リスボアはラセルダの代表作の一つ
ラセルダ作には珍しく、重ゲーマー好みのアッパーな能力強化や、拡大の喜びを素直に実装している
慣れれば90分級、プレイ翌日にはリプレイしたくなる感情体験
ブラス:バーミンガムのような味の良さがあり、筆者は勝手にラセルダの白ブラスと呼んでいる
構造的長短所を言語化する


(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①楽しい成長-宗教タイルとカード強化
 ②アクションは自由すぎてやや単調
 ③3人=ベスト, 2人=テンポ◎, 4人=冗長
 ④リプレイ性は◎
 ⑤政治性はそこそこ
(4)総評

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(1)基本情報

人数:1-4人、ベスト3人
時間:60-150分(人数×40分程度)
複雑性:4.56(参考値:スルー・ジ・エイジズ=4.41)
ランク:62位(2021/8/19)

要素:ハンドマネジメント、半協力の陣取り、能力強化、エンジンビルド、リスボン地震
言語依存:なし

国内流通:2021年8月にふるりん本舗から発売予定とのこと

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(2)テーマ

舞台はポルトガル、時代は1755年
白黒ブラスは大英帝国の1770-1870年を切り取っているが、リスボアはその直前
産業革命前夜、近代の幕開けって感じ
首都リスボンで起こった大地震がテーマだ
地震の規模感はマグニチュード8.5、死者5-6万人
(参考値:3.11はM.9.0で死者1.5万人)
ポルトガル王国およびリスボンは壊滅的な被害を被った
プレイヤーは政府技官か中小貴族あたり
政府に一任され、都市復興計画を担うことになる

表紙絵に出てくる3人=プレイヤーをサポートする上司
彼らの略歴を見るとそのままテーマの読解になる

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【ジョゼ1世=国王】

最も強い権力を持つのは国王のジョゼ1世(41歳)
が、実質傀儡、あやつり人形
国政にも震災復興にも大して関与していなかった
ボックスアートにも状況が反映されており、本来国王が座るべきセンターに描かれていない

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José I(1714-1777)

【ポンバル侯爵=宰相】
センターを飾ったのは彼を操っていたポンバル侯爵(56歳)
小貴族出身の彼はまずジョゼ1世に取り入った
有能ぶりからジョゼの全面的信頼を勝ち取り、震災年には外務大臣から宰相にまで登り詰めた
宰相(さいしょう)=国王をサポートする一番偉い人
震災対応の実権を握り、改革を断行

・ごちゃごちゃの極みだったリスボンの旧市街を碁盤目状に都市計画
・震災死者をまとめて船で沖合に運び、遺体を水葬(感染症防止)
コインブラ大学(母校)の再建
・イギリスの産業革命での成功ムーブを取り入れて商業評議会を設立=工業化推進

商工業を推進しまくった結果、ブルジョアジー(貴族でも農民でもないお金を稼ぐ階級)の地位が飛躍的に向上
反面、旧来の貴族階級は権益を脅かされ強く反発
後ろ盾の国王ジョゼ1世の暗殺未遂などを乗り越え、粛清・弾圧を貫き独裁を維持
1755-1777年(56歳ー78歳)の20年余り、ジョゼ1世が寿命で崩御するまで傀儡独裁で乗り切った

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Sebastião José de Carvalho e Melo(1699-1782)

【マヌエル・ダ・マイア=王宮技師長】
ダ・マイアは震災当時78歳、最高齢
堅実に働くダ・マイアを全面的に信頼していたジョゼはリスボン復興のコーディネーターに大抜擢
マイアはポンバル侯爵と協力し新生リスボンの都市計画を発表
近代西洋史上、もっとも合理的で啓蒙的な都市計画案とされている

作中でも、都市計画タイル売り場にはダ・マイア案ポンバル侯爵案がランダムで並んでいる
史実に忠実と言える

ダ・マイアのアクションで図面を引きジョゼ1世のアクションで晴れて許可を得て公共建築を設立、みたいな流れも楽しい

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Manuel da Maia(1677-1768)

プレイヤーはジョゼ1世ポンバル侯爵ダ・マイア技師長にお伺いを立てつつ、他プレイヤーと協力
がれきを除去し、住民たちのニーズに合った商館や公共建築を建て、近代的なリスボンの街を再建設する


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(3)魅力

①楽しい成長
リスボアは他作品と比較して、プレイしていて気持ち良いと感じる場面が多い
なぜ気持ち良いか?
成長や能力強化をさせてくれるからだ
宗教タイルと個人ボードへのカード差し込みの2軸がリスボアの主な成長要素だ

A.宗教タイル

タイルに書かれた永続能力が与えられる
「がれきを除去するたびに1レアルを得る」

とか、
「追従アクションを打つときに影響力を消費しない」

など
プレイすればわかるが、けっこう思い切った能力付与だ
これがゲーム開始時にランダムに2枚配られ、好きな方がもらえる

ラセルダの作品群のなかでは、この実装はわりと異色だ
①開始時の状況は横一列
②ゲーム中の運要素は少なく
③プレイヤー自身を示すアクションポーンの存在

どの作品にもほぼ例外なくこの3特徴があり、筆者は勝手にラセルダ3原則と呼んでいたが
リスボアはかなり意欲的な作りで、①と③を満たしていない
開始時に特殊能力がもらえ、その得意不得意によっておおまかにルートを決めることになる
また、いつものアクションポーンは採用されておらず、カードドリブンを採っている

宗教タイルはゲーム中にも買い足すことができ、シナジーが作れると楽しい
また、中間決算時捨てて勝利点に変換できる
この手の永続タイルを適当なタイミングで捨てさせたり、更新させるのは良い実装だ
ゲーム中に絶えず参照しなければならず、不必要のものを持たせ続けるとプレイヤーの思考容量を無為に圧迫する
・開始時に1枚タダで持たせて強さを実感させる
・ゲーム中買い足す余地も与える
・中盤で不要なものは捨てさせる

全てに意味のある、とても優れた実装だと評価する

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B.カードによる能力強化

白ブラスのカードに能力強化要素を足した感じ
カード周りのルールは複雑なので詳細記さないが、ざっくり、
使い捨てて強アクションを行う
弱アクションにする代わりに自分の個人ボードに差し込む

のどちらかができる

カードには貴族と財務があり、貴族はボード上部に差し込んで影響力収入が増やせる
影響力はギャラリストの実装とだいたい同じで、追従アクション(他プレイヤーの手番中のボーナス手番)で消費する

財務カードはボード下部に差し込み、お金面の能力強化が得られる

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ボード上下に5枚のカードが差し込まれており、
・4影響力の収入(上部:貴族と造船カード)
・赤のガレキのコスト―1レアル、あらゆるお金の支払い―2レアル(下部:財務カード)

この強化は強すぎず、弱すぎずちょうど良い
カードを差し込んだ手番はほぼ1手丸々パスすることになる
有効に活かせば十分なリターンが得られるが、雑に差し込むと単なる1手損となる



②アクションは自由に選べ過ぎてやや単調

カードは前述の能力強化以外に、アクションとして用いる
本作はカードドリブンだ
コンコルディアやブラスのようにカードをプレイすることでゲームが進む

カードは3種の貴族+財務の4種あり、それぞれ小さな山に分かれている
手番終了時に好きな山から補充できる
手札は5枚持っておける上に、好きなカードが補充できる
デッキはオモテ面が見えており、要らないカードを引き込むリスクはほぼゼロ
ハンドマネジメントの苦しさはない
人気カードの山がたまに取り合いになるが、基本的にほぼ他人との絡みもない
3種の貴族を1枚ずつ持っておくと中間決算でミニボーナスが得られるため、
「とりあえず思考停止で貴族3種を1枚ずつ持っておいて
残り2枠を使って適宜入れ替えよう」

みたいな動きで固定される

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③3人=ベスト, 2人=テンポ◎, 4人=冗長

追従アクションとメインボードの陣取りは強い相乗り要素があり、3人以上の方が魅力が引き立つ

また、カードの兼ね合いで人数が増えると1人あたりの手数が減る
2,3人プレイの方がやりたいことが十分でき、満足度が高い
3人でもっとも機能する
2人戦は相乗り部分が消えるものの、テンポが良くタイトに楽しめる
ゲームとして特段壊れておらず、普通に楽しめる
4人で遊ぶのはあまり大きなメリットがないと思われる


④リプレイ性は◎

ラセルダ作のなかでは最も多くプレイしている
セットアップのワクワク感がリプレイに直結しているのだと思われる
セットアップには、
ガレキの配置状況
・建設ボーナスタイルの並び
・配られる宗教タイル

とけっこうなランダム性がある
盤面の状況と与えられた初期能力の噛み合いを見ながら、戦略を決めるのはとても楽しい

また、重さのわりに比較的見通しが良い
ゲーム中の運要素はほぼなく、アクションの自由度がとても大きいからだと思われる
やりたいと思ったことはだいたいやれる

リスボアと真逆の、ゲーム中に状況が二転三転して、当初やりたいと思っていたことがなかなかできないゲーム
ラセルダ作だとギャラリストなんかはその傾向があるが
そういった作品と比べて学習が成立しやすく、上達しやすい

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⑤政治性はそこそこ

主観的であまり意味のないレーティングだが、ラセルダ作の政治的なインタラクションの度合いは、
カンバン=5
ギャラリスト=4
リスボア=3
オンマーズ=2
ヴィニョス、エスケーププラン=1

くらい
リスボアはアクション自体は守られていて、基本はソロ的に楽しめる
得点周りに一定の相乗り要素が一定あるので、「適当に打った1手が相手に思わぬ加点をもたらし、気まずくなる」みたいな良くない状況は生じ得る


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(3)総評

2-3人で腰を据えて4,5回プレイできる環境があるなら強く勧められる
オンマーズと大差ないくらいルール量が多くハードなので、1,2回遊ぶだけだとインストの労力に見合わない可能性がある

ラセルダは成長や拡大に対してやや禁欲的なデザイナーだが、リスボアは成長・強化を意図的に多く用意している
いくつかの加速装置が仕込まれていて、徐々にゲームが加速する
場のガレキ量が減るほど建設コストが下がる
建てれば建てるほど安くなるため、中盤建設ラッシュが生じる
また、商館を増やせば大量生産でき、商船を集めれば商品を大量出荷できる
終盤に向かうにつれて1手あたりの打点が高まってくる

ヴィニョスも素直な成長を与えてくれる良作だったが、リスボアにはカードゲーム様の個別能力がある
シナジーを作ったりコンボを組むのが好きなプレイヤーには強く勧められる

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