グルームヘイヴン/Gloomhavenの作者、アイザック・チルドレスへのインタビュー和訳


(A)基本情報
(B)インタビュー

(0)制作以前
 ①プエルトリコとアグリコラ
 ②ドラクエIIIとD&D
 ③デザインを始めたきっかけ

(1)フォージ・ウォー(2015)
 ④大学院に飽きて
 ⑤トラヤヌスとツォルキン

(2)グルームヘイヴン(2017)
 ⑥フルタイムの専業へ
 ⑦はじめは小さく
 ⑧D&Dとユーロの融合
 ⑨飽きを遠ざける引退システム
 ⑩9kgの物量
 ⑪30人のテスター
 ⑫生産本数
 ⑬大反響を目にして
 ⑭お気に入りのクラス
 ⑮ロード・オブ・ザ・リング的なシナリオ?
 ⑯シナリオライターのマルセル
 ⑰デジタル版への関与

(3)ゲームデザイン全般
 ⑱好みはユーロ?アメリカン? 
 ⑲テラミスティカ/ガイアプロジェクト
 ⑳フラーダ・フヴァチル
 ㉑インペリアルセトラーズとロビンソン・クルーソー
 ㉒これまでに目にした最もクールなクラファンプロジェクトは?
 ㉓キックスタータ―を成功させるには?

(4)ファウンダーズ・オブ・グルームヘイヴン(2018)
 ㉔息抜きもかねた1作
 ㉕正統派ユーロ
 ㉖構想では基本版とクロスオーバーさせるはずだった
 ㉗Gloomhaven世界を選んだ理由
 ㉘ワーカープレイスメントの多用?
 ㉙今後の展望

(5)フロストヘイヴン(2022)
 ㉚新要素
 ㉛ストレッチゴールを設けない理由
 ㉜なぜキックスターターを?
 ㉝夏と冬

(6)獅子のあぎと/Jaws of the lion(2020)
 ㉞スターターセット
 ㉟基本版との違い

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Gloomhaven(2017)
Designer Isaac Childres
Artist Alexandr Elichev, Josh T. McDowell, Alvaro Nebot
Publisher Cephalofair Games + 11 more

(A)基本情報
人数:1-4人、ベスト3人
時間:60-120分 
複雑性:3.87 (参考値:ブラス:ランカシャー=3.86,テラミスティカ=3.96)
ランク: 1位 (2021/9/17)
要素:ダンジョン探索、TRPG、カードドリブン、ならずもの、傭兵、クエスト
言語依存:とてもとても強い
流通:日本語版がある
デジタル:
日本語版実機の10%程度の価格、Steam、原語のみ、リリース後2年経ってなおアーリーアクセス版、マルチ対応なし
タイトル:
GloomhavenはGloom(暗い、陰気な、暗黒の)+haven(港、停泊所)の造語
日本語版では逢魔ヶ港と訳されている

デザイナー:
アイザック・チルドレスはカリフォルニア出身の男性、2021年現在39歳ごろ
オクラホマ大で物理学とジャーナリズムを専攻
その後、パデュー大学で物理学の修士+博士号を取得
パデュー大のあるインディアナ州ラファイエット市に在住


代表作:
Forge War(2015)
Gloomhaven(2017)
Founders of Gloomhaven(2018)
Gloomhaven: Jaws of the Lion (2020)

Frosthaven(2022) 

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Frosthaven(2022)

パブリッシャー:
セファロフェア・ゲームズはアイザックの個人出版社
社名の由来はアイザックが首無し男(セファロフォア/Cephalophore)をセファロフェア/Cephalofairと聞き間違えたのを面白がったから


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馬に乗った首無し男



(B)インタビュー

以下記事群をもとに再構成した
https://planszowkiwedwoje.pl/2018/05/interview-with-gloomhaven-designer/(ポーランドのボードゲームポータルサイトでのインタビュー)

https://cardboardclash.wordpress.com/2018/07/03/interview-with-isaac-childres-designer-of-gloomhaven/(アイザックへの10の質問)
https://www.backerkit.com/blog/gloomhaven-isaac-childres(バッカーキットによるインタビュー)

https://www.thefandomentals.com/its-been-pretty-crazy-isaac-childres-on-gloomhaven-and-the-challenges-of-tabletop-success/(アイザック・チルドレスとグルームヘイヴンーテーブルゲームでの大成功を目論んだ、かなりクレイジーな挑戦)
https://boardgamegeek.com/thread/2385784/summary-gaming-rules-interview-isaac-childres(フロストヘイヴンについてのインタビューの口述要約)
https://www.tabletopgaming.co.uk/features/jaws-of-victory-talking-jaws-of-the-lion-with-isaac-childres/(アイザック・チルドレスに問う''獅子のあぎと''の魅力)
https://boardgamegeek.com/blogpost/105732/designer-diary-gloomhaven-jaws-lion-or-throwing-ou(デザイナーズダイアリー:ジョーズ・オブ・ザライオン)

※意訳・改変行っている



(0)制作以前
①ボードゲームを始めたころは、どのようなゲームをプレイしていましたか?

たいていの人と同じようにカタン(1995)から入ったよ。
でも、真剣にハマるようになったのはプエルトリコ(2002)アグリコラ(2005)に出会ってからだ。
ダイスに頼らないユーロライクなエンジンビルドの魅力に心を奪われた。
今でも最高に好きだよ。

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Puerto Rico(2002)

②ボードゲーム以外の趣味はありますか?

Gloomhavenの世界観にも表れているけど、ファンタジー全般は昔から好きだった。
あらゆる種類のファンタジーに囲まれて育った。
剣と魔法が出てくるものならなんでも貪るように触れていた。

ファイナル・ファンタジー(1987)

ドラゴンクエストIII(1988)
とても強く影響を受けていて、GloomhavenにはドラクエIIIに関連したアイテムも本作にたくさん登場している。

ディアブロ(1996)。
※ディアブロ
ウィザードリィ様のローグライクゲーム。オンラインプレイが当時反響を生んだ。

そして何よりDungeons&Dragons(1977)だ。
高校生のころから今まで、20年以上DM(ダンジョンマスター)をやっている。

※DM
TRPGのGM(ゲームマスター)


映画はWillow(1988)Labyrinth(1986)
小説だとロード・オブ・ザ・リング(1954)

Gloomhavenの制作プロセスでは、Descent(2005)Mice and Mystics(2012)の影響も受けている。
こうしたダンジョン探索モノ(ダンジョンクローラー)に魅了されているんだ。

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Mice and Mystics(2012)

③なぜゲームデザインを始めましたか?
子供の頃から?それとも人生の後半から?
後年からだね。
さっき言ったように、アグリコラ以降の現代ユーロに触れて、趣味に没頭すればするほど、自分の頭の中がアイデアでいっぱいになってきた。
で、それを追求して形にしようと思ったんだ。


(1)フォージ・ウォー

④ForgeWar(2015)があなたのデビュー作です。
どういういきさつで作りましたか?

僕は29-33歳ごろに大学院に通っていて、フォージ・ウォーを出した2015年はちょうど卒業のころだった。
物理学の院だったんだけど、研究にはもう飽き飽きしていて、卒業したら物理以外の仕事をしたかった。
だから自分の会社を立ち上げて、フォージ・ウォーをキックスターターで出したんだ。
プロジェクトは結果的には1100万円を集め、成功した。

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⑤作品の紹介を願えますか?
また、どういった作品から影響を受けていますか?


Forge War(鍛冶屋の戦争)は経済的なユーロゲームだ。
プレイヤーは鍛冶屋で、リソースを集めて、組み合わせて武器をクラフトする。
クラフトした武器を冒険者に渡してクエストに出かけてもらう。
ゲームサイズはフルゲーム(エピックゲーム)だと6時間、ショートルールだと2時間だ。

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メカニズム的には、特にシュテファン・フェルトのトラヤヌス(2011)に強く影響を受けている。

トラヤヌスはマンカラのゲームだ。
マンカラは資源コマを特定のルールに従って移動させる空間的なパズルで、僕はそれがとても好きだった。
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Trajan(2011)

フォージ・ウォーではそれをもっと活用するべく、メインマップでマンカラに似た挙動を実装した。

さらに挙げるなら、ツォルキン(2012)の要素も色濃い。
長期的なプランニングをさせるために、得られる報酬を遅延させているんだ。
ツォルキンは時間差のあるワカプレで、最初に仕込んだワーカーをラウンドをかけて寝かせるほど良い報酬が手に入る。
本作ではクエストカードの実装が明らかにこの影響を受けている。
条件を達成するためには常にクエストを進めて、クエストカードにリソースを湧かせる必要があるんだ。

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Tzolk'in: The Mayan Calendar (2012)


(2)グルームヘイヴン
⑥今度は最大のヒット作のGloomhavenです。
Forge Warとはまた違った大プロジェクトですが、どのように作り始めましたか?

大学院を卒業し、フォージ・ウォーは成功と言えるくらいの数字を稼げた。
専業でやっていけなくはなさそうだと判断した。
当時すでに結婚していて、子はなく、妻も専業で働いていた。
「ちょっとフルタイムの専業でやってみよう。
子どももいないし、やるなら今がいちばん良い機会だろう。
とりあえず1年やってみよう。
今度のテーマは、自分が好きなダンジョン探索モノにしよう。
それでもし芽が出ないなら、そのときは物理関係でもなんでも、別な仕事を探せばいいだろう」

こんな軽い気持ちだった。

余談だけど、フォージとGloomhavenのあいだに、ほんとはもう1個作っていた。
Gloomhavenの方が明らかに面白かったので、もう1個は捨てることにした。
2015年から2年かけて作って、2017年にGloomhavenを出版した。


⑦具体的なプロセスを教えていただけますか?

まず素地として、D&Dを20年以上、途方もない回数たくさんプレイしていた。
D&DのキャンペーンのDMってすごく大変で、絶えず1つのキャンペーンでしか使わない設定やストーリーを作り込まないとならないんだ。
そういう習慣を持っていたからこそ、ダンジョン探索モノのゲームを自分のために作るのはそこまで難しいことでもなかった。
たぶん自分の中にあるニーズと職能に合致していたんだ。

どんなものにも言える鉄則だが、はじめは最小から始めた。
1つのダンジョン、1つのシナリオ、4人のキャラクターだ。

制作と並行してキャンペーンモノの先行作品をあらかた調べたが、どれも10回前後のプレイで終わってしまう。
また、シナリオが分岐したりせず、直線的だ。
直線的で短いというのはあまり良くない。
1つの確固たる世界を探検するような、そういう壮大な体験をさせたいと思っていた。

最初は最小から始めて、ある程度かたちになったら、徐々に肉付けしていった。
アイデアを出しては追加していった。
また、飽きさせないために新キャラを追加し、新キャラを使ってもらうために引退制度も導入した。

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⑧影響を受けたD&Dと本作にはどのような違いがありますか?


D&Dのセッションは、とても面白いんだけど、やや単調な側面もあった。
やっていることを極限まで簡素化したら、モンスターに接近して、ダイスで能力判定を行うだけだ。
ダンジョン探索のテーマは面白いわけだから、そのテーマは残しながら、ユーロ的な要素と融合させたかった。
ユーロにおける、プレイヤーは豊富な選択肢を持ちながら、計画を立て、状況の変化に合わて決断していく。
ダイスをただ振るだけでなく、そういうプランニングや選択が面白いゲームを作りたかったんだ。

また、手間の削減にもなる。
本作をD&Dにたとえると、僕があなたたちのグループのDM役を担う。
8-10時間もかけてシナリオを作り込み、1週間丸々犠牲にする哀れな役を誰かが買って出る必要はもうなくなるんだ。
遊び手にとって時間と手間の節約になる。
もちろんオリジナルシナリオを作りたいなら、本作でそれをやってもOKだ。

余談になるが、D&Dのグループはたびたび分裂する。
少なくないDM(ゲームマスター)は燃え尽きてしまうんだ。
DMが支払う手間は、お金をもらっていないパートタイムの仕事のようなものだ。
4人が1回しか体験できない何かのために、これだけの作業をするのはどうしたって負荷がかかる。



⑨Gloomhavenでは引退のメカニズムを採用しています。
キャラクターを無限に成長させることはできず、一定の条件を満たすと引退します。
引退システムはどういう意図で作りましたか?


第一に
飽きを予防するためだ。
Gloomhavenは300シナリオ以上の本当に長いゲームだ。
もし同じことをさせ続けたら間違いなく飽きる。
また、せっかくいろんなキャラを作ったんだから、積極的に使用キャラを切り替えてほしい
こちらから何かきっかけを与えないと、プレイヤーという生き物は自分が育てた強キャラを手放したがらないものだ。
引退システムとは、プレイヤーに新しい挑戦をさせるメカニズムなんだ。



⑩ゲームサイズが大きすぎると考えたことはありますか?
いくつかのアイデアをカットしなければならない場面など?

どちらもなかった。
1作目のフォージが120分超級で、物量も3kgと、しっかり重いサイズだった。
制作において致命的な問題は生じなかったから、もっとサイズアップすることに抵抗はなかった。
ただ、最終的にここまで大きくなるとは思っていなかった。
重量は9kg(日本語版)あるんだけど、当初は半分くらいの体積と重さに収まると考えていた。

特にカットしたものはないよ。
アイディアがいくつかあって、「まあこれは入れないでおこうか」ってボツにしたものはあるけど、最初に入れたもので途中から抜いたことはない。

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⑪テスターは何人くらいいますか?
また、彼らの意見はプロジェクトにどのような影響を与えたのでしょうか?

ルールブックの巻末の謝辞では約30人の主要なテスターの方々に触れている。
彼らはそれぞれ自分のグループを持っていた。
テスターの意見はプロジェクトに一定反映されている。
特にバランス調整に大きく貢献しており、ぶっ壊れコンボを報告してもらうたび修正を繰り返した。
ただ、
彼らの意見のどこを取り入れてどういう方向にもっていくかを最終的に判断したのは僕だ。

⑫何個生産しましたか?

2020/4現在で20万本以上生産・販売している。



⑬Gloomhavenのキックスターターでは、1回目が約4000万円、2回目は4億円以上の金額が集まりました。
この2年間で何が変わりましたか?
大きな反響について驚きがありますか?

1回目のKickstarterは、フォージを知っているオーディエンスに向けて、比較的無名の状態で行われた。
しかし、初版が発売される頃には、ユーザーやレビュアーに高く評価されていた。
2回目のキックスターター開始時にBGGではほぼトップ10入りし、ゲームの認知度は明らかに10倍以上になっていた。
ストレッチゴールを用意しなかったから、2回目のKickstarterはここまで大成功するとは想定していなかった。

プロダクトとして間違いなく最高の出来だと確信はしていたが、最終的にBGGで1位が獲れたのは僕の予想をはるかに超えていた。
販売数もただただ想像を超えている。
何よりオーディエンスやファンのみんなが本作について興奮しており、それが僕の心を揺さぶったよ。


⑭どのクラスが好きですか?デザインしていて一番楽しかったのはどれですか?

作っていて一番楽しかったのはたぶんクラグハートかな。
怒りに燃える岩石のクリーチャーというテーマに沿った能力を考えるのがとても楽しかった。

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Cragheart
機動力もあるタンク(盾役)
クセが強く扱いづらいデッキを持つが、高いステータスとなんでもこなせる器用さが魅力


⑮あるシナリオはロード・オブ・ザ・リングを思い出させました。
火山や山があり、そこに何かを投げ入れる。
影響されていますか?


それは僕じゃなくて、Kickstarterの支援者の一人がデザインしたやつだね。
彼がロード・オブ・ザ・リングに影響を受けている可能性はあるよ。


⑯拡張パック「Forgotten Circles」はマルセル・チェルテツチカ(Marcel Cwertetschka)が担当しています。
マルセルは基本ゲームのシナリオライターとしてもおなじみです。
今後も拡張を共同で出す可能性はありますか?
また、誰かが拡張のアイデアをあなたに連絡することはできますか?

マルセルと僕はユニークな関係にあるんだ。
ちょっと彼の話をしようか。
彼はGloomhavenの前からずっと僕の仕事を手伝ってくれている。
知り合ったきっかけはForge War(2015)の第2刷のルールを明確化するためにマルセルが連絡をくれたんだ。
そこからの付き合いなんだよ。
彼はとても知的で、Gloomhavenにおいても多くの素晴らしいコンテンツを提供してくれた。
今回は彼のアイディアで拡張を出すけれど、それは例外的だ。
彼を信頼しているからやるわけで、他の誰かに拡張のアイデアを連絡されても困るし、基本的に採用できない。
本当は自前でやりたいんだけど、時間が足りないところに、今回はマルセルが良いものを持ってきてくれた。そこで試すことになったんだ。

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Gloomhaven: Forgotten Circles (2019)


⑰Gloomhavenのデジタル版にはどのように関わっていますか?

Asmodee社が開発していて、僕は監修みたいな立場だ。
彼らとの関係は良好で、最初期は1-2週に1回ミーティングし、
・企画全体の構成
・どのような伝承を実装すべきか
・プレイヤーに何を見せて、どういう体験をさせるか

というディレクションの部分に関わっていた。
実務的な部分にはほぼノータッチって感じだね。
彼らがノリノリになってからはほぼ僕の手を離れている。

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(3)ゲームデザイン全般
⑱ユーロゲームとアメリカンゲーム、どちらのジャンルが好きですか?

ユーロだ。

⑲今好きなボードゲームは何ですか?

テラ・ミスティカ(2012)、ガイア・プロジェクト(2017)だ。

⑳好きなゲームデザイナーとその理由は?

Vlaada Chvatil
彼はコードネーム(2015)からスルー・ジ・エイジズ(2006)まで作れる。
本当に多様なカタログを持っている。
作風の幅が広いだけなら余人も真似できるかもしれないが、さらにどれも面白いと来ている。
文句なしの天才だよ。


㉑ポーランドのゲームをプレイしたことがありますか?
(ポーランドのインタビュアーより)

Imperial Settlers(2014)は面白かったし、Robinson Crusoe(2012)の革新的なストーリー構造はとても尊敬している。
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Robinson Crusoe: Adventures on the Cursed Island (2012)

㉒これまでに見た最もクールなクラウドファンディング・プロジェクトは何だと思いますか?
Roxley GamesのBrass:Birmingham(2018)のKickstarterだね。
キックスタータ―のお手本と言える、マスタークラスだ。
その点では、白ブラスを手掛けたGavan Brownはこの業界で一番だと思う。
彼のプロジェクトはいつも完璧な美しさで、プロジェクト期間中、支援者を惹きつけてやまない。

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Kickstarterページより

㉓クラウドファンディングを始めたばかりのクリエイターに、いくつかアドバイスをいただけますか?
2つある。
まず、Jamey Stegmaier氏のKickstarter Lessonsブログを隅から隅まで読むこと。
役に立つアドバイスが溢れているから。
2つ目はもっと具体的なアドバイスで、まず自分のページに人を呼び込んで、来てくれた人を説得して支援してもらうこと。
呼び込みと説得の両方ができて初めてプロジェクトは成功する。




(4)ファウンダーズ・オブ・グルームヘイヴン
㉔なぜ作りましたか?

僕は元々ユーロゲームのファンで、休憩がてらユーロ寄りの作品も作りたかったからだ。
Gloomhavenの続編ももちろん楽しいけど、そればっかりやっていても僕が飽きてしまうからね。

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㉕ゲームの詳細を詳しく教えていただけますか?

タイトル(グルームヘイヴンの創設者たち)にある通り、Gloomhavenの前日譚だ。
プレイヤーは協力/敵対しながら、Gloomhaven世界の都市・物流網を構築していく。
リソースマネジメントの要素が強い王道のユーロゲームだ。
また、プレイヤー同士のインタラクションも強めだよ。

㉖ファウンダーズと基本ゲームでつながりはありますか?

最終的にはなくしたけど、企画段階ではつながりを持たせていた。
ファウンダーズを数回プレイすると、勝利種族に応じて、Gloomhavenに影響を与えるイベントカードを追加できる、というものだった。

ただ、結局ボツにした。
というのも、ユーロゲーマーダンジョン探索TRPGが好きなユーザーの層は別なんじゃないかな、と思ったからだ。
両作品はかなり作りが異なるから、「片方を気に入っても、もう片方はイマイチ」となる可能性は多分にある。

㉗最初からGloomhavenの世界を舞台にするつもりだったのですか?

いちばん初めはノンテーマで、「1つのメインマップ上に建物を建てていく空間パズル」としか頭になかった。
どの都市を題材にするか決めるときに、街づくりならパリやロンドンではなくて、Gloomhavenの街を使ったらいいじゃないか、と考えたんだ。

㉘ファウンダーズでもフォージ・ウォーでも、ワーカープレイスメントを用いています。
ワカプレは好きですか?
ワーカープレイスメントはアクション選択の方法の1つにすぎない。
ファウンダーズは典型的なワカプレではない。
建設をやると、普通は基本アクションしかできないところで、追加のボーナスアクションができるようになる、というだけだ。

・できるアクションに限りがある
・手持ちリソースも少ない
・先手番のワーカーにジャマされても、別なプランニングができる

こういう設計だと、ワーカープレイスメントは最も有効に機能する。
具体的に記すならアグリコラだ。
アグリコラ以上に機能的な作品はないと思う。
ファウンダーズのアクションスペースは典型的なワカプレと比べると十二分にあり、広々している。
建物への資源運び込みボーナスが多様であった方が良いので、選択肢を豊富に用意している。


㉙今後もGloomhaven世界を利用したユーロゲームのシリーズ化を期待できますか?


ありがたいことに、ファウンダーズは5500万円の資金を集めて成功した。
今後も、ファウンダーズ以外の作品で、グルームヘイヴン・ユニヴァースを広げられると思うよ。


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(5)フロストヘイヴン

㉚どういった作品ですか?
Gloomhavenの続編だ。
キャラの引継ぎはなく、レベル1からの再スタートになる。
戦利品やお金の共有システムもだいたい同じだ。
各プレイヤーが拾ったお金はその人のもので、共有できない。
新要素に、木材などの資源がある。
木材はちょっと挙動が異なって、半共有する。
たとえば、プレイヤーがあるシナリオで3木材を略取する。
2本をアイテムクラフトのために手元に残し、残り1本をパーティプールに渡す、という動きになる。

㉛ストレッチゴールを設けない理由は何ですか?
1万本以上売れる公算が大きいからだ。
生産数が少量の場合はストレッチゴールは効果的に機能するが、本作はそうでないから、最初から全部入れている。

㉜なぜキックスターターを選択しましたか?
1万は超えそうだが、どれくらい印刷すればいいかわからないからだ。
2万本か、それとも10万本行けるのか?
また、キックスターターはファンコミュニティを活性化させる作用も持っている。
ストレッチゴールはないけれど、「こういうサイドシナリオやイベントを入れてほしい」といったユーザーの要望が聞ける、それは大きなメリットだよ。


㉝新しいメカニズムはありますか?
ゲーム全体に夏と冬がある。
15シナリオごとに季節が変わって、イベントデッキの組成を変える。
冬の方が過酷で、ロードイベントのペナルティが増える。
また、冬は資源を燃やして暖を取る必要も出てくる。


(6)獅子のあぎと/Jaws of the lion


㉞どのような作品ですか?

スターターセットだ。
・Gloomhavenのことを聞いたことがあり、どんなものか興味がある
・巨大な箱、大きな値段、膨大なルールブック、長いセットアップ時間を見て敬遠している

っていうユーザー向けの作品だ。

ゲーム性は同じだが、新規プレイヤーが楽しめないであろう要素をできるかぎりそぎ落とした。

プレイヤーは獅子のあぎと(ジョーズ・オブ・ザ・ライオン)という栄誉ある傭兵集団に所属する腕利きの傭兵だ。
街で起こる不可解な連続失踪事件を解決するために調査に乗り出す。




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Gloomhaven: Jaws of the Lion (2020)



㉟具体的な制作プロセスはどのようなものでしたか?

Gloomhavenは大ヒットできたが、やはりハードコアゲーマー向けだった。
もっとメインストリームの層に手に取ってもらえるヴァージョンを作ってみたかった。
また、「もしそういうものが作れるとすれば、それはどういう形式になるか」という知的好奇心もあった。

いちばん最初はマップをなくして、シンプルなカードゲームに落とし込んだ。
テストしたが、これはかなりイマイチだった。

そのプロセスで気づいたんだ。
僕はGloomhavenはさまざまなコンベンションで、数えきれない回数、いろんな属性のグループにデモしてきた。
きちんと説明さえすれば、ほぼどんな状況でも、必ずルールを明白に理解してもらえた。

2枚カードを選ぶ。
イニシアチブ値に応じてやがて自分の手番が来る。
カードの上下のアクションを選んで実行する。

この構造はとてもシンプルで強固だ。
ここは変えなくていいと判断した。
だから、その周りにある、新規層が喜ばない要素を取り除くことにした。

改善可能な問題点を列挙した。

- が大きすぎる
- 値段が高い
- コンポーネントが多く整理しづらい
- 直感的でない一部のルール
- 最初のシナリオが難しすぎる
- セットアップに時間がかかる

これら全部を解決し、面白さはそのままに、だ。
これは簡単ではなかった。
まず最優先したのはコンテンツの量を減らすことだった。
量を減らせば箱も小さくなり、値段も下がるからね。
キャラクターは4人にまで減らし、引退システムも廃止した。
引退は飽き予防のために実装したんだけど、本作では1つのキャラクター・クラスを使い続けても、飽きが来ないくらいのシナリオ数で完結するようにする。


抜本的にコンポーネントを減らすきっかけになったのは、以下の思いつきだった。
シナリオブックの指示で厚紙のマップタイルを組み合わせるやり方ではなく、本をマップタイルにしてしまったらいいのでは?

これによってコンポーネント量は飛躍的に減らせたし、セットアップの時間も短縮できた。



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キャンペーン要素のほとんどを削った。
引退、繁栄や評判、寺院への寄付、ロード・イベントも全部省いた。


シナリオは最終的に25本、メインシナリオは17本で途中2ルートに分岐する。
箱のサイズは9kgから2.9kgにまで減らせた。

もっとシンプルにしたかったが、本作もけっこう複雑になってしまった。
でも出来には大満足しているし、プレイヤーにも喜んでもらえると確信しているよ。






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