ギャラリストはラセルダによる佳作
とても面白かったので、長短所や骨格の特長を言語化していく
(1)基本情報
とても面白かったので、長短所や骨格の特長を言語化していく
(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
①多要素の圧縮
②シンプルな処理
③それなりの拡大再生産感
④上達/やりごたえ
⑤終了トリガーはイマイチ
⑥3人以上が望ましい
(3)魅力
①多要素の圧縮
②シンプルな処理
③それなりの拡大再生産感
④上達/やりごたえ
⑤終了トリガーはイマイチ
⑥3人以上が望ましい
(4)考察:キックアウトアクションの解剖
①パズルの適度な複雑化
②相乗りのインタラクション
(5)総評The Gallerist (2015)
Designer Vital Lacerda
Designer Vital Lacerda
Artist Ian O'Toole
Publisher Eagle-Gryphon Games
(1)基本情報
人数:1-4人、ベスト4人
時間:60-150分
複雑性:4.28(参考値:ガイアプロジェクト=4.34)
ランク:56位(2021/1/10)
要素:ワーカープレイスメント、リソースマネジメント、画商、経営
言語依存:なし
流通:2021年5月より、ふるりん本舗にて販売予定とのこと
(2)テーマ
ギャラリストとは、ギャラリー(絵画の販売&展示スペース)を持った美術商のこと
1870年ごろに誕生した職種
当時爆発的にヒットした印象派のブームの火付け役を担ったのが彼ら
地力はあれどまだ目立っていなかった印象派画家の絵を買い集め、展覧会を開いた
価値を大幅に高め、売りさばき、印象派絵画の今日の評価の礎を築いた
ギャラリストのさきがけ、ポール・デュラン=リュエル(1831-1922)
プレイヤーは現代のギャラリストとなり、
・無名の画家、彫刻家、写真家を発掘
・契約/資金援助して作品を作ってもらい、ギャラリーに展示
・プロモーションして展示品の市場価値アップ
・資産家に売り込んで売却
このあたりのアクションをやっていく
自分のギャラリーに質の高い作品を並べ、契約画家のファンや、ギャラリーをひいきにしてくれる後援者を楽しませる
同時に、適宜作品も売ってキャッシュを枯らさないようにマネジメントする
有力だが名声のない画家を育て、資金がある顧客とマッチングする
美術界全体の成長に最も寄与したプレイヤーがゲームに勝利する
(3)魅力
面白い
ヴィニョスも良かったが、ギャラリストも相当良い
・ある程度重ゲー慣れしている
・ラセルダ作をなにか1個くらい触ったことがある
・4,5回リプレイできるだけの環境がある
上記のどれかに該当するなら、十分プレイに値すると評価する
1回目で楽しみ尽くすのはちょっと難しい
繰り返し遊べば徐々に構造を理解し、スコアが伸び、上達が実感できる
成長の喜びがちゃんと実感できる、やりごたえのある良作だ
このあたりは、ギャラリストとヴィニョスのプレイ感は真逆と言っても良い
ヴィニョスはかなり見通しが良い
9スペ―スの変則ワカプレで、
・ワイン畑やワインセラーに投資
・生産したワインを施設拡大のために現金化しつつ、勝利点にも変換
骨子はこれだけだ
一度通しで遊べばだいたいの流れが掴める
Vinhos Deluxe Edition(2016)
ギャラリストも構造自体は大差ない
4スペ―スの変則ワカプレで、
・無名画家を発掘→安く描いてもらう
・プロモーションして高く売る
とてもシンプルなフローだ
が、自分の思い通りのプレイができるようになるには、けっこうな回数遊ぶ余地がある
①多要素の圧縮
ヴィニョスとギャラリストのプレイ感の違いはどこから来るのか
1つのアクションに多くのものを付随させているのが、最も大きな要因だと思われる
たとえば絵画を買うアクション
お金を支払って絵画が1枚買えるのだが、
・買った際にアーティストの名声ポイントが1-3上昇
・客をギャラリーに呼べるチケットを1-2枚ゲット
・追加のランダムの即時ボーナス(影響ポイントや、ギャラリーに来てくれるファンなど)
追加で上記のボーナスが入る
さらにプラザという全体の場に新しい顧客(ミープル)がやってくる
こんな感じで、1アクションやるだけで、アクションとは一見無関係なリソースがもたらされ、けっこう盤面が動く
②シンプルな処理
1アクションに複数の処理を入れることで、総手番数を少なくスピーディ/コンパクトに
ラセルダ作品あるあるだが、今の重ゲーのメインストリームと言って良い
脱線するが、ここで他作品をいくつか例示する
たとえばサイズ:大鎌戦役
骨格はシンプルな4X系ゲームだが
資源獲得の上段アクションと、支払いの下段アクションで、生産&消費を1アクションに圧縮した点に大きな新奇性がある
あるいはコインブラ
ダイスピック&配置を12手番やるだけだが、それに付随して、
・コスト支払い
・カードの獲得
・リソースの生産
・マップ移動
・次ラウンドの手番順の決定
とさまざまなものが付随してくる
テオティワカンも、ダイスをロンデル移動させるだけだが、
・カカオの支払い
・アクションの実行
・特殊能力がある場合はアクションの強化
・加齢
・昇天した場合は死者の大通りトラックと月食トラックの移動、昇天ボーナスの獲得
・新しいダイスをリスポーン
Teotihuacan: City of Gods (2018)
こういった形式のメリットは入力(プレイヤーの選択)の単純化だ
入力だけ見るなら、テオティワカンはダイスを動かすだけ、コインブラはダイスをピックして配置するだけであとはだいたい自動で進む
入力の単純さはそのままとっつきやすさに直結する
デメリットは、入力でラクさせた分、出力(アクションによって生じるもの)に負荷がかかっている点
処理が煩雑化するリスクがある
煩雑さを規定する因子とはなんだろうか?
筆者の主観で記すと、Scytheとギャラリストはわりとすっきりしている
コインブラは境界域
テオティワカンはかなり煩雑、人体の処理限界を2,3歩超えている
・あちこち視線を移す必要がある
・処理忘れが発生しやすい
上記2点は煩雑さに直結する因子と思われる
たとえばテオティワカンは好例
手番中に盤面のあっちこっちを参照しないとならない
・永続能力ゾーンがプレイヤーの手元でなく、盤面に置かれている
・バラバラなタイミングで宗教トラックや月食が進む
これらから、能力のもらい忘れ、トラックの進め忘れが生じやすい
コインブラもちょっと視線がバラつく
テオティワカン同様、永続能力の処理忘れ、収入トラックの上げ忘れがやや発生しやすい
ギャラリストは、
・永続能力自体が存在しない
・アクションの付随処理をアイコン記載している
これらから、処理自体は多いが、あまりあちこち見なくてよく、やり忘れが生じにくい
ギャラリストの個人ボード、比較的すっきり作られている
③それなりの拡大再生産感
ギャラリスト、永続能力はないが、エンジン要素は最低限ある
自分のギャラリー内にミープルを集めることができ、それがそのまま収入基盤となる
プレイヤーの目利きに信頼を寄せる固定ファンを表している
ミープルの種類によって、
・美術界への影響力
・現金
・囲っている画家の名声値
の3種のリソースをもたらしてくれる
ギャラリー内にミープルが増えるにつれ収入力が上がるものの、
・収入のタイミングが限定的
・アクション数は一定で、アクション効率も大きく変わらない
ことから、成長曲線は緩やか
ラセルダだと、ヴィニョスやリスボアの方が、もりもり成長を感じやすいかもしれない
分かりやすく能力強化や生産力がアップの快感を感じられる
④上達/やりごたえ
前項のリソース周りは、初回プレイだとほぼ意味がわからない
しかしプレイを重ねるほどに理解度が増し、効率的に動けるようになっていく
盤面の勝利点を奪い合うタイプではなく、ゲームの理解度が上がれば全員のスコアが伸びるため、成長の手ごたえを感じやすい
⑤終了トリガーがちょっとイマイチ
ギャラリストはオンマーズとほぼ同じ終了トリガー制
・3種のチケットのうち2種が枯れる
・客ミープルが枯れる
・2人のアーティストが巨匠となる
のうち2条件達成するとトリガー(引き金)が引かれて、均等に手番を行って終了
ギャラリストはラウンドの切れ目がない
GWTやリスボア、Scythe、ドミニオンなんかと一緒
その手のゲームはラウンド数を数えられない関係で、トリガー制が選ばれやすい
トリガー制で作るなら、残り手数をある程度分かりやすくする必要がある
GWTのトリガー周りは本当に良くできていて、
「あと2回決算が起こったらトリガーだから、あと2-3手しかない」
くらいのちょうど良い見通しがつく
客ミープルはバッグに入っており、残り個数が確認しづらい
巨匠はプレイヤー間で協調できないと生まれず、不確定性が大きい
チケットの枯渇は比較的わかりやすいが、いろんなタイミングでチケットが取られていくので、あとどれくらいで枯れるのかは直感的ではない
とても確定度の低い推測だが、オンラインテストの比重が大きすぎると、こういうアラをディベロップで潰し切れない場合が多い
ラセルダはテーブルトピア、筆者はテーブルトップシミュレータを用いているが、
・バッグの中のミープル数
・山積みにされたチケット枚数
・スタックした手持ち現金の総額
なんかは、マウスオーバーするだけで一瞬で表示される
とてもラクでありがたいのだが、実機の感覚とズレやすく、注意が要る
⑥3人以上が望ましい
2人プレイはできなくないが、アクションの相乗りの兼ね合いで3,4人いた方がプレイが華やぐ
ラセルダ作だと、
・リスボア&オンマーズ=2人ベスト
・ヴィニョス&カンバン=3人ベスト
・ギャラリスト=4人ベスト
くらいに感じる
(4)考察:キックアウトアクションの解剖
ギャラリストの最大の特徴はキックアウトアクションだ
4スペ―スを全員で共有してワカプレをやる
ヴィニョスや横濱紳商伝、サイズ:大鎌戦役みたいに、1個のポーンを動かしてアクションする
誰かのポーンがいる場所でもアクションができ、その場合蹴り出し(キックアウト)が起こる
蹴り出されたプレイヤーは、影響力を消費すれば同じアクションをタダで打つことができる
キックアウトした側にはまったくデメリットがなく、された側にはけっこうな恩恵がある
もしキックアウトが起こらずに一巡すると自ミープルをスペースに残せる
そのミープルを回収しないかぎり、被キックアウト権は保持できる
イエローのアクションポーンを黒のスペースに蹴り出すとキックアウトの処理が生じる
①パズルの適度な複雑化
キックアウトのいちばんの長所は、パズルの適度な複雑化だ
キックアウトは手数が増えるのでやり得、とても強力だが、支払いに必要な影響力もまあまあ貴重だ
「せっかくキックアウトしてもらえたのに、影響力が支払いパスせざるを得ない」
といった状況は特に序盤は頻発する
また反対に、
「いつまで経ってもキックアウトが生じない
キックアウト用に調整した影響力が崩せない」
みたいな事態もよく生じる
ギャラリストはアクション種の少なさから、最適な動き/正解はある程度決まっている
・新人を発掘
→絵を描いてもらう
→絵を売るための契約を取る
→プロモーションして売価をブースト
→晴れて売却
何をどの順番でやっていけばいいかはある程度クリアだ
キックアウトのインタラクションはこのアクションの流れをいい感じに阻害してくれる
こういった作り方は、ラセルダ作品の多くで共通している
・アクション種は5-8種まで絞ってシンプルに
・アクション選択にひとひねり加えて、適度にパズルを複雑化
ギャラリスト以外だと、たとえばカンバン
カンバンはアクションが4種しかなく、極端にシンプルな作りをしている
契約タイルゲット
→資源を生産
→資源を消費して自動車を生産
→契約タイルを消費して自動車を獲得
この順で回るのが断然効率が良い
が、ここまでシンプルだとまともなゲームにならない
カンバンを名作たらしめている最大の因子が、サンドラ工場長というスパイスだ
サンドラはNPCのワーカーで、上記の順と逆順に歩いていく
サンドラがいるスペースでは業績チェックが生じ、対策を怠っていると失点を食らう
「ほんとはあのアクションをやって利益を最大化したかった
でも、サンドラチェックの損失を回避するために、あそこのアクションもやっておきたい」
Kanban EV(2020)
ちょっと脱線となるが、得点の最大化/失点回避の2択は古典的な手法
あらゆるゲームで使い倒されている
特に要素の多い重量級だと、スパイス的な1要素として用いやすい印象がある
カンバン(2014)以外で例示すると、
・アグリコラ(2007)=食料支払い
・トラヤヌス(2011)=需要トークン
・ アメリゴ (2013)=軍事トラック
・オルレアン(2014)=農業トラック
フェルトは加点要素のポイントサラダ的な重ゲーを良く作るが、ひとつまみ、スパイス的に失点要素を加えることで全体の味が引き締まる
Trajan(2011)の需要トークン
②相乗りのインタラクション
キックアウトの2点目の特長は相乗りだ
うまく相乗りできると手番を圧縮できる
ゲームの序盤はタネ銭も影響力も足りない関係で、あっちこっちのアクションを少しずつつまむことになる
そのため均等にキックアウトが起こるのだが
中盤~終盤には1~2種のアクションを連発したくなる
すごくおおざっぱに記すと、ギャラリストは、
・ギャラリーにたくさん絵をかざる=ギャラリーボーナス
・絵をたくさん売る=売却ボーナス
・アシスタントコマを破棄しまくる=終了時タイル
これら3つの勝利点ルートを持つ
高得点を取るには1~2本に絞る必要がある
このルートを誰かとうまく被せて相乗りできると、かなりゲームを有利に進められる
被った相手には、アクションポーンをすぐキックアウトしてもらえる
追加のキックアウトアクションができて手数が浮く
しかも、次の手番に同じアクションも打てるので行動がさらに効率化する
反対に誰とも被らなかった場合は本当に悲惨だ
キックされない場合は同じアクションを連発できない
次の次の手番であればやりたいアクションに帰ってこれるのだが
そのアクションがもし不人気だと、自分のアシスタントを自分の足でキックアウトする羽目になる
その場合はキックアウトボーナスは得られない
相乗りもラセルダが好んで用いるモチーフだ
ヴィニョスだと名声トークン
同じ地域の畑を作っているプレイヤー同士で協調できる
リスボアなら個人建物と公共建物
お互いの意図を読んでうまく相乗りできると多く加点が得られる
また、これも大きな長所なのだが、相乗りのインタラクションは通常のプレイをジャマしない
各々がやりたいことをやって、その結果たまたま相乗りが起こったり、運悪く孤立したりする
やり込んできて、「もっとスコアを伸ばしたい、戦略を詰めたい」と考えると
そこで初めて意図的な相乗りが生じてきて、ゲームの深度が一段増す
カジュアルプレイのジャマをせず、真剣なゲームには彩りを
とても上手い設計だ
(5)総評
ギャラリストを他作品と比較した際の最大の長所はそのバランスの良さだ
ヴィニョスは優れた作品だが、ややソロのリソース管理感が強い
カンバンやリスボアは反対に他プレイヤーとの政治面が強く、ヘタを打つと相手に大量加点が入ってしまう
ギャラリストは適度にインタラクティブで、露骨な利敵行為が生じる危険もない
とてもバランスの取れた良作だと評価している
(1)基本情報
人数:1-4人、ベスト4人
時間:60-150分
複雑性:4.28(参考値:ガイアプロジェクト=4.34)
ランク:56位(2021/1/10)
要素:ワーカープレイスメント、リソースマネジメント、画商、経営
言語依存:なし
流通:2021年5月より、ふるりん本舗にて販売予定とのこと
(2)テーマ
ギャラリストとは、ギャラリー(絵画の販売&展示スペース)を持った美術商のこと
1870年ごろに誕生した職種
当時爆発的にヒットした印象派のブームの火付け役を担ったのが彼ら
地力はあれどまだ目立っていなかった印象派画家の絵を買い集め、展覧会を開いた
価値を大幅に高め、売りさばき、印象派絵画の今日の評価の礎を築いた
ギャラリストのさきがけ、ポール・デュラン=リュエル(1831-1922)
プレイヤーは現代のギャラリストとなり、
・無名の画家、彫刻家、写真家を発掘
・契約/資金援助して作品を作ってもらい、ギャラリーに展示
・プロモーションして展示品の市場価値アップ
・資産家に売り込んで売却
このあたりのアクションをやっていく
自分のギャラリーに質の高い作品を並べ、契約画家のファンや、ギャラリーをひいきにしてくれる後援者を楽しませる
同時に、適宜作品も売ってキャッシュを枯らさないようにマネジメントする
有力だが名声のない画家を育て、資金がある顧客とマッチングする
美術界全体の成長に最も寄与したプレイヤーがゲームに勝利する
(3)魅力
面白い
ヴィニョスも良かったが、ギャラリストも相当良い
・ある程度重ゲー慣れしている
・ラセルダ作をなにか1個くらい触ったことがある
・4,5回リプレイできるだけの環境がある
上記のどれかに該当するなら、十分プレイに値すると評価する
1回目で楽しみ尽くすのはちょっと難しい
繰り返し遊べば徐々に構造を理解し、スコアが伸び、上達が実感できる
成長の喜びがちゃんと実感できる、やりごたえのある良作だ
このあたりは、ギャラリストとヴィニョスのプレイ感は真逆と言っても良い
ヴィニョスはかなり見通しが良い
9スペ―スの変則ワカプレで、
・ワイン畑やワインセラーに投資
・生産したワインを施設拡大のために現金化しつつ、勝利点にも変換
骨子はこれだけだ
一度通しで遊べばだいたいの流れが掴める
Vinhos Deluxe Edition(2016)
ギャラリストも構造自体は大差ない
4スペ―スの変則ワカプレで、
・無名画家を発掘→安く描いてもらう
・プロモーションして高く売る
とてもシンプルなフローだ
が、自分の思い通りのプレイができるようになるには、けっこうな回数遊ぶ余地がある
①多要素の圧縮
ヴィニョスとギャラリストのプレイ感の違いはどこから来るのか
1つのアクションに多くのものを付随させているのが、最も大きな要因だと思われる
たとえば絵画を買うアクション
お金を支払って絵画が1枚買えるのだが、
・買った際にアーティストの名声ポイントが1-3上昇
・客をギャラリーに呼べるチケットを1-2枚ゲット
・追加のランダムの即時ボーナス(影響ポイントや、ギャラリーに来てくれるファンなど)
追加で上記のボーナスが入る
さらにプラザという全体の場に新しい顧客(ミープル)がやってくる
こんな感じで、1アクションやるだけで、アクションとは一見無関係なリソースがもたらされ、けっこう盤面が動く
②シンプルな処理
1アクションに複数の処理を入れることで、総手番数を少なくスピーディ/コンパクトに
ラセルダ作品あるあるだが、今の重ゲーのメインストリームと言って良い
脱線するが、ここで他作品をいくつか例示する
たとえばサイズ:大鎌戦役
骨格はシンプルな4X系ゲームだが
資源獲得の上段アクションと、支払いの下段アクションで、生産&消費を1アクションに圧縮した点に大きな新奇性がある
あるいはコインブラ
ダイスピック&配置を12手番やるだけだが、それに付随して、
・コスト支払い
・カードの獲得
・リソースの生産
・マップ移動
・次ラウンドの手番順の決定
とさまざまなものが付随してくる
テオティワカンも、ダイスをロンデル移動させるだけだが、
・カカオの支払い
・アクションの実行
・特殊能力がある場合はアクションの強化
・加齢
・昇天した場合は死者の大通りトラックと月食トラックの移動、昇天ボーナスの獲得
・新しいダイスをリスポーン
Teotihuacan: City of Gods (2018)
こういった形式のメリットは入力(プレイヤーの選択)の単純化だ
入力だけ見るなら、テオティワカンはダイスを動かすだけ、コインブラはダイスをピックして配置するだけであとはだいたい自動で進む
入力の単純さはそのままとっつきやすさに直結する
デメリットは、入力でラクさせた分、出力(アクションによって生じるもの)に負荷がかかっている点
処理が煩雑化するリスクがある
煩雑さを規定する因子とはなんだろうか?
筆者の主観で記すと、Scytheとギャラリストはわりとすっきりしている
コインブラは境界域
テオティワカンはかなり煩雑、人体の処理限界を2,3歩超えている
・あちこち視線を移す必要がある
・処理忘れが発生しやすい
上記2点は煩雑さに直結する因子と思われる
たとえばテオティワカンは好例
手番中に盤面のあっちこっちを参照しないとならない
・永続能力ゾーンがプレイヤーの手元でなく、盤面に置かれている
・バラバラなタイミングで宗教トラックや月食が進む
これらから、能力のもらい忘れ、トラックの進め忘れが生じやすい
コインブラもちょっと視線がバラつく
テオティワカン同様、永続能力の処理忘れ、収入トラックの上げ忘れがやや発生しやすい
ギャラリストは、
・永続能力自体が存在しない
・アクションの付随処理をアイコン記載している
これらから、処理自体は多いが、あまりあちこち見なくてよく、やり忘れが生じにくい
ギャラリストの個人ボード、比較的すっきり作られている
③それなりの拡大再生産感
ギャラリスト、永続能力はないが、エンジン要素は最低限ある
自分のギャラリー内にミープルを集めることができ、それがそのまま収入基盤となる
プレイヤーの目利きに信頼を寄せる固定ファンを表している
ミープルの種類によって、
・美術界への影響力
・現金
・囲っている画家の名声値
の3種のリソースをもたらしてくれる
ギャラリー内にミープルが増えるにつれ収入力が上がるものの、
・収入のタイミングが限定的
・アクション数は一定で、アクション効率も大きく変わらない
ことから、成長曲線は緩やか
ラセルダだと、ヴィニョスやリスボアの方が、もりもり成長を感じやすいかもしれない
分かりやすく能力強化や生産力がアップの快感を感じられる
④上達/やりごたえ
前項のリソース周りは、初回プレイだとほぼ意味がわからない
しかしプレイを重ねるほどに理解度が増し、効率的に動けるようになっていく
盤面の勝利点を奪い合うタイプではなく、ゲームの理解度が上がれば全員のスコアが伸びるため、成長の手ごたえを感じやすい
⑤終了トリガーがちょっとイマイチ
ギャラリストはオンマーズとほぼ同じ終了トリガー制
・3種のチケットのうち2種が枯れる
・客ミープルが枯れる
・2人のアーティストが巨匠となる
のうち2条件達成するとトリガー(引き金)が引かれて、均等に手番を行って終了
ギャラリストはラウンドの切れ目がない
GWTやリスボア、Scythe、ドミニオンなんかと一緒
その手のゲームはラウンド数を数えられない関係で、トリガー制が選ばれやすい
トリガー制で作るなら、残り手数をある程度分かりやすくする必要がある
GWTのトリガー周りは本当に良くできていて、
「あと2回決算が起こったらトリガーだから、あと2-3手しかない」
くらいのちょうど良い見通しがつく
Great Western Trail (2016)
ギャラリストのトリガーはちょっと直感的ではない客ミープルはバッグに入っており、残り個数が確認しづらい
巨匠はプレイヤー間で協調できないと生まれず、不確定性が大きい
チケットの枯渇は比較的わかりやすいが、いろんなタイミングでチケットが取られていくので、あとどれくらいで枯れるのかは直感的ではない
とても確定度の低い推測だが、オンラインテストの比重が大きすぎると、こういうアラをディベロップで潰し切れない場合が多い
ラセルダはテーブルトピア、筆者はテーブルトップシミュレータを用いているが、
・バッグの中のミープル数
・山積みにされたチケット枚数
・スタックした手持ち現金の総額
なんかは、マウスオーバーするだけで一瞬で表示される
とてもラクでありがたいのだが、実機の感覚とズレやすく、注意が要る
⑥3人以上が望ましい
2人プレイはできなくないが、アクションの相乗りの兼ね合いで3,4人いた方がプレイが華やぐ
ラセルダ作だと、
・リスボア&オンマーズ=2人ベスト
・ヴィニョス&カンバン=3人ベスト
・ギャラリスト=4人ベスト
くらいに感じる
(4)考察:キックアウトアクションの解剖
ギャラリストの最大の特徴はキックアウトアクションだ
4スペ―スを全員で共有してワカプレをやる
ヴィニョスや横濱紳商伝、サイズ:大鎌戦役みたいに、1個のポーンを動かしてアクションする
誰かのポーンがいる場所でもアクションができ、その場合蹴り出し(キックアウト)が起こる
蹴り出されたプレイヤーは、影響力を消費すれば同じアクションをタダで打つことができる
キックアウトした側にはまったくデメリットがなく、された側にはけっこうな恩恵がある
もしキックアウトが起こらずに一巡すると自ミープルをスペースに残せる
そのミープルを回収しないかぎり、被キックアウト権は保持できる
イエローのアクションポーンを黒のスペースに蹴り出すとキックアウトの処理が生じる
①パズルの適度な複雑化
キックアウトのいちばんの長所は、パズルの適度な複雑化だ
キックアウトは手数が増えるのでやり得、とても強力だが、支払いに必要な影響力もまあまあ貴重だ
「せっかくキックアウトしてもらえたのに、影響力が支払いパスせざるを得ない」
といった状況は特に序盤は頻発する
また反対に、
「いつまで経ってもキックアウトが生じない
キックアウト用に調整した影響力が崩せない」
みたいな事態もよく生じる
ギャラリストはアクション種の少なさから、最適な動き/正解はある程度決まっている
・新人を発掘
→絵を描いてもらう
→絵を売るための契約を取る
→プロモーションして売価をブースト
→晴れて売却
何をどの順番でやっていけばいいかはある程度クリアだ
キックアウトのインタラクションはこのアクションの流れをいい感じに阻害してくれる
こういった作り方は、ラセルダ作品の多くで共通している
・アクション種は5-8種まで絞ってシンプルに
・アクション選択にひとひねり加えて、適度にパズルを複雑化
ギャラリスト以外だと、たとえばカンバン
カンバンはアクションが4種しかなく、極端にシンプルな作りをしている
契約タイルゲット
→資源を生産
→資源を消費して自動車を生産
→契約タイルを消費して自動車を獲得
この順で回るのが断然効率が良い
が、ここまでシンプルだとまともなゲームにならない
カンバンを名作たらしめている最大の因子が、サンドラ工場長というスパイスだ
サンドラはNPCのワーカーで、上記の順と逆順に歩いていく
サンドラがいるスペースでは業績チェックが生じ、対策を怠っていると失点を食らう
「ほんとはあのアクションをやって利益を最大化したかった
でも、サンドラチェックの損失を回避するために、あそこのアクションもやっておきたい」
Kanban EV(2020)
ちょっと脱線となるが、得点の最大化/失点回避の2択は古典的な手法
あらゆるゲームで使い倒されている
特に要素の多い重量級だと、スパイス的な1要素として用いやすい印象がある
カンバン(2014)以外で例示すると、
・アグリコラ(2007)=食料支払い
・トラヤヌス(2011)=需要トークン
・ アメリゴ (2013)=軍事トラック
・オルレアン(2014)=農業トラック
フェルトは加点要素のポイントサラダ的な重ゲーを良く作るが、ひとつまみ、スパイス的に失点要素を加えることで全体の味が引き締まる
Trajan(2011)の需要トークン
②相乗りのインタラクション
キックアウトの2点目の特長は相乗りだ
うまく相乗りできると手番を圧縮できる
ゲームの序盤はタネ銭も影響力も足りない関係で、あっちこっちのアクションを少しずつつまむことになる
そのため均等にキックアウトが起こるのだが
中盤~終盤には1~2種のアクションを連発したくなる
すごくおおざっぱに記すと、ギャラリストは、
・ギャラリーにたくさん絵をかざる=ギャラリーボーナス
・絵をたくさん売る=売却ボーナス
・アシスタントコマを破棄しまくる=終了時タイル
これら3つの勝利点ルートを持つ
高得点を取るには1~2本に絞る必要がある
このルートを誰かとうまく被せて相乗りできると、かなりゲームを有利に進められる
被った相手には、アクションポーンをすぐキックアウトしてもらえる
追加のキックアウトアクションができて手数が浮く
しかも、次の手番に同じアクションも打てるので行動がさらに効率化する
反対に誰とも被らなかった場合は本当に悲惨だ
キックされない場合は同じアクションを連発できない
次の次の手番であればやりたいアクションに帰ってこれるのだが
そのアクションがもし不人気だと、自分のアシスタントを自分の足でキックアウトする羽目になる
その場合はキックアウトボーナスは得られない
相乗りもラセルダが好んで用いるモチーフだ
ヴィニョスだと名声トークン
同じ地域の畑を作っているプレイヤー同士で協調できる
リスボアなら個人建物と公共建物
お互いの意図を読んでうまく相乗りできると多く加点が得られる
また、これも大きな長所なのだが、相乗りのインタラクションは通常のプレイをジャマしない
各々がやりたいことをやって、その結果たまたま相乗りが起こったり、運悪く孤立したりする
やり込んできて、「もっとスコアを伸ばしたい、戦略を詰めたい」と考えると
そこで初めて意図的な相乗りが生じてきて、ゲームの深度が一段増す
カジュアルプレイのジャマをせず、真剣なゲームには彩りを
とても上手い設計だ
(5)総評
ギャラリストを他作品と比較した際の最大の長所はそのバランスの良さだ
ヴィニョスは優れた作品だが、ややソロのリソース管理感が強い
カンバンやリスボアは反対に他プレイヤーとの政治面が強く、ヘタを打つと相手に大量加点が入ってしまう
ギャラリストは適度にインタラクティブで、露骨な利敵行為が生じる危険もない
とてもバランスの取れた良作だと評価している