2019年08月

Fabled_Fruit_1024x1024@2x

フルーツジュース
フリーゼのレガシー作品
1ゲーム25分程度で、小学生程度なら十分できる
「箸休め(filler)サイズである」というレビューがBGGではよくみられるが、完走しようとすると10時間程度かかる

昨年購入し、今年ようやく完走し終えたのでおおまかな感想などを記す
がっつりネタバレが含まれるので、今後プレイを予定している方には推奨しない
また、本作をはじめ、フリーゼのファスト・フォワードシリーズはファミリー向けの軽ゲーとして設計されている
ただし本記事では、本作を軽ゲーとしての紹介するのではなく、10時間級の重ゲーとして扱っている

・すでにプレイしている方
・ネタバレOKで、どういうゲームか知りたい方
・フリーゼの作品群のありように興味をお持ちの方

が主な対象と思われる

本記事における筆者の目的は以下
・作品の構造を読み解き、言語化し、理解する
・作者のフリーゼの意図を推測する
・手法を知り、自分の創作の足しにする

―――――


(1)おおまかな魅力
(2)フリーゼとタランティーノ
(3)ファスト・フォワードシリーズについて
(4)立卓までの経緯
(5)おおまかなルール
(6)プレイ時間、人数
(7)構造を読み解く ――コントロールされたゲーム体験
(8)変奏曲/Variationsとしてのフルーツジュース
(9)考察:問わず語りシステム/Fable system について


Fabled_Fruit_1024x1024@2x

Designer Friedemann Friese
Artist Harald Lieske
Publisher 2F-Spiele + 10 more

――――――

(1)おおまかな魅力
少しずつ盤面が変わるなかで、連綿とワーカープレイスメントをやっていく
やり終えてみて、筆者にとっては得るものが割と多くあったが、ゲーム単体としてみると、ギーク層にとってはシンプルすぎると言わざるを得ない
が、もし完走を目標とするのなら、ライト層や子どもにとっては重すぎると思われる
ゆえに、だれかれ構わず勧められる傑作、とはやや言い難い
最大の長所のひとつは、とっつきやすく、やめるのも簡単という点にある
ルールはシンプルで、インスト10分、1ゲーム15-30分程度
2,3ゲームやってみて、「これは面白い」と思える卓であれば続行し、しっくりこない場合は解散すればいい



ffc
写真はこちらから


思うに、フリーゼの作品は、ボードゲーム好きの感性には刺さるが、そうでない場合はピンと来づらい
電力会社のみが例外で、あれは奇跡的な傑作だ
筆者はフリーゼが中量級以上を出すたびに、なんだかんだ言っていつも食指が動いてしまうのだが「なにかのまちがいで、電力会社クラスの傑作がもう一度来やしないか」と再来を心のどこかで待ち望んでいるのかもしれない

IMG_6024


(2)フリーゼとタランティーノ

ボードゲーム好きには刺さるが、そうでない場合のウケはいまいち
これについて、どどめさんがフリーゼを映画監督のタランティーノに例え、漫画を描かれている
https://twitter.com/dodomeBG/status/1115457332375314432
手間をかけるが、上記リンク参照してもらえると助かる

このたとえは筆者にとって、とてもしっくりくる
クエンティン・タランティーノはイタリア人の映画監督
「映画ショップの店員から監督になった」という、やや変わったキャリアを持っている
店員時代にはショップ内の映画はほぼあらかた観尽くした
B級から名作まで
映画オタクが監督になったものだから、彼の作品には他の作品のパロディ/オマージュがとにかく多い

「映画好きにはぐっとくるが、別にそうでない人にとっては、まあそれなりに」という
というような
そういう感じで、やや観客を選ぶ
(このあたり、筆者が映画に不得手であることもあり、とてもふわふわした記述となっている
また、いくらか誤記を含んでいる可能性がある)
参考:タランティーノがやっぱり魅力的な9つの理由!【嫌いな人にこそ読んでほしい】

tarantino



タランティーノとフリードマン・フリーゼ
フリーゼの経歴と作風も遠くないものがある
彼はとんでもないボードゲーム蒐集家で、自宅の専用の倉庫には、数千だかのコレクションがある
(出典不明瞭だが、どこかのインタビュー記事で訳した記憶がある)
そして彼の作品には、ほぼ例外なくネタ元がある
既存の作品に対するリスペクトと、問題意識とがある
カジュアル層が普通にプレイしても面白いが、ギーク層はまた違った視点でゲームを楽しむことができる
多作な分、たまにとんでもないハズレも出すのだが

フルーツジュースも同様
普通にプレイしてもそれなりに面白い
ただ、ボードゲームの構造に興味があるプレイヤーの方が、本作を十分に楽しめると思われる

ffr
BGGより
よく見ると後ろに電力会社のおっさんがいますね



(3)ファスト・フォワードシリーズについて

本作の前後でフリーゼはFast Forward シリーズという連作を出している
フルーツジュースの構造は、それらの元となっている
本記事を構成する上で有用であると考えるため、以下に特徴を記す

ファスト・フォワード・シリーズの定義
(BGGより、フリーゼの会社,2F-Spieleの声明,意訳改変あり)


同シリーズのゲームは、前もってルールブックを読むことなく始めることができます!
ゲーム中(訳注:主にカードテキスト)に書かれたルールに従い、プレイしていくという問わず語りシステム/Fable system*を採用しています
このシステムはフルーツジュースで導入されたものです
あらかじめ用意されたカードデッキを順番通りにプレイすると、その都度ゲームのルールを知ることができます
ゲームの全容をつかむためには、1回10~30分程度の短いゲームを複数回プレイする必要があります
これらのゲームは途中で中断し、日を改めて同じグループで再開することができます
また、別のグループでその盤面から再開してもいいですし、別のグループでゼロから始めることもできます

訳注:問わず語りシステム
アークライトによる訳
原語はFable system
Fableは寓話、おとぎ話


なお、同シリーズは
・緑の幽霊屋敷 原題:Fear
・緑の国のアリス 原題:Flee
・緑の召喚術師 原題:Fortress
・緑のカジノロワイヤル 原題:Fortune

とこれまで4つ出ている


(4)立卓までの経緯
背景情報をここまで記してきたが、このパラグラフでは筆者の個人的背景を記す
このゲームを完走するには、10時間程度プレイヤーを拘束する
複数の卓でこのゲームを出してみたが、どこでも「これはもういいかな」という反応が得られた
筆者はあまり心が強い方ではないので、このようにウケないと、ちょっと心に来るものがあった

確かに、本作は率直に言って、各ゲーム単体でみると大して面白いものではない
特に序盤はアクションスペースが貧弱であり、重いゲームに慣れ親しんでいる層には物足りなく感じる
(ただし、子どもやカジュアル層にとっては適切な分量と思われる)

彼は電力会社という傑作を過去に生んでいる
また、504という怪作も彼の手からなる
これだけ作品に振れ幅がある
彼のなしたフルーツジュースにも、きっと何かあるんだろう
こんなシンプルなままで終わらせるはずないだろう
たぶんゲーム後半には何か仕込んでいるんだろう
やり終えたあとに何かしらを我々にもたらしてくれるんだろう
という漠然とした期待があった

その後も機を見ては出し、購入後半年ほど経って、「続けてやってみようか」という4名がそろい、そこから5か月がかりで完走し終えることができた

ffp
写真はこちらから



(5)おおまかなルール
テーブルの上に、常に24枚のアクションカードがみえている
同じカードが4枚ずつあるので、だいたい7~10種程度のアクションスペースが用意されている

1ワーカーのみのワーカープレイスメント
時計回りに手番を行い、コマをカード上に置き、アクションを実行する
1ワーカーのみなので
・帰宅
・食料支払い
・スタートプレイヤーを取る

といった諸アクションは存在しない
このあたりの複雑さを取っ払っており、基本構造をとてもシンプルにまとめている

ワーカーは場に残り続ける

・同じアクションを連続でできない(既にいるマスに居座ることができない)
・他プレイヤーコマが置いてあるマスにも入れるが、資源を渡さないといけない

というルールがある
横濱紳商伝とちょっと似ている

アクションによって、資源となるフルーツカードをためる
1アクションで1~4枚ほどもらえる
5~7枚そろえると、1枚のフルーツカードと交換できる
このあたりにはセットコレクションの要素がある
誰かが3枚フルーツカードを集めるとトリガーが引かれ、均等に手番を行いゲームが終わる
3枚集めた全プレイヤーが勝利する

資源をもらうアクションを2,3回、フルーツカードを買うアクションを1回
これを3サイクルやるので、1ゲーム10~13ターン程度

(6)プレイ時間、人数
2~5人、1ゲーム15~30分
筆者らの場合は4人戦で全5回に分け、各回2~3時間程度、総計12時間程度
カードは全59種、240枚
4人戦だと1ゲーム10枚程度めくれるので、おおむね24ゲーム
2人戦だと約40ゲーム
5人戦だと約20ゲーム

なお、とても融通の利くゲームなので、厳密にルールに従わずともプレイは成立する
「1ゲーム3枚のトリガーだと面白くない、一度4枚制にしてみよう」とか、
「ちょっと中だるみしてきたから、4,5枚捨て札にしよう」
などの改変をしうるだけの耐久性を持っている



(7)構造を読み解く ――コントロールされたゲーム体験
このあたりからネタバレが強くなる

フルーツジュース
ゲームして面白いかというと、やはり高く評価することはできない

筆者らの卓では全体にわたって、ある程度のワクワク感を持ってプレイすることができたが、このワクワクは「新カードは何だろう」という期待感から来るものだったと思われる
また、「期待をしたからには面白いカードが来るんだろう」というバイアスで物を見るので、新カードはそれなりに魅力的に映る
が、ゲームの根幹を覆すようなカードは、良くも悪くも来ず、場は少しずつ変化していく

ただ、カードの追加のされ方は面白いと感じた


⓪初期の6枚
①効果のインフレ
②対人攻撃系のカードの追加
③攻撃をブロックするカードの追加
と順を追って追加されていく

このあたりの手順はとても見事で、勉強になった

以下にその流れを詳述する

⓪初期の6枚

初期のカードが6枚ある
IMG_0637


6枚もあるが、見るべきなのは以下の1枚だ
kava

1:サイ
果物カードを2枚引く

1アクション2ドローをもたらすサイさん
サイがこのゲームの価値基準となる
新カードが出るたびに、「それはサイ(2ドロー)以上か?否か?」と評価が行われる

サイは序盤のエースアクションで、全プレイヤーがこぞってサイに行きたがる

しかし、サイを超えるアクションが続々と登場してくる

①インフレの時代

fj7
7:アリクイ
パイナップルを2枚捨て、果物カードを5枚引く


fj15
15:アリ
手札がもっとも少ない場合、果物カードを3枚引く



いずれも条件つきの3ドロー
カード効果のインフレが起こってくる
インフレは楽しい

拡大再生産感が生じ、場が盛り上がってくる

ただ、ある程度の制御が必要となる
ドロー枚数が増えると、手札は簡単に10枚を超え始める
フルーツジュースはセットコレクションのゲームなので、手札は一度に多く持っていた方が強い(最終盤は手札を残すと損だが)
だから、
手札を肥やす=勝利への最短ルート
となりかねない
こうなると、
最初に伸びたプレイヤーがそのまま走り切ってしまいがちで、あまり良いプレイ感とはならない
最善手が決まってしまっているゲームはつまらない

②対人攻撃カード
インフレより少し遅れて、攻撃系のカードがプールに加わる
fj10
10:カンガルー
最も手札が多いプレイヤーから果物カードを2枚もらう


対人攻撃系のカードを加えられる
フルーツジュースはファミリー向けのゲームなので、直接的なインタラクションは控えめになっている
カンガルーのような、直接相手のふくらんだハンドを刺すようなテキストは多くはない

攻撃系のカードは、「序盤に手札を増やし切って、中盤一気にカードを買って逃げ切る」という王道パターンに対してメタ的に働いている
カンガルーが見えていると、「手札を増やしすぎず、使えるタイミングで使った方が低リスクか」とプレイヤーは考える

③ブロック系のカード
あなたはこのゲームにおける作り手、神だとする
プレイヤーにまずインフレした脚力を与えた
次に対人攻撃の剣を与え、インフレを抑制した
その先に何を与えるだろうか
カードゲームのメタゲーム的思考としては、次に与えたくなるのは、盾、防御手段
剣から身を守るための手段を与えて、プレイヤーの動きを見たくなる

fj12
12:アルマジロ
果物カードを隠す
1アクションを費やし、手札枚数を一時的にゼロ扱いにすることができる

fj20
20:クロヒョウ
1枚ドローし、保護を得る
1ターンのあいだ手札を守る


防御的なアクションは、そのために1アクションを費やすと考えると、実際あまり強くない

ただ、攻撃系のアクションを入れると同時に、プレイヤーに(形式的であれ)防衛手段を与えるのは親切で、理にかなっている


とはいえ、こうした変化を加えて、環境を変えていったとしても、プレイヤーは飽き始める
フルーツジュースは、なんだかんだ言って構造がシンプルなゲームだ
カードを集めて揃えるだけなので
「結局、手番のアヤと、ハンドがうまく揃うかの引き運しだいでは」
10ゲームもやると、プレイヤーはちょっと間延びしたプレイ感を抱き始める

④ゲームをまたぐ資産の登場

fj24

24:リス
果物トークンを1個得る
トークンは消費しない果物カードとして利用できる


fj26
26:サル
盗賊と手を組む
以降、他プレイヤーがフルーツジュースを作るたびに2枚カードを得る



特に盗賊コマが図抜けている
破格の強さを持つ
4人戦だとゲーム全体で最大3,4回起動する
そうなると1アクションで、6~8枚カードがもらえる
前述のサイの1アクション2ドローの価値基準が崩壊するレベルで強い
ぶっ壊れている

フルーツタイルの方は、消費しないフルーツカードとして使える
スプレンダーの宝石カードのような扱いだ
消費しないので、1タイルが1ゲーム最大3カード分のはたらきをしてくれる計算になる
1アクション3ドロー相当と考えると、ある程度穏当と言える

それぞれのトークンはゲームをまたいで保有することができる資産なので、取り合いが過熱する
ちょうどゲームが間延びしたあたりに追加され、環境を一変するパワーを持っている


なお、以下はこれからゲームをプレイする方向けの記載だが、これらのトークンについての記述がとても緩い
・1ゲームごとにストックに返すのか?
・ゲームが終わってもプレイヤーが持っていて良いのか?
・トークンを管理するカードが場から消えたとき、トークンは消えるのか?

これについては、
・保持し続けろ
・ゲームごとに戻せ
のどちらの記載もない

筆者らは話し合いの結果、
・トークンを管理するカードが場にあるかぎりは、ゲームをまたいで持ち越してよい
・トークンを管理するカードが場から消えたときは、一度すべてストックに戻す

とした


⑤デフレ

このゲームの転換点は、中盤に唐突にやって来る

fj36

36:ヒツジ
果物カードを3枚引く

とうとう1アクション3ドローが!
サイに代わる新たな価値基準となるのか!

どよめくのだが、ヒツジはバブル好景気の最後のあだ花のようにはかなく散る
言及していなかったが、カードの下側に書かれているのが、ジュースとして使うときのコストである
ヒツジは何でもいいからカード5枚で1ジュースとなる
これは他のカードと比べて明らかにコスパが良い
ゆえに、出たそばからジュースとして使われてしまい、すぐに場から消え去ってしまう

ヒツジが去ったあとの後半戦は、さらなるインフレは起こらず、徐々にデフレ場となっていく

fj37


37:果物カードを1枚奪う
実質1ドロー、2人戦以外ではまず使われない

fj45
45:3枚ドローし、2枚捨てる
色のついた1ドロー とても弱い


詳細は記さないが、40番以降のカードで2ドロー以上のパフォーマンスを出すカードは、極端に少なくなる

最終盤になぜデフレ場を持ってきたのかやや理解しがたい
どどめさんは漫画のなかで郷愁のようなものを感じたような記載をしているが、ゲーム後半のデフレについての言及か定かではない

普通ならインフレさせ切るのだ
3ドローを新たな基準点にして、カード効果をさらにインフレさせる
同時にジュースのコストも上げる
あるいは「次回以降のゲームでは、ジュース3枚ではなく、4枚を勝利条件とします」というように、ルールの規模も大きくしていく
そういってゲームのギアを上げ、加速させていく
加速し、派手になっていく展開は広く好まれる

であるのに、フルーツジュースは終盤にスローダウンする
ただ、この終盤の展開は、不思議と不快感を伴わなかった

「デフレしてイヤだな
できることが減ってキツいな」

というようなものではなかった

なんというか、郷愁
懐かしい感じ
がするのだ

10時間前の最初のゲームのように場がシンプルになっていく
残された枚数から見て、残り2,3ゲームで終わってしまう
ああ、終わるのか

デフレしたスローな場だからこそ、このようなしんみりとした実感を持ち得ると感じる


(8)変奏曲/Variationsとしてのフルーツジュース


フルーツジュースの終盤のプレイ感は、ゴールドベルク変奏曲を想起させる

いきなり何言ってんの、と思わず、可能であればこのセンテンスも飛ばさず読んでほしい

クラシック音楽の変奏曲variations
変奏曲=ある主題と、その主題をもとにしてその旋律をいろいろに変化させたものから成る曲

バッハのゴールドベルク変奏曲は、オルガンやピアノのための曲
32個の小さい変奏曲に分かれている
幾何的・数学的な美しさがある
第1変奏と第32変奏はまったく同じ楽譜が用いられるのが特徴的
ただ、始まった当初の第1変奏と、30の変奏曲群を経たあとの第32変奏とでは、まったく同じフレーズがまったく異なって聴こえる
楽曲を通じて、自分の内的な変化を感じることができる



gg
ピアニストのグレン・グールド
彼のバッハ作品はとても質が高い
余談だが、グールドは駆け出しの時期と最晩年にゴールドベルク変奏曲を録音しており、聴き比べるととても良い体験が得られる



フルーツジュースも、これと似たような部分がないわけではない
主題(1ワーカーのワープレ)は保存されたまま、59
のカード群によってルールの小さな改変が加えられていく

・2ドロー以上の打点を持つカード
・攻撃/防御カード
・トークン類などの、ルール改変を生じる特殊カード

が混在し、徐々にインフレ・加熱していく

が、36番目のヒツジを最高点として、今度は急激にデフレが始まる
最終局面では冷え切り、最序盤のようなプレイ環境が再現される

ゴールドベルク変奏曲の第32変奏のように、最初と同じ体験を最後にもう一度させている
同じ体験だが、プレイヤーはフルーツジュースで数々の修羅場をにくぐってきたわけなので、違う感性を持っている
この内的な変化に思いを馳せさせる仕組みがとても良い


「懐かしい
いろんなカードいたな
いろいろあったな」

と、郷愁のようなものを感じるプレイヤーもいると思われる
また筆者は同卓者の成長を実感した
ゲーム開始当初は数個のゲームの経験しかなく、ややおぼつかない感じだったが、5か月を経た最終盤にはかなりやり手のゲーマーに成長していた
「こいつもこのゲームのなかで成長したんだな
きっと最序盤と見える世界が変わってるんだろうな」

そういった静かな達成感を個々が持ちながら、一連のゲームが幕を閉じた


(9)考察:問わず語りシステム/Fable system について


最後にいくつか考察を行い、本記事を終える

フリーゼのゲームは、ボードゲームの構造そのものに示唆を与えてくれる

たとえば504は、
「ゲームをゲームとしてまとめ、機能させる、紐帯、ヒモのようなものがある
その紐帯をどこまで緩めるとゲームは破綻するのか

という思想のもと行われた生体実験のような作品だった
ただ、実験台は我々だったし、その実験は成功したと言えないかもしれない
504は問題のある作品だ

フルーツジュースは、そうした我々を用いた実験ゲームの類ではない
ファミリー向けのゲームとしてきちんとまとまっている
が、実験的な要素が強い作品だ
プレイしていると、フリーゼの実験ノートを閲覧しているような気持ちになる

ワーカープレイスメントというコアな部分は変えずに、アクションスペースを少しずつ変化させる

それに対してプレイヤーは
・どのように盤面を読み解き
・何を欲望し
・どうアクションするか

というリアクションを返す
20ゲーム以上の長きにわたって、コール&レスポンス、投げかけと応答を行う

それがフルーツジュースだ


Fable systemはレガシーではなく、ややキャンペーンに近い

※根拠や詳細は Building Blocks of Tabletop Game Design, P21,25参照

images (1)


一連のデッキが用意されていて、そこには新しいルールが書かれている
デッキがめくれるごとに少しずつルールが変わっていく

あえて乱暴な言い方をするならば、フルーツジュースで筆者がもっとも面白く感じたのは、
・アクションスペース群が新たにセットされる
・それに対してプレイヤーがどう反応し、体験するか

という入力/出力のパターンの蓄積を多く得られたことだった

あまり明晰に言語化できないのだが、この部分の面白さは同氏の504にとても近いものを感じる

5041



最後に、少し思考を飛ばし、
’’自分がもしFabled Systemを作るとしたら’’
と思考実験をして記事を終える

フルーツジュースの基本骨格はこうだ

コアメカニクスを定める
②ルールを少しずつ改変するようなカードデッキを用意する



コアメカニクスは以下の要件を満たす必要がある
・できるだけシンプルである
・20回程度遊べるリプレイ性がある

フルーツジュースのコアメカニクスは、
・1ワーカーのワーカープレイスメント
・手札のマネジメント
・フルーツのセットコレクション
これらはゲーマーなら嫌う者は少なく、広く受け入れられる

素案の段階で、まだテストキットも作っていないのだが、カードドラフト
カードドラフトはコアメカニクスたりうると筆者は考えている
ドラフトをコアにしたフルーツジュースの翻案作は作成可能であり、プレイに堪えると見込んでいる


セブンワンダーやペーパーテイルズと基本のアーキテクチャは同じだ
カードをドラフトし、同時に解決し、数ラウンド行う
共通デッキを、最初は基本カードのみにして、1ラウンドごとに数枚入れ替わるようにする

2~3ラウンド(リシャッフルが起こらない程度)を1ゲームとして、20~30分程度の軽さとする

このメカニクスと合致するテーマは、おそらく歴史だろう
ラウンド(年月)を経るごとに新しいカード(人物、出来事、土地)が追加され、古いものが除去されていく

ここまで記して、「これではトワイライト・ストラグルでは?」と感じたが、トワイライト・ストラグルとFable systemを用いたドラフトゲームは、構造がおそらく大きく異なるので、比較するのは適当ではない

この着想は筆者にとってかなりしっくり来たので、今後1,2年程度かけてゆっくり形を作っていくと思われる
そのうち頓挫する可能性も高いが

lime

フルーツジュースにはライム拡張が存在する
基本版を楽しんだプレイヤーにはお勧め、とBGGのレビュー


――――――――



参考リンク:

『電力会社』ができるまで(翻訳記事)

これはゲームなのか?『フリードマン・フリーゼの504』について(1)

フリードマン・フリーゼ:デザインへの執念(1)(翻訳記事)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

New Games Order の2019年新作
かつて同人で出されたものの商業復刻版
1時間級、3~4人用
競りと陣取り

11

2,3度プレイしたので、思考の整理がてら記事化する


――――

(1)おおまかな魅力
(2)避けがたいキングメーカー問題
(3)ルールなど
(4)同時多発的な・リアルタイムの競り
(5)合わないと感じる点
(6)考察 ―独特な多人数アブストラクト


112


Square on Sale (2005)
Designer Taiju Sawada
Artist Akinori Nishiyama
Publisher B2FGames LLC., Japon Brand, Late Toccobushi Game Club



(1)おおまかな魅力
展開がとても派手なパーティゲーム
運要素ゼロ、完全公開情報の陣取り
構造はガチガチの多人数アブストラクトだが、強い戦略性を求められたり、長考を誘発することはなく、プレイ感はかなり軽い
また見た目もかわいくポップだ
カタンやスプレンダーと同程度の、軽めの中量級と言って良い

本作において、プレイヤーらは最初の45分で盤面らしきものを積み上げる
土地を競り落とし、建物を建て、下準備をしていく
ただ、どれだけ入念に計画しても、終盤には必ずどんでん返しが起こる
最後の15分、数手番ですべてひっくり返ってしまう
プレイヤー同士のつぶし合いがかなり露骨なかたちで起こってしまう
このキツすぎるインタラクションはスクエア・オン・セールの最大の魅力ではある
が、単にゲームとして破綻しているともとらえられる
受け取られ方は卓によるし、プレイヤーによる

筆者らは数回プレイしたが、以下のような合意を得た

・序盤は楽しい
・終盤、1位を潰すために他全員で協力することになる
・潰せたパターン/逃げきられたパターンも、終盤はあまり盛り上がらない
戦略がありそうでいてない
・バランス調整がプレイヤーに丸投げされている
・同じ面子で2度3度やるのはちょっとキツいかも

114



(2)避けがたいキングメーカー問題
このゲームの特長は、
・見通しがとても良い(完全公開情報、運要素ゼロ)
・露骨な相手潰しができる

この2点だ
この2つの特長がもたらすのは、キングメーカー問題

スクエア・オン・セールの終盤では、決まって露骨なキングメーカー問題が生じる
どうにか回避できないのか、何回かプレイしたり、他人がプレイしているのを見たりしたが、どうしてもなかなかひどい状況が生じてしまう

だいたい以下のような流れだ

終盤に「このままいくと、あのプレイヤーが2ターン後に勝利する」と全プレイヤーが気づく
他プレイヤー「1位を潰そう、協力しよう」

③-1
1位が十分カネを持っている場合
→カネの力で逃げ切れる
逃げ切りパターンはあっけないものの、あまりひどいものではない

③-2

1位のカネが足りない場合
→泥沼になる
このゲームは多人数オセロ、アタック25的な陣取り
オセロなので、それぞれのプレイヤーが取りたいマスはまったく異なる
1位がカネを積んだマスは、他プレイヤーにとってはどうでもいいことが多い
どうでもいいのだが、ほっておくとゲームが終わってしまうので、カネを大量投入してジャマをしないとならない
もし1位潰しに成功すると、そのプレイヤーはどうでもいいマスにお金をつぎ込んでしまうハメになる
すると、それ以降身動きが取れなくなる
たいていトップ争いから脱落してしまう
「自分が1位潰しをしないとゲームが終わってしまうが
1位を潰すと自分は間違いなく1位になれない」
という
ハードボイルド小説の戒律的な
BLEACHポエム的な
純粋なキングメーカー問題が生じる
これはこのゲームのルール上おそらく不可避なのだが、こうなってしまうと誰も幸福になれない
ゲームとしての強度がやや弱く、この点においては高く評価しがたいと感じる



(3)ルールなど

未プレイ者向けにおおまかなルールを記す

・セットアップ
全プレイヤーは25金と25個の建物タイルを持つ
お金は競りで使い、競りで勝つと建物タイルを盤面に置ける
収入は基本ない
25金をゲーム終了時まで運用していくことになる
また、25個のタイルはそのまま勝利点となる
誰かが一番最初に25個置ききったらゲームが終わる
基本的に置ききったプレイヤーが勝利する


・できるアクション
プレイヤーは自分の手番が来ると、
①競りの開始
②値段の上書き

のどちらかができる

①競りの開始
新しいマスを1つ選ぶ
「ここに3金置きます
もし2ターンのあいだ上書きされなければ、3金で僕が建物を建てます」

宣言する
オークションの開始だ

②値段の上書き
他プレイヤーがやっているオークションに対して、
「その土地を3金でやるわけにはいかない
自分が5金に上書きします
もし上書きがなければ、自分の土地になります」



このどちらか1アクションしか選べないというのがとてもキツい

土地を広げるだけのゲームなので、もし上書きされてしまうと、自分の大事な1アクションを潰されるかたちとなってしまう
上書きはなかなか露骨な対人攻撃となる


2ターンのあいだ他プレイヤーに無事攻撃されなければ、その土地が落札されて、建物タイルを置ける
このとき、オセロ方式で他の土地もハサめていれば、アタック25やオセロのように、一気に2個、3個とタイルを置けることがある


・終了条件
25個の建物タイルをいちばん先に置ききれたプレイヤーが出た時点で即時終了

・手元に残した建物タイルは1枚1点の減点
・マップの最終形を見て、各マスで、いちばん上にタイルを置いているプレイヤーがそのマスの勝者となり、総タイル数分の得点を得る
たとえば5階建てのマスは、いちばん上に置いているプレイヤーのみ5点を得る
いちばん上以外にタイルを置いたプレイヤーには何も入らない

エンドトリガーを引いたプレイヤーは最後にタイルを置ける
ので、必然いちばん上を取れているマスが増える
トリガーを引いたプレイヤーがおおむね勝利する



(4)同時多発的な・リアルタイムの競り
・複数のポイントで同時にオークションが成立する
・それらがリアルタイムで進行していく

という発想はとても面白い
競りの仕組みとしては筆者は今のところ知らない
同時多発的な競りといえば、ところてん方式の競りがよく用いられる
・ホームステッダーズ(ロックウェル)
・アメン・ラー(クニツィア)
・20世紀(「アンダーウォーター・シティ」のスヒィ)
など
これらのゲームでは需給の釣り合いが取れるポイントまで競り値が上がっていく
スクエア・オン・セールのそれは明らかに異なる
本作では無視されると時間マーカーが進み、時間経過で落札される

IMG_0622
アメン・ラー


強いて挙げるなら、チューリップバブル(紅陽,2017)にやや近いものを感じる
・複数のポイントで競りが行われる
・相手プレイヤーを見過ごすと安値で落札されてしまうが、邪魔ばかりしてもうまくいかない

これらの特徴が両作品に共通して存在する
ューリップバブルではプレイヤーは3枚の競りマーカーを持っており、最大3枚のチューリップカードの競りに参加できる
他プレイヤーと被せるとオークションが始まり、値を吊り上げてオリるといくらかお金がもらえる
3枚あるので、後手番のプレイヤーは
「1枚は本当に欲しい本命に
あとの2枚は他プレイヤーが欲しがってそうなところに置いて、賄賂をもらおう」


そういうようなインタラクションがある
3枚置けるが、3枚とも買うのに使いたいような場面は少ないので、スクエア・オン・セールほど直接的な潰し合いはない
ただ、チューリップバブルの面白さは
「将来、チューリップの値段は上がるのか?下がるのか?いつバブルがはじけるのか?」という不透明性によって支えられている
ランダム性ゼロの本作と単純に比べるのは適切ではない


(5)合わないと感じる点

中量級のボリュームなのに、どんでん返し要素が強すぎる
プレイヤーの努力や布石が意味をなさない
中量級以上のゲームでは、プレイヤーは戦略を立て、努力し、計画を立てる
損得の計算をし、ヘイト管理し、布石を打つ
このゲームでは、そういった努力をいくらやっても、終盤のキングメーカー的なジャマし合いですべて吹き飛んでしまう

1時間級でなく、もしも15~30分級であればこの手の邪魔要素を煩わしく感じることは少ない
たとえばブロックスであれば、露骨に1プレイヤーに妨害されても、特に悲しい思いをすることはない

ただ、本作のサイズ感となると、少なくとも筆者は、努力して勝ちを目指そうとしてしまう
また「努力する限り、一定は報われるべき」
だと意識せずとも考えてしまう

これらのマインドセットを持って本作に取り組むのはあまり適切ではない


(6)考察 ―独特な多人数アブストラクト
「あまり高く評価しない」と幾度か記したが、スクエア・オン・セールはとても完成度が高い
また、他のゲームと一線を画するものを持っていると筆者は感じる
それについて最後に掘り下げを行い、記事を終える

長所は以下だ
多人数アブストラクトであるのに、
・終盤まで展開が読めない
・経験者や実力者が必ずしも有利ではない
脱落者が最後まで生じない

この3つの特長は、多人数アブストラクトのゲームが本来持ちづらいものだ
アブストラクトの定義を持ちだすとまたややこしい話になるが、本記事では「秘匿情報と運要素がゼロ」という意味合いで用いる
多人数アブストラクトの例だが、
・ブロックス
・バロニィ
・インペリアル
・古代
・テラミスティカ
・ガイアプロジェクト

など

ここではインペリアル(M.Gerdts,2006)を例示する

①終盤まで展開を読めない
②脱落者が最後まで生じない
インペリアルは、中盤ごろには大勢がみえてくる
3,4人戦であれば1位候補が2人程度にまで絞られる
最終盤は1位候補たちの争いとなる
1位候補に食い込めたら終盤はとてつもなく楽しいが、下位で確定してしまうと、終盤はやや辛い展開となってしまう

スクエア・オン・セールは本記事で記した通り、最終盤まで勝者は見えづらい
程よい緊張感が持続される

③経験者や実力者が必ずしも有利ではない
インペリアルでは、経験の多寡によって露骨に有利不利の差がついてしまう
コマの動かし方、株券の買い方はある程度慣れが必要だ

スクエア・オン・セールはつまるところアタック25、オセロだ
オセロが極端にうまいプレイヤーであれば有利不利が現れるかもしれないが、シンプルなルールなので、巧拙の差は生じにくいと感じる



多人数アブストラクトはデザインとしても難しい
作り手の得手不得手もあるのだろうが、この手のシンプルで見通しの良いゲームはバランス調整がとても難しい
見通しが良すぎてしまうからだ
一定の運要素、不確定要素を多くのプレイヤーは好む
作る側としても、多少のランダム性の付与は、気楽で安易な解決法だ
たとえばカヴェルナやアグリコラの各ラウンドの新アクションカード
クランズの契約タイル
これらのめくれ運によってゲームのプレイ感がいくらか軽いものとなり、リプレイ性が向上している
本作はこのような安易で手軽な方法での誤魔化しは行わず、徹頭徹尾、骨太の多人数アブストラクトとして成立させている
好みかどうかは別として、設計からはある種の気概を感じさせられる

11




記:
リアルタイムの同時多発的な競りについて、スクエアオンセール以外にそういったメカニクスを採用した作品を知らない」と記したことについて
pic387531

N2さんより「コムニというゲームがあり、そのゲームでも、ゲーム中に他のアクションと並行して競りをやる」とお教えいただいた

コムニ/Comuni(2008)
Boardgame Memoのこちらの記事がわかりやすい
https://boardgame.tumblr.com/post/125215143182
同時進行でさまざまなアクションができる、ざっと見た限り、複雑すぎるわけでもなく、なかなか面白そう
機会があればぜひプレイしたいと感じている


このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ