2021年04月

ギャラリストはラセルダによる佳作
とても面白かったので、長短所や骨格の特長を言語化していく

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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①多要素の圧縮
 ②シンプルな処理
 ③それなりの拡大再生産感
 ④上達/やりごたえ
 ⑤終了トリガーはイマイチ
 ⑥3人以上が望ましい

(4)考察:キックアウトアクションの解剖
 ①パズルの適度な複雑化
 ②相乗りのインタラクション
(5)総評

The Gallerist (2015)
Designer Vital Lacerda
Artist Ian O'Toole
Publisher Eagle-Gryphon Games

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(1)基本情報
人数:1-4人、ベスト4人
時間:60-150分
複雑性:4.28(参考値:ガイアプロジェクト=4.34)
ランク:56位(2021/1/10)

要素:ワーカープレイスメント、リソースマネジメント、画商、経営
言語依存:なし

流通:2021年5月より、ふるりん本舗にて販売予定とのこと


(2)テーマ
ギャラリストとは、ギャラリー(絵画の販売&展示スペース)を持った美術商のこと
1870年ごろに誕生した職種
当時爆発的にヒットした印象派のブームの火付け役を担ったのが彼ら
地力はあれどまだ目立っていなかった印象派画家の絵を買い集め、展覧会を開いた
価値を大幅に高め、売りさばき、印象派絵画の今日の評価の礎を築いた

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ギャラリストのさきがけ、ポール・デュラン=リュエル(1831-1922)

プレイヤーは現代のギャラリストとなり、
・無名の画家、彫刻家、写真家を発掘
・契約/資金援助して作品を作ってもらい、ギャラリーに展示
プロモーションして展示品の市場価値アップ
・資産家に売り込んで売却

このあたりのアクションをやっていく

自分のギャラリーに質の高い作品を並べ、契約画家のファンや、ギャラリーをひいきにしてくれる後援者を楽しませる
同時に、適宜作品も売ってキャッシュを枯らさないようにマネジメントする

有力だが名声のない画家を育て、資金がある顧客とマッチングする
美術界全体の成長に最も寄与したプレイヤーがゲームに勝利する
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(3)魅力

面白い
ヴィニョスも良かったが、ギャラリストも相当良い
・ある程度重ゲー慣れしている
・ラセルダ作をなにか1個くらい触ったことがある
・4,5回リプレイできるだけの環境がある

上記のどれかに該当するなら、十分プレイに値すると評価する

1回目で楽しみ尽くすのはちょっと難しい
繰り返し遊べば徐々に構造を理解し、スコアが伸び、上達が実感できる
成長の喜びがちゃんと実感できる、やりごたえのある良作だ

このあたりは、ギャラリストとヴィニョスのプレイ感は真逆と言っても良い
ヴィニョスはかなり見通しが良い
9スペ―スの変則ワカプレで、
・ワイン畑やワインセラーに投資
・生産したワインを施設拡大のために現金化しつつ、勝利点にも変換

骨子はこれだけだ
一度通しで遊べばだいたいの流れが掴める

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Vinhos Deluxe Edition(2016)

ギャラリストも構造自体は大差ない
4スペ―スの変則ワカプレで、
・無名画家を発掘安く描いてもらう
・プロモーションして高く売る

とてもシンプルなフローだ
が、自分の思い通りのプレイができるようになるには、けっこうな回数遊ぶ余地がある


①多要素の圧縮

ヴィニョスとギャラリストのプレイ感の違いはどこから来るのか

1つのアクションに多くのものを付随させているのが、最も大きな要因だと思われる
たとえば絵画を買うアクション
お金を支払って絵画が1枚買えるのだが、
・買った際にアーティストの名声ポイントが1-3上昇
・客をギャラリーに呼べるチケットを1-2枚ゲット
・追加のランダムの即時ボーナス(影響ポイントや、ギャラリーに来てくれるファンなど)

追加で上記のボーナスが入る
さらにプラザという全体の場に新しい顧客(ミープル)がやってくる
こんな感じで、1アクションやるだけで、アクションとは一見無関係なリソースがもたらされ、けっこう盤面が動く


②シンプルな処理

1アクションに複数の処理を入れることで、総手番数を少なくスピーディ/コンパクトに
ラセルダ作品あるあるだが、今の重ゲーのメインストリームと言って良い

脱線するが、ここで他作品をいくつか例示する

たとえばサイズ:大鎌戦役
骨格はシンプルな4X系ゲームだが
資源獲得の上段アクションと、支払いの下段アクションで、
生産&消費を1アクションに圧縮した点に大きな新奇性がある

あるいはコインブラ
ダイスピック&配置を12手番やるだけだが、それに付随して、
・コスト支払い
・カードの獲得
・リソースの生産
・マップ移動
・次ラウンドの手番順の決定

とさまざまなものが付随してくる

テオティワカンも、ダイスをロンデル移動させるだけだが、
・カカオの支払い
・アクションの実行
・特殊能力がある場合はアクションの強化
・加齢
・昇天した場合は死者の大通りトラックと月食トラックの移動、昇天ボーナスの獲得
・新しいダイスをリスポーン


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Teotihuacan: City of Gods (2018)


こういった形式のメリットは入力(プレイヤーの選択)の単純化
入力だけ見るなら、テオティワカンはダイスを動かすだけ、コインブラはダイスをピックして配置するだけであとはだいたい自動で進む
入力の単純さはそのままとっつきやすさに直結する
デメリットは、入力でラクさせた分、出力(アクションによって生じるもの)に負荷がかかっている点
処理が煩雑化するリスクがある


煩雑さを規定する因子とはなんだろうか?
筆者の主観で記すと、Scytheとギャラリストはわりとすっきりしている
コインブラは境界域
テオティワカンはかなり煩雑、人体の処理限界を2,3歩超えている


・あちこち視線を移す必要がある
処理忘れが発生しやすい

上記2点は煩雑さに直結する因子と思われる


たとえばテオティワカンは好例
手番中に盤面のあっちこっちを参照しないとならない

・永続能力ゾーンがプレイヤーの手元でなく、盤面に置かれている
・バラバラなタイミングで宗教トラックや月食が進む

これらから、能力のもらい忘れ、トラックの進め忘れが生じやすい

コインブラもちょっと視線がバラつく
テオティワカン同様、永続能力の処理忘れ、収入トラックの上げ忘れがやや発生しやすい

ギャラリストは、
・永続能力自体が存在しない
・アクションの付随処理をアイコン記載している

これらから、処理自体は多いが、あまりあちこち見なくてよく、やり忘れが生じにくい


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ギャラリストの個人ボード、比較的すっきり作られている


③それなりの拡大再生産感
ギャラリスト、永続能力はないが、エンジン要素は最低限ある
自分のギャラリー内にミープルを集めることができ、それがそのまま収入基盤となる
プレイヤーの目利きに信頼を寄せる固定ファンを表している
ミープルの種類によって、
・美術界への影響力
・現金
・囲っている画家の名声値

の3種のリソースをもたらしてくれる

ギャラリー内にミープルが増えるにつれ収入力が上がるものの、
・収入のタイミングが限定的
・アクション数は一定で、アクション効率も大きく変わらない

ことから、成長曲線は緩やか

ラセルダだと、ヴィニョスやリスボアの方が、もりもり成長を感じやすいかもしれない
分かりやすく能力強化や生産力がアップの快感を感じられる




④上達/やりごたえ

前項のリソース周りは、初回プレイだとほぼ意味がわからない
しかしプレイを重ねるほどに理解度が増し、効率的に動けるようになっていく
盤面の勝利点を奪い合うタイプではなく、ゲームの理解度が上がれば全員のスコアが伸びるため、成長の手ごたえを感じやすい

⑤終了トリガーがちょっとイマイチ

ギャラリストはオンマーズとほぼ同じ終了トリガー制
・3種のチケットのうち2種が枯れる
ミープルが枯れる
・2人のアーティストが巨匠となる

のうち2条件達成するとトリガー(引き金)が引かれて、均等に手番を行って終了

ギャラリストはラウンドの切れ目がない
GWTやリスボア、Scythe、ドミニオンなんかと一緒
その手のゲームはラウンド数を数えられない関係で、トリガー制が選ばれやすい

トリガー制で作るなら、残り手数をある程度分かりやすくする必要がある
GWTのトリガー周りは本当に良くできていて、
「あと2回決算が起こったらトリガーだから、あと2-3手しかない」

くらいのちょうど良い見通しがつく

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Great Western Trail (2016)

ギャラリストのトリガーはちょっと直感的ではない
客ミープルはバッグに入っており、残り個数が確認しづらい
巨匠はプレイヤー間で協調できないと生まれず、不確定性が大きい
チケットの枯渇は比較的わかりやすいが、いろんなタイミングでチケットが取られていくので、あとどれくらいで枯れるのかは直感的ではない

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とても確定度の低い推測だが、オンラインテストの比重が大きすぎると、こういうアラをディベロップで潰し切れない場合が多い

ラセルダはテーブルトピア、筆者はテーブルトップシミュレータを用いているが、
・バッグの中のミープル数
・山積みにされたチケット枚数
・スタックした手持ち現金の総額

なんかは、マウスオーバーするだけで一瞬で表示される
とてもラクでありがたいのだが、実機の感覚とズレやすく、注意が要る

⑥3人以上が望ましい

2人プレイはできなくないが、アクションの相乗りの兼ね合いで3,4人いた方がプレイが華やぐ
ラセルダ作だと、
・リスボア&オンマーズ=2人ベスト
・ヴィニョス&カンバン=3人ベスト
・ギャラリスト=4人ベスト

くらいに感じる


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(4)考察:キックアウトアクションの解剖

ギャラリストの最大の特徴はキックアウトアクション

4スペ―スを全員で共有してワカプレをやる
ヴィニョス横濱紳商伝サイズ:大鎌戦役みたいに、1個のポーンを動かしてアクションする

誰かのポーンがいる場所でもアクションができ、その場合蹴り出し(キックアウト)が起こる
蹴り出されたプレイヤーは、影響力を消費すれば同じアクションをタダで打つことができる
キックアウトした側にはまったくデメリットがなく、された側にはけっこうな恩恵がある

もしキックアウトが起こらずに一巡すると自ミープルをスペースに残せる
そのミープルを回収しないかぎり、被キックアウト権は保持できる

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イエローのアクションポーンを黒のスペースに蹴り出すとキックアウトの処理が生じる

①パズルの適度な複雑化
キックアウトのいちばんの長所は、パズルの適度な複雑化だ

キックアウトは手数が増えるのでやり得、とても強力だが、支払いに必要な影響力もまあまあ貴重だ
「せっかくキックアウトしてもらえたのに、影響力が支払いパスせざるを得ない」
といった状況は特に序盤は頻発する
また反対に

「いつまで経ってもキックアウトが生じない
キックアウト用に調整した影響力が崩せない」

みたいな事態もよく生じる


ギャラリストはアクション種の少なさから、最適な動き/正解はある程度決まっている
・新人を発掘
 →を描いてもらう
  →絵を売るための契約を取る
    →プロモーションして売価をブースト
     →晴れて売却


何をどの順番でやっていけばいいかはある程度クリアだ
キックアウトのインタラクションはこのアクションの流れをいい感じに阻害してくれる

こういった作り方は、ラセルダ作品の多くで共通している
・アクション種は5-8種まで絞ってシンプルに
・アクション選択にひとひねり加えて、適度にパズルを複雑化


ギャラリスト以外だと、たとえばカンバン
カンバンはアクションが4種しかなく、極端にシンプルな作りをしている

契約タイルゲット
 →資源を生産
  →資源を消費して自動車を生産
   →契約タイルを消費して自動車を獲得


この順で回るのが断然効率が良い
が、ここまでシンプルだとまともなゲームにならない
カンバンを名作たらしめている最大の因子が、サンドラ工場長というスパイスだ
サンドラはNPCのワーカーで、上記の順と逆順に歩いていく
サンドラがいるスペースでは業績チェックが生じ、対策を怠っていると失点を食らう
「ほんとはあのアクションをやって利益を最大化したかった
でも、サンドラチェックの損失を回避するために、あそこのアクションもやっておきたい」


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Kanban EV(2020)

ちょっと脱線となるが、得点の最大化/失点回避の2択は古典的な手法
あらゆるゲームで使い倒されている
特に要素の多い重量級だと、スパイス的な1要素として用いやすい印象がある
カンバン(2014)以外で例示すると、
・アグリコラ(2007)=食料支払い
・トラヤヌス(2011)=需要トークン
・  アメリゴ (2013)=軍事トラック
・オルレアン(2014)=農業トラック

フェルトは加点要素のポイントサラダ的な重ゲーを良く作るが、ひとつまみ、スパイス的に失点要素を加えることで全体の味が引き締まる

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Trajan(2011)の需要トークン


②相乗りのインタラクション

キックアウトの2点目の特長は相乗りだ
うまく相乗りできると手番を圧縮できる

ゲームの序盤はタネ銭も影響力も足りない関係で、あっちこっちのアクションを少しずつつまむことになる
そのため均等にキックアウトが起こるのだが
中盤~終盤には1~2種のアクションを連発したくなる

すごくおおざっぱに記すと、ギャラリストは、
・ギャラリーにたくさん絵をかざる=ギャラリーボーナス
・絵をたくさん売る=売却ボーナス
・アシスタントコマを破棄しまくる=終了時タイル

これら3つの勝利点ルートを持つ

高得点を取るには1~2本に絞る必要がある
このルートを誰かとうまく被せて相乗りできると、かなりゲームを有利に進められる
被った相手には、アクションポーンをすぐキックアウトしてもらえる
追加のキックアウトアクションができて手数が浮く
しかも、次の手番に同じアクションも打てるので行動がさらに効率化する


反対に誰とも被らなかった場合は本当に悲惨
キックされない場合は同じアクションを連発できない
次の次の手番であればやりたいアクションに帰ってこれるのだが
そのアクションがもし不人気だと、自分のアシスタントを自分の足でキックアウトする羽目になる
その場合はキックアウトボーナスは得られない

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相乗りもラセルダが好んで用いるモチーフだ

ヴィニョスだと名声トークン
同じ地域の畑を作っているプレイヤー同士で協調できる

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リスボアなら個人建物と公共建物
お互いの意図を読んでうまく相乗りできると多く加点が得られる



また、これも大きな長所なのだが、相乗りのインタラクションは通常のプレイをジャマしない

各々がやりたいことをやって、その結果たまたま相乗りが起こったり、運悪く孤立したりする
やり込んできて、「もっとスコアを伸ばしたい、戦略を詰めたい」と考えると
そこで初めて意図的な相乗りが生じてきて、ゲームの深度が一段増す

カジュアルプレイのジャマをせず、真剣なゲームには彩りを
とても上手い設計だ

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(5)総評

ギャラリストを他作品と比較した際の最大の長所はそのバランスの良さ

ヴィニョスは優れた作品だが、ややソロのリソース管理感が強い
カンバンやリスボアは反対に他プレイヤーとの政治面が強く、ヘタを打つと相手に大量加点が入ってしまう
ギャラリストは適度にインタラクティブで、露骨な利敵行為が生じる危険もない
とてもバランスの取れた良作だと評価している

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フリードマン・フリーゼの近年の連作群についてのデザイナーズダイアリー

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(A)基本情報
(B)デザイナーズ・ダイアリー
 (1)フルーツジュース
 (2)ファスト・フォワード
 (3)FEAR、FORTRESS、FLEE
 (4)フルーツジュース・ライム拡張
 (5)電力会社:フェイブル拡張

(A)基本情報

フェイブルシリーズは、以下の共通特長を持つフリーゼの作品群

ルールブックがとてもシンプルか、まったく必要としない
・10-30分の短いゲームを数回繰り返すキャンペーンスタイル
・キャンペーンが進むごとに少しずつルールが追加/変更され、味が変わっていく

Fable(寓話)はおとぎ話や紙芝居くらいの意
ページを1枚ずつめくると(半自動で)ストーリーが進行するように、ゲームを繰り返すにつれ、場面が展開していく
2021年現在、以下8作が該当する


・フルーツジュース(Fabled Fruits:2016)
・緑の幽霊屋敷(FEAR:2017)
・緑の召喚術師(FORTRESS:2017)
・緑の国のアリス(FLEE:2017)
・緑のカジノロワイヤル(FORTUNE:2018)

・サンドキャッスル(Fine Sand:2018)
・グリーンインベーダー(Fire!:2019)
・電力会社:フェイブル拡張(2017)


特に太字の4作はファストフォワード(早送り)シリーズと銘打たれている
4作ともにルールブックがなく、「早送り」の文字通り、箱を開けてカードデッキの1枚目の指示に従うとすぐにプレイを始められる



(B)デザイナーズ・ダイアリー

※元記事:
https://boardgamegeek.com/blogpost/68866/designer-diary-five-fable-games-or-what-was-i-thin
(デザイナーズダイアリー:5つのフェイブル・ゲームズ、あるいは俺は何を考えていた?バカ?間抜け?とにかくたくさん仕事したぜ!)
※極力原文に忠実に訳出したが、適宜意訳・改変行っている
※本ブログ内の関連記事のリンクは以下:
・F.フリーゼの『フルーツジュース』の構造解析

『電力会社』ができるまで(翻訳記事)

フリードマン・フリーゼ:デザインへの執念(1)(翻訳記事)

――――――――



ようこそ俺のデザイナーズ・ダイアリーへ!
今回はフェイブル・シリーズを作ったいきさつについて書く。
だいたい2016-2017年の話だ。

8作に及ぶデカいシリーズだ。
俺はこういう風に何年もかけて連作を作ることがよくある。
疲れる仕事だけど慣れてる。まあ天才だからな。

昔フライデー・プロジェクトっていって、
・暗黒の金曜日(2010)
・ロビンソン漂流記(2011)
・ラクラク大統領になる方法(2012)
・Futternuid(2013)
の4部作を作ったんだが、それも大変だった。

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Friday(2011)


(1)フルーツジュース
最初はフルーツジュースだ。
思ってたよりかなり苦労した。
1ゲームは25分と軽い。
でも59種類のロケーションカードをデザインする必要があったんだ。

もともとフルーツジュース+2作品の3作品を2017年エッセン合わせで企画していた。

予定通り、まずフルーツジュースを2016年先出しした。
結果は想定外の大成功だ!
次作への期待も高まった。
こんなときどうする?
一応あと2発弾はあるけど、予定通り出して手じまいにするのはもったいないよな。

だから、2017年合わせはフルーツジュースだけにした。
翌2018年に、ファスト・フォワードのラインを打ち出すことにした。

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Fabled Fruits(2016)


(2)ファスト・フォワード

まず思いついたきっかけはこうだった。
デッドマンズ・ドローってゲームがある。
チキンレース系の軽ゲーで、まあインカの黄金みたいなもんだ。

ある晩それをプレイしたんだ。
普段の俺ならどんなゲームだって華麗にインストするんだが…
その日はマジで疲れ切ってた。
だから、
「とりあえず始めよう
やりながらインストでいいよな?
ジョージ、親プレイヤーになってデッキの一番上をめくってくれ
やればわかるから」
と。
そんときはなんも思わなかったけど、帰って寝る前に思ったんだよ。

「よく考えたらさっきのやり方めちゃ良かったよな…
あの形式でゲームが作れる。
というよりも、そもそもゲームとはああいう形式で遊べるように作られるべきじゃないか?」

そうだ、このおとぎ話システムを使は使える。
フルーツジュースよりさらに先の、ルールブックナシのゲームを作ってやろう。
箱を開けると、最初は超シンプルなゲームをすぐにプレイできる。
で、短いゲームを重ねるごとに、だんだんゲーム性を追加していく。



作ってみりゃすぐわかるんだが、ファスト・フォワードのゲームって、テストプレイが大変なんだ。
遊び手の消費コストが低い分、作り手にしわ寄せが来る感じだな。
普通の重ゲーだったら、毎回違うテスターに入ってもらってもまあ問題がない。
でもファスト・フォワードシリーズはそうはいかない。
同じグループで10連続以上同じゲームをプレイしてもらわないとならない。
しかも1グループだけじゃなく、属性の異なる複数のゲームグループの協力が必要なんだ。

たとえるなら…
フルーツジュースはワカプレなんだが、ゲームを重ねるごとにアクションスペースがだんだん変わっていく。
1,2ゲーム目の最初の方のアクション効果を変えると、そこから先の全ゲームに微細な影響が生じる。
そのカードが場にある間はもちろんそうだが、場から枯れたあともそうだ。
確実に差は出るんだが、それがどういった質と量の差であるか、テストして検証してみないとわからない。

そんな感じで、時間がかかったし、骨が折れたよ。
俺の大事な友人でもあるテスターにも負担をかけた。


話を戻す。
デッドマンズ・ドローから革新的なシステムを思いついたとこまで話したよな。
俺はすぐさまシンプルなキットを完成させた。
デッドマンズ・ドローとインカの黄金(Diamant)のミクスチャだ。
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Dead Man’s Draw(2015)

結果はどうだったかって?
ヤバかったぜ!
初回テストからもう大ウケだったよ。
9回連続でプレイされ、しかもまだやりたいというリアクションだった。
得られたデータは十分だったからその日はそれで手じまいにしたけどな。

初期キットは最高に盛り上がったんだが…
最終的にボツにした。

・デッドマンズ・ドローに対して優位性がない
運ゲーすぎる

ってのがダメだった。

(3)FEAR、FORTRESS、FLEE


なんやかんやあって、さっきのキットとは別で、
・緑の幽霊屋敷(FEAR)
・緑の召喚術師(FORTRESS)

の2本が完成した。

FEARチキンレース系で、さっきのやつにプレイ感が似てる。
こっちの方が有望株だから残したって感じだな。

FORTRESSは最終的には要塞を作って戦うゲームになった。
でも最初は
フラッグの奪い合いだった。
由来を知ってプレイしたら、そこはかとなく旗を奪い合う香りを感じ取れるかもな。


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FEAR(2017)




これで2作できた。
2作だけでもまあいいんだが、ほんとは3部作にしたかった。

あれは「もう締め切り間近だし、2作でフィックスするか」と決める寸前だった。

そのとき降りてきたんだよ。
緑の国のアリス(FLEE)のアイディアがよ!
FLEEのアイディアはもうテストする前からヤバいって分かってた。
前2作とまた違った魅力だ。
絶対こいつも仕上げるしかないって確信したよ。


未プレイの人向けに、3作のおおまかな感じを書いとくか。

緑の幽霊屋敷(FEAR)はシンプルだ。(ウエイト1.07)
家族やカジュアルゲーマーと遊ぶのに良いし、シリーズの手始めにもってこいだな。

緑の召喚術師(FORTRESS)はちょっぴり複雑だ。(ウエイト1.31)
その分サプライズ要素を盛り込んでいる。

緑の国のアリス(FLEE)は前2作と打って変わって協力ゲームだ。
しかも段違いに重い(ウエイト2.21)。
雰囲気は
脱出ゲームみたいな感じだな。
かなり集中してパズルに取り組まないとクリアできないようにした。


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FLEE(2017)

(4)フルーツジュース・ライム拡張
またフルーツジュースに話が戻る。
行ったり来たりするが、時系列的にはこうなってる。

さっきも言ったように、フルーツジュースは大成功に終わった。
大成功の次には何が来る?
拡張セットだ!

実際、俺の友だちが娘とグループでやって、フルーツジュースを完走したんだってさ。
で、娘さんが、
「これで終わりなの?
新しいのあったらいいのに」

って言ってニコニコしてるんだとよ。
んなこと言われたら作るしかないよな、拡張をよ!


フルーツジュースは大体カードゲームだ。
カードゲームの拡張はカンタンだ。
カードを増やせばいい。
基本セットが59種だから、20種の追加がよくあるラインだな。

口で言うのはラクだが、実際は大変だったよ。
まず、基本セットだけで59種類も作ったのがちょっと間違いだったな。
正直ネタ切れだ。

ネタはまあどうにかなる。
でもそれ以上に、拡張をどのように基本セットに組み込むかも工夫が要った。
まず以下の2案が浮かんだ。

①60~79番目のカードとして、基本ゲームの続きとして組み込む
②基本ゲームとは完全に別で、独立拡張として出す


①基本ゲームの続き

これはダメだ。
ネタバレになるから詳しく書かないけどさ、フルーツジュースのラストって、リアルにゲームが閉じるようにデザインしてんだよ。
だから、単に60~79番目に出てくるロケーションカードにはできない。
一度きちんと閉じたものは、みだりに開くべきじゃない

②独立拡張
「基本セットからはフルーツ(資源カード)のデッキのみ使います。
新カード20種を使ってまったく別なキャンペーンをやりましょう」

だ。
こっちの案はアリっちゃアリだ。
でもさ、混ぜて遊べねえってのもつまんないわな。
だからボツだ。

最終的には、基本セットのデッキの後半から導入するかたちにした。
拡張はライムだ。
グリーンのフルーツ、最高だよな。
ライム拡張以降、全カードのコストに1ライムが追加される。
ライムは初期のフルーツデッキには入ってないから、取るためには拡張セットのアクションスペ―スに行かないとならない。
細かい話は省略するけど、このテストや調整もまあ大変だった。
巻きでやっても1キャンペーン3時間はかかるからな。


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Fabled Fruit: The Lime Expansion (2017)


(5)電力会社:フェイブル拡張
ジョークだと思うか?
作ったんだよ、マジで。
俺にとっては毎年の恒例イベントなんだが、「今年の電力会社の拡張どうしよう問題」ってのがある。
電力会社はモンスター級にヒットしたから、毎年絶対に1作拡張を出してるんだ。

で、2017年シーズンは、だいたい上の感じで作ってた。
もう
フェイブルシリーズしか頭になかったわけだ。
その俺が何を出すかわかるよな?
フェイブルシステムと電力会社で合体だ!

電力会社は1ゲーム2時間級だ。
20分クラスのフルーツジュースみたいに20戦のキャンペーンは組めない。

だから3ゲームのキャンペーンにした。
15枚のカードを3ゲームかけて使用する。
3ゲーム6時間のキャンペーンだ。
それでも長いが、まあ十分扱えるサイズだ。


基本セットのドイツ・アメリカマップに対して、それぞれ3ゲームずつ遊べるようにしたよ。


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Power Grid: Fabled Expansion(2017)

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レッド・アウトポストは2019年のキック作
ソ連が冷戦に勝利したパラレルワールド
新惑星に着陸した行政官(プレイヤー)は人民を指揮し、赤軍の前哨基地(レッド・アウトポスト)を設立
共産主義の理想郷の礎を築く
プレイし、良さを感じたので記事化する

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(1)基本情報
(2)インタビュー
 ①人となり
 ②幼少期
 ③面白さを生む因子
 ④-⑦レッド・アウトポストの制作背景
 ⑧新作
 ⑨制作のコツ
 ⑩ベラルーシのゲームシーン
 ⑪趣味としてのボードゲーム
(3)考察
 ①マーケティング ーキック向きの販売戦略
 ②シェア・プレイスメントの解剖
 ③株券メカニクスとの奇妙な近接
(4)総評


Red Outpost (2019)
Designer Raman Hryhoryk
Artist Irina Pechenkina, Maxim Suleimanov
Publisher Lifestyle Boardgames Ltd + 4 more



(1)基本情報
人数:1-4人、ベスト3人
時間:30-60分
複雑性:2.40 (参考値:ウイングスパン=2.42)
ランク:2300位 (2021/4/1)

要素:共産圏、ソ連、テラフォーミング、スチームパンク/歴史改変モノ、集団農場、ワーカープレイスメント、エリアマジョリティ
言語依存:なし

流通:日本語版はない
数字:本作は3800人が支援し、1500万円集まった


デザイナー:
ラマン・フリホリックベラルーシ人の(おそらく)兼業デザイナー
年齢記載ないが、写真の感じは20代後半~30代前半くらい
首都ミンスクで活動している
レッド・アウトポストがデビュー作で、本作以外の代表作はなし


ベラルーシの素描:
国土はイギリスよりちょっと小さいくらい
人口は1000万(イギリスは6000万)

1991年のソ連崩壊後独立した東欧の小国
ルカシェンコが1994年から20年以上独裁政権を保っており、社会主義を敷いている

同氏はヨーロッパ最後の独裁者と呼ばれる
経済、政治、エネルギーにおいて対ロシアへの依存度が強く、安定性を欠く
公用語はベラルーシ語とロシア語
本記事のインタビューもロシア語で行われている


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全聖人のための教会,ミンスク,ベラルーシ



(2)インタビュー

※元記事:
https://tesera.ru/article/1558317/
※和訳方法
Deepl translatorでロシア語→英語に下訳し和訳した
(Deeplの露→和の直訳の精度が低いため)
※意訳・改変行っている



――――


①あなたの人となりを教えてください。

ラマン・フリホリック、ベラルーシ人の男性だ。
特別な何かを自分のなかに持っているわけじゃない、普通の人間だ。
だからあんまり自分のことを語りたくないし、語るべきものもないと思う。

② ボードゲームを始めたきっかけを教えてください。

いつから心惹かれているかははっきりと覚えていない。
子どものころ、いちばん昔に触れたテーブルゲームはたぶん狼と羊*だ。


*狼と羊:
詳細不明、‘'ウサギと猟犬‘'や‘'バイソン将棋‘'のような、古典的な非対称のチェス風のゲームと思われる


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(ウサギと猟犬,世界のアソビ大全,2020)

学生時代はとにかくお金がなかったから、2000円以上のゲームなんてまず手が出せなかった。(ベラルーシの所得水準は日本の1/6程度)
初めて遊んだユーロゲームはマンチキン(2001)だ。
マンチキンはすごく好きだったんだけど、今冷静に見返すと、まああんまり優れたゲームではないね。
ゲームバランスは無茶苦茶で、ひどい足の引っ張り合いも生じる。


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Munchkin(2001)

今はドライでソリッドなユーロに心を惹かれている。
ある程度なんでもやるタイプで、ゲームは200個くらい持っている。
特に立派なコレクションってわけじゃなくて、どこででも手に入るシンプルなものばかりだ。


③何がゲームの面白さを強く規定すると考えますか?


難しいが、一定のランダム性は不可欠だよね。
単に最適化した手を打ち続けて点数を競う競技にするべきではない。
ランダム性はゲームにワクワク感を添えてくれるのも良い。


 
④レッド・アウトポストを制作されたいきさつについて伺えますか?

まず、20個か30個ボードゲームを遊ぶと、「自分でも作ったら面白いんじゃないかな」って考えた。
これはだいたいみんなそうだと思う。そういうもんだよね。
で、試作品を作って、「これはかなり良い」と確信が持てた。
2010年に第1回のRootsコンテスト*に参加した。

*Rootsコンテスト
詳細不明、ロシア圏のボードゲームコンペか何かと思われる


他の人に試作品を見てもらった結果、
「ちょっとこれは人前に出したり、出版できるレベルじゃないぞ」

と気づいた。

そのあと何回かRootsに出したけど、最終的にうまくいかなかった。
「いったん制作はやめよう。
もっといろんなゲームを遊んで視野を広げた方がいい
デザインやメカニクスについて学んでからでも遅くない」

と考え、いったん手を止めることにした。
ゲーム制作への強い衝動は収まったが、「いつか良いものを」という熱量は残っていた。


それから数年して、レッド・アウトポストのいちばん最初のアイディアを思いついた。
いつ、どこから思いついたのかは覚えていない。
降ってきたような、ほとんど本能的なものだったと思う。
僕はワカプレが一番気に入っている、手になじんでいるメカニクスだ。
普通のワカプレでは、プレイヤーはワーカー自身になる。
でも、僕のアイディアは違った。
プレイヤーはワーカーたちが働く居住地の管理者/行政官であって、政府のような立場から市民に影響を与える。
各ワーカーは行政官の指示によって働くが、ワーカーもプレイヤー自身に影響を与えるんだ。
行政は市民に影響を与え、市民の活動によって政府自身も変容していく。
そういうシミュレーション的な構造を作ろうと思ったんだ。
このアイディアで2年ほどいろいろ試した。
その結果、どういうメカニクス、サイズ感、構造で実装すればいいかだんだん掴んできた。
試すうちに明らかに腕前が上達するのを感じたよ。

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⑤ゲームの構造について教えてください。

シンプルなゲームだ。
・使用可能なワーカーを手に取る。
・空いているスペースに移動させてアクションさせる。

それだけだ。
2人戦だと1人18手やったら終わり。
とっつきやすくて、遊びやすい。
一部のカードモジュールを除外したファミリールールを採用しているから、あまりボードゲームに慣れていないファミリー層にも勧められる。

でも、ただ単にシンプルなだけではない。
自分が得するように打つのはけっこう難しいよ。
ゲーマーを楽しませるだけの奥行きがある。

⑥どのあたりに悩ましさがありますか?

どのワーカーを選んで、どこに移動させるか。
移動させると元いたスペースが空くんだ。
その空いたスペースに別のワーカーが入ってこれるようになる。
ヘタに隙を見せると相手に強いアクションを打たれる恐れもある。
また、このゲームはほぼランダム要素がないんだけど、カードにだけけっこう強い運要素がある。
2種のアクションスペ―スでカードを山からガチャ引きできるんだけど、
「見えているアクションで明らかに有用なものは残っていない。
となると、ランダム性に任せることになるが、カードドローしていくべきか…?」

と、やるべきタイミングの判断がなかなか難しい。


⑦テーマや世界観を伺えますか?
僕たちの世界の歴史では、米ソ冷戦においてアメリカが勝利して、ソ連は1991年に崩壊した。
で、21世紀は資本主義圏が支配している。
本作は歴史改変モノで、「共産圏がもし覇権を握ったら?」の世界線を描いている。
共産主義的な使命を帯びたプレイヤーたちは
まったく新しい惑星に着陸した。
プレイヤーは行政官で、一緒に移住してきたワーカーたちが働く居住地を管理する。

アートワークだけど、ワーカーの服装や住居は、地球でも見るなじみ深いものにしてもらった。
ただ、ボードやボックスアートをよく見ると植生や動物が地球とはまるっきり異なるのに気づくと思う。
このあたりはアーティストやイラストレーターが本当に偉大で、賛辞を送りたいよ。

ソ連のコルホーズ(集団農場)の写実的なイラストと、未知の惑星の幻想的なアートの融合がなされている。
私の期待以上の仕上げになっているよ。

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⑦メカニズムについて掘り下げられますか?
全員で共通のワーカーを使うとは?


メカニズムはさっきも触れたとおり、シンプルさを優先した。
ワカプレは僕の好きなメカニクスで、そこにアレンジを加えてオリジナルなものに仕上げた。
全プレイヤーでワーカーをシェアして、ワーカーは共通の場を移動してアクションする。
ワーカー・プレイスメントに対して、シェア・プレイスメントとでも呼ぶのが適切だと思う。
ワーカーは6種類あり、全ワーカーが全アクションを打てはする。
でもワーカーごとに得意不得意がある。
もし不得意なアクションをさせるとムード・メーターが下がってしまう。不向きな労働をあてがわれて、イライラして落ち込むんだ。
たとえばブルーのワーカーは漁師だ。
漁師は魚釣りが得意だ。
常人の倍のパワーでやってくれるうえに、まったく疲れない。ムードメーターが下がらないんだ。
でも、漁師以外、たとえば本来小麦作りをやりたがっているイエローの農夫なんかにさせるとムードメータ―が下がってしまう。不向きな仕事をやらせた行政官の責任だ。

2人戦だと9手番やると1日が終わって、夜の得点計算に移る。
ここではワーカーが各行政官を逆評価する。
それぞれのワーカーを最も多くアクションさせたプレイヤーはムード・メーターに応じて勝利点か減点を得る。
たとえば漁師をあなたが2回、プレイヤーBとCが1回ずつ動かしていて、漁師のムード・メーターが+2なら、マジョリティを取ったあなただけが2勝利点を得る。


⑧新作は何か作っていますか?

現状はない。
少し停滞期に入っている。

ゲーム制作は簡単じゃないけど、本当に刺激的だ。麻薬のように。
アイディアを試作キットのかたちに起こすと、より良いかたちが発見される。
テストプレイを繰り返して良くしていく。
新しいことを試す。
この一連の流れは楽しい。ノンストップで進む。
中毒的な、抗しがたい魅力がある。

ただまあ、ゲームプレイだって同じような良さがあるよね。
名作を一度遊ぶとリプレイが止まらなくなる。
拡張を入れて試したくなる。
同じデザイナーの別作品を試すのも最高だ。

制作もプレイも、体験の質は似ている。
同じ麻薬の別の側面だ。
ただ制作はプレイよりずっとヘヴィだ。
一定の快感量が得られるまでのプロセスがとても長い。
でも達成できればそれだけの幸福感が得られる。 
 
⑨ゲーム制作をする人間にアドバイスなどありますか?

感情的、抽象的なアドバイスとしては、あきらめないでほしい。
たぶん想定より長くかかるし、その間いろんな感情を抱く。
具体的なヒントとしては、様々なボードゲームで遊ぶのは制作にとって有益なはずだ。
他の分野でもそうだけど、何かを発明するためには、その分野の先行作を学んで理解するのが最短の方法だ。
もちろん、他作品の単純な模倣をしても意味はないが。


⑩ミンスクのボードゲームシーンについて教えてください。
ボードゲーム自体は多く流通している。
新作の流通は他の先進国よりたぶん遅い。
でもまあ、今の時代キックスターターの作品とかは全世界同時に届くわけだし、あまり不便さを感じない。


⑪趣味としてのボードゲームの長所、利点はありますか?

利点は2点ある。
1つ目はコミュニケーションツールとして。
ゲームだけをするってことは、僕の場合はほぼない。たとえば定期的に友人と夜に集まって遊ぶけど、ゲームが終わってから2,3時間話し込んでしまう。
ゲームについてもそうだし、そこから派生したお互いの話題についてもだ。
ゲームがあるからこそ、会話が円滑に瑞々しいものになる。

2つ目は、いろんな楽しみ方が許されているところだね。
ゲームそのものがまず多様だ。
パーティゲームもあればゲーマーズゲームもある。
ミニチュアをペイントしても良い。
ロールプレイを楽しむも良い。
ただ収集するだけでも立派な趣味だ。
そういった多様な体験を提供してくれる、豊かな文化だと理解しているよ。


(3)考察

①マーケティング ーキック向きの販売戦略

レッド・アウトポストのマーケティング上の戦略は「3000円で遊べるサイズ:大鎌戦役」

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Scythe(2016)

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Red Outpost(2019)

両作とも似た構図を採っている
前景にはミレーの落穂拾い(1857)のような、柔らかいタッチで農村
遠景には未来的なゴツいメカ
その遠近のアンバランス、新旧の取り合わせをフックにしている
Scytheだとメック、レッド・アウトポストでは着陸した宇宙船と、テーマは異なるが

キックスターターのユーザーはこれを見て、十中八九Scytheを連想する
Scytheのファンの何割かは「面白そう」と興味を持つ
Scytheは17000人集めた化け物プロジェクトだ
かりにそのファン層の10%ちょっと呼び込めればそれで2000人、1000万円集まる

ラマンにとって本作ははじめてのキック
これまでに実績がない場合、既存の有名作のファン層を見込むのは合理的な戦略と言って良い
その対象としてScytheを選んだのは最適な判断だと評価する



マーケティング周りで記すなら、値段設定も上手い
基本セットは30ドル、デラックスセットで35ドル
このあたりの数字勘に長けた人間はおそらく筆者以外に無数にいるため、あまり触れないが
安さは明白な武器になる

「ヴィジュアルがScytheっぽくてカッコいい
しかも4000円なら手頃
とりあえずバックしとくか」

とサイフのヒモが緩む

②シェア・プレイスメントの解剖


インタラクション要素の強い45分級だ
プレイ感が近めなものは、
・王と枢機卿(2000)
・ビッグショット(2001)
・エルサレム(2010)
・箱庭鉄道(2017)

あたりが挙げられる

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Mini Rails(2017)

デザイナーがシェア・プレイスメントと呼ぶように、本作ではワーカーをシェアする
が、ワーカーだけでなくリソースもシェアする
この世界は共産主義者たちの理想郷なので、個人所有の概念がない
ワーカーに生産させた資源は、いったん国営の倉庫に移される

現金リソースだけはかろうじて所有が許されるが、ほぼ全てが国に管理される


「もしワカプレからプレイヤー固有のワーカーをなくし
個人ボードもなくし
所有の概念すらなくしたら
まだゲームとして成立するのだろうか?
そしてもし成立するなら、それはどういうかたちになるのか」


ディストピア的な思考実験の1つの終着点が本作と言える

この方向性から生じる特徴として、本作は自分だけ得するのとても難しい

自分だけの資源が得られないせいで、ラウンド序盤は特に何をやったらいいか分かりづらい
単に現金が得られるアクションや、あるいはムード・メーターが上がりも下がりもしないアクションを様子見がてら打つことになる
逆にラウンド終盤は、自分の得/相手の損がかなりはっきり見える
ムード・メーターは上げるのは大変だが、下げるのは本当にラクだ
なので、ムード下げ合戦が起こったりする
たとえば炭鉱のアクションスペ―スはブラックの炭鉱夫以外のムードメーターを大きく下げる強アクションなので、相手がトップ確定のワーカーを送り込むと、相対的にかなり得ができる

共産圏テーマだが、プレイ感もきちんと社会主義に寄せている
相手の足を引っ張るのはカンタン
出る杭は打たれる
足並みをそろえる外圧が働くため、自由主義圏より成長が停滞する
ラマンがベラルーシ=旧共産圏で暮らして感じる空気が作風に影響しているのかもしれない

こういう社会は個人的にかなり好かないし、ゲームに導入してもあまり快感を生まないが
本作は、「まあそういう社会だし、しゃあないか」と諦めがつく
ブラックな笑いが生じやすい
フレーバーとの噛み合いの良さももちろんだが、拡大再生産要素をバッサリ省いているためだと思われる
殴り合い主体のゲームでは、エンジンビルドは入れないか、入れるとしても成長パーツを守るのが無難と思われる


③株券メカニクスとの奇妙な近接

株券も、レッド・アウトポスト同様、自分だけが得するのは難しいゲームだ
株式、まさに資本主義社会を象徴するメカニクス
共産圏と異なり、物の所有は許されているが、そのプレイヤーだけの所有は許されない
全てに値札が付いている
他のプレイヤーからの出資は拒めず、必ず相乗りされてしまう

レッド・アウトポストはワカプレ解体のなれの果て=共産圏の丁寧なシミュレートだが、資本主義社会の申し子である株券メカニクスと、奇妙な近接を実現している


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ボード右部のワーカーのパラメータ管理ボード
ボードに置かれた各プレイヤーの影響力トークンは株券に似た働きを持つ




(4)総評
1時間以内と手軽で安い上に、きちんと固有の魅力を持っている
前節のような込み入った思考を抜きにして、ワイワイ楽しめる
広く勧められる佳作だと評価する


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