ウォーターゲートは本当に優れた2人用ゲーム
プレイし、強い魅力を感じたので記事化する


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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力-テーマとシステムの癒合を中心に

 ①パワーで押し込むワシントンポストvsからめ手で逃げるニクソン

 ②証拠は裏切らない

 ③裏切る重要参考人

 ④事件の時系列に沿って生じるイベント

 ⑤しっぽ切りのツケ
(4)総評:トワイライト・ストラグルのユーロ化、あるいは政治フレーバー付きのMtG

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Watergate(2019)
Designer Matthias Cramer
Artist Klemens Franz, Alfred Viktor Schulz
Publisher Frosted Games + 12 more

(1)基本情報
人数:2人
時間:30-60分 
複雑性:2.28 (参考値:世界の七不思議:デュエル=2.22,カタン=2.31)
ランク: 130位 (2022/1/18)
要素:カードドリブン、綱引き、ネットワーク構築、米国現代史、政治スキャンダル、冷戦、2人専用、ゲーム中1回のみのイベントカード
言語依存:中~大(ほぼすべて非公開情報)
流通数寄ゲームズより2022/1/19に日本語版が発売予定

デザイナー:
マティアス・クラマーは51歳前後の兼業デザイナー
化学業界のITコンプライアンスマネージャーが本業
(マティアス・クラマー/Matthias Cramerインタビュー記事について (kanana82.wixsite.com)より)

代表作:

・グレンモア(2010)
・ロココの仕立て屋(2013)

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Rococo: Deluxe Edition (2020)




(2)テーマ

ウォーターゲートは50年前のアメリカの複合ビル
1963年着工、1971年オープン
マンション、オフィス、そしてホテルがくっついている

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6棟からなる複合ビル
目を引くC字型のメインビルはボックスアートやカードに使われている

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`'蛇の歯のような欄干、べらぼうに高いテナント料を持つこの未来的な複合施設は、リチャード・ニクソン政権下のワシントンにおける支配階級のシンボルとなった。`'


議会議事堂まで車で10分であり、1972年のオープン当初から議員たちはこぞって入居した
また6階には民主党議員の事務所があった
本当に雑にたとえると50年前のアメリカ版六本木ヒルズみたいな感じ(
六本木-国会議事堂間も車で10分)
ウォーターゲート、水門というだけあってポトマック川とクリーク川の分岐点にある

六本木と比べると川沿いの都市開発拠点って感じ
またベトナム戦争への抗議活動も盛んで、治安はあまり良くなかった


本作は不正を隠そうとするニクソンvs明らかにしたいワシントンポストの非対称バトルなのだが、彼らはまだちょっと登場しない


ダニエル・エルズバーグ(海兵隊出身のアナリスト)
「ベトナム戦争*に不満があった
*1965-1975年の南ベトナム=アメリカvs北ベトナム=ソ連による代理戦争

最高機密文書にアクセスし、調べつくした結果
アメリカがかなり悪さしてたのが分かった
南ベトナムのジエム大統領=アメリカの操り人形説を実証
1969年にレポートが完成
このペンダゴン・ペーパーズをマスコミに配って政府をぶん殴る」

1971年に主要各紙にペンダゴン・ペーパーズが送付、各社から出版、売れに売れた
pentagonpapers

''おい、行政も政府もみんな嘘吐きだ。全ての公式発表は一切信用するな、それだけが腐敗したこの国で信じられる唯一のルールだ''


ニクソン(共和党出身で1969年から大統領に)
「エルズバーグが暴いたのは民主党のケネディとジョンソン。
よって、リークされても共和党政権にはノーダメージ。
むしろ選挙近いし、こっちに利益があると言ってもいい」


発表から数か月後

ニクソン
「だんだん笑ってられなくなってきたな……
今のところ単に民主党が苦しむだけだからいいんだが……
ベトナム戦争がらみは共和党とていろいろやってきた、叩けばホコリは出る。
エルズバーグの野郎、共和党をゆすれるネタも隠し持っているんじゃないか?
今は中国との外交がデリケートな時期であり、共産圏を刺激する内容をリークされるとシャレにならんぞ」


エーリックマン(ニクソンの部下、顧問弁護士)
「名案がありますよボス。
エルズバーグには精神科の主治医がいます。
*アメリカでは精神科のかかりつけ医を持って、投薬やカウンセリングを受けるのが上流社会のステータスだった
精神鑑定の結果をFBIに持ってこさせます」

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FBI
「求めるような精神異常を証拠づけるものは入手できなかった」


ニクソン
「FBI役立たずすぎんか……
そしたら奥の手を使うしかない。
CIAの手ごまに任せよう」

*FBIとCIA
FBI(連邦捜査局)は警察で、州警の手におえない州をまたぐ大型事件の捜査が専門
CIA(中央情報局)は他国でのスパイ活動が専門

CIA潜入チーム
「かかりつけの精神科医のオフィスに侵入しました
が、ファイルは見つからなかった」


ニクソン
「ちゃんとやれよ!
来年の1972年は選挙なんだ、必要なことはなんでもやれ」



1972.6.17 潜入チーム
「ウォーターゲートの6階、民主党オフィスに潜入するも警察にとっつかまって失敗


マスコミ
「被告人にはCIA工作員や、共和党の選挙チームの委員がいますが……
大統領の差し金ですか?」


ニクソン
(最悪だ……なんでもやれとは言ったが、捕まるなよ)
「そんなお間抜けは知らん、一切ホワイトハウスと関係がない。
ただの三流のコソ泥(third rate burglary)だろ」

と身内切り

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ワシントンポスト
「ニクソン側の内部告発者(ディープスロート)からリークを受けました。
①ニクソン陣営は1972年選挙に向けて法外な選挙資金を用意している
②ウォーターゲート以外にも妨害工作めちゃやってる
上記2点がとりあえずわかったことです。
さらに、こちらにはもっと強力なカードもあります。

ニクソンの不正はこれから全部暴き、大統領の座から引きずりおろします

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''ディープスロートと呼ばれる情報筋は、事件のロードマップを示してくれました。ウォーターゲートの一件は氷山のほんの一角に過ぎないというのが、彼の一貫したメッセージの一つでした。''


このニクソンvsワシントン・ポストを本作では描く
メインボードはワシントンポスト編集部の捜査デスク
宿敵ニクソンの顔写真が中央に貼られている

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ワシントン・ポスト陣営のプレイヤーは編集部のトップだ
・部下の編集者(エディター)を走らせて証拠を集める(証拠トークンの獲得)
・7人の重要参考人(ニクソンの秘書や党幹部ら)と接触し、情報提供者になってもらう(情報提供者トークンの獲得)
・世論を操作し、ニクソン叩きの風潮を作る(イニシアチブトークンと勢力トークンの獲得)


などやり、集めた証拠と情報提供者をつなぐ
2人の情報提供者とニクソンとを証拠トークンの道でつなげられれば、それで即時勝利だ

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ニクソンと2人の参考人が4枚の証拠トークンで接続されている

史実でもワシントンポストが勝っており、ニクソンは有罪を認め辞任した
任期途中の辞任は異例中の異例であり、アメリカ大統領史上ニクソンが最初で最後


ニクソン陣営のやることは遅延、もみ消し、打消し、妨害
証拠トークンをワシントンポストに引っ張られたら引っ張り返す
相手側で証言しそうな参考人は先回りしてシッポを切る、秘書が独断でやったと主張する
世論を新聞社から奪い取る、民衆の関心を裁判からそらして時間を稼ぐ
ニクソン側の勝利条件は、勢力トークンを5個集めること
裁判から民衆の関心をそらしきって無事任期を満了し、大統領を退任するのが目標だ


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(3)魅力-テーマとシステムの癒合を中心に

手頃な30分の綱引きだ
骨格はトワイライト・ストラグル(2005)にとてもよく似ている
既プレイだとインストがほぼ要らない

トワストはとても長く、重く、首を絞め合うようなゲームだが、本作はぶっ壊れカードでチャンバラし合って、1手が勝敗を分ける、そういう楽しさがある

カードゲームの常だが、両陣営のデッキ20枚を把握してから面白さがハネ上がるので、可能であれば4,5回遊ばれると良いと思われる
遊び相手の方が、
・パワーカードを打ち合うTCG的な殴り合いが好き
4,5回以上同じゲームを遊べる
政治スキャンダルネタを楽しめる


上記の属性を持つ方には強く勧められる



筆者にとっての本作の最大の魅力はシステムとテーマがよく馴染んでいる点にある
史実の再現性が高い

再現性を高めようとすると、普通細かいルールや例外規定を入れたくなるものだが
マティアスクラマー、意味不明なレベルで腕が良く、まったくごちゃごちゃしていない
グレンモアや他の代表作と同じ水準までユーロ的にルールが洗練されきっている

以下、何がどのように良いと感じたか箇条書きする


①パワーで押し込むワシントンポストvsからめ手で逃げるニクソン

本作はカードに1-4のアクションポイントが書かれていて、そのAPでトークンを綱引きするAPが高いほど綱引きで有利
デッキパワーはニクソンが平均2.0の出力なのに対し、ワシントンポストは2.5
ニクソンを触ったらわかるが、このたった0.5の差に一生振り回される
正面からやり合うとAPの差で押し切られる
ので、カードの特殊効果を利用して戦わないといけない


とはいえニクソンでも十分勝利は狙える、2陣営の強弱バランスは良い

実感としては6:4くらいでワシントンポストが微有利って感じ
正々堂々と真相に切り込み、パワーで権力者を追い詰めるワシントンポスト
vs
工夫や小細工を弄して逃げ切りを狙うニクソン陣営

特殊処理をほとんど入れずに両デッキのキャラがめちゃくちゃ立っており、どちらでプレイしても史実に沿った感情が追体験できる


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②証拠は裏切らない

証拠トークンはオモテウラがあり、ワシントンポストが取るとオモテ向きで置けて、つながってる判定になる
反対にニクソンが取った証拠はウラの黒い方で置くことができ、ルートを切るなど邪魔できる
一度オモテ向きで置かれてしまうと、ニクソンには手出しできない
露見した秘密は隠せない、テーマと合致している


反対にウラ向きの証拠をオモテ返す手段は、一応ワシントンポストに用意されてはいる
が、勢力トークンを4-5個かき集める必要があり、とてもコスパが悪い
あまり現実的ではない

もみ消された証拠にこだわるのでなく、別な線から捜査を進めていく感じであり、これもテーマに合っている

③裏切る重要参考人

証拠トークンだけでなく、7人の参考人トークンのうち最低2人もメインボードに持ってこないとワシントンポストは勝てない
証拠をニクソンが取るとウラ置きできたように、参考人もニクソンが手数を割くとウラ置きできる
ウラ置きされた証拠をオモテ返すのはほぼ無理だったが、参考人はワシントンポスト側がディープスロートのイベントカードで簡単にオモテ返せる
オモテ返す=ニクソンを告発し、真の証言をする
であり、やはり一度オモテ返った証人を裏返す術はない
この実装もテーマに沿っており、美しい


④事件の時系列に沿って生じるイベント

本作は20枚の固定デッキを使うゲームだが、イベントとしてカードを使うとデッキから除外できるため、デッキ圧縮的な要素がある
カードには1-4アクションポイントが付与されているため、
3,4APのイベントはできれば次のサイクルでも使いたいから、イベントで切ったりせず温存しよう
反対に1,2APしかない低出力カードは、よっぽと強いイベントじゃないかぎり、最初のサイクルのうちにイベントとして使って除外しときたい
デッキの純度を上げよう」

と考える
スキャンダルの初期に生じたイベントは、1-2APのなかでも効果が弱めに設定されている
そのため、史実でも序盤に起こった出来事が、ゲームでも序盤のイベントとして登場する

デッキをI時代、II時代と分ける安易な実装と比べると、比較にならないくらい美しい

筆者の見た範囲だと他の作例を知らない


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第3級の強盗
ニクソンデッキ内で最も弱い効果であり、たいていすぐ消化される
史実だとニクソン陣営の最初期の失言であり、フレーバーに合った美しい効果と言える

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ジョン・ディーン(ニクソンの法律顧問)
参考人カードは3-4APだが彼だけ2APなため、他のカードよりも早期に登場しやすい
史実でも誰よりも先に重要証言を行ったキー人物



⑤しっぽ切りのツケ

参考人カードをデッキから除外すると、ニクソンは参考人トークンをウラ向きに盤面に出せる
テーマ的にはトカゲのしっぽ切りだ
さっきも記したがディープスロートで対応されるため、時間稼ぎにしかならないのだが
参考人カードは3-4APと強めに設定されているため、軽々に切ると終盤のデッキの出力が弱まってしまう
「あの秘書をあそこでしっぽ切りしたせいで雑用が片付かず、クビが回らなくなる」
的な状況が想像でき、楽しい


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(4)総評:トワイライト・ストラグルのユーロ化、あるいは政治フレーバー付きのMtG


本作、ルールだけ読むと限りなくトワイライト・ストラグル(2005)っぽいのだが
実際プレイするとまったくトワスト感はなく、MtGやTCGにより近い

この違いはカードの挙動から来ていると思われる
トワイライトストラグルでは米ソのイベントカードがごちゃ混ぜに入った共通デッキを用いる
相手陣営のカードはAPとして使えるのだが、その際相手を有利にするイベントが発生してしまう

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Twilight Struggle(2005)

ゲームバランスを取るためには必要な良デザインだが、体験だけ抽出すると、自分の行動が相手を利しており、大きなしんどさがある
自分のカードが相手にアドを与えてしまうことほど、カードゲーマーが本能的に嫌うものはない
この仕様が重苦しさを生んでしまっている


このあたりの鈍重なプレイ感から、トワストはどうしてもリプレイが遠のきがちだったが
ウォーターゲートは対照的に、口当たりが軽く爽やかだ
すべてのカードはプレイヤーのアドになるように設計されている
個別デッキを持つため、それで問題が生じない
とても自然で、爽快感がある
また前述のとおり、バカ強いパワーカードや、それを打ち消すインスタント呪文もあるため、TCG的な切った張ったが楽しみの中心にある


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全カード覚えるまで遊び倒し、メカニクスごとに分解してもまだ底が見通せず、とても高く評価している

少しでも引っかかるものがあり、かつ繰り返し遊ぶお相手に恵まれているなら、プレイする価値は十二分にあると思われる

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