2021年07月

アンク:エジプトの神々/Ankh: Gods of Egyptはライジングサン(2018)を手掛けたエリック・ラングによる2021年新作

前作ライジングサンは極めて優れたバカゲー・パーティゲーだが、アンクはよりライトに、手軽に、ワイワイ遊べるようにチューンナップされている



(1)基本情報
(2)ダイアリー
 ①神話3部作
 ②ケメトとのバッティング
 ③ブラッドレイジとミッドガルド
 ④神話に育まれた幼少期
 ⑤子どもじみた神々
 ⑥忘れ去られる
 ⑦習合―神々の合体
 ⑧次作―第4の神話世界
(3)魅力
 ①シンプルな構造
②アクショントラックと決算
③戦闘=広く戦わせる工夫
④カード=簡略化されたニギリ競り
⑤先手番がやや有利
⑥1位が止まらない
(4)総評-協力要素はなぜ面白い?
 ①味変
 ②語りの発生
 ③限定感、思い出

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Ankh: Gods of Egypt (2021)
Designer Eric M. Lang
Artist Thierry Masson, Adrian Smith
Publisher CMON Global Limited + 2 more


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(1)基本情報
人数:2-5人、ベスト4人
時間:90分 
複雑性:2.97 (参考値:ブラッドレイジ=2.88、ライジングサン=3.28)
ランク: 4000位 (2021/7/6)
要素:陣取り、エジプト神話、フィギュア、怪獣ドッカンバトル、マルチ、ニギリ競り、集団自殺、パーティゲーム
言語依存:一定ある、非公開情報なく、対訳シートで対応可能
流通:現状日本での流通予定なし


デザイナー素描:
エリック・M・ラングは49歳のデザイナー
カナダのトロントを拠点に活動

代表作は以下

ミッドガルド(2007)
クォーリアーズ!(2011)
ブラッドレイジ(2015)
ライジングサン(2018)
ヴィクトリアン・マスターマインド(2019)

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Quarriors!(2011)

(2)ダイアリー


※元記事:https://www.dicebreaker.com/games/ankh-gods-of-egypt/feature/ankh-preview-interview-eric-lang
※意訳・改変行っている


①神話3部作
多神教の神話をモチーフにした3作のシリーズを作った。
その神話3部作のフィナーレをかざるのがアンクだ。

神話トリロジーは私にとって初めての3部構成の試みで、
・ブラッドレイジ(2015)=北欧神話
・ライジングサン(2018)=日本神道
・アンク(2021)=エジプト神話

からなる。
どれも多神教の神々をテーマにしている。
歴史的な正確さはちょっと無視して、多神教の神話の私自身の解釈を中心に置いている。
どの作品における神々もおおらかで、身勝手で、豪放で、ときに理不尽だ。
そしてなにより抗しがたい魅力にあふれている。

一神教的な、「神前において罪を告白し、許しを請う、絶対的権威」って感じでは全然ない。
一杯ビールをやらないかと誘えるくらい身近だ。
そういう気軽な距離感、親しみやすさがエジプトの神々の魅力だ。

②ケメトとのバッティング

ちょっと裏話をすると、本当はアンクは最後じゃなくて、第1作に持ってこようと思ってたんだ。
2013~2014年リリースの予定だった。
でも、2012年にケメトが出てしまったんだ。
ケメトも神代のエジプトが舞台だ。
当時出そうとしていたアンクの形と、ぶっちゃけかなりかぶっていた。
日を空けずおんなじようなゲームを出すのは相当良くない。
「とりあえず古代エジプトテーマは凍結だ。
まったく別なアイディアが出るまで手を付けずに寝かせよう」

と判断した。

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Kemet(2012)
ケメトは黒い大地の意、黒はナイルを象徴する良い色で、自国の尊称だった



③ブラッドレイジとミッドガルド
代わりにブラッドレイジ(2015)をリリースした。
ブラッドレイジは、昔に出したミッドガルド(2007)のリアレンジだ。
前作と同テーマである北欧神話を再解釈した。
プレイヤーがヴァイキングの一族を率いて、敵対勢力と戦う。
北欧神話の神々のためにクエストをこなす。
ヴァルハラ(死後の宮殿)で高位を得るのが目的だ。
死してなお勝利の栄冠に輝こうとする。

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Midgard(2007)


④神話で育った幼少期

ブラッドレイジ、作っててとにかく楽しかったんだ。
また、
「神話だったらもっと他にも好きなものがいくつかあったはずだ」

と思い出した。
僕はカナダのトロントに住んでいるんだけど、ドイツに祖母の家がある。
子どものことは、毎年夏休みに祖母の家で過ごしていたんだ。
祖母の家は図書館かってくらい蔵書がある。
特に民話や神話、民俗学モノの本は読み切れないくらいあった。
そこにずっと入り浸って、手当たり次第に読み漁っていた。
北欧神話、日本の神道、エジプト神話
様々な古代神話の大ファンになった。


⑤子どもじみた神々
どの神話も最高だが、私はエジプト神話が大好きだ。
なぜか?
神々は驚くほど強力でありながら、同時に弱さも抱えているからだ。
どの神も必ず人間的な弱点があり、他の神々と子どもじみたやり取りをしている。

厄災を司るセト神は、地上を治める兄オシリスに子どもじみた嫉妬する。
セトはオシリスを何度も殺そうとする。
オシリスもよせばいいのに毎回挑発に乗る。
で、八つ裂きにされて川に流されたり、箱に閉じ込めて捨てられたりする。
どんな目に遭ってもオシリスは基本死なない。
神が死ぬのは民に忘れられたときであって、肉体的には不死だからだ。
オシリスが殺されるたびに、妹であり妻でもあるイシスが魔法で復活させてくれる。

僕にとってはオシリスとセト兄弟の敵対関係は、スター・ウォーズのルークとアナキン父子みたいに映っているよ。

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顔色の悪いオシリス(左)、ジャッカル頭のセト(中央)、オシリスの息子のタカ頭のホルス(右)



⑥忘れ去られる

さっき言ったように、凍結する前はケメトに近いものを作っていた。
再度着手したときのプロトタイプは、ライジングサンにピラミッド建設の要素を追加したものだった。
それは面白くなかった。
どうせ作るなら、エジプトテーマでしかできない何かを盛り込みたかったんだ。
エジプト神話でいちばん面白い要素ってなんだろう?

それは忘却と衰退にあると結論づけた。
エジプトの神々への信仰は、徐々に失われていくんだ。

ちょっとだけ歴史の話をしよう。
今現在では、エジプトの人口の90%がイスラム教、10%がキリスト教を信仰している。
エジプトの民族的なピークタイムはギザのピラミッドが建てられた前2500年から、ラムセス2世による黄金時代の前1200年あたりまでだ。
そこから徐々に力を失い、衰退していく。
史実的には、
・アレキサンダー大王による支配(前332年)=エジプト人による自治の終り
・エジプト王朝最後の王、クレオパトラ7世の死(前31年)=王朝の消滅、ローマ帝国属州に
・ニケーアの公会議でキリスト教がローマ帝国の国教に(325年)=非キリスト教の迫害/抑圧


この間の5-600年が、多神教文化から一神教文化への過渡期だった。

その過程で神々は徐々に忘れられていったんだ。
こうした背景はエジプトならではだ。
この移行期をテーマにしたゲームを作ろうと考えた。

神々となったプレイヤーは、最も広く強く崇拝されるために、また何より忘れられないよう、民の心から消えてしまわないように奔走する。
宗教の価値が目減りしている現代だからこそ、このテーマは光ると考えているよ。


ゲーム構造の詳しい説明はここでは省くが、ライジングサンとおおまかには同じだ。
部隊を盤面に展開し、陣取りをやって勝利点を稼ぐ。
神々はそれぞれ固有の能力を持っており、それを基に戦力を立てることになる。

たとえばオシリスをたびたび復活させた妹のイシスは、防御的で手堅い神だ。
イシスの大ゴマに隣接するヘックス上の戦士コマは、戦闘で負けても失われない。
広い展開は苦手だが、堅く点が取れるキャラだ。

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イシス、頭からは椅子=玉座の象徴が生えている
左手には死者蘇生のマークみたいな♀型のカギ=アンクを持っている
本作品のタイトルでもあるアンクは生と死のカギとされる

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本作におけるイシスフィギュア
頭には椅子でなく太陽円盤をつけており、翼まで生えた
より後代のイシスがモチーフ


逆に、墓所を司るアヌビストリッキーで攻撃的だ。
相手の戦士コマを冥界に送るたびに、コマを奪ってアヌビスボード上にストックできる。
ストックした数分アヌビスの大ゴマの戦力がアップする。
アヌビスの能力を活かしたいなら、他プレイヤーの戦死に多く立ち会う必要があり、ある程度手広く戦線を広げないとならない。
なお、奪われた戦士コマは、戦闘後にアヌビスプレイヤーにお金を払えば取り戻せる。

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アヌビスは本作品のボックスアートでも用いられている
イシスにとっては旦那(オシリス)の浮気相手(ネフティス)との子にあたる

⑦習合―神々の合体
プレイヤーがアクションを実行するたびに、アクショントークンがトラックを進む。
4人戦だと、全員が同じアクションを5回打つとイベントが起こる。
イベントは災厄やナイルの氾濫、地域の分裂などいろいろある。
さっき触れた戦闘もこのイベントで発生する。

ゲームが70%くらい進むと、このイベントで神々の合体が起こる。
これも本作のかなり特徴的な要素だ。

3位と4位の神が合体するんだ。
・手持ち資金を合算
・両柱の特殊能力が使えるように
といったメリットと、
・勝利点トラックは4位のところまで下がる
・盤面に出ているコマは、3位のものだけ残してあとはゲームから除外する
・1手あたりの手数が2手→1手に減る(2人がそれぞれ動けるため手数の総数は不変)
といったデメリットもある。

ここから30分は3位と4位のあいだで協力ゲームが始まる。

神々の合体は、習合/syncretism(シンクレティズム)と呼ばれる。
エジプト神話だと、古くなりすぎて人々に忘れられかけた神が、新しくて役割の似た神にたびたび取り込まれる。
キャラのかぶった神同士をまとめてしまう感じだ。
たとえば太陽神ラーはいちばん古株なことも災いして、別の空タイプの神とまとめられることが多い。
大気の神アメンと習合してアメン・ラーに。
天空の神ホルスと習合してラー・ホルアクティに。

これのゲームデザイン的な意味合いだけど、1位が走りすぎるのを止める効果がある。
アンクは仁義のない陣取りで、タイミング良く序盤から加点して、盤面を強く取ったプレイヤーがそのまま逃げ切る展開が多い。
終盤の習合によって下位同士が合体して得点能力が少し高まる。
また、最下位のコマが盤上から全部消し飛ぶので、ある程度陣取りもリセットされる。
最後のどんでん返しがみられるかもしれない。


⑧第4の神話世界
神話3部作はいったん終わりだけど、多神教世界のゲームは作っていて楽しい。
創造性が触発されるし、情熱が維持される。
まだ取り上げていないギリシア神話の多神教世界もテーマにするかもしれない。
ただ、これまでの3作と違って、ギリシア神話には通り一遍の知識しかないから、まだ良いものになるかはわからない。

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(3)魅力

①シンプルな構造

アクションは4種、この手のゲームではかなりシンプルだ

・コマの移動
・戦士コマの召喚

・人口トークン(≒お金)の獲得
・アンクパワーの開放

の4つ
アンクパワーはよくある能力開放だ
得た人口トークンを消費して個人ボードをアンロックする。
全プレイヤー共通の12種の能力を持っており、アンクパワーを開け切っても6個までしか得られない
レベル1=リソース収入系
レベル2=ピラミッド/オベリスク/神殿とのコンボ能力
レベル3=追加得点

の3レベルに分かれていて、各レベル2個だけ取れる
担当した神の特殊能力との相性や、盤面の状況を見て取る能力を決めることになる



②アクショントラックと決算
アンク、ゲームデザイン的に美しいのは習合のメカニズムとアクショントラックの作りだ
さっき記した4種のアクションがミニボード上に並んでおり、誰かがアクションするたびにマーカーを右に進める

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アクショントラック,KSページから

マーカーがいちばん右に到達するたびにイベントが起こる

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イベントトラック
4マスごとに矢じりのアイコンの戦争マスに到達し、決算が起こる

アンクの作りが憎いのは、
・毎手2アクション
・アクションは上から下にしか打てない、同じもの2連続もダメ
・1アクション目でマーカーがいちばん右に動くと2アクション目は強制パス


アクションは、

移動
召喚
お金
能力開放

の順なのだが、移動と召喚、重要度の高いアクションを上に置くのが巧妙だ
「たぶんこれが次の戦争までにできる最後のアクションだ
最後のチャンスだし移動しときたい
が、今移動打つと1手しかアクションできない、それはもったいない
しかも自分が移動を打ってあげると、下家は移動+もう1アクションができるようになってしまう…」

こういう状況が多々生じる
爽快ではないが、新鮮で良い実装だ

ワカプレのような早取り、排斥のメカニズムはない
すべてのアクションが開かれている
が、間が悪いときにやりたいアクションを選ぶと手数が減ってしまう
しかも相対的に相手をラクさせてしまう

なお、ゲーム途中で脱落して3位と4位が合体すると、彼らは1手1アクション固定になる
煩わしいイベント回避の縛りから解放され、より柔軟で大胆な選択が可能になる


③戦闘-広く戦わせる
アンクに限らず、陣取りゲームではデザイナーの思惑プレイヤーの動きが矛盾しやすい
デザイナー側としては広く戦ってほしい
たくさんのエリアで複数人が取り合いをやってほしい
そういった華々しい展開を起こしたい

そうした思惑と真逆で、プレイヤー側は一般に、広く戦おうとはしてくれない
狭いエリアに固め置きして、確実にトップが取れるエリアを作ろうとする
損失回避バイアスは人間の脳に備わった不可避な機構なので、抗いようがない
ただ、全員が自エリアに引きこもってしまうと、ゲームは機能しなくなる

無策に金を配っても人民は貯蓄に走りがちだから、規制緩和なり何らかの動機づけになる施策もセットでやろう
みたいな、経済活性化にも通じそうだが

他作品では、戦闘を促進・活性化するために、多様な解決を図っている

チグリス・ユーフラテス(1997)の場合、得点の取らせ方で侵略を促進している
神殿があるエリアを支配していると、神殿のカラーに対応した勝利点チップが毎ラウンド湧いてくる
チップは4色あり、もっとも少ない色のチップ数がそのまま勝利点になる
特定のエリアを長くコントロールすることにあまりメリットがない
持っていないカラーのチップを求めて、必ず相手の神殿を奪いに仕掛けることになる
また自分の神殿も早晩奪われる
全てのプレイヤーは奪われる体験を喜ばないが、チグユーの殴られる体験は大して不快感が生じない
ある程度チップを集めてしまえば、もうそこに居座る意味がないからだ

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Tigris & Euphrates (1997)

ライジングサン(2018)もチグユーに似た解決法を採っている
ゲーム中3回戦争が起こるのだが、戦勝者はそのエリアの勝利点タイルがもらえる
タイル自体にも勝利点がついているが、ゲーム終了時にタイル種でセットコレクションを行う
このセッコレ点が大きい、50-60点のゲームで10点出し得る
プレイヤーらは1つのエリアを守りたい気持ちを捨て、移動の手数を割き、リスクを取って戦うエリアを変えることになる



前置きが長くなったが、アンクではまた別な解決がなされている
戦闘に参加するたびカードがプレイできる

コンコルディアみたいな感じで、全プレイヤーは7枚前後カードが配られている
自分が関与するエリアで戦闘が起こるたびにカードが出せる
カードには、Scythe(2016)の2-5パワーの戦力カードみたいに、0-3の追加戦力が描かれている
エリア内のコマ総数+追加戦力値の合計勝負で戦闘を解決する
これだけだとカードを出しても特に意味がないが
戦力が低いカードにはボーナス効果がついている

得点源であるピラミッドが建てられたり
人口トークンが追加でもらえたり
ライジングサンの切腹みたいに、自コマが死ぬかわりに追加得点がもらえたりする

コンコルディア同様、カードを回収するためのリセットカードもある
ルールだけ見てもわかりづらいが、戦闘がいざ始まると、このカードプレイの恩恵を痛切に実感することになる


④カード=簡略化されたニギリ競り

アンクのカード部分は、前作ライジングサンではお金によるニギリ競りだった
お金が持ち越しできないなど、できるだけシンプル化はされてはいたが
人数が増えると過度に複雑化してしまい、ゲームが止まってしまうリスクがあった

アンクのカードメカニズムはかなりわかりやすい
カードは7枚あるが、
・3戦力の最強カードを切って勝ちに行く
・オリてモニュメント建設などボーナスを取る
・次で強く動くためにカード回収

の実質3択だ

⑤先手番がやや有利
結論から記すと、最初の戦闘が生じるまでに、スタプレとその下家は4手番7-8アクション動けるが、残り2名は3手番6アクションしか動けない(場合が多い)

最初の戦闘は4回目のイベントで生じる
4人戦だと5手で1イベント=最速20手でトリガー
イベントを起こすと2アクション目がパスになるため、お見合いが生じ、4人戦だとだいたい25-6手かかる
ぴったり割り切れる24手を少し超えるため、プレイヤー間で手数に差が生じる

手番順での初期資源補正などもなく、後手が単に不利
そもそも厳密に競う類の作品ではないが、このあたりに理不尽感が生じる可能性がある

⑥1位が止まらない
トップに対して逆風が吹かない
電力会社のように資源買い付けで損させることもできない
ライジングサンのように同盟でハブって孤立させることもできない

(4)総評-協力要素はなぜ面白い?

エリック・ラングはホスピタリティ(もてなしの精神)に満ちたデザイナーだ
プレイヤー体験についてきっちり考え抜かれており、実装に無駄がない

前作ライジングサンでは、
陣取りでコマが殺されるの辛い死んだときに大きく加点させよう=切腹&辞世の句
お金を貯め込んで要所で使うやつが勝つのはつまらん→次ラウンドへの資源持ち越しの禁止

強い目的意識が見て取れる美しい実装だ

アンクの3位と4位の合体も合目的、理にかなっている
クラシックな90分4人戦の陣取りゲーム、インペリアルでもなんでもいいが
たいてい最初の30分で1人沈む
もう30分で1人沈む
残った2人で最後の30分争う

合体はこの3-4位のプレイ体験の不毛さをあっけないほど簡単に解決してくれる
合体のメリットを突き詰めて数字化すると、実際はあまり得していない
上位に堅実に打たれれば逆転できる見込みは大してない
が、プレイ感は格段に良くなる

何を良いと感じるのか最後に掘り下げて記事を終える

①味変

合体すると個人ボードや盤面が大きく動く
飽き始めた下位プレイヤーの目先を変えてくれる
味変を楽しんでもらうためにラーメン屋に置かれた山椒のような、そういう良さがある

②語りの発生
対戦系のゲーマーズゲームは、終盤会話量が減ることが多い
3位と4位が合体して協力ゲームが始まると、その静かな場が急に騒がしくなる

取り込まれた4位は、3位が盤面で何をしたいのか共有してもらう必要がある
3位は3位で、4位の特殊能力の使い方を教わらないとならない

ゴリゴリに奉行問題があり、片方のプレイヤーが全部操作することはできる
が、ゲーム終盤で初めて共闘する目新しさのせいか、たいてい和やかで良い協力関係が築かれる

③限定感、思い出

筆者は負けたゲームはすぐ忘れてしまうタイプだが、本作は負けても良い印象が残る
「僕たちのラー=セベク、良いところなしでしたね」

「セベクは強かったけど、私のラーの能力がマジで空気だったね、ごめん」

「でもラーにもらった人口トークンのおかげで、1位のアヌビスの野郎を1回ボコボコにできてせいせいしました」

みたいな、そういう会話がゲーム後にも生じるからだと思われる
グルヘイやイーオンズエンドなどの協力ゲームでも同じような楽しさはあるが、ゲームの成り行きでたまたま組むことになった、という特別感が会話をより促進する印象がある

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In the Hall of the Mountain Kingのデザイナーへのインタビュー

(1)基本情報
(2)インタビュー
 ①冷たくソロ的な外周/熱くインタラクティブなセンター
 ②カスケード・システム
 ③一段大きなピラミッド
 ④設計初期から変わらないもの
 ⑤組曲:山の魔王の宮殿にて
 ⑥設計初期からの手ごたえ
 ⑦Endeavor: Age of Sailに続く大ヒット
 ⑧カナダのデザイナーズギルド
 ⑨クワンチャイ・モリヤ

(3)考察 余った資源の行き先-クーパーアイランドとの類比
 ①小さな倉庫 ―
コンコルディア,狩猟の時代
 ②持ち越せない/蒸発 ―アマルフィ
 ③引き出すのが面倒な倉庫 ―グランドオーストリアホテル
 ④資源コマの多機能性 ―スルー・ジ・エイジズ
 ⑤加工して倉庫に移す ―ラ・グランハ
(4)総評

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In the Hall of the Mountain King (2019)
Designer Jay Cormier, Graeme Jahns
Artist Josh Cappel, Kwanchai Moriya
Publisher Burnt Island Games + 3 more

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(1)基本情報
人数:
2-5人、ベスト3-4人
時間:75-90分 
複雑性:2.77 (参考値:西フランク王国の建築家=2.77)
ランク: 600位 (2021/6/25)
要素:リソースマネジメント、ポリオミノパズル、ブロックス方式の陣取り、トロール、採掘、ペール・ギュント
言語依存:ほぼない
流通:リゴレより日本語版発売中

デザイナー素描:
ジェイ・コーミア/Jay Cormierグレイム・ヤーンズ/Graeme Jahns
2人ともカナダ人で、ともに2010年ごろから創作を開始している
写真を見る限り両人とも40代に見える
合作はマウンテンキングが初


ジェイ・コーミアの代表作
ベルフォート(2011)
アクロティリ(2014)
ジャンクアート(2016)


グレイム・ヤーンズの代表作
アルバ・ロンガ(2011)


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Belfort(2011)

(2)インタビュー

※元記事:
https://waytoomany.games/2019/02/02/interview-with-in-the-hall-of-the-mountain-king-designers/
意訳・改変行っている

①本作のおおまかな解説をお願いできますか?

Graeme:
プレイヤーは有力なトロールで、地下王国の再建を目論んでいる。
・トロールカードを雇用して資源を得る
・ルーンを支払ってフリーアクションの呪文を唱える
・古代の彫像を回収して、台座まで運ぶ
・掘り進めた坑道をつなげて大広間を建設する

これらをやる。
本作でもっともユニークなのはカスケード(滝)方式のリソース生産だ。
ペンギンパーティやオルビスのようなピラミッド形式にカードを置く。
上流にカードを置くと、下流にいるトロールカード全部が活性化し、再度資源をもたらしてくれる。
自動で化学反応が起こるように組んだ系みたいものだ。

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上にトロールカードを置くたびに、下流にいるトロールが活性化し、資源を生産する


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リン酸化反応のシグナル伝達カスケード
滝のように生じる連鎖反応を生化学でもカスケードと呼ぶ


Jay:
トロールのカスケードで得た資源は、メインマップの穴掘りに使う。
そこで行うのはテトロミノのパズルだ。
僕は昔からテトロミノ・パズルが好きで、ゲームに良いかたちで組み込めたことに大いに興奮している。
マップには冷たくソロ感の強い外周部分と、熱くインタラクティブなセンター部分とに分かれる。

外側を掘れば彫像を発掘できる。は強い得点行動には必ず彫像を使うので、掘り出しておいて損はない。
外側には種々の細かい資源も散らばっているから、それを集めるのも楽しい。
また、工房(ワークショップ)マスに掘りつなげると永続的なフリーアクション権を獲得できる。
トロールカード上の資源を倉庫に移せたり、資源間の変換を行えたりする。
工房はかなり便利だ。

ゲームが長引くほどリソース面で優位に立てるだろう。

センターエリアは高得点ゾーンだ。
外側で回収した彫像をセンターまで運び込むと得点が叩き出せる。
とても狭いので、多人数戦の場合は相手より早く内側に侵入する必要がある。

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4人戦の終了時盤面
ブロックスのように、4隅から開始した各プレイヤーの坑道がセンターエリアに伸びている


②カスケード・システムは聞いているだけで素晴らしいです。
もう少し掘り下げて説明いただけますか?


Graeme:
ゲーム開始時には4体のトロールカードを個人ボードの上側に置いている。
彼らがピラミッドの1段目だ。
新しいトロールは2段目に、1段目のあいだに置く。
このとき、置いたトロールと下の2体が起動し、資源が湧く。
3段目に置くと6体起動するし、4段目に置けば10体起動だ。
そして4段目がトリガーだ。
誰かが4段目にカードを置いて、ピラミッドが完成したらそれがエンド・トリガーだ。
全員があと2手番やってゲームが終わる。
時代が進むにつれ、リソースの生産速度も加速するので、とても楽しいよ。


Jay:
あとは、トロールカード上に乗っている資源を使ってしまわないと、新しくカードを置いたときの収入が得られない。
1手につき2-5資源を支払ってトンネルを掘るんだけど、資源を一気に支払う方が得点効率が良い。
使い切りをむやみに目指すと1手あたりの打点が下がってしまう。
かといって、余らせすぎるとそれはそれで効率が悪くなる。
とても悩ましいパズルが作れたと思うよ。

③6人目のトロールを置くのをトリガーとしたのはなぜですか?

Graeme:
最初、スタータートロールは4体じゃなくて5体だった。
ピラミッドが丸々1段分大きかったわけだ。
完成版は6枚でトリガーだけど、当時は10枚置けた。
ただ10枚は過剰だった。
だいたいカード7枚目くらいでメインマップが埋まり切る。
だから10枚中7枚目をトリガーにして調整した。
ピラミッドの完成がトリガーではないから、プレイヤーごとに置き方に差が出る。
けっこう良い実装じゃないかと思ったんだけど、テスターの受けはあまり良くなかった。
思ったより高く建てられず、エンジンを温まりきらないまま終わってしまうんだ。
最終的に、ピラミッドを一段小さくして、置き切りをトリガーにした。
選択の余地が減ってしまったが、ピラミッドを完成させられる達成感を重視した。


④プロトタイプからの変化で大きかったものは?


Graeme:
いちばん大きく変わったのは非対称のマップだ。
最初のデザインでは、全プレイヤーのスタート地点は対称だった。
それを非対称にしたんだ。
近くで得られる彫像のカラー、資源種を変えた。
スタート地点に合わせて戦略を考える必要がある。
もちろん全体的なゲームバランスには注意を払っている。


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プロトタイプのマップ(BGGより)



Jay:
工房や呪文の能力変更もしたが、いま一番力を入れているのは別のプレイモードの考案だ。

*別のプレイモード
Cursed Mountain(呪われた山)拡張のことだと思われる。
協力モードとソロモード
が追加された。


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In the Hall of the Mountain King: Cursed Mountain (2019)

 ⑤穴を掘るゲームはあまり多くないです。
作るきっかけは何でしたか?

Jay:
エドワード・グリーグの同名の曲だ。
グリーグのペール・ギュント組曲(1891)。
第4曲「山の魔王の宮殿にて」

2人でしばらく一緒にゲームを作っていたんだけど、まったくうまくいかなかった。
行き詰ったある日、グレイムが、
「In the Hall of the Mountain Kingってゲームがやりたい」

って突然言いだしたんだ。
僕は思わず吹き出してしまった。
だって、それは彼が昔からお気に入りの曲だったから。
僕がワクワクしたのは、
「その曲から得られる感情の再現がやりたい」

という彼の発言だった。
この曲はゆっくり始まって、だんだん盛り上がっていく。
そして最高のクライマックスで終わるんだ。



⑥デザインプロセスのどの段階で、すべてがうまくいったと思いますか?

Graeme:
リソースのカスケード穴掘りのポリオミノパズルが本作の基本骨格だ。
これらはテストのかなり早い段階から出そろっていて、テストもかなり楽しめるものになっていた。
初期段階からかなりの手ごたえを感じていた。
テスターからもほぼ常に好評だった。
辛口な人間からのフィードバックも、コアのメカニズムは必ず肯定的なコメントが得られた。
骨格が仕上がってからの細かい調整はなかなか大変だった。
できるだけシンプルになるように細かいルールを削る
ゲームサイズを短くする。
資源の拡大再生産がゲームスピードを超えてしまわないようになだらかにする。
そういう地道な作業の繰り返しだった。

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版元のBurnt Island Games*にとってはエンデヴァー:エイジオブセイルに続く2作目の大ヒット作となりました。同社との関係はどのようなものですか?

*バーント・アイランド・ゲームズ
焼けた島の意。
社名はフォイアーラント社(テラミスティカやオーディンの出版社、燃える土地の意)と似ているが無関係。

Graeme:
とても良好だ。
Burnt Island社は、最初にこのゲームを目にしたときからとても熱心に取り組んでくれた。

Jay:
 彼らはゲームに情熱を持っている。
だから僕も一緒に仕事をするのが好きだ。
ジョシュ・カッペルは腕利きのグラフィックデザイナーだ。
最初の代表作のエンデヴァーのアートも彼がやった。
マウンテンキングのアートワークをクワンチャイ・モリヤと共同で、またルールブックも彼が担当している。
どこに何を配置するのかを正確に把握している信頼できるベテランだ。
もう1人のヘライナがバーントの社長だ。
バーントと、キッズ・テーブル・ボードゲームズという会社、あわせて2社を経営している。
最近の度重なる成功で、彼女は本業をやめてこっちの仕事をフルタイムでやるようになった。

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Endeavor: Age of Sail(2018)

ジェイ・コーミアは元々Bamboozle兄弟というコンビで活動され、いくつか作品を出しています。
ジェイとグレイムはどのように出会いましたか?



Jay:
グレイムと僕は、カナダ全土に支部を持つGame Artisans of Canada(カナダのゲーム職人)に所属している。
ベルフォート(2011)が僕のデビュー作なんだけど、それを出したときに偶然このグループを見つけて加入させてもらったんだ。
そのころにはグレイムはすでにメンバーだった。
以来、僕たちはバンクーバー映画学校のビデオゲームデザインの授業を持っていて、交替で学生に教えている。

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Game Artisans of Canada

Graeme:
僕たちは長らくお互いのゲームをテストしたり、バランス調整を手伝う仲間だった。
だから共作するのは時間の問題だったと思う。
前からコラボレーションしたいと話し合ってきて、本作で初めて組んだ。
とても良い体験だったし、共同作は今後も出す可能性はあると思うよ。


アートワークは先ほどのジョシュ・カッペルとクワンチャイ・モリヤの合作です。
どのようなチームでしたか?


Graeme:
アートディレクションはジョシュだ。
僕たちはジョシュの作品群を何年も見ていて、とても好きだった。
だから全面的に任せた。
また、クワンチャイ・モリヤと契約してアート作業を行うと聞いたときは、とてもワクワクした。

Jay:
ボードゲームのルック&フィールにおいて、クワンチャイ・モリヤとジョシュ・カッペル以上の組み合わせはないと思うよ。

(3)考察 余った資源の行き先―クーパーアイランドとの類比
マウンテンキングでは使い切れない細かい資源が余る
どうしたて使い切れない資源がカード上に余るのだが、そうすると新しくカードを置いたときに資源が生産されない
これに対してプレイヤーはやや不快な感情を得る
デザイナーは不快感を解除する手段を与える必要がある
本作では、余った資源の吐き先として、
「余った資源はなんでも4個を好きな1個に変換できる」

いわゆる4:1変換のフリーアクション権を最初から与えている

本作、総じて良い出来なのだが、この4:1変換の実装だけはやや雑な印象を受ける
美しくなく、面白くなく、愉快でない
なぜ雑だと感じるか、あるいは逆にどういった実装であったらより丁寧だと感じたかを本節では掘り下げる



本作と同年に出たクーパーアイランド(2019)も同じ4:1変換の実装を持つ
細かい話は省くが、クーパーもカスケード・システムとちょっと似た仕組みで資源が湧く
余った資源を変換するフリーアクションがいくつかあり、もっとも効率の悪いものが4:1変換だ

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Cooper Island(2019)

なぜ別種の2作品で似た機能が実装されているか
資源が余るからだ
なぜ資源が余るか
欲しくない資源が、自動で、過剰に取れてしまい、保管が難しいルールだからだ


【欲しくない・自動・過剰】

マウンテンキングでは、売り場にあるトロールカードを買ってきて手元でピラミッドを組む
トロールカードは5-6択のなかから選ぶ
クーパー・アイランドでは毎ラウンド開始時にガチャ引きしたダブルヘックスタイル1枚を個人ボード上に配置して資源を得る

両作とも、資源獲得セグメントに、ある程度運要素が強く、ソロ的なパズルが置かれている


細かい話は省くが、クーパーはヘックスタイルの高さ分リソース数が得られる
また、次ラウンドにタイルを重ね置きするためには、タイル上の資源を使い切る必要がある
このあたりのインフレ感と、使い切りの難しさはマウンテンキングにかなり近い

たいていのワカプレ、たとえばアグリコラ、ロレンツォ、ストーンエイジ
やケイラス
これらでは、欲しい資源を、手数を消費して、少しだけ取ってくる
資源が余って仕方がない場面は少ない(余らせる状況はたいていうまくいっていない)
ゆえに資源は無限に持てて、所有制限はない

【保管の難しさ】
両作と同じように、資源の保管数や持ち方に制限がある作例をいくつか挙げる

①小さな倉庫 コンコルディア(2013),狩猟の時代(2019)
持てる個数に限りがある
倉庫自体がワクワクするパズルを生むことは稀だ
明白な設計意図がないなら実装すべきではない
コンコルディアの場合、売却/購入個数に制限がない
また、資源を消費しての建物建設も1手で何回でもできる
どのアクションを、どのタイミングでどれだけやるかがかなり自由に決められる
自由度が極めて高いので、所持上限をタイトに制限し、バランスを取っている

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Concordiaの倉庫

②持ち越せない/蒸発 アマルフィ(2020)
ラウンドまたぎまで持っておけず、消費する必要がある
使い切れないと下級の食料リソースに変換され、倉庫に貯められる
食料→上級資源への逆変換はできない

③引き出すのが面倒な倉庫 グランドオーストリアホテル(2015)
プレイヤー=ホテルの支配人は、コーヒーやパンといった資源を入荷し、ゲストに給仕する
入荷した資源を食べてくれるゲストカードが手元にないと、資源は一度倉庫に行ってしまう
預けた資源を引き出すには3個で1金かかる
この引き出す1金がとても重い
倉庫には無限に資源が置けるが、1金の重さのおかげで4-5個くらいが実質的なキャパとなる
「X個まで」という明白な個数上限は設けずに、自然な導線を引いて資源の抱えすぎを防いでいる
美しい実装と言える

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Graund Austria Hotelのキッチン

④資源コマの多機能性 スルー・ジ・エイジズ(2006)
黄色キューブの人口青キューブの鉄が2大リソース
毎ラウンドオートで湧いてくるが、キューブ数を超えて資源は持っておけない
ので、あまり多くの資源は持ち越せない
キューブ数=かたちを変えた一種の倉庫と呼べなくはない
なお、植民地カードを取るとキューブ数が増やせる
増えると内政が明らかにラクになるため、植民地競りは過熱しやすい

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Through the Ages(新版,2015)

⑤加工して倉庫に移す ラ・グランハ(2014)
毎ラウンド開始時に、全畑カードにリソースがオートで湧く
自動で、やや過剰に生産される点はマウンテンキングやクーパーに近い

両作と同じく、次ラウンドの生産フェイズまでにカード上の資源を使い切る必要がある

ラ・グランハは農業ゲームだ
カード上にはブドウや麦といった下級リソースが湧き、
契約カード上に移動させる(出荷)
・ワインや上級食料に変換し、倉庫に移動させる(加工)

の2つの使い道がある
この加工がとても良い
一度加工したら倉庫のなかに無限にストックでき、次ラウンドに持ち越せる
加工品は保存が利くというフレーバーとも合っている

加工によって、
・畑カードが空く
・資源の価値が少し高まる(加工品は出荷時の素点が高い)

と、二重の恩恵が得られるのも素敵だ

マウンテンキングでもカード上の資源を倉庫に移すアクション自体はある
移すだけでなくプラスアルファの付加価値を与えるラ・グランハの加工の方がポジティブな体験を与えてくれる

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La Granhaの倉庫
2-3金を支払うと左の畑カード上の作物を加工し、右の倉庫に移せる

(4)総評
一定遊ぶ価値のある良作だと捉える

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