2019年10月

ws4


美しいソロゲーム
2019年のKdJ(ゲーマーズゲーム大賞)
・美しいコンポーネント
・「野鳥観察」というユニークなテーマ
カードコンボの楽しさ
この3点が最大の魅力だ
インタラクションがまったくない点が筆者にとっては少し物寂しいが、合う人にはとても合うと思われる

プレイさせていただき、おおまかな感想を得たので、備忘録がてら記載する
同卓させていただいたロニーさんミキさんきすけさんらにはこの場を借りて感謝申し上げます


(1)おおまかなプレイ感
(2)コンポーネント
(3)プレイ人数、時間、流通
(4)教育的な価値
(5)他者の不在
(6)タブロービルディングというメカニクス
(7)カード運の強さについて
(8)カードデザイン



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Wingspan(2019)
Designer Elizabeth Hargrave
Artist Ana Maria Martinez Jaramillo, Natalia Rojas, Beth Sobel
Publisher Stonemaier Games + 14 more

(1)おおまかなプレイ感

テーマありきで設計された、美しいゲームだ
プレイヤーは野鳥愛好家となり、自分の庭(個人ボード)に鳥を招き入れる
個人ボードは3エリアに分かれていて、それぞれが資源獲得、産卵、カードドローアクションに対応している
どれか1つに特化して、1つのエリアに野鳥を多く迎え入れると、アクションが強化できる
相手プレイヤーは野鳥愛好家仲間なので、基本的にはわきあいあいとプレイすることになる
「あなたの庭園良いですねえ、鳥がいっぱいいて」
「いや、あなたの方こそ、鳥たちがたくさん産卵していて、豊かな庭じゃないですか」

縁側のじいさんになって茶飲み話でもしているようなプレイ感だ
プレイヤーたちは徳の高い愛好家なので、けっして相手の庭をぶっ壊したり、相手の鳥を奪ってきたりはできない
ドン引きされちゃうからね
このへんはテラフォーミングマーズと大きく異なる
テラフォでは相手の緑地に隕石を落としたり、鳥類をけしかけてハゲ山にしたりできるので
そういう野蛮なことをしたいかどうかで、好みは分かれると思う

あと、カードの引き運によってかなり左右されてしまう
最序盤に最も輝くのは、同じ色で、低コストで、資源系を生産してくれるカードだ
最悪なのが、色がバラバラで、高コストで、資源やドローがつかないカード
良いカードを最初にたくさん引き込めると、そのプレイヤーは勝手に走り始める
相手を止める手段は一切ないゲームなので、最初で差がつくと物悲しい1時間になりかねない
ゆえに、もし経験者同士で同意が取れるなら、ドラフトするなり、最初に見れる枚数を2~3枚増やすなりしても良いと思われる
本作のようなカード主体のゲーム構造の特徴については、記事後半で改めて考察を加える

(2)コンポーネント

総じて出来が良く、かわいらしい

150枚以上の個別イラストの鳥カード
鳥の卵トークン
鳥の巣箱型ダイスタワー

pic4520332

dice-tower-1
ダイスタワーは紙製だが、けっこういい感じであった

(3)プレイ人数、時間、流通

1~5人、ベスト3人
プレイ人数×20~30分程度 インスト15分
2019/10現在日本語版が流通している

(4)教育的な価値

鳥カードはそれぞれがフレーバーテキストを持っており、またカード効果とある程度連動している
たとえば、他の巣に卵を混ぜるカッコウは、起動させると他の鳥カードで産卵させることができる
肉食の鳥は起動させるたびに、狩りを行う
自分より翼幅(よくふく、ウイングスパン)の小さい鳥を捕食するたびに勝利点を得られる

また、鳥によって食べるもの(召喚コスト)も異なり、これも現実世界と連動している
このあたりも本作の魅力だ
なお、デザイナーのエリザベス・ハーグレイヴも、インタビューのなかでこだわりについて語っている
以下にインタビューの日本語記事がある

https://newspicks.com/news/3747185/body/

(5)他者の不在
インタラクションが皆無
相手が何をしていても、ルール上、ほぼ一切自分と関わりがない
対岸の火事
逆に、自分の一手が相手に影響を及ぼすこともない
個人的な心情として、とても寂しく、物足りなさを感じる
ウイングスパンはお情け程度のインタラクションを用意してくれてはいる
・ダイス資源
・鳥カード
・ラウンドごとの共通目的
・相手のアクションによって起動する特殊カード


ただ、これらはおまけ程度であり、微々たるものだ

このゲームの最大の魅力は
・個別カードをいじってコンボを決める楽しさ
・コンポーネントやテーマの美しさ

の2点だろう
なので、どちらかというと、けっこうデジタルに向いているゲームだと思われる
ドミニオンやテラフォはカードコンボ系のゲームで、ソロ要素がけっこう強いが、筆者はデジタル版はわりと好きで、よく触っている
ウイングスパンが今後SteamやiOSでリリースされて、しかも1ゲーム20分程度でさくさく回せる感じなら、自分は好んでプレイすると思われる


(6)タブロービルディングというメカニクス

個人ボードのメカニクスはタブロービルディングの一種だと理解する
筆者の知るゲームのなかだと、DEUS(Dujardin,2014)に良く似ている
plateau_exemple_transparent

デウスは5+1種のカードがあり、カードを出すたびに同種の全カードが順番に起動する
アクションが強化されていって楽しいのだが、カードを出す枚数に制限がある
「せっかく強化したパレットが、ゲーム終盤ではまったく使えず役立たずになる」ということがわりとあり、筆者や同卓者はやや不満に感じていた
強化したからにはたくさん使いたいと感じてしまう
ウイングスパンではアクション数の制限はない
そのかわりに、カードを出すためのコストをだんだん重くすることで、うまい具合に調整している
まとめると、ウイングスパンの個人ボードの作りは、あまり目新しさはないものの、とてもきれいでバランスも良い

(7)カード運の強さについて

ユニークカードが多く、カード枚数の多いゲームでは、手札運による偏りはどうしても生じてしまう
プレイヤーに不平等感を与えないように調整しないとならない

本節では
・デウス
・ナショナルエコノミーシリーズ
・ウイングスパン

の3つの設計を例示する


①デウス

デウスの場合、カードの引き直しが非常に簡単
1手番放棄するだけで手札を全部リフレッシュして、引き直すことができる
ポケモンカードのオーキド博士みたいな感じ
しかもラウンド数が固定でないので、序盤~中盤にかけては
「クソカードしか来ない、引き直します」
「自分も手札ひどいわ、引き直します笑」
というような流れで、雑に手番を放棄することも少なくない
こういうかたちは、ゲーマーにとってあまりストレスフルではない
バンバンドローしまくって、戦略とシナジーの合うカードを引っ張ってきて、コンボを決められるからだ
デウスはゲーマーの好みにアジャストした、程よい軽さのゲーマーズゲーム


deus

②ナショナルエコノミーシリーズ
デウスに限らず、カードプールが多いゲームは、ドロー機会を増やし、プレイヤーに多くデッキをめくらせるほど、運要素が緩和される
ナショナルエコノミー/メセナ/グローリーでは、改訂を重ねるにつれ、「4枚カードを引く。2枚手札を捨てる」形式の、デッキをめくる機会を増やすカードが増やされてきた
4人戦のグローリーだと、共有デッキが必ず1.5~2回程度リシャッフルされる

「無印は序盤にドローソースが来ないと全然開発できないのがツラいが、そこに魅力を感じる人もいる
メセナ/グローリーは手札が回るようになったので、バランスとしては良くなっている」

というような評価がよくなされる

③ウイングスパン

ウイングスパンは多くのカードを見ることができないようになっている
引き直しができないし、ドロー枚数も少ない
明らかに意図的にこのように調整している

ドローがキツいと、シナジーの弱い鳥カードでも活かさないといけない
そのため「自分のところに来てくれた鳥は、見捨てずに愛でて、育てて、活かしたい」という愛情深い動きを強いられる
「野鳥観察家となって、鳥たちと愛を育む」というテーマとの噛み合いは良い

また、ドロー機会を絞ることで、非ゲーマーを情報の渦から守ることもできる
ウイングスパンでは、中盤は4~5枚以上の手札と、個人ボード上に5~10枚の鳥カードが並ぶ
この枚数の個別カードをコントロールするのは、不慣れなプレイヤーにはちょっぴり酷だ
処理能力ギリギリ~キャパオーバーとなるプレイヤーも少なくないと思われる
この状況に加え、さらにドロー機会を増やすと、運要素は緩和できてゲーマーの好みには近づくが、ウイングスパンのリーチしたい層のニーズからは離れていくだろう


(8)カードデザイン

最後に、いくつかのパブリッシャーのカードデザインについて掘り下げ、記事を終える
ウイングスパンのカードでは、鳥のイラストをめいっぱい大きくし、存在感を高めている
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かわりにアイコンでの効果記載を一切やっていない
アイコンがないおかげで画面がごちゃつかず、鳥カードの印象を際立たせられる
反面、効果が遠くから見えづらいというデメリットもある
このデメリットを打ち消すために、ウイングスパンでは「相手の個人ボードを一切見なくてもゲームが成立する」くらいにインタラクションをそぎ落としている
このカードデザインにするのであれば、設計としてアリだと感じる
 ただし、共用の場に常に3枚カードが並んでしまうので、それは大変見にくい


ウイングスパンに限らず、ストーンマイヤーのゲームの多くはテキストのみか、テキスト優位だ
・サイズ:大鎌戦役
・ワイナリーの四季

この2作品も同社の代表作だが、いずれも手元に持つミニカードにはアイコンが記されていない
大判のイラストと、細かいテキストのみで構成されている

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ワイナリーの四季の訪問客カード

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サイズ:大鎌戦役の遭遇カード
フレーバーテキストとイラストが画面の75%以上を占めている


これについては、パブリッシャーの設計思想だろう
上記のやり方によって、アートワークの魅力を最大限に活かすことができる
ちなみにサイズやワイナリーのカードは、プレイヤーが必ず手元に持ち、発動時のみ参照して、すぐ捨て札にする
なので、ウイングスパンの共用の場カードで起きたような、「遠くにあるテキストが小さすぎて読めない」という不具合は発生しないようになっている

逆に、アイコンだけのカードもある
真っ先に想起するのはイタリア系のゲームだ
イタリア系のゲームの多くは、意地でもテキストを配さない
アイコンだけで押し通す
いくつか例示する
Grand-AUSTRIA-hotel-011-1024x576
グランドオーストリアホテルのスタッフカード
テキストが1文字もない


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ロレンツォ・イル・マニーフィコ
これもほぼテキストがない


もう、カードテキストに親でも殺されたんじゃないかと思うくらい
アイコンしかない
イタリア系ゲームのカードは、文字がない分、特に初見プレイではとてもとっつきづらい
しかし、言語依存が一切ないのは長所でもある

・遠目に見たときや反対側から見たときでも効果を判別しやすい
原語版を日本でもプレイしやすい(シールを貼らなくていい)

というようなメリットがある
なにより、カードが共通の売り場に並ぶゲームなどでは、このようなアイコン表記は必須なのだと思われる

なお、テラフォの場合はイタリア系とストーンマイヤーの折衷タイプ
アイコンとテキストの併用記載がなされている


UNMI4

テラフォーミングマーズ、層雲遊都(ストラトポリス)

テラフォのカードは正直、ごちゃついていて見づらい
ただ、作り手の気持ちに寄り添うと、
「テキストだけだと絶対分かりづらい
でも、アイコンだけだと、別途冊子を用意する必要がある
カード枚数が膨大すぎて、そんな冊子をプレイヤーに参照させるのは現実的ではない
片方だけだとダメなので、アイコン/テキストの併記という親切設計にせざるを得ない」

というような事情があると思われる


・テキストのみ
・アイコンのみ
・折衷

どの方法が正しいということはないが、用途・目的によってデザインを変える必要があると思われる


追記:BGGの英訳記事
https://boardgamegeek.com/thread/2427392/beautiful-solo-gamereview-japanese-designer

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ライジングサン
とても丁寧に作られたバカゲー
フィギュア盛り盛りのエセ戦国時代
あなたは架空の戦国武将となり、妖狐や鬼を引き連れ、日本全土を奪い合う
歴史の再現性などまったくないのだが、
骨格となるメカニクスが本当にしっかりしている

ルール面は美しいピュアユーロで、2000~2010年代の名作群のメカニクスを転用し、丁寧に融合/調和させている
程よい重さと苦しさの陣取り
強いインタラクションの競りがあり、終盤には読み合いや心理戦も頻発する

ゲーマーズゲームなのだが、どこかユーモラスで、笑いも誘うし、重すぎない

ゲームとしての強度の高さも魅力だ
中量級以上をできるメンツであれば、おそらく初対面同士であってもちゃんとしたゲームになる
インタラクションの強い戦闘がありながら、プレイヤー同士でギスギスしないように、随所に創意工夫が施されている

このあたりのバランスの良さと強度の高さには脱帽した
そのあたりを本記事では分解/精緻化
/言語化し、整理する
rising sun


(1)立卓までの経緯
(2)おおまかな魅力
(3)デザイナーと制作背景
(4)プレイ時間、人数、流通
(5)BGGから―ライジングサンはウォー?ユーロ?
(6)考察 エリック・ラングの設計思想
(7)収入の排除
(8)死に価値を与える
(9)同盟、孤立、裏切りについて




Rising Sun (2018)
Designer Eric M. Lang
Artist Edgar Skomorowski, Adrian Smith
Publisher CMON Limited + 10 more

rising sun 1


(1)立卓までの経緯
ディスカバリーゲームズで5人戦をしげきつねさん、Elmさん、スタイルさんらとプレイした
この場を借りて感謝申し上げます

本作はBGGレートがとにかく高い
発売後1年経った2019/10現在でも、世界50位台をキープしている
筆者はプレイ前に噂のようなものを聞いていた

殺し合いのゲームらしい
奇数人数は良くないらしい
2プレイヤーでの同盟があるから、ハブられた人がちょっと辛いかもらしい
裏切りがゲーム内で推奨されてるから、ギスギスするらしい
フィギュアがめっちゃ良いから、BGGスコアに対してはアメリカ人がフィギュアで加点されている?

さらに加えると、今回の卓は公募で集められた5人であったので、「戦争系のキツいインタラクションのゲームをやるのは難しそう」という懸念もあった
が、とても楽しかった


(2)おおまかな魅力

殺し合いがしんどい?
→殺し合いはする
自ら死ぬことや、死で一句詠むことで利益が得られるので、あまりギスギスしない
「あ~死んだか~」的な笑いの方がよく起こる


同盟からハブられるとキツい?
→ちょっとキツい
3ラウンドあるので、「次のラウンドは1位を孤立させよう」とプレイヤー同士でバランスを取れれば大丈夫


裏切りでギスギスする?

→しない
裏切りアクションを同盟相手に打たれたとしても、直接被害を被らない


フィギュアゲー?

→フィギュアとコンポーネントの出来はたしかに超良い

ちゃんと殺し合いはできる
裏切りもある
なのに、尾を引かない
あとくされもない
3~4時間かかるのだが、しゅっと終わる
プレイ後の疲れも残らない
「来週またやりたいね」とそう思えてしまう
なんか脱法ハーブの体験談みたくなってしまったが
よくできている

本作のテンポを良くしているのは、ダウンタイムの短さ
いたるところに目立たない工夫がある

たとえばメインのアクションフェイズでは、プエルトリコと同じやり方で全員が7アクションやる
プエルトリコサンファンをやったことがあるならわかると思うが、待ち時間はかなり少ない
テンポよくアクションを打てる


また、そのあとの戦闘フェイズでは、すべての係争エリア(コマが複数いるエリア)で戦闘が行われる
複雑な競りがそこで起こるので、けっこう時間を食うのだが、ここでも心理的なダウンタイムは少ない
というのも、あなたが関与していないエリアであっても、
・誰がどれだけお金や戦力トークンを消耗するか
・誰が勝利するか

によって、未来のライバルのお財布事情がまるっきり変わってくるからだ
前半の戦闘結果で後半の戦況が決まる
「第三者が殴り合ってるのをぼーっと見させられる」ということはあまりなく、戦闘に関与していないプレイヤーでも、
「できればあいつにお金をたくさん使った上で勝ってほしい
お金をつぎ込んでくれると、後半のうちとの戦闘でラクができる」

という感じで、意図や願いを自然と持つことができるようになる


(3)デザイナーと制作背景

エリック・ラング/Eric M. Langはカナダ人のゲームデザイナー
今の拠点はシンガポールにある

1972年生まれ、フリーゼとローゼンベルグは1970年生まれなので同世代

本作以外の代表作は

・ブラッドレイジ
・ヴィクトリアン・マスターマインド

など

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Victorian Masterminds(2019)

(4)プレイ時間、人数、流通

人数:3~5人、4,5人ベスト
時間:説明40分、プレイ人数3~4時間
流通:2019/10現在、定価~少し割安で流通している


(5)BGGから―ライジングサンはウォー?ユーロ?

本節ではBGGからのレビューと、それに対してのレスポンスをサマライズする
それを踏まえて後半記事を進めていく


https://boardgamegeek.com/thread/1981213/excellent-game-certain-type-i-hated-it

上記記事をもとに、意訳・改変加えて作成した

ウォーゲーマー(スレ主)
「自分は『ライジングサンはウォーゲーム』というふうに聞いてプレイした
でもウォーではなかった
ちょっと期待外れだった
ウォーゲームのように戦闘要素があり、地図があり、盤面を取り合う
けれどウォーゲームとはまったく異なる
完全なユーロ
根幹がユーロだからこそ、BGGのコアユーザーに好まれていると考える
正直ユーロは合わないので、ライジングサンは合わなかった

ライジングサンは以下の要素を持っている
・複数のリソースを管理して、ポイントサラダ方式で勝利点を得る

カードドラフトでのアクション選択
・競り&ブラフ&交渉、3要素のミックスされた戦闘
・アブストラクトなマップで、地形や地政学的な特徴が削られている
歴史的な背景のそぎ落とし

これらはユーロゲームのそれだ
ピュアユーロを好むユーザーは好きだろう

僕が好きなウォーゲームはユーロとは異なる
ゲームを通じて、現実を再現/再創造/re-creationしようとするんだ
ゲーム内に地理があり、現実世界の地理のような力と法則を持っている
歴史、人間の営みがそこに描かれている
子飼いの200人の部隊を死に追いやるときには、苦しい実感がある
僕はそういうふうな、現実世界の再創造をしたいんだ

これに反して、ライジングサンのマシン=メカニクスの部分はよくできているが、テーマ面は弱い
プレイヤーたちはゲームを純粋なゲームとしてとらえ、よりよくシステムを理解しようとする
そのなかで良い結果を出すために努力して、敵と競う 
ライジングサンは無機質なエンジンとしてはよくできているが、現実世界の再現力は低い」

その他の意見①
「僕もウォーゲームと期待してキックした
だから、届いてすぐ『これは違ったなあ』と思って、売ろうとした
でも最近、同じ作者のブラッドレイジをやったんだ
わかったよ
うまくカテゴライズできないけれど、ライジングサンやブラッドレイジは、こういうタイプのゲームなんだ
だから僕はまだライジングサンは売っていない
というのも、僕が持っているどのゲームにも似ていないからだ」

blood rage
Blood Rage(2015)

その他の意見②
「ライジングサンはピュアユーロでもないんじゃないかな
僕のグループの、古典ユーロが好きなメンバーのなかには、ライジングサンが合わなかったという人もいる
ウォーではないのはわかるけど、ユーロともちょっと違う
ウォーじゃないっていうのは、戦闘処理が大きいと思う
ライジングサンの戦闘処理は、よくあるウォーゲームのようにダイスを使わない
また、戦場の霧のような不確定/秘匿性もない
非公開競りをやるから、完全な出来レースとはならないが
ウォーゲームのしきたりからすると、戦闘はかなり異質だと感じると思う
やや透明性が高すぎて、ウォーゲーマーからしたらちょっとあっさりしすぎてる、というのはあるんじゃないかな」


(6)考察 エリック・ラングの設計思想
エリック・ラングのゲームは爽快で、風通しが良い
インタビュー記事などまだ読めていないが、明るい設計思想を見て取ることができる
「プレイヤーに笑ってもらおう、楽しんでもらおう」という
そういうサービス精神、ホスピタリティを感じる
Japanese-Samuraiになろう!
Sengoku-EraでハデにKunitoriしよう!」


的な
ライジングサンには、「上記のような体験をプレイヤーにしてもらいたい」という考えが根底にある、と筆者は考える

この仮定のもと議論を進める

このテーマであれば、殺し合いだが、楽しく、適度に軽く
そういう方向になる
ライジングサンの最大の特長は以下2点だと筆者は見て取る
・収入の排除
・死の価値づけ

これらの特長のおかげでプレイ感が軽く楽しくなり、テーマがより忠実に再現されていると感じる

(7)収入の排除

資産、定期収入、所有、資本、道具
拡大再生産の概念そのものだ
ゲームのなかであっても所有はとても楽しい
そして、人は所有するから、失うことを恐れる
資産には様々あるが、プレイヤーがもっとも強く欲しがり、失いたくないと感じるのが定期収入をもたらす資産
カタンでいう町や都市
カタンでは、盗賊カードによって資源カードを奪われることがある
しかし、もしカードだけでなく、道が破壊されたらどうだろう
あるいは、あなたの町、ましてあなたの都市が破壊されるとしたら?
相当イヤな気分になるはずだ
既得権益を手放したい人間などそうそういない

ひとたびプレイヤーに定期収入をもたらす資産を与えるのであれば、守ってあげないといけない
それは安全なところ、守られた領域を用意してやる必要がある


しかし、ライジングサンは殴り合いのゲームだ
殴り合いのゲームでは、そういう守られたスペースをたくさん用意することができない

なので、収入の概念を意図的に薄くしている

本作のリソースは
・お金
・戦力トークン
・ほまれ
・コマ
・勝利点

の5種だ

細かい部分は省略するが、メインアクションフェイズでリソースを生産し、戦闘フェイズでリソースを消費してVPを稼ぐ感じ


これらのリソースを供給するエンジン、定期収入は一応存在する
政(まつりごと)カード城トークン
城は、コマの生産力を永続的に増やしてくれる
政カードの一部は、毎ラウンドお金や戦力トークンの収入をもたらす
このように、収入の概念は一応あるのだが、それを弱体化する縛りがいくつかある

収入を弱める要因①お金と戦力トークンの次のラウンドへの持ち越し禁止


ライジングサンでは、5リソースのうち、お金と戦力トークンはラウンドをまたいで持ち越せないのだ
宵越しの銭は持てない
戦力トークン(傭兵)はその季節が終わると解散してしまう

持ち越せないのでそのラウンド中に使い切ることになるのだが、有効に利用しきることはとても難しい

だから、お金や戦力トークンの定期収入については、
「収入は魅力的だけど、必ず活かせるとは限らないよね」

とそういう、信頼度のやや低い評価となる

収入を弱める要因②カード購入アクションの弱さ

このゲームのアクションメカニクスを軽く説明する
サンファンとプエルトリコに良く似ている
手番プレイヤーがアクションを選び、全プレイヤーが実行する
手番プレイヤーと同盟相手は、少し強力にアクションが打てる

puerto rico
Puerto Rico(2002) ヴァリアブルフェイズオーダーが採用された傑作

これを時計回りに7回繰り返す
全員が公平に7アクションするのだが、自分のしたい順番でできるとは限らない
また、強化したいアクションを選べないこともある

もっと困るのがお財布の具合や手番の前後で、「相手のせいで自分は何もできず、1アクション無駄になってしまう」みたいなときだ

ライジングサンは慣れてくると以下のような考えを持つようになる
「手番プレイヤーのときに、他プレイヤーよりも利益を得たい
そのためには、
・できるだけ自分が得して
・かつ、多くの他プレイヤーが損する
そんなアクションを打ちたい」

と考えるようになる

本記事の最後に少し触れるが、裏切りは間違いなくあなただけがメリットを得る
移動も、あなたと同盟相手だけが城を建設できるので、やり得なことが多いだろう
収穫も、良いタイミングで打てれば他プレイヤーよりも大きくメリットを得られる

が、カード購入アクションはそういうメリットがあまりない
他プレイヤーと差がつけられないのだ

手番プレイヤーのアドバンテージは
・1金安く買える
・最初にカードを買える

という2点のみ
他のアクションと比べるといささか見劣りする

さらに込み入った話をすると、あなたがカード購入を選んだ直後に複数回購入アクションが起こると、ラウンドの終盤には場に2枚しかカードがないなかで購入が選ばれる、なんて状況が生じ得る
そうなると自分以外のプレイヤーだけがカード購入をし、自分は何もできない、ということも起こってしまう
「本当は思考停止でカード購入を選んで、安定した定期収入が欲しい
が、後手番プレイヤーの動きによっては後々損させられるかもしれない」

というような難しさがある

cards
政カード

収入を弱める要因③ 高価な城トークン

城トークンはいちど買えばコマの生産力を高めてくれる
裏切らない、安定したパワーを持つのだが
1個3金する
最序盤は4~7金くらいしか持っていないので、かなり高い買い物だ
もし安易に買ってしまうと、次のプレイヤーが選んだアクション次第で、資金が足りず、アクションが無駄になる
ということもわりとある

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収入を弱める要因④ 同一エリアにとどまることの無意味さ


ライジングサンは8エリアに分かれており、3ラウンドかけて「8エリア中何エリアを制圧していたことがあるか」を競う
1ラウンドだけでも支配できると、エリアタイルがもらえる
まんべんなくエリアタイルを集めると、10~30点のボーナスがもらえる
勝利点を60~70点取れば勝てるゲームなので、この点数は大きい
プレイヤーは自然と
「セットコレクションしたい
同じエリアに居続けて、エリアタイルを何枚も取るよりも、毎ラウンド別々のエリアを取って行きたい」


そう考えるようになる
城は一度建てると移せないので、この部分に難しさがある

城をもし固め置きすると、序盤は少ないエリアを安定して取れるのだが、終盤は移動が大変になってしまい、遠くのエリアに手が伸びなくなってしまう
城を散らばらせると、より多くのエリアを取れるチャンスが広がるが、複数のエリアで戦争するハメになり、お金やコマが不足するリスクも出てくる
このあたりのバランスは見事だ
一筋縄ではいかないようになっている

japan
地図


(8)死に価値を
与える
戦闘でコマが死ぬ
自分のコマが死ぬと悲しみや怒りが生じる
ウォーゲーマーは、こうした感情の再現こそがゲームに不可欠だとしている

エリック・ラングはそうしたネガティブな感情が生じない工夫をしている
同様の計らいはブラッドレイジでも見られる
賛否あるのかもしれないが、「自コマが死んでも悲しみや怒りが生じず、むしろ笑いさえ起こる」というプレイ感は、本作やブラッドレイジの最大の特長であり、魅力だ

その要因を本節では見ていく
端的にいうと、
「自コマが最高の場所で、最高のタイミングに死んでくれた場合、生き残るよりもがっぽり勝利点を稼げる」

そういうルールになっている

前述したとおり、ライジングサンでは7アクションをプエルトリコ方式でやっていく
そのあとに戦争フェイズがある
戦争フェイズでは、係争エリア(非同盟国同士のコマが1個以上あるエリア)すべてで戦闘処理を行う
戦闘処理についてここで詳述する

あなたと相手プレイヤーは、以下の4アクションができる
切腹(自コマに死んでもらってVPを得る)
人質(相手コマを1個奪って1VPと1金を得る)
増援(戦力トークンを送り込んで、ガチで勝ちに行く)
辞世の句(そのエリアで死んだ全コマ分のVPを得る)

この4アクションは各1名しかできない
4つのアクション権を非公開競りで決める
ついたてのウラで、各々がやりたいアクションにお金をセッティングする
同時公開し、勝ったプレイヤーがアクションを実行していく

ひとつ例示してみよう

たとえば、
・1コマvs3コマ

・戦力トークンやお金の数がだいたい同じ
・両者がリスク回避性の思考パターン
だとしたら、以下のような読み合いが生じる

1コマ側

「劣勢だ
最悪なのが、人質アクションを相手に取られてしまって、そのまま敗北する場合
その場合はエリアタイルを取られ、VPとお金まで取られる

逆に、最高のパターンは戦争で勝つこと
理想的だが、1vs3を逆転するだけの戦力トークンをここで費やしたくはない

まだ未解決の係争エリアあるし、お金も戦力も温存したい

となると、
切腹&辞世の句が現実的な妥協案か
切腹に成功して、辞世の句も詠めれば合計2VP入る
コマを失うのはイタいが、1コマで2VP稼げたら十分なはたらきだろう」

3コマ側
「ここは勝ちたい
相手に切腹されるのはしょうがないから、人質と増援に一定のお金を積んで、そこを奪われないようにしよう
あと辞世の句にもちょっと積んでおこう」


この上記の駆け引きはほんの一例で、以下のような複雑な状況も生じ得る

・3プレイヤー以上いる場合

・コマが多い側が逆に切腹したがっている場合

→最終ラウンドでは、コマ数が増え、しかも次のラウンドまでコマを生かして置く必要も少ない
5コマ一気に死んでもらって、辞世の句も詠んで10VP、みたいなことがけっこうよく起こる
こうなると、切腹&辞世の句が逆に人気になる

競りの読み合いは、ラウンドが進むにつれてだんだん難しくなる


読み合いは難しく、処理も複雑なのだが、あまり重々しさはない

なぜか
前述したとおり、金も戦力トークンも戦争が終わると全部没収されるというのがいちばん大きいだろう

競りでミスったとしても「どうせ持ち越せない金だし、まあいいか」と開き直ることができる

コマが死んだ場合でも「切腹を自分で選び、アクション権を勝ち取った」という状況がプレイヤーを悲しみや怒りから遠ざけてくれる
切腹は積極的/能動的なアクションだ
「殺されたわけじゃない、自分の選択で死んだのだ」

切腹&辞世の句というユーモラスでポジティブなルールが、死=コマの喪失というネガティブ体験を、いくらか柔らかく、受け入れやすいものに変えている

risingsun 2


(9)同盟、孤立、裏切りについて
最後にいくつかの話題について触れ、記事を終える

①3,5人戦は難しいのではないか問題


結論から記すと、
・3人戦はちょっとプレイヤー側の工夫が要る
・5人戦はあまり問題は生じない


同盟からあぶれると、アクションが少し貧弱になる
が、5人戦の場合は、同盟者が得るボーナスは1ラウンド1,2回
大したものではない
3人戦だと、それが2,3回に増える
地味だが、この差はけっこう大きい

②同盟の組み方
普通は、3,5人戦のいずれでも、1ラウンド目は適当に強そうな人を孤立させる
2,3ラウンド目は、その時々のトップ候補たちのなかから、ヘイトの高い人を孤立させる

こういう動きになることが多い(おそらくデザイナーはそう動いてくれると想定している)
また、こういうプレイヤー間での調整ができれば、3人戦でも5人戦でも、あまり問題は生じない
が、このあたりのバランス調整はプレイヤー間に丸投げされている
やろうと思えば、全ラウンドにわたって1プレイヤーを孤立させることもできる
このあたりは一定のリテラシーとバランス感覚が求められる

③裏切りアクションでギスギスしないのか問題

まったくギスギスしない
裏切りと言っても、
・このラウンドの同盟を解消し、自分のほまれを1下げる

というデメリットを受けるかわりに、
「2プレイヤーの1コマずつを、自分の2コマに入れ替える」という裏切りアクションをあなただけが実行する
裏切られた相手だけが特にへこむわけではない
余談だが、同盟相手がいないプレイヤーは、裏切りアクションをほまれを1下げずに打つことができる、というちょっとしたメリットを持っている

rising sun 1


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平遥というゲームがとても面白かった
すごく良かったのだ

とても長くなったが、以下にレビュー記事を記す


IMG_1211

――
19世紀末ごろの清の古都・平遥
銀行業が乱立し、栄華を誇るその都市で、プレイヤーは小銀行の有望な頭取となる
銀を調達・運用し、利殖を稼ぎ、8か月(ラウンド)の金融戦争を戦い抜く

平遥の最大の魅力は、
銀を運用する独特なメカニクス
テーマとの親和性もとても良い
ただしアクションの強弱バランスに難があったり、ワカプレ部分の作りが丁寧でなかったりと、ゲームとして洗練され切っていない部分も小さくない
欠点はあるものの、それを補って余りある魅力を掘り下げたいので、今回記事化することとした

目次:
(A)作品紹介

 (1)おおまかな魅力
 (2)作品背景
(B)テーマ
 (3)平遥(へいよう)とは?
 (4)いくつかのトリビア
(C)各アクションの掘り下げ
 (5)為替送金 ―虚業の体験
 (6)支店開設 ―のれん分けに銀が要る理由
 (7)支店長の雇用
 (8)官府タイルの獲得
 (9)貸し付け/預金集め
 (10)名誉トラックを上げる
(D)ゲームとしての考察
 (11)ダイスとリソース管理のちぐはぐ感
 (12)平遥を経済ゲームらしくするには


平遥1



Top Four Ancient City in China Series: Pingyao Ancient City 
Design 王徳繁&静言思桌游
Illustration 劉鐘鳴 Ruiray


(1)おおまかな魅力

・プレイ感

序盤はソロ感が強め
銀トークンを調達してきて、個人ボード上で運用するのが主となる
個人ボード上の、銀トークンと銅コインのダブルリソース管理がメインなのだが、いくつか斬新なメカニクスが用意されており、ここの部分にいちばんの魅力がある
ただし、終盤にかけてアクションの取り合いが激化する
ひとしく増員する上に、得点に直結するアクションが減ってくるからだ


・複雑さ

初回プレイはとてもややこしく感じると思われるが、2回目以降はきっとだいじょうぶ
というのも6種しかアクションはないのだ
さらに言えば、1ラウンド2~3アクションしかできないので、一度6種を把握できれば、大した負担感は感じないと思われる
体感ではサイズ:大鎌戦役ぐらいのルール難度

・リプレイ性

2~3回遊ぶ余地はある
アクションの選択肢が多くないわりに、強弱が激しいので、行けるルートに限りがある
10回遊ぶのは、現状では厳しい
ただし、拡張が現在作られているとのこと
それによってリプレイ性が高まる可能性は高い


・運要素
ランダム性は一定ある
詳細後述するが、ちょっと作りとして粗く、理不尽感を感じやすい

・インタラクション
殺し合いはない
他プレイヤーとの絡みは主に、ダイスのワーカープレイスメントでのアクションの早取り
アクションの取り合いはけっこう激しい
経済ゲームでよくあるような、相場の操作はない
競りもない
経済的なシステムを反映しているわけではなく、銅コインと銀トークンという2種のリソース管理に妙味がある
銅銭と馬蹄銀を用いたルールが特殊でとても複雑な分、このゲームの急所はプレイヤーVSシステムだけでほぼ完結している
プレイヤー間のインタラクションは、意図的に弱めに設定されている
どこにフォーカス、どの部分をそぎ落とすか、という見せ方の問題であり、平遥のこうした設計はとても理にかなっていて、美しいと感じる
平遥23
写真はこちらから拝借しています

(2)作品背景
同デザイナーは
・敦煌(とんこう)
・泰山(たいざん)

も制作している
「四大古城シリーズ」で出すらしいのだが、何をもって四大古城とするのかはちょっとわからない
敦煌、泰山、平遥の3つは世界遺産なので、あと1つ世界遺産系のタイトルを出して、4つの連作とするのかもしれない
あるいは、「四大古城」とされるのは

平遥、阆中、徽州、安居であるらしいので、そっちの方でタイトルが出るのかもしれない
なお、2019/10、現在BGGに登録さえされておらず、関連する英語/日本語の記事がほとんど一切存在しない
そのうち何かしらを追記する可能性がある
敦煌2
敦煌

(B)テーマ
(3)平遥(へいよう)とは?
平遥は、清朝の時代(1616~1912)に栄えた都市
清で、時代設定は19世紀末
当時は、大英帝国にアヘンを売りつけられたり
国力が傾きかけていて、列強が領土的野心を伸ばしてきてピンチだったり
最終的には日本から日清戦争を仕掛けられたりと
いろいろあるわけだが、このゲームでは国外の政情はノータッチ

平遥に話を戻すが、平遥は大清帝国でトップクラスに繁栄していた金融都市だった
本当によく繁栄したので、小北京なんて呼ばれたりもする
原語の発音はピンヤオ

当時の清には、票号(ひょうごう)という、今でいう銀行業があった
平遥には国内の票号の半分以上が集まっていた
銀行業者たちのメッカ
匯通天下/Land of Wealth=富の集積する町

という異名も持っていた
現在は城郭都市として世界遺産に指定されており、観光地となっている
平遥古城12」


平遥古城


(4)いくつかのトリビア


①ゲーム中の銀トークン(馬蹄銀)や銅コイン(銅銭)は実在する
IMG_12082
ゲームのコンポーネント
左が銀トークン(馬蹄銀)、右が銅コイン(銅銭)
銅銭はいぶし加工が入っていて、けっこう良い値段がしそう


平遥 馬蹄銀
清代の馬蹄銀 
今でも古銭としての需要があるのか、メルカリで7000円程度で取引されている


銅銭

清代の銅銭

②平遥のアクションはすべて地名で、現在も観光地として栄えている

ここでは2つほど例示する


平遥 城こう廟

城隍廟(じょうこうびょう)
名誉トラックを進めるアクション

平遥城隍廟

実際の城隍廟
城隍廟では、城郭都市の土地神様のようなものをまつっている
ここでは詳細省くが、中国文化では城壁はとても大事なものであり、
城隍廟は人民の暮らしに密接にかかわる大事なものだった




平遥 西大街 サマリ


西大街(せいだいがい)
為替送金を行うアクション

平遥、南大街、西大街

実際の西大街(南大街の可能性あり)
「西部にある大きい通り」くらいの意味
現在と同じく、当時も楽しげなお店が軒を連ねていたのだと思われる



③個人ボードや支店タイルの固有名詞は、山西省の実在の地名
山西省は平遥のある省
読み方はしゃんしー省でいいんだと思われる
キリがないので、ひとつだけ重要なものを例示すると、個人ボードのひとつに日昇昌(じつしょうしょう)と書かれている
日昇昌


日昇昌は、記録上いちばん最初に創始された票号(ひょうごう)=旧式の銀行とのこと
中国票号博物館
中国票号博物館


(C)各アクションのテーマ的な意味(メカニクスの掘り下げ)
6アクションある
・為替送金
・支店の建設
・支店長の雇用
・官府タイルの獲得
・貸付/預金集め
・名誉の獲得


それぞれのアクションで、何が行われているのか
がやや分かりにくいので、そのあたりをテーマと絡めながら読み解いていく
(C)は未プレイの方にとっては関心の対象となりにくいので、適宜読み飛ばしを推奨する


(5)為替送金 虚業の体験

平遥 西大街 サマリ

テーマ:

為替/exchangeとは、実際に現金を輸送するのではなく、証書や小切手で現金を送ること

たとえばあなたは
「東京で働いているが、新潟の郷里に10万送りたい」


そういうニーズを持っているとする
現代日本だと、即日、数百円の手数料で送金は済んでしまう


が、このゲームではネットもなけりゃ電話もない
一番ユーザーフレンドリーなコースでも、

1か月後に新潟で10万受け取れるように手配します。手数料は2万です」

と法外な請求が来る
清代末期の銀行屋が、実際にこんな殿様商売ができていたかは不明だが、このゲームではやれてしまう
為替送金のスペシャリストになると、ゲーム終盤には
3か月後に受け取れます、手数料は8万です」

みたいな
アホみたいな手数料をがっぽりせしめることもできる
このあたりはゲームらしい緩さ/面白さであり、現実にはあまり即していない


メカニクス:

ゲーム内では、為替送金は以下の2つのメリットを持っている
手数料として即座に2~8銅銭を得る
・プレイヤーが保有する見かけの銀の量を、一時的に多く見せることができる

前者は説明した通りだが、後者も極めて重要だ
たとえば3か月プランにすると、顧客が支店Aに預金してくれた1銀トークンを、3か月後に支店Bで返せばいい
裏を返せば、3か月のあいだその銀は中空に浮く
寝かせておいてしまっては芸がない
ぜひその銀を運用して、利鞘を稼ごう
慣れると自分の手持ちより多い銀トークンを個人ボード上で行き来させ、本来よりも多い収入を稼げるようになる
これはすごく楽しい
また、とても斬新
このゲームでいちばん感心した部分と言っても良い

銀行業や金融業は、いまでも虚業(実際に何かを生産するわけではない、うさんくさい事業)と言われたりする
平遥で為替送金を繰り返し、銀トークンを支店間で移動させ続けていると、本当によく儲かるのだが、以下のような所感も覚える
「自分のやっていることは実体のない事業だ
無から有が生じるわけでなし
どうして利益が生じてくるんだろう」

という、むなしさと疑問が入り混じったような感覚を抱く
ここのプレイ感は本当に、他の作品では得難いものなので、ぜひ機会があれば体験されてみてほしい



(6)支店開設 のれん分けに銀が要る理由

平遥 票局

新店舗の開設
他のゲームでいう建設アクション 
本店から2個銀トークンを持ってきて、新しい店舗の上に置くことで、のれん分けができるなぜこのような行為が行われるのか、背景を読み解けば、一応の説明ができる
みじかく記すと、
・清代の両替商は銀との兌換性のある紙幣を発行していた
・顧客に対しての信用のために、支店にも銀塊を一定量置いておく必要があった

上の背景などを含めて、かみ砕いた文章を以下に記す
(相当脱線するため適宜飛ばし読み推奨)

テーマ:


(1368‐1644)(清の先代)
「貨幣について決めないと
銅貨と銀錠(銀のインゴット)だけでやっていこう」

→銅貨が全然足りない


「銅と銀だけじゃ全然回らない
しゃあないから紙幣を刷ろう
紙幣は銀と兌換性(だかんせい、交換できること)は持たせるわけにはいかない
交換できるだけの、たくさんの銀は国庫にない

でも、信用性を与えないといけない
『納税の70%は紙幣で行うこと』とそう義務付けよう
納税に使えるってなったら紙幣が大暴落したりはせんやろう」

市民
「銀と換えられないっていうのはお金としてはダメでしょう笑
不換紙幣とか
信用できるわけない

→紙幣の価値は下がり、インフレ傾向に



「ダメだ、こうなったらもっと紙幣刷ろう」

→ますますインフレに

いろいろあって明が倒れ、清が中国大陸の支配者に



清(1616‐)

「明の失敗を見てると…
紙幣刷りたくはないなあ…」

スペイン(1500ごろ~)

「新大陸で
尋常じゃない量のが取れたよ!
中南米、今のメキシコとかで」


ポルトガル
「日本と貿易してるんだけど、日本からも倭銀が取れたよ」


→大量の銀が明代末期~清代初期にかけて中国に流入



「圧倒的銀!!
正直超助かる

とりあえず、銀貨と銅貨だけでどうにかやれそう
紙幣は作らないでやっていこう


清の両替商(平遥におけるプレイヤー)

「紙幣を政府が刷らないのはいいけど、我々や市民は
紙幣がないとやっていけない
銅銭やら銀貨は、持ち歩くのには物理的に重すぎる
それらだけを使って売買をしろというのは無理がある
どうにかならないか」



「それなら、あなた方がお客さんの銀や銅銭を預かって、それと同じ額面の紙幣を渡す、っていうのならいいですよ」

まとめなおすと、


明代の紙幣:

中央政府が発行した
銀と交換できなかった


清代の紙幣:

個々の両替商が発行した
銀との兌換性があった


市民からしたらたぶん大差ないのだが、金融システムとしてはまるっきり正反対となっている
こういうのは筆者にとってとても面白いと感じる箇所だ

話を進めるが、プレイヤーは銀行屋の元締めで、国内にいくつも支店を持っている
なので、こういう顧客がいるかもしれない

顧客
「先月、平遥の本店で銀を預金して、紙幣化した
で、支店がある別の都市に引っ越したんだけど、やっぱり銀が必要になった
支店で、紙幣と銀を換えてほしい


こういうやっかいな要求をするかもしれない
系列店なので、両替に応じる義務がある
こんなときにもし支店に銀が置いていないと、銀行としての信用がガタ落ちしてしまう
平遥においては、支店を新規開設する際に、2銀トークンを新店舗に配置する義務があるが、このルールはこのあたりのテーマ性から来ていると考えられる


メカニクス:

支店開設はこのゲームの花形
頑張って銅銭を貯めて、2銀をひねりだして、新店舗を開設する
銀の投資先として、ほかにもいくつかあるっちゃあるのだが、この支店開設こそが正規ルート、大正義だ
新店舗は一度建てさえすれば、4~8銅銭の収入をもたらしてくれる
おそらく両替業の手数料で勝手に儲けてくれるのだろう

あとは、ルールについて、支店開設時のタイルは「ランダムに4枚引いて、1枚を得る」ということになっている
筆者らの卓では「そこをランダムにするのはイヤ」という意見が多く、あらかじめ4枚ずつ見えているなかから選ぶ、という形式としている(宝石の煌き方式)
この改変によってゲームの展開は大して変わらない


(7)支店長の雇用

平遥 文廟

テーマ:
文廟(ぶんびょう)は大学みたいな感じ
大学に企業説明会に行って、学のある若手を引っ張ってきて、支店長に据えているのだろう

メカニクス:
支店長を置くと支店の特殊能力を解放できたり、配置できる銀塊の上限量を増やしたりできる

増やすと強いのだが、支店長を置くのに1アクションを使うというのはちょっともったいなく感じられ、若干不人気なことが多い

(8)官府タイルの獲得

平遥 けんが2

メカニクス:
1銀を支払うことで、永続能力を得る
平遥では一度得た銀はほぼ消費しないが、この官府タイルの獲得のときだけは支払う
タイルは6種あり、特定のアクションを強化してくれる
官府とは朝廷という意味なので「朝廷じきじきのお墨付きを得た」ということなのだろう
たいてい、官府タイルで強化したアクションを戦略の主軸に据えることになる
プレイヤーの方針を決める手助けとなる
タイルごとの強弱バランスは少しだけ悪いようにも思わなくはない
ただ、必勝パターンのような組み合わせはおそらくないはず

IMG_1209
6枚の官府タイル


(9)貸し付け/預金集め 

平遥 銭荘 サマリ

メカニクス:

【預金集め】
預金集めと為替送金によって、プレイヤーは銀を調達することができる
預金集めは運要素がなく安定感があるが、やや弱い

以下にメリット/デメリットを記す
預金集めのメリット:
・いっきに2銀トークン手に入る
・確実


預金集めのデメリット:
・平遥本店で返さないといけない
・毎ターン2銅銭の出費がある 


預金集めと同じく、銀を集める手段として有用なのが為替送金
為替送金は、詳細を省くが、カードによる運要素がある
支店の数が少ない序盤は、送金失敗、ということもたまにある

安定性を欠く分、為替送金の方がパワフルに設定されている


【貸し付け】
銀を運用する手段は、
・貸し付け
・支店開設
・官府タイルの獲得
の3択
この貸し付けがもっとも非力だ


支店開設の場合、以下のメリット/デメリットを持っている

メリット
・為替送金の成功確率が増える
特殊能力が付与される
終了時点が入る
・支店長獲得アクションを有効に打てるようになる
・一度開設すると、定期収入が入り続ける

デメリット
・開設に6~24銅銭必要
・終盤は人気になるので、アクションできないときもある

コストも重いし人気だが、リターンも大きい


対して、貸し付けのメリット/デメリットは以下が

メリット
・無料
・他プレイヤーの人気がないことが多く、安定して実行できる
・名誉トラックとシナジーがあり、名誉トラックを上げ切っていれば6勝利点得られる

デメリット:
・貸し付けた銀が返ってくるたび、再度貸し付けアクションを打たないといけない


未プレイ者にとってはわかりにくいと思われるが、貸し付けは本当に弱い
これに関しては、拡張によっていくらか是正される可能性はあると感じる

最後に、このバランスの悪さを少し擁護するならば、ダイスによるワカプレというメカニクスを際立たせたいなら、アリといえばアリ
弱アクション(貸し付け)と強アクション(支店開設)を用意することで、アクションスペースの奪い合いをより複雑化させることができる

(10)名誉トラックを上げる

平遥 城こう廟

貸し付けアクションとシナジーがある
現状のゲームバランスだと、とても弱い


(D)考察
(11)ダイスとリソース管理のちぐはぐ感

以下の考察では、前提として平遥の最大の魅力は以下の2点であると仮定する

・シビアなリソース管理の楽しさ
・銀行/金融業というテーマから起因する、日常では体験できないプレイ感



平遥はけっこうランダム性が小さくないゲームなのだが、「ダイスのランダム性がこの2つの魅力をジャマしてしまっているのでは」と感じる

本節ではダイスプレイスメントのルールを、少し詳しく記載する
全員サイコロを振って、待機スペースに下の写真のように配置する

ダイス

下にいる出目の高いダイスから動いていく
手番順という概念はないので、たとえば1の目がたくさん出てしまったら、ほかの人がやっているなか、待たないといけない
ただ、出目が小さいほど1アクションが強力
どの出目が出ても、まあ不公平感は少ない
このあたりはダイスプレイスメントの先発のマルコポーロの旅路よりも、ルールとして美しいと感じる

また、同一マスに、直近のダイスより出目の小さい=強いダイスを置くならお金を支払う
逆に出目の大きい=弱いダイスを置くならお金をもらえる
同じ出目がすでに置かれているなら、そのアクションは実行できない
また、0~2金を支払うと、
ダイスの振りなおしが1回だけできる
一部の支店タイルには、出目修正する特殊能力を与えるものも存在する


以上がルール
所感として、まず「相手と同じ出目だと絶対にアクションができない」というのが理不尽にキツい
同一出目だと、スタプレマーカーを持っている順に動く
スタプレマーカーはラウンドごとに回るので、後手プレイヤーは重要なアクションを取りたいのに、理不尽にふさがれることがけっこうある
特に最終ラウンドのレベル3支店の開設は超重要で、終盤はとてもハードな取り合いが生じる
このあたりの、やりたいことを自由にさせてもらえないプレイ感は、窮屈で、不毛で、あまり好みではない
楽しくリソース管理させてほしいし、各々が気持ちよくなりたいのだ
「何かしら抜け道があればよいのになあ」とは感じた
たとえば名誉トラックを後退させることで、同じ出目を置けるようにするとか

また、これも個人的な好みだが、ダイスの振り直しもあまり好きではない
軽ゲーならともかく、重量級の戦略ゲームにはそぐわないルールだと感じる
「振りなおした出目が気に入らなければ、やっぱり元の目にしてOK」くらいの緩さが欲しい
り合いにはなるか


(12)平遥を経済ゲームらしくするには

少しだけ重くしても良いなら、以下のような改変を加えても良いと考える

銀トークンが購入されるたびに、銀の市場価値を徐々に引き上げる
元々は10銅銭固定だが、最終的に15~20銅銭程度まで上げる
銀のレートが上がることで、銀の貸し付けアクションでもっと手数料や定期収入を稼げるようになる

この改変によっていくらかセットアップが面倒になるものの、以下のようなメリットが得られる
・弱かった貸し付けアクションの強化
・物価のインフレの再現
・早く銀トークンを取らないと、というレース的な演出
pingyao

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コンテナはとても自由度の高い経済ゲーム
市場経済のすべての役割をプレイヤーが担い、小さなシステムを回す
とにかく面白かったのだが、とても漠然とした感覚であるので、この記事を通して言語化を行う
なお筆者は大阪天王寺のキンケッドテイルにて、ロニーさんきすけさんらと4人戦で試遊させていただいた
この場を借りて感謝申し上げます



container
写真はこちらから



(A)テーマ 
 (1)デザイナーと作品周辺
 (2)おおまかな魅力 ―大人のキッザニアとしての経済ゲーム
 (3どういったプレイヤーに勧められるか
 (4)テーマ
 (5)人数/時間

(B)メカニクス
 (6)商品のこまかい流れ
 (7)ゆるやかなインフレと拡大再生産
 (8)値付けのインタラクション ―価格競争と業務独占
 (9)暴落と信用不安
 (10)考察など ―バリアントルールに関して


Container(2007)
Designer Franz-Benno Delonge, Thomas Ewert
Artist Mike Doyle (I)
Publisher Valley Games, Inc.

container3

(A)テーマ 

(1)デザイナーと作品周辺
2007年に旧版が発売され、2018年に10周年記念版が発売された
新版はルールが少し改善され、やや軽くなっている

作者はフランツ・ベノ・デロンシュ
1957年生まれのミュンヘンのデザイナー
2007年、50歳の若さで悪性腫瘍で逝去された
代表作は
・ビッグシティ
・トランスヨーロッパ&アメリカ
など


(2)おおまかな魅力 ―大人のキッザニアとしての経済ゲーム
コンテナにおいて、プレイヤーは商品の製造、仲買、出荷を一手に担う、総合商社のようなものとなる
コンテナの世界はほぼほぼ完全な自由市場
あなたは商品をどれだけ生産して、どういう値付けをしてもいい
また、それらを買うかどうかもプレイヤーの自由だ
各人が自由に経済活動を行う
基本的には、協力して市場を成長させることになる
ただし、ときには反目して、値下げ攻勢や値の吊り上げで、他社を攻撃することもあるだろう
そうしたやりとりをしながら、最強の大富豪を目指して2時間の競争を行う

筆者にとってのコンテナの最大の魅力は、自由市場経済で闘うプレイヤー(起業家、社長)の不安と焦燥を追体験できる点にある
「そんな生臭いもの追体験したくない」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、生々しすぎず、ある程度気持ちよくなれるようにデフォルメがかかっている
多少は拡大再生産するし、よほど足の引っ張り合いをしないかぎり、最後にはある程度みんな豊かになる
この描写がとても巧みなのだ
コンテナは、実世界のマクロ経済をゲーム上でシミュレートしている
ボード上をお金と商品が循環し、市場がゆっくりと成長していく
そうした奇妙なさまを、ゲームを通じて眺めることができる
雑にたとえるなら、大人のキッザニア的なゲームと筆者は捉える

container4


自由市場は、以下のような特徴を持つ
・プレイヤー(消費者)がケチらずにお金を回すと、経済全体が活性化し、良い循環が生じる
・工場や技術への投資によって生産性が向上、経済成長が生じ、活況になる
・逆に、ささいなきっかけで信用不安/不景気が生じ、急に相場が冷え込むこともある

コンテナは、こうした複雑な市場の機微を、非常にシンプルなルールで再現している
この軽さで、ここまで厚みのある感情を引き出すゲームを筆者は知らない


デフォルメの仕方も丁寧だ
まずルールが簡明で、分量としては中量級サイズにまとまっている
(BGGの重さレートは3.12、ヌースフィヨルド~テラフォ程度)

さらに、時代や商材のようなテーマ性やフレーバーも極限まで削っている
ぱっと見でテーマを掴みづらいものの、新版ではコンポーネントが異様なほど豪華なこともあり「ノンテーマだからイマイチゲームに感情移入できない」というようなことにはなりづらい
運要素はゼロだが、不確定性/不透明性が随所に散りばめられている
絶妙に先行きが読めない
が、自分のなしてきた投資活動には、一定の自信と、将来への期待感もある
この不安と期待は、市場で闘う投資家/起業家の体験世界そのものである
テーマの再現性がとても良い

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(3)どういったプレイヤーに勧められるか

経済系ゲームが好きであれば、まず間違いなく勧められる
以下におおざっぱな特長を箇条書きで記す


・プレイ感

ゆるやかな拡大再生産はするものの、爽快に走り抜けるタイプのゲームではない
アクションメカニクスは1手番2アクションの、ワレスが良くやるタイプの方式
基本的には序盤はアクションの効率化を図り、中盤以降は特化したアクションを中心に商取引を重ねていく
内政の効率化を図る一方で、同時に相手の欲望の温度を測ることも重要だ
相手をたきつけ自社商品を高く売り、逆に他社商品を買いたたけると、より勝ちに近づく

・対人インタラクション

強めだが、直接的な殴り合いはない

・競り

自由度がとても高く、かなり難解な部類に入ると思われる
筆者の知る限りでは、これ以上に難しいゲームを知らない
モダンアートより少し難しく、複雑だ
一度プレイしてみないと、落札時に自分と売り手がどの程度得をするか、というのが見えてきづらい

・お金の計算

難しくない
電力会社のような細かい計算の必要はない

・借金
あるっちゃあるが、必須ではない
ゲーム中2,3回しかしないし、次のターン以降、いつでも低利息ですぐ返せる


・収束性

規定個数のコンテナが生産され尽くされ、ストックが枯れたらゲームエンド
収束性は悪くない
また、コンテナの総数を少し減らすなどすると、ゲーム時間をより短くすることができる
それによってゲームが台無しになってしまうことも特にない
お好みで、各色±1~2個程度しても良いだろう


・運要素

ほぼゼロ
たとえばゲルツのゲームもほぼ運要素ゼロだが、コンテナとゲルツ作品は良く似ている
ランダム性がないが、他プレイヤーの動きが複雑に絡み合うので、2,3手先はまったく読めない

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(4)テーマ

自由市場におけるメインプレイヤーは以下だ
・原材料をつくる生産業者
・材料を仕入れる仲買業者
・消費者に提供する小売業者
・製品を消費する消費者

この生産、仲買、小売、消費のすべてをコンテナでは体験できる
製品が作られてから消費されるまでの、全過程を多プレイヤーで協力して行っていく

それらをなるべく最小限の規模でシミュレートするために、コンテナのみかけの構造はややいびつな形をしている
なので、特に初回プレイでは
「我々はなぜこのようなことをやっているのだろう」
「我々は今何をやっているのだろう、どこに向かっているのだろう」

とコントロール不能感もやや抱きやすい


少し詳しく書くと、以下のような流れになる
プレイヤーは
・工場
・倉庫
・輸送船
・本国の商品を置くスペース

を持っている
ちょっとした資本家だ


生産されたコンテナは以下のような流れをたどる

・Aが工場でコンテナを生産
・BがAから買い、倉庫にコンテナを陳列
・CがBの倉庫から買い、輸送船にコンテナを積載
・Cの輸送船から本国に出荷、コンテナを非公開競りで落札
・最高値をつけたDがCから落札

工場→倉庫→輸送船→第三国

という順路をコンテナはたどり、その都度お金のやりとりが行われる
最終的には、本国に所有するコンテナの総価値+手持ち資金が勝利点



・・・やや複雑なゲームだ
未プレイの人にとって、記載内容がかなりわかりづらいと思う

押さえてもらえると嬉しいのは、

・コンテナをめぐって何回か商取引が行われる
・最終的にコンテナを本国に所有しているプレイヤーが勝利点を得る

この2点

あとは、実際にやってみると、ほぼ間違いなく、以下のようなことを思う
「自分で作った商品を自分で買い取って倉庫に並べたい」
「自分の倉庫の商品を自分で買い取ってコンテナに積載したい」


そういう欲望が生じる
が、コンテナの最大の禁忌はそれだ
自分―自分間で取引をしてはならない
商取引は、必ず他プレイヤーと行われなければならない
(なお例外として、最終的な本国への出荷では、自分自身で買い取ることもできる。詳細後述)

この部分がコンテナの直感的にピンと来づらい部分であり、ルール的にちょっとムリがある部分でもある

先ほども記したとおり、コンテナにおいて、プレイヤーは
・工場
・倉庫
・輸送船
・独自の販売網

を持っている

現実世界で、これら全部を有する企業は多くない
たいていの中小企業は、これらの一部しか持っていない
全要素を持つ企業を人は総合商社と呼ぶ

総合商社は、コンテナでは禁じられている自社内での商取引をばんばん行う
関連会社で生産したものを自社で仲買し、自社の物流を用いてそのまま消費者にお届けする
仲介業者をほとんど介さずに、自社と関連会社だけで全工程を回すことによって、大きな利益を得る
そこにこの企業形態の最大の強みがある
余談だが、こうした形態は日本特有のもので、英語でもSogo shoshaと呼ばれる
三菱商事や三井物産など
海外では全方位に総合的に投資するような経営は好まれない
それよりは特定の製品や取引に特化して、専門性/生産性/競争性を高める方向に舵が切られやすい
sogo shosha
総合商社についての洋書(こちらより)
高度経済成長期において、日本特有のその業態で高業績をあげた
その珍しさから、当時は海外でも取り上げられたらしい


本題に戻るが、コンテナのプレイヤーは総合商社ではない

というのも、自分で生産した商品を、自分の倉庫に置けないからだ

コンテナを実際にやってみるとわかるが、最初の資本金を
・工場
・倉庫

のどちらかに投資し、特化していくことになる

全アクションをやろうと思えばできるのだが、1ターンに2手数しか与えられない
工場や倉庫を作ると、アクションの強化ができる
普通は1アクションに1個しかコンテナを作れない
でも、工場に先行投資したプレイヤーは1手数で2個、3個と生産量を増やすことができる
倉庫に投資すると、2個、3個と多くの商品を陳列できる
こうした大きな倉庫は、輸送船にとって魅力的に映るだろう
なので、必然他プレイヤーとの分業体制のようなものが構築される
「あなた、工場でたくさん製品作る人
あたし、それを買って倉庫にたくさん並べる人」

みたいな
ゲーム開始時には総合商社のように、全工程を自分でやれるように見えるが、実際のゲームではある程度特化することになる
・製造
・仲買
・出荷
・消費

の全部をまんべんなくやる、ということはほぼほぼなくなる

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(5)人数、時間

3~5人
初回はインスト20分、人数×40分程度
BGGベストは5人だが、人数が増えるほど見通しは悪く、ゲームが複雑化する
BGG的には3人は非推奨であるものの、
「3人プレイはアリ
逆に、5人戦はゲームの見通しが立たず、ハプニングも起きやすいので、初回ではあまり推奨しない」
というレビューも




(B)メカニクス
(6)商品のこまかい流れ

ゲームのコンテナが作られてから消費されるまでの流れを以下でシミュレートする
(けっこうややこしいので、未プレイの人はこの節は読み飛ばしてよいと思われる)
A、B、C、Dの4人戦で、最序盤の場だと想定する


A(生産)
紫と黒のコンテナを作ります。
作るのに1金かかった。
売値は、2つとも2金とし、工場に配置します。
工場建設の減価償却を無視すると、売値―製造費で3金の儲け」

B(仲買)
「2つで4金か~。
とりあえず買います。
売値は、2つとも4金とし、倉庫に配置します。
売値―仕入れ値で4金の儲け」

C(出荷)
「その2つを8金で買って、輸送船に積みます。
本国で売ります」

第三国では非公開競りが行われ、最高値を出したプレイヤーが競り落とす

D(消費)
「9金の値で競り落とした。
自分の相場表によれば、うまくいけばこの2つは14金分の価値があるようだ
ゆえに14-9=5金分の儲けと考えてよい」

C(出荷)
「9金で売れたか!
9金+政府援助の9金=18金を得る。
売値―仕入れ値=18―8=10金儲かる」

筆者が4人いると、最序盤の取引はこんな感じの流れになる


整理しなおすと、
A(生産者)=3金の儲け
B(仲買人)=4金の儲け
C(出荷人)=10金の儲け (ただし、この人は移動に3手数使っている!)
D(消費者)=5金程度の儲け

一連の商取引で、全プレイヤー合計して、22金分の儲けを得ている
この22金は、
・工場で作られたコンテナ2個の最終的な価値=14金
・政府援助の9金
を合算し、
・原材料製造のときに使った1金

を引いて、14+9-1=22金 で釣り合いが取れる

※追記
厳密には、原材料製造費の1金は右隣のプレイヤーに支払われるため、上の式には少し誤りがある


全プレイヤーの1手あたりの儲けは3~5金程度で、かなり平均化されている
中盤以降は、場の資金量が流動的なのでバラつきがもっと出てくるが、おおむねバランスは取れている

コンテナの最大のデフォルメとして、競り落とした金と同額が政府援助として給付される
こんなデタラメで大甘な政府はまずない
違和感を覚えるプレイヤーも少なくないと思われる
が、デザイン的にはかなり理にかなっている
・場全体に、外部からお金を流入させる必要がある(緩やかなインフレを起こしたい)
・アクションによって流入の有無が変わるとややこしいので、流入は1か所だけが良い
出荷には3手数くらい費やすので、報酬を少し高くしたい

→出荷に外部報酬をつけよう


(7)ゆるやかなインフレと拡大再生産
コンテナはゆっくり拡大再生産する
また、その足止めも同時に生じる
ここからはそれらを生じさせる要因を個別に見ていく

まず、拡大再生産要素は以下の2点

①設備投資=1アクションごとのパワー増加
②政府援助=場の資金量の増加


設備投資=1アクションごとのパワー増加
前述のとおり、工場と倉庫を増やせる
増やすことによって1アクションごとのパワーを高められる

②政府援助=場の資金量の増加

コンテナ、やってみればわかるが、最初期はコンテナが3個も4個も一気に出荷できない
やろうと思えばやれるが、買いたたかれてしまうのだ
初期資金はたった20金で、1個あたり3~7金が適正レート
だから最初は2個くらいしか出荷されず、少額の取引が行われる
ゲームが進むと、だんだんと場全体の資金量は増えていき、インフレしてくる 

(8)値付けのインタラクション ―価格競争と吊り上げ―

値付けもこのゲームの面白い部分だ
自由に値付けすることができる
4人戦だと、たいてい工場に寄せるプレイヤーが2名、倉庫特化のプレイヤーが2名生じる
あなたが工場でコンテナを2個生産して、合計6金で売っていたとする
後手番プレイヤーが2個5金で売ると、普通は5金の方が先に買われてしまう

こういう風に競合他社がいる場合は、値下げ競争のようなものが頻繁に生じる
できれば避けたいが、4~5人戦だと、基本的に不可避だ

また逆に、終盤などで、
「他プレイヤーは一時的に現金がショートしていていっぱいいっぱいだが、自分は資金的余裕がある」
というような状況も生じる

こうなると市場をコントロールできるのはあなただ
強気に出て、仕入れた商品を1個5~6金の高値を付けると良いだろう
「3個で15金、高いか?
僕は適正価格やと思うけど
買えるなら買ったらええんちゃう
出荷してくれたらいい値段で落札したるよ」


業務独占に成功すれば、こういうナニワ金融道的なロールも楽しめる
コンテナの魅力のひとつだ
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筆者はこのような展開を強く好む
他人の足元を見てマネーで殴るなどいうのは、現実世界では得難い、貴重な体験だと感じる


(9)暴落と信用不安
コンテナ1個あたりのレート2~7金程度なのだが、場の資金量が増えるにつれて、少しずつインフレする傾向にある
が、中盤以降に、ちょっとしたきっかけで不況が生じることがある
たとえば他プレイヤーの多くが工場や倉庫拡張に投資してしまって、一時的に場全体の資金が枯渇している場面
そんなときに、たとえばコンテナが4個競りにかけられたとする
まずロクな値がつかない
最高値が8金だったとする

このとき、競売人は8金で売約せずに、銀行に同額を支払ってコンテナ4個を自分で買い取る、ということができる

競売人は以下のような計算を行う

競売人
「8金で競り落とされた場合、援助金を足して16金の売上
仕入れで今回は14金使ったから、2金の儲け
クソみたいな儲けだ

逆に、4個を自分が8金で買い取った場合
14金使った上に8金を使うので、22金の出費
4個ともにきちんと値が付けば、28~30程度の勝利点となる
差し引き6~8金の儲け

それなら自分で買い取った方がまだマシ」

競売人は極めて理性的に、自分でコンテナを買い取る
コンテナが他者の手に渡ったときと比べて、自分で買い取ったとき、場の資金量は16金も減ってしまう
自己買い取りを選んだプレイヤーは無自覚にも、市場全体に小さなダメージを与えているのだ
これが不況の引き金となる

詳細は省くが、これ以降コンテナ1個あたりの相場が目に見えて下落するし、場合によっては自己買い取りが続出したりもする
そうなると大不況となり、手が付けられなくなってしまう

不況はプレイヤーにとって良い体験をもたらさないが、

「ささいなきっかけで市場が冷え込む
また、回復にはかなりの根気と時間を要する」

このような教訓的な知識を、身をもって教えてくれる

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(10)考察など:バリアントルールに関して

コンテナを出版した2007年にデザイナー=ベノは逝去された
コンテナの制作背景についてのインタビューをざっと探したが、見当たらなかった


最後に、すごく雑な感想だが、コンテナでは不景気は起こってもバブルは起こらない
コンテナ1個の価値は最初に配られるレート表に書かれていて、どこまでいっても10金までだからだ
なので、1個あたり9金以上出す必要性がない
「バブル、起こってもいいのになあ
起こったら楽しいだろうなあ」

とはやっていてちょっと感じた
クソゲーになる可能性は高いが、以下のようなバリアントルールを導入すると、バブリーな方向にゲームを誘導することができる
2案だけ挙げて、記事を終える

①ゲーム終了時、所有するコンテナ数が最下位のプレイヤーは全員脱落

このゲームでは、コンテナを集めるよりも、売るプレイヤーが有利になりやすい
だから、これくらいの改変を加えるのもアリかもしれない
筆者はこういった競りでは、ドライで腰の引けた値付けをしがちだ
このルール改変の下であれば、「もっとコンテナ集めないと負けちゃう!」と尻に火がついてもっと熱く投機する可能性がある

②ゲーム終了時の手持ち現金=0勝利点とみなす

競りがヒートアップし、金遣いが荒くなるだろう
ただし、ゲームに不慣れなプレイヤーがいる場合は、中盤に資金がショートする可能性が高いと思われる
コンテナをやり飽きたくらいの卓でないと、導入は勧められないかもしれない

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