カテゴリ: レビュー

ワイマールは4人専用の異作
プレイし、言語化する価値を感じたので記事化する


*記事作成にあたって、ミミー氏はぬ氏戸塚中央氏に画像提供、案出し、プレイ等で協力いただきました。この場を借りて感謝申し上げます。



―――

(1)基本情報
(2)テーマ

 ①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
 ②vsデンマーク
 ③vsオーストリア
 ④vsフランス
 ⑤ドイツ統一への他列強の反応
 ⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890
 ⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914
 ⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918
(2)おおまかな長短所
 ①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル
 ②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作
 ③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑
 ④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無
 ⑤マルチエンド制は◎
(4)考察:個別カードの読解
 ①市井の力、国会選挙
 ②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル
 ③ヴェルサイユ条約
 ④エーベルトの死去
 ⑤シュトレーゼマン/DVP(ドイツ人民党)
 ⑥シュトレーゼマンの死去
(5)総評



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Weimar: The Fight for Democracy (2023)
Alternate Names Weimar: Der Kampf um die Demokratie + 1 more
Designer Matthias Cramer
Artist Christian Opperer
Publisher Spielworxx + 3 more


(1)基本情報
人数:4人
時間:120-360分 (6ラウンド制で1R60分、4-5Rで終わる場合が多い)
複雑性:3.86 (参考値:アークノヴァ=3.74、テラミ革新の時代=4.26)
ランク: 5300位 (2023/12/18)
要素:カードドリブン、綱引き、ダイス判定、ネットワーク構築、ドイツ近代史、ワイマール共和国、ナチズムと共産主義に対する民主主義の戦い、4人専用
言語依存:大(ほぼすべて非公開情報)
流通:ホビージャパンから日本語版が発売、とても質が高い

デザイナー:
マティアス・クラマーは52歳前後の兼業デザイナー
化学業界のITコンプライアンスマネージャーが本業
(マティアス・クラマー/Matthias Cramerインタビュー記事について (kanana82.wixsite.com)より)

代表作:

・グレンモア(2010)
・クラフトワーゲン(2015)
・ウォーターゲート(2019)

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Watergate(2019)

(2)テーマ

本作はワイマール共和国の歴史再現
ワイマール共和国とは、
・1919年にドイツ帝国が滅亡
・1933年にナチス第三帝国が成立

この前後に挟まれて15年弱存在した政体
史実だとあっけなくナチの台頭を許した時代のあだ花のような国家
各党の党首となったプレイヤーたちは共闘してナチを退けつつ、自党へ利益誘導すべく混迷の時代を戦っていく

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いきなりゲーム開始年代まで飛んでもいいのだが、前段階のドイツ帝国が生まれた経緯をまず描く
相当長いため適宜読み飛ばし推奨

要約すると以下

・天才ビスマルクの神外交でプロイセン王国からドイツ帝国に拡大(1860-1890)
・2代目(ヴィルヘルム2世)の失策で外交貯金を切り崩し孤立(1890-1914)
・孤立から脱せず第1次大戦スタート、敗戦(1914-1918)
・敗戦の引責でドイツ帝国は解体縮小、ワイマール共和国創始(1919-)


①連戦連勝―ドイツ帝国の成立 1862-1871
ドイツ地方、今はドイツ連邦とオーストリアから成るが、ドイツ帝国ができるまでは数か国が割拠していた
・プロイセン王国
・オーストリア帝国
・バイエルン王国

など
この数か国をまとめあげドイツ帝国を作った立役者が、プロイセン王国のヴィルヘルム1世(国王)&ビスマルク(首相)のコンビ
ドイツ全土が統一されたのは史上初の快挙
本当に乱暴にたとえると織田や徳川のドイツ版って感じ

ビスマルク
(1815-1898)は、しがない地主貴族の出
強力な後ろ盾はなかったが有能さを武器に出世
ヴィルヘルム1世(当時65歳)に見込まれて、47歳で首相に任命される
任命後の首相演説で、
ビスマルク
「プロイセンに必要なのは投票や多数決といった民主主義的なやり方ではない。
血(軍隊)と鉄(兵器)だけ!!」

とぶち上げる
あまりに議会を軽視しており、議員たちはドン引き
Blut und Eisen(ブルートウントアイゼン、血と鉄)の演説から、鉄血宰相とややマイナスイメージであだ名される

議会との関係は最悪だったが、ビスマルク、外交巧者というか、とにかく他国に難癖をつけて開戦に持ち込むのが上手かった

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Otto Eduard Leopold von Bismarck-Schönhausen(1815-1898)

②vsデンマーク

就任2年後の1864年
ビスマルク(プロイセン)
「おいデンマーク、ウチが目かけてる小国(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国)を、お前勝手に取ろうとしてるだろ??」

デンマーク
「いや、やってないっすよ」

ビスマルク(プロイセン)
「いややってた。
オーストリアさんも見てましたよね?」

オーストリア
「見てた。
あいつら良くないよな、やっちまおう」


プロイセンオーストリアvsデンマークで開戦、戦勝

③vsオーストリア

ビスマルク
「この2公国をどう割譲するかだけどさ、ウチが欲しいんだけど、いい?
ほら、ちょうどウチと陸続きだしさ、きっとこの国も統治されたがってるよ
(両公国が取れると相当良い位置に軍港が作れるんだよな~!意地でも欲しい)」


オーストリア
「いやいや、ないでしょ(笑)
絶対ダメ、山分け(共同管理)以外ないでしょ
最悪その2つはあげるから、代わりに代償地としてどこか領地分けてよ」


ビスマルク
「それはないな…
ちょっとウチら、話し合いじゃ無理かもな!」

でオーストリアと開戦(1866年,普墺戦争)、戦勝!

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戦争の端緒となったシュレースヴィヒ=ホルシュタイン公国(薄い赤と青の地域)

④vsフランス

ビスマルク
「オーストリア、併合まではいけなかったけど短期決戦で戦勝講和できたぞ~!
これでドイツ北部の覇権は確立されたな
あとは南部なんだけど、フランスの影響下にあって、このままだと統一は無理だな…
一回因縁つけてフランスもボコすか!」

フランスが理不尽な要求を全ドイツに対して叩きつけてきた感じになるよう全力で外交工作
ドイツ諸国の反仏感情を煽りまくる
そのうえで他のドイツ諸国プロイセンvsフランスで開戦!(1870年、普仏戦争)
1871年戦勝!

宿敵フランスを打ち滅ぼした英雄プロイセン、ドイツの盟主プロイセン、という機運のもと、同年ドイツ帝国が成立

⑤ドイツ統一への他列強の反応


フランス
「ドイツなんて、ずーっと諸国で分裂しててくれりゃよかったんだよ
それがビスマルクとかいうカス野郎、ウチをボコった上にアルザス・ロレーヌまで奪っていきやがった
絶対許さん、いつか見とけよ」


オーストリア
「ウチもフランスと同じ敗戦国なんだけど…
国力ではドイツ帝国に大きく劣るし、しかも民族構成がかなり似てる
あちらにはこっちを併合する理由がありすぎる
頼む、殴らないでくれ~!」


イギリス
「”史上初のドイツ全土統一”ってのは、ちょっとさすがに悪目立ちしすぎ
見過ごせないな」

ロシア
「ウチとフランスでドイツを挟む地勢なんだけど、フランスが落とされるとパワーバランス的にかなりきついな
これ以上ドイツが増長するようなら、ちょっと腕ずくでシメるか」


ここまでデカくなると他国から目をつけられる
日清日露で大勝した大日本帝国を思わせる

⑥戦争なき覇権―ビスマルク体制 1871-1890

が、マルチの鬼ビスマルク、ここでも外交能力(ヘイト管理能力)が光る
・本当にもうこれ以上領土拡大する気はない
・他列強の本土だけじゃなくて、アフリカとか新世界方面の植民地も奪いに行かない
と内外にアピール
言葉に偽りなく、実際に失脚する1890年までこの路線で外交を展開

ビスマルク
フランスとの関係性だけは完全に終わっている、修復不可能
全面戦争したし、相当強く殴った(アルザス・ロレーヌ割譲した)からしゃあない
だからあそこだけはずーっと仮想敵国として想定する
軍事力レースの手は緩めないし、国境線から軍隊は引きあげず、警戒の手は緩めない
裏から手を引いてバチバチに内政にも干渉する
でもそれ以外の諸列強(イギリス、ロシア、オーストリア=ハンガリー、イタリア)とは全然話が通じるはず
彼らが対独大連合を組むのだけは絶対阻止したい
対仏大連合を組まれて袋叩きに遭ったナポレオンの轍は踏まない

フランスが落ちた今、ウチ(ドイツ)、イギリス、ロシアの3強
英露の片方とだけ接近するのは避けよう
いい感じでヘイトコントロールして、列強の盟主、3強の一角としてこの有利盤面を維持する」


結果的にこの方向でドイツ帝国は繁栄し、国力を大いに伸ばした
植民地を取りに行かなかった一手は一見悪手にも見えるが、結果的に植民地をめぐるイギリスvsフランスの対立を延長させ、英仏接近が回避できた

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A Few Acres of Snow (2011)
英仏のケベックでの争い(1754-1763)が描かれる


ヴィルヘルム1世&ビスマルクチームの躍進は1862年から1888年まで続き、この時代の名はビスマルク体制と呼ばれる
が、1888年、ヴィルヘルム1世は91歳で崩御
孫にあたるヴィルヘルム2世が27歳の若さで即位

ヴィルヘルム2世
「おじいちゃんと一緒にやってたビスマルク(73歳)とかいうじいさん、功績はすごいんだけど…
これだけ国力と軍事力があって植民地を一切取ろうとしなかった消極的な姿勢はダメだな
普通にやってたら何個か植民地取れてたでしょ
しかも俺のやりたいようにやらせずに、一生グチグチ言ってくるし、何してるか分からんし
罷免(リストラ)しよ」

とビスマルクを辞職させ、政体を独裁(親政)に移行

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Friedrich Wilhelm Viktor Albert von Preußen(1859-1941)

⑦外交的失策の連発―ヴィルヘルム2世の世界政策 1890-1914

「イギリス、ロシアの両方とつかず離れずをキープせよ。片方とだけ接近するな」
というビスマルクの外交路線をさっそく破棄し、新生ドイツは
イギリスと急接近
イギリスはアフリカを鉄道で南北縦断したいってプラン(ケープ・カイロ計画)を持っていた
敷設計画上にあるドイツ植民地を渡すかわりに別な植民地をもらうという、イギリス有利の交換条約(ヘルゴランド=ザンジバル条約,1890年)

ロシア
「イギリスとウチはアフガニスタンとかをめぐって、もう全力でアジア全域でグレートゲームをやってる真っ最中
ドイツお前、アフリカに鉄道通させるってことはイギリスの兵站を支援してるわけだよ
それがどういうことか分かってるよな?」

とキレてしまう

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Pax Pamir: Second Edition (2019)
アフガニスタンにおける英露の対立が描かれる


交換条約が刺激剤となり、ロシア&フランスが接近、露仏条約(1891年)が締結

しかも戦艦の増産を急ピッチで始めたことで、本命の同盟候補のイギリスからも、
「お前、海軍力でウチと張り合う気か?戦いたいのか?」
と警戒されてしまう

ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「海軍力を高めたのはアフリカ植民地を取るのに必須だからであって…
イギリスの海洋覇権をどうこうする気はないです…
なんなら独英同盟結びたいです(1901年)」


イギリス
「うちと結ぶってことは、ロシアと開戦する可能性も全然あります
あなた、本当にやれますか?」

ヴィルヘルム2世(ドイツ)
「いや…うーん…」


態度の決まらないドイツを見限ったイギリスは同盟相手に日本を選択
1902年日英同盟締結、1904年日露戦争開始

またビスマルクじいさん、実はイギリスとフランスの仲が悪くなるようずーっと裏で工作していたのだが、そのあたりの外交工夫が途絶えたせいか英仏も接近、英仏協商(1904年)
さっきの植民地交換条約の英仏版

日露戦争は1905年日本の勝利に終わり、ロシアの地位は相当落ちる
イギリス(列強暫定トップ)
「ロシアが逝った~!!!
ずーっとロシアをライバルとして叩き続けたけど、もう潮時だな
次シバくのはドイツでしょう
今やドイツがウチの覇権のいちばんデカい脅威

ドイツは「列強の全員が敵」という最悪の状態で10年ほど過ごす
孤立無援のまま手数を全部注いで軍拡を押し進めるが…

⑧開戦、敗戦、ワイマール共和国成立 1914-1918

1914年、オーストリア=ハンガリーの皇太子の射殺を機に第一次大戦勃発
開戦後、ヴィルヘルム2世は統治能力を失い、ルーデンドルフ参謀本部次長が実権を握る
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厳しい戦況ながら粘るも、ドイツの旗色は年々悪化
1918年、全リソースをvs英仏国境にぶちこんで、ワンチャン壊滅させ、どうにか有利な講和を引き出せないか賭けに出る(西部大攻勢)
が、押し切れず後退
同年9月、
ルーデンドルフ(政府発表)
「(さすがに敗戦とは言えんしな…)
国民諸君、休戦の方向で考えている」


これによって国民は「あ、これは敗戦が濃厚なやつだ」と察してしまい、民心が離れ革命の機運が高まっていく

同年11月1日、キールの水兵の反乱

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兵士と労働者が兵営を占拠、共産主義的な労兵評議会(レーテ、ロシアにおけるソヴィエト)を設立

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11月7日、ミュンヘンでも評議会が蜂起
バイエルン王(ヴィルヘルム2世の部下的な)が退位

11月9日、これらを承けてベルリンでゼネスト(全職業の労働者によるストライキ)が勃発
要求はヴィルヘルム2世の退位
第一次大戦敗戦についての引責辞任って感じであり、側近らも妥当な要求と判断
退位を呑むよう説得するも、長期独裁に慣れ切ったのかヴィルヘルム2世は「絶対退位しない」の一点張り

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「このままだと国家転覆する」と判断したのか、皇太子のマクシミリアンが独断で父親と自分の退位を宣言
さらに政権与党であったSPD(社会民主党)のシャイデマンが帝政(君主制)から共和制への移行を宣言
この宣言によって成立した国家がワイマール共和国

ここでプレイヤーらが登場する

SPD(社会民主党、左翼連立与党)
Z(中央党、右翼連立与党)
KPD(共産党、極左野党)
DNVP(国家人民党、極右野党)
の4陣営に分かれて戦う

おおまかに、
SPDZ=6ラウンドのあいだ共和国を崩壊させず、維持させたい
KPD=共産主義革命を成立させ、国家転覆したい
DNVP=宿敵フランスやイギリスのご機嫌伺いをやってるような腰抜け政府をクーデターで打倒し、王政復古したい
このあたりを狙っていく 


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(2)おおまかな長短所
①7割がたウォーターゲート&トワイライトストラグル


ルールはシンプル
作者の前作に2人用のウォーターゲート(2019)があるが、これを単純に4人用に拡張した感じ
インストは30-45分、ウォーターゲートかトワイライトストラグルをプレイ済なら20分程度

各陣営は12枚からなる固有のカードデッキを持つ
カードはAPを使って通常アクションをするか、イベントとして解決する
イベントとして解決する場合は一部例外を除いてデッキから除外
固有デッキとは別に2種各5枚の強化セットがある
プレイヤーは望むなら、ラウンド開始時に5枚一気に初期デッキに加えることができる
・都市の制圧
・議会での議論
・新たな勝利点獲得手段

などセットごとに得意不得意があり、どの勝利条件を狙うか定まり始めた中盤(2-3R目)に片方のセットのみ投入される場合が多い

また共通のタイムラインカード(史実のイベントカード)のデッキがある

毎ラウンド固有デッキからカード3枚、タイムラインデッキから2枚引き、計5枚を手番順に1枚ずつプレイ
カードを使い切ったらラウンド終了
たまに5枚でなく6枚引いたり、5枚使い切れない場合もあるが、基本は5手
5手×6ラウンド=30手のゲーム

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Watergate(2019)

②システム的な洗練度はウォーターゲート>>本作

ウォーターゲートだとデッキが何回転もする
・APの低いカードを除外してデッキの出力を高め、対戦相手との綱引きで優位に立つ
・人物カードによる対応(MtGのインスタントの打ち消し呪文)の熱い応酬

など、かなりボードゲームとして面白かったが
本作のデッキは、ただのランダマイザに成り下がってしまっている感が否めない
12枚の固有デッキ
・初期の固有デッキとは別で2つの強化セット(5枚の強カード)を投入する

・固有デッキとは別でタイムラインデッキもある
・1ラウンド3枚引く
・最大6ラウンド(5ラウンド目の途中で終わる場合が多い)

やってみるとわかるが、全然引けなくてデッキが回らない
デッキを整えて出力を上げるような暇があまりない
コントロール感、圧縮できている感はかなり薄い

なお参考までにウォーターゲートは、
20枚の固有デッキ
・途中投入の強化セットやタイムラインデッキはナシ
・毎ラウンド4-5枚引く
・終了トリガー制で、長引くと8-10ラウンド続く


③対応(カウンター呪文)の実装も煩雑

ウォーターゲート同様、相手の手番中に対応系の人物カードを持っていると対応が差しはさめる
前作だと2人戦だったこともあって対応の打ち合いがかなり楽しかったが
本作は4人戦であることが災いしてか、爽快感よりも理不尽感煩雑さが強まっている
2人戦であれば手番プレイヤーが「〇〇打ちます、対応ありますか」と宣言し合うのは全然テンポ感を削がない
4人戦だと確認がかなり手間だし、処理忘れが生じた際の巻き戻しも2人戦と比較にならないくらい難しい
さらにカードでの対応とは別で、リザーブのAPを使ってのリアクションも同じ"対応"と呼ばれており、挙動が微妙に異なるのでそのあたりも煩雑
他3人の手番中に対応を構えておくのもけっこう手間で、忘れやすい


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④王道重ゲー的な気持ち良さは皆無

とても大きな短所として、ゲーム的な面白さが薄い
”ゲーム的”を言い換えると、プレイしていて「か~!気持ち良い~!!」と感じる瞬間がめったにない
他の作例だと、
・テラミスティカ(2012)の、布石をきちんと打って得点化ラウンドで勝利点をガンガン重ねていく爽快感
・テラフォ(2016)の、産出をどんどん高めてカードをバンバン出していく気持ち良さ
・白ブラス(2018)の、自分の都市計画を盤面に反映させていく自己効力感


適度なストレスで負荷をかけつつ、要所要所でこういった気持ち良さを与えてくれるゲームは名作だ
依存性が高く、リプレイされやすく、根強い人気を得やすい

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Brass: Birmingham (2018)

⑤マルチエンド制は◎

「じゃあ何がおもろいねん」って話だが
本作で最も強くリプレイ性を担保しているのは、多岐にわたる終了条件とそれをめぐるリッチな語りだ
勝利条件は以下5パターン

・危機マーカーがボード上に並べ尽くされる国家崩壊エンド
・ナチトラックが進みきってしまうナチス誕生エンド(正史エンド)
・野党(KPD、DNVP)のどちらかがベルリンと他2都市を制圧する国家転覆エンド
・野党(KPD、DNVP)のどちらかが過半数の議席を獲得する極右/極左独裁エンド
・6ラウンド完走しきる通常エンド(Trueエンド)


詳細省略するが、下に行くほど到達が難しい
ウラを返すと、プレイを重ねて卓全体の練度が上がるほど、ゲームを長期化させる技術が上達する
そのあたりに一定のやりごたえはある
本来、ロングゲーム化はプレイヤーをあまり幸福にしないものだが、本作での長期化は、
「史実では時代の激流に揉まれて短命に終わったワイマール共和国が、
・ハイパーインフレ
・暗黒の木曜日から始まる経済大恐慌
・ナチの台頭
・極左/極右勢力どもの反政府活動
これらの辛苦に耐えて生き延びる

であり、歴史好きな人間はこういった歴史改変に喜びを見出すと思われる
いわゆるマルチだが、
ごっこ遊び的な楽しさは他のマルチゲームよりも大きいと言える
ストーリー、ナラティブ、豊かな語りを生んでくれる

特に6ラウンド完走のTrueエンドは、
・シュタインズ・ゲート(2009)のシュタインズ・ゲート世界線
・ひぐらしのなく頃に(2002)の祭囃し編
・絶対当たらないテキ屋のPS5の景品

のように、プレイヤーの心をつかんで離さない

言語化がちょっと難しいが、この感じはトワイライトストラグル(2005)にも近い
トワストは冷戦下でソ連陣営アメリカ陣営に分かれて戦う2人用のカードドリブン
ゲーム序盤のイベントでソ連側がかなり優遇されており、不慣れなうちはソ連の中押し勝ちが多発する
お互いデッキ内容を把握してくると徐々にアメリカでも勝ちが拾えるようになる
分かっている人同士で打つベースゲームは、アメリカが微有利だとされている
自分が上達するにつれて、より感情移入しやすいアメリカ陣営が勝ちやすくなる
という構造は恐らくアメリカ人の大半にとって親しみやすい
彼らのリプレイ欲求を一定向上させ、それがBGGランク向上にも寄与していると思われる

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Twilight Struggle (2005)

(4)考察:個別カードの読解

何枚か印象的なカードをピックアップする

①市井の力、国会選挙


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市井の力:全プレイヤーは、自分の政党基盤がある都市が3-5/6-7/8つ以上なら、1/3/5勝利点を得る。
国会選挙:全プレイヤーは、自分の政党基盤が2つ以上ある各都市から政党基盤1個を議会に移動させる。その後、議員が4-6/7人以上なら1/3勝利点を得る。


地図上の政党基盤(自色のミープル)に応じて全員が勝利点やボーナスを得る4枚
ミープルはボード
左の地図上にいるときは政党基盤と呼ばれ、国会選挙で当選を果たすと議員となり、ボード右の議会ゾーンに移動する

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ボード左に11個の都市が、右上に24個の議席がある

この4枚はタイムラインデッキに残り続けるため、ほぼ毎ラウンドいずれかの効果が解決される
トワイライトストラグルにおける地域決算カードに近い実装
またスタッツは2/2が2枚、3/1が2枚と均(なら)されており、「このゲームの標準出力は2/2か3/1だよ」と言外に語っている



②ローザ・ルクセンブルク/カール・リープクネヒト/極右テロ組織コンスル

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ローザ・ルクセンブルク討論への対応:そのプレイヤーは討論のためにプレイしたカードの大きい値だけを使う。その後、あなたは小さい値を使って、そのプレイヤーが進めなかった任意の論点1つを進める。その後、カード1枚を引く。
カール・リープクネヒト:都市1つでの1アクション(政変、対抗政変、デモ)か対応への対応。ダイスの出目―1。その後、カード1枚を引く。
極右テロ組織「コンスル」:任意の捨て札置き場から政治家カード1枚を探し、ゲームから除外。その後ダイス1個を振り、1-2=このカードをゲームから除外(失敗)。3-4=プレイヤーは危機ロール1回(中成功)。5-6=3/1の数値でアクションか討論を行う(大成功)。


コンスルは、相手3人の墓地を参照して、人物カード1枚をゲームから除外するDNVPのカード
除外対象はどの政党でもいいが、KPDの人物2枚が対象に取られることが多い
というのも、Zは同じ右派で基本的に敵対しない
SPDKPDDNVPにとってどちらも宿敵だが、ゲーム開始時からKPDの評議会(勝利点収入源)が一つ建っており、そのせいでDNVPは毎ラウンド実質2点減点を食らい続ける
このためDNVPはややKPDにヘイトを向けやすい
ルクセンブルクとリープクネヒトは史実でも義勇軍(≒DNVP)に逮捕され、共和国の黎明期、1919年1月15日に命を落とした
特に若くして無残に殺された女傑ルクセンブルクは革命のアイコンとして象徴化されている
コンスルがどちらかを除外すると、その史実再現に喝采を上げてしまう


③ヴェルサイユ条約

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ヴェルサイユ条約:政府のみが2APを支払い、外交アクションとしてこのカードを解決できる。ダイスを振る前に暴力的平和マーカー1個をDRに追加。DNVPの政党基盤を2個追加。DNVPの議員1体を追加。その後、ダイス1個を振る。フランストークンが出ている場合、トークン数分ダイスを増やす。出目4以上で成功。実行者は2勝利点を得る。国家の経済トラック+1。DRから封鎖トークンを除外。政府プレイヤー2名はそれぞれ危機ロール1回。このカードを除外。ラウンド終了時、このカードが除外されず残っているなら、封鎖トークン1個をDRに追加。

政府与党(基本的にSPDとZ)のみが打てるアクションに外交アクションがある
外交カードはヴェルサイユ以外にも5枚あるが、どれもおおまかには、
・ダイスを振る
・成功すると勝利点を得て、危機マーカーを減らす

というような解決がなされる
外交で得られる勝利点は微々たるものに見えるが、与党をいちど触るとこの2-3勝利点の大きさに驚かされる
対立与党に点差をつけられる数少ない貴重な機会

また、外交を放置すると危機マーカーがみるみる溜まって国家崩壊エンドに至ってしまう
よって打つメリットと放置するデメリットがあり、基本的には打たれていく

ヴェルサイユ条約をはじめとして、外交カードの大半(6枚中4枚)が実行すると、ダイスを振る前にDNVPの議席が自動で大きく増える
成功可否に関わらず増える
失敗すると再度打つ必要があり、DNVPの議席がヤバい速度で増えていく
ここだけ抜き取るとかなり理不尽であり、初回プレイだと「黒強すぎじゃん、クソゲーか??」と感じるのだが
この部分のゲームバランスは壊れていないし、また史実を理解するとわりと納得できる
DNVPのプロフィールは、
ドイツ民族推し
・他国との協調拒否
・ユダヤ人忌避
・社会主義、共産主義NO
・旧ドイツ帝国の皇室(≒強いドイツ)の復活を


ステラリスの統治志向の排他、権威、軍国って感じ
たとえばヴェルサイユ条約において、フランスとイギリスはワイマールに対して、到底払い切れない額の賠償金を請求している
ヴェルサイユアクションによって生じるDNVPへの強力なバフは、

・政府の軟弱で弱腰な外交姿勢への民衆の怒り「かつての敵国からの要求を唯々諾々と受け入れるな!」
・結果、他国への敵対感情が高まり
・最終的により強力なリーダーシップを求めてDNVPに票が集まる

という流れを反映している

反対にたとえばローザンヌ会議(ドイツの賠償金を減らすため英仏が開催)への参加は国民感情を刺激しないため、DNVPの議席ボーナスは設定されていない

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なお余談だが、ヴェルサイユ条約を解決しないまま放置する、つまり国民感情に流されて交渉のテーブルに着かないでいると、DR(危機マーカー置き場)に毎ラウンド封鎖マーカーが1個ずつ溜まっていく
7個溜まったら国家崩壊のため、第1ラウンド、遅くとも第2ラウンド中に解決してしまいたい


この封鎖は、史実における第一次大戦中のドイツ封鎖を指している
海軍による大規模な海上封鎖、兵糧攻めで、ドイツへの食料の供給を断った
北海をイギリス海軍が封鎖
またオーストリア経由での輸入も止めるべく南方のアドリア海の封鎖にはフランス海軍があたった

40-70万人がこれを原因とした飢餓と疾病で亡くなったとされる

この封鎖はヴェルサイユ条約締結直後に解かれた
もし締結を遅らせると解除も延期されたはずであり、そうすると共和国内は取返しのつかない水準まで荒廃しうる

ゲームにおいて危機マーカーが7個溜まったら国家崩壊のため、封鎖マーカーをいち早く排除すべく与党プレイヤーは奔走する
この挙動には刻一刻と国内で餓死者が続出するなか外交努力に明け暮れる閣僚の窮状が反映されている



④エーベルトの死去

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フリードリヒ・エーベルトの死去:このカードをプレイしたプレイヤーは追加の3票を持つ。投票において、各プレイヤーは手番順にダイス1個を振る出目+政党基盤数を票数とする。議席を1個減らすことでダイスを振り直しても良い。1回目の投票で上位2人を決める。2回目の投票では下位2人は、上位2人のいずれかの政党を支援(票を追加)して良い。2回目の投票で票数が多い候補者が勝利し、大統領となる。

第2時代のタイムラインカードで、3,4ラウンドに登場する
タイムラインのイベントはトワストと似た処理で強制的に解決されるので、エーベルトの死は基本的に避けられない
フリードリヒ・エーベルト(1871-1925)はワイマール共和国の初代大統領
SPD出身の有能、実直、真面目、信用のある人間で、建国以来ずっと大統領として共和国を引っ張ってきた
ワイマール共和国は今のロシアやドイツ、フランスみたいな感じで、大統領首相が別で独立している
大統領は今のアメリカとかと同じで、国民投票で選ばれる
国民投票=最終的には時の運に左右される水モノ
このフレーバーを意識してか、やや多くダイスを振らせる
インスト込み3時間くらい経ってちょうど眠くなってくるタイミングであり、このジャラジャライベントは眠気覚ましとして有効に機能している
ダイスを振ったあとはその数値をどの政党に割り振るかを決める交渉フェイズがあり、この1枚の解決に10-20分かかることも多い
かなり時間がかかるわりに、
・大統領に誰を選ぶとその結果何が起こるのか
・自分はするのか、トクするのか
・勝利を狙うために誰を勝たせた方がいいのか

が、選挙を行っている段階ではプレイヤーには何も見えない

この感じは、ちょっとフンタ(1979)のクーデターの感じに似ている

フンタ、ある程度は真面目な選挙ゲームなのだが、反大統領派のプレイヤーがクーデターを宣言すると、急にダイスを振りまくる意味不明なミニゲームが始まる
このクーデターのためだけに用意されたマップを使って、60分くらいかけてゲーム内ミニゲームをやる
60分争い、「このラウンドで大統領が退任するかどうか」を決める

何より、大統領が続投/退任させた結果、未来にどう影響するかが、クーデター中プレイヤーには何も見えない

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Junta(1979)
クーデターが宣言されるとボード中央のマップにユニットが突如展開され、ウォーゲームが始まる


絶対に設計の参考にすべきでないゲームだが、フンタを完走した仲間内で語り草になるのはあの無意味なクーデターだ
「クーデター、終わってみれば何の意味もなかったけど、クソ大統領に一矢報いられたし、やってみて面白かったよな」

言語化が難しいが、「渦中にある人間には、選んだ結果が未来にどう結実するか分からない」という性質は歴史そのもの、人生そのものであり、そのあたりの骨太な再現に自分は惹かれているのだと思われる


⑤シュトレーゼマンとDVP(ドイツ人民党)

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グスタフ・シュトレーゼマン:DVPの小政党カードを支配しているプレイヤーが所有する。任意のダイスロールにおいて、ダイスを振り直す。このカードを裏返し、使用不能にする。ラウンド終了時、再度表返す。
DVP(ドイツ人民党):小政党カード。Zが支配しているなら、1-2/3-4/5-6ラウンド終了時、1/2/1議席を得る。


シュトレーゼマン(1875-1929)はめちゃくちゃ有能な外交官、外務大臣
思想的にはZ(中央党)DNVP(国家人民党)のあいだくらいの極右寄りの右派
ZにもDNVPにも入党できずに、DVP(ドイツ人民党)という両党の中間層からなる小政党を指揮する

1923年、ワイマールは危機の年に
フランス
「1919年にヴェルサイユ条約を結んで4年!
ワイマールさん一向に賠償金払わないじゃん!
もう待ってられんわ!
仏独国境のルール炭田を占領して、取れた石炭を賠償金に充てます。
差し押さえだよ!
元々お前らの祖先のビスマルクには国境線のアルザス・ロレーヌを取られてて、頭に来てるんだわ
(ルールとアルザス・ロレーヌは一部重なっている)」

ドイツ
「石炭は国家の血液、それが止まると本当に経済が死んでしまう
払えるものも払えなくなる
本当にやめてほしい」


抵抗むなしく、1923年1月ルール占領

スクリーンショット 2023-12-26 152426


占領に対する受動的抵抗(スト)が常態化、死んだ経済をどうにか回すために通貨を大量発行
生死の境にある人間にアドレナリンと輸液を全力で入れて救命を試みる感じに近い
結果ハイパーインフレを起こし、教科書でよく見るドイツマルク札で遊ぶ少年らのあの光景も発生

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この段階で同年8月、シュトレーゼマン、能力を買われてか、汚れ仕事を押し付けられてか首相兼外務大臣に就任
絶望的な状況だが、
・フランス、イギリス、アメリカ相手に交渉し、ルールからのフランス撤退と賠償金の減額の譲歩案(ドーズ案)を勝ち取る
レンテンマルクを発行し、インフレを終息(ハイパーインフレーションの終息)


スクリーンショット 2023-12-26 152713

と神業を発揮
シュトレーゼマン内閣は3か月と短命であったが、その後も外務大臣として逝去する1929年まで6年にわたって続投
・現実主義に根差した交渉能力
・親しみやすく安定的な人格
・フリーメーソン所属の国際的な人脈

これらを武器に卓越した外交能力を発揮

特にアメリカに対して自国を成長市場として売り込み、多額の投資を引き出した
1929年までワイマール共和国も世界情勢もかなり安定していたが、逝去と同月(1929年10月)に発生した世界大恐慌(暗黒の木曜日)から情勢は暗転
アメリカの投資家の余剰資金の運用先としてドイツが魅力的だったわけで、不況になれば真っ先に引き払われる
また恐慌前の開放的な自由貿易路線から一転、ブロック経済(自国の経済圏をガッチリ保護して回復を図る)も逆風に
史実ではこの大恐慌が決定打となり、ワイマールは国際政治から孤立し、ナチスの台頭を許してしまう

こうした史実に沿った能力をシュトレーゼマンはゲーム内で発揮する

まず、DVP(国家人民党)という小政党カードに付随する特殊人物カードという立ち位置
小政党カードはゲーム中2政党の間で所有権が動き、所有者は毎ラウンドちょっとしたボーナスや特殊アクションを得る
DVPカードは最初Zが持っており、DNVPとの間で所有権が行き来する
シュトレーゼマン率いるDVPはちょうどZDNVPの中間的な立ち位置という史実を反映している
そしてシュトレーゼマンの能力もとても良い
1ラウンドに1回だけ使えるダイス振り直しで、多くの場合外交カードの解決や、ハイパーインフレーションの解決といった超重要局面で使うことになる
つまり、このカードが自陣営にいるだけで外交周りの処理力が倍増する
シンプルな効果でフレーバーも感じさせてくれる

⑥シュトレーゼマンの死去
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グスタフ・シュトレーゼマンの死去:シュトレーゼマンカードをゲームから除外。英米・仏・ソ連マーカーのうち1個を除去する。

シュトレーゼマンの死もカード化されている
前述したとおり、シュトレーゼマンの死に伴ってワイマールは外交的強みを失い、孤立を深めていった
史実を反映して外交マーカーを除去する効果がついている
シュトレーゼマンのダイス振り直し効果を失ううえに、外交マーカーが減ることで振れるダイス個数がさらに減り、外交アクションの成功率が如実に下がってしまう



(5)総評

かなり人を選ぶが、この手のテーマがいける人間ならば一度プレイする価値はあると思われる

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Mai 1968は戸塚中央氏と共作の2023年12月新作
学生、機動隊、労働者の3陣営に分かれ1968年のパリでの主導権を争う

ゲームマーケットで販売される、というか筆者が販売するため、おおまかな紹介記事を作成する
できるだけ客観的に記述するよう工夫はしたものの、自作のためひいき目のバイアスがおおきくかかっていると思われる
適当に割り引いて読まれることを勧める



(1)基本情報
(2)テーマ
(3)おおなかなプレイ感
(4)総評

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(1)基本情報
人数:3人
時間:30分
複雑性:2.0前後(スプレンダー(1.78)とカタン(2.30)のあいだ)
ランク:―(未登録)
要素:陣営非対称、マルチ、陣取り、完全公開情報
言語依存:日本語ルール。ボード上にテキスト情報はなし。ルールは下記リンク。
https://gamemarket.jp/blog/187177
流通:現状2023/12/9のゲームマーケットのみで販売、土曜のみ

デザイナー:
デザイナーは筆者(TakeWatch)と戸塚中央
それぞれの代表作は、Amalfi(2020)Ostia(2022)など
合作は初

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Ostia(2022)

パブリッシャー:

なし(インディーズ出版)

アーティスト:
有我悟(あるがさとる)氏

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有我氏の手からなるメインボード

プレイテスター:

カワイ氏
ほぼ全てのテストを筆者、戸塚氏と同氏の3人で行った
発案から半年弱という短期間で完成できたのは同氏の精力的な助力のおかげであり、この場を借りて深く感謝申し上げます。


(2)テーマ
今から55年前、1968年のパリが舞台
当時の学生運動がどのように発生したか、最初にざっと説明する

まず、日本の終戦は1945年8月だが、フランスの戦勝記念日も同年の5月8日

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パリ凱旋門広場を行進する復員兵,1945年

終戦後フランス兵が復員し、1945-1955年あたりはベビーブームとなり出生率が爆上がりした
これは戦勝国・敗戦国問わず普遍的な傾向で、日本だと団塊の世代、英米ではベビーブーマーと呼ばれる

時代精神的な、世代全体が持つ特徴がある
各国によって微差はあるものの、

・禁止に対しての反対
平和主義
反権力主義
・性的な事柄に対しての開放性

このあたりとされる

ちょっと脱線するが、日本の全共闘世代(団塊のうち1968年時点で18-25歳の大学生や院生だった人)は以下の傾向を持っていた

【教育加熱によるストレス】

戦後の平和・非戦教育が浸透し、血肉となっている
・教育熱が過激化し、現代のような(あるいは現代以上の)受験戦争が発生
・「国民皆受験」とでも言えるような事態に直面した初めての世代
・5%以下だった大学進学率はこの世代だと20%程度にまで急増

【民意を反映しない政権への失望】

アメリカがベトナム戦争を続けることを与党(自民党)が支持する外交姿勢に対して、かなり強い不満を持っている(反戦教育が浸透しているため)
・「不満が反映されないのはクソ、戦後導入された議会制民主主義ってシステム、実は終わってるのでは」と疑念と失望を抱いている(→デモや抗議活動につながっていく)

【親世代とのディスコミュニケーション】

・上記から、漠然とした不満や閉塞感、生きづらさを持っている
・複数の要因によるため、それが具体的に何であるのか言語化しづらい
・この感覚は親世代にはほぼ理解されない(飢餓、貧困、戦争こそが親世代の体験した真の不幸であり、恵まれた子世代の発言はワガママのように映ってしまう)

【楽天性】

・高度経済成長期で、学生アルバイトの賃金が法外に高い(社会をなめたような楽天的な方向に思考が進む)
・ベビーブーマーのため人口が多く、高度成長の上げ潮と相まって「時代は自分たちの後についてくる」というような全能的な世代の空気感がある
 
*参考資料:「1968-若者の叛乱とその背景(小熊,2007)
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機動隊の放水を浴びる東大安田講堂,1969年

このあたりをベースに日本では首都圏で学生運動が展開された

パリではどうだったか以下で見ていくが、日本語文献で読めるものに目を通したにすぎないが、日本の状況とおおまかに近いものがある

【学生の蜂起】

先ほど描いた閉塞的な空気感のなか、特に左傾化した学生が新左翼団体を結成し、1968年5月パリ大学を占拠、バリケードを構築
学生の声を反映しない教授会・大学システムの解体と官僚制の打倒が彼らの要求
他の学生や労働者を扇動、オルグ(組織化)し、各地を占拠


【労働者の呼応】
労働者らは学生の活動を支持する連帯ストライキを実施
が、賃上げと待遇改善が彼らの要望であり、両者は全く一枚岩ではなかった

パリの一部の業種から始まったストライキは、フランス全土の多業態が参加するゼネストにまで発展し、国内産業や交通網は完全に麻痺

【政府の的確な対応】
シャルル・ド・ゴール(共和国大統領)は学生団体に対してはすぐさま機動隊を送り、鎮圧
また、
・労働組合(賃上げしてほしい)

・雇用主連合(賃上げしたくない)

の仲裁に入り、3者協議を実施

最終的に雇用主連合が折れて賃上げは実施、国民感情が大いに改善され、
「もう我々は満足したのに、あの学生らはいつまでやっているのか?」
的な空気感も醸成


「世論を問うなら今だ、今なら新左翼らを選挙でボコれる」と政権側は判断、6月に総選挙を実施
ド・ゴールら与党が大勝利し、学生運動はこれを受けて鎮静化した



このパリにおける五月危機をプレイヤーたちは演じる

UNEF(フランス全国学生連盟、以下学生)
CFDT(フランス民主労働総同盟、以下労働者)

CRS(フランス共和国保安機動隊、以下政府)


の3陣営に分かれる
ゲーム的には勝利点制の陣取りで、カタンとおおまかには近い
いちばん最初に規定勝利点に達した陣営が勝利宣言を行う

ただし3陣営でやれること、やりたいことがまるっきり異なる

UNEF(学生)

・学生を動員(バリケードに新ユニットを生み出す)
・労働者をオルグ(教化、組織化)し自陣営に引き入れる
・地域に学生を大量投下し新しいバリケードを構築

CRS(政府)の監視をかいくぐりつつ道中の労働者を扇動し勢力を拡大、バリケードを増やして勝利点を取っていく


CFDT(労働者)

・仲間の労働者を地方から召集(鉄道駅に新ユニットを生み出す)
・デモ隊を暴徒化させ、機動隊と衝突

数の多さを頼りにパリを労働者一色に染め上げる
暴徒化によって目標勝利点が大きく下げられ(政府が態を深刻視し、労働者の要求を呑みやすくなる)、勝利が一気に近づく


CRS(政府)

・機動隊コマを高速で移動させ、学生を確保し、警察署(自拠点)へ連行
・スタックさせた機動隊をバリケードに突入させ、破壊
・セキュリティ上重要な特別警護地区に機動隊を動員し、治安回復

比較的複雑な陣営
UNEF(学生)ユニットの無力化とバリケード破壊が主たる勝利点獲得手段だが、隙を見て特別警護地区に機動隊コマを送り込むと目標勝利点ラインが大きく下がる


史実だとCRS(政府)CFDT(労働者)のヘイトをそらしながらUNEF(学生)を取り締まり、勝利した
本作は歴史再現系だが「史実に沿ってCRS(政府)が過度に強力」みたいなことはなく、どの陣営も十分に勝利可能性がある

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パリを行進する学生と労働者,1968年5月29日


(3)おおまかなプレイ感

一方向しか殴れないマルチ
UNEF(学生)CFDT(労働者)をノーリスクで殴れるが、CRS(政府)の攻撃に抗う術を持たない
「UNEF(学生)がCRS(政府)に不利」っていうより、攻撃対象にすら取れない感じ
いわばじゃんけんの3すくみで、UNEF(学生)CFDT(労働者)CRS(政府)UNEF(学生)…と相性がループしている

これでゲームが成り立つのか、また面白いかだが
全然成立するし、客観的には不明だが、かなり筆者の好みに合っている
たいていの自作は一度fix(ルールを確定)するとほとんどリプレイしないが、本作は例外的で、完成後もけっこうな回数遊んでいる

(4)総評

評価を下すのはユーザーのため、割愛する


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ディズニーヴィランズは2-6人用の対戦ゲーム
ヴィラン(悪役)になりきって自分のワールド(箱庭)の支配を目指しつつ、他プレイヤーのワールドにヒーローを送り込んでジャマし合う
記事化する価値がある良作だと感じたため、記事化する

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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)おおまかなプレイ感
 ①強い対人攻撃要素
 ②クライマックスの足の引っ張り合い感は△
(4)考察:物語論から読み解くディズニーヴィランズ
 ①宿命デッキ=物語が始まる前の故郷、家庭
 ②4つのアクションスペース=英雄の旅路

 ③ヴィランの勝利=英雄は一度死ぬ

 ④足の引っ張り合い=主人公の復活

(5)総評


スクリーンショット 2023-09-26 184741
Disney Villainous (2018)
Designer Prospero Hall
Publisher Ravensburger, Wonder Forge

(1)基本情報
人数:2ー6人、ベスト3,4人
時間:60-90分(人数×30分程度)
複雑性:2.48(参考値:ウイングスパン=2.42、ストーンエイジ=2.46)
ランク:760位(2023/10)
要素:固有デッキと固有の勝利条件、サイズ:大鎌戦役方式のアクション選択、Oath方式の「勝利目前の人を全員で殴れ」システム
言語依存:とても強い
流通:ブリオジャパンが完全日本語版を販売、現在流通あり、和訳の質はとても高い
本作の版元がラベンスバーガーで、ブリオジャパンはラベンスの日本窓口的な業務をやっているようであり、その兼ね合いだと思われる

デザイナー/パブリッシャー:

デザイナーはプロスペロ・ホール

他の代表作は飛行機会社を運営するゲーム、パンナム(2020)など
(過去記事のレビュー:パンナム/Pan Am参照)
アメリカ、シアトルにあるゲームデザインスタジオで、30人程度のメンバーで運営している

スクリーンショット 2023-09-26 200605
Pan Am(2020)


(2)テーマ
villainousとは極悪という意味の形容詞
発音的にはヴィランズでなく、ヴィレナスの方が忠実
Disney Villains(ディズニーの悪党たち)でも全然意味は通ると筆者は考えてしまうが、母語話者やディズニーの文脈をよく理解している方だけが感じ取れるニュアンスの違いがある可能性もある
なおVillainous(極悪の)の語源は古代ローマのVilla(ヴィラ、荘園)で、
ヴィラ→農園→農園にいる農奴→卑しい人→小悪党
と意味が変わっていった

プレイヤーはいわばキングダムハーツ(2005)シリーズの、各ワールドのボス(ヴィラン)だ
キンハーではヴィランたちは基本的に協力し合っていた
主人公勢力という共通の敵、統率力のあるリーダー・マレフィセント、そしてプリンセス集めという共通の目標があったからだ
本作ではソラたちのような共通の敵も、王国の心(キングダムハーツ)のような共通の目標もない

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Kingdom Hearts(2005)

他ヴィランを出し抜き、自分のワールドをいち早く統一するために、
・固有のデッキを掘って行き、勝利に不可欠なキーアイテム(アラジンなら魔法のランプ)を探し当てる
・手札のキーアイテムや手下を場に展開
・他ヴィランと敵対するヒーローらに秘かに加担し、他ワールドに刺客を送り込む
・送り込まれたヒーローやその仲間らを、配下の軍勢を差し向けて撃退する

などをやっていき、個々人の勝利条件達成を目指す

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(3)おおまかなプレイ感

①強い対人攻撃要素

本作、言ってしまえばかなりバランスは悪い
何より、ヴィランごとの強弱差が激しい
また運要素も理不尽
キーカードを開始時に引けたか、それともデッキの底に沈んでいていつまでも引けなかったか
こういった
純粋な運要素によって、天と地の差が生じる
そこを是正するために、相当露骨な対人攻撃要素をゲームの中心に据えている
殴り合わせることで無理やりバランスを取らせている

宿命アクションというのがあり、それを実行すると、ノーコストで相手プレイヤー1人の個人ボードにヒーロー1体をプレイできる
ヒーローデッキ(宿命デッキ)もまた各ヴィラン固有で、攻撃されたヴィランのヒーローデッキから2枚ガチャ引きし、好きな1枚を選択する
ヒーローカードは個人ボード上部に差し込まれ、上段の2つのアクションを塞いでしまう
本来4アクションあったものが2アクションになってしまう
塞がれるのは4スペース中1個だけであり実際は大した痛手ではないが、相当な不快感がある
また、特定のキーカード的なヒーローは、ヴィランの勝利条件に直接関与して、大幅に進捗を遅らせる
たとえばアラジンのアブー(アラジンの肩に乗っているトルコ帽をかぶった小猿)は、場にあるアイテムカード1枚をアブーに装備させ、撃退するまで使用不可能にし続ける能力がある
明らかに魔法のランプのメタカード
ランプをいちどアブーに奪われると、手下を新しく用意したうえで攻撃アクションを行う必要があり、相当なスローダウンを余儀なくされる

これが面白いかだが、好みによるとは思われる
勝利を目指す上ではこの上なく不愉快な能力だが、馴染みの深い主人公サイドのキャラクターカードに書かれている能力だと、やはり愛嬌があって許せてしまう部分がある
また前述したように、仮にこういった攻撃要素がないとほぼプレイする意味のない運ゲーになってしまうので、必要悪でもあると思われる

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②最終盤の足の引っ張り合い感は△

自分のデッキのカラーが見え始める序盤と、勝利条件に近づいていく中盤は楽しいが、各プレイヤーが勝利に手をかけ始める終盤からのプレイ感はあまり良いものではない
ヴィランの多くの勝利条件が、「○○のカードを□□のスペースに移動させ、その状態で手番を開始するといったものになっている
この、「手番を開始する」の文言がミソで、手番終了時に勝利条件を達成したとしても、1手待たないといけない
放っておくと無条件で勝利してしまうためで、他プレイヤーは自分の手を歪めてでも殴りに行く
4人戦だと3人から殴られる
キング・オブ・トーキョー(2011)のトーキョーマスに立たされる怪獣を思わせる
Oath(2020)で勝利条件を達成した状態で次手番開始を待つ感じにもかなり近い

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Oath: Chronicles of Empire and Exile(2020)


こうやって足を引っ張り合っているうちに他プレイヤーにもリーチが入り始める
最終的にはヒーロー側のキーカードを運よく引かれなかったプレイヤーか、地力が勝る(勝利条件達成の容易な)プレイヤーがそのまま勝利することが多い

このおかげで最後まで1位が分からないという長所が生じており、また勝敗を厳密に争うようなゲームでもないが
やや長い点だけはいただけない
3人戦90分のうち、後半40分くらいこの状態で膠着してしまう感じがあり、個人的には15分くらいだと理想的


本作、プレイしていて「アメゲーっぽいな~!」と感じることが多々あったのだが、

・カードテキストの分量の多さ
・やや過剰なまでのテーマ再現演出
・勝利目前でジャマし合ってダラダラプレイ時間が延びる
あたりが理由と思われる
勝利目指して集中して取り組む競技的な楽しさよりは、雑談しながらプレイできる気楽さが優先されている
友人や家族と一緒に過ごす時間をより楽しいものにする道具に徹した作りだ
本作はアメリカ人作の、アメリカ人をメインターゲットにした、当地で大きな成功を収めたゲームのため、おそらく彼らの需要に100%応えられた結果だと思われる

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(4)考察:物語論から読み解くディズニーヴィランズ

構成上前項ではあまり褒められなかったが、本作はきちんと面白かった
本項ではテーマ再現の手法に焦点を当てて、どのあたりがなぜ面白いと感じたのか掘り下げていく

※参考文献:
作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造(2007,2022日本語版新版)

千の顔を持つ英雄(1949,2015新訳)


①宿命デッキ=物語が始まる前の故郷、家庭
―英雄の物語とは、種類は無限にあるとしても、実のところ旅の物語だ。英雄は居心地のいい通常の環境を離れ、試練の多い未知の世界へ踏み出す。(作家の旅 ライターズ・ジャーニー 神話の法則で読み解く物語の構造,P32)

ヒーローや仲間たちが集められた宿命デッキは、この引用文中の「居心地のよい通常の環境」にあたる
英雄はまだ潜在的な主人公でしかなく、安らかに眠っている

彼らが目を覚まし、物語を始めるには、動機付けが必要だ
最も一般的なのはヴィランたちの悪意、悪事
ルーク・スカイウォーカーは帝国軍に故郷の水分農場と叔父のオーウェンを焼かれたことで立ち上がり、やがてダース・ベイダーと因縁の出会いを果たす
強襲した超大型巨人によってシガンシナ区、母親、全てを奪われたからこそ、エレンは調査兵団に入団し頭角を現していく

あるいは、飛行船が飛んだ日、残酷なマーレ人憲兵から妹を守れなかったことから父グリシャの物語は始まる

・居心地の良い通常の環境
・主人公が旅立ちを決意するような強い動機付けとなるイベント
旅立ち

という流れがあらゆる作品構造の基本骨子だが、本作でも同じ流れが再現される
宿命アクションはやや弱いアクションとセットにされているため、最序盤はあまり選ばれな
また積極的に打たれ始めても、宿命デッキ内に1,2枚しかないキーカードは中盤まで引かれない
よって、
・ヴィランたちが悪辣のかぎりを尽くす(個人ボード上の各地を回り、人民から魔力を奪い、手下を各地に配置する)
・宿命デッキが引かれていく
・主人公カードが見事引き当てられ、ようやく物語が動き出す


テーマとシステムの見事な合致と言える

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②4つのアクションスペース=英雄の旅路


先ほどの引用で、試練に満ちた未知の世界が英雄を待ち受ける」とあったが、その未知の世界が個人ボードにあたる
個人ボードは、
・上段(主人公と仲間たちスペース)
・中段(ヴィランのアクションスペース)
・下段(手下やキーアイテムを置くスペース)

からなる

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ヨコ上中下の3段、タテ4区画に分かれた個人ボード

宿命デッキから召命を受けた英雄は上段のなかでも、いちばん右のスペースに配置される

ヴィランにとっては4スペースはほぼ等価で、アクションの強弱差しかないが、英雄にとっては起伏に富んだ困難な旅路だ
舞台の上手(カミテ)から下手(シモテ)に向けて、主人公は未知の世界を探索していく

主人公にとっては未知の旅路だが、ヴィランサイドに立ったプレイヤーからすると手下やアイテムをかき集め、苦労して作り上げたダンジョン(迷宮)
この逆転構造は、デジタルゲームの勇者のくせになまいきだ(2007)や、ダンジョン・ロード(2009)に近いものがあり、楽しい

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Dungeon Lords(2009)

優れた悪役は、俯瞰的な視野のもとブレない理想と断固たる意志を持ち、孤独に世界を作り変えようとする
対して英雄は、新しいものに出会い、価値観を揺さぶられ、悩み、苦悩し、仲間や師の力を借り、成長していく
ボードゲームは、
俯瞰的な視点の持ちやすさ
未知との出会いやエモ的な展開の用意しづらさ(全プレイヤーが一切関知できない要素を用意するのは相当大変)

これらを持つ
競争的なボードゲーム(いわゆるユーロ)とは、英雄よりも悪役向きの体験装置なのかもしれない

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③ヴィランの勝利=英雄は一度死ぬ

本作ではヴィランの勝利で幕が引かれる
通常だとありえない結末だが、
「まるっきりディズニー映画と別モノ、原作改変のifストーリーだ」
という感じはまったくない

原作のクライマックスの、ヴィランに最高のタイミングで映画を強制終了した感じに近い

一般に、物語のクライマックスにおいて、英雄は一度死ぬ
もしくは死ぬ寸前まで追い込まれ、その後劇的な復活を果たす
死の直前まで追い込まれたエレンは母親を食べた因縁の巨人との接触を果たし、謎の力に目覚める
毒手を食らった範馬刃牙は、超人的な力で毒を裏返らせ復活を果たし、14キロの砂糖水を飲み干し、より強力な対戦相手に立ち向かっていく
本作では、英雄が一度死んだ瞬間で物語を強制終了している
たとえばフック船長の勝利条件は「ピーターパンを自身の船までおびきよせて、その上で最終決戦で打倒する」
眠れる森の美女のマレフィセントはもっと単純で、「4つのスペース全てに呪いをかける」
だが、ピーターパンはそう易々と打ち滅ぼされない、必ず復活を果たすだろう
またステファン王やオーロラ姫の子孫が、きっといつか魔女の呪いを打ち破る

ヴィランの野望というものは一時的にしか達成され得ず、いずれ打ち砕かれる

また余談だが、映画作品だと、ヴィランと主人公の最終決戦のあともしばらく作品は終わらず、後日譚や故郷への凱旋などが描かれる
映画は1人で楽しむもののため勝利後の余韻タイムを長く取るのは全然良いが、多人数で遊ぶボードゲームではやや蛇足感がある
感情曲線の極致でテンポよく終わらせるという点でもこの実装は機能的だと評価する


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④足の引っ張り合い=主人公の復活

前述した足の引っ張り合いは、本来自分がかなり好きじゃない要素なのだが、本作のそれは言うほど不快でなく許容範囲に収まっている
これも記事化するなかで、テーマと馴染んでいるからだと理解した
英雄は死の淵まで追い詰められ、そこから復活して新たな力に目覚める

フック船長プレイヤー
「哀れなピーターパンを船上におびきよせ、しかも戦力差2で優っている!
俺の勝利はもはや決定的!」


宿命デッキを引くプレイヤーA
「まだだ!仲間を信じろピーターパン!
宿命デッキをドロー!トップからは……ティンカーベルだ!!
ティンカーベルを先に倒さないと、他のヒーローカードを攻撃対象に取れない!」

フック船長
「ムダな時間稼ぎを!
小汚い妖精を撃破、次手番で今度こそ終わりだ!」


宿命デッキを引くプレイヤーA
「まだ終わらない!デッキトップからは、ウェンディ!
ウェンディ以外のヒーローの全戦力を+1!」


プレイヤーB
「さらにドロー!引いたのは……妖精の粉!!
ピーターパンの戦力+2!!
合計+3!逆転!!」


ヒーローとヴィランの死力を尽くした最終決戦というフレーバーが存分に活かされている

スクリーンショット 2023-09-26 204029



(5)総評

ディズニー作品の知識の有無にかかわらず、一度触れる価値のある良作だと評価する

スクリーンショット 2023-09-26 184741



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ラ・ファミリアはマグナストーム(2018)のデザイナーとブラッディ・イン(2015)のアーティストによる2vs2のイタリアヤクザ抗争ゲーム
マフィアになりきってドンパチやり合うバカゲー感と、ゴッホやムンクを思わせる世紀末芸術的なアートとが絶妙に噛み合っている
プレイし、魅力を感じたので記事化する


(1)基本情報
(2)テーマ

 ①マフィア/我々のもの

 ③他国の長期支配

 ④バロナッジォ(不在地主)とガベロット(現地管理人)

 ⑤オメルタ―沈黙の流儀

 ⑥ガベロットからマフィアへ

 ⑦不正選挙とエリート教育

 ⑧ファシストとの敵対

 ⑨進駐軍(アメリカ)の支援で復活

 ⑩追い風となった復興バブル

 ⑪工業化バブル

 ⑫農村型から都市型へ

 ⑬ヤクのしのぎがキューバ・マルセイユからシチリアへ
 ⑭第1次、第2次マフィア戦争

(3)魅力
 ①MOBA的な2vs2
 ②奉行問題は放棄

 ③オメルタ(沈黙)をプレイヤーにインストールする

 ④Eカードの質感は最低最悪

 ⑤アクション数不定のワカプレはgood

 ⑥強化の制限が◎

(4)総評



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(1)基本情報
人数:4人
時間:120-180分(インスト45分、プレイ180-240分)
複雑性:3.75 (参考値:インペリアル=3.56,パックス・パミール=3.84)
ランク:7600位 (2023/4)
要素:1980年代のシチリア半島における第二次マフィア戦争、バラージ的な個人ボード開放、アクション数不定の変則ワカプレ、カード3枚のEカード的な心理戦
言語依存:一定あり(7枚のカードのみ、公開情報でありサマリで対応できる範囲)
流通:日本語版は現状予定されていない。版元のフォイアーラント社はテンデイズゲームズと契約することが多い

デザイナー:
マクシミリアン・マリア・ティール/Maximilian Maria Thielはドイツ人デザイナー
ティールはドイツでみられる姓、ピーター・ティール(1967-、ドイツ系移民のペイパルの創業者)など
代表作は、
パワー・ストラグル(2009)
マグナ・ストーム(2018)

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いずれも共作で、単独は本作が初


アーティスト:

ウェバーソン・サンチアゴはブラジル在住のアーティスト
本業は、
ブラジルの新聞社「フォーリャ・デ・サンパウロ(リーフ・オブ・サンパウロ)」のイラストレーター
クアンタ芸術アカデミーの講師

の兼業
妻、息子と3人暮らし


画風は幅があり、代表作は、

Web キャプチャ_27-4-2023_183610_boardgamegeek.com
The Bloody Inn(2015)(ルイ・フランシスコとの共同)

Web キャプチャ_27-4-2023_232648_boardgamegeek.com
Fuji(2018)


Web キャプチャ_27-4-2023_183540_boardgamegeek.com
The Great Split (2022)



(2)テーマ

1980年代の第2次マフィア戦争がテーマ

以下相当記載が長いため、適宜読み飛ばし推奨

①マフィア/我々のもの

マフィアはイタリアのシチリア島起源の組織犯罪集団、暴力団
コーサ・ノストラ/Cosa Nostraとも呼ばれる
直訳すると「我々のもの」
古代ローマ人がラテン語で地中海をマーレ・ノストゥルム/Mare Nostrum(我々の海)と呼んだときのNostrumと同じ用法
あるいはフランス語のノートルダム/Notre Dame(我々の女主人=聖母マリア)も同じ

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シチリア島は画像中央下部の三角形の島、いわゆるイタリアの長靴のつま先



②マフィアの母体=ローマによる大土地所有制

マフィアはここ200年の現象だが、古代ローマまでいったん歴史をさかのぼるとなぜ・どのように生まれたか理解でき、より楽しい

有史以前のシチリア島には
シクリ人(シチリアの語源)が住んでいたとされる
紀元前241年に起きたローマvsカルタゴの戦争(第1次ポエニ戦役)でローマ帝国(当時はまだ共和制)の支配下に下った

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シチリア島を舞台に争うカルタゴ軍(ブルー)とローマ軍(レッド)
拙記事『Hands in the Sea』と『数エーカーの雪』の構造解析(2)から


属州化したのち、ローマ貴族がシチリアの土地を大量購入
奴隷を大量投下し入植、小麦を大量生産するように
以後、ローマの支配以後もシチリアには大土地所有制が根付くように
シチリアとエジプトの小麦は帝国の食料基盤を支え続けた


③他国の長期支配


シチリア、前述のHands in the Sea(2016)メガシヴィライゼーション(2015)の西方マップをプレイすると心底実感できるが、本当に開かれた地勢で、独立には不向きだ
ヨーロッパからもアフリカからもアクセスが良すぎる
軍用の補給、商用の交易に適しすぎており、"地中海の十字路"の二つ名は伊達ではない
近隣の大国にとって、取れるなら支配しておかない理由がない

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Mega Civillization(2015)において、ローマ、ギリシャ、カルタゴの3国に挟まれたシチリア島


ローマ帝国は約600年シチリアを長期支配

帝国滅亡後も、上記のような地政学的シビアさから独立は果たせず
ビザンツ帝国、アラブ人、ノルマン人などがかわるがわる支配した
スペインのアラゴン家の500年近い長期支配(1282-1713年)を経て、1860年イタリア王国に併合、現在(イタリア共和国の特別州)に近い位置づけとなった


④バロナッジォ(不在地主)とガベロット(現地管理人)


ローマ帝国崩壊後も大土地所有制が根付いていたので、そのシステムを継承した不在地主(バロナッジォ)が土地を支配していた

不在地主
「宗主国スペイン在住です。
実はシチリアにはほとんど行ったことないんだよね。
土地だけ
大量に持ってます!
小作人(土地に住む農民)にはけっこうな課税をしてますね!
労働は悪であり恥なので、実務は現地のガベロット(今でいうマンション管理人や中間管理職)、現地契約した部下たちに任せてます。
彼らはどうやら小作人にめちゃ暴力振るってるっぽいけど…まあ税さえ納めてくれれば、当局はこれを関知しないわね。
あと、パレルモ(シチリアの首都)だったらたまに行くし、パリもよく行くね、楽しいから。
が、クソ田舎の現地農園には死んでも顔出しません!」

だいたい地主はこんな感じ

⑤オメルタ―沈黙の流儀


絶えずよそ者に支配され続けた結果、シチリア人の島民性は、

暴力や理不尽に慣れてしまった
・暴力を回避するため黙る(沈黙こそが金である)、また何も見ない、聞かない
・極端に慎重
・国家を根っこの部分で信用していない
・国家への抵抗、不信の表出としても話すことを拒否する(ある種のボイコット)
・国家でなく共同体を最重要視する
・共同体を守る者、圧政の横暴に抵抗する者にこそ名誉がある
・国家の法よりも共同体の利益が優先される
・こうした過酷な支配に対して怒り、行動し、反発し、そして暴力を振るえる者こそが名誉ある者(マフィオーゾ)である


って感じで培われた
これらの気質をひっくるめてオメルタ/Omertàと総称する
「血の掟」と邦訳されるが、"沈黙"くらいの方が原義に近く、シチリアやイタリア南部の地域柄、島民性をよく表す便利ワード

戦前/戦後の日本のヤクザ・暴力団や、現代日本だと地方のマイルドヤンキー、東京卍會的な暴走族もこの手の行動規範を持っていそうだが、記事の主旨から外れるため割愛する


⑥ガベロットからマフィアへ

大地主(バロナッジォ)の領地はだいたい1000ヘクタール(TDLやユニバ20個分くらい)
これを10ヘクタール(200m×500mの短冊状の長方形)の借地(マッセリーア)に分割
100個くらいに分け、各マッセリーアに1人ずつガベロット(現地借地人)を配置し管理させていた
ガベロットは定額の借地料(ガベッレ、固定地代。ガベロットの語源)を毎年地主に送金すれば、あとは何やってもOKだった
成長できた冷酷なガベロットの思考はこんな感じ


ガベロット
「まあボロい商売だよ。
俺たちが取る中間マージンも乗せて、ちょっと高い固定額を農民に要求した。
もし拒否したり反発したらショットガンでズドンよ。
普通に豊作なら払ってくれて俺たちもハッピー。
不作だとどうするか?
俺たちに借金させてでも払わせるんだよ。
高利だって?食っていけるだけありがたいと思えねえのか?
1回こうなっちまったら、もう俺らの手ごまだよな。
金利も含めたさらに高い地代を請求して、金利を払えないやつもショットガンでズドンだ」


デンジくんを搾取していたヤクザマンたちもびっくりの前時代的な手口だが

これを1700-1850年のあいだやり続け、資本を集積


1867年にイタリア統一がなされた(日本の明治維新みたいなもの)
ここで宗教団体の財産がまとめて国有化
管理しきれないので競売に出された
動産(物品)だけでなく、教会の領地(不動産)もそう
モノポリーやいたストの開始時もそうだが、こうした土地は買わない理由がない

すでに一定の発言力と武力を持っていたガベロットらが、暴力をちらつかせながら格安で広範囲の土地を落札
ここで彼らがやがてマフィアと呼ばれるようになった

ここまでの流れを要約すると、

・単なる借地人=1700年ごろ
・不在領主の武装した手下=1700-1850年
・経済的に自立した農村ブルジョアジー(農民でも貴族でもない第3階級)=1867年―


とマフィアの誕生譚は典型的なサクセスストーリーで、(陰惨さに目をつむれば)かなりボードゲーム向きの題材
抽象化すると、社会構造の変革がもたらした中産階級の勃興のイタリア南部の個別ケースとも言え、
・リベルテ(1998)=フランス
・蒸気の時代(2002)=アメリカ
・ブラス:バーミンガム(2018)=イギリス

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Liberté (1998)

など、ワレスが大得意とし、各国ヴァージョンで作り倒しているテーマ


⑦不正選挙とエリート教育


国家統一のドタバタで土地を不正に得て資本を集積した彼ら
マフィアは次は何をやるか?
カネの次は権力だよね
政治権力と結びつくことで、金の流入源はより太く安定化し、組織(ファミリア)は強化される
成立し立てで脆弱だった選挙制度の穴を突き、不正選挙(自分たちに入れない村民に意図的に投票用紙を配らない死者の名前を使って何票も入れさせるなど)を敢行
シチリアの地方行政だけでなく、イタリアの中枢にも人員を送り込んだ


また同時並行で、蓄えた資本集積で子女に高等教育を授け、
聖職者医者=農村コミュニティでの影響力強化向け=足元固め
弁護士法律家=行政機関に食い込ませる向け=新規開拓

あたりに就かせた

⑧ファシストとの敵対

時流に乗ってイケイケだったマフィア勢力だが、ここらで逆風が強い吹く
1918年に第一次大戦が勃発

イタリアでは1925年から、第二次大戦敗戦の1943年までムッソリーニ(国家ファシスト党)の一党独裁が成立
・マフィアたち=自身の暴力装置を手放したくない
・ムッソリーニ=逆らうやつは全員殺す、絶対的権力を持って一強に

と彼らの相性は最悪

特にムッソリーニは敵意むき出しであり、マフィア掃討の山狩りなども行われた
シチリアにおけるマフィアの支持基盤が厚かったため撲滅には至らなかったが、この期間のマフィアの活動は縮小した

また「敵(ファシスト)の敵(マフィア)は味方」であり、連合国(イギリス、フランス、アメリカ)とマフィアは第二次大戦中内通していた
シチリア島上陸作戦(ハスキー作戦、1943/7/10)はマフィアの手引きが成功の要因の一つだった

(注意:「マフィア」と簡略化しているが、彼らはまったく一枚岩でなく、ファミリア(家族)ごとに方針は違った。政権にすり寄ったファミリアや、徹底的に対立した組織などいろいろあったとのこと。本記事では簡略化のため事実を一定歪曲し、構成している)

⑨進駐軍(アメリカ)の支援で復活

戦時中の山狩りで捕まって投獄されていたマフィアらはイタリア敗戦後一斉に釈放
再びシチリアの各村の村長などに返り咲いた

資料はないが、マフィアらと連合国の仮政府(日本でいうGHQ)とのあいだでなんらかの取引があったと推測されている

⑩追い風となった復興政策

1950年―1970年ごろの20年間をイタリアでは奇跡の復興と呼ぶ
日本の1955-1973年が高度経済成長期でほぼ一致する
この時期に、南部に戦後復興支援として政府資金が大量に流入した
イタリア統一のときと同じようにマフィアが土地整備、工事の受発注に関与、大きな利権を得た


⑪建設バブル&工業化バブル

イタリアは今でも、
北部=工業優位、都市的
南部=農業優位、農村的

と差があるが、この20年で南部の工業化が大幅に進み、だいぶ差が埋まったとされている


⑫農村型から都市型へ


この時期までのマフィアは地縁、血縁に根差した農村的な支配だったが、この時代で急速に都市型に移行した
ゴッドファーザー(1969)の映画冒頭で結婚式を行った田舎から、龍が如く(2005)の神室町に拠点を移した感じ

またここで構成員も大幅に増員する必要があり、人員勧誘の手法も旧時代から大きく変わった

かつては農村で影響力のある老人(元マフィア)が地域の若者、子どもの素性や素行をだいたい把握しており、
「あいつは素質あるな…」

と見込んだ数人を選抜
・銃の扱い
・殺人の作法
・爆弾の仕掛け方

何から何までをゼロから教育した(Fate/Zero(2006)で幼い衛宮切嗣に暗殺術を仕込んだナタリアのように)
教育は最低でも2-3年、長ければ10年かけて行われた

都市型に移行するにつれもっと量産可能な大雑把なやり方に変わり、構成員の量は増え質は低下
本作では道端の教会でたむろしてるごろつきを拾ってくるくらいの手軽な感じで描写されている

⑬麻薬稼業がキューバ・マルセイユからシチリアへ

麻薬、数種類あるが、マフィアが扱うのはもっぱらヘロイン
1898年にアヘンからの合成が成功して以後、マフィアは比較的早期から取り扱っていたと思われる
しのぎ(収入源)の最重要要素と化したのは1959年のキューバ革命以後、1960年ごろからとされている

当時は、
・中東やアフリカでアヘンが生産
マルセイユ(フランス)の精製工場でヘロインに精製
・マルセイユからキューバ経由でアメリカなどに密輸や各地に密輸


が鉄板ルート
当時のキューバはフルヘンシオ・バティスタ大統領がクーデターを成功させ、アメリカマフィアを引き入れて保護していた
そしてその利権で自らの独裁を強化するという地獄のサイクルを回していた
アメリカとの地理的な近さ(今でも飛行機で1時間)も相まって密輸やり放題の天国/地獄であった

そのキューバにおいて、カストロ&ゲバラらが武装蜂起し革命政府を樹立、共産化(反米化)
ヘロイン密輸のメインルートが絶たれた
キューバの代わりにシチリアを経由するルートが元々あったが、ここでシチリアルートが大きく脚光を浴びた

さらに1970年ごろにマルセイユで取り締まりが強化され、プラント(精製工場)が軒並み閉鎖

マフィアはすかさずプラント内の技師を買収(あるいは拉致)し、精製拠点をシチリアに移転
パレルモがあった島西部を伝統的に根城としており、すでに手を広げる余地が少なかった
よって未開拓な東部に進出し、ヘロインプラントを多く作った


余談だがヘロインの原料のアヘンの採集もマフィアが管理するようになり、イラン、パキスタン、アフガニスタンの国境の沿いの緩衝地帯のPathan(パタン)族に採らせるようになった
昼間麻薬プラントで量産したヘロインは夜中モーターボートに積み込まれ、シチリア西沖合に停泊している貨物船まで運ばれる
沖合で貨物船に積み替えてアメリカなど各地に密輸される


⑭第1次、第2次マフィア戦争

前述の工業化バブルの利権をめぐって1963年に第1次マフィア戦争が勃発
島内におけるグレーコとラ・バルベーラの2ファミリーの闘争
トンマーゾ・ブシェッタ(1928-2000)というラ・バルベーラファミリー所属のマフィアが寝返り、親同然のアンジェロ・バルベーラを襲撃、結果グレーコ派が勝利

その後ブシェッタはアメリカに高飛びし行方をくらませていたが、1983年ブラジルで逮捕
1984年に犯罪組織の全容を判事に告白
だいぶ前に記したオメルタ(沈黙、血の掟)をここまでおおっぴらに破ったのはブシェッタが初めてだった
自白だけでもスキャンダラスだが、明らかに敵対ファミリーだけが不利になる情報だけを意図的に自白した
そんなことをされて黙っているマフィアでなく
この自白をきっかけとして第2次マフィア戦争が勃発した


本当に長かったが、ここでプレイヤーたちが登場する
あなたたちはシチリアに根付く四大ファミリアのボス
これまで微妙な距離を保ち停戦状態、共存共栄関係にあったが、ブシェッタの告発によって2陣営に分かれ激しく対立することとなる

・黒塗りの装甲ベンツに構成員を詰め込んで爆走
・敵組のシマ(縄張り)にダイナマイトを投げ込み特攻
・自組員を自首・自供させ、敵勢力を根こそぎ逮捕させる
・ヘロイン精製プラントを増設し、収入基盤を強化
・モーターボートを近海に浮かべて豪遊
・教会権力に取り入って地元の若い衆を勧誘


史実に沿った悪いことを手当たり次第にやっていく

OIP (1)



せっかくなのでマフィア物語を結末まで記すが、第二次マフィア戦争は激化
1980年、ブシェッタの自白以前だが、パレルモ市内だけで年間1000人以上が銃やダイナマイトで死亡

1992年、反マフィア派の判事2名をサルヴァトーレ・リイーナ(コルレオーネ・ファミリーの大ボス。ゴッドファーザーの主役、ドン・コルレオーネのモデル)らが爆殺
マフィアらにとって大金星であり、さらなる繁栄が見込まれたが、市民の反感がここで爆発
翌1993年にリイーナが逮捕され、第2次マフィア戦争が終結、ならびにマフィアの時代そのものがここで終わったとされる

Vito Corleone | The Godfather Wiki | FANDOM powered by Wikia
Vito Corleone

2023年現在、シチリアで殺人はほぼ発生しない
マフィアも激減し、もっとも盛んなパレルモ県で1500人程度、島全体で7000人弱とされている
シチリア島は500万人規模(名古屋市と札幌市を足し合わせたくらい)であり、比率はかなり低め

最後に余談だが、リイーナの生まれたコルレオーネ村は、ゴッドファーザーが撮られる以前から反マフィア運動がさかん
興味半分で訪れたうえに、
「ゴッドファーザーの実家ってどこにあるんですか?」

などと配慮なく訊く観光客をあまり快く思っていない場合が多いとのこと(外貨はありがたいだろうが)


余談の余談で、本作のボックスアートだが
これは1982年にシチリアを襲った記録的な猛暑をモチーフにしていると思われる

Web キャプチャ_21-4-2023_124611_boardgamegeek.com


殺人的な炎天下、近景には干し草ロールとノーヘルでオートバイに乗る若者、そして遠景には酷暑のあまり自然発火した家屋を配している
こうした火事はたびたびみられたという
50年ぶりの猛暑で、最高気温48度を記録した
(3)魅力

①MOBA的な2vs2

ラ・ファミリアの魅力を一言で記すなら、「MOBAのフルパっぽいチーム戦ができるマフィア・ギャングテーマの重ゲー」
MOBAとは、暴力的なまでに雑なたとえだが、スプラトゥーンからデジタルゲーム的なエイム要素を減らしてボードゲーム的戦略要素を添加した感じ
筆者はほぼポケモンユナイト(2021)しかやらないが、無限に面白く理不尽で、抗しがたい魅力と醜悪さに満ちている

1試合たった10分なのに、気づけばけっこう経っている
ソロ(1人で参加、残り9人は知らない人とプレイ)も楽しいのだが、フルパ(フルパーティの略。知り合い4人と固定チームを組み、別のフルパとプレイ)の楽しさが尋常でない
各ポケモンはいくつかのロール(Apexのレジェンド、スプラのブキ)に分かれるのだが、1人で何でもはできない
絶対に役割分担、住み分け、特化をしないと勝ち上がれないようになっている
たとえばアタッカー(相手を殴るロール)は献身的な前張り(タンク、前衛職)がいてこそダメージが出せる
前張りはすぐ後ろにサポタン(サポーティブタンク、回復役)を置いたとき、もっとも高い耐久性を発揮する
こういった連携に楽しさを感じるプレイヤーに本作は刺さると思われる

ラ・ファミリアは2対2のチーム戦で、(拡張込だと)6ファミリーから担当氏族をピックする
テラミスティカ(2012)、マルコポーロ(2015)、Scythe(2016)、バラージ(2019)のセットアップとだいたい同じ
最初にチーム分けし、各チームランダムに3枚ピック
その3枚を見て相談し担当を決める

「こっちは今回黄(経済マン)、白(教会マン)、黒(義勇軍マン)
黄はけっこう強い、白と黒はハズレかな」

「反対に相手は赤(火力マン)、青(車爆弾マン)、緑(バランスマン)ですね」

「赤と青がどっちも火力高くて危険だね。
アグロで押し込んできて早期終了を狙われると厳しい」

「反対にこっちの黄色の経済ヤクザはロングゲームになるほど有利ですよね。
お金の収入基盤ができてからは盤面をひっくり返せる」

「そしたら、序盤は俺が白の宗教マンで赤と青の攻勢をどうにか抑えますわ。
そのあいだに黄色に育ってもらって、後半押し返す感じでどうです?」


って感じ
キャラピックだけでなく、ゲーム中も終始こんな感じで、

「兄貴のファミリーにはあの北の一帯を見といてもらっていいですか?
俺は南やりますんで」

「お前んとこの若い衆いっぱいおるやろ?
1人よお、コレ(ダイナマイトの自爆特攻)に貸してくれんか?」

みたいな
こういった上品でないやりとりが好きな層には強く勧められる

なお「2陣営に分かれて、各陣営が2つの固有能力を組み合わせて何かを構築する」は定番の実装で、桜降る世に決闘を(ふるよに)、ガンナガン(2019)などでもみられる


②奉行問題は放棄

協力ゲームといえば奉行をどう解決するかに目が行く
グルームヘイブンでは秘匿式の個人目標やコントロール不能な行動順位番号が適度に相談を阻んでいたが
本作はシステム的な補助線は一切ない
味方の全情報を共有するので、やろうと思えば全ての手を相談して決められる

極めて現代的でなく、自分の評価基準に照らすと本作は高く評価してはいけないのだだが、なんでかけっこうプレイ感が良い


③オメルタ(沈黙)をプレイヤーにインストールする

なぜなのか、何を面白いと感じたのかを本節で言語化する
本節は自分の言語化能力の限界をやや超えている可能性があり、読者に一定の負荷がかかると思われる

本作、細かい話は省くが、

ワカプレフェイズ
戦闘フェイズ

にざっくり分かれている
戦闘は、
・ワカプレフェイズ中に戦闘エリアにプロットした攻撃系や防御系タイルの解決
・当事者同士でやるEカードっぽい心理戦

の2つの要因で勝敗が決まる

この2つとも、相談すればするほど墓穴を掘るというか、相手の前でべらべらしゃべるほど不利になるようにできているのだ
プロットではオーダータイルを裏向きに配置するのだが、読み合い要素があり、敵の前で表立って相談するわけにはいかない
かといって長々ひそひそ話すると、それはそれで情報を落としてしまう

プレイヤーA
「まあこれがうちの組の流儀だからよ…
兄貴(協力相手)はちょっと黙って見ていてくれねえか
(と言いながらタイルをプロット)」


プレイヤーB
「(味方が置いたタイルをおもむろに手にし、目をやりながら)
…ああ、いいんじゃねえか?
さすがブラザーだな」


くらいの寡黙な方が相手としてはやりづらい

ボードゲームの最も重要な機能として、会話の促進がある
優れたゲームは寡黙でコミュニケーションを得意としない人間を饒舌にし、会話を円滑にする
本作はどちらかというと発話を阻害してしまう構造だが、
「オメルタ(沈黙)を金とするマフィアのロールプレイを真剣にやった方が勝ちやすく、プレイ体験も楽しい」
っていうある種の逆転、ねじれがとても良い

Eカードっぽい心理戦も、プロット以上に外野が口を挟んでもなにも得をしないため、

Eカードやる人「兄貴、俺カチコミに行ってくるわ、見とってや」

見守る人「おう、任せたわ」

くらいになる
人間不思議なもので、こういった会話が制限されるゲームの方がかえって協力相手と仲良くなる感じすらある
熟年夫婦のロールプレイをさせられるような妙な面白みがある


④Eカードの質感は最低最悪

Eカードっぽい心理戦の質感は笑ってしまうくらいに良くない
陣取りの勝敗の決定因子としてプロットとワカプレが80%、Eカードはせいぜい20%程度であり、重要度が低いのであまり問題はないが
手札3枚でさせるじゃんけんのようなもので、相手の心理を読もうとさせるだけの情報は用意されているが、読みようがなく、じゃんけんの域を脱していない

ゲームマーケットで頒布される軽ゲーを揶揄する言説で、
「"手札X枚、たった5分の心理戦"ってほんとにゲームなの?面白くないじゃん」

みたいな腐しがあるが(上記はたとえであり、特定のインディーズゲームを茶化す意図を筆者は持っていない)

本作のEカードはこの揶揄を受けても全く文句を言えない実装で、
・テーマやアートワークの良さ
・海外産3時間オーバー級というバイアス
・このパーツ以外が総じて良い

これらで誤魔化そうとはしているが、誤魔化しきれているかはかなり怪しい

「手札が毎回の戦闘でリセットされてしまい、同じ3枚からまた選ぶ」
という方式のせいで場に何も蓄積しないのが、たぶん最大の不快ポイント

もし自分がディベロップするなら、
タマニーホールの移民の支持トークン(戦闘を有利にする使い切りの資源)
ライジングサンのお金(そのラウンド中に使い切らないと消える)

のような持ち越しに一定の制限をかけた消費式の資源にし、握り競りさせると思われる

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Tammany Hall(2007)

⑤アクション数不定のワカプレはgood

全プレイヤーのワーカー総数が決まっている
自ワーカーや中立のワーカーは無料だが、相手ワーカーを使うにはお金を払う必要がある

一応自ワーカーの増員もできるが、個々人の所有権がほぼないため、全プレイヤー合計の手数の総数が増え、1金相手から取れる機会が増えるって感じ
場のアクション総数が厳密に規定されている感じは村の人生やファーストクラスにちょっと似ている

またお金を多めに払うとワーカー数体を一気に動かす強アクション(Bアクション)ができ、そうするとプール上のワーカー数が一気に減る
ここの実装がめちゃ良い
このBアクションのコストは下がり競り方式で、その列のワーカー数が少ないほど安くなる

たとえるなら、グランドオーストリアホテルのアクションポイントを真逆にした実装
出目2のダイスが3個あるときに出目2ダイスを取ると、ワイン2個とコーヒー1個がもらえる
3アクションポイントとして実行している

本作では、Bアクションの基本コストが2金の列に3体ワーカーがいるなら、追加コストとして3金(基本と合わせて5金)払ってBアクションを実行する

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写真上側にある4列8個のワーカーが使用可能
1ワーカーだけ取るとAアクションを、1列全部取ればBアクションを実行


自分→敵A→味方→敵Bと手番は交互に回るため、
「あの列にもう2体しかワーカーいないから、自分がやらないと下家の敵にBアクション打たれるな…
カットがてらBアク打っとくか」

や、
「ラウンド終盤でちょうどあと2列しかないぞ
あのワーカーを取ったら、2手後の味方の手番で確定でラウンドを終えれる
相手陣営より1手多い、超アドじゃん」

などちょっとした上達の余地があり、楽しい

マグナストームのアクションボードを踏襲しており、本作のそれは純粋な改良版って感じ

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Magnastorm(2018)

⑥強化の限定の仕方が◎

重ゲーといえばエンジンビルド、能力強化
本作も、
・増員
・アクション強化
・定期収入の増加
・永続能力


と気持ち良い要素を多種用意しているが
際限のない拡大とならないすべてに厳しい制限をかけている


前述の増員は典型例で、自ワーカーは増やせるが、自分以外のプレイヤーも使える
お金を得る回数をちょっと増やし、相手を動きづらくするのが主目的
GWT(2016)において、大工ルートで建てられる1金の通行料目当ての建物タイルがとても近い

アクション強化もそう
バラージ(2019)と同じように4列のディスクが個人ボードに並んでいる
バラージでは開放後毎ラウンド定期収入が生じていたが、本作だとアクション強化にしかならない
見た目はバラージだが、機能だけだとウイングスパン(2019)が最も近い

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ディスク開放によって上級プロットタイルも同時にアンロックされる
これはバラージに例えると、建物を2回建てるたびにその国家のユニーク上級技術タイルが無料でついてくるようなもので
1つの行為に二重にボーナスを付与する実装は、アッパーでなかなかヤバそうだが

・プロット回数の制限がキツく、どれだけアンロックしても各ラウンド2-4枚しか使えない
・余ったタイルをいつでも破棄して1枚1金に変換できる

この2つのおかげで、なんでもできすぎる事態は生じないし、またタイルが増えすぎることもない
特に後者の破棄ルールの出来が良い
本作のお金のin/out(流出入)だが、Bアクションが早期になされるほど全体の場からお金が消えていく
慣れてくるほどBアクションは激しい取り合いになり、お金を絞り出すためこぞってタイルが破棄されるようになる
不必要な情報を自分から捨てさせて手元をすっきりさせるのはとても理にかなっておりめちゃくちゃ良い
アークノヴァ(2021)は手札上限で動物カードの情報が増えすぎないよう管理していたが、本作のように破棄に強い意味を持たせる実装の方が好みだ
リスボア(2017)でも中間決算で、不要な永続能力タイルを焼いて勝利点に変換させているが、同じような良さがある
また焼いてOKなギリギリの枚数を見極めるのもやり込みと上達要素とも言え、その面でも機能している


収入にも制限がかかっている

麻薬工場がわりとカンタンに建てられ、建てるほど定期収入額が増やせる
がラウンドごとの自動収入はない
お金が欲しいなら、「工場の数×1金を得る」のアクションを手数を割いて打つ必要がある
工場を建てるのにも手数は食うため、その上で集金アクションまでのんびりやっていると、盤面のプロットがお留守となり、戦闘で大きく出遅れることとなる


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(4)総評

ゲームカフェで出会った初対面の相手と遊んで仲良くなれるような、20年代的な、そういう生易しい設計ではない
すでに仲の良い人とより親密な時間を過ごすために作られたゲームだ
かなりウォーやマルチに寄ったプレイ感だが、裏切りが絶対に発生しない安心2vs2固定チーム保証が存外優しい
マルチあるあるの、

「こいつ、今は味方として協調できてるけどほんまに話通じてるんか…?
いつ出し抜かれるんかわからんぞ…?」

的な疑心暗鬼が差しはさまる余地がない
無能マンの気まぐれで交渉を切られたときの理不尽体験もない


前述のバラージ的な個人ボードや変則ワカプレなど、現代ユーロのエッセンスも多く継承しているが、本質は3-4時間級のごっこ遊びバカゲー
フンタ(1978)さまよえるオランダ人(1992)とかと同種で、最終的な勝敗よりもセッションの過程で個々人に生じた感情、神経細胞の火花にこそ意味がある

やりたくもないEカードを執拗にやらされようが、必死でプロットしたタイルを全部ダイナマイトで消し飛ばされようが、どんな理不尽も、いや理不尽だからこそ一周回って楽しめるような、気の置けない仲間とプレイできる方には、本作はかなり強く勧められる


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オラニエンブルガー運河はウヴェ・ローゼンベルグによる2人用の90分級
プレイし、きちんと面白い良作だと評価したため記事化する



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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①ヌースフィヨルドの後継者

 ②拡大、成長感はひかえめ
 ③やや理不尽な勝敗決着
 ④ウヴェ作品のなかで最もアドリブ寄り

 ⑤資源ホイールはオンリーワン的で◎
(4)考察1:システム面の読解
 ①資源のレート

 ②鉱石とは何か?
 ③起動効果の3つのデザイン的メリット
  [1]処理が明白
  [2]ストーリーに起伏を
  [3]快感の前借り
(5)考察2:カード解剖
 ①序盤のパワーカード―沿岸倉庫,工業用貯蔵庫
 ②勝つなら運河を―港湾事務所,催事会場
 ③経時変化を映す―中古品販売店,卸売店
 ④名声点を支払う―保税倉庫,裏庭,船積みドック,貨幣鋳造所
 ⑤経路の置き換え―建設チーム,近代化事務局
 ⑥フル起動欲をあおる―中間鉱石倉庫,鉱石加工会社,鉱石貯蔵所
(6)総評

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Oranienburger Kanal (2023)
 
Designer Uwe Rosenberg
Artist Harald Lieske
Publisher Spielworxx

(1)基本情報
人数:1-2人(2人ベスト)
時間:60-120分(初回インスト込み120分、慣れれば60分)
複雑性:3.05 (参考値:ヌースフィヨルド=2.84、ブルゴーニュの城=2.99)
ランク:4200位 (2023/3)
要素:7つのアクションスペースのシンプルワカプレ、ホイール上の資源管理、19世紀ドイツ、産業革命、馬車、運河、鉄道
言語依存:一定あり(カードに言語依存なく秘匿情報もないが、リファレンスを読まないとプレイ不可能)
流通:テンデイズゲームズから日本語版が販売されている。和訳のクオリティめちゃ高い

デザイナー:
ウヴェ・ローゼンベルグ
アグリコラ(2007)オーディンの祝祭(2016)をはじめ、本当に良いものをいろいろ作っている

アーティスト:

ハラルド・リースケ/Harald Lieskeはドイツのミュンスター在住のアーティスト
男性、現在48歳
大学のデザイン学科を卒業後、ゲームアートとコミックの分野を志し、ボードゲーム業界では28歳時にデビュー
インカの秘宝(2005)など、自身でシステムを手がけた作品も

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Inka(2005)


アート方面の代表作は、
・電力会社(2F-Spiele) 
・プエルトリコ(alea)
・ブルゴーニュの城(alea)
・ノートルダム(alea)

など
alea(アレア)社を中心に幅広い出版社の作品を手がけている

シュピールヴォルクス社(オラニエを出した会社)の先行作だと、
・ラ・グランハ(2014)
・アークライト(2014)
・ジェンティス(2017)

など

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Gentes(2017)


(2)テーマ
オラニエンブルクはドイツの地方都市
人口は45000人、北海道登別市(45000)や和歌山県海南市(47000)とだいたい同規模
ベルリンからは約40km(車で45分)とかなり近い

オラニエンブルクは直訳するとオレンジキャッスル
特にみかんにゆかりはなく、オラニエはオランダ語
プロイセン公(ドイツ全土を治めた領主)にオランダ王家のオラニエ=ナッサウ家から令嬢が嫁いできた(1646年)
令嬢ルイーゼ・ヘンリエッテ・フォン・オラニエンにプロイセン公がプレゼントしたのがこの町
ルイーゼが領地に建てさせたオランダスタイルの城がオラニエンブルク
元々ベッツォウという町名だったがオラニエンブルクに改名


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Das Schloss Oranienburg


この200年後の1832-1837年がゲームの舞台
白黒ブラスが1770-1870年であり、ちょうど同時代

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Brass:Birmingham(2018)

テーマもほぼドイツ版ブラスと言って良く、産業革命期のドイツ(当時はプロイセン)の地方小都市オラニエンブルグの発展に寄与する
ブラス同様運河を引き、鉄道を敷き、窯元製鉄所を立ち上げる

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ブラスにおいてプレイヤーはこれらの事業を手際よくやって大英帝国の牛耳ろうとする起業家となるが
本作ではプレイヤーの役割はルールブックに記されていない

国家規模の青地図を描くワレスと対照的に、もう少し小規模で家庭的な作風がウヴェの持ち味
記載はないが、オラニエンブルグの自治を任された地元出身の行政官くらいだと捉えている


余談だが、プレイヤーが誰で何をする人なのか明白であるほど、没入感が高まり、プレイ体験の質が向上する
ウヴェ作だと、

アグリコラ

プレイヤー=14世紀ごろのドイツあたりの貧乏な封建領主となる。
目的:召使や領民はいるが資産がない。この困窮から抜け出し、家族を養い発展しよう。

カヴェルナ

プレイヤー=ドワーフ、エルフ、人間などファンタジー世界の住人。
目的:狩猟採集と農耕で自身の生活を豊かにしよう。

オーディン

プレイヤー=10世紀ごろの北欧あたりのヴァイキング

これらは入っていきやすい

反対に、
ルアーヴル

港湾都市ルアーヴルの成長が描かれる
が、プレイヤー自身にあまりフォーカスされない

ヌースフィヨルド

ヌースフィヨルド村の発展を描いている
が、村長たちは別におり、プレイヤーが誰であるのか明白でない


などは少し曖昧で散漫、やや没入感を欠く

オラニエンブルガーは、ウヴェ作のなかでは変わり種的なテーマでめちゃ面白いが、質感は後者寄りと言わざるを得ない

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(3)魅力


①ヌースフィヨルドの後継者

ウヴェの先行作群のいくつかのミクスチャなのだが、ヌースフィヨルドが手触りとしてもっとも近い
ヌースフィヨルドのプロフィールは以下
1-5人用のワカプレ
・7ラウンド21手
60-90分
・魚と木材=所持制限のある下級資源
・お金=序盤流入に乏しいが、上限なく持てる上級資源
・森を切り拓き、個人ボードに10枚前後の建物カードを建てる
カードに拡張性があり、ミニ拡張で違ったプレイ感を楽しめる


オラニエンブルガー運河を同形式で記すと、
1-2人用のワカプレ
・10-11ラウンド25-27手
60-90分
・下級3種、上級2種の所持制限が課されたホイール上の5資源
上限なく持てるお金と名声点
・経路や橋を用意し、個人ボードに10枚前後の建物カードを建てる
カードに拡張性がある


②拡大、成長感はひかえめ

拡大再生産感の弱さも特徴的だ
先行作の典型例だと、
ワーカー(手数)を増やす(アグリコラ、カヴェルナの増員)
・ワーカーを強化(カヴェルナの武装)
定期収入(アグリコラ、カヴェルナの農業と畜産、オーディンの収入、ヌースの魚収入)
・食料支払いの軽減(ルアーブルの造船)
永続能力の付与(アグリコラの職業、ヌースの一部建物)


あたりがあったが、全部ない
手数は決まっていて増えない
なぜそうしているかだが
単に取り得な拡大パーツを配るような実装(永続的に使えるワーカーや、無制限に繁殖を繰り返す羊など)にウヴェ自身が飽きているのだと推測する

ちょっと


・アグリコラ
単純な増員


・ルアーヴル
造船による食料支払いを軽減
食料を取る手が浮くため実質的な手数増加だが、アグリコラの非対称的な手数増加がはらむ理不尽感やダウンタイムを解決できている

洛陽の門
畑が毎ラウンド野菜コマをもたらす
これも造船同様、増員の近似概念だが、過去2作と違って畑は複数回起動させると壊れる
この畑の実装が、永続的に、無限に起動させられる増員や造船と違った面白さを生んでいる
土地が痩せるテーマとも合っていて◎

と、時代を経るにつれアレンジを繰り返してきたが
オラニエの建物カードの挙動は洛陽の畑と少し似ている


建物は2回だけ起動でき、その都度即時効果を発揮する
記事後半で改めて触れるが、建物周りの実装はとても好印象
拡大・成長感が弱いゲームで生じ勝ちな単調さやマンネリ感を巧妙に回避している


③やや理不尽な勝敗決着

本作を最も勧めにくくしている要因
カードの強弱がかなり激しい
150点がウイニングスコアのゲームで、ぶっ壊れカードは2回フル起動させると1枚で40点くらい出てしまう
弱いカードは10点くらいしか出ない


どうしても気になるなら、
「あのヤバかったカードBANにしてもう1回やろう」で全く問題がない

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警察官舎=ボード上の線路、運河、橋がそれぞれ2/3/4/5枚以上なら、4/6/9/12金を得る
本作360枚中、最も強力で理不尽な一例



なお、若干煩雑さは増すが、
・各時代開始時に両プレイヤーがデッキ20枚から6枚を山引きし手札として持つ
・スタートプレイヤーがカード補充時に手札からカードを出す
・両プレイヤーの合計残り手札枚数が3/5/4枚以下になったら1/2/3時代目を終えて、残り手札は一度全部捨てる(基本ルールと同じ9/7/8枚を使用)

筆者はこのバリアントルールでやっている
・勝敗に対する納得感が増す
・素点が全体的に伸び、やりたいことがやれる

などかなり自分の好みに寄る



④ウヴェ作品のなかで最もアドリブ寄り

戦略的/場当たり的、

戦略的/開始時にやりたかったことは大体やれる/中盤までに終了形の見通しがつく/互いの意図や主張がある程度見える/実力者が勝ちやすい

場当たり的/「これをやり通したい」みたいな長期目標を持ちづらい/数手先は隠して読ませない/相手との押し引きよりガチャやダイス運を乗りこなす楽しさを/実力差が出にくい

のどっちかにボードゲームは偏りがち
ユーザーごとに好みのレンジは違うし、デザイナーも得意のレンジを持っている

ウヴェは戦略寄りのデザイナーで、代表作の戦略的:場当たり的の比率はざっくり以下
なお数値は完全に主観であり、特に論拠がない


カヴェルナ=8:2

かなり戦略寄り
途中のアクションスペースのめくれ以外ランダム要素、運要素なし。
ほぼ完全公開情報ゲーム。
基本版の硬さに対して、氏族拡張(忘れられた氏族)による非対称的なセットアップや狂乱の魔物拡張はよりゲームを柔らかく、解きほぐす方向で働いている。

アグリコラ=7:3

最初の14枚のカード配布とアクションスペースのめくれのみ運要素あり。

ヌース=6:4

建物カードのめくれ運は強いが、多くの枚数がめくれる。
特に強力な最後の得点系カードは各プレイヤーに一部公開されており、下準備もできる。

オーディン=5:5

・捕鯨や略奪ダイスのブレ
・職業カードのめくれ
食料供給ラウンド(拡張要素)

と、とても運要素は多い。
けっこうなアドリブ力を試される。

これらと比べると、

オラニエンブルガー運河=3:7

都度めくられる建物カードを活かしてアドリブ的に立ち回る必要がある。
また、ホイールからあふれた資源が蒸発する仕様が、
「ここは資源をため込んで…」
という長期計画を阻んでいる。

比較的マシなものを手早く建てて、手元に資源を残しすぎない必要がある。


なお余談だが、アドリブ性や場当たり性が上がるほどベスト人数は減る傾向にある
カヴェルナ基本版=4人ベスト
アグリコラ=4,5人ベスト
カヴェルナ氏族拡張=2,3人ベスト
オーディン=2,3人ベスト
ヌース=2、3人ベスト
オラニエ=1,2人

・戦略寄りで運が介在しづらいゲームは、他プレイヤーを乱数の意味合いで導入した方が楽しさが底上げされ、多人数戦の高評価につながる
・場当たり的、アドリブ的なゲームは手番中の思考時間が延びやすく、ダウンタイム軽減の意味で少人数戦の方が評価されやすい
・特にダイスが顕著だが、とても強い乱数要素が介在する場合、2人など少人数ベストとされやすい(参考:ブルゴーニュの城、グランドオーストリアホテル、ティルトゥム) 

あたりが原因と思われる


⑤資源ホイールはオンリーワン的で◎

粘土、木材、鉱石の3種の下級資源とレンガ、鉄の2種の上級資源を管理する
資源を得たり払ったりすると、トラック上の資源トークンを動かす

ここまではガイアプロジェクトの建材とお金トラックと同じ単なるトラック管理だが
毎ラウンド開始時、ホイールを回転させる収入が得られる
このとき、
「3種の下級資源を1個ずつ支払って、2種の上級資源を1個ずつ得る」
という処理が起きている


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上の画像だと、「2鉱石、2粘土、3木、1鉄、3レンガ」持っていたのが、

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ホイールを回転させると、「1鉱石、1粘土、2木、2鉄、4レンガ」に変化する

フレーバー的には、木材を燃料として、鉱石(粗鋼)を精錬してにし、粘土を焼いてレンガを作っている

未プレイの方は実機を触るか、hal99さんの動画なんかを観られる方が手っ取り早く分かりやすいのだが
ここの実装は抜群に良い
「ああ、ここが一番やりたかった部分なんだろうな」
と思わせてくれる

・下級資源コマ3個をストックに返して、ストックから上級資源コマ2個を取る

という工数の多い仕事を、
・ホイールを1/16回転させる

で置換している

オーディンのインタビューで、
「これまで動物コマをストックに返して、2食料をストックから取って、それを収穫フェイズにまたストックに返すことで食料供給をやっていた。
でも動物をポリオミノタイルにして、給仕ボード上に乗せさせたらどうだろう?
食料支払いがもっと直観的に分かりやすくなるし、かつ処理も簡単になるよね」

という旨の発言をしていたが、同種の優れたソリューションだ

ホイール上での資源管理は、祈り働け(2011)ルアーヴル・内陸港(2012)でもやっていたが
今回の仕様は知る限り誰もやったことがなかったもので、新奇性がとても高い
大げさに記すなら、ユーロゲームをまた1歩前進させる小さな発明だと評価する

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Ora et Labora (2011)

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Le Havre: The Inland Port (2012)



(4)考察
以後既プレイの方向けの記載となる

①資源のレート

おおざっぱに、各資源の価値は、

粘土、木材、鉱石=2
名声点=3
お金=4
レンガ、鉄=5


くらい
「1レンガ(5)は2粘土(4)よりは価値高いけど、3粘土(6)には及ばないくらいかな。
2木(4)と1名声点(3)だとさすがに2木の方が価値が高いが、2木(4)と1金(4)はほぼ等価と言って良いのでは」
くらい
もう少しだけ画素数を大きくすると、

粘土=8
木材=10
鉱石=11
名声点=12(開始時)→15(終了時)
お金=20(開始時)→15(終了時)
レンガ=22
鉄=25


って感じ(約5倍に拡大)

レーティングの根拠は以下(読み飛ばし推奨)
「下級資源の中でも、粘土(8)は運河を引いたときに得られるため若干価値が低い。木材(10)鉱石(11)はほぼ同じ。
名声点は開始時(12)には使い道に乏しく相対的に低価値。反対に最終盤のヨセでは重要度が高まる(15)
お金は最序盤得る手段がなく、めちゃ価値が高い(20)。が、毎ラウンド6金が場に流入し続けるため、終盤はインフレし、名声点と同水準(15)にまで価値が目減りする。
レンガ(22)鉄(25)は、初期資源が0鉄1レンガスタートなのもあって、ほんの少し鉄が高価値」

数字のつけ方は完全な主観
反証や立証のしようもなくあまり意味がない

また実ゲームだと建物カードの要求コストや産出資源によって価値は増減する


なお、ホイールの回転は毎ラウンド収入として1回できるが、ゲーム中2金を支払うといつでもできる
この2金1回転はややコスパが悪く、1ゲームあたり0-2回程度しか行われない
「お金がジャブつく終盤などに、鉄かレンガがどうしても欲しいときにやる」
って感じ

これについて、
粘土(8)+木(10)+鉱石(11)=29
レンガ(22)+鉄(25)=47

差は18で、だいたい1金程度
「無料ならほぼやり得だけど、2金払ってのフリーアクションはちょっと損」

という実感とだいたい計算が合う

このフリアクのコストを、適正レートの1金でなく2金にしているのはセンスが良く、好感が持てる
もし1金にするとやるべきなのか微妙であり、プレイヤーがいちいち迷ってしまいテンポが削がれる
いつでもやれるフリアクはあえて非効率にして、
「できればやんない方がいいですよ」
と導線を引いてあげた方が無難で親切


先行作だとウヴェのディベロップしたテラミスティカ(2012)がまさにそうで、1金や1ワーカーを生み出すフリーアクション(パワーアクション)の変換レートは故意に低く設定されている

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Terra Mystica (2012)


②鉱石とは何か?

本作、鉱石を必要とするアクションは存在しない
全ての建物カードのコストにならない
4種の経路(運河、鉄道、道路、小道)のコストにもならない

じゃあ何のためにあるねんってところだが
ホイール回転のコストとなっている
回転では1木、1粘土、1鉱石を支払って1レンガと1鉄を得ている

ウヴェの先行作だと、アグリコラやカヴェルナの食料が最も近い実装
食料そのものを建設コストにする建物や小進歩カードはほぼない
が、定期的に食料支払いがあり、けっこうな手数を食料確保に持っていかれる

本作では各ラウンド終了時に、本来は2金かかる1回転が無料で行える
ウラを返すと、
「毎ラウンド終了時までに1木、1粘土、1鉱石を余らせておいてね。
さもないと、2金相当のボーナスをみすみす逃すことになるよ」

デザイナーのメッセージ

ペナルティとボーナスを裏返したような実装
アグリコラ(2007)→オラニエンブルガー運河(2022)と同じような反転を、別デザイナーのルチアーニがロレンツォ(2016)→グランドオーストリア(2015)
でやっている
ロレンツォにおける破門トラックは、進めていないと相当手痛いペナルティを食らう
オーストリアの皇帝トラックでもペナルティは形式的に存在するが、一定以上進めたときのボーナスがメインとなっている
両作ともとても素晴らしいが、破門トラックよりは皇帝トラックの方がプレイ感が良い

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Lorenzo il Magnifico (2016)


余談だが、鉱石を経路や建物タイルのコストに含めることは可能っちゃ可能
アグリコラの大進歩カードのコストに食料を入れてもゲームは成立するように
ただ、細かい言語化は省くが、あんまり美しくないよね



③起動効果の3つのデザイン的メリット


記事前半で記したが、本作はヌースのように建物カードを個人ボードに建てていく
ヌースに存在した永続能力やアクション強化をもたらす建物は全廃されて、すべての建物が即時効果を持っている


建物の周囲には経路(細長い紙タイル)を配置でき、周囲4辺を経路で囲い切ると建物の効果を起動できる
またそれと別で橋(木ゴマ)も建設でき、橋は2個接続するとまた効果が得られる
合計2回起動できるようになっている


この実装の良い点はおおまかに3点あげられる

[1]処理が明白

この実装の最大のメリットは処理の明白さ
永続効果を廃し、即時効果にするだけでほぼ処理忘れはゼロになるが、
・4辺を囲い切っている
・橋2本と接続している

と見た目でわかりやすいのもなおよい
とても明白で漏れがほぼ起き得ない


[2]ストーリーに起伏を

起動条件を2つに分けたことで、展開に起伏が生まれている
橋による起動は4,5枚建物カードを建ててから、ゲーム中盤からやることになる
建物を建てる
・4辺を囲い切って1回目を起動する
・起動に使った経路を再利用すべく、他の建物を隣接して配置
・建物同士をつなぐように、も接続して2回目の起動を狙う
・最終的に橋を閉じ切る(閉じないかぎり、橋2本で1回起動、3本で2回起動…とN-1回しか起動できないが、閉じると4本で4回起動など、1回分多く起動できる)

と進行に応じてやるべきこと、やりたいことが変わっていく

デザイナー目線だと、即時効果だけで(永続効果ナシで)こういった起伏や盛り上がりを用意するのはなかなか難しい
どうしてももっと単調になってしまいやすい

引き合いに出すのは少々酷だが、フレイムクラフト(2022)を一例として出す
フレクラでは、資源を払って獲得したカードの効果は即座に適用される
・提示されたカードを買うべく資源を集める
・買ったカードから得たボーナスや、そのお釣りを使ってまた新しいものを買う

という流れは楽しいのだが、これは本来20-40分級向きの実装
アートワークとコンセプトが抜群に良く、掛け値なしの大成功作だが、システム面は本来90分向きではない
90分級に引き延ばしたのはマーケティング的な意味合いが強いと推測する
単価と購買者数的にもっとも売上が立つのは60-120分級の中~重量級であり、そこに合わせるべくやや無理やりプレイ時間を延ばしたと評価する

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Flamecraft(2022)


[3]快感の前借り

(本節は戸塚さんうちばこや氏のアイディアに拠る部分が大きい)
建物カードは即時的だが、建てた瞬間に適用するのでなく、発動を遅延させているのもワクワク感を向上させている

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指令センター=個人ボード上の橋1個につき、異なる資源1個を得る(各1個ずつまで、最大7回)

このカードが典型的で、
「建てたあとに工夫してうまく起動させると、後々タダで最大7資源もらえる」
と書いてある
ちょっと言語化が難しいのだが、プレイヤーはこの建物を建てた時点で自分が7資源フルでもらった未来の像をイメージし、一定の幸福を感じている
「宝くじは夢を買っている(期待値的に買う意味がないが、買った時点で数億円手に入れた未来の像を空想することができる、実利云々でなく、そういう幸福感を買っている)」という言説に近い

仮にこのカードの実装を反転させ、
「建てた時点での橋の個数を記録しておき、今後の起動ではその個数に応じたボーナスしかもらえない」
とするとワクワク感が一気にしぼむ


(5)考察2:カード解剖


自分の備忘もかねて、特に印象的だったカードを各デッキ数枚ずつ挙げていく

序盤のパワーカード―沿岸倉庫,工業用貯蔵庫

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沿岸倉庫=隣接する運河1本につき1木1鉱石を得る。
工業用貯蔵庫=小道1本以下と隣接しているなら、2木、2粘土、2鉱石を得る。

序盤の典型的な強カード
建てやすく素点も高い
特に沿岸倉庫の6点は破格であり、隣の工業用貯蔵庫の4点が適正数値
起動効果ももちろん強い、3種の下級資源が揃うのが強力
沿岸倉庫では粘土が湧かないが、運河を建てたおまけで粘土が生じる
この2枚に、Aデッキのカードは素直なものが多い
コストが高すぎず、起動効果もシンプルでバランスが良い


勝つなら運河を―港湾事務所,催事会場
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 港湾事務所=運河4枚以上個人ボード上にあり、4/5/6/7枚の建物カードが運河と接しているなら5/6/7/8金を得る。
催事会場=2金を得る。道路1枚以上と接しているなら、配置した運河1枚×1名声点を得る。

運河、道路、鉄道と3種の経路のうちの運河のコンボパーツ

詳細省くが、
運河=10.0(中コスト、建てる機会少なめ、めちゃ強い)
道路=8.0(低コスト、建てる機会多い、単純に強力)
線路=3.0(高コスト、建てる機会少なめ、強いがなかなか建たない)


くらいパワー差がある
運河自体も強いがコンボパーツも強力なものが多い
なかでも港湾事務所&催事会場は、
「このゲームは基本的には運河をやって勝つんだよ」
と教えてくれる2枚
これを取られたら運河2本引きのアクションをカットし続けましょう


経時変化を映す―中古品販売店,卸売店
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中古品販売店=2/3/4種の経路と接しているなら、3金と0/1/2鉄を得る。
卸売店=隣接する経路の種類ごとに1木と1名声点を得る。

背景の物語が感じられる2枚
効果はほぼ同じで、たくさんの種類の経路と隣接させるほど起動効果が高まる


・運河(船)
・道路(馬車)
・線路(機関車)
・小道(市民)
であり、異なる経路が集まる結節点=多様な人間が利用する店 となる
そういった雑多な土地で中古品販売店は繁盛するのも納得
卸売店は、中古品販売店で得られるお金と鉄をそのまま建設コストに加えると建つ感じになっている
「中古品販売店が繁盛したから、2号店として卸売店を出店したのかな」的なストーリーが読み取れて楽しい


④名声点を支払う―保税倉庫,裏庭,船積みドック,貨幣鋳造所


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保税倉庫=1名声点または2金を支払うと、レンガか鉄を3個になるまで補充する。
裏庭=小道1枚以下と接するとき、1名声点または2木を支払うと1鉄、1レンガ、3鉱石を得る。
船積みドック=線路1枚以上と接するとき、1名声点を支払い2レンガまたは2鉄を得る。道路1枚以上と接するとき、1名声点を支払い5鉱石または5金を得る。
貨幣鋳造所=道路2枚以上と接するとき1/2/3鉱石と1名声点を支払い5/6/7金と2木を得る。


記載が死ぬほど複雑だが、全部「名声点を支払って何か得る」と書いてある
この系統はAデッキでは0枚だったが、Bデッキでは4枚と多用されている

システム的にはアルマ・マータの勝利点の実装にかなり近い
既存のユーロの文脈だと、勝利点(名声点)は資源やアクションの変換の終着点
いちばん最後に得られるもので、勝利点から変換して何かを得ることはできなかった
が、アルマ・マータでは、
・増員の条件
・研究トラックを進める際のズル(条件無視)のペナルティ支払い

と、ゲーム途中の勝利点にいくらか意味を持たせている

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Alma Mater (2020)


本作のBデッキも似た実装
1名声点または2金を支払うと、レンガか鉄を3個になるまで補充する(保税倉庫の効果)」
を建てたプレイヤーは、
「2金払って3鉄でも悪くはない。でもせっかくなら名声点で払いたい、どこかで名声点は得られないか」
と工夫し始める



テーマ面において名声点とは何かを少し掘り下げる
支払うよりも得る手段を見る方が分かりやすい

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音楽堂=運河1枚以上と隣接するとき、10/20/30金を支払って15/27/40名声点を得る。
アーケード=道路2枚以上と隣接するとき、その道路以外3/5/7/8枚以上あるとき、5金と2/4/6/7名声点を得る。


音楽堂ではパトロンとなり、コンサート(音楽会)を誘致している
たくさんのお金を支払うほど大規模な企画ができ、市民の支持を多く集め、また彼らの文化水準を高められる
アーケードは商店街を形成し、一般市民の雇用を安定させ、集客を生み出している

・人口
・市政への支持率
・市民の幸福度や文化レベル
・集客
・町の賑わい

的なフレーバーを持つカードに名声点が割り当てられている

名声点を支払う場合は市民の支持を損なうようなテーマがあてがわれやすい
さっきの写真の保税倉庫が好例




⑤経路の置き換え―建設チーム,近代化事務局



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建設チーム=1名声点と3粘土を得る。小道1枚を道路1本への無料で置き換える。
近代化事務局=1枚以上の道路と隣接していて、印刷済の小道の置き換え数が0/1/2本のとき、4/6/8名声点を得る。

ややこしい記載だが、「無料の置き換えボーナス」と「置き換え回数に応じて得点」と記してある

本作、すでに配置してある小道を無料で除去でき、別なタイルを敷くことができる
普通に1手かかるし、建設コストも正規で支払うので基本的に手損
「どうしても起動効果を得たい人用の救済措置」って感じだったが
この2枚をはじめとして、Cデッキは置き換えを意識させるカードが多い

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馬車停留場=2枚以上の道路と隣接していて、かつボード上に小道より多くの道路があるなら、4金と3名声点を得る。
計画開発局=1枚以上の道路と隣接しているなら2粘土を得る。ボード上の最も種類の少ない経路1枚ごとに1金を得る。
鉄鋼会社=小道と隣接していないなら、持っている鉄2個につき1回、鉄1つを4名声点に交換できる。
工業用住宅=2枚の道路か2枚の線路か2枚の運河と隣接している建物1枚につき1名声点を得る。

上記は小道を別な経路に置換させる方向性の4枚
フレーバーとしては小道=未舗装の生活道路であり、小道をより機能的な道路に作り変えるCデッキでプレイヤーが担うのは「近代的で計画的な設計、効率的な都市計画」って感じ
「計画開発局」「近代化事務局」など、建物名と挙動が合致していて好印


⑥フル起動欲をあおる―中間鉱石倉庫,鉱石加工会社,鉱石貯蔵所


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中間鉱石倉庫=1回目の起動で4鉱石を得る。2回目の起動で2/4鉱石を支払い、7/10金を得る。
鉱石加工会社=2道路と隣接するとき、1/2回目の起動で、4/1鉱石を支払い、8名声点を得る。
鉱石貯蔵所=2線路と隣接するとき、1/2回目の起動で、3/5鉱石を支払い、4/12名声点を得る。


建物は、
・経路4枚で囲い切る
・橋2個と接続する

で起動する
全建物中、ざっくり半数が2回起動はできない
(両プレイヤー合わせて橋は12-14本。建物11枚建てて6橋取れたとしたら、5-6枚のみ起動)


「建てたからには全部2回起動させたいよね
でも全部起動させる手数は用意されてないよ」

と欲求を煽る構造なのだが

この3枚はさらに、

「建てたからには2回目の起動までいけると本当にお得だよ」

と煽っている
このゲーム、感想戦で、
「なんでなんだろ、鉱石が大事なときにいつもちょっと足りなくなる
全然使ってるつもりないのに」

とクレカ浪費マンのような台詞が発せられがちなのだが
この3枚をはじめとした高効率カードの起動コストが軒並み鉱石で、そこで支払っている影響が大きいと思われる



(6)総評

ウヴェの傑作群と比べてしまうのはやや荷が勝つが、見るべきところのある良作だと評価する
1-2人用というレンジの狭さ
カードの強弱がややラフ

この2点は明白な短所
ただ、アルルの丘(2014)紅茶と貿易拡張(2017)(2人専用のアルルの3人戦拡張)のように、人数を増やす余地もある

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Fields of Arle: Tea & Trade (2017)

シュピールヴォルクス社がもし売上に対して手ごたえを感じているなら、そういった拡張も出され得ると思われる



Web キャプチャ_10-3-2023_19225_boardgamegeek.com

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