2019年02月

ストラグルオブエンパイアの短評
イメージ 1

2019年2月にギャングラーメンさん主催のストラグルオブエンパイア卓に参加した
面白かったので、おおまかで短い評をここに記載する

『ストラグルオブエンパイア/Struggle of Empires』はマーティン・ワレスの重量級ウォーゲーム
筆者らは大阪南部の河内ゲーム会のなかで1卓を借りて、7人戦を行った
10時インスト開始
11時プレイ開始
18時に決着
実に8時間の長丁場だった

イメージ 2



Struggle of Empires(2004)
Designer Martin Wallace
Artist Peter Dennis
Publisher Warfrog Games + 2 more

----


【プレイ感、魅力】
多人数で行う陣取り
地政学マルチと呼んでもいいのかもしれない
プレイヤーはスペインやプロイセンなど、近世ヨーロッパの大国の宗主となる
プレイヤーたちは欧州列強を形成し、植民地権益を賭けて軍拡競争を行う
テーマ性の高さ
テーマの再現性の高さが筆者にとっての最大の魅力だ
欧州列強はときに協力・対立し、微妙な均衡を保ちながら拡大を進める
ウォーゲームとしては珍しく、このゲームでは絶対的な敵・味方が存在しな
相手国との関係性は、時代を経るにつれて刻一刻と変化していく
たとえば強力な互助関係のもと最強となった2大国が、ほんのささいなきっかけで次の時代には敵同士になったりする

このヨーロッパ的な冷たさと曖昧さ
背後に漂う緊張感が心地良い

イメージ 3
スペイン継承戦争(1701年-1714年)
続くオーストリア継承戦争では、列強は2陣営に分かれ、欧州、カナダ、インドで覇を競った


【どのようなプレイヤーに勧められるか】
交渉アリの重い陣取りがやりたいなら文句ナシでお勧めできる
上でも書いたように、歴史テーマの再現性が高いので、17世紀ごろの世界史が好きな人も楽しめるかもしれない

交渉はハードか:
さして重くない
秘匿情報がほぼゼロというのが大きい
嘘をつく必要性が少なく、ブラフ要素はまったくない
『ディプロマシー』『イントリーゲ』と比べると非常に軽い
ただ、おなじ対人マルチ『フンタ』『シヴィライゼーション』『エクリプス』と比べるとややハードかもしれない


イメージ 4
ディプロマシー
地政学マルチの元祖
もしマック・ゲルツの『インペリアル』が『ディプロマシー』と『18XX』シリーズの融合にして、ゲルツなりのディプロマシーへの回答
だとするならば
マーティン・ワレスの『ストラグルオブエンパイア』はワレスによるディプロマシーのアレンジと言えるかもしれない


ルールなど:
各プレイヤーが2アクションずつ行って進行していく
ゲーム中に行えるアクションの総数は厳密に決まっている
ワレスの他の重ゲーの『ブラス』『オートモービル』をやっていたら「あ~ワレスっぽい」と感じると思われる
アクション数の決まっているゲームなので、効率良くアクションを行えたプレイヤーが伸びてはいく
ただし、地政学マルチなので、とびぬけたものは叩かれる
手数の管理が上手いとゲームをリードできるが、ヘイトが増えると叩かれて結局伸びない
最終的には地味なプレイヤーが最後に逆転勝利する
そういう展開になりやすい
同じ対人マルチだと、『フンタ』や『メガシヴィライゼーション』でもこういうことは起きやすい

だから「自分の力できっちり勝ち負けを決めたい」という欲求を、このゲームは叶えてくれない
言い換えればキングメーカー問題で、インタラクションが強い古いゲームなら避けては通れない問題だ
恐らくこの手の古いマルチゲームでは、最終的な勝ち負けよりも「数時間かけて共有した物語・体験・ゲームの展開を楽しみ、大事にする」という作業の方が大事なのだろう
ソロ要素の強い2010年代ゲームに慣れた筆者にはなかなか馴染みがたいプレイ感と言える

イメージ 5
フンタ
6時間級の重ゲー、対人マルチ
ストラグルオブエンパイアとプレイ感は大きく異なるものの、ゲームをやり終えたあとの「全員で完走し終えた感」は非常によく似ている



経験者と初心者が混ざっても大丈夫か:
先ほどまでの話題に通じるが、まったくの初対面同士でもないかぎり、メンツによって大きな問題は生じないと思われる
効率の良い手順を知っている経験者は有利ではあるが、前述の通り下位同士で結託して上位を足止めすることはけっこう簡単にできる
序盤にあまりうまくいかなくても、わりと最後まで上位に食い込める可能性が残る
筆者らの卓では、中盤まで第5位だったギャングラーメンさんが最終ラウンドに逆転優勝された
第1~3位を全プレイヤーで集中して叩いた結果、下位が伸びる結果となった


【プレイ時間、難易度、適正人数】
時間:8時間 (7人戦、3人初プレイ、インスト込み)
難易度:かなり難しい (ワレスの『ブラス』より少し複雑)
適正人数:5人以上が無難? (7人戦は良かった)


【テーマ】
前述したとおり、16~18世紀のヨーロッパ列強諸国となり、植民地権益をかけて争う

イメージ 8


【問題点など】
筆者にとってはやや重すぎる
重いわりに、自分の実力で勝者になれる構造ではないのがなかなか割り切りにくい
他プレイヤーがどのエリアに欲を出し、誰を殴るかによって展開が大きく左右されてしまう
筆者はわりあい真剣に勝ちを狙ってプレイしたのだが、決着直後の筆者のプレイ感は以下のようなものであった
「中盤まで3位、いい位置につけたのに…
最後に隣国に一発殴られたんだよな・・・
そのせいでへこんで最終6位…
自分の半日っていったい…」

と無力感を感じ、やや気落ちしていたが、帰宅後は
「いやでも面白かったわ、勝ち負けに固執すると損するタイプのゲームだな、たぶん」
と考えが変わった

なお、本ゲームのプレイ後にザイファルトの『マンハッタン』をプレイしたが、マンハッタンの長所をより強く感じた
切れ味が鋭いマルチの陣取りであり、キングメーカー問題があまり苦にならない

タイプが違うゲームなので単純に比するべくもないが、もし真剣に殴り合いたいなら、『ストラグルオブエンパイア』よりも短時間ですべてが決まる『マンハッタン』や『王と枢機卿』の方が良いかなあと感じた
イメージ 6
マンハッタン
きれいなゲームだが、最初から最後までバチバチの陣取りバトルが行われる
手堅い守りのプレイングが勝ちやすいこともあり、筆者は好ましく感じている(筆者は守り・受け・コントロール型のプレイを好む)


【考察など】
まとまりが悪いが、列記形式で記載する
既プレイ者向けとなっている

①競り -二つの顔を持つコアメカニクス
各時代の手番順と所属陣営を競りで決める
この競りが本作のもっともユニークで画期的な点だと筆者は感じている

競りによって決められた2陣営に分かれてゲームは行われる
同陣営同士だとお互い火力の支援ができるが、絶対に殴り合うことができない
対立陣営にいても基本は平和だが、利害が対立すれば交戦状態に陥ることもある

とてもシャープなメカニクスなのだが、「史実の〇〇継承戦争とかでも、似たようなこと起きてるよな…」と思えるようなリアリティがある
直感的にわかりやすいシンプルなルールでありながら、きちんとテーマをシミュレートしている
そこに筆者は強い魅力を感じる

競りの手順としては、親プレイヤーが最初に「A陣営は〇〇、B陣営は△△」と2カ国を提示する
時計回りに、その案を飲むのか、蹴るのかを決めていく
蹴りたいのなら提示額よりも高い金を示す必要がある
高い金を示したプレイヤーは新しい案を提示し直して、またその額から競りが再開される
全員がオリたら案が採択され、その案を出したプレイヤーだけがお金を支払う
そうして7カ国のうち2カ国の処遇が決まると、残り5カ国についても同じ手順で陣営を決める

残された国は、前の国の分かれ方を見て加担したい陣営を決めていく

スペイン継承戦争、オーストリア継承戦争などの実際の歴史でも、最初に2大国のあいだで利害が真っ向から対立する
それを見て
「あの国に加勢する」
「あの国は嫌いだわ、逆陣営に加担する」
2大国を取り巻く列強諸国はけっこう俗な理由で2陣営に分かれていった
最終的に2陣営に分かれての超大規模な戦争が、ヨーロッパ本土やアフリカ・アメリカの植民地各地で繰り広げられた


この陣営分けの競りがよく出来ていると思うのは、手番順も同時に決まるという点にある

競りを駆動させるにはプレイヤーの欲望(ドライブ)が必要だ
強い欲を持つ複数のプレイヤーによって場に火がともり、競りの場に命が吹き込まれる
しかし、ゲームの最序盤では「あの国と組みたい」という欲望を抱きにくい
最初は国ごとの特徴もないからどこと組みたいという気持ちも持てない
だからこのルールはヘタをすると、「第1ラウンドの競りは何を競っているのかわからない、面白くない」という格好にもなりかねなかった

しかし本作はそのような不完全な形ではない
「競りに勝ちたい」と最序盤からプレイヤーに思わせるために、ワレスは早い手番にボーナスを与えている
少ない数のボーナス植民地が用意されている(ノーリスクで勝利点と資源が得られる)
早い手番を取ってボーナス植民地を取りたい
とにかく早い手番を取ってゲームをリードしたい
序盤の競りは、早い手番が欲望の対象となる

しかし、終盤になるにつれ、競りは別の表情を見せる
誰の権益を奪うか
誰と協力するか
もはや、単純に早い手番を取ることにあまりメリットはない
むしろ対人戦が生じるので、強い決定を行える遅い手番の方が有利だ
終盤の競りは、スタプレ争いではなく、どのプレイヤーと組めるかが欲望の対象となる
同じメカニクスを違う状況下で用いると、ここまでプレイ感が変わるのか
一つのルールにここまで美しく、さりげなく二重の意味を持たせられるのか
プレイヤーの欲望を丁寧にコントロールするワレスの手腕
そういったものにただただ感心した


②戦闘について
ダイスを用いて戦闘を行う
特殊技術などはなく、『エクリプス』や『シヴィライゼーション』のような、「自分の最強の軍隊を編成しよう」というプレイ感ではない
アメゲーのように欲望を駆り立てるメカニクスではなく、非常に簡素だ
ワレスは恐らく、戦闘要素があまり好きではないのだろう
戦闘=単なるランダマイザとしての役割として期待していると筆者は考える

戦闘ルールに関してはややシンプルすぎるかも、とも感じた
攻撃側が大差で攻撃する場合、損失を出す可能性がかなり低いため、「部隊を固めて攻撃」が安定行動になってしまう
ただ、部隊を1カ所に固めてしまうと、複数地域の権益を取りにくくなり、勝利点がなかなか伸びない
安定を取ると勝利点が伸びず、散らばらせるとリスクが高い
良いジレンマで、非常に悩ましかった


③借金
借金タイル=社会不安トークンをもらうことで、いつでも自由に借金できる
基本的に借金はやり得だと感じた
下位3名だけが失点を食らうので、1ラウンド1~2枚なら借金するのはOK
ゲーム終了時の枚数の感覚としては筆者卓だと、社会不安トークンを返却するアクションはすべて行われ、下位3名は9枚、8枚、5枚のトークンを有していた


【次回記事など】
以下の写真のものを予定
美しく洗練された交渉ゲームだった
来週などにアップすると思われる

イメージ 7



このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

イメージ 1


クランズオブカレドニアといくつかのゲームについての記事

記事更新を怠っていくらか月日が経つ
文章の書き方ももはや忘れつつあるため、とりあえずリハビリがてら書いた記事をアップする

今回は「好きなゲームの好きな部分を自由に掘り下げる」という構成を取る



昨年、2018年いくらかボードゲームをやった
なかでも最も楽しいと感じたゲームは「クランズオブカレドニア(以下クランズ)であった
イメージ 11
クランズオブカレドニア
プレイヤーたちはイギリス北部の農場主になり、牛や羊を育てたりウイスキーを出荷して繁栄を競う

2018年マイベストゲームだった

クランズのどこに魅力を感じたのか
似た作品や、正反対のタイプの作品と比較しながら自分の思考/嗜好を掘り下げていく

※記事を書き終えての追記
はじめはクランズオブカレドニアそのものを紹介する記事にしようと思っていたが、筆が乗ってしまって、他のゲームをまじえてのゲームメカニクスについての掘り下げが進んでしまった
全体として、「〇〇な読者に向けて」という対象のない、やや雑多で散漫な構成となっている

イメージ 2


Clans of Caledonia(2017) 
Designer Juma Al-JouJou
Artist Klemens Franz
Publisher Karma Games + 8 more

――――


【本記事の構成】

記事前半では未プレイ者向けにクランズのテーマやおおまかな特長について記す

中盤ではクランズのメカニクスの持つ魅力を、以下の3点に分けて掘り下げる
・収入/アクションの2フェイズ制
・ゆるやかな拡大再生産と、拡大をめぐる適度な駆け引き
・アクション可能な回数(手数)の不透明さ

後半では、ゲームにおいてアクション数(手数)を増やす行為=増員について考察を加える
増員のメリット/デメリットと、プレイヤーにもたらされる体験について記述する


(1)プレイ感とテーマ
クランズオブカレドニアにおいて、プレイヤーたちはイギリス北部のカレドニア地方の金持ちとなる
プレイヤーたちは潤沢な資金を使って土地を開拓し、牛や羊を世話し、麦畑を耕して農業していく
牛乳を生産してチーズに加工する
小麦を生産してウイスキーやパンに加工する
そうやって生産/加工した資源を売ってお金にすると、土地を買うことができる
土地が増えると資源の生産力がもっと高まっていく
資源を作り、売ってお金を得て、そのお金で土地を買って資源の生産力/加工能力を高める
序盤は基本的にこのエンジン構築をやるゲーム
土地を広げて生産力を高める快感は『ガイアプロジェクト』に近いものがある
勝利点については、資源のセットを消費して契約タイルを達成すると得られる
契約タイルは『マルコポーロの旅路』のものによく似ている
総合して、『ガイアプロジェクト』の陣取りと『マルコポーロ』の資源管理を足し合わせたようなプレイ感と言って良い
自分の農場を拡大し、数多くの契約を達成し名声を高め、勝利を目指す

イメージ 3
カレドニア地方
カレドニアの語源は、かつて住んでいたカレドゥニー人の名から
余談だが、恵方巻のニューカレドニア島は、イギリス人のクック船長が発見した際に「カレドニア(スコットランド)に似てる」と思ったから
なおクック船長はニュージーランドもニューファンドランドも発見している

(2)3つの魅力

①収入/アクションの2フェイズ制

各ラウンドはおおまかに

・メインアクションフェイズ
・収入フェイズ
にわかれている
(厳密には勝利点フェイズなどもあるが、今回の論旨と関係ないので割愛する)

この2フェイズ制が筆者は非常に好ましく感じている

メインアクションフェイズのありかたは、テラミスティカ/ガイアプロジェクトとだいたい同じ
いくつかのアクションのなかから好きなものを1アクション行い、時計回りに手番が移る
アクションを行うにはお金が必要で、お金=疑似的なアクションポイントになっている
手持ちのお金を使ってアクションをやっていって、もうやれることがなくなったらハードパスを宣言する
長くいろんなアクションを出来た方が有利だが、早くパスするとちょっと良いボーナスがもらえる
これもテラミ/ガイアと同じ
全員がパスしたら前半のメインアクションフェイズは終了し、収入フェイズに移る
各プレイヤーは資源やお金を得て、また次のラウンドでアクションを行っていく

どかっと収入を得て、それをやりくりしてアクションをする
クランズやガイア以外だと、『テラフォーミングマーズ』や『サンタマリア』も2フェイズ制のゲームと言える
この手の2フェイズを繰り返すゲームのプレイ感を筆者は非常に好ましく感じている
楽しいのだ



※桃太郎電鉄 ――2フェイズ制のデジタルゲーム
「自分がなぜ2フェイズ制のゲームがとても好きなのか」を詰めて考えた結果、昔寝食を忘れてやっていた桃太郎電鉄というゲームを想起した
桃太郎電鉄(桃鉄)はクランズと同種の構造を持つ、2フェイズ制のデジタルゲームだ
電源ゲームのなかではボードゲーム的色合いが強いと筆者は感じている

桃鉄はおおざっぱにいうと、すごろくやモノポリーに似ている
プレイヤーは弱小鉄道会社の社長となり、少ない資本金を駆使して全国の物件を買っていく
物件は毎年収益を上げてくれて、決算フェイズ(毎年3月)にどかっと収入がもらえる
また、ゲームはすごろく形式で進み、目的地マス(アガリマス)に止まることでも大きな収入が入る

桃鉄を抽象化/シンプル化するなら、
基本的には
・収入フェイズ(3月の決算/目的地マスの到着)
・アクションフェイズ(毎ターンサイコロを振って物件を買う)

この2フェイズ制に分けることができる
構造としてクランズと桃鉄は似ており、筆者の感じる面白さの肝の部分はまったく同じであるとさえ感じている

お金をどかっともらったあとに「あ~次どこの物件買おうかしら」とにやにやする時間が最高に楽しい
桃鉄の持つ魅力は、特に対人戦の場合には収入の楽しさ以外にもいろいろある
駆け引き、リスク回避のテクニック、攻守のバランスの難しさとか、まあ挙げればきりがないのだが、この収入にまつわる快感が根本にあると筆者は感じている

イメージ 4
桃太郎電鉄

2フェイズ制のゲームは上記のような魅力も持つが、システム的に以下のような欠点も生じやすい
・やれるアクションの選択肢が多くなりがち
 迷いやすい
 長考を誘発しやすい
 ダウンタイムが長くなる

・ラウンドを追うごとに収入が増える
 全体の所要時間が増える
 ソロゲー感が強い
 相手が拡大しまくっているのを見ても楽しくない
 収束性が悪い

クランズは、第2の特長でこれらの欠点を補っている



②適度なインタラクション、程よいキツさ
得た収入の使い道、選択肢が適度に豊富
ちょうどよく迷い、程よく悩むことができる
このちょうどよさが快感を生んでいると感じている

クランズでは各プレイヤーはお金を使っていろんなアクションをやるのだが、アクションは1回ずつしか行えない
アクションの先取り≒ワーカープレイスメントと言っても良い
強力なアクションを相手に取られる前に先に取りたい、という早取りの要素が強い

また、ラウンド数が限られているため、拡大再生産のエンジンを組みすぎると、勝利点化が遅くなってしまい、思うように点数が伸びなくなってしまう
「いつ拡大を手じまいにして、契約タイルを達成しにいくか」は全体の状況を読んで決める必要がある
エンジン構築か/勝利点か のジレンマが程良く利いており、最後まで緊張感を持ってプレイできる

ちなみにまったくの余談だが、桃鉄の場合も、差がついていない時間帯の対人戦は程良いキツさと緊張感がある
めぼしい物件を買いあさりたいのだが、ボンビーを無視して好物件ばかり目指しているとひどい目にあう
また、目的地マスを目指したレースもある
なので、手数をある程度使って急行系カードも買っていく必要がある
・相手プレイヤーとのボンビーのなすりつけあい
・次の目的地へのレース
・相手プレイヤーのカード状況
これらを総合して、バランスを取りながらアクションを決めていく必要がある


逆に、インタラクションがやや緩く、キツさがちょっと足りないと感じるゲームもある
テラフォーミングマーズ
筆者にとって大変好きなゲームであり、クランズと同じく「収入/メインアクション」形式の構成を取っているのだが、相手との駆け引きの要素がやや薄い
テラフォにおいては、対戦相手というよりは、膨大なカードプールと勝負しているような印象を持つ
コンボをキメたいが、思ったカードをピックできないリスクもある
いろいろカードをピックしておくと受けは広がるが、有用でないカードをたくさんガメてしまうと資金がショートしてしまい、手が伸びにくくなる
運に振り回されながら、手を広げたり縮めたりするプレイ感は、麻雀に近いと筆者は感じている
イメージ 5
テラフォーミングマーズ


③アクション可能な回数が不定であること

プレイヤーの持つ手数が決まっておらず、自由度が高いのがクランズの第3の長所と考えている
クランズにおいてはほぼすべてのアクションはお金を消費することで実行できる
10金で羊コマを置くなど
疑似的なアクションポイントであるお金を運用して、お金の生産力を高めるのがゲーム序盤の目標となる
キャッシュフロー(お金の出入りの流れ)をコントロールするゲームと言ってもいい
資源を売ってお金にして、お金で行うアクションで土地を買って資源の生産力を高める

クランズでは、ゲームの序盤では「自分や相手があと何回アクションが打てるか」が明らかにならない
「工夫次第で回数を伸ばせそう」とポジティブに感じられるところに筆者は魅力を感じる
パズル的に、あれを売ってこれを買って、契約タイルを取って、ああして、と自分でコンボを考えられるところ
このあたりも魅力に感じている

クランズと逆で
アクション可能な回数(手数)が厳密に定まっているゲーム
は多い
ほぼすべてのボードゲームはそうだと言ってもいい
まずは、手数が決まっているゲームの特徴についておおまかに述べる

『宝石の煌き』や『センチュリー』シリーズなどはその典型だ

『宝石の煌き』では、全プレイヤーは毎ターンに宝石チップ3個の獲得ができる
ひとりだけターンが多くなるようなことはないし、一度に獲得できる枚数が増えることもない

筆者の好みのワレス、フェルト、ゲルツの重ゲーもだいたいそうだ
(ゲルツの『インペリアル』のみまったく異なった構造をしている)

マーティン・ワレスの『ブラス』では、全プレイヤーは1ターンに2アクションだけ行う
ゲーム中に行われる総アクション数が決まっていて、それを全プレイヤーで分配する
増員をしたらアクションが増えるということはない
オートモービル』も重たいゲームだが、全アクションは4ラウンド=12アクションしかない

アクション数が決まっているゲームは、以下のような長所を持っている

・プレイヤーが迷いにくい
・ゲームが間延びしない、プレイヤーによって壊されにくい
・デザイナーの意図通りに終盤まで設計しやすい
・美しいゲームが多い

たとえば『ワレス』だと、マップがちょうど開拓されきるかどうかの、非常にちょうど良いタイミングでゲームが終わる
「だいたいやれることはやったけど、もうちょいやれたかな、もっとやれたなあ…もっかいやりたいな」と思える

イメージ 6
ブラス:ランカシャー
重量級ゲームだが、プレイ後の感覚は、「終わった…もう2,3か月やりたくない」という重々しさがなく、「もうちょっとうまくやれたよなあ、次はもっとうまくやれるはず、次早くやりたいなあ」と思える

逆に、テラフォではゲームが間延びしてしまうリスクを持っている
特に基本版を2,3人プレイでやると「火星が開拓され切っても、エンドトリガーがなかなか引かれずゲームが終わらない」ということは起こる
(拡張を入れると収束性が上がり、ラウンド数が総じて縮むようになっている)


手数が決まっているゲームは、総じてエンジン構築の要素は薄い
プレイヤーは手数が決まっている中で、効率の良い勝利点行動を探していく
「今どのアクションを行うのが良いのか」を常に考えつづけ、最適行動を多く取れたプレイヤーが勝利する
これはこれでパズル的な面白さがある
フェルトのゲームなどでは、こうした感覚を感じやすい
『トラヤヌス』『アクアスフィア』がそうで、いくつかの勝利点を得るためのミニゲームがゲーム内にいくつか用意されている
筆者はフェルトの重ゲーを複数のミニゲームのテーマパーク=複合体みたいなものだと捉えている
プレイヤーはいくつかのミニゲームを同時並行でプレイしていく
「序盤はこれをやってエンジンを作るべき」みたいな指針もあまりない
明確な指針がないなかで、序盤は「いまの状況なら、たぶんこのアクションをやるべき…なはず」とその都度迷いながらプレイしていくことになる

イメージ 7
トラヤヌス
マンカラをゲームの根幹陣取りやセットコレクション、


(3)増員について
「アクション数が可変的かどうか」の話題に付随して、増員で手数を増やせるゲームがある
ローゼンベルクの『アグリコラ』など
アクションポイント制のクランズやテラフォとはまた別なプレイ感がある
増員/アクション数の増加について、いろいろ考えたり、オリジナルゲームを作ってみたりしたのだが、まとめると、増員については作り手としてはかなり神経を遣うと考えている
もはやクランズとはまったく別の話題だが、以下にいくつか例示し、論じていく

①アグリコラの場合:高い増員コスト
増員のコスト:
・5木の獲得
・2葦の獲得
・家の建築
・増員アクション
→4~6アクション

増員のメリット:
6~8アクション程度の手数の増加
増員のデメリット:
支払い食料の増加

総評:
増員は超重要だが、かなりコストが高い
また食料支払いも増える


②ハンザテウトニカの場合:短いラウンド数
わりと安いコストでアクション数を2→3アクションに増やすことができる
ただ、4,5アクションと増やそうとすると中盤の勝利点行動がおろそかになってしまう
一定勝利点に達するプレイヤーが出ると、即座にゲームが終わるシステムなので、1勝利点の重みが大きい

総評:
増員は強力ではあるが、ラウンド数を減らし、勝利点の重みを強くすることでバランス調整している
イメージ 8
ハンザテウトニカ
シンプルでかわいい見た目だが、序盤からわりと簡単にジャマし合い、殴り合いが始まってしまう


③Improvement of the POLIS、Marche de France,SINGULARITYの場合
慶應HQの3作品
IOTP,マルシェ、シンギュラリティ
同サークルのデザイナーはアグリコラを好まれており、これまでの3作品のほとんどで増員アクションとカードドラフトが用意されている
詳細は省くが、
IOTP:他の有用なアクションを犠牲にしないと増員ができない
マルシェ:4ラウンドしかないため増員の恩恵が少ない
シンギュラリティ:増員以外の強力なボーナスを捨てて選択しないといけない
どれも程良くバランス調整されている



さらなる余談が続くが、ローゼンベルクの『アグリコラ』以降の作品では増員が行われなかったり、アグリコラに比して重要性が薄れているものが多い
例をあげると

・オーディンの祝祭
・カヴェルナ/対決
・ヌスフィヨルド

など
どれも農業系のワーカープレイスメントで、この3作品はけっこう似ているのだが、アグリコラと異なり、増員のアクションが廃止されている
また、増員がないので食料支払いもなくなっている
(食料コストの概念は、早期に増員できたプレイヤーが独走するのを足止めするためのストッパーだと筆者は理解している)

――――――――


さらに以下にいくらか記載する


おまけ① 東印度公司
手数の制限がかなり緩いクランズ系のゲームとしては、2018年新作の『東印度公司』も挙げられる
船コマを使って手番を行っていき、やることがなくなったプレイヤーがパスを宣言する
船コマが、クランズやテラフォでいうところの現金、ガイアでいうところのパワー(疑似的なアクションポイント)となる
アクションによっては船コマを復活させることもでき、そのあたりのプレイ感が面白く、なかなか好ましく感じたゲームだった

イメージ 9

おまけ② 拡大再生産とクニツィアのゲーム

拡大再生産系のゲームでは、序盤の場の情報量はシンプルで、やれることが限られている
逆に中盤~終盤では加速度的に情報が増えていき、読み切るのが不可能になっていく
アグリコラを例に取ると、ラウンドを追うごとに考えなけれならないことが雪だるま式に増えていき、中盤から終盤にかけての選択が本当に難しい

・やれること
・やらねばならないこと
・相手がやりたそうなこと
・場に残っているアクション
などかなり多くの情報を処理する必要が出てくる

これと真逆なタイプのゲームがチェスだ

チェスでもっとも選択肢が多いのは序盤~中盤にかけて
文字通り動かせるコマが多いため
コマはどんどん減っていき、最終局面はコマの少ないシンプルな盤面となる
終盤の盤面は、チェス型の非拡大再生産系ゲームの方が美しいものになる

デザイナーとして、ライナー・クニツィアはチェス型の、非拡大再生産のゲームを良く作るように感じる
クニツィアの設計についてはそのうち別記事を書くかもしれないが、ポーカーが元になっているゲームが多い
ポーカーのヴァリエーション、ポーカーを変奏させて組み立てたゲームが多いし、そういった系統のゲームには名作が多いように感じる(タージマハル、バトルライン、インフェルノ)
ポーカーのブラフの面白さと、セットコレクションの面白さを非常にうまく活かしている

ただ、筆者としては、シンプルで切れ味の良いクニツィアの良作も良いのだが、拡大再生産系のゲームの、大味で収束性が悪いが、雑な快感の方が好ましく感じている


イメージ 10
チグリス・ユーフラテス(Knizia,1997)
非常に優れたゲーム
脱線するのであまり触れないが、筆者はクニツィアの作品のなかではもっとも好ましく感じている
次点で『インフェルノ』

おまけ③ アクション数とインペリアル
ゲルツのインペリアル、筆者は非常に好きなのだが、この記事を書いていて「プレイヤーの持つアクション数が不定であること」に強い魅力を感じていると理解した


【次回予告など】
いくらか記事のストックができたので、しばらくは週1程度の更新となると思われる
次回記事では以下のゲームの短評を行う
イメージ 12




このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ