ストラグルオブエンパイアの短評
2019年2月にギャングラーメンさん主催のストラグルオブエンパイア卓に参加した
面白かったので、おおまかで短い評をここに記載する
『ストラグルオブエンパイア/Struggle of Empires』はマーティン・ワレスの重量級ウォーゲーム
筆者らは大阪南部の河内ゲーム会のなかで1卓を借りて、7人戦を行った
10時インスト開始
11時プレイ開始
18時に決着
実に8時間の長丁場だった
Struggle of Empires(2004)
Designer Martin Wallace
Artist Peter Dennis
Publisher Warfrog Games + 2 more
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【プレイ感、魅力】
多人数で行う陣取り
地政学マルチと呼んでもいいのかもしれない
プレイヤーはスペインやプロイセンなど、近世ヨーロッパの大国の宗主となる
プレイヤーたちは欧州列強を形成し、植民地権益を賭けて軍拡競争を行う
テーマ性の高さ
テーマの再現性の高さが筆者にとっての最大の魅力だ
欧州列強はときに協力・対立し、微妙な均衡を保ちながら拡大を進める
ウォーゲームとしては珍しく、このゲームでは絶対的な敵・味方が存在しない
相手国との関係性は、時代を経るにつれて刻一刻と変化していく
たとえば強力な互助関係のもと最強となった2大国が、ほんのささいなきっかけで次の時代には敵同士になったりする
このヨーロッパ的な冷たさと曖昧さ
背後に漂う緊張感が心地良い
スペイン継承戦争(1701年-1714年)
続くオーストリア継承戦争では、列強は2陣営に分かれ、欧州、カナダ、インドで覇を競った
【どのようなプレイヤーに勧められるか】
交渉アリの重い陣取りがやりたいなら文句ナシでお勧めできる
上でも書いたように、歴史テーマの再現性が高いので、17世紀ごろの世界史が好きな人も楽しめるかもしれない
交渉はハードか:
さして重くない
秘匿情報がほぼゼロというのが大きい
嘘をつく必要性が少なく、ブラフ要素はまったくない
『ディプロマシー』や『イントリーゲ』と比べると非常に軽い
ただ、おなじ対人マルチ『フンタ』、『シヴィライゼーション』や『エクリプス』と比べるとややハードかもしれない
ディプロマシー
地政学マルチの元祖
もしマック・ゲルツの『インペリアル』が『ディプロマシー』と『18XX』シリーズの融合にして、ゲルツなりのディプロマシーへの回答
だとするならば
マーティン・ワレスの『ストラグルオブエンパイア』はワレスによるディプロマシーのアレンジと言えるかもしれない
ルールなど:
各プレイヤーが2アクションずつ行って進行していく
ゲーム中に行えるアクションの総数は厳密に決まっている
ワレスの他の重ゲーの『ブラス』や『オートモービル』をやっていたら「あ~ワレスっぽい」と感じると思われる
アクション数の決まっているゲームなので、効率良くアクションを行えたプレイヤーが伸びてはいく
ただし、地政学マルチなので、とびぬけたものは叩かれる
手数の管理が上手いとゲームをリードできるが、ヘイトが増えると叩かれて結局伸びない
最終的には地味なプレイヤーが最後に逆転勝利する
そういう展開になりやすい
同じ対人マルチだと、『フンタ』や『メガシヴィライゼーション』でもこういうことは起きやすい
だから「自分の力できっちり勝ち負けを決めたい」という欲求を、このゲームは叶えてくれない
言い換えればキングメーカー問題で、インタラクションが強い古いゲームなら避けては通れない問題だ
恐らくこの手の古いマルチゲームでは、最終的な勝ち負けよりも「数時間かけて共有した物語・体験・ゲームの展開を楽しみ、大事にする」という作業の方が大事なのだろう
ソロ要素の強い2010年代ゲームに慣れた筆者にはなかなか馴染みがたいプレイ感と言える
フンタ
6時間級の重ゲー、対人マルチ
ストラグルオブエンパイアとプレイ感は大きく異なるものの、ゲームをやり終えたあとの「全員で完走し終えた感」は非常によく似ている
経験者と初心者が混ざっても大丈夫か:
先ほどまでの話題に通じるが、まったくの初対面同士でもないかぎり、メンツによって大きな問題は生じないと思われる
効率の良い手順を知っている経験者は有利ではあるが、前述の通り下位同士で結託して上位を足止めすることはけっこう簡単にできる
序盤にあまりうまくいかなくても、わりと最後まで上位に食い込める可能性が残る
筆者らの卓では、中盤まで第5位だったギャングラーメンさんが最終ラウンドに逆転優勝された
第1~3位を全プレイヤーで集中して叩いた結果、下位が伸びる結果となった
【プレイ時間、難易度、適正人数】
時間:8時間 (7人戦、3人初プレイ、インスト込み)
難易度:かなり難しい (ワレスの『ブラス』より少し複雑)
適正人数:5人以上が無難? (7人戦は良かった)
【テーマ】
前述したとおり、16~18世紀のヨーロッパ列強諸国となり、植民地権益をかけて争う
【問題点など】
筆者にとってはやや重すぎる
重いわりに、自分の実力で勝者になれる構造ではないのがなかなか割り切りにくい
他プレイヤーがどのエリアに欲を出し、誰を殴るかによって展開が大きく左右されてしまう
筆者はわりあい真剣に勝ちを狙ってプレイしたのだが、決着直後の筆者のプレイ感は以下のようなものであった
「中盤まで3位、いい位置につけたのに…
最後に隣国に一発殴られたんだよな・・・
そのせいでへこんで最終6位…
自分の半日っていったい…」
と無力感を感じ、やや気落ちしていたが、帰宅後は
「いやでも面白かったわ、勝ち負けに固執すると損するタイプのゲームだな、たぶん」
と考えが変わった
なお、本ゲームのプレイ後にザイファルトの『マンハッタン』をプレイしたが、マンハッタンの長所をより強く感じた
切れ味が鋭いマルチの陣取りであり、キングメーカー問題があまり苦にならない
タイプが違うゲームなので単純に比するべくもないが、もし真剣に殴り合いたいなら、『ストラグルオブエンパイア』よりも短時間ですべてが決まる『マンハッタン』や『王と枢機卿』の方が良いかなあと感じた
マンハッタン
きれいなゲームだが、最初から最後までバチバチの陣取りバトルが行われる
手堅い守りのプレイングが勝ちやすいこともあり、筆者は好ましく感じている(筆者は守り・受け・コントロール型のプレイを好む)
【考察など】
まとまりが悪いが、列記形式で記載する
既プレイ者向けとなっている
①競り -二つの顔を持つコアメカニクス
各時代の手番順と所属陣営を競りで決める
この競りが本作のもっともユニークで画期的な点だと筆者は感じている
競りによって決められた2陣営に分かれてゲームは行われる
同陣営同士だとお互い火力の支援ができるが、絶対に殴り合うことができない
対立陣営にいても基本は平和だが、利害が対立すれば交戦状態に陥ることもある
とてもシャープなメカニクスなのだが、「史実の〇〇継承戦争とかでも、似たようなこと起きてるよな…」と思えるようなリアリティがある
直感的にわかりやすいシンプルなルールでありながら、きちんとテーマをシミュレートしている
そこに筆者は強い魅力を感じる
競りの手順としては、親プレイヤーが最初に「A陣営は〇〇、B陣営は△△」と2カ国を提示する
時計回りに、その案を飲むのか、蹴るのかを決めていく
蹴りたいのなら提示額よりも高い金を示す必要がある
高い金を示したプレイヤーは新しい案を提示し直して、またその額から競りが再開される
全員がオリたら案が採択され、その案を出したプレイヤーだけがお金を支払う
そうして7カ国のうち2カ国の処遇が決まると、残り5カ国についても同じ手順で陣営を決める
残された国は、前の国の分かれ方を見て加担したい陣営を決めていく
スペイン継承戦争、オーストリア継承戦争などの実際の歴史でも、最初に2大国のあいだで利害が真っ向から対立する
それを見て
「あの国に加勢する」
「あの国は嫌いだわ、逆陣営に加担する」
2大国を取り巻く列強諸国はけっこう俗な理由で2陣営に分かれていった
最終的に2陣営に分かれての超大規模な戦争が、ヨーロッパ本土やアフリカ・アメリカの植民地各地で繰り広げられた
この陣営分けの競りがよく出来ていると思うのは、手番順も同時に決まるという点にある
競りを駆動させるにはプレイヤーの欲望(ドライブ)が必要だ
強い欲を持つ複数のプレイヤーによって場に火がともり、競りの場に命が吹き込まれる
しかし、ゲームの最序盤では「あの国と組みたい」という欲望を抱きにくい
最初は国ごとの特徴もないからどこと組みたいという気持ちも持てない
だからこのルールはヘタをすると、「第1ラウンドの競りは何を競っているのかわからない、面白くない」という格好にもなりかねなかった
しかし本作はそのような不完全な形ではない
「競りに勝ちたい」と最序盤からプレイヤーに思わせるために、ワレスは早い手番にボーナスを与えている
少ない数のボーナス植民地が用意されている(ノーリスクで勝利点と資源が得られる)
早い手番を取ってボーナス植民地を取りたい
とにかく早い手番を取ってゲームをリードしたい
序盤の競りは、早い手番が欲望の対象となる
しかし、終盤になるにつれ、競りは別の表情を見せる
誰の権益を奪うか
誰と協力するか
もはや、単純に早い手番を取ることにあまりメリットはない
むしろ対人戦が生じるので、強い決定を行える遅い手番の方が有利だ
終盤の競りは、スタプレ争いではなく、どのプレイヤーと組めるかが欲望の対象となる
同じメカニクスを違う状況下で用いると、ここまでプレイ感が変わるのか
一つのルールにここまで美しく、さりげなく二重の意味を持たせられるのか
プレイヤーの欲望を丁寧にコントロールするワレスの手腕
そういったものにただただ感心した
②戦闘について
ダイスを用いて戦闘を行う
特殊技術などはなく、『エクリプス』や『シヴィライゼーション』のような、「自分の最強の軍隊を編成しよう」というプレイ感ではない
アメゲーのように欲望を駆り立てるメカニクスではなく、非常に簡素だ
ワレスは恐らく、戦闘要素があまり好きではないのだろう
戦闘=単なるランダマイザとしての役割として期待していると筆者は考える
戦闘ルールに関してはややシンプルすぎるかも、とも感じた
攻撃側が大差で攻撃する場合、損失を出す可能性がかなり低いため、「部隊を固めて攻撃」が安定行動になってしまう
ただ、部隊を1カ所に固めてしまうと、複数地域の権益を取りにくくなり、勝利点がなかなか伸びない
安定を取ると勝利点が伸びず、散らばらせるとリスクが高い
良いジレンマで、非常に悩ましかった
③借金
借金タイル=社会不安トークンをもらうことで、いつでも自由に借金できる
基本的に借金はやり得だと感じた
下位3名だけが失点を食らうので、1ラウンド1~2枚なら借金するのはOK
ゲーム終了時の枚数の感覚としては筆者卓だと、社会不安トークンを返却するアクションはすべて行われ、下位3名は9枚、8枚、5枚のトークンを有していた
【次回記事など】
以下の写真のものを予定
美しく洗練された交渉ゲームだった
来週などにアップすると思われる