2020年08月

「テオティワカン:シティオブゴッズ」のダニエレ・タスチーニと、「アナクロニー」のデイヴィッド・タージによる2020年新作
プレイし、面白かったので記事化する

(1)基本情報
(2)デザイナー

(3)テーマ
(4)魅力
 ①セットアップがラク
 ②収入/拡大再生産ナシ
 ③絶対正解の道筋がない
 ④長期的な見通しはやや悪い
 ⑤心理的ダウンタイムの少なさ
 ⑥場当たり的、刹那的なプレイ感
(4)考察-ダイスドラフトの解剖
 ①ダイスドラフトの長所
 ②出目による手番順競り
 ③ソロ感の由来
(5)総評



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Tekhenu: Obelisk of the Sun (2020)
Designer Daniele Tascini, Dávid Turczi
Artist Jakub Fajtanowski, Michał Długaj, Zbigniew Umgelter
Publisher Board&Dice, BoardM Factory, CMON Limited, Giant Roc + 2 more 

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(1)基本情報
人数:1-4人、ベスト3-4人
時間:60-120分 (4人初回インスト込み180分)
重さ:3.75 (参考値:テオティワカン=3.75,カヴェルナ=3.78,黒ブラス=3.86)
流通:日本語版がテンデイズゲームズにより流通している
言語依存:強い カードテキストがあり、やや複雑な効果を持つ

要素:ダイスドラフト、出目による手番順競り、パターン建設、古代エジプト、ラー、オシリス、オベリスク


(2)デザイナー

ダニエレ・タスチーニとデイヴィッド・タージの両名

タスチーニはルチアーニと頻繁に合作を出している
・ツォルキン(2012)
・マルコポーロの旅路(2015)

を出している
MtGにルーツを持つ、2010年のイタリアチャンピオンのデザイナー

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かつての相方のシモーネ・ルチアーニはクラニオ・クリエイションの社長
・バラージ(2019)
・ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)
・グランドオーストリアホテル(2015)
・ニュートン(2018)

とバシバシヒットを飛ばしている

今回の共同デザイナーはデイヴィッド・タージ
ハンガリー生まれ、オランダ在住
・アナクロニー(2017)
・キッチンラッシュ(2017)
・セレブリア(2018)
・ダイスセトラーズ(2018)

と、30分のミドルサイズから120分オーバーまで、幅広いポートフォリオを持つ


(3)テーマ

タイトルのテケン/Tekhenuはオベリスク、細長い四角錘の別名
保護・防御という意がある
オベリスク/Obeliskの方が後世のギリシア人がつけた別名
串(Obeliskos)から転じてオベリスクとなった
テケンとオベリスクの関係は、アラスカにおける、
「エスキモーは西洋人の名付けた他称であって、現地の人は自身をイヌイットと呼ぶ」

とかに近いかもしれない



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テケン/オベリスクは太陽神信仰の象徴
高くそびえたち、足元に影を落とすので日時計としても利用されていた
ゲームでも日時計の役割を果たしている

重要な点だが、テケンではピラミッドがほぼ一切登場しない
古代エジプトは使いつくされたテーマだ
古代ローマとか中世ルネサンスと同じくらいありふれている
埋もれやすいテーマと言える
テケンはピラミッドをあえて描かないことで、古臭さ、ダサさを一定回避できているように思われる



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(4)魅力

テケン:太陽のオベリスク/Tekhenu: Obelisk of the Sun
テオティワカン:シティオブゴッズ/Teotihuacan: City of Gods 
両作はタイトルの字面だけでなく、プレイ感もかなり似ている

テケンはテオティワカンが刺さる人にはまず間違いなく刺さる
ベースの味付けが同じだからだ
さらに「テオティワカン、ちょっとイマイチだったな」という人でも楽しめる可能性がある
より遊びやすくチューンナップされているからだ

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Teotihuacan: City of Gods (2018)


①セットアップがラク

地味だがデカい
テオティワカンはセットアップがけっこう大変だった
宗教タイル、ピラミッドタイル、アクションタイルとたくさんのタイルがある
だいたい10分くらいかかった
テケンはツォルキンくらいシンプルで、だいたい3,4分で終わる


②収入/拡大再生産ナシ

16アクションしかない
収入フェイズはない
アクション強化は一応あるが、ダイスドラフトの縛りがシビアで、同じアクションはそう易々と打てない

ここのプレイ感はテオティワカンとかなり似ている
手数がカツカツななかで、
・資源を獲得
・資源を消費して勝利点化

を並行してやっていく


③絶対正解の道筋がない

たいていの重ゲーはもっと拡大再生産要素が強い
拡大再生産系のゲームはストーリーの起伏がつけやすい
「序盤に努力してエンジンを組む
中盤だんだんラクになる
最後は勝利点のレース」

という
そういったメリハリのある物語をテケンは提供しない

「序盤にこれさえやっとけば安定」という強化ルートはない
さらに、
「終盤はこの勝利点アクションがほしい
絶対相手より先に取りたい」

というようなバチバチな差し合いもあまりない

アクションは6ルートある
・彫像の建設
・柱の建設
・拠点を柱ゾーン(神殿複合体)に建設
・幸福度の獲得
・カードの獲得
・拠点を生産力ゾーンに建設

細かくは記さないが、どのルートも強みと弱点がある
「これ一強」ということはない
どのルートでもかみ合えば爆伸びできるチャンスがある
点数の伸びは、
・序盤にキーカードを重ねられるか
・他プレイヤーと被らずに済むか

という、ゲーム途中のカードのめくれや相手の出方といった、不確定要素に強く影響される

このあたりのプレイ感はテオティワカンとまるっきり異なる
テオティワカンも得点ルートが4,5本あるが、ルート間の強弱がめちゃくちゃ激しい
ピラミッド建設が絶対王者のアクションだが、それ以外のルートはセットアップ時の状況による
重要な情報はセットアップ時にほぼ全て開示されるので、開始時に「このルートで行こう」と決められた

テケンとテオティワカン、完全に好みだが、個人的には筆者はテオティワカンタイプの方がしっくりくる
最初からある程度見えていて方針を決められるゲームの方がストレスが少ない
ルート間の強弱も、ハッキリしている方が好みだ
テオティワカンは他プレイヤーと被るとカカオ消費がエグくなるゲームなので、
バッティング覚悟で強ルートを狙うか
・本命ルートはオリて堅実にちょい弱めなルートに切り替えるか

という駆け引きがある
ルート間の強弱差が大きかったとしても、きちんとしたリスクをプレイヤーに負わせられるのであれば問題ないと筆者は考える
むしろ、ある程度バランスを崩した方が遊び手に鮮明な印象を与えることができる

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④長期的な見通しがやや悪い

好きなアクションがなかなかできない
16アクションのゲームなのだが、4人戦だと各アクション11-15個しかダイスが降ってこない
特化させるには6,7回は1種のアクションをやる必要がある
だから、2人被るとそれだけでキツい

3人被ったらもうおしまいだ
被らなかったとしても3ラウンドに1回しかダイスの補給がないので、やりたいダイスはすぐなくなる
「同じアクションをやり続けたいけど、肝心のダイスがない
仕方ないから別なアクションもやらざるを得ない」

という
伸び伸びやれず、長期的なプランが立てづらい
テケン、悪いゲームではないのだが、ここの見通しの悪さ、プランの立てづらさがあまり好かない


⑤心理的ダウンタイムの少なさ
これも明白な長所だ
テケンは手なりで打つこともできるが、盤面の情報はかなり多い
手番でないときはそれを読んで過ごせるので、ヒマで困ることもない

自分の手番で何をやるべきかはある程度分かりやすい
かつ他プレイヤーの手番では、盤面を細かく読んで先々の指針を建てられる

ざっと以下のような読むべき箇所がある
・柱と拠点の神殿複合体パズル=どこに何を置くべきか、相手は何を狙っているか
カードテキスト=自分が取るべきカードはあるか
・個人ボード上のダイスの出目=次の先手番は狙えそうか、狙う価値はあるか
・決算までの残りアクション数=決算までにVPが稼げそうなアクション
・共有ボード上の
イス=他プレイヤーの狙い、カットの必要性

これらは基本的に見る必要がない
半分以上は「ヒマなら読んでもいい」くらいの重要度だ

近年の重ゲーは必ずダウンタイムに対して何かしらの解決法を採っているが
こういうソリューションはユニークだ
「物理的なダウンタイムはけっこう
多い
だから盤上に、読まなくてもいい情報をたくさん載せておく
ヒマならそれを読んで待っていてもいい
プレイの役に立つかもしれない
今回のゲームに役立たないとしても、あるいは次プレイの参考になるかもしれない」

という
カフェの文庫本、ラーメン屋のテレビみたいな
あまりエレガントな解決とは言いがたいが、テケンをプレイしていて、ダウンタイムを苦痛に感じることはあまりない
よって、この方法はきちんと機能していると評価する


⑥場当たり的、刹那的なプレイ感
対人インタラクションが希薄で、プレイヤー対システムの感が強い
他者との駆け引きは初回プレイではほぼ生じない

テケンでもっとも華やかなのがボード右上の柱-拠点の神殿複合体パズル
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神殿複合体/Temple complex
5×5の柱を置くスペースと、脇の拠点を置くスペースからなる

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Philae templeの複合体


プレイヤー全員の建物が入り乱れ、一定の陣取り要素がある
パズルのルールは、テオティワカンのピラミッドに近い
テオティワカンもそうだったのだが、この陣取りは見栄えが良いが、大して盛り上がらない
数手先まで読みようがないのだ
建設タイルが常に新しくめくれていくし、盤面の情報も徐々に変わっていく

「建設可能なスペースは3,4個
とりあえずこの瞬間に一番多くVPが稼げるのはあそこ」

くらいの思考を持つ
長期的な見通しが持てないから、各人上のような刹那的な思考をせざるを得ない
「とりあえず今稼げるのはここ」と打点の高いスペースに建設していく
筆者としては、もう少し他プレイヤーとの読み合い、駆け引きが成立する構造の方が好みに合う


余談となるが、この刹那的なプレイ感は古代フレーバーと相性が良い
長期的なプランをプレイヤーに与えず、場当たり的な動きを強いるプレイ感だ
これは産業や近代テーマにはそぐわない
剥き身の自然と対峙させる古代モチーフの方がしっくりくる

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(4)考察-ダイスドラフトの解剖
前提としてダイスドラフトは、共通のダイスプールからダイスをドラフトしてアクションするゲームを指す

代表作は、
・コインブラ
・グランドオーストリアホテル
・サンタマリア
・サグラダ
・ブループリント

など
ゲームによるが、ダイスは8-16個くらい一気に振る

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Sagrada(A.Adamescu et al, 2017)

①ダイスドラフトの長所

ダイスドラフトはメリットの多いメカニクスだ
・ダイスをたくさん振るので出目がバラつきづらい
・ダイスをたくさん振れるため楽しい
・他プレイヤーと出目をシェアするので、もし出目が過度に悪くても理不尽感がない
・出目の偏りによって展開が変わり、ゲームに程よい緊張感を与えられる


長所が多いからこそ、多くのゲームで用いられている

テケンをダイスドラフトのゲームとしては、かなり特殊な設計をしている
結論から記すと、
・斬新な手番順競りを導入
・思考スペースを空けるために、ダイスの役割をシンプル化


まず、出目の大小に大して意味がない
ダイスドラフトの先行作品、たとえばコインブラやグランドオーストリアホテルだと、出目は急所だ

コインブラでは高い出目を取るにはカネがかかるので、高い出目ばかり出ると吐きそうになる
グランドオーストリアでは同じ出目がたくさん出るとアクションが強化される
自分が親のときに狙いの目を多く出せると昂揚する

テケンのダイスはそういった感情のアップダウンを惹起しない
一応高い出目の方が使いやすいのだが、
「頼むから高い目が出てくれ、低いと詰む」
みたいに祈ることはまずない


テケンはダイスの出目だけでなく、ダイスのカラーの縛りもゆるい
資源獲得という弱アクションのときのみカラーを参照する


要約すると、本作は他のダイスドラフトゲームと比べて、ダイスの出目や色についてプレイヤーの感情を呼び起こさない

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Coimbra(F.Brasini et al,2018)

②出目による手番順競り

テケンのダイスは、既存のダイスドラフトの持つエモーショナルな役割を果たさない
そのかわりに、「獲得した出目で次ラウンドの手番順競りをやる」という新しい要素を導入している
テケンのダイスは色によって、
清浄、ケガレ、禁断の3タイプに分かれる
ピックしたダイスを個人ボードに配置してアクションを実行するが、ダイス置き場がてんびんのかたちをしている
てんびんの片方に清浄のダイスを、もう片方にケガレのダイスを置く
で、ラウンド終了時に、清浄/ケガレの出目比べをする
ぴったりプラマイゼロだと最高で、次ラウンドの先手番が取れる
反対に、どちらかに偏ってしまうと後手番に回る
実際の古代エジプトカルチャーで中庸が重要視されたのかは知らないが、きっと尊ばれたのだろう

このジレンマは良い
とても新しい
「テケンのいちばん革新的な要素、魅力を1つ挙げるなら?」と問われたら筆者は「手番順の決め方」と返答する
筆者は思考のクセとして、
「このメカニクスは既存作のこれに似ている
ここのプレイ感はあのゲームに近い」

と比較して考えるが、テケンの手番順競りはそういうカテゴライズができない
まったく新しいからだ

ほしいダイスばかり取るとたいていケガレに傾いてしまい、次ラウンドの出足が遅くなる
かといって、出目調整にこだわるとやりたいアクションが取れない
さらに禁断のダイスはそもそも取れない

どのカラーが清浄/ケガレ/禁断かは、ラウンドが進むにつれ移ろっていく
アクションスペースごとに、
・日向=昼
・日陰=夜
・はざま=朝と夕方

の3系統に分かれる
たとえば黒ダイスは昼だと禁断扱いだが、夕方ならケガレ、夜なら清浄になる
「黒のあのダイス欲しいけど、まだ禁断だから取れないな
次ラウンドまで待つか」

「あのダイス、ケガレだからできたら取りたくないな…
もう1ラウンドしゃがんで清浄になるまで待つか?
でもその前に他者に取られかねないぞ…」

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③ソロ感の由来

手番順競り、ユニークで面白いのだが、ちょっと複雑さが勝ってしまっている印象を持つ

自分の手元でやるパズルとしてはただただ面白い
良いシステムだが、
要素が多い
・次ラウンドの先手番にどれだけ価値があるか見えない

これらから、他プレイヤーの手元を見る余裕がない
「駆け引き、牽制、意地の張り合い」
的なインタラクションはここでもほぼなく、各人がソロ的に出目調整を楽しむこととなる

テケンは要素が多いせいで、手番順競りが数ある要素の1つ、ミニゲームを集めたテーマパークの1アトラクションになってしまっている
そういった脇役でもOKだと感じるが、主役も張れる力量があるメカニクスだとも感じる
もう少し比重を大きくして、メインに据えた作品を見てみたいと感じる
・要素を削る
・ゲーム全体の見通しを良くする
・アクションごとの強弱をもっとアンバランスにする

こういった調整をすると、たぶん先手番を取りたい欲求は強まる


(5)総評

独特な魅力を持った佳作だ
近年の供給過剰なゲームシーンで、半年後も他者が遊んでいるのかは未知だが、
・テオティワカンよりセットアップが容易
・マルコポーロやツォルキンのように初心者狩りが起こらない
・「この人数で絶対やるべき」がなく、2,3,4人戦いずれも一定楽しい

といった明白な長所を持つ
「人数を選ばず気軽にのんびり回せるヘヴィゲーム」という立ち位置で、筆者のプレイ環境では季節に1,2回遊んでいくのだと思われる

目につく欠点は、要素過多であること
ややtoo muchな印象が否めない
数手先まで詰めて検討しつくすのは難しく、デザイナーもそういったプレイをおそらく想定していない
よって、場当たり的に思考せざるを得ない

長期的な視野とクリアな意図が持てないので、他プレイヤーが「良さげなダイスをランダムに枯らすNPC」くらいにしか機能しない

結果として多人数ソリティアのような、そういうプレイ感となっている

ウラを返せば激しいインタラクションがないので、あまり親密でない人とでも平和にプレイ可能であり、そこは長所だとも評価できる

また、
・柱と拠点の神殿複合体パズル
手番順の競りシステム

はきわめて個性的で、強い魅力を感じた


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おかしな遺言(2011)は「アンダーウォーターシティーズ」のV.スヒィの手からなる
ミドルサイズの佳作

「棚ぼたで相続した遺産をいち早く使い切ったら勝ち
という
けっこうバカバカしいテーマなのだが、テーマの再現性がとても高い

プレイし、好感を持ったので記事化する


(1)基本情報

(2)魅力

 ①テーマ
 ②逆-拡大再生産
(3)長短所 
 ①シンプルなアクションドラフト
 ②カード周りはやや煩雑
 ③リプレイ性はそこそこ
(3)考察:支出/収入をひっくり返しても成立するのでは? 
 ①ストレスフリーな序盤
 ②クライマックスでの資産整理

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Last Will (2011)
Designer Vladimír Suchý
Artist Tomáš Kučerovský
Publisher Czech Games Edition + 9 more


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(1)基本情報

人数:2-5人、ベスト4人
時間:45-75分(初回4人インスト込みで90分)
複雑さ:2.70
ランク:419位(2020/8現在)
言語依存:なし
要素:アクションドラフト、ハンドマネジメント、アクションポイント、相場操作、遺産、不謹慎、悪友、バカ騒ぎ



(2)魅力

軽妙なテーマと、丁寧に仕上げられたメカニクスとのギャップが良い
やや不謹慎なコメディテイストと対比的にメカニクスはきっちりしっかり作られ、テーマを忠実に再現している


①テーマ

プレイヤーは大金持ちの叔父を持つラッキーな青年たちだ

叔父さんの噂は常々聞いていたが、一度も会ったことがなかった
彼が大病をわずらったと聞いて、お見舞いに行くシーンから物語が始まる

叔父
「もう余命が短い
私は一代で財を成した
今や数千億円規模の資産がある
しかしカネを遣う楽しみを知らずに生きてきた
子もいない
人生を終えようとしている今、強く後悔している
以下の遺言を親族にのこす
私の資産は、貯めて増やすのではなく、きちんと使ってくれる人間に相続したい」


上記の遺言をのこした
プレイヤーは手始めに7億円(70金)渡され、以下の指示を受ける

「これを7日(7ラウンド)以内に使い切りなさい
最も早くサイフをカラにした者を勝者とみなし、正式な相続人とする
勝者には残りの数千億円を相続する」



「億ションを2,3棟買えば1日でカタがつくのでは」

と結論づけたくなるが、それでは達成できない
不動産は資産だから、使い切ったことにはならないのだ
ゲームに勝つためには完全に資産をゼロにして、一度破産しないといけない

本作はさまざまな散財法を提示してくれる

悪友を募って、手分けして散財する
・ペットや令嬢を連れて社交パーティに出席する
・コックや舎弟をともなって世界一周旅行に出かける
紳士クラブに通いあげてギャンブルに狂う


ゲームが進むにつれ、遊びのヴァリエーションが広がっていく
交友関係も豊かになり、セレブぶりも板につき始める
遊びの味を覚え、大人として円熟しながら、真の相続人を目指す

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②逆-拡大再生産

よくある拡大再生産系のゲームだと、プレイヤーは我先に収入基盤を作る
たとえばワーカーを増やす
ワーカーは毎ターン資源やお金を稼いでくれる
土地を開発してもいい
土地も毎ターン収入をもたらしてくれる

おかしな遺言でも、ワーカーを増やしたり土地を持つことができる
が、それらは収入基盤ではなく、お金を消費するためのエンジンとなる

このゲームのワーカーは旧友、悪友だ
アクションポイント(AP)制のゲームなのだが、序盤に旧友を頑張って集めておくと、毎ラウンドのAPが増える
旧友がプレイヤーと別行動をしてお金を遣ってくれるイメージだ
小遣いを渡すと勝手にパチンコでスってくる的な

「宝くじの高額当選者あるあるだ…
どこから聞きつけたのか、昔の友だちから急にLineが来て
理不尽にタカられるっていう
噂に聞くアレか…!」



増員だけでなく、土地も持てる
土地もいわば逆収入基盤となる
購入した邸宅について、毎ラウンド、
・メンテナンスするか
・しないか

を決める
・メンテナンスにはお金がかかる(1AP使って3金消費できる)
・メンテナンスしないと資産価値が下がる(毎ターン2金分売値が下がる)

どっちを選んでも、所持金を効率よく減らすことができる

普通のゲームと真逆のシステムなので、プレイしてみないと分かりにくいのだが
土地はいわば、毎ラウンドお金を減らすエンジン/アクションスペースになってくれる

ゲーム中中盤には、
「ドンチャン騒ぎする。邸宅1つの資産価値を3つ下げる」

なんてカードも使えるようになる
「親のマンションでバカ息子がパーティ開いて
酒まき散らしたりバナナとか壁に投げちゃう」

みたいな
私大医学部の量産型新入生的なフレーバーを感じさせる



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(3)長短所


①シンプルなアクションドラフト

エルグランデ(1995, W.Kramer et al)に似たシステムを用いている
強いカードを取りに行くとアクション数が減る
反対に「たくさんアクションしたい」と欲張ると、ロクなカードが残っていない

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El Grande(1995)

手番順をドラフトするのだが、手番によって、
・カードドロー
・AP
・ワーカー(シルクハット)

の得られる個数が異なる
本作は、
・カードのドロー
・カードのプレイ(AP消費)
を繰り返すことで勝利に近づく

よってドローもAPもたくさんほしい


ただ、欲張るとワーカー(シルクハット)のアクションで後手に回ってしまう
このワーカーが、本作のドラフトの肝になっている
ワーカーは特殊カードを取ったり、邸宅の値段を操作に使う
特殊カードはワーカーでのみ取れるカードで、毎ラウンド規定枚数がめくれる
APを増やす旧友だったり、一気に邸宅の価値を下げるドンチャン騒ぎだったり
通常カードよりかなり強力に設定されている

「ドローやAPをたくさん取ると、欲しい特殊カードが取れない
でも、早い手番を取りすぎると、APが少なすぎて何もできない」


このあたりの駆け引きは、シンプルで魅力的に仕上がっている

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②カード周りはやや煩雑

ラウンド開始時にアクションドラフトをし、その後特殊ワーカーを動かす
ラウンド後半は、個々人で行うソリティアになる
個人ボード上でカードを出したり、起動したりする

ラウンド前半の作りはとても良いのだが、後半のソリティア部分がちょっと煩雑でややこしい
たとえば仲間カードには、
・永続効果
・APを消費して起動
・APを消費せず起動
・起動すると逆にAPを生み出す

の4タイプある
その他のカードも、カードによってAPを使ったり使わなかったりする

これがなかなかややこしい
本作は言語依存ゼロなのだが、テキストがないせいで、よけい分かりにくくなっている感がある
不慣れなうちは各プレイヤーが1アクションずつやるのが無難だと思われる


③リプレイ性はそこそこ

5回、10回と繰り返して突き詰めるタイプのゲームではない
筆者のなかでは「村の人生」と似た枠で捉えている
テーマの再現性が良いので、1プレイの満足度が高い
半年に1回くらい、ふと「ぼちぼちあのゲームがやりたい」と思い出して引っ張り出してくるような

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(3)考察:
支出/収入をひっくり返しても成立するのでは?


おかしな遺言は、スタート時の70金を使い切ったプレイヤーが勝利する

この説明を受けた際、以下のような所感を抱いた

『70金からスタートして、0金になったら勝ち』
ってことは

『0金からスタートして、70金を貯めたら勝ち』
とほぼ同義なのでは?」


収支を入れ替えても成立するのでは?と


結論から記すと、収支は交換可能ではない

収入と支出が普通のゲームと逆転しているおかげで、本作では、
・序盤からガンガン動ける

・終盤にエンジン解体が必要
という2つの個性が生じている


①ストレスフリーな序盤

プレイヤーは5枚までカードが出せる
5スロットに建物や仲間カードを出していくのがゲーム序盤の目的となる
建物を出すにはお金がいる
お金だけは開始時にたくさん持っているので、開始時から思考停止でバンバン買うことができる
爽快でストレスフリー


拡大再生産系のゲームだとこうはならない
序盤につまづく落とし穴が用意されているからだ
・うまく資源をゲットする

・資源を使ってワーカーや収入基盤を準備する

これらができて、ようやく終盤の1位レースに参加できる

本作は頭金がはじめから用意されているおかげで、初見殺し、不平等、理不尽、みたいなものがあまり生じない

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②クライマックスでの資産整理

前述のとおり、不動産をしこたま買い込むと強いし楽しい
手つかずで放置するだけでグングン資産価値を減らせるからだ
しかし不動産を買いすぎると、終盤ちょっとやっかいなことになる

売却して清算しないとアガれないのだ
手持ちの邸宅は、1件あたり1APを使うと売却できる
売却金を受け取り、最後にそのお金も使いきってようやくエンドトリガーが引ける


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邸宅カード
15金で買ったものが、4ラウンド寝かせると4金にまで値下がりしてくれる


実際にプレイしてみるとわかるが、この動きはめちゃくちゃユニーク

こんなのってアリなのか
こんな動きをゲームに導入していいのか

と感心した
本作のような資産清算をクライマックスで採り入れた作品は、筆者の知る限り存在しない

実生活だと、生活保護の申請自己破産の手続きに似ている
「持ち家や車を清算して資産ゼロにする」という
そういうムーブを想起させる

こんなものは、ふつうボードゲームで再現しようとはしない
スヒィの着想はただただ突飛だ
そして、アイディアを飛ばすだけでなく、現実的な構造に着地させるウデもある

プレイ体験も楽しい
資産の清算なんて、ふつうは悲しみを伴う、人生における失敗
しかし本作では『ゴールがもうすぐ』という喜びと結びつけられている
良い体験に仕上がっている


ウラジーミル・スヒィは本作以外に、「20世紀」や「アンダーウォーターシティーズ」などの代表作を持つ
本作だけでなく、両作品もまたオリジナルな、その作品にしかない魅力を構築できている
とても良い手腕を持つデザイナーだと評価している


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