キーフラワーをプレイし、とても面白かったので、デザイナーインタビューを翻訳する

(1)略歴
(2)インタビュー
(3)考察①:キーシリーズ
(4)考察②:キーフラワーの構造解析


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Keyflower(2012)
Designer Sebastian Bleasdale, Richard Breese
Artist Juliet Breese, Jo Breese, Gemma Tegelaers
Publisher R&D Games + 10 more

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(1)略歴

リチャード・ブリーズ/Richard Breese

専業は会計士
R&Dゲームズを1989年に創始

拠点はイギリス
兼業でゲームデザインと出版をやっている
2015年まではR&Dのほぼ全ゲームのアートワークは姉妹のジュリエット・ブリーズが担当
グラフィックデザインはリチャードがやっている

代表作はキーシリーズ以外だと、「モルゲンランド(アラジンズ&ドラゴンズ)」、「ファイルプレイ!」「Inhabit the Earth」、「リーフ・エンカウンター」など
元記事:https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/134/richard-breese


セバスチャン・ブリーズデール/Sebastian Bleasdale
子どものころからゲームが好きだったブリーズデールは、10代のころにカタン(1995)とチグリス・ユーフラテス(1997)に出会う
それがきっかけでボードゲームのとりことなった
その後、シンプリーコズミック(1995)に出会ったことで、ゲームデザインを自分で手掛けようと試みるようになった

ケンブリッジ大学を卒業後、仕事でウィンザーに転居
そこで Reiner Knizia 氏の下でテストプレイヤーとなる
「設計からディベロップ、出版に至るまでの過程でクニツィアは何をしているのか」

そのプロセスを学んだ
また、その時代のほぼ全てのクニツィア作品にクレジットが入っている
またブリーズデール&クニツィアの共同デザインで「Prosperity」も作っている
この経験のなかで、テスターとしてだけではなく、彼の単独のゲームデザインもやるようになった
代表作は「On the Underground」、「On The Cards」、「Keyflower」、「We Will Wok You」、「Lemminge」、「Black Fleet」
sb
Sebastian Bleasdale
元記事:https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/7448/sebastian-bleasdale

(2)インタビュー
※意訳・改変行っている
※元記事は201
7/12に掲載、リチャード・ブリーズが単独で応えている
元記事:
https://blog.tabletopia.com/keyflower-interview-2/


リチャード、よろしくお願いします
Keyflowerの起源について少し教えていただけますか?

キーフラワーは僕リチャード・ブリーズとセバスチャン・ブリーズデールの合作
ブリーズデールも僕もイギリスの人間だ
キーフラワーをめぐる物語は、ブリーズデールが作ったターフ・ウォーズというプロトタイプから始まる
彼は2007年にターフ・ウォーズをR&Dに持ち込んでくれた
 ・現金でギャングのメンバーを雇う
・そのメンバーを使って勝利点のついたカードを獲得する
・投資した額以上の利益を回収する

という構造の中量級だった

ブリーズデールと一緒に『ターフ・ウォーズ』をプレイした
プレイ後、持ち帰って、R&Dから出すべきか検討した
「ターフ・ウォーズのアイディアは素晴らしい
ゲームを駆動するオークションの部分が最高だ
でも、ターフ・ウォーズをそのまま出すとなると、いささか軽い
中量級ではなくて、もっとビッグサイズのゲームで使った方がいいんじゃないかな
2007年時点で、キーシリーズを既に5作出している
数年後、6,7作目あたりのキーシリーズとして、ターフ・ウォーズのアイディアを使ってテーマを変えたものを出したい」

と考えた
ブリーズデールにそう伝えると、彼
は僕の申し出を快諾してくれた
同じイギリスでも僕とブリーズデールの拠点はけっこう距離がある
だから、定期的に会ってキーフラワーのテストプレイを行う、という時期が続いた
拠点が離れているから、会えない時間は各自でテストプレイをした
会ったときにお互いの経験をシェアして、考えをすり合わせる、というかたちで制作は進んだ
開発は想定以上のペースで進んで、とんとん拍子で完成に至った
2013年発売を見込んでいたが、2012年に前倒しした

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キーフラワーはブリーズにとって初めての合作です
他デザイナーとの共同制作にはどういったメリット/デメリットがありましたか?

メリットは、1人では思いつかなかった提案が生まれること
また、一定期間をおいて、定期的に会ってテストプレイする、というリズムもちょうど良かった
今自分たちがどこにいて、最終的にどこをゴールと捉えているのか、そういうことを把握する時間が取れるからね
また、単純に2つ頭脳があるわけだから、基本的には1人での制作よりもできることは多い
デメリットは、2人でデザインしているからこそ妥協しなければいけない場面もあった


キーフラワーは見た目はピュアユーロですが、けっこうバチバチのプレイヤー間のインタラクションがあります
この激しさは狙って出したものですか?
それともメカニクスの都合上自然と生じたものですか?

キーフラワーのコンセプトは「ギリギリファミリー層でもやれるヘヴィゲーム」
インタラクションは大事だけど、直接的すぎてはダメだと考えている
ゲームの構造のなかで、自分の利益を追求した結果、相手がたまに不利益をこうむったり、あるいは協力関係が生じる、というのはOKだ
でも、「お前のものを奪う、相手を殺す」みたいなのはダメだ
キーフラワーのインタラクションは、相手を直接殴って殺したり、相手の村タイルを焼き討ちしたりするようなものではない

インタラクションのセクションは、原案のターフ・ウォーズの時点で既にあったものを膨らませている
同じ色のキープルしか入れない、マストフォローのオークションのメカニズムだ
僕はあのルールにとても惹かれ、可能性を感じてキーフラワーを作ったんだ


キーフラワーは、
・オークション
・タイル配置
・ワーカープレイスメント

で構成されています
これらを全部一緒に混ぜるゲームというのは、あまりありません
どうしてこれらを混ぜたのですか?

ワーカープレイスメントについては、元々キーダム(1998)を作っていた
キーダムはワカプレの創始とされるBUS(1999)と同時期のゲームで、ワーカープレイスメントの草分けと認識されているゲームだ
キーダムのワカプレのアイディアは気に入っていて、モルゲンランド(アラジンズドラゴンズ,2000)でも再実装している

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タイル配置とオークションは、ほぼ同時に入ってきた
キーフラワーでは正六角形のタイルをオークションにかける
6辺の各辺にキープルを置いて、投資した額を表示するUIだ
6辺あるから6人戦まで対応している

で、競り落とした六角形のタイルは手元に来る
ヘックスタイルが手元に来るなら、タイル配置をしたくなるよね
タイル配置の、道や川をつなぐルールや、道を通じてリソースを輸送するルールが自然と盛り込まれていった

ゲームデザインは目的地のない旅に似ている
ただ、歩き出したいから前に進む
進むうちに視界が開けてくる
そのうち、目的地らしきものが見えてくる
とても創造的な趣味だと思うよ


キーフラワーには、いくつかの勝利点ルートがあります
好みの戦略などありますか?

自分は決め打ちはしないタイプだね
キーフラワーは最初に勝利点源となる冬タイルが配られる
それを見てプレイヤーは、「この冬タイルのボーナスに特化したルートで行こう」とおおまかな指針を持つことができる
でも僕がキーフラワーを遊ぶときは、どの戦略に特化するかは、最初は決めない
というのも、ゲーム中にどんな春/夏/秋タイルがめくれるかによっても、展開はかなり左右されるからだ
さらに言うなら、相手プレイヤーが出してくれる冬タイルにも左右される
広く受けて、その都度戦略を修正するのが僕の性に合っているよ


キーフラワーは、いくつもの拡張が出ています
大きいものだと農夫たち/The Farmers(第1拡張)、商人たち/The Merchants(第2拡張)があります
おすすめの拡張はありますか?
またその理由は?
基本ゲームでカットした要素を拡張に入れましたか?

それぞれの拡張でテイストが異なる
僕はプレイするなら、商人拡張が好みだ
商人拡張は冬タイル以外の勝利点ルートが増える
タイルのめくれによる運要素が減って、ややガチゲー寄りになる

見た目の映えなら農夫拡張も良いだろう
アニミープル(豚/牛/羊の木ゴマ)のコンポーネントが魅力的
プレイヤーに基本ゲームとは別の選択肢を提供している

キーセレステ(ミニ拡張)とキーメレクイン(ミニ拡張)は、新しいインタラクションをもたらしてくれる
「基本ゲームからカットしたものを拡張に盛り込んだ」というのはまったくない
たしかに、
「基本ゲームをあえてちょっと不完全にして、拡張を入れて完成」
という形式のゲームはなくはないけれど、キーフラワーは違う
基本版だけで完成はしている
ただ、農夫たちの第1拡張については、キーフラワー基本版の出版前からすでにアイディアはあった

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Keyflower: the Farmers

キーフラワーより以前のキーダムを最初に作ろうと思ったきっかけはなんでしたか?
また、キーシリーズは何によって統合されていますか?
また、なぜ「カギ」なのですか?

IgSumoボードゲーム雑誌というのが昔あってね
そこでゲームデザインコンテストがあったんだ
IgSumoはのちの「カウンター」という雑誌になる
「コンテストに出したいな
ユーロゲームで何か作ってみよう」
と思ったのがきっかけだった
で、タイトルを考えてたんけど、しっくりくるのがなかった
エッセンでアメリカ人のゲーマーのキーウッド・チェヴス/keywood Chevesに出会ったとき、ビビっと来るものがあった
「キーウッド!!
この名前いいな!
これを僕は探していた」

と直感したんだ
すぐにキーウッドに許可を得て、ゲームタイトルをキーウッドにした
IgSumoにキーウッドを提出し、優勝した
翌年のエッセンに持ち込んで、そこでも好評を得た
ドイツのSpielerei誌で最高評価を得た
「ゲームの中の主要人物名がキーウッドで、彼にちなんで作品の舞台の土地名もキーウッドと呼ばれている」
というフレーバーだった
モチーフとなったゲーマーのキーウッドは、自分の名前がついた本作を3個も買ってくれたよ
キーウッドは生産数が少なくて、今はプレミアがついている
彼は、
「最近そのうち1個を売却して700ドルくらい得た、最高だった」

って言っていたよ
そんな風に喜んでもらえると、僕も嬉しいよね

あとは、キーシリーズ全体についてだね
キーウッド(1995)が1作目で、2作目としてキーダム(1998)を出して、シリーズ化することにしたんだ
シリーズ全体の共通点は、
ファミリー層が親しみやすいテーマであること
キー・トゥ・ザ・シティ・ロンドンに限ってはちょっと大人向けの渋いテーマだけど
また、
・直接的ではないが濃密な対人インタラクション
・運要素の少なさ
・適度な選択肢の多さ

これも共通の特長だ

キーシリーズのすべてのゲームで、プレイヤーは自分の世界を構築していくことができる
キーフラワーの場合だと、村タイルを競り勝って、自分の領地を拡大し、資源を生産していくよね
そういう風な、何かを作るポジティブな喜びがキーシリーズ全体に通底している
衝突し、何かを壊したり、殺し合うような、ネガティブな感情を駆動するゲームではない


キーフラワーはキーシリーズの中で最高評価を受けています
その理由についてどうお考えですか?
何が特別だったのでしょうか?

キーフラワーの特長は、
・運要素が程よく強い(タイルのめくれによって展開が多様に変化する)
・対象人数が広い(2-6人まで対応)
インタラクションがしっかりある
・流通が整っていて、買いやすい

また、人気が人気を呼ぶということもある
BGGランクが30位以内ということが、永続効果のある宣伝みたいになっている
人気があるおかげで、新しいゲーマーが入ってきてくれる良いきっかけになっている

キーフラワーの前のヒット作としては、キーセドラル(100位以内)とリーフ・エンカウンター(50位)があった
どちらもとてもメジャーにはなったのだが、当時ゲーマーの数が少なかったし、市場の小さかったことから流通量も少なかった

キーフラワーがエッセンのスカウトアクションで1位になったときに、このゲームはハネるな、という確信を得たよ
今もなお高評価を得続けているのは、とても嬉しいことだよ

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Reef encounter(2004)

キーシリーズのなかでいちばんのお気に入りはありますか?
「この作品はもっと注目を浴びるべきだ」というようなゲームはありますか

難しい質問だね
自分の子のうち、誰がいちばんかわいいか選べって言われてるようなもんだよ笑
でも、キーセドラルかな、選ぶとしたら
キーシリーズに入ってきてもらう、入門向けのゲームとして最適だ
ゲーマーにとってはキーセドラルよりたぶんキーフラワーの方がしっくりくる
いろいろやれることが多いからね
僕がプレイするうえでいちばん好きなのは、共同制作者のブリーズデールとキーフラワーの商人拡張込みで2人戦をやることだ
最高に楽しいよ
僕にとってこれ以上ゲーム性が高いセッティングはない

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keyflower: the Merchants


初期の作品群にもう一度手を加えて再制作する、という可能性はありますか?

まあ、なくはない
特にキーセドラルはあり得ると思う
ただ、しばらくは完全新作の制作に自分の創造性を費やしたいと思う


キー・トゥ・ザ・シティ・ロンドン(KttCL)について教えてください
キーフラワーとの類似点、相違点はなんですか?
また、なぜロンドンをテーマに選んだんですか?

キーフラワーの、
「ヘックスタイルをつなげて村を作る」

という発想から派生したゲームだ
キーフラワーはちょっともっさりしている部分がある
キープルを生むタイルがあるんだけど、
・キープルを使ってキープルを生産する
・作ったキープルを使って別なアクションをする
というように、キープルの数をコントロールしていく要素があった
もちろん、ワーカー数を増やせるから楽しいんだけど、ゲームを間延びさせる原因でもあった

KttCLでは、キープル生産のタイルがない
さらに、リソースを輸送するというピック&デリバリーの要素もばっさりカットしている
輸送の必要がないから、タイルのアップグレードも簡単だ
リソース管理のややこしさ、カツカツさが減って、かなりイージーなゲームとなっている

また、アクションの構造にもテコ入れしている
キーフラワーはアクションフェイズを全員でやって、そのあとで船フェイズをやる形式だった
KttCLでは、
アクションフェイズでやることがなくなったプレイヤーは先に離脱するんだ
先に離脱できると、次の時代のボーナスを先に選ぶことができる
キーフラワーから要素を抜くだけでは良いものにならないから、そういう、先パスを急がせる駆け引きもゲームのなかに盛り込んだ

キーフラワーとの類似性をゲーム名でも表すべきだから、キーの名はつけようと判断した
自分は人生の大半をロンドンで過ごしていて、気に入っている
だから、ロンドンをテーマにするのは僕にとって合理的で自然だった
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Key to the City: LONDON


キーフラワー以降の新作について教えてください

キーパー/Keyperというキーシリーズの最新作を考えているよ
ワーカープレイスメントだ

キーパーも対人インタラクションはしっかりある
キープルを置いてアクションを打つのだが、他プレイヤーも後乗りできる
後乗りすると強力なアクションが打てるので、とても有利だ
キーパーは純粋な協力ゲームではないが、相乗りのインタラクションがある
プレイヤー同士で後乗りし合う関係が作れると、よりラクに発展することができるだろう
相乗りできているとキープルを早く使い切ってしまうのだが、キープルを使い切ったあとでも、他プレイヤーのキープルが残っているなら、場のキープルを寝かせて追加アクションができる
ラウンド(季節)の終わりに、各プレイヤーはカントリーボードを1枚選び、そのボードと上に乗ったキープルたちをゲットする
また、カントリーボードは折り畳み式になっていて、次のラウンド開始時に各人が使い方を再決定する
キーパーは戦略性の高い重量級に仕上がっている
キーフラワーを好むゲーマーには刺さる内容になっていると思うよ

keyper
Keyper(2019)

あとは、ロンドン以外のキー・トゥ・ザ・シティシリーズも、ありえなくはないが、現状作る予定はない

インタビューありがとう!
KeyflowerとR&Dゲームに興味を持っていただけて嬉しいよ!

こちらこそ、インタビューを快諾していただいて、ありがとうございました
次回作の成功を祈っています!



―――

(3) キーシリーズ
ブリーズとR&D社はキーシリーズを10作品出している
以下に列挙する
特徴についての記述は、BoardgameMemo様他、日本語のレビューを大いに参考にしています

作品末尾の数字はBGGレート(7以上のものを太字にした)

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①Keywood(1995) キーウッド 5.5

キーシリーズの元祖
交渉要素強め
入手困難



keydom
②Keydom(1998) キーダム 5.5

キングダム(王国)から
90分級。
モルゲンランド(2000,別名アラジンズ&ドラゴンズ)の元ネタ
対人攻撃要素が強い
作りは粗め



keytown
③Keytown(2000) キータウン 5.5

60分級
これもモルゲンランド感があるらしい



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④Keythedral(2002) キーセドラル 7.1

カセドラル(大聖堂)から
デザイナー曰く「最も入門向けのキーシリーズ」
90分級
拡張あり


key harvest
⑤Key Harvest(2007) キーハーベスト 6.8

60分級
共通の土地ボードで陣取りや収穫をやる
マップをめぐって激しいインタラクションがある



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⑥Key Market(2010) キーマーケット 7.4

120分級
BGGウエイトは3.57、キーシリーズで最重量級
競りやドラフトがなく対人インタラクション軽め
処理が煩雑らしい
シリーズ唯一、ブリーズがデザインしていない
デイヴィッド・ブレインがデザインし、ブリーズのR&Dから出版


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⑦Key Flower(2012) キーフラワー 7.8

北米大陸を開拓したメイフラワー号から
BGGランクはシリーズ最高(2020/5現在52位)
90分級
ブリーズ&ブリーズデールの初の共同制作
拡張は大きいものが2個、ミニ拡張は無数に出ている


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⑧Key to the City: London(2016) キー・トゥ・ザ・シティ・ロンドン(KttCL) 7.1

1944年の映画・小説の王国の鍵「The key of the Kingdom」から(?)
90分級
キーフラワーの要素を削って簡略化した
ブリーズ&ブリーズデール
アートワークのジュリエットブリーズの絵柄が、16年経って洗練されている
追うのも楽しい



keyper
⑨Keyper(2017)キーパー 7.4
Keeperから
120分級
ウエイト3.57で、キーマーケット同様最重量級
コンポーネント数がとても多く、定価もシリーズで最も高い
ブリーズの単独作


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⑩Key Flow(2018) キーフロー 7.5

60分級
カードだけで行うキーフラワー

セブンワンダー風の、ブースタードラフト&同時決定
ダウンタイムが少ない
ブリーズ&ブリーズデール
拡張あり


―――

(4)考察②キーフラワーの構造解析

キーフラワーの魅力の言語化を最後に行い、本記事を終える

【概要】

・オークション
・タイル配置
・キープル(ワーカーでありお金)の数のコントロール、リソースマネジメント
複数の要素

【プレイ感】

地味で渋いプレイ感だ

ひかえめな拡大再生産テイスト:

拡大していく快感はあまりない 
春夏秋冬4ラウンドのゲームなのだが、
・最序盤に競られる春タイルは生産
・終盤の秋/冬タイルは勝利点

と、時代ごとの性格付けは一応ある
しかし、テラフォやオーディンの祝祭のような、
「序盤、収入基盤をガチガチに組んで、終盤スパートをかける」
みたいなそういう盛り上がりはない

逆に言えば、
「エンジンを組むのに失敗した人は2時間ずっと地蔵」
みたいなそういう展開が生じる危険性も少ない


キーフラワーのワーカープレイスメントのルールは、
・他プレイヤーのアクションスペースも使わせてもらえる
・同じスペースを複数回起動できる

ととても緩い
よって、もしスタート時の生産基盤のオークションで競り負け続けても、まあどうにかなる
「あの超強いタイル取られて、生産力の差でそのまま負けた」みたいなことにはならない

激しすぎないインタラクション:

インタラクションも程よい
白黒ブラスやインペリアルのような、殺し合いの緊張感のなかで、同時に相乗り/協力もやる
みたいな、そういう激しいものはない
各プレイヤーが、
・所持キープルの色、数
・開始時に配られた冬タイル

という秘匿情報を持っている
相手と変なところで狙いが被ってしまうとムダにキープルを消耗するが、人気のない弱いタイルばかり競り勝っても特に旨味がない

【欠点】

キーフラワーの最大の欠点は、終盤の展開が大味なところにある

序盤、中盤のプレイ感はバツグンに面白い
お金でなく、キープルで行うオークションはとても新鮮だ
トリックテイキングの多面打ちのような楽しさがある

ワカプレのインタラクションも斬新だ
相手のタイルにキープルを置いたり、自分のタイルにキープルを置いてもらうのは楽しい
敵の強力なタイルのアクション権を先に奪うのはとても爽快だ
他プレイヤーが自分のタイルに置いてくれたキープルは、次ラウンド自分の資産になるから、それはそれで嬉しい

また、リソースをピック&デリバリーして、タイルをアップグレードして強化するのも楽しい
キーフラワーはほぼ拡大再生産しないゲームだが、タイルのアップグレードはほぼ唯一の純粋な能力強化


序盤から中盤にかけて、キーフラワーを構成する諸要素は、フレッシュでとても楽しい
しかし、終盤の得点行動だけはちょっと大味だ
数回プレイしても、筆者にとってあまりしっくりこなかった

キーフラワーは、やればわかるが、何をやったら勝てるか分かりにくいゲームだ
リソースとタイルとキープルの動きはシンプルなのだが、それがどう勝利点に結びつくのかが不明瞭だ、もやにかかっている
何が効率的な勝利点行動なのかの見通しが極めて悪い

基本的には、取ったタイルをアップグレードするのがいちばん順当な得点行動ではある
70点くらいがウイニングスコアのゲームで、0点の弱いタイルをひっくり返すと5点くらい出る
アップグレードはアグリコラで言う改築アクションを、各タイルについてやる感じだ
タイルのアップグレードは生産能力も向上させてくれるので、中盤はアップグレードに欲望を持つことができる
ただ、秋・冬タイルの方がメインの得点源となる
秋冬タイルは、タイルのアップグレードとは別で、大きく勝利点を生み出す
「この秋タイル上の特定の資源数×3点」のような感じで、ハマれば20点以上叩き出してしまう
秋冬のタイルの得点の出し方はやや暴力的で、危険だ 
最大X点という上限がないのも悪さする余地を与えてしまっている

秋冬タイルも競るので、相手に取らせないようにカットしたり、プレッシャーをかけたりはできる
ただ、相手の急所のタイルが自分にとって大してほしくない場合も多く、すんなり取らせてしまうことも少なくない
最後のそういった不安定な取り合いが勝敗に直結してしまうと、なんというか、興ざめな幕切れとなる

勝っても負けても、あまりすっきりしないのだ

勝った場合は、
「たまたま相手と狙いが被らなかった
キープルの色の持ち方がうまく噛み合った」

みたいな、あまり再現性のない学びしか得られない
負けたときも、
「なんかよくわからんプレイを相手にされて負けた
相手がかみ合っててすごかった」

みたいな、ふわっとした感じになることも多い

換言すると、キーフラワーは、プレイヤーが学習の快感を得にくい構造なのだと筆者は捉えている
説明がやや難しいのだが、筆者がストラテジーゲームを作るときは、学びがある感じをプレイヤーが感じられると、とても良いと考えて作っている
「次はもっとうまくやれる」という感覚はリプレイ性を大きく高めてくれる
「今回は負けたけど、中盤のあの選択が良くなかった
次回では絶対こうしよう」
「今回は勝てたけど、あの強いカードが引けたから、それに頼って押し切った感がある
あれを使わずに高得点を出すにはどうしたらいいだろう」


個々人にとって学びがあるからこそ、また次やろうと思える
またプレイ後の感想戦も盛り上がる
感想戦の楽しみの本質は、各プレイヤーがセッションから何を学び取ったかをシェアする、知識と感情の共有作業にあると筆者は考える

繰り返しになってしまうが、序盤→中盤の序盤のプレイ感はめちゃくちゃいい
序盤は強いタイルが欲しくなる
中盤には取ったタイルをアップグレードしたくなる
プレイヤーの欲望がそのまま勝利への道とリンクしている
序盤→中盤の作りが丁寧な反面、中盤→終盤にかけての設計は不明瞭で、やや作りが甘い
不確定要素が多く、プレイヤーが確固たる欲望を持ちにくい作りになっている
キープルの手持ち状況が秘匿されているのも相まって、とても見通しが悪い
プレイ後も、「これは明らかな正着手だった、あれが敗着手だった」というような検討が起こりづらい

【魅力】

上記のような一定の瑕疵はあるが、キーフラワーはとても魅力的なゲームだ
筆者にとっての最大の魅力は、そのルールの美しさとユニークさ
「キーフラワーだけでしか体験できない、確固たる何か」がある

美しさ:

それぞれのメカニクス、ルールに必然性がある
・春夏秋冬であること
・キープルが4色であること
・タイルが六角形であること
全てが意味を持っていて、他の要素と密接に連関している
必然性のないコンポーネントやルールがない
きちんと考え尽くされていて、とても美しい
デザイナーのまじめな設計思想と、十分に注ぎ込まれた労力が見て取れる
そのあたりに強い好感を覚える

ユニークさ:
洗練された美しさも魅力だが、筆者にとって最も強く刺さったのはそのユニークさだ
キーフラワーのもっともユニークなルールは、オークションフェイズとワカプレフェイズが同時に行われる点
シームレス、継ぎ目がない
手番でキープルをタイルの辺におくと、競りに参加することができる
また、キープルをタイルの上に置けば、資源生産のアクションもできる
継ぎ目のない構造は、ダウンタイムと思考の負担を減らしてくれる
キーフラワーはキープルがお金でありワーカーでもあるゲームだ
もし仮に競りとワカプレのフェイズが分断されていると、
「ワカプレのためにあとX個ワーカーを残しておかないといけなくて」

みたいな煩雑な計算が必要になってくる
同時にさせることで
「競りがひと段落したし、ちょっとワカプレの方もやってくか
ワカプレをやっているうちに、相手が競り値を吊り上げてくるかもしれない
そのときにまた応じよう」

みたいに、何手も先まで読む必要なく、気軽に打つことができる


最後に、ここまで記して理解したが、私はキーフラワーの、
「キープルがお金であり、ワーカーでもある」
というコンセプトに惚れたのだと思う
たとえば東印度公司(D.Wang, 2018)というゲームがあるのだが、あれは船コマがワーカーであり、資源であり、建物だった
東印度をプレイした際の強いインパクトが、船コマがワーカーであり資源でもあるアマルフィを作る初期衝動となった
「単一のリソースが、配置スペースや配置の方法を変えることによって別な意味を獲得する」
というルールには、とてもワクワクさせられる


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