4人用に拡張した感じ
インストは30-45分、ウォーターゲートかトワイライトストラグルをプレイ済なら20分程度
各陣営は12枚からなる固有のカードデッキを持つ
カードはAPを使って通常アクションをするか、イベントとして解決する
イベントとして解決する場合は一部例外を除いてデッキから除外
固有デッキとは別に2種各5枚の強化セットがある
プレイヤーは望むなら、ラウンド開始時に5枚一気に初期デッキに加えることができる
・都市の制圧
・議会での議論
・新たな勝利点獲得手段
などセットごとに得意不得意があり、どの勝利条件を狙うか定まり始めた中盤(2-3R目)に片方のセットのみ投入される場合が多い
また共通のタイムラインカード(史実のイベントカード)のデッキがある
毎ラウンド固有デッキからカード3枚、タイムラインデッキから2枚引き、計5枚を手番順に1枚ずつプレイ
カードを使い切ったらラウンド終了
たまに5枚でなく6枚引いたり、5枚使い切れない場合もあるが、基本は5手
5手×6ラウンド=30手のゲーム
Watergate(2019)
②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作
ウォーターゲートだとデッキが何回転もする
・APの低いカードを除外してデッキの出力を高め、対戦相手との綱引きで優位に立つ
・人物カードによる対応(MtGのインスタントの打ち消し呪文)の熱い応酬
など、かなりボードゲームとして面白かったが
本作のデッキは、ただのランダマイザに成り下がってしまっている感が否めない
・12枚の固有デッキ
・初期の固有デッキとは別で2つの強化セット(5枚の強カード)を投入する
・固有デッキとは別でタイムラインデッキもある
・1ラウンド3枚引く
・最大6ラウンド(5ラウンド目の途中で終わる場合が多い)
やってみるとわかるが、全然引けなくてデッキが回らない
デッキを整えて出力を上げるような暇があまりない
コントロール感、圧縮できている感はかなり薄い
なお参考までにウォーターゲートは、
ヴィルヘルム1世(当時65歳)に見込まれて、47歳で首相に任命される
任命後の首相演説で、
ビスマルク
「プロイセンに必要なのは投票や多数決といった民主主義的なやり方ではない。
血(軍隊)と鉄(兵器)だけ!!」
とぶち上げる
あまりに議会を軽視しており、議員たちはドン引き
Blut und Eisen(ブルートウントアイゼン、血と鉄)の演説から、鉄血宰相とややマイナスイメージであだ名される
議会との関係は最悪だったが、ビスマルク、外交巧者というか、とにかく他国に難癖をつけて開戦に持ち込むのが上手かった
Otto Eduard Leopold von Bismarck-Schönhausen(1815-1898)
②vsデンマーク
就任2年後の1864年
ビスマルク(プロイセン)
「おいデンマーク、ウチが目かけてる小国(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国)を、お前勝手に取ろうとしてるだろ??」
デンマーク
「いや、やってないっすよ」
ビスマルク(プロイセン)
「いややってた。
オーストリアさんも見てましたよね?」
オーストリア
「見てた。
あいつら良くないよな、やっちまおう」
でプロイセン&オーストリアvsデンマークで開戦、戦勝
③vsオーストリア
ビスマルク
「この2公国をどう割譲するかだけどさ、ウチが欲しいんだけど、いい?
ほら、ちょうどウチと陸続きだしさ、きっとこの国も統治されたがってるよ
(両公国が取れると相当良い位置に軍港が作れるんだよな~!意地でも欲しい)」
オーストリア
「いやいや、ないでしょ(笑)
絶対ダメ、山分け(共同管理)以外ないでしょ
最悪その2つはあげるから、代わりに代償地としてどこか領地分けてよ」
ビスマルク
「それはないな…
ちょっとウチら、話し合いじゃ無理かもな!」
でオーストリアと開戦(1866年,普墺戦争)、戦勝!
戦争の端緒となったシュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国(薄い赤と青の地域)
④vsフランス
ビスマルク
「オーストリア、併合まではいけなかったけど短期決戦で戦勝講和できたぞ~!
これでドイツ北部の覇権は確立されたな
あとは南部なんだけど、フランスの影響下にあって、このままだと統一は無理だな…
一回因縁つけてフランスもボコすか!」
フランスが理不尽な要求を全ドイツに対して叩きつけてきた感じになるよう全力で外交工作
ドイツ諸国の反仏感情を煽りまくる
そのうえで他のドイツ諸国&プロイセンvsフランスで開戦!(1870年、普仏戦争)
1871年戦勝!
宿敵フランスを打ち滅ぼした英雄プロイセン、ドイツの盟主プロイセン、という機運のもと、同年ドイツ帝国が成立
⑤ドイツ統一への他列強の反応
フランス
「ドイツなんて、ずーっと諸国で分裂しててくれりゃよかったんだよ
それがビスマルクとかいうカス野郎、ウチをボコった上にアルザス・ロレーヌまで奪っていきやがった
絶対許さん、いつか見とけよ」
オーストリア
「ウチもフランスと同じ敗戦国なんだけど…
国力ではドイツ帝国に大きく劣るし、しかも民族構成がかなり似てる
あちらにはこっちを併合する理由がありすぎる
頼む、殴らないでくれ~!」
イギリス
「”史上初のドイツ全土統一”ってのは、ちょっとさすがに悪目立ちしすぎ
見過ごせないな」
ロシア
「ウチとフランスでドイツを挟む地勢なんだけど、フランスが落とされるとパワーバランス的にかなりきついな
これ以上ドイツが増長するようなら、ちょっと腕ずくでシメるか」
ここまでデカくなると他国から目をつけられる
日清日露で大勝した大日本帝国を思わせる
⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890
が、マルチの鬼ビスマルク、ここでも外交能力(ヘイト管理能力)が光る
・本当にもうこれ以上領土拡大する気はない
・他列強の本土だけじゃなくて、アフリカとか新世界方面の植民地も奪いに行かない
と内外にアピール
言葉に偽りなく、実際に失脚する1890年までこの路線で外交を展開
ビスマルク
「フランスとの関係性だけは完全に終わっている、修復不可能
全面戦争したし、相当強く殴った(アルザス・ロレーヌ割譲した)からしゃあない
だからあそこだけはずーっと仮想敵国として想定する
軍事力レースの手は緩めないし、国境線から軍隊は引きあげず、警戒の手は緩めない
裏から手を引いてバチバチに内政にも干渉する
でもそれ以外の諸列強(イギリス、ロシア、オーストリア=ハンガリー、イタリア)とは全然話が通じるはず
彼らが対独大連合を組むのだけは絶対阻止したい
対仏大連合を組まれて袋叩きに遭ったナポレオンの轍は踏まない
フランスが落ちた今、ウチ(ドイツ)、イギリス、ロシアの3強
英露の片方とだけ接近するのは避けよう
いい感じでヘイトコントロールして、列強の盟主、3強の一角としてこの有利盤面を維持する」
結果的にこの方向でドイツ帝国は繁栄し、国力を大いに伸ばした
植民地を取りに行かなかった一手は一見悪手にも見えるが、結果的に植民地をめぐるイギリスvsフランスの対立を延長させ、英仏接近が回避できた
A Few Acres of Snow (2011)
英仏のケベックでの争い(1754-1763)が描かれる
ヴィルヘルム1世&ビスマルクチームの躍進は1862年から1888年まで続き、この時代の名はビスマルク体制と呼ばれる
が、1888年、ヴィルヘルム1世は91歳で崩御
孫にあたるヴィルヘルム2世が27歳の若さで即位
ヴィルヘルム2世
「おじいちゃんと一緒にやってたビスマルク(73歳)とかいうじいさん、功績はすごいんだけど…
これだけ国力と軍事力があって植民地を一切取ろうとしなかった消極的な姿勢はダメだな
普通にやってたら何個か植民地取れてたでしょ
しかも俺のやりたいようにやらせずに、一生グチグチ言ってくるし、何してるか分からんし
罷免(リストラ)しよ」
とビスマルクを辞職させ、政体を独裁(親政)に移行
Friedrich Wilhelm Viktor Albert von Preußen(1859-1941)
⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914
「イギリス、ロシアの両方とつかず離れずをキープせよ。片方とだけ接近するな」
というビスマルクの外交路線をさっそく破棄し、新生ドイツはイギリスと急接近
イギリスはアフリカを鉄道で南北縦断したいってプラン(ケープ・カイロ計画)を持っていた
敷設計画上にあるドイツ植民地を渡すかわりに別な植民地をもらうという、イギリス有利の交換条約(ヘルゴランド=ザンジバル条約,1890年)
ロシア
「イギリスとウチはアフガニスタンとかをめぐって、もう全力でアジア全域でグレートゲームをやってる真っ最中
ドイツお前、アフリカに鉄道通させるってことはイギリスの兵站を支援してるわけだよ
それがどういうことか分かってるよな?」
とキレてしまう
Pax Pamir: Second Edition (2019)
アフガニスタンにおける英露の対立が描かれる
アフガニスタンにおける英露の対立が描かれる
交換条約が刺激剤となり、ロシア&フランスが接近、露仏条約(1891年)が締結
しかも戦艦の増産を急ピッチで始めたことで、本命の同盟候補のイギリスからも、
「お前、海軍力でウチと張り合う気か?戦いたいのか?」
と警戒されてしまう
ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「海軍力を高めたのはアフリカ植民地を取るのに必須だからであって…
イギリスの海洋覇権をどうこうする気はないです…
なんなら独英同盟結びたいです(1901年)」
イギリス
「うちと結ぶってことは、ロシアと開戦する可能性も全然あります
あなた、本当にやれますか?」
ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「いや…うーん…」
態度の決まらないドイツを見限ったイギリスは同盟相手に日本を選択
1902年日英同盟締結、1904年日露戦争開始
またビスマルクじいさん、実はイギリスとフランスの仲が悪くなるようずーっと裏で工作していたのだが、そのあたりの外交工夫が途絶えたせいか英仏も接近、英仏協商(1904年)
さっきの植民地交換条約の英仏版
日露戦争は1905年日本の勝利に終わり、ロシアの地位は相当落ちる
イギリス(列強暫定トップ)
「ロシアが逝った~!!!
ずーっとロシアをライバルとして叩き続けたけど、もう潮時だな
次シバくのはドイツでしょう
今やドイツがウチの覇権のいちばんデカい脅威」
ドイツは「列強の全員が敵」という最悪の状態で10年ほど過ごす
孤立無援のまま手数を全部注いで軍拡を押し進めるが…
⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918
1914年、オーストリア=ハンガリーの皇太子の射殺を機に第一次大戦勃発
開戦後、ヴィルヘルム2世は統治能力を失い、ルーデンドルフ参謀本部次長が実権を握る
厳しい戦況ながら粘るも、ドイツの旗色は年々悪化
1918年、全リソースをvs英仏国境にぶちこんで、ワンチャン壊滅させ、どうにか有利な講和を引き出せないか賭けに出る(西部大攻勢)
が、押し切れず後退
同年9月、
ルーデンドルフ(政府発表)
「(さすがに敗戦とは言えんしな…)
国民諸君、休戦の方向で考えている」
これによって国民は「あ、これは敗戦が濃厚なやつだ」と察してしまい、民心が離れ革命の機運が高まっていく
同年11月1日、キールの水兵の反乱
兵士と労働者が兵営を占拠、共産主義的な労兵評議会(レーテ、ロシアにおけるソヴィエト)を設立
11月7日、ミュンヘンでも評議会が蜂起
バイエルン王(ヴィルヘルム2世の部下的な)が退位
11月9日、これらを承けてベルリンでゼネスト(全職業の労働者によるストライキ)が勃発
要求はヴィルヘルム2世の退位
第一次大戦敗戦についての引責辞任って感じであり、側近らも妥当な要求と判断
退位を呑むよう説得するも、長期独裁に慣れ切ったのかヴィルヘルム2世は「絶対退位しない」の一点張り
「このままだと国家転覆する」と判断したのか、皇太子のマクシミリアンが独断で父親と自分の退位を宣言
さらに政権与党であったSPD(社会民主党)のシャイデマンが帝政(君主制)から共和制への移行を宣言
この宣言によって成立した国家がワイマール共和国
ここでプレイヤーらが登場する
・SPD(社会民主党、左翼連立与党)
・Z(中央党、右翼連立与党)
・KPD(共産党、極左野党)
・DNVP(国家人民党、極右野党)
の4陣営に分かれて戦う
おおまかに、
・SPD&Z=6ラウンドのあいだ共和国を崩壊させず、維持させたい
・KPD=共産主義革命を成立させ、国家転覆したい
・DNVP=宿敵フランスやイギリスのご機嫌伺いをやってるような腰抜け政府をクーデターで打倒し、王政復古したい
このあたりを狙っていく
(2)おおまかな長短所
①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル
ルールはシンプル
作者の前作に2人用のウォーターゲート(2019)があるが、これを単純に4人用に拡張した感じ
インストは30-45分、ウォーターゲートかトワイライトストラグルをプレイ済なら20分程度
各陣営は12枚からなる固有のカードデッキを持つ
カードはAPを使って通常アクションをするか、イベントとして解決する
イベントとして解決する場合は一部例外を除いてデッキから除外
固有デッキとは別に2種各5枚の強化セットがある
プレイヤーは望むなら、ラウンド開始時に5枚一気に初期デッキに加えることができる
・都市の制圧
・議会での議論
・新たな勝利点獲得手段
などセットごとに得意不得意があり、どの勝利条件を狙うか定まり始めた中盤(2-3R目)に片方のセットのみ投入される場合が多い
また共通のタイムラインカード(史実のイベントカード)のデッキがある
毎ラウンド固有デッキからカード3枚、タイムラインデッキから2枚引き、計5枚を手番順に1枚ずつプレイ
カードを使い切ったらラウンド終了
たまに5枚でなく6枚引いたり、5枚使い切れない場合もあるが、基本は5手
5手×6ラウンド=30手のゲーム
Watergate(2019)
②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作
ウォーターゲートだとデッキが何回転もする
・APの低いカードを除外してデッキの出力を高め、対戦相手との綱引きで優位に立つ
・人物カードによる対応(MtGのインスタントの打ち消し呪文)の熱い応酬
など、かなりボードゲームとして面白かったが
本作のデッキは、ただのランダマイザに成り下がってしまっている感が否めない
・12枚の固有デッキ
・初期の固有デッキとは別で2つの強化セット(5枚の強カード)を投入する
・固有デッキとは別でタイムラインデッキもある
・1ラウンド3枚引く
・最大6ラウンド(5ラウンド目の途中で終わる場合が多い)
やってみるとわかるが、全然引けなくてデッキが回らない
デッキを整えて出力を上げるような暇があまりない
コントロール感、圧縮できている感はかなり薄い
なお参考までにウォーターゲートは、
・20枚の固有デッキ
・途中投入の強化セットやタイムラインデッキはナシ
・毎ラウンド4-5枚引く
・終了トリガー制で、長引くと8-10ラウンド続く
③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑
ウォーターゲート同様、相手の手番中に対応系の人物カードを持っていると対応が差しはさめる
前作だと2人戦だったこともあって対応の打ち合いがかなり楽しかったが
本作は4人戦であることが災いしてか、爽快感よりも理不尽感と煩雑さが強まっている
2人戦であれば手番プレイヤーが「〇〇打ちます、対応ありますか」と宣言し合うのは全然テンポ感を削がない
4人戦だと確認がかなり手間だし、処理忘れが生じた際の巻き戻しも2人戦と比較にならないくらい難しい
さらにカードでの対応とは別で、リザーブのAPを使ってのリアクションも同じ"対応"と呼ばれており、挙動が微妙に異なるのでそのあたりも煩雑
他3人の手番中に対応を構えておくのもけっこう手間で、忘れやすい
④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無
とても大きな短所として、ゲーム的な面白さが薄い
”ゲーム的”を言い換えると、プレイしていて「か~!気持ち良い~!!」と感じる瞬間がめったにない
他の作例だと、
・テラミスティカ(2012)の、布石をきちんと打って得点化ラウンドで勝利点をガンガン重ねていく爽快感
・テラフォ(2016)の、産出をどんどん高めてカードをバンバン出していく気持ち良さ
・白ブラス(2018)の、自分の都市計画を盤面に反映させていく自己効力感
適度なストレスで負荷をかけつつ、要所要所でこういった気持ち良さを与えてくれるゲームは名作だ
依存性が高く、リプレイされやすく、根強い人気を得やすい
Brass: Birmingham (2018)
⑤マルチエンド制は◎
「じゃあ何がおもろいねん」って話だが
・途中投入の強化セットやタイムラインデッキはナシ
・毎ラウンド4-5枚引く
・終了トリガー制で、長引くと8-10ラウンド続く
③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑
ウォーターゲート同様、相手の手番中に対応系の人物カードを持っていると対応が差しはさめる
前作だと2人戦だったこともあって対応の打ち合いがかなり楽しかったが
本作は4人戦であることが災いしてか、爽快感よりも理不尽感と煩雑さが強まっている
2人戦であれば手番プレイヤーが「〇〇打ちます、対応ありますか」と宣言し合うのは全然テンポ感を削がない
4人戦だと確認がかなり手間だし、処理忘れが生じた際の巻き戻しも2人戦と比較にならないくらい難しい
さらにカードでの対応とは別で、リザーブのAPを使ってのリアクションも同じ"対応"と呼ばれており、挙動が微妙に異なるのでそのあたりも煩雑
他3人の手番中に対応を構えておくのもけっこう手間で、忘れやすい
④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無
とても大きな短所として、ゲーム的な面白さが薄い
”ゲーム的”を言い換えると、プレイしていて「か~!気持ち良い~!!」と感じる瞬間がめったにない
他の作例だと、
・テラミスティカ(2012)の、布石をきちんと打って得点化ラウンドで勝利点をガンガン重ねていく爽快感
・テラフォ(2016)の、産出をどんどん高めてカードをバンバン出していく気持ち良さ
・白ブラス(2018)の、自分の都市計画を盤面に反映させていく自己効力感
適度なストレスで負荷をかけつつ、要所要所でこういった気持ち良さを与えてくれるゲームは名作だ
依存性が高く、リプレイされやすく、根強い人気を得やすい
Brass: Birmingham (2018)
⑤マルチエンド制は◎
「じゃあ何がおもろいねん」って話だが
本作で最も強くリプレイ性を担保しているのは、多岐にわたる終了条件とそれをめぐるリッチな語りだ
勝利条件は以下5パターン
・危機マーカーがボード上に並べ尽くされる国家崩壊エンド
・ナチトラックが進みきってしまうナチス誕生エンド(正史エンド)
・野党(KPD、DNVP)のどちらかがベルリンと他2都市を制圧する国家転覆エンド
・野党(KPD、DNVP)のどちらかが過半数の議席を獲得する極右/極左独裁エンド
・6ラウンド完走しきる通常エンド(Trueエンド)
詳細省略するが、下に行くほど到達が難しい
ウラを返すと、プレイを重ねて卓全体の練度が上がるほど、ゲームを長期化させる技術が上達する
そのあたりに一定のやりごたえはある
本来、ロングゲーム化はプレイヤーをあまり幸福にしないものだが、本作での長期化は、
「史実では時代の激流に揉まれて短命に終わったワイマール共和国が、
・ハイパーインフレ
・暗黒の木曜日から始まる経済大恐慌
・ナチの台頭
・極左/極右勢力どもの反政府活動
これらの辛苦に耐えて生き延びる」
であり、歴史好きな人間はこういった歴史改変に喜びを見出すと思われる
いわゆるマルチだが、ごっこ遊び的な楽しさは他のマルチゲームよりも大きいと言える
ストーリー、ナラティブ、豊かな語りを生んでくれる
特に6ラウンド完走のTrueエンドは、
・シュタインズ・ゲート(2009)のシュタインズ・ゲート世界線
・ひぐらしのなく頃に(2002)の祭囃し編
・絶対当たらないテキ屋のPS5の景品
のように、プレイヤーの心をつかんで離さない
言語化がちょっと難しいが、この感じはトワイライトストラグル(2005)にも近い
トワストは冷戦下でソ連陣営とアメリカ陣営に分かれて戦う2人用のカードドリブン
ゲーム序盤のイベントでソ連側がかなり優遇されており、不慣れなうちはソ連の中押し勝ちが多発する
お互いデッキ内容を把握してくると徐々にアメリカでも勝ちが拾えるようになる
分かっている人同士で打つベースゲームは、アメリカが微有利だとされている
「自分が上達するにつれて、より感情移入しやすいアメリカ陣営が勝ちやすくなる」
という構造は恐らくアメリカ人の大半にとって親しみやすい
彼らのリプレイ欲求を一定向上させ、それがBGGランク向上にも寄与していると思われる
Twilight Struggle (2005)
(4)考察:個別カードの読解
何枚か印象的なカードをピックアップする
①市井の力、国会選挙
市井の力:全プレイヤーは、自分の政党基盤がある都市が3-5/6-7/8つ以上なら、1/3/5勝利点を得る。
国会選挙:全プレイヤーは、自分の政党基盤が2つ以上ある各都市から政党基盤1個を議会に移動させる。その後、議員が4-6/7人以上なら1/3勝利点を得る。
地図上の政党基盤(自色のミープル)に応じて全員が勝利点やボーナスを得る4枚
ミープルはボード左の地図上にいるときは政党基盤と呼ばれ、国会選挙で当選を果たすと議員となり、ボード右の議会ゾーンに移動する
ボード左に11個の都市が、右上に24個の議席がある
この4枚はタイムラインデッキに残り続けるため、ほぼ毎ラウンドいずれかの効果が解決される
トワイライトストラグルにおける地域決算カードに近い実装
またスタッツは2/2が2枚、3/1が2枚と均(なら)されており、「このゲームの標準出力は2/2か3/1だよ」と言外に語っている
②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル
ローザ・ルクセンブルク:討論への対応:そのプレイヤーは討論のためにプレイしたカードの大きい値だけを使う。その後、あなたは小さい値を使って、そのプレイヤーが進めなかった任意の論点1つを進める。その後、カード1枚を引く。
カール・リープクネヒト:都市1つでの1アクション(政変、対抗政変、デモ)か対応への対応。ダイスの出目―1。その後、カード1枚を引く。
極右テロ組織「コンスル」:任意の捨て札置き場から政治家カード1枚を探し、ゲームから除外。その後ダイス1個を振り、1-2=このカードをゲームから除外(失敗)。3-4=プレイヤーは危機ロール1回(中成功)。5-6=3/1の数値でアクションか討論を行う(大成功)。
コンスルは、相手3人の墓地を参照して、人物カード1枚をゲームから除外するDNVPのカード
除外対象はどの政党でもいいが、KPDの人物2枚が対象に取られることが多い
というのも、Zは同じ右派で基本的に敵対しない
SPDとKPDはDNVPにとってどちらも宿敵だが、ゲーム開始時からKPDの評議会(勝利点収入源)が一つ建っており、そのせいでDNVPは毎ラウンド実質2点減点を食らい続ける
このためDNVPはややKPDにヘイトを向けやすい
ルクセンブルクとリープクネヒトは史実でも義勇軍(≒DNVP)に逮捕され、共和国の黎明期、1919年1月15日に命を落とした
特に若くして無残に殺された女傑ルクセンブルクは革命のアイコンとして象徴化されている
コンスルがどちらかを除外すると、その史実再現に喝采を上げてしまう
③ヴェルサイユ条約
ヴェルサイユ条約:政府のみが2APを支払い、外交アクションとしてこのカードを解決できる。ダイスを振る前に暴力的平和マーカー1個をDRに追加。DNVPの政党基盤を2個追加。DNVPの議員1体を追加。その後、ダイス1個を振る。フランストークンが出ている場合、トークン数分ダイスを増やす。出目4以上で成功。実行者は2勝利点を得る。国家の経済トラック+1。DRから封鎖トークンを除外。政府プレイヤー2名はそれぞれ危機ロール1回。このカードを除外。ラウンド終了時、このカードが除外されず残っているなら、封鎖トークン1個をDRに追加。
政府与党(基本的にSPDとZ)のみが打てるアクションに外交アクションがある
外交カードはヴェルサイユ以外にも5枚あるが、どれもおおまかには、
・ダイスを振る
・成功すると勝利点を得て、危機マーカーを減らす
というような解決がなされる
外交で得られる勝利点は微々たるものに見えるが、与党をいちど触るとこの2-3勝利点の大きさに驚かされる
対立与党に点差をつけられる数少ない貴重な機会
また、外交を放置すると危機マーカーがみるみる溜まって国家崩壊エンドに至ってしまう
よって打つメリットと放置するデメリットがあり、基本的には打たれていく
ヴェルサイユ条約をはじめとして、外交カードの大半(6枚中4枚)が実行すると、ダイスを振る前にDNVPの議席が自動で大きく増える
成功可否に関わらず増える
失敗すると再度打つ必要があり、DNVPの議席がヤバい速度で増えていく
ここだけ抜き取るとかなり理不尽であり、初回プレイだと「黒強すぎじゃん、クソゲーか??」と感じるのだが
この部分のゲームバランスは壊れていないし、また史実を理解するとわりと納得できる
DNVPのプロフィールは、
・ドイツ民族推し
・他国との協調拒否
・ユダヤ人忌避
・社会主義、共産主義NO
・旧ドイツ帝国の皇室(≒強いドイツ)の復活を
ステラリスの統治志向の排他、権威、軍国って感じ
たとえばヴェルサイユ条約において、フランスとイギリスはワイマールに対して、到底払い切れない額の賠償金を請求している
ヴェルサイユアクションによって生じるDNVPへの強力なバフは、
・政府の軟弱で弱腰な外交姿勢への民衆の怒り「かつての敵国からの要求を唯々諾々と受け入れるな!」
・結果、他国への敵対感情が高まり
・最終的により強力なリーダーシップを求めてDNVPに票が集まる
という流れを反映している
反対にたとえばローザンヌ会議(ドイツの賠償金を減らすため英仏が開催)への参加は国民感情を刺激しないため、DNVPの議席ボーナスは設定されていない
なお余談だが、ヴェルサイユ条約を解決しないまま放置する、つまり国民感情に流されて交渉のテーブルに着かないでいると、DR(危機マーカー置き場)に毎ラウンド封鎖マーカーが1個ずつ溜まっていく
7個溜まったら国家崩壊のため、第1ラウンド、遅くとも第2ラウンド中に解決してしまいたい
この封鎖は、史実における第一次大戦中のドイツ封鎖を指している
海軍による大規模な海上封鎖、兵糧攻めで、ドイツへの食料の供給を断った
北海をイギリス海軍が封鎖
またオーストリア経由での輸入も止めるべく南方のアドリア海の封鎖にはフランス海軍があたった
40-70万人がこれを原因とした飢餓と疾病で亡くなったとされる
この封鎖はヴェルサイユ条約締結直後に解かれた
もし締結を遅らせると解除も延期されたはずであり、そうすると共和国内は取返しのつかない水準まで荒廃しうる
ゲームにおいて危機マーカーが7個溜まったら国家崩壊のため、封鎖マーカーをいち早く排除すべく与党プレイヤーは奔走する
この挙動には刻一刻と国内で餓死者が続出するなか外交努力に明け暮れる閣僚の窮状が反映されている
④エーベルトの死去
フリードリヒ・エーベルトの死去:このカードをプレイしたプレイヤーは追加の3票を持つ。投票において、各プレイヤーは手番順にダイス1個を振る。出目+政党基盤数を票数とする。議席を1個減らすことでダイスを振り直しても良い。1回目の投票で上位2人を決める。2回目の投票では下位2人は、上位2人のいずれかの政党を支援(票を追加)して良い。2回目の投票で票数が多い候補者が勝利し、大統領となる。
第2時代のタイムラインカードで、3,4ラウンドに登場する
タイムラインのイベントはトワストと似た処理で強制的に解決されるので、エーベルトの死は基本的に避けられない
フリードリヒ・エーベルト(1871-1925)はワイマール共和国の初代大統領
SPD出身の有能、実直、真面目、信用のある人間で、建国以来ずっと大統領として共和国を引っ張ってきた
ワイマール共和国は今のロシアやドイツ、フランスみたいな感じで、大統領と首相が別で独立している
大統領は今のアメリカとかと同じで、国民投票で選ばれる
国民投票=最終的には時の運に左右される水モノ
このフレーバーを意識してか、やや多くダイスを振らせる
インスト込み3時間くらい経ってちょうど眠くなってくるタイミングであり、このジャラジャライベントは眠気覚ましとして有効に機能している
ダイスを振ったあとはその数値をどの政党に割り振るかを決める交渉フェイズがあり、この1枚の解決に10-20分かかることも多い
かなり時間がかかるわりに、
・大統領に誰を選ぶとその結果何が起こるのか
・自分は損するのか、トクするのか
・勝利を狙うために誰を勝たせた方がいいのか
が、選挙を行っている段階ではプレイヤーには何も見えない
この感じは、ちょっとフンタ(1979)のクーデターの感じに似ている
フンタ、ある程度は真面目な選挙ゲームなのだが、反大統領派のプレイヤーがクーデターを宣言すると、急にダイスを振りまくる意味不明なミニゲームが始まる
このクーデターのためだけに用意されたマップを使って、60分くらいかけてゲーム内ミニゲームをやる
60分争い、「このラウンドで大統領が退任するかどうか」を決める
何より、大統領が続投/退任させた結果、未来にどう影響するかが、クーデター中プレイヤーには何も見えない
Junta(1979)
クーデターが宣言されるとボード中央のマップにユニットが突如展開され、ウォーゲームが始まる
絶対に設計の参考にすべきでないゲームだが、フンタを完走した仲間内で語り草になるのはあの無意味なクーデターだ
「クーデター、終わってみれば何の意味もなかったけど、クソ大統領に一矢報いられたし、やってみて面白かったよな」
と
言語化が難しいが、「渦中にある人間には、選んだ結果が未来にどう結実するか分からない」という性質は歴史そのもの、人生そのものであり、そのあたりの骨太な再現に自分は惹かれているのだと思われる
⑤シュトレーゼマンとDVP(ドイツ人民党)
グスタフ・シュトレーゼマン:DVPの小政党カードを支配しているプレイヤーが所有する。任意のダイスロールにおいて、ダイスを振り直す。このカードを裏返し、使用不能にする。ラウンド終了時、再度表返す。
DVP(ドイツ人民党):小政党カード。Zが支配しているなら、1-2/3-4/5-6ラウンド終了時、1/2/1議席を得る。
シュトレーゼマン(1875-1929)はめちゃくちゃ有能な外交官、外務大臣
思想的にはZ(中央党)とDNVP(国家人民党)のあいだくらいの極右寄りの右派
ZにもDNVPにも入党できずに、DVP(ドイツ人民党)という両党の中間層からなる小政党を指揮する
1923年、ワイマールは危機の年に
フランス
「1919年にヴェルサイユ条約を結んで4年!
ワイマールさん一向に賠償金払わないじゃん!
もう待ってられんわ!
仏独国境のルール炭田を占領して、取れた石炭を賠償金に充てます。
差し押さえだよ!
元々お前らの祖先のビスマルクには国境線のアルザス・ロレーヌを取られてて、頭に来てるんだわ
(ルールとアルザス・ロレーヌは一部重なっている)」
ドイツ
「石炭は国家の血液、それが止まると本当に経済が死んでしまう
払えるものも払えなくなる
本当にやめてほしい」
抵抗むなしく、1923年1月ルール占領
占領に対する受動的抵抗(スト)が常態化、死んだ経済をどうにか回すために通貨を大量発行
生死の境にある人間にアドレナリンと輸液を全力で入れて救命を試みる感じに近い
結果ハイパーインフレを起こし、教科書でよく見るドイツマルク札で遊ぶ少年らのあの光景も発生
この段階で同年8月、シュトレーゼマン、能力を買われてか、汚れ仕事を押し付けられてか首相兼外務大臣に就任
絶望的な状況だが、
・フランス、イギリス、アメリカ相手に交渉し、ルールからのフランス撤退と賠償金の減額の譲歩案(ドーズ案)を勝ち取る
・レンテンマルクを発行し、インフレを終息(ハイパーインフレーションの終息)
と神業を発揮
シュトレーゼマン内閣は3か月と短命であったが、その後も外務大臣として逝去する1929年まで6年にわたって続投
・現実主義に根差した交渉能力
・親しみやすく安定的な人格
・フリーメーソン所属の国際的な人脈
これらを武器に卓越した外交能力を発揮
特にアメリカに対して自国を成長市場として売り込み、多額の投資を引き出した
1929年までワイマール共和国も世界情勢もかなり安定していたが、逝去と同月(1929年10月)に発生した世界大恐慌(暗黒の木曜日)から情勢は暗転
アメリカの投資家の余剰資金の運用先としてドイツが魅力的だったわけで、不況になれば真っ先に引き払われる
また恐慌前の開放的な自由貿易路線から一転、ブロック経済(自国の経済圏をガッチリ保護して回復を図る)も逆風に
史実ではこの大恐慌が決定打となり、ワイマールは国際政治から孤立し、ナチスの台頭を許してしまう
こうした史実に沿った能力をシュトレーゼマンはゲーム内で発揮する
まず、DVP(国家人民党)という小政党カードに付随する特殊人物カードという立ち位置
小政党カードはゲーム中2政党の間で所有権が動き、所有者は毎ラウンドちょっとしたボーナスや特殊アクションを得る
DVPカードは最初Zが持っており、DNVPとの間で所有権が行き来する
シュトレーゼマン率いるDVPはちょうどZとDNVPの中間的な立ち位置という史実を反映している
そしてシュトレーゼマンの能力もとても良い
1ラウンドに1回だけ使えるダイス振り直しで、多くの場合外交カードの解決や、ハイパーインフレーションの解決といった超重要局面で使うことになる
つまり、このカードが自陣営にいるだけで外交周りの処理力が倍増する
シンプルな効果でフレーバーも感じさせてくれる
⑥シュトレーゼマンの死去
グスタフ・シュトレーゼマンの死去:シュトレーゼマンカードをゲームから除外。英米・仏・ソ連マーカーのうち1個を除去する。
シュトレーゼマンの死もカード化されている
前述したとおり、シュトレーゼマンの死に伴ってワイマールは外交的強みを失い、孤立を深めていった
史実を反映して外交マーカーを除去する効果がついている
シュトレーゼマンのダイス振り直し効果を失ううえに、外交マーカーが減ることで振れるダイス個数がさらに減り、外交アクションの成功率が如実に下がってしまう
(5)総評
かなり人を選ぶが、この手のテーマがいける人間ならば一度プレイする価値はあると思われる
勝利条件は以下5パターン
・危機マーカーがボード上に並べ尽くされる国家崩壊エンド
・ナチトラックが進みきってしまうナチス誕生エンド(正史エンド)
・野党(KPD、DNVP)のどちらかがベルリンと他2都市を制圧する国家転覆エンド
・野党(KPD、DNVP)のどちらかが過半数の議席を獲得する極右/極左独裁エンド
・6ラウンド完走しきる通常エンド(Trueエンド)
詳細省略するが、下に行くほど到達が難しい
ウラを返すと、プレイを重ねて卓全体の練度が上がるほど、ゲームを長期化させる技術が上達する
そのあたりに一定のやりごたえはある
本来、ロングゲーム化はプレイヤーをあまり幸福にしないものだが、本作での長期化は、
「史実では時代の激流に揉まれて短命に終わったワイマール共和国が、
・ハイパーインフレ
・暗黒の木曜日から始まる経済大恐慌
・ナチの台頭
・極左/極右勢力どもの反政府活動
これらの辛苦に耐えて生き延びる」
であり、歴史好きな人間はこういった歴史改変に喜びを見出すと思われる
いわゆるマルチだが、ごっこ遊び的な楽しさは他のマルチゲームよりも大きいと言える
ストーリー、ナラティブ、豊かな語りを生んでくれる
特に6ラウンド完走のTrueエンドは、
・シュタインズ・ゲート(2009)のシュタインズ・ゲート世界線
・ひぐらしのなく頃に(2002)の祭囃し編
・絶対当たらないテキ屋のPS5の景品
のように、プレイヤーの心をつかんで離さない
言語化がちょっと難しいが、この感じはトワイライトストラグル(2005)にも近い
トワストは冷戦下でソ連陣営とアメリカ陣営に分かれて戦う2人用のカードドリブン
ゲーム序盤のイベントでソ連側がかなり優遇されており、不慣れなうちはソ連の中押し勝ちが多発する
お互いデッキ内容を把握してくると徐々にアメリカでも勝ちが拾えるようになる
分かっている人同士で打つベースゲームは、アメリカが微有利だとされている
「自分が上達するにつれて、より感情移入しやすいアメリカ陣営が勝ちやすくなる」
という構造は恐らくアメリカ人の大半にとって親しみやすい
彼らのリプレイ欲求を一定向上させ、それがBGGランク向上にも寄与していると思われる
Twilight Struggle (2005)
(4)考察:個別カードの読解
何枚か印象的なカードをピックアップする
①市井の力、国会選挙
市井の力:全プレイヤーは、自分の政党基盤がある都市が3-5/6-7/8つ以上なら、1/3/5勝利点を得る。
国会選挙:全プレイヤーは、自分の政党基盤が2つ以上ある各都市から政党基盤1個を議会に移動させる。その後、議員が4-6/7人以上なら1/3勝利点を得る。
地図上の政党基盤(自色のミープル)に応じて全員が勝利点やボーナスを得る4枚
ミープルはボード左の地図上にいるときは政党基盤と呼ばれ、国会選挙で当選を果たすと議員となり、ボード右の議会ゾーンに移動する
ボード左に11個の都市が、右上に24個の議席がある
この4枚はタイムラインデッキに残り続けるため、ほぼ毎ラウンドいずれかの効果が解決される
トワイライトストラグルにおける地域決算カードに近い実装
またスタッツは2/2が2枚、3/1が2枚と均(なら)されており、「このゲームの標準出力は2/2か3/1だよ」と言外に語っている
②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル
ローザ・ルクセンブルク:討論への対応:そのプレイヤーは討論のためにプレイしたカードの大きい値だけを使う。その後、あなたは小さい値を使って、そのプレイヤーが進めなかった任意の論点1つを進める。その後、カード1枚を引く。
カール・リープクネヒト:都市1つでの1アクション(政変、対抗政変、デモ)か対応への対応。ダイスの出目―1。その後、カード1枚を引く。
極右テロ組織「コンスル」:任意の捨て札置き場から政治家カード1枚を探し、ゲームから除外。その後ダイス1個を振り、1-2=このカードをゲームから除外(失敗)。3-4=プレイヤーは危機ロール1回(中成功)。5-6=3/1の数値でアクションか討論を行う(大成功)。
コンスルは、相手3人の墓地を参照して、人物カード1枚をゲームから除外するDNVPのカード
除外対象はどの政党でもいいが、KPDの人物2枚が対象に取られることが多い
というのも、Zは同じ右派で基本的に敵対しない
SPDとKPDはDNVPにとってどちらも宿敵だが、ゲーム開始時からKPDの評議会(勝利点収入源)が一つ建っており、そのせいでDNVPは毎ラウンド実質2点減点を食らい続ける
このためDNVPはややKPDにヘイトを向けやすい
ルクセンブルクとリープクネヒトは史実でも義勇軍(≒DNVP)に逮捕され、共和国の黎明期、1919年1月15日に命を落とした
特に若くして無残に殺された女傑ルクセンブルクは革命のアイコンとして象徴化されている
コンスルがどちらかを除外すると、その史実再現に喝采を上げてしまう
③ヴェルサイユ条約
ヴェルサイユ条約:政府のみが2APを支払い、外交アクションとしてこのカードを解決できる。ダイスを振る前に暴力的平和マーカー1個をDRに追加。DNVPの政党基盤を2個追加。DNVPの議員1体を追加。その後、ダイス1個を振る。フランストークンが出ている場合、トークン数分ダイスを増やす。出目4以上で成功。実行者は2勝利点を得る。国家の経済トラック+1。DRから封鎖トークンを除外。政府プレイヤー2名はそれぞれ危機ロール1回。このカードを除外。ラウンド終了時、このカードが除外されず残っているなら、封鎖トークン1個をDRに追加。
政府与党(基本的にSPDとZ)のみが打てるアクションに外交アクションがある
外交カードはヴェルサイユ以外にも5枚あるが、どれもおおまかには、
・ダイスを振る
・成功すると勝利点を得て、危機マーカーを減らす
というような解決がなされる
外交で得られる勝利点は微々たるものに見えるが、与党をいちど触るとこの2-3勝利点の大きさに驚かされる
対立与党に点差をつけられる数少ない貴重な機会
また、外交を放置すると危機マーカーがみるみる溜まって国家崩壊エンドに至ってしまう
よって打つメリットと放置するデメリットがあり、基本的には打たれていく
ヴェルサイユ条約をはじめとして、外交カードの大半(6枚中4枚)が実行すると、ダイスを振る前にDNVPの議席が自動で大きく増える
成功可否に関わらず増える
失敗すると再度打つ必要があり、DNVPの議席がヤバい速度で増えていく
ここだけ抜き取るとかなり理不尽であり、初回プレイだと「黒強すぎじゃん、クソゲーか??」と感じるのだが
この部分のゲームバランスは壊れていないし、また史実を理解するとわりと納得できる
DNVPのプロフィールは、
・ドイツ民族推し
・他国との協調拒否
・ユダヤ人忌避
・社会主義、共産主義NO
・旧ドイツ帝国の皇室(≒強いドイツ)の復活を
ステラリスの統治志向の排他、権威、軍国って感じ
たとえばヴェルサイユ条約において、フランスとイギリスはワイマールに対して、到底払い切れない額の賠償金を請求している
ヴェルサイユアクションによって生じるDNVPへの強力なバフは、
・政府の軟弱で弱腰な外交姿勢への民衆の怒り「かつての敵国からの要求を唯々諾々と受け入れるな!」
・結果、他国への敵対感情が高まり
・最終的により強力なリーダーシップを求めてDNVPに票が集まる
という流れを反映している
反対にたとえばローザンヌ会議(ドイツの賠償金を減らすため英仏が開催)への参加は国民感情を刺激しないため、DNVPの議席ボーナスは設定されていない
なお余談だが、ヴェルサイユ条約を解決しないまま放置する、つまり国民感情に流されて交渉のテーブルに着かないでいると、DR(危機マーカー置き場)に毎ラウンド封鎖マーカーが1個ずつ溜まっていく
7個溜まったら国家崩壊のため、第1ラウンド、遅くとも第2ラウンド中に解決してしまいたい
この封鎖は、史実における第一次大戦中のドイツ封鎖を指している
海軍による大規模な海上封鎖、兵糧攻めで、ドイツへの食料の供給を断った
北海をイギリス海軍が封鎖
またオーストリア経由での輸入も止めるべく南方のアドリア海の封鎖にはフランス海軍があたった
40-70万人がこれを原因とした飢餓と疾病で亡くなったとされる
この封鎖はヴェルサイユ条約締結直後に解かれた
もし締結を遅らせると解除も延期されたはずであり、そうすると共和国内は取返しのつかない水準まで荒廃しうる
ゲームにおいて危機マーカーが7個溜まったら国家崩壊のため、封鎖マーカーをいち早く排除すべく与党プレイヤーは奔走する
この挙動には刻一刻と国内で餓死者が続出するなか外交努力に明け暮れる閣僚の窮状が反映されている
④エーベルトの死去
フリードリヒ・エーベルトの死去:このカードをプレイしたプレイヤーは追加の3票を持つ。投票において、各プレイヤーは手番順にダイス1個を振る。出目+政党基盤数を票数とする。議席を1個減らすことでダイスを振り直しても良い。1回目の投票で上位2人を決める。2回目の投票では下位2人は、上位2人のいずれかの政党を支援(票を追加)して良い。2回目の投票で票数が多い候補者が勝利し、大統領となる。
第2時代のタイムラインカードで、3,4ラウンドに登場する
タイムラインのイベントはトワストと似た処理で強制的に解決されるので、エーベルトの死は基本的に避けられない
フリードリヒ・エーベルト(1871-1925)はワイマール共和国の初代大統領
SPD出身の有能、実直、真面目、信用のある人間で、建国以来ずっと大統領として共和国を引っ張ってきた
ワイマール共和国は今のロシアやドイツ、フランスみたいな感じで、大統領と首相が別で独立している
大統領は今のアメリカとかと同じで、国民投票で選ばれる
国民投票=最終的には時の運に左右される水モノ
このフレーバーを意識してか、やや多くダイスを振らせる
インスト込み3時間くらい経ってちょうど眠くなってくるタイミングであり、このジャラジャライベントは眠気覚ましとして有効に機能している
ダイスを振ったあとはその数値をどの政党に割り振るかを決める交渉フェイズがあり、この1枚の解決に10-20分かかることも多い
かなり時間がかかるわりに、
・大統領に誰を選ぶとその結果何が起こるのか
・自分は損するのか、トクするのか
・勝利を狙うために誰を勝たせた方がいいのか
が、選挙を行っている段階ではプレイヤーには何も見えない
この感じは、ちょっとフンタ(1979)のクーデターの感じに似ている
フンタ、ある程度は真面目な選挙ゲームなのだが、反大統領派のプレイヤーがクーデターを宣言すると、急にダイスを振りまくる意味不明なミニゲームが始まる
このクーデターのためだけに用意されたマップを使って、60分くらいかけてゲーム内ミニゲームをやる
60分争い、「このラウンドで大統領が退任するかどうか」を決める
何より、大統領が続投/退任させた結果、未来にどう影響するかが、クーデター中プレイヤーには何も見えない
Junta(1979)
クーデターが宣言されるとボード中央のマップにユニットが突如展開され、ウォーゲームが始まる
絶対に設計の参考にすべきでないゲームだが、フンタを完走した仲間内で語り草になるのはあの無意味なクーデターだ
「クーデター、終わってみれば何の意味もなかったけど、クソ大統領に一矢報いられたし、やってみて面白かったよな」
と
言語化が難しいが、「渦中にある人間には、選んだ結果が未来にどう結実するか分からない」という性質は歴史そのもの、人生そのものであり、そのあたりの骨太な再現に自分は惹かれているのだと思われる
⑤シュトレーゼマンとDVP(ドイツ人民党)
グスタフ・シュトレーゼマン:DVPの小政党カードを支配しているプレイヤーが所有する。任意のダイスロールにおいて、ダイスを振り直す。このカードを裏返し、使用不能にする。ラウンド終了時、再度表返す。
DVP(ドイツ人民党):小政党カード。Zが支配しているなら、1-2/3-4/5-6ラウンド終了時、1/2/1議席を得る。
シュトレーゼマン(1875-1929)はめちゃくちゃ有能な外交官、外務大臣
思想的にはZ(中央党)とDNVP(国家人民党)のあいだくらいの極右寄りの右派
ZにもDNVPにも入党できずに、DVP(ドイツ人民党)という両党の中間層からなる小政党を指揮する
1923年、ワイマールは危機の年に
フランス
「1919年にヴェルサイユ条約を結んで4年!
ワイマールさん一向に賠償金払わないじゃん!
もう待ってられんわ!
仏独国境のルール炭田を占領して、取れた石炭を賠償金に充てます。
差し押さえだよ!
元々お前らの祖先のビスマルクには国境線のアルザス・ロレーヌを取られてて、頭に来てるんだわ
(ルールとアルザス・ロレーヌは一部重なっている)」
ドイツ
「石炭は国家の血液、それが止まると本当に経済が死んでしまう
払えるものも払えなくなる
本当にやめてほしい」
抵抗むなしく、1923年1月ルール占領
占領に対する受動的抵抗(スト)が常態化、死んだ経済をどうにか回すために通貨を大量発行
生死の境にある人間にアドレナリンと輸液を全力で入れて救命を試みる感じに近い
結果ハイパーインフレを起こし、教科書でよく見るドイツマルク札で遊ぶ少年らのあの光景も発生
この段階で同年8月、シュトレーゼマン、能力を買われてか、汚れ仕事を押し付けられてか首相兼外務大臣に就任
絶望的な状況だが、
・フランス、イギリス、アメリカ相手に交渉し、ルールからのフランス撤退と賠償金の減額の譲歩案(ドーズ案)を勝ち取る
・レンテンマルクを発行し、インフレを終息(ハイパーインフレーションの終息)
と神業を発揮
シュトレーゼマン内閣は3か月と短命であったが、その後も外務大臣として逝去する1929年まで6年にわたって続投
・現実主義に根差した交渉能力
・親しみやすく安定的な人格
・フリーメーソン所属の国際的な人脈
これらを武器に卓越した外交能力を発揮
特にアメリカに対して自国を成長市場として売り込み、多額の投資を引き出した
1929年までワイマール共和国も世界情勢もかなり安定していたが、逝去と同月(1929年10月)に発生した世界大恐慌(暗黒の木曜日)から情勢は暗転
アメリカの投資家の余剰資金の運用先としてドイツが魅力的だったわけで、不況になれば真っ先に引き払われる
また恐慌前の開放的な自由貿易路線から一転、ブロック経済(自国の経済圏をガッチリ保護して回復を図る)も逆風に
史実ではこの大恐慌が決定打となり、ワイマールは国際政治から孤立し、ナチスの台頭を許してしまう
こうした史実に沿った能力をシュトレーゼマンはゲーム内で発揮する
まず、DVP(国家人民党)という小政党カードに付随する特殊人物カードという立ち位置
小政党カードはゲーム中2政党の間で所有権が動き、所有者は毎ラウンドちょっとしたボーナスや特殊アクションを得る
DVPカードは最初Zが持っており、DNVPとの間で所有権が行き来する
シュトレーゼマン率いるDVPはちょうどZとDNVPの中間的な立ち位置という史実を反映している
そしてシュトレーゼマンの能力もとても良い
1ラウンドに1回だけ使えるダイス振り直しで、多くの場合外交カードの解決や、ハイパーインフレーションの解決といった超重要局面で使うことになる
つまり、このカードが自陣営にいるだけで外交周りの処理力が倍増する
シンプルな効果でフレーバーも感じさせてくれる
⑥シュトレーゼマンの死去
グスタフ・シュトレーゼマンの死去:シュトレーゼマンカードをゲームから除外。英米・仏・ソ連マーカーのうち1個を除去する。
シュトレーゼマンの死もカード化されている
前述したとおり、シュトレーゼマンの死に伴ってワイマールは外交的強みを失い、孤立を深めていった
史実を反映して外交マーカーを除去する効果がついている
シュトレーゼマンのダイス振り直し効果を失ううえに、外交マーカーが減ることで振れるダイス個数がさらに減り、外交アクションの成功率が如実に下がってしまう
(5)総評
かなり人を選ぶが、この手のテーマがいける人間ならば一度プレイする価値はあると思われる