2020年10月

「北海の侵略者」「西フランク王国の建築家」などを手がけるシェム・フィリップスへのインタビュー



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(1)基本情報

(2)インタビュー
〔1〕背景

 ①来歴
 ②ニュージーランド
 ③ボードゲームのどこが気に入った?
〔2〕北海の侵略者(レイダーズ)

 ④成功の立役者
 ⑤制作の舞台裏
 ⑥KdJノミネート
 ⑦拡張の意図
〔3〕西フランク王国の建築家(アーキテクツ)
〔4〕ゲームデザイン

 ⑧インスピレーション
 ⑨ルーティン
 ⑩いちばんワクワクする瞬間
 ⑪具体的なプロセス
 ⑫よく使う道具、コレクション、旅行先
 ⑬作ってみたいゲーム
 ⑭好きな他作品
 ⑮好きなデザイナー
 ⑯シェム・フィリップスらしさを定義するもの

(3)考察:アートワーカーの継続起用



(1)基本情報(ポートフォリオ)

ニュージーランドの首都、ウェリントン在住
年齢不詳だが、4~50代だと思われる

キャリアは、アートワーカーのミコ(Mico,本名Mihajlo Dimitrievski)と組む前/後で切り分けられる

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Shem Phillips (画像引用元↓)
https://www.rnz.co.nz/national/programmes/lately/audio/2018721911/game-theory-hitting-the-big-time-in-board-games

①ミコと組む以前(2009-2013年)

2009年:Linwood 17000位
2011年:Capek
2012年:Plethora 13000位
2012年:Saqqara 17500位
2013年:Cibola

どれも10000位以下とあまり高く評価されておらず、また生産数も少ない
プレトラ、サッカラ、シボラの3作が脚韻を踏んでおり、若干の3部作みを感じさせる


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Plethora(2012) 

②ミコと組んで以降(2014-)

ミコと組んで以降のフィリップスはヒットメーカーだ

2014年:北海の船大工(シップライツ) 2700位
2015年:北海の侵略者(レイダーズ) 83位
2016年:北海の探検者(エクスプローラーズ) 995位
2018年:西フランク王国の建築家(アーキテクツ) 79位
2019年:西フランク王国の聖騎士(パラディンズ) 89位
2020年:西フランク王国の子爵(ヴァイカウンツ) 4200位
2020年:スキタイの侵略者(レイダーズのリメイク) 9300位


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Raiders of Scythia(2020)

3部作を2セット、計6作品をほぼ毎年
尋常じゃないペースで出している
これだけハイピッチだと、普通駄作が混じってしまうものだが
6作中3作はBGGベスト100以内

ヒットの片翼を担ったミコはマケドニアのアーティスト、イラストレーター

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Mihajlo Dimitrievski (画像BGGより)


(2)インタビュー


下記3記事をもとに統合・再構成した
https://www.blackforeststudio.com/articles/2018/1/2/13-questions-with-shem-phillips

https://www.brettspiegel.de/interviews/10-fragen-an/shem-phillips/

http://nextplayer.com.au/interviews/interview-with-shem-phillips-garphill-games/


ーーーーーーーーーーーー

〔1〕背景
①来歴
をおおまかに教えてください。

ニュージーランドに住んでいる
「ゲームデザイナーになりたい」と思ったことはなかった
ただ、思い返すと昔からずっと創作活動はしていた
兄と仲が良くて、オリジナルのスーパーヒーローのキャラをデザインしたり、歌を作って遊んでいた
過去にはウェブサイト、Tシャツ、ロゴ、様々なものをデザインしてきた

ボードゲームについてだけど、アメリカのクラシックなゲームには触れてきた

・モノポリー(1933)

・スクラブル(1948)
・クルード(1949)
あたりの古典だ

現代ゲームに出会ったのは20代前半
友人にカタンを教わったんだ
衝撃的だったよ
その週末には、急いで地元のおもちゃ屋さんに行って、箱絵だけを見て『カルカソンヌ』と『ファミリービジネス』を買った

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Family business(1982)


そこからは毎日、何か月もプレイした
すぐにウェリントンで地元のボードゲーム大会(ウェリーコン)を発見し、そこで趣味の仲間をたくさん作った

僕は創造性についてジャンキーだから、ボードゲームにハマってすぐ、自分自身でデザインする世界にまっすぐに飛び込んだんだ


②お住まいのニュージーランドについて、もう少し詳しく教えてください。

僕が住んでいるウェリントンはニュージーランドの首都だ
特にここ10年(2010-2020年)で、ボードゲームコミュニティが着実に成長していると実感するよ

・ウェリーコン
・ボードゲームズ・バイ・ザ・ベイ

といったボードゲームのコンヴェンションが誕生した
地元のゲームショップがボードゲームを取り扱うようになったし、ボードゲームカフェ
もできてきた

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ウェリーコン(WELLYCON)のポスター
レイダーズの拡張の箱絵が素材であり、シェムのデザインだと思われる

③ボードゲームのどこが気に入りましたか?


ソーシャルなインタラクションが生じる点
アート性
論理的思考を要するところ

どれも素晴らしいけれど、全く別な3要素がミックスされているのがとても良い
どんな人にとっても引っかかる何かがあるんだ
たとえば僕はヘヴィユーロが好きだけど、全員にとって重量級が刺さるはずはない
そういう人にはコミュニケーション要素の強い推理ゲームが合うのかもしれない
絶対に、何か合うものがあるんだ

〔2〕北海の侵略者

④バイキング3部作(北海の~シリーズ)が特別なものになる
と知ったのはいつですか?


第1部の「北海の船大工(シップライツ)」が、Kickstarterで大成功を収めた
まったくの予想外だった
ここで「今後上向きに進む」と確信したよ
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Shipwrights of the North Sea(2014)

成功の一番の要因はミコのアート
彼の絵はコミカルでありながら、gritty

*gritty
ざらざらした、砂地の、現実的な、空想的でない

誰も見たことがないアートだった
もちろんそれだけじゃない
他の成功の要因としては、
・ルールがシンプルで学習しやすい
ユニークで面白いメカニクス
3部作であること


が挙げられる
このタイミングで、アーティストのミコの人気が急上昇し始めた
続編を求める声も多く、第2部の「北海の侵略者(レイダーズ)」を作ることとなった


⑤第2作目の「北海の侵略者」は、あなたの最も人気のある作品の1つです。
制作について、何か面白いエピソードはありますか?
制作期間はどのくらいでしたか?


制作には9か月かかった
残り2作について詰めたアイデアは全然なくて、わりと行き当たりばったりだったよ
シップライツが成功してから、「さて、続編はどうするか」とブレインストーミングを始めた
タイトルは決めていた
だから、
「侵略者っていうことは、近隣の集落を襲撃する
それがテーマだ」
と、そこまでは既定事項だった
ただ、構造を組み上げるのにはかなり苦労したよ
最終的に今の形にたどりつくまで、10種近くのアイデアを練り上げた

プレイヤーに、
・序盤は陸で船員カードを雇用して支度を整えたい
・中盤からは海に出て、NPCとの戦闘に勝ちたい

っていう欲求のフローを持たせたかった
また、コアメカニクスはワーカープレイスメントでいくと決めていた
さらに、
「ただのワカプレでは面白くない
この作品で、ワカプレというジャンルにフレッシュな何かをもたらしたい」

とも思っていた

ある夜更け、眠れずに天井を見上げているときに、
「1ワーカーを盤面に配置して、別の1ワーカーを盤面から手元に戻す
(place a worker, take a worker)」

というシステムを思いついた
このワンアイディアがレイダーズの基本骨格となった

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⑥「北海の侵略者」は2017年にKdJ*にノミネートされましたね。
当時は驚きましたか?
*KdJ ゲーマーズゲーム・オブ・ザ・イヤー

とても驚いたよ!
発表前に、ドイツの出版パートナーの Schwerkraft-Verlag(シュヴェルクラフト)のカーステンが、
「ノミネートに向けて前向きに準備している」
とは言っていた
ただ、まさか本当に起こるとは
その晩、すぐにTwitterを見ると、何百も通知が来ていた
KdJへのノミネートは、ゲームデザイナーとしての私のキャリアを大きく後押ししてくれたよ

その出版社 "Schwerkraft Verlag "との接触はどのようにして生まれたのですか?


カーステンはかなり早い段階で、「北海の侵略者」の出版についてコンタクトしてきた
当時は、自分の作品群のルールブックをウェブ上でアップしているだけだった
「自分のところと別なパブリッシャーから、他言語でレイダーズが出る」というアイデアはとても刺激的だったよ
シュヴェルクラフトと仕事するのは最高に楽しい
これからも長く付き合いたいと思っているよ

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Schwerkraft Verlag
英語だとヘビークラフト・パブリッシング くらいの意

⑦「北海の侵略者」の拡張は現在いくつも出ています。
どのように基本ゲームを改善していますか?
 
大きな拡張は、
・ホール・オブ・ヒーローズ(英雄たちの大広間,HoH)
・フィールズ・オブ・フェイム(栄誉の野原,FoF)
の2つだ
他にもソロヴァリアントや、ミニプロモカードなどもある


 まず、ホール・オブ・ヒーローズ(HoH)だね

新アクションのクエストタイル、新資源のミードを導入した

レイダーズは中盤から襲撃マスを踏んでNPCを攻撃する
マスごとに別なNPCがおり、すでに撃退されたマスは閉じる
HoHでは使用されて閉じた襲撃マスに、クエストタイルが再配置される
クエストタイルも、襲撃と同じでVPや戦利品がもらえる
その際、コストとして手札を捨てて戦力を支払う

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クエストタイル

※おそらくカード運の緩和がクエストタイルの狙い
レイダーズは船員カードを使って拡大再生産していくのだが、カードのランダム性を強く感じやすい
船員カードはおおざっぱに、
低コストの特殊能力アリ=序盤の拡大の補助
高コストの高戦力 =中盤以降の戦闘目的
に大別される
状況によるが、ゲーム開始時は断然前者の低コストユニットが強い
価値の差がデカすぎて、使わないハイコストカードがずっと手札で腐っているみたいなこともあった
クエストタイルは、そういったハイコストカードの消費手段、不要な資源の吐き先になる

余談だが、拡張で不要カードの消費手段を増やしてプレイ感を整えるのは、カードを使ったワカプレではけっこうよくある
たとえばオーディンの祝祭やワイナリーの四季の拡張でも、不要なカードを捨てさせる新アクションが追加されている



またHoHではミード(はちみつ酒)という新資源も導入した
ミードは戦闘中に消費することで、一時的に戦力を高める

※ミードはダイス運の緩和目的と思われる
オーディンの祝祭の武器カードと同じ役割

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Raiders of the North Sea: Hall of Heroes (2018)


次にフィールズ・オブ・フェイム(FoF)
首長(ジャール)トークンという新しい戦利品を導入した

首長トークンを襲撃アクションでゲットしたら、
・殺す
・捕虜にする
・逃げる

の3択が生じる
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首長トークンと首長ボード

殺すのがいちばんシンプルだ
栄誉が得られる
レイダーズでは、戦力トラック、ヴァルキリートラックと2個トラックがあった
この拡張では第3の栄誉トラックが追加された
栄誉は欲しいが、船員が負傷するリスクもある

第2の選択は生け捕り
ただ、捕虜にするのも負傷のリスクがある
ゲーム終了時、いくつかのエリアの首長を集めておくとセットコレクションで勝利点が入る

最後の選択は逃亡
逃げるは恥だ、何の役にも立たない
できれば選びたくない
負傷せずに済む代わりに、プレイヤーは栄誉トラックの後退か失点を選ぶことになる

栄誉トラックは、首長の首を獲るだけでなく、略奪アクションで圧倒的大差で勝ったときも進む 
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Raiders of the North Sea: Fields of Fame (2018)

〔3〕西フランク王国の建築家(アーキテクツ)

レイダーズがワカプレをアレンジした作品だった
アーキテクツもまた、ワカプレにひとひねり加えたもの
プレイヤーは20体のワーカーを持ってゲームを開始する
1手番目、たとえば採石場にワーカーを配置すると、1個の石をゲットできる
2手番目にもう一度ワーカーを置くと、今度は2個石が手に入る
3ワーカー目だと3石だ
アーキテクツでは本当にイージーに拡大再生産のエンジンを組むことができる

が、欲張りすぎると良くない
ボード上には、他プレイヤーのワーカーを捕縛できるスペースがあるからだ
他プレイヤーに捕縛されたワーカーはお金を払って刑務所に送ってあげないと回収できない

このように、ワーカーを配置して回収するまでのプロセスに工夫がなされている

また、このゲームには美徳トラックが搭載されている
このトラックがゲームにテーマ性と独特のテイストを加えている
善人となれば多くの勝利点が稼げる
悪に染まれば税金の支払いをごまかして、たくさんアクションすることができる

アーキテクツの主目的は、「資源を集めて大聖堂を建てる」という、まあありきたりなものだ
しかし、
ワーカーの運用の悩ましさ
捕縛というユニークなメカニクス
美徳トラック

といった要素が体験の質を高めている

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Architects of the West Kingdom (2018)

 〔4〕ゲームデザイン

⑧ゲームのインスピレーションはどこから得ていますか?

他のゲームから
もらうことがいちばん多い
デジタルゲームでも卓上ゲームでも
いちばんプレイ時間が長いのがPCゲームのエイジオブエンパイアII
たくさんプレイしたし、今でもプレイしている
最近は中世テーマのゲームを多く出しているけど、AoEIIから大きな影響を受けているよ


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Age of Empire II (1999)


⑨制作において、何かルーティンやパターンがありますか?

PCの前に座ってムリヤリひねり出すっていうガラじゃない
逆に、作業場から離れた方がクリエイティブになれる
アーキテクツのところでちょっと話したけど、ベッドで何もせずに新しいアイデアを考えるのはよくやる
夜更けとか、明朝とか
そういう時間を取るのが、僕にとってルーティンみたいになっている


朝の時間、いいですね。何かお気に入りの飲食物はありますか?

朝はホットチョコレートを飲むのが好きだ


⑩ゲームをデザインしていて最大の満足感を得られるものは何ですか?

いくつかある

開発過程で、アーティストから新しいファイルが送られてくるとき
最高にワクワクする

他の人が私のゲームを楽しんでくれているのを見るとき
とても楽しい
遊んでもらうことで、それぞれのゲームの隠された深みを発見できるからだ

完成した印刷物を初めて手にするとき
本当に楽しい気分になる


⑪デザインの具体的なプロセスはどのようになっていますか?
・コンピュータとにらめっこする
・古いメモを読み返す
・いちどあきらめてアイディアを寝かせる
・気晴らしにAge of Empires IIをプレイする
・試作品で遊ぶ
・またあきらめる
・眠って新しいアイデアを考える
・飽きるまで寝る
・新しいアイデアに取り組むために起き続けて午前4時


羅列すると、こんな繰り返しだ
これをプロセスと言っていいのかわからないけど


試作品を作るときに最もよく使うものは何ですか?

カードスリーブ、カラーキューブ、ミープル


 何かコレクションしていますか?

けっこうあるよ
まずボードゲームだよね
あとは、ファイナルファンタジーとロードオブザリングのフィギュア
それと、ダイスも趣味で集めてる


行ってみたい旅行先はありますか?

エジプト、フランス、イタリア、クリスマスのニューヨーク


⑬今後作ってみたいゲームは?

協力ゲームも作りたいなって思ってるよ
共同制作者のサム・マクドナルドとたまに話している
マット・リーコックのパンデミックシリーズがとても好きなんだ
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Pandemic(M.Leacock, 2008)

⑭パンデミック以外で、現在、最も多くプレイしているゲームは?

試作品以外だと、
・サイズ:大鎌戦役
・サグラダ
・キングドミノ
・By Order of the Queen
・デッドオブウィンター
このあたりだね

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By Order of the Queen (D.Gerrard, 2017)


ボードゲームになじみがない人に紹介するとしたら、どのようにやりますか?

コアなゲーマー相手じゃないなら、自分のものだと、
・北海の侵略者(レイダーズ)
・北海の探検者(エクスプローラーズ)

あたりを勧めるかな
一番ライトな部類だからね
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Explorers of the North Sea (2016)

自分のもの以外なら、
・アズール
・コードネーム
・チケット・トゥ・ライド
・あやつり人形
・フォー・セール
・キングドミノ

あたりを勧めると思う

どれも、基本的なメカニズムを学ぶことができる
・カードのドラフト
・ワーカーの配置
・アクションの取り方

そういうのをゆったり学べるゲームがいいんじゃないかな


⑮好きなゲームデザイナーは?
・ブルーノ・カタラ
・ブルーノ・フェイドゥッティ
・マット・リーコック
・フラーダ・フヴァチル


ドイツ人だと、好きなゲームデザイナーは誰ですか?
ドイツ人限定だと、シュテファン・フェルトが最も好きだよ
実は各デザイナーの出身地について全然知らなくて、この機会にBGGで調べたんだ
フェルトの何が好きって、スタイルがとても独特なところだ
フェルトらしさがある
遊べばすぐ、「これはフェルトのだ」ってわかる
素晴らしいよね
僕のデザインでも「プレイヤーにそういう風に感じてもらえたら」と思うよ
あとは、勝利への道筋を複数用意している点もいい
毎ターン、とても悩ましい決断を迫られる

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Trajan(S.Feld, 2011)




⑯最後に、シェム・フィリップスらしさとはどういったものですか?
デザインスタイルを3つの言葉で表現すると?

そうだね…

まず、流線型(Streamlined)であること
合理的で無駄がないこと

そして、親しみやすいこと(approachable)

最後に奥深さ(depth)

この3つだと思う


――――――――――




(3)考察:アートワーカーの継続起用


フィリップスの成功の要因の一つに、アートワーカーのミコが挙げられる


良いアートワーカーを起用しつづけることで、ブランドイメージが得られる
「このアーティストの絵といえばこのデザイナーのゲーム
と1対1対応のイメージができる

今回のフィリップス×ミコ以外でも、こういうイメージ戦略を取っているデザイナーは数組いる

パっと思いつくのは、


ヴィタル・ラセルダ×イアン・オトゥール (On mars, Lisboa など)

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On Mars(2020)

パトリック・レーダー×カイル・フェリン (Root,Oath)

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Root(2018)

の2組

本記事では、
・フィリップス×ミコ
・ラセルダ×オトゥール
・レーダー×フェリン

の3組にフォーカスして論を進める


彼らのゲームは例外なく購買欲をそそる
欲しくなるのだ
筆者は物欲の渦に飲み込まれないよう最大限注意して生きているが、ラセルダ作品については、

「ヴィニョス、本当によかった
オンマーズもオトゥールのアートが最高だ、めっちゃいい、欲しい
エスケープ・プランもリスボアも棚に揃えたい」


否応なくコレクション欲求が掻き立てられてしまう


フェリンの描いたRootのアートワークもとても強烈な訴求効果がある
Rootを遊ぶと、回る機会が少ないのに拡張も欲しくなる
また、同じコンビのOathもやってみたくなってしまう


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Oath(2021)



この3組について少し掘り下げてみよう

共通点は、

・非ドイツ系
・大規模パブリッシャーに属していない
・Kickstarterが主戦場


の3点

①非ドイツ系

フィリップスはニュージーランド、ミコはマケドニア
Rootのパトリック・レーダーはミネソタ在住
ラセルダはポルトガル、オトゥールはオーストラリア

インタビューやBGGのページを見る限り、上の3デザイナーは自身で直接アートワーカーと契約している
また、フィリップス(Garphil Games)とレーダー(Leder Games)は自身で小さな会社をやっている

彼らと真逆の、ドイツ系のデザイナーを何人か見てみよう
・ローゼンベルグ
・フェルト
・クニツィア

彼らの共通の特徴として、自身の会社は持たず、作品ごとにパブリッシャーと契約して出版している
毎回別な出版社に持ち込む場合が多い
ローゼンベルグはここ数年フォイアーラント社からもっぱら出している
あるいはフェルトはアレア社と昔からいい仲だったり

そういう個別例はあるが

一般的な構造として、
・デザイナーがパブリッシャーに持ち込む
・パブリッシャーサイドでアートワーカーを選んで発注

という流れで作っている
パブリッシャーがあいだに入るフローであり、この場合アートワーカーは固定しづらい

ただ、パブリッシャーが意図して企画している場合は例外だ
たとえばQueenによる最近のフェルトの再販は、アートワークを固定して統一感を強めている


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Stefan Feld City Collection(2020-)

あとは、もはや考察でもなんでもない雑談だが、アートワーカーの選定については、
「パブリッシャー側で懇意にしている人
仕事を回しやすい/頼みやすいアーティストってのがたぶんいるだろうな」

と感じる
ドイツゲームでよく見かけるアートワーカーといえば、
クレメンス・フランツ(アグリコラ、オルレアン)
デニス・ロハウゼン(オーディンの祝祭、テラミスティカ、キャメルアップ)


この2名が挙げられる

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Denis Lohausenの近影(BGGページより)
サングラスを2つ着用しており、とてもイカしている


一般に、同じ言語圏で、近くに住んでいる人には気軽に依頼できる
デニスとクレメンスはともにドイツ語圏在住だ
クレメンスはオーストリア人で、デニスはドイツのケルンにいる

・ドイツ語話者(コミュニケ―ションコスト)
・依頼費の安さ(金銭コスト)
・筆の早さ、レスポンスの早さ(時間コスト)


このあたりのコストの低さと案件の多さは強く相関しそうだとぼんやりと感じる

②大規模パブリッシャーに属していない


新たにアートワーカーに依頼する際は、
・コンセプトのすり合わせ
・イラストの得意/不得意分野の確認
・依頼費の交渉

など、けっこう手間がかかる

中規模以上のパブリッシャーにとっては大した負担ではないかもしれないが
フィリップスやレーダーのような1~3,4人程度の会社にとっては、普通避けたいコストとなる
こうしたコミュニケーションコストが省けるのも継続契約の大きなメリットだと思われる

③Kickstarterが主戦場


オトゥールやミコのアートはキック映えする
センスが良いし、買いたくなる
ワクワクさせてくれる

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Escape Plan(2019)

何がワクワクをもたらすのだろう?
新しさ

Kickstarterは、これまで世の中になかったものを実現するためにお金(fund)とクラウド(crowd)を集めるプラットフォームだ
ユーザーはプロジェクトにワクワクを求めている
新しい何かを探している

では、何が新しいのだろう?

あるいは、何が新しくないのだろう?


既存のドイツゲーム
なじみの、よくあるタイプの、クラシックな、オーセンティックな

では、「既存のドイツゲーム感」を構成する要素は?

やや乱暴だが、クレメンス・フランツやデニス・ロハウゼンの画風はその一因になりうると筆者は捉えている

一例だが、クラニオのルチアーニは「バラージ(2018)」をKickしている
過去にルチアーニは「グランドオーストリアホテル(2015)」でクレメンス・フランツと組んでいる
また、デニス・ロハウゼンとも「マルコ・ポーロの旅路(2015)」を作っている
が、kickをやるうえでは彼らを起用しなかった

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最後に、新しさについて仔細に言語化/掘り下げようとするのはあまり実用的でなく、やや不毛だ
定義が刻一刻と変わっていくからだ

大きくハネたプロジェクトについて、「何が新しさ/成功要因だったのか」はくまなく解析される
そして後発の企画者らによって模倣される
ただの二番煎じであれば、かつて新しかった要素は陳腐さと使い回しの印象を与えかねない
逆に、オリジナルを超える付加価値が提供できれば、プロジェクトの成功率は高まる


――――


ミコ、フェリン、オトゥールらのユニークで引き込まれるアートワーク
プロジェクト成功の立役者
バッカ―の欲求を駆動する着火剤として、この上なく有効に機能している


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ヴィニョスはヴィタル・ラセルダの代表作の1つ
プレイし、強い魅力を感じたので記事化する

同作は、

・シビアな旧版(2010年)
・マイルドなデラックス版(2016年)

がある
本記事ではデラックス版・拡張込み準拠で記載する


本作、および他のラセルダ作のプレイについては、ロニーさんミキさんきすけさん、ならびに大阪天王寺のキンケッドテイルにとてもお世話になりました。
この場を借りて感謝申し上げます。
なお、キンケッドテイルはラセルダの代表作がおおかた揃っており、店長の都合が合えばインストもしていただけます。


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(1)基本情報
(2)テーマ
 ①ポルトガル王国時代 1139年-1910年
 ②第一共和制 (軍事政権の乱立) 1911-1926年
 ③第二共和政(サラザールの独裁) 1927-1974年
 ④第三共和制(ヴィニョスの時代) 1975-現在

(3)魅力
 ①ヘビーだがすっきり
 ②見通しがクリア
 ③構造はシンプル
 ④ダウンタイムは長め
 ⑤拡張はおすすめ

(4)考察:ラセルダのサブアクションー第4の拡大再生産パーツ
 ①快感
 ②使いこなすのが難しい
 ③アクションの優先度が変わる
 ④自然と特化ルートが分かれる
 ⑤リプレイ欲求を強める
 ⑥収束性を悪化させない

(5)総評

Vinhos Deluxe Edition (2016)
Designer Vital Lacerda
Artist Ian O'Toole
Publisher Eagle-Gryphon Games

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(1)基本情報

人数:1-4人、ベスト4人
時間:60-150分(4人、インスト込み180分)
複雑性:4.06(参考値:白ブラス=3.92)
ランク:115位(2020/10/1)

要素:ワーカープレイスメント、リソースマネジメント、ポルトガルワイン
言語依存:なし

流通:2020年10月2週より、ふるりん本舗にて販売予定とのこと

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(2)テーマ

ポルトガルワイン
ラセルダはポルトガルの首都リスボン出身のデザイナー
「リスボア」と同じく、本作も故郷がテーマ


筆者はまったく知らなかったが、ポルトガルはワインの大産地/消費地
世界における生産量は11位(2018年)
消費量は1位(2018年)で62L、ボトル換算で80本以上
土日に欠かさずボトル2本空けるくらいのハイペースで飲み倒している
ちなみに日本は3,4本/年、グラスワインで月2杯程度

ポルトガルはブドウの生産に適したワインベルトと呼ばれる帯域に属する

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北半球の北緯30~50度、南半球の南緯20~40度がワインベルト

ポルトガルワインはその多彩さ、ヴァリエーションの多さが最大の特長とされている
背景には国土の形のユニークさがある
ポルトガルはとてもタテ長の地形をしている
南北に長いため、地域によって気温・降水量・地質がガラっと変わる
必然、各地で育つブドウの質も多様化する

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ヴィニョスの時代設定は、正確な記載が見つけられなかったが1986年ごろだと思われる

記事の構成上必要なので、以下、ポルトガルの歴史をちょっとだけサマライズする
適宜読み飛ばしを推奨する


①ポルトガル王国時代 1139年-1910年

1400年ごろまで、ヨーロッパ世界は地中海交易が主流だった
ポルトガルとスペインはヨーロッパの端っこにいたせいで地中海交易のうまみゼロだった
反対にヴェネツィア、ジェノヴァなんかは地中海へのアクセスが抜群で、覇権を握っていた

が、1400年ごろから、

・イスラム圏から羅針盤を輸入
・外洋に出れるデカい船の開発

とポルトガルにとって有利な状況に

さらに、
「外洋に出ないとポルトガルは国として終わってる、マジでどうにもならない」
という内的衝動がミックスされ、大航海時代が始まった

先行者利益とばかりに西アフリカの、インド航路の香辛料、ブラジルの砂糖を独占
地中海に出にくいデメリットも、裏を返せば大西洋に出やすいメリットに
1400-1600年はポルトガルとスペインの天下だった

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ナヴェガドール(2010,M.Gerdts)は同時代のポルトガルがテーマ
プレイヤーらは外洋に出て新大陸を探索、砂糖、金、香辛料を交易する


しかしその後、
・ベースパワーのあるイギリス、フランス、オランダらもゲームに参加
・最大利権だったブラジルに独立を許してしまう
・フランス革命のあおりを受けて、王政→共和制の流れが全世界的にブームに

内からの革命の炎、対外的には強敵が出現、メインエンジンのブラジルの喪失
と、競争力が著しく低下
徐々に優位を失っていった
1910年に共和制革命が勃発
国王は退位、共和制にシフト

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②第一共和制 (軍事政権の乱立) 1911-1926年

不景気と第一次大戦
内政は安定せず

軍事政権立ち上げ→1年経たないうちにクーデター/反乱→別政権

が繰り返される

③第二共和政(サラザールの独裁) 1927-1974年

アントニオ・サラザール(1889-1970)は、元々経済学を下地に持つ学者

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António de Oliveira Salazar

サラザールは才気に満ちた若者で、若干29歳でコインブラ大学経済学の教授
コインブラ大はポルトガル最古の大学
日本の京大的な
講座は学生で大人気、看板教授だった

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Coimbra(2018, F.Brasini et al)

1929年に世界恐慌が発生、それにともなってポルトガルも不況に
サラザールは政界から要請され財務大臣に就任
緊縮路線で立て直しに成功
1932年に首相に就任、以降独裁体制
エスタド・ノヴォ=ニュー・エステート=新しい国家

サラザールの保守的な采配と状況がかみ合い、最初の10年は人気・実力ともに申し分なかった
が、第二次大戦以降は支配にかげりが
本格的にヤバくなったのは1960年=アフリカの年
アフリカの旧植民地諸国が独立を希望した

ポルトガル領のギニア、モザンビーク、ティモールなどについてサラザールは、
「支配し続けたい、権益は手放したくない」
の一点張り
衝突は避けられず、多くのエリアでポルトガル軍と現地の解放戦線が対立
戦争にカネがかかりすぎてポルトガルの財政は破綻

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ポルトガル植民地戦争における同国軍の兵士 

余談だが、フランスも60年ごろは、旧支配領のアルジェリアと対立寸前だった
が、ポルトガルとは異なり戦争は回避できた
求心力のあるシャルル・ド・ゴールが一貫してアルジェリアの独立を支援したため
内外の猛烈な批判を受けながらコントロールを保ち、結果としてフランスの国際的なパワーを現在の位置にまで押し上げることとなった


サラザール、独裁者としては序盤は時代とかみ合ってイケイケだったが、晩年は情勢の変化に取り残された感が強い
周りにも見放され、1970年に逝去

1974年には無血革命(カーネーション革命)が成功、ヨーロッパ最長の独裁体制が終焉した



④第三共和制(1975-現在)

現在と同じ議会制民主主義に
1986年にEC(EUの前身)に加入
長かったが、ここでプレイヤーたちは登場する

かつてのサラザール政権下のワインは、
・半国営の大農場で大量生産
・それをそのまま国民が飲む

くらいの
国内消費向けの素朴なもの
国際的な価値/競争力がなかった


EU(EC) に加入してからは状況が一転
EUは小規模な生産者の起業を支援した
小規模なワイナリーに数億円単位でバンバン融資を行った

EUのアクションを見て、投資家たちも、
「ポルトガルのワインは伸びますね、これは
投資対象として魅力的」

と判断
結果、多くの外資が流入

技術が飛躍的に向上し、ポルトガルワインは黄金期を迎える
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セトゥーバルのワイン畑


プレイヤーたちはそんなEU加盟直後の時代のワイン生産者
EUからの融資を元手に、小さなワイナリーを成長させ、事業を拡大する
6年間の拡大レースを行う

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参考文献:

ポルトガルの歴史(Wikipedia)
アントニオ・サラザール(Wikipedia)
History of Portuguese wine(Wikipedia)
大阪日本ポルトガル協会-ポルトガルワインの歴史


(3)魅力

わかりやすい面白さが最大の持ち味だ

ラセルダ作品は、
・ヴィニョス新版(2016)
・リスボン(2017)
・エスケーププラン(2019)
・オンマーズ(2020)


と4作遊ばせてもらったが、今のところヴィニョスがダントツで好みだ

①ヘビーだがすっきり

ラセルダは冗談みたいに重たいゲームばかり作る
なかでもヴィニョス新版は格段にライト
重さは4.06、作品群のなかで2番目の軽さ
ちなみに最軽量はエスケーププラン(3.69)、最大はオンマーズ(4.62)

筆者の体感だが、BGGスコアの4.06よりも触り心地は軽い
ざっくりルアーブル(3.74)と同程度くらいだと感じる


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Escape Plan(2019)

②収束性が良い

ゲームの基本構造はワーカー1体でやるワカプレだ
アクションスペースは9マスで、ゲーム中不変
フルーツジュースとか横濱紳商伝とおおまかには同じタイプ

増員や追加アクションはなく、ゲームは絶対に6ラウンド13アクションで終わる


③構造はシンプル

要素はけっこう多いが、あらゆる要素がワイン作りとリンクしている

だからとても理解しやすい

ヴィニョスではいろんなものが買える
ワイン畑やセラーなどの施設
学者、観光客、農家の人=労働者コマ
専門家タイル、サブアクションタイルといったラセルダ作品でよくみられる特殊タイル
多様なやり方で拡大再生産させてくれる

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ホワイトカラーのワイン学者コマと、ブラウンの農家コマ

作り手としては、たくさんパーツを作ったら、各パーツごとに個別のパラメータを用意して、複雑な構造を組み上げたくなる
オンマーズなどは複雑化の究極形で、各要素が半ば独立したミニゲームとなっている
複数のミニゲームからなるテーマパークを上手く泳ぎ切れたプレイヤーが勝利する

ヴィニョスはオンマーズとは真逆だ
意図的にしぼって、引き締まった作りに仕上げている

まずリソースがお金、ワイン、勝利点しかない
ほぼすべてのパーツはお金という単一のリソースで購入できる
また、拡大の方向性も、
・ワインの生産数を増やす
・生産したワインの価値を上げる

の2方向しかない

全てがお金とワインでリンクされている
お金を払って設備をアップグレードすると、ワインの品質やブランドが高まる
価値が上がると高く売れて、さらにお金が稼げる

作ったワインは売るだけでなく、
・海外への輸出
・品評会への出展

といったアクションでも消費できる
輸出/出展ではお金ではなく勝利点(名声)が得られる

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④ダウンタイムは長め

ダウンタイム=ゲーム中に他プレイヤーの行動を待ち、プレイをしない時間
ダウンタイムは短いに越したことはないので、特殊な意図がない限り、
なるべく削ろうとする
ラセルダ作品はほぼ例外なくダウンタイムが長い
が、あまりストレスフルではない

お互いの手元をあまり見ないゲームであれば、ダウンタイムは極力減らすべきだ
最近のゲームだとテケンとか、あるいはニュートン、グレートウエスタントレイル、アンダーウォーターシティーズなど
これらはダウンタイムの体験の悪さもあいまって、2,3人ベストとされる場合が多い

今風のゲームとは異なり、ヴィニョスはソリティアパズルゲームではない
初回プレイでも、お互いのやりたいことがかなりクリアに見える
アクションスペースの使用
品評会への出展
・共用の名声キューブの使用


どれも激しい早取りで、一手遅れるだけでけっこうデカい差が生じる
ヴィニョスはBGGで4人ベストとされているが、たしかに人数が多い方がプレイ感が良い
インタラクション部分の取り合いが、よりシビアで楽しくなるからだ

ヴィニョスのダウンタイムはやや長いものの、虚ろな待ち時間ではなく、プレイヤーに意味を感じさせる有機性が一定あると評価する


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⑤拡張はおすすめ

基本のアクションスペースやブドウ畑のマップはそのままで、
・新種のワーカーコマ
・追加のランダムイベント

など、いくつかのミニモジュールが追加されている
基本ゲームの引き締まった魅力はそのままに、若干プレイ感を変化させる感じ
初回プレイでも、拡張モジュールのいくつかを混ぜて問題ないと思われる


(4)考察:サブアクションの解剖
本節ではヴィニョスのサブアクションタイルを題材に、ラセルダの手癖を読み解いていく

最初からやや脱線するが、ラセルダがヴィニョスだけでなく、多くの他作品でサブアクション的な要素を用いている

以下、いくつか例示する


ヴィニョスのサブアクションタイル

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リスボアの3種の追従アクション

厳密にはサブアクションではなく、他プレイヤーの手番中に差しはさまれる

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オン・マーズのエグゼクティブアクション(重役カード)
1回ごとに発動コストを支払う
しかし相手プレイヤーと相乗り/協力できると発動コストが踏み倒せる、バカ強い

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エスケープ・プランの仲間カード

オンマーズと同じで、重たい発動コストを支払うタイプ
悪い友だちの手を借りると犯罪係数が上がってしまう
セラピーを受けないままゲーム終了すると大量減点を食らってしまう

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本節ではヴィニョスのみについて掘り下げる
まず構成上必要なため、ルール、構造をおおざっぱに説明する
読むのがかったるいかもだが、お付き合いいただけると嬉しい

サブアクションタイルはゲーム開始時に1枚持っている
マルコポーロやバラージ方式で、手番順の逆順で1枚だけロチェスタードラフトする
ヴィニョスは第1ラウンドの先手番が問答無用で有利なゲームなので、このタイルドラフトと初期資金のゲタでバランス調整している

タイルは手番中に裏返すことで、メインアクションとは別に、追加のサブアクションが実行できる
1手番あたり1枚だけ使える
決算時に全部のタイルが表返り、再利用可能になる
6アクション目の最初の決算時に、追加のサブアクションタイルが買える

追加タイルの購入コストはワイン1個
だいたい1,2個は余るので、あまり重いコストではない
サブアクションは1回0.5アクション分くらいのパワーで、ゲーム中に2回起動できる

ざっくり、
「1回使うだけならコストに見合わない、2回使えたら爆アド」
的な

プレイヤーは3-4枚サブタイルを集めて、有効に使いこなそうと工夫をこなす


概要は以上となる
結論から記すと、ヴィニョスのサブアクションはめちゃめちゃよくできている

いくつかメリットがあるので列記する

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①拡大再生産の快感

強い、気持ち良い
13アクションしかないゲームで0コスト0.5アクションのはたらき
まあ強い
強さは気持ち良さを生む
理由はない

ラセルダはサブアクションを拡大再生産の1ルートとして確立している感がある

筆者は、ユーロゲームにおける拡大/成長は、アグリコラやテラフォでいうところの、

アクション数の増加(増員)
・特定のアクションを強化(職業カード)
収入増加(家畜繁殖、農業)

の3ルートに集約できると考えていた

余談だが、アマルフィはその思考をそのまま反映していて、
造船=アクション数と収入の増加
海図=1アクションあたりの打点の強化
人物=特定のアクション強化

と、複数の強化ルートを並立させるのが主なテーマだった

ラセルダのサブアクションはこれら3系統とは明白に異なる
4種類目と呼んで良いと思われる

②使いこなすのが難しい

既存の3系統に比べて、サブアクションが持つもっともユニークな特徴だと思われる

サブアクションタイルは、何回も使おうとすると手が歪んでしまう
たとえば「畑1個を買う」というサブアクションがある
畑はべらぼうに高い
このサブアクションを余さず使おうとするとすぐに金欠になる

ムダなく使い切るのが難しい

「難しい」にもいろいろあって、たとえば
・運要素が強すぎる
・プレイヤーが理不尽な思いをする
・初見殺し

みたいな、粗野な難しさは、この手のゲームでは導入すべきではない
サブアクションタイルの扱いの難しさは、「パズルを程よく複雑にする」タイプで、プレイ感を良くしてくれる

③アクションの優先度が変わる

サブアクションと関連が強いアクションの優先度が高くなる

ヴィニョスだと、たとえば「農学者1コマを1金で雇用する」というサブアクションがある
1金で打てるので使い勝手の良いアクションなのだが、農学者はワイナリータイルがないと働いてくれない
普通のプレイヤーにとってワイナリー建設は、
「強くも弱くもない
誰もやってなかったらやろうかな」
くらいの、わりとどうでもいいアクションなのだが

農学者のサブタイルを持っているプレイヤーにとってはワイナリー建設は必須級となる

各プレイヤーにとってのアクションの価値をちょっとだけバラつかせると、ワカプレが程よく多様で引き締まったものになる

④自然と特化ルートが分かれる

各人がサブアクションを活かそうとした結果、自然と特化戦略が分岐する
ヴィニョスはすごくおおざっぱに記すと、以下の2ルートがあるゲームだ

①低価値ワインを大量生産
②ハイブランドを少量生産

畑購入のサブタイルを取ると大量生産に寄せやすい
大量生産ルートだと、サブアクションタイル勝利点タイルを多く取れる

逆に、農学者雇用のサブタイルはハイブランド戦略とシナジーがある
ハイブランドタイプでは、品評会のバトルや輸出競争に強い盤面が作れる

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ハイブランドのブドウ畑

⑤リプレイ欲求を強める
・サブアクションタイル
・専門家タイル
・ワイン畑 

といったコンボパーツが4-7種ずつあり、パーツ同士の相性がある
プレイ後、
「今度はアレとアレ取ってあの特化ルートでやってみたいな」

的な欲求が自然と惹起されやすい

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専門家タイル


⑥収束性を悪化させない
増員は最もシンプルな拡大再生産要素だが、危険だ
「増員できなかったプレイヤーがラウンド終盤にぼーっと待つ」という最悪な状況が生じ得るからだ
近年のゲームでは、プレイヤーに増員の機会を預けず、システム側で管理するケースが多い

サブアクションは増員とは異なり、メインアクション自体を増やさない
よって、そういった危険なダウンタイムを生むリスクがない





上記のとおり、サブアクションはとてもメリットが多くデメリットが少ない、優れたメカニクスだと評価している
使い勝手が良いからこそ、ラセルダも各作品のテーマに合わせて微妙にリアレンジして、使い倒している


(5)総評

ヴィニョスは諸作品のなかでも見通しが良く、プレイヤーにやらせたいこともクリアで、ゲームとして締まっている
雑なたとえだが、ローゼンベルグにおけるヌースフィヨルド的な
明白でシンプルな面白さと、デザイナーならではの魅力が両取りできる

友人などに、
「ラセルダ初めて遊ぶんだけど、おすすめは」
と問われるとしたら、本作を推すと思われる

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