ブライアン・ボルはトリックテイキングで陣取りを行う中量級ゲーム
プレイし、良作だと評価したため記事化する


(1)基本情報
(2)テーマ
(3)魅力
 ①ゲーマー好みにチューンした王と枢機卿
 ②4人>3人≧5人だがどれも◎
 ③トリックに勝ち続ければOKなシンプル構造
 ④勝ち続ける難しさ
 ⑤マップへの欲望の持たせ方は◎
(4)総評


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Brian Boru: High King of Ireland (2021)
Designer Peer Sylvester
Artist Deirdre de Barra
Publisher Osprey Games + 1 more

OIP


(1)基本情報
人数:3-5人
時間:60-90分(インストなしで45分程度)
複雑性:2.41 (参考値:王と枢機卿=2.44,ウイングスパン=2.45)
ランク: 1300位 (2022/6/13)
要素:トリックテイキング、陣取り、ブースタードラフト、11世紀アイルランド
言語依存:なし(日本語サマリがあると望ましい)
流通:2022/6現在日本語版の発表を確認せず、筆者は米国アマゾンで購入

デザイナー:
ペール・ジルフェスタ―(英語読みだとピア・シルヴェスター)は30-40代の男性デザイナー

代表作:
Wir sind das Volk! =我ら人民(2014)
The king is dead=王は死んだ(初版2015,第2版2020)

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インタビュー:
以下リンクで、ジルフェスター自身がブライアン・ボル含め主要作について語っている

Interview: Peer Sylvester, Designer of The King is Dead & Brian Boru - Diagonal Move

要旨としては、
・本作はテーマ先行。ブライアン・ボルをめぐるアイルランド史には長年興味があって温めていた。
・ブライアン・ボルの史実は多様な要素を持つ。内部の対立に勝つだけでなく、ヴァイキングを撃退し、婚姻関係を充実させ、教会とも強固に結びつく、多方面をこなして力をつけた。これらの諸要素をトリテの各スートにあてがうことで、難航していたデザインが大きく前進した。


(2)テーマ

950-1100年ごろのアイルランドが舞台

2022-06-13
イギリスの西に浮かぶアイルランド島、北海道よりちょい大きい

西暦1000年ごろのアイルランドは、
・海上からはヴァイキングの襲撃が絶えず
・150人以上の小君主が乱立して国土は分裂

とかなり弱っていた
別ゲームだが、オーディンの祝祭が800-1050年ごろの北欧ヴァイキングテーマ
両作は侵略する側/される側を両面から描いている

2022-06-13 (1)
オーディンの植民地ボードに用いられる地名、ヴァイキングは当時侵略の限りを尽くしていた

プレイヤーは乱立する小君主の1人となり、
支配地域の拡大
・ヴァイキングを撃退して名声を獲得
・カトリック教会への寄付&修道院の建設
・子女を各地方の名家に送り込み、婚姻関係を成立

これらをびしばしやっていき、未来のブライアン・ボル=アイルランド全島統一王を目指す

なお、原題のHigh king(上王)はアイルランド全土を支配する王の意で、無数存在した各地方の王(kings)と区別する意図で使用される
王のなかの王、あるいは戦国時代における諸大名に対する将軍って感じ


図3
https://boardgamegeek.com/image/6518924/brian-boru-high-king-ireland

(3)魅力
①ゲーマー好みにチューンした王と枢機卿

・慣れれば60分を切るプレイ時間
・メインの陣取りとサブ課題の2正面的なタスクを並行させるプレイ感

このあたりは王と枢機卿にけっこう近い
王と枢機卿やリメイク版のIwariと比べると、アクションシステムがチケライ方式のカード引きからトリックテイキングに変更された
ひとひねり利いていて、よりゲーマー指向となっている


②4人>3人≧5人だがどれもかなり良い
4人戦はゲームの魅力が最大限引き立つ、最も好みだ
が、他人数でもちゃんと面白い
3人戦ではトリックの勝敗や陣取りがコントロールしやすくなる
1人あたりの得点も伸びやすく、初回プレイ向きかも
5人戦はややアンコントローラブルすぎるが、追加ルールなしで十分成立しており、美しい

白ブラスは2-4人用で、ベスト人数が3人>2人≒4人であるが、ちょうどそれに+1人した感じに近いかもしれない


③トリックに勝ち続ければOKなシンプル構造
筆者および同卓者らはトリテはほぼズブの素人
だが本作は構造がシンプルで、1回通して遊べばだいたい勘所が理解できる

トリックに勝つと、
・メインボードにディスク1個置ける
・次の戦闘マスを指定できる

の2点のアドがある
本作の数字感は、全20-21手で、だいたい30点取れば勝てるゲーム
ディスク1個はたいてい1点以上生み、トリックに勝ち続ける=ゲームの勝利と言って良い
負けるとサブアクションが打てる

軍事、教会、婚姻アクションを1-3回打つ(スートによって変わる)
1-3金を得る

が主な報酬
軍事、教会、婚姻はラウンド終わりにトップなら2-3勝利点をもたらしてくれる
が、トップ保持に2-3手かかるうえに、2位でも1勝利点入るため小競り合いが頻発し、ディスク配置に比べると得点効率は落ちる



④トリックに勝ち続ける難しさ
1-25の数字で構成されており、トリテなのでハイナンバーのカードは勝ちやすい
特に23,24,25は各色の最強札
本作は各ラウンド最初にブースタードラフトで手札を作ってからトリテをやる
そのため、
「雑にハイナンバーのカードだけピックしとけばいいのでは」

と安易に考えがちだが
ハイナンバーのカードは、トリックで勝つ際にお金を消費してしまう
本作のゲームデザインでいう原子(最も小さい単位)は1金なのだが、このお金の実装が良くできている

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カードの上半分が勝利ボーナスで、写真左の15で勝った場合はタダでディスクが置ける
が、24で勝った場合は2金消費する
本作はお金がけっこうカラいゲームで、2金取り戻すにはほぼ丸々1手かかる
よってデカい数字だけドラフトピックしても息切れしてしまい、途中で失速する
なお、お金がないときに勝たされてしまうと本当に最悪で、1金あたり2勝利点を失う
アグリコラの、チャリを漕いでギリギリを攻めた結果食らわされる物乞いカードを思わせる
しんどさとスリル、とても好みだ

逆に低いナンバーでトリックに勝てると、リソースをもらいながらディスクが置ける

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写真左の2で勝てると2ヴァイキングトークン+1金がおまけでついてくる
1トークン≒1.5金のため+4金相当
手札の減ったラウンド終盤に狙って勝てるととても気持ち良い


デザイン面の掘り下げとしてカード一覧を出すと、

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こんな感じ
・トリック勝利ボーナス/ペナルティは、+4金~-2金まで7段階用意
・ボーナスはお金と1.5金相当の資源(赤ならヴァイキングトークン)の2種用意してゲームを適度に複雑に


という設計
3色7枚ずつと切り札スート4枚の25枚からなる

⑤マップへの欲望の持たせ方が◎

8エリアに分かれており、エリア内の総ディスク数が一定枚数を越えるとはじめて支配可能になる
すると単独トップのプレイヤーは支配タイルが保持でき、ゲーム終了時に3-7勝利点入る
カタンの最大騎士力と似ており、トップが変わると保有者が変わる
また、ゲーム終了時、1個でもディスクを置けているエリア数に応じて、1-10勝利点がh入る

この実装はめちゃくちゃ良い

たとえば支配で7点取れるエリアはめちゃ強なのだが、5個ディスクが置かれないと活性化しない
単独トップを狙って序盤からヘタに2個も3個もディスクを置こうものなら、他プレイヤーにとっては魅力的でなくなり、参入してくれなくなる

反対に他プレイヤーと適度に相乗りできると、少ないディスク数で支配可能エリアが増やせる
また終了時のエリア数加点も狙えて二重においしい
が、「勝者全取り&トップタイは全員ゼロ点」はもっともシビアなルールのため、1ディスク差のギリギリの勝負となりやすく、終盤の取り合いはたいてい加熱する
(4)総評
多要素にまんべんなく手をつけながら、ラウンド終盤に相手を出し抜いて、ほんの少しだけ上を取れたプレイヤーがもっとも大きく利益を取れる
これぞトリテの醍醐味、なのかはちょっとわからないが、トリックテイキングメカニズムの持つ長所が良く活かされている
遊ぶ価値のある良作だと評価する

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アーク・ノヴァは重量級カードゲーム
プレイし、読み解く価値を感じたので記事化する


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(1)基本情報

(2)おおまかな長短所
 ①場当たり的なカードプレイ

 ②動物を出す大変さと気持ち良さ

 ③得点差がハッキリ見えすぎる

 ④保全計画(マイルストーン)の実装がとても良い

 ⑤テーマ再現の細かいアラ
 ⑥2人◎、3-4人はテンポ△
(3)考察:テラフォの有機的なタグネットワーク,無機的/均質的/人工的なアークノヴァ
 ①タグネットワーク

 ②ハブ
 ③同じ効果の使い回し
 ④越境的なカードの不在
(4)おまけ:カードの解剖
 ・212枚の組成
 ・後援者
 ・保全計画
 ①爬虫類 10点

 ②肉食動物 8点
 ③鳥類 7点
 ④霊長類 6点
 ⑤ふれあい動物 5点
 ⑥草食動物 4点 
 ⑦研究タグ
(5)総評



Ark Nova (2021)
Designer Mathias Wigge
Artist Loïc Billiau, Dennis Lohausen, Steffen Bieker, Christof Tisch
Publisher Feuerland Spiele + 10 more



(1)基本情報

人数:1-4人(ベスト2人)
時間:90-150分 
複雑性:3.73 (参考値:アグリコラ=3.64,黒ブラス=3.86)
ランク: 37位 (2022/4/11)
要素:シヴィライゼーション:新たな夜明け式のハンドマネジメント、テラフォーミングマーズ式のタグ付きユニークカード、ガンジスの藩王式の勝利点トラック、マグナストーム式のワーカー管理、ポリオミノ式箱庭個人ボード、動物園経営
言語依存:とても強い
流通:テンデイズゲームズより日本語版が発売中


デザイナー:
マティアス・ウィッジ(ドイツ読みだとヴィッゲ)は本作がデビュー作のドイツ人デザイナー

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(2)おおまかな長短所

①場当たり的なカードプレイ


デッキからツモったカードと売り場に並んだカードに応じて柔軟に動く必要がある
長期的な展望を持って初志貫徹する意志力を要する作品ではなく、変化していく状況への対応力が求められる

「場当たり的だ」となぜ感じるかだが
本作の数字感としては、
・212枚のデッキから
・ゲーム中30-40枚見れて
・最終的に15-20枚プレイ


比較対象として、テラフォ(基本セット)だと、
・208枚のプロジェクトカード
・40-60枚見て
・10-30枚プレイ

本作とかなり近い


ウイングスパンでは、
・170枚の鳥カード
・20-30枚見て
・10-15枚プレイ

両作よりもいくらか枚数を絞った印象

本作はテラフォと比較されがちであり、枚数の感覚もテラフォ寄りなのだが
プレイ感はウイングスパンに近い
テラフォもまあ言ってしまえば行き当たりばったりなゲームなのだが、「カードを出さされている感、やらされている感」はあまり感じない
カードプレイ以外の重要な得点手段として標準プロジェクトが用意されているからだ
また不要カードを引いてきても、3金払って予約しないかぎりは手札に入らない
また、ドローしてしまった不要牌は1金で売れる
プレイヤーの意志でカードを購入しており、「手札に来てしまったカードをとりあえず出さされている感」はかなり感じにくい

本作やウイングスパンは、動物カードや鳥カードを出す以外のルートを用意していない
出すしかないが
そんなにたくさん引けないし、引いてしまったカードは場に出さないかぎり手札で腐り続ける
手に入ったカードを良い感じで出していかざるを得ず、手なり感が生じる

ガチャを引かせて場当たり的に立ち回らせるのは今の売れ線ではある
それ自体は特に問題はないと評価する
アルナックの失われし遺跡(2020)やビヨンド・ザ・サン(2020)でも同じようなことを書いたが
・正解を見つけづらい
・経験者と初心者が混ざってもわいわい楽しめる
・最後まで勝ち負けがはっきりしづらい

あたりはガチャ感/場当たり感の強いゲームの明白な長所

②動物を出すまでの大変さと気持ち良さ

動物カードは、
・引いてくる(ドローアクション)
・2-10金支払って囲い地を用意する(建設アクション)
・7-30金支払ってカードプレイする(カードアクション)

と、これだけ手を尽くしてようやく場に出せる
個人ボードに囲い地を用意させるポリオミノパズルは、テラフォやウイングスパンにはなかった大きな差別化点

動物を場に出すと、
即時効果を得る(ドローやお金など)
勝利点トラックを進める

上記の効果を得る
勝利点トラックはブラスや蒸気の時代の収入トラックとほぼ同じ
上げれば上げるほど収入が増える
が、途中からレートが悪くなる
最初は2マスで1金収入が増えていたのが、最終的には4マスあたり+1収入にまで落ち込む
累進課税みたいなもので、際限のないインフレと勝者の独走を止める古典的な優れた策だ
とても有効に機能している

頑張って下準備
→動物を出して収入を増やす
→増やした収入を使ってまた準備
→動物をもっと出す

このフローはシンプルで楽しい

③得点差がハッキリ見えすぎる

勝利点(訴求点)と保全点を、いわゆる「ガンジスの藩王」方式で管理している
勝利点トラックと保全点トラックが逆さ向きで合体しており、両トラックのコマを交差させるだけ得点すると終了トリガーが引かれる
ガンジストラック、メリットも多いのだが、唯一致命的な欠点がある
ボロ負けしている人間があまりにも目立ってしまうのだ
マルチゲームを除くほぼすべてのゲームにおいて、現代のデザイナーはゲーム中の順位を隠したがる
トップ候補者には適度に緊張を保持させ、最下位候補の気持ちも切らさないためだ
テラフォもウイングスパンもゲーム中の順位隠しに細心の注意を払っている

ガンジストラックを採用するかぎり順位の可視化は避けがたい欠点であり、仕方ない部分はある
ゲーム終了後の小さな加点を設けており、「トリガーを引くとほぼ勝ち、でも追加点でワンチャンあるよ」くらいに隠す意図が感じられる
なお、2人戦なら合意が得られれば投了アリにするとほぼ問題は生じない

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Rajas of the Ganges | Image | BoardGameGeek


④保全計画(マイルストーン)の実装の美しさ

ゲーム開始時に3-4枚の基本保全計画カードが公開される
テラフォの褒章、ウイングスパンのラウンド目標みたいな感じだが、よりアレンジが利いている
「オーストラリア地域タグを2/4/5個集めると2/3/5保全点獲得」
的なよくあるやつなのだが
達成した上で1手費やすと、
個人ボードのキューブ1個をカード上に移せる
キューブを移動すると、1ドローや5金などのボーナスが即座にもらえ、以降毎収入フェイズでももらえる
収入フェイズは、細かい話は省くがゲーム中4-5回生じる
いわゆる収入のアンロック、バラージやテラミスティカの建物収入に近い
また、一度キューブを置いてしまうとその保全計画カードに2個目は置けなくなる
「収入のために一刻も早く置きたいが2保全点はしょっぱい、もうちょっと引き延ばして5保全点を狙うか……?」
の悩ましさはなかなか楽しい

また本作、ほぼソロゲームだが、この保全計画をめぐってのレースだけはかなりガチだ
同じカードでの最速狙いで競り負けると立て直しがほぼ不可能なので、前もってプランBを用意したり、早めに方針を切り替える判断が求められる

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12枚の基本保全計画カード。ゲーム開始時3-4枚ランダムピックし使用。

⑤テーマ再現の細かいアラ

「動物園を経営し、自分の箱庭を豊かにしていく」という大枠はとても好ましいが、細かい部分で疑問が残る
アラ探しマンになってしまい恐縮だが、以下筆者にとって腑に落ちない要素を列挙する

・カード売り場とは何なのか(動物をどこかから買ってきているのか)
・各プレイヤーの動物園は同じ国や地域にあり競争しているか、バラバラだが対立しているのかどっちなのか
噛み付きをすると売り場から1枚取れるが、噛み付きとは何なのか
・噛み付き以外にも、動物の特徴に応じたボーナスアクションが生じるのはなぜなのか(園内で飼育された動物が、どういう原理で売り場や手札に干渉するのか)
・そもそもカードを売り場から取る、山からガチャ引きするとき、プレイヤーはテーマ的に何をしているのか
学術ポイントを高めると売り場のカードで選べるものが増えるのは何なのか(鑑識眼のようなもの?)
・手札にあって未プレイの動物はどういう状態なのか
・個人ボードの動物園感のなさ(来場客の通路がない、動線がイメージできない)
・園内に囲い地を作るともらえる即時ボーナスの取ってつけた感(誰からなぜそのボーナスがもらえるのか不明瞭)
・なぜ特定のアクションで休憩トラックは進み、そうでないものでは進まないのか
・休憩とは何なのか(年度替わりの決算じゃだめなのか)
終了トリガーが引かれたとき何が起きているのか、なぜそこでゲームが終わるのか
・なぜ爬虫類と鳥類だけ専用の建物が用意されているのか

このあたりの疑問は、たいてい記事作成中のテーマ下調べで解消、自己完結できることが多いのだが
本作ではほぼ分からなかった
このあたりの細かい作り込みにデザイナーの狂気は表れる、またその有無が傑作と佳作とを分かつと筆者は評価する


⑥2人ベスト、3-4人はテンポ×

・けっこうなダウンタイム
・かなりの物理的スペース(体感拡張込みオーディンと同程度)
・インタラクションあるっちゃあるが、多人数戦で魅力が深化するわけではない

上記より2人戦で魅力を最も感じやすい


(3)考察:テラフォの有機的なタグネットワーク,無機的/均質的/人工的なアークノヴァ

本作、総じて高く評価している
単なる先行作のキメラでなく、きちんと新要素も盛り込まれている
が、本作のカードプールにはあまり魅力を感じない
なぜなのかを本節では掘り下げる
なお筆者の言語化能力をやや超えた話題で、普段以上に読者に負荷がかかる可能性がある

①タグネットワーク

本作ではカードがタグ(アイコン)を持っている
たとえばエリマキトカゲは、
岩場の地形タグ
爬虫類の動物タグ
オーストラリアの地域タグ

の3種を持っている

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タグ同士が距離感を持ってカードプールに配置された状態を本節ではタグネットワークと呼ぶ
また、その手のタグ付きユニークカードをプールに持つゲームを、タグネットワーク型のゲームと呼ぶ
アークノヴァとテラフォがそれに該当する
広義では、上杉さんのペーパーテイルズマグノリアも含まれる
さらに広く取るなら大半のTCGも該当する

筆者にとってテラフォの最大の魅力はタグネットワークの構造美にある
反対に、本作のタグネットワークはやや凡庸で、面白みに欠ける


②ハブ

テラフォの構造的特徴は、
・複数のタグをまたぐ、越境的な、ネットワークのハブになる一部の強カード
・ネットワークの末端を形成する大半の雑魚カード
・これらが混在し、メリハリがある
有機的な、ネットワーク理論に即した活きた配置




The-random-network-and-scale-free-network

この画像の右側がテラフォのタグネットワークだ
ハブとなる黒丸は地球カタパルト、AIセントラル、ガニメデ・コロニー、極地の藻類あたり

(画像:The random network and scale-free network. (A) Random network follows... | Download Scientific Diagram (researchgate.net)より)

アークノヴァの場合、
・5種の動物タグ、5地域があまりに均質
・複数の地域、複数の動物を越境するようなカードがほぼない
・すべてが等間隔に配置されていて、ハブがない
無機的で、等質で、消毒された、単にランダムな死んだネットワーク

Regular-random-small-world-and-scale-free-networks
この画像のいちばん左がアークノヴァだ
Regular, random, small-world and scale-free networks | Download Scientific Diagram (researchgate.net)



スケールフリーネットワークという理論、構造の読み解き方がある
平たく記すと、「社会はハブ(他のたくさんの要素と接続する中心点)がある前提で観察した方が理解しやすい」というもの
SNSのハブはインフルエンサー
アカデミアのハブは被引用数が化け物じみて多い論文

参考リンク:
ハブが壊れても機能が維持されるネットワーク | 東京大学 (u-tokyo.ac.jp)

参考書籍:
スクエア・アンド・タワー: ネットワークが創り変えた世界
意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

それぞれ、「ネットワーク理論を使って世界史を読み解く」「ネットワーク理論を使って意識をめぐる謎に挑む」をやっており、具体的、プラグマティックで門外漢にもそこそこ読みやすい

同理論のtipsはゲームデザインにもわりと当てはまる
ハブ(シナジーの中心をなすぶっ壊れカード)がゲームにメリハリと彩りを与える


アークノヴァにもハブらしきものはあるのだが、十分な機能を果たしていない

タグは、
・爬虫類
・鳥類
・肉食動物
・草食動物
・霊長類

の5個のメイン動物種

・クマ
・ふれあい動物

の2個のサブ動物

・アメリカ
・ヨーロッパ
・アフリカ
・アジア
・オーストラリア

の5地域

・研究
・岩場
・水辺

の3種の周縁的なタグ
で、合わせて15種

テラフォは13種、大差ない

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③同じ効果の使い回し

本作、動物には即時効果しかついていない
永続効果がついているのは後援者カードで、彼らがハブ、各タグのリーダー的役割を担う
これがあまりに平板だ

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上写真の23枚がリーダーになりうる強カードなのだが、
助成金:〇〇 1/3/5アイコンあるなら収入フェイズで3/6/9金

〇〇学者 自分か相手がアイコン出すたびに3金
〇〇の生息地 アイコン出すたびに固有能力j
〇〇の展示 アイコン出すたびに2勝利点

土着の〇〇 個人ボードの進捗に応じて小さな即時勝利点
この5つの効果を使いまわしている
これについてはあまり好みでない

MtGの5色サイクルみたいに、1-2セットだけ使うなら全然良いが
全部でこれをやられると、あまりワクワクしない

なお擁護すると、後援者カードのコストは、
・3-6のプレイコスト(4段階)
・「プレイに研究タグが必要」などのプレイ条件

でしか差異化できない
動物カードは7-30金までと画素数を多く取った分、後援者カードのコストはシンプル目に寄せている
そのためヴァリエーションを持たせづらく、派手な効果を実装しづらい


④越境的なカードの不在
越境的transboundaryであるとは、"そのカードが複数のアーキタイプにおいて使える"*さまをここでは指す

参考文献
【ドラフト】『ゼンディカーの夜明けリミテッド大考察(序文)』|Zombie|note

テラフォだと、ガニメデ・コロニーが典型的な越境カード
木星タグはサターンシステムズを中心とした盤外ルートと相性抜群
都市タグはタルシス共和国をはじめとする盤面戦略ともシナジーを持つ
20金ちょうどのプレイコストはクレディコー(20コスト以上支払うたびに4金キャッシュバック)にうってうけで、また浪費王の褒章(20コスト以上のイベント以外のプレイ枚数)にも絡める
雑なたとえだが、ポケモンの対人戦におけるガブリアスのような汎用的な美しさがある

アークノヴァの後援者は、ガニコロ並みの壊れカードもあるっちゃあるのだが、複数のタグにまたがらない
タグ同士を架橋するカードがないと、なんというか、カードゲームではないというか
虚無感が強い

肉食動物は肉食動物で、爬虫類は爬虫類でそれぞれ干渉しあわずビルドを作っている


動物タグと地域タグの関係性もとても平板だ
爬虫類、鳥類、肉食、草食の4種は各25枚あるのだが、単に5地域が5枚ずつ入っている
無難に置きに行っているというか
・デザイナーの意図
・動物園に対しての思想
・ゲームをどう運ばせたいかのオリエンテーション(方向づけ)

が見えてこない
こういう構成は、センチュリースパイスとかスプレンダーとか

小さめのゲームなら全然良い
が、こういった大きいサイズにはやや不適だと感じる
MtGの新弾で、「5色の全コモンクリーチャーのスタッツを統一しときました」くらいの暴挙に見える

ただし、「無難に平たく、偏りなく動物を取り揃えました」感は、一昔前の20世紀的な動物園っぽさが感じられなくもない
無機質な、sanitize(消毒)された檻で、生気のない動物を展示する
本来色鮮やかで多様な生物を、均質な灰色のコンクリートジャングルに収容する
行動展示なんて発想がまだなかった時代の動物園

そういうシニカルなテーマ再現をやっているようにも捉えられる



(4)おまけ:カードの解剖

上記、とても悪しざまに記してしまったが、めちゃ面白い良作であるので、掘り下げて解剖する
以下数字の話が続き、未プレイ者に不適なため読み飛ばし推奨

212枚のカードの組成
64枚=後援者
20枚=保全計画
25枚=爬虫類、鳥類、草食、肉食(全100枚)
18枚=霊長類
10枚=ふれあい

後援者カード 64枚
「今後鳥類アイコンを場に出すたびに2枚引き、1枚を手札に加える」など、プレイヤーに永続能力を付与する
テラフォでいう初期企業や青の能力系カード
・ほぼ無料で出せる
・終盤若干腐る
・全体のほぼ30%、初期手札8枚中2-3枚
上記特徴からMtGの土地に役割は近い
「最初に引いた2-3枚から指針にできる1枚を選んでね」的な

保全計画カード 20枚 
テラフォでたとえると、「褒章要素をデッキ内にも入れた」にあたる
記事前半で少し記したが、マイルストーン達成によってボーナス収入と保全点がもらえる
全プレイヤー共通の基本保全計画では、どうやっても2-3回目の収入にしか間に合わないのだが
デッキ内の保全計画カードを使うと超早期(1回目の収入の前)に達成できる場合がある
具体的には野生復帰カード11枚がそれにあたる
野生復帰=自分がすでに出した動物カード1枚を破棄して保全計画を達成
クランズオブカレドニアの、牛肉や羊肉を屠殺して達成する契約に感覚は近い
フレーバー的には、動物園から野生に返すことでCSR的な名声を得ている
屠殺と保護は本来真逆のムーブ
だが、ゲーム的には等しくエンジンを切り崩して勝利点に変換する挙動であり、プレイ感が似てしまい、皮肉な面白さが生じている

動物カードで得た収入を返さないといけないのだが、場に出したときに得た即時ボーナスは返さなくていい
よって、登場時効果が強めの動物をうまく野生復帰できると気持ち良い
一生MtGでたとえて恐縮だが、ETB(場に出たときの能力)を使いまわせたときの感じに近い
全体の9.5%、前述の11枚に絞ると5%
あまり多く引けてしまっても使い道がないため、数を絞っている


以下6系統の動物種について10点満点でレーティングする

①爬虫類 10/10点

枚数 25枚
平均コスト13.1 (プレイに必要なお金)
平均サイズ 2.2 (囲い地のサイズ)
合計コスト(平均コスト+平均サイズ×2) 17.5
水辺8枚 (タグを持つ枚数)
岩場5枚 (タグを持つ枚数)
得点 5.04 (勝利点)

【後援者カード(10点満点でレーティング)】

ウミガメの水槽 10点
爬虫類を出すたびに日光浴2*の効果。中盤余りがちな手札の変換先としてただただ優秀。エグい安定感。無条件なのもえらい、どうかしている。
*手札1枚を捨て4金、もしくは手札2枚を捨て8金を得る

助成金:爬虫類 9点

爬虫類学者 7点

土着のトカゲ 4点
無料で爬虫類タグ1個はそこそこ有用。

【Overview】 
平均コストが最も安く、展開しやすい
日光浴持ちが5枚おり、金も尽きづらい。
攻撃系が7枚(締め付け3枚、毒2枚、催眠2枚)ある、狡猾なヘビのイメージからか。本作の攻撃効果は大して強力でなく、やや空気。
後援者は4枚、ハブになりうるのは3枚と少なめ。強すぎるためのバランス調整と思われる。

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②肉食動物 8/10点
25枚 
平均コスト 14.4
平均サイズ 3.0
合計値20.4
水辺5枚
岩場4枚
クマ 6枚
得点 5.56

【Overview】
4枚ある群れ*で得点を重ねるムーブがとても強い。
後援者カードは4枚、平均的。
*群れ 肉食動物アイコン×1勝利点を獲得。

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③鳥類 7/10点
25枚
平均コスト14.56
平均サイズ 3.0
合計値20.56
水辺4枚
岩場3枚
得点 5.24
鳥類館に入る11枚/入らない14枚


Overview
平均的。
カード構成はドロー10枚(腐肉食5枚、知覚力3枚、疾走2枚)、建設系が10枚(気取った姿勢5枚、乗数トークン2枚、その他3枚)と、ドローと建設ボーナスが目立つ。
後援者カードは5枚と多めに刷られている。
鳥類館に入れられるのは11/25枚と半分以下であり、注意が必要。

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④霊長類 6/10点
18枚 アメリカ、アジア、アフリカが各6枚。ヨーロッパオーストラリアはゼロ
平均コスト 15.5
平均サイズ 2.7
合計値20.9
水辺1枚
岩場3枚
得点 5.8


Overview
後援者カードは5枚と多く、プレイ条件も他種族よりほんの少し軽い。
18枚という枚数の少なさを後援者パワーで補っていると思われる。
ヨーロッパとオーストラリアの基本保全計画がない場であれば全然目指して良いと思われる。

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⑤ふれあい動物 5/10点 
10枚
平均コスト 7.0
平均サイズ 1.0
合計値 9.0
得点 0

【Overview】
10枚の全カードが、「自分の場のふれあい動物枚数×3勝利点」の効果を持つ。
ブルゴーニュの城の牧場(同じ動物で固められればめちゃ点伸びる、かなりキツい)と同コンセプト。
地域アイコンを持たないのが最も手痛い。
序盤からふれあいをやると基本保全計画レースからオリることになる。

コスト試算すると、
1  15金 3点
2  22金 9点
3  29金 18点
4  36金 30点
初期手札8枚中、もし2枚見えてるなら取って良さそう、1枚だと厳しいか。

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⑥草食動物 25枚 4/10点 
平均コスト 17.8
平均サイズ 3.16
合計値24.12
水辺4枚
岩場4枚
得点 6.24
クマアイコン3枚

Overview
平均コスト、平均得点ともに最大。
本作のゲーム特性上、
・軽量クリーチャーを重ねてタグ集め→保全計画達成 が雑に強い
・ドローが比較的ラク

であることから、パワフルな1枚をドーンと出すタイプの草食動物には逆風。
ガチャ系カードが4枚(基本保全計画2枚、最終得点2枚)あるのも打点の高さを生んでいる。
やや使い勝手が悪い分、後援者カードは全部で5枚と、他タグより優遇されている。

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⑦研究タグ -/10点
13枚あり、後援者カード64枚中約20%を占める。
動物カードではないのでレーティング外とした。
全てユニークカードで効果とフレーバーが噛み合っており、ここの作りはとても好感が持てる。
ビルドとしての強さは、ふれあい同様基本保全計画のタグレースに出遅れるためあまり信頼できない。
集めれば化けそうなポテンシャルは感じられる。

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(5)総評

遊ぶ価値のある良作だ
テラフォやウイングスパンの下位互換ということは絶対にない

・2人プレイでもとても収束性が良い
・序盤から最終盤まで、常に1手1手が悩ましい

このあたりはテラフォと比べての明白な長所だと評価する



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アルマ・マータはコインブラ(2018)の続編的なルックスの重量級ゲーム
しっかり面白く好みだったため、何がどう良いと感じたか記事化する

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(1)基本情報

(2)テーマ
(3)おおまかな魅力

 ①王道狙いの野心作

 ②シンプルさと分からなさの両立
 ③古典ワカプレ=ラウンド中のアクション価値は不変

 ④印刷によって変わるアクション価値

 ⑤相利的なインタラクション

 ⑥イージーな経済ゲーム
 ⑦研究トラック=学生の人気競争

 ⑧学生は捨てて教授へゴマすり
 ⑨タップワーカーとしての教授
 ⑩今風のセミオート増員

(4)その他

 
4人≧3人>2人=1人
 ワカプレの部分は△
(5)総評:バラージ(2019)によく似た良作


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Alma Mater (2020)
Designer Acchittocca, Flaminia Brasini, Virginio Gigli, Stefano Luperto, Antonio Tinto
Artist Chris Quilliams
Publisher eggertspiele + 5 more



(1)基本情報

人数:1-4人(ベスト4人)
時間:90-150分 
複雑性:3.76 (参考値:アグリコラ=3.64,黒ブラス=3.86)
ランク: 1000位 (2022/2/15)
要素:ワーカープレイスメント、プレイヤー間の資源売買、15世紀イタリア、盛期ルネサンス、学術振興、大学経営
言語依存:一部あり(数枚の学長カード、公開情報)
流通:アークライトより日本語版が発売中、2022/2現在定価以下で流通

デザイナー:
デザイナーはイタリア人4人で、自身らをアッキトッカと呼んでいる

以下https://boardgamegeek.com/boardgamedesigner/6601/acchittoccaの翻訳

”アッキトッカは2001年に誕生しました。
4人で行ったイタリアのゲームコンベンション、Mucca gamesからの帰り道、高速道路上で結成したゲームデザイナーグループです。
名前の由来はイタリア語の''a chi tocca?''(今、誰の手番?)から。
ゲーム中にこの質問をするたびに、サブリミナル広告のように名前を思い出してくれるでしょう。"


"A chi tocca?" は英語だとWho is touching now?(今誰がボード触ってるの?)くらいの意

4人は、
フラミニア・ブラジーニ(唯一の女性)
ヴァージニオ・ジーリ(アッキトッカ以外でも複数作成)
ステファーノ・ルペルト
アントニオ・ティント

主要作
アッキトッカ:

・エジツィア(2009)
・テラマラ(2019)

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ブラジーニ&ジーリ

・コインブラ(2018)


ブラジーニ&ジーリ&ルチアーニ
・ロレンツォ・イル・マニーフィコ(2016)


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ジーリ&ルチアーニ

・グランドオーストリアホテル(2015)



【アートワーカー】

クリス・キリアムスはカナダ人のアーティスト
プランBゲームズの内製デザイナー
代表作:

・カルカソンヌ(2000)

・パンデミック(2008)
・アズール(2017)
・センチュリー3部作(2017-2019)

どれもシリーズモノで、めちゃめちゃ仕事している



(2)テーマ

アートワーク、テーマともにコインブラを彷彿とさせる
コインブラと本作はともにエッガートシュピーレから出ている
エッガートはアートワーカーの在籍するプランB傘下

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Coimbra(2018)

プレイヤーは1400-1500年ごろの架空の総合大学の学長
・ボローニャ大学(タイトルのアルマ・マータ/Alma Mater Studiorumが別名)
・ナポリ大学(法学に強い)
・パリ大学(神学がルーツ)
・オックスフォード大学

このあたりを混ぜた感じで作っている

メインボードは人材市場
・有望な学生をリクルート
・研究と教育に長けた教授をヘッドハンティング
・他校より高い研究業績を上げさらなる学生人気を狙う


史実でも、ヨーロッパ中のより優秀な学生が来てくれるように誘致する事例は多々あった
ナポリ大vsボローニャ大
ナポリ大学は1200年ごろフリードリヒ2世(シチリア王と神聖ローマ皇帝を兼任)が作ったのだが、当時は大学といえばボローニャ大だった
ボローニャ大は教皇のサポート下で、皇帝と教皇は何かと対立が絶えない
ナポリ大vsボローニャ大は、皇帝vs教皇の代理戦争でもあった
フリードリヒ2世による、
奨学金を手厚く
・大学周辺のアパートの家賃上限を設定、住環境整備
・カネを積んで著名な講師陣も招く

と、アグレッシブな国策で学生をガンガン呼び寄せてナポリ大は勝利、イタリア半島トップ校となった




ボックスアートの大学像はいくつかの大学のミクスチャで、モデルがある

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・遠くにそびえる円形の図書館=オックスフォードのラドクリフ・カメラ
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・手前のグリーンの校舎=ナポリ大学の学舎
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中央の柱廊=ローマのパンテオン
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(厳密にはパンテオンとは奥のドームであり、手前の柱廊はファサード(正面)を美しくする飾り。)


なぜ複数大学をミクスチャしたかだが、

・コインブラ大学をテーマにした前作が良かったから、今度は最古の大学ボローニャあたりをテーマにしよう
・1大学をテーマにすると、大学内で協力しないのも不自然、競争的なシステムを乗せにくい
・とはいえ、「ボローニャという町をめぐる物語」でいくとコインブラと被る
・ちょっと広げて、ルネサンス期の大学社会全体をテーマにしよう


こんな感じの流れだと推測する

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(3)おおまかな魅力


①王道狙いの野心作

重ゲーでやりたいことはだいたいさせてくれる
増員
・プレイヤーの個別能力
・経済的なインタラクション

いろいろ揃っているだけあって、1ゲーム200分近くかかってしまう

・180分越えで
・ゲーマーが好きな要素をなるたけ詰め込んだ重いやつ

こういう重ゲーを、筆者は勝手に総合小説型と呼んでいる

`'僕の考える「総合小説」っていうのは、とにかく長いこと、とにかく重いこと(笑)。そしていろんな人物が、特異な人から普通の人まで次々に登場してきて、いろんな異なったパースぺクティブが有機的に重ね合わされていく小説であること。`'(村上春樹,2009「るつぼのような小説を書きたい」)


小説だとカラマーゾフの兄弟なんかが好例だが
ボードゲームだと、
・アグリコラ(2007)
・ツォルキン(2012)
・オーディンの祝祭(2016)

・テラフォーミングマーズ(2016)
・ガイアプロジェクト(2017)

・バラージ(2019)

このへんが挙げられる

本作が、これらの傑作を棚から蹴り出して、オールタイムベストの座を奪えるかというと
さすがに厳しくはある

が、ちゃんと作られている良作だ
野心的に総合小説を書こうとしていて、かたちになっている
既存作の良いものはうまく活かしつつ、本作にしかない新しい何かも足せている
傑作とは言い難いが、十分意味のある良作と評価する


②シンプルさと分からなさの両立

本作の良さ、言語化が難しいのだが、一言で記すならこれだ
ルール分量は多くない
普通のワカプレで、資源種も本かお金のみ、めちゃ少ない
フローもシンプルで、
・ワーカーを使って本を生産、売買
・本を消費して学生や教授を雇用
・合間で研究トラックも進めたりマイルストーン達成

「本を作る→支払う」のみだ
ゲーム中に新情報も増えない、ガチャ、めくれ運、ダイスなし
インストは慣れれば15分程度

であるのに、なんというか、先が見えない
分からなさ、先の見えなさは快不快のどちらも与えうるが、筆者にとってはやや快寄りで、リプレイ欲求につながっている


・何が分からなさ/先の見えなさを生んでいるのか
・それらがなぜ筆者にとってあまり不快でなく、リプレイにつながる

を読み解いていく


結論から記すと、
本来アクションの価値が不変であるはずのワカプレで、アクションの価値を毎手番めまぐるしく変動させているから先が見えない
各要素の作りが丁寧で、設計に必然性があるから不快感が少ない

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③古典ワカプレ=ラウンド中のアクション価値は不変

ワーカープレイスメント
アグリコラでもナショナルエコノミーでも、ロチェスタードラフト(アクションスペースの早取り)でさえあればなんでもいいのだが
アクションスペースの価値はラウンド中不変であることが多い
アグリコラは古いだけあって分かりやすい
リソースが降ってきてアクションスペースの価値が変わるのは必ずラウンドの切れ目
ラウンドの最中に木や飯は降ってこない
ナショエコでも、共用のアクションスペースが増えるのはラウンドまたぎに設定されている

ラウンド中の価値の更新はノイズになり、ダウンタイムを延ばすことにもつながるからだ


本作では、ラウンド中に差し挟まれる印刷アクションによって、上記と顔つきが大きく異なっている

④印刷によって変わるアクション価値

1ワーカーを個人ボードのアクションスペースに置くことで、自大学の本を刷れる
バラージの建設アクションと同じ実装で、各人の印刷アクションは守られている
他人に奪われることがなく、好きなタイミングで打てる

本は一度に6冊まで印刷でき、刷った本は自分のストックにするか売り場に並べるか選べる
たとえば「6冊印刷、2冊は個人ストックに加え、4冊は売り場に並べる」みたいな感じ
個人ストックの本は自分の資源になる
売り場に並んだ本は他プレイヤーが買える

本以外にはお金と辞書しかリソースがなく、この印刷と売買のウエイトがとても大きい

他人の本を得るには、原則他プレイヤーから買うしかない
他プレイヤーが印刷した直後に購入が打てると、安くたくさん仕入れられる
直前に他プレイヤーが印刷してくれるかで購入アクションの価値が変動する

反対に、自分が刷った本はいつか他プレイヤーが買ってくれるが、それがいつか明白でない
買われると相手の手番中に急にキャッシュが降ってくるため、より動きやすくなる
直前に他プレイヤーが購入してくれるかで、取れる選択肢が増減する

このように、印刷と売買によってアクションの価値が毎手番大きく変わるので、その都度戦略を組みなおす必要がある
基本的にはプラス方向のプランチェンジであり、不快感につながりにくい

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⑤相利的なインタラクション

本を刷りまくってお互いに買いまくると点数がインフレするようにできている

少しだけ細かい数字の話をする、適宜読み飛ばしを推奨する
印刷アクションは1ワーカーと1金/冊かかる
たとえば6冊印刷して、自分用に2冊得、売り場に4冊置いたときは1ワーカー+6金がコスト
その直後に4冊売れたら相手から10金がもらえる
4金(相手から得た10金-印刷代6金)+2冊(自分用)が1ワーカーで得られる
自分の本1冊の価値=1.5-2金
なので、
印刷アクション1手の価値=7-8金
1手あたり2-3金が相場なので、雑に記すとうまくやれば平時の2-3倍くらいの打点になる
これは相手にとってもだいたい同じで、安く多く購入できるほど1ワーカーあたりの効率が良い

自分の利益を優先して動いた結果、商売相手の役にも立ち、共同体全体の公益にもつながる
経済ゲームのエッセンスが自然と感じられるようシステムが組まれている



⑥イージーな経済ゲーム

経済ゲーム、特にプレイヤー間での直接売買は設計もプレイも難しい
・値付けや生産個数の自由度が高すぎる
自社製品を自身で使えない
・ヘタなプレイヤーがゲームを壊す

このあたりに難しさがある

・コンテナ(2007)

・国富論(2008)
・キャプテンズ・オブ・インダストリー(2015)

このあたりと本作を比べ、見ていく


【値付けと生産の自由度】

どれだけ生産して、それをいくらで売るのかをプレイヤーが決められる作品が多い
相手はどれだけ欲しがってくれるかを正確に見積もり、
・相手にトクさせすぎない程度に高値で
・かつ競合他社に負けない程度に安く

そういったラインを探っていくことになる

【自社製品を自身で使えない】

生産した商品を自分自身で使えなかったり、なんらかのデメリットや縛りを設ける作品が多い
理由は単純で、経済ゲームを作る全てのデザイナーは適度に活発な売買をやってほしいと願っているからだ
自社で生産してそのまま自社で使うことについてなんらかの対策を講じないと、売買が起こらず場が冷え込んでしまう、経済ゲームとしては致命的

【ゲームが壊れる】

壊れるは言い過ぎだが、不当に安い値付けや過剰な生産をやってしまったプレイヤーが早期脱落したり、それによって不当に利益を得たプレイヤーがそのまま走って買ってしまう場合がある

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Captains of industry(2015)


これらと比べて本作はかなりイージーに遊べる

・本棚収入
・自社本も使える

この2点がイージーさを生んでいる

【本棚収入】

本棚とは個人ボード上部の売り場

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写真上部に6個の空きスロットがある
本棚の本が相手に買われず売れ残っている場合、ラウンドまたぎの収入フェイズで
1金/冊得られる
6冊フルに在庫を持っているなら6金
これが大きい
律儀に再販、重版をかけ、在庫を切らさずまめまめしく供給する
転売を許さない善良なショップのごとくふるまったプレイヤーが本作では得をする

「刷るのに1金/冊かかるが売れ残っても1金返ってくる」=刷るのは実質タダと言って良い
上記より、本は基本的に刷ったもん勝ちで、迷ったら限界まで増刷するプレイヤーが多い

経済ゲーム特有の生産数と売価決定の難しさがなく、ストレスフリー


【自社製品も使える】

本作で本は、
・学生タイル
・教授カード
を取るときにコストとして使える
それらの両方で自社の本が全然使える
2-4種の本が必要で、全プレイヤーの本は基本的に等価
「1種は自社の使ってOK、でも残りは他プレイヤーのを頑張って買って揃えてね」

と、そういう実装になっている


⑦研究トラック=学生の人気競争

本ならなんでもいいわけでなく、プレイヤーごとに微妙に序列がある
研究トラックを進めたプレイヤーの本は学生人気が高い
学生人気が高いと、学生タイルを買うときに支払いとして使いやすい
研究トラックは学生を買うときにだけ参照し、教授カードについては見ない

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これもとても良い実装だ
研究トラック、めちゃめちゃコスパが悪い
上げるのが手間なわりに得点能力が低く、エンジンにもつながってくれない
できるなら序盤は研究をサボりたい
「研究サボってエンジンフル強化→
最後の1,2ラウンドの余った手数でちょっと触って得点底上げ」
がおそらく最も効率が良い


が、学生をめぐる人気競争がそれを許してくれない
学生タイルはローコストでミニ収入や永続能力が得られる
また5人揃えれば増員ボーナスももらえる
序盤に絶対欲しい

自分の本を学生購入コストとして支払いたいなら、1位にならずとも、せめて2-3位をキープする必要がある
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4位は本当に人権がない、そもそも15世紀は基本的人権の発明以前だが
学生をタッチできないのもしんどいが、自社本の売れ行きが落ちるのが相当キツい
最安値でバーゲンセールし、盤外の会話で「本当に困ってるから買ってくれ」と泣きついているのに1ラウンド丸々買われない、みたいなことがけっこう生じる

この研究トラック、何がいいかと感じると、ペナルティが明確でないのが良い

・ロレンツォの破門トラック
・グランドオーストリアの皇帝ボーナス

のヴァリエーションなのだが、それらとは異なり、最下位になったときの罰則があいまいだ
学生を捨てて教授ルートで行けば最下位でもデメリットをある程度無視できる
また、本の印刷を絞ったり値上げするプレイヤーがいるなら、安さで勝負すれば全然買ってもらえる

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Lorenzo il Magnifico(2016)の破門トラック


⑧学生人気は捨てて教授へゴマすり

教授の設計もめちゃくちゃ良い
教授カードは12種のうち毎回8種使う
買うには6-10冊の本+5-10金の頭金が必要
これは意味不明なくらい重い
最速で用意しても、手をつけられるのは2,3ラウンド目になる

教授の買い方は「本Aを3冊、Bを2冊、Cを1冊」みたいに緩やかに指定されている
一度誰かに買われると、以降その支払い方しかできなくなる

トリテのマストフォローにちょっと似ている
自社の本を最も多く使わせるように指定できると、他プレイヤーにもその払い方を強要できる

「8種もあるんだから別な教授が買われるだけでは?」とも思えるが、
・すでに買われた教授には頭金が要らない(5-10金浮く)

・明白なパワー差があり、人気の教授は被る

などから、先に指定できるとけっこうな大きなアドがある
ゲームに慣れてくると、
「今回は学生レースたぶん勝てなさそう
それだったら全オリして足を貯めて
余ったリソースで相手より先に教授を買おう」

みたいな住み分けが生じる

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⑨タップワーカーとしての教授

学生はミニ収入や永続能力だったので、教授はゲーム終了時の得点なのかと思いきや
思いっきりエンジン的な能力がついている
教授は毎ラウンド使える疑似ワーカーであり、本1冊を支払うとタップできる
だいたい1.5~2ワーカー分くらいの働きをする

テラフォのドローや動物が湧くアクションカードや、筆者のアマルフィのアクション系人物カードに近い

タップするにはもっとも多く払った本を必要とする
もし他プレイヤーに先に買われていた場合は、買うときに他プレイヤーの本が必要なだけでなく、起動するにもその都度相手プレイヤーの本を用意する必要がある
このじわじわ首を絞めるような、上納金を払わせるようなインタラクションもとても楽しい


タップではお金や本といったリソースだけなく、VPが得られる教授もいる
2-6VPを毎ラウンド生産してくれる
本作の相場観は4人戦だと90点、3人戦だと150点くらい
もし最序盤に得点系教授が擁立できるとなかなか夢がある
バラージで、早めに建物を建て切って毎ラウンド10VPもらうときの快楽に似ている

ただ教授の実装は一長一短で、起動に1手番を使うので、終盤の
間延びの原因にもなっている
が、単なる無駄な実装でなく、起動アクションは相手が印刷してくれるのを待つ際に、いわばソフトパスとして利用できる
ベテランプレイヤーはこのソフトパスをうまく使いこなそうと試み、よりやりごたえが感じられるようになっている

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⑩今風のセミオート増員

4ワーカーのワカプレで、2体増員でき、最大6ワーカーでプレイする
維持コストはないので増員はし得
増員条件は、
・学生タイル5枚
・15勝利点
・増員マイルストーンを達成(毎ゲームランダム)

の3つ

・ガンジスの藩王(2017)
・シティ・オブ・ザ・ビッグショルダーズ(2019)
・クーパーアイランド(2019)

あたりが類似
このタイプの、条件達成式増員を筆者はセミオート増員と勝手に呼んでいる
それぞれのルートを一定まで進めるとボーナスとしてタダで増員がつく
アグリコラやカヴェルナのように、プレイヤーがコストを払って行うマニュアル(手動)増員でなく
オーディンの祝祭のように、毎ラウンド固定でワーカーが増えるフルオート増員でもない

初級者にとっては中盤には半自動で増員できるため易しくストレスがない
上級者にとっては、相手より1-2ラウンド早く増員するための工夫と技術が要求される

誰も不幸にしない安全で優れた実装だ
また、プレイヤーが望んで増員したわけではないので、本作含め、たいてい維持コストなどはかからないようになっている


本作に話を戻すが、3つの増員条件のうち、15勝利点の設計が特に良い
本作、ゲーム中にほぼ勝利点が入らない
・相手の本を買う(1冊あたり1-3点)
教授タップ(2-6VP)
10金捨てて7勝利点の特殊アクション

の3つしかない
上記のうち、本購入のVPは自然と入ってくる

そのため、何も工夫せずとも2-3ラウンド目には6-7VPは稼げる
こうなると15VPも視野に入ってくるわけで、欲が出てくる
この欲望の持たせ方、動機付けのさせ方がとても良い
さりげなく自然に盛り上げてくれる

「君7点も取ったの!?
ってことは10金→7VPのアクションをやると…14点
もうちょっとなんかやれば15VPだよ!whoa!!」

と、拳を握りしめ励ますデザイナーの幻影がボード上に浮かぶ
15VPは本当に絶妙な遠さだ
最速増員を狙いたいなら何かしら手を歪める必要がある


本記事、一生褒めていてバカみたいだが、まだ良いと感じる部分がある
15点まで貯めた勝利点は、研究トラックを進める際に切り崩して使えるのだ
研究トラックは、要求資源を持っていればタダで上げられる
いわゆる「見せ金」で、支払う必要がない
ハラータウ(2020)のカードメカニズムと同じだ

が、ない場合はVPやお金を支払っても進められる
15VPに一度到達しさえすれば、下回っても特に罰則はないので、今度は研究トラックのためにVPを切り崩すことになる

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(4)その他
4人≧3人>2人&1人

本作は1-4人用で、1,2人戦は特殊ルールがある
1-2人でも遊べはするが、売買のインタラクションを楽しむには3人以上は必要

3人戦は研究トラックで最下位になってもほぼノーダメージで、とてもイージー
そのため、
・みんな研究は最低限だけ
・リソースを効率よく使って拡大/成長
インフレ場に

って感じになりやすい

4人戦は研究トラックにおいて不毛な意地の張り合いが頻発し、ややデフレ場となる

どっちが好きかは完全に好み
筆者はインフレ場の方が勝ちやすいため3人戦の方が好きだが、4人戦こそ本作の魅力を最大限引き出せると感じる
また、デフレ気味の4人戦とインフレした3人戦はプレイ時間がほぼ同じで、そこにも美しさを感じる
多人数の方がかえってゲームが早く収束するテラフォにちょっと似ているかもしれない



ワカプレの部分は△
・印刷(本の生産)
・購入
・日雇い労働(外部からお金を得る)

上記の重要なアクションは全て守られていて、例外処理がある

ワカプレはゲーマーが理解しやすい枠組み、共通言語なので、雑に採用しちゃうのは全然アリだと思うが
本作は例外処理が多い
なんというか、ワカプレを選ぶ必然性がやや低く、あまり美しくない
筆者の体力の問題でもう細かく言語化しないが、バラージにも同じような雑味を感じる


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(5)総評
まとめていて強く実感したが、長短所はバラージにとても良く似ている

両作とも、
・長いダウンタイム
・2,3R目でしくじったときの絶望感
・2人戦の味気なさ

と短所も目立つが、

3-4人戦で真価を発揮し

・ブン回ったときの尋常でない快感
・5回以上のリプレイにも堪える堅牢性

と、欠点を補って余りある長所を持つ

遊ぶ価値のある良作だと評価する


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