ニダヴェリアは遊びやすい45分級の佳作
変則オークション、カードドラフト、ユニークカード、エンジン強化といったゲーマー好みの実装
それでいてカタンクラスの軽さで、ゲームに不慣れな方とでも遊べる
プレイし、魅力を感じたので記事化する


なお、本記事はニュースサイトGigazine(ギガジン)の2020年の年末年始プレゼント企画で抽選でいただいたものをプレイし、作成しています
この場を借りて感謝申し上げます

参考:邪竜討伐のための最強師団編成を目指してドワーフ戦士を集めるボードゲーム「ニダヴェリア」プレイレポート


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(1)基本情報
(2)テーマ
(3)メカニクス
 ①テンポの良さ
 ②タテに伸ばす/ヨコに広げる
 ③コインの強化
 ④人数によって変わる相場観

 ⑤リプレイ性はそこそこ
 ⑥カラーごとの差が少し弱い

(4)考察:バッティング抜きヴァリアント


Nidavellir (2020)

Designer Serge Laget
Artist Jean-Marie Minguez
Publisher GRRRE Games


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(1)基本情報
人数:2ー5人、ベスト3,4人
時間:45分
複雑性:2.20 (参考値:PARKS=2.18 セブンワンダーズ=2.33)
ランク:900位(2021/2時点)

要素:オークション、カードドラフト、同時プロット(バッティング)、セットコレクション、北欧神話、ドワーフ
言語依存:なし

流通:日本語版がすごろくやから出ており、定価で入手可能


デザイナー素描:

セルジェ・ラジェ/Serge Laget
フランス語圏の兼業デザイナーで、年齢は50代前後
若い教員を指導する学校の先生とのこと

本作以外の代表作は以下

1995年:修道院の謎/Mystery of the Abbey(1300位)
2003年:我らが海/Mare Nostrum(1500位)
2005年:キャメロットを覆う影/Shadows over Camelot(400位)
2009年:アド・アストラ/Ad Astra(1200位)


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Mare Nostrum(2003)


(2)テーマ
ニダヴェリアは北欧神話の言葉でドワーフの住みかを指す
直訳すると新月の大地、暗い土地、くらいの意


ドラゴンクエストロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)を足した感じのファンタジーRPGだ

舞台はドワーフの王国、魔王的な邪竜が来てしまった
国王はプレイヤー(勇者ドワーフ)に、
「カネは出すから、仲間ドワーフを集めて征伐に出てくれ」
と依頼

ドラクエでいうルイーダの酒場、指輪の踊る仔馬亭みたいな、冒険者がたむろしている空間がゲームの舞台

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酒場の看板のもとに冒険者が集う

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ロード・オブ・ザ・リングの踊る仔馬亭(Prancing Pony Brewery)を模した木製マグ


アートワークのそこかしこでトールキン世界や北欧神話のモチーフが用いられている
筆者も指輪ファンだが、この手のテーマが好きな人間にはしっかり刺さると思われる



プレイヤーは有望な戦士となり、酒場をはしごして冒険者を勧誘する

最も戦力(合計勝利点)の高いチームを作ったプレイヤーはゲームに勝利し、晴れて邪竜討伐の旅に出ることができる

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(3)メカニクス

①テンポの良さ

3人戦でインストなし30分くらいで終わる
同時プロットがテンポ感を生んでいる
3人戦だと場には3列3枚の9枚が並び、各列について、全プレイヤー同時にコインを裏向きにプロットする
簡略化したニギり競り的な
セットしたコインの数字が高いプレイヤーから順にその列のカードを取っていく
この解決はとにかく早い
各カードの情報量が少なく、枚数が多いわけでもないので、
「もし1位が取れたらこのカードが欲しい、それがムリならあれかな」

くらいに、あらかじめ目星をつけることができ、それが解決の早さを生んでいる

手番中にボーナスカードの獲得や、コイン強化も行われるため、多少はもたつくが、テンポの良さはかなり重視して作られている印象を持つ



②タテに伸ばす/ヨコに広げる
ニダヴェリアは5色のカードを集めるゲームだ
各色で性格差があるが、どれも特化させて枚数を重ねると点が伸びる
ざっくり5色中1-2色を厚く伸ばせると最も効率が良い

各カードがテキストや固有能力を持つなら、「特化したら強い」だけでもドラフトはちゃんと盛り上がる
MtGやテラフォなんかはまさにそうだ


しかし、ニダヴェリアのカードはとてもシンプルだ
タグと勝利点しか情報がない
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シンプルなカードを使って楽しませるために、ニダヴェリアでは特化以外のルートを用意している

それが「ヨコに広げる」

5色のタグが1セット揃うたびに、英雄カードをタダで1枚がもらえる
英雄カードは、コモン1.5-2枚程度のパワーがある
英雄カードは有限で、しかも強弱差がハッキリしているので、欲しいものをめぐっての早取りがなかなか激しい
「互いが違うカラーで染めているなら、英雄カードも住み分けができるのでは?」
とも思えるのだが

実際プレイすると、
「2セット目を1ターンでも早く作りたい
だから、特化しているわけではないカラーの英雄を取る」

的な奪い合いがそれなりに発生する

このタテ/ヨコのジレンマの面白さは、宝石の煌き(2014)に少し似ている
スプレンダーのカードも、本作同様カラーと勝利点しか要素がない
カードの集め方として、タテに伸ばす特化戦術ヨコに広げる水平戦術がある

タテルートは理想的に動ければ得点効率が最も高い
しかし、カードのめくれ運や他プレイヤーの妨害に影響されやすく、安定性をやや欠く

ヨコに伸ばすルートは勝利点効率はイマイチ
しかしニダヴェリアの英雄カードのように、貴族タイルがタダで取れる利点がある
貴族タイルの噛み合い次第で、タテルートをしのぐ速度が出ることがある

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Splendor(2014)


③コインの強化
ニダヴェリアはあまり拡大再生産要素のないゲームだが、コイン周りのみ明白な成長要素がある
各人は5枚のコインを持っており、3列のカードに対してベットする
0のコインでベットすると、残った2枚のコインを足し算して強化できる
たとえば4と2のコインを使わずに残していると、4のコインを破棄して4+2=6のコインを新しくゲットできる
たとえが古いが、ドラクエモンスターズの配合によく似ている
親モンスター同士をミックスさせてタマゴの+値を高める的な

育ったコインは次ラウンドからほしいカードを取るために使える
もしめぼしいカードがないなら、もっと倉庫で寝かせて強化してもいい

コインとオークション周りのプレイ感はクニツィアのラー(1999)にも少し似ている
ラーは3-5枚のコインで行う変則オークション
競りに勝つと場のタイルがもらえる
さらに共通の場のコイントークンと使ったコインとを交換し、裏返して使用不能にする
交換して得たコインは次ラウンドに使うことになる

ラーのオークションでは、
「今出てるタイルが欲しい
10の強コインをここで切ろうかな
でも今場にあるのは2の弱いコイン、取りたくない
次ラウンドかなり動きづらくなる」

「今出ているタイルは大してほしくないけど
13のコイン、ゲーム中最強のコインが今場に落ちている
弱いコインを捨てて取るのはアリかも、次ラウンドかなり動きやすくなる」

こういう思惑が交差する

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Ra(1999)

ニダヴェリアでも、
「欲しいカードを取りに急ぐと、コインの成長が遅れる
かと言ってコインの成長にかまけていると残りモノのカードしか回ってこない
得点レースに出遅れてしまう」

このあたりの感覚は少し似ている


少し長くなるが、コイン周りはニダヴェリアのいちばんの魅力なので、もう少しだけ掘り下げる
中量級以上のゲームを組む場合、拡大再生産要素をどこで実装するかやや難しい
成長はほぼ万人に好かれるので、拡大要素は入れ得なのだが、入れる場所を間違えたり、入れすぎると弊害が生じる
ゲームがダラダラ続いたり、先に走った人、上手くやった人がそのまま勝つだけのクソゲーになってしまったりしかねない
ニダヴェリアのコインの成長は、競りで少し有利になるだけだ
取れるカード枚数が増えたり、アクションが強化されたり、収入が得られるわけではない
しかも他プレイヤーもだいたい同じ速度でコインを強化するので、システム面だけ抜き出すと、ほぼプレイヤーは強化されていないに等しい
強化が穏当なおかげで、ゲーム終盤もタイトなプレイ感が維持されている

とても主語が大きく、根拠を欠く比喩的な表現になるが
人体は種々の刺激に原始的な快感を見出す
ボードゲームは、
・見た目による視覚的刺激
・ゲーム中のスピード変化による加速度的な刺激

五感+平衡覚のなかでもこれら2つの感覚に訴えかけるのが得意だ

大きくて分厚いコイントークン、リッチなコイン立てで
視覚的に強く刺激して、自コイン成長の快感を演出する
その分、正味の拡大再生産要素は抑えて、加速度的な刺激はあえて与えないゲームのテンポをタイトに維持するために

巧妙で美しい実装だと評価する


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④人数によって変わる相場観
5人戦以外では総カード数固定
人数が少ないほどカードがたくさん取れて自由度が高い

狩人なんかは枚数を取ると伸びるカラーなので、3人戦の方が4人戦より打点が高い
反対に剣士探検家は固定点なので、多人数戦でも安定して価値がある

プレイ人数によってカードの価値基準や戦術の有利不利が変わるのはとても楽しい


⑤リプレイ性はそこそこ
人数によるプレイ感の違いも相まって、3,4回は楽しく遊べる
10回遊ぶとちょっと底が見えるかもしれない
取れたボーナスの英雄カードで戦略を変えていくのだが、拡張を入れないかぎり毎ゲーム固定なので、そのあたりが弱い

拡張やプロモカードが原語版では制作/販売されており、BGGでの評価も高いので、混ぜるとより長く楽しめると思われる

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Thingvellir(2020)



⑥カラーごとの差が希薄
5色あり、
・多人数戦でも価値が下がらない=レッドブルー
・1色で特化したい=オレンジ
グリーンパープル
に大別される

後者のカラーがあまり個性的でない
複雑さの匙加減は難しいが、もう少しカラー間の差を持たせたつくりだと、より筆者の好みに近づく

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個人ボードの得点早見表
グリーンは、パープルはΣ(N+2)で、5枚目から得点が逆転する
数学的な難しさのわりに、面白さにあまり寄与していない印象がある




(3)考察:ヴァリアントルール

ニダヴェリア、面白いゲームだが
前項でも少し触れたが、カードがやはりシンプルすぎて、ゲーム終盤の競りがちょっとマンネリ化、流れ作業化してしまう

また、ただの筆者のわがままだが、同時にカードを伏せて解決する、バッティング、同時プロット要素がかなり好きではない

「できるだけシンプルさを保ったままこのあたりを改善できないか」と何回かハウスルールを試して、ある程度まともなヴァリアントが定まったので、最後に共有し、考察に代える



同時プロットなしヴァリアント、3人戦用


【方法】
(変更点青字で記載)
スタートプレイヤーマーカーを用意し、適当に決定

スタプレから順に、3,2,1の宝石トークンを取る(先手不利なため)
オリジナルルールだと手持ちのコインは秘匿情報だったが、完全公開情報に変える
オリジナルルールだと場に3列×3枚並べていたのを、3列×4枚並べる(4人戦のセットアップと同じ)
いちばん上の列について、スタートプレイヤーから順にコイン1枚をオモテ向きで配置する
オリジナルルールと同じく1位、2位、3位の順でカード1枚を獲得
最後に残った1枚を1位が獲得
1位が次のスタプレマーカーを獲得(1位は不利な先手番に)


【プレイ感】

場の情報量が増え、ダウンタイムが少し延びてしまうのが唯一の欠点
1ゲーム30分だったのが45-60分くらいにまで延びる

トップを取ればカード2枚取れることから、競りが白熱するのが最大の利点
相手プレイヤーとの駆け引き感がきちんと生じる
基本ゲームだとオマケ感が強かった同値処理用の宝石トークンもかなり重要度が増す
また、1ラウンドに使うカード枚数を少し増やした兼ね合いで2ラウンドほど短縮され、若干のテンポの改善に寄与している


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パンナムは実際の航空会社の発展と衰退の歴史をもとにした2020年作の新作ボードゲーム
シンプルでテーマの再現性が高い60分級の佳作
プレイし、魅力を感じたので記事化する


PanAm-Routes




(1)基本情報
(2)テーマ
 ①黄金時代 1928-1968
 ②衰退~経営破綻  1969-1991
(3)メカニクス

 ①4ワーカー固定のワカプレ
 ②ところてん式の競り
 ③線路開拓
 ④飛行機コマの視認性
 ⑤ダイスと買収
 ⑥対外投資
 ⑦イベントカード
 ⑧発展カード
(4)総評




Pan Am (2020)

Designer Prospero Hall
Artist Prospero Hall
Publisher Funko Games


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(1)基本情報

人数:2ー4人、ベスト3,4人
時間:60分
複雑性:2.65(参考値:ティーフェンタールの酒場=2.64,ウイングスパン=2.42)
ランク:1200位(2021/2/10)

要素:ワーカープレイスメント、押し出し競り、ネットワーク構築、収入拡大、20世紀史、プロペラ機、ジェット機
言語依存:手札とイベントカードにテキストあり、対訳表1枚で対応できる分量

流通:和訳/日本語版の予定は現状発表されておらず


デザイナー/パブリッシャー:

デザイナーはプロスペロ・ホール

HPの紹介文は以下

’’プロスペロ・ホールはワシントン州シアトルにある共同ゲームデザインスタジオです。
我々のプロジェクトは、
・どのようなゲームを作りたいのか
・どんな雰囲気/見た目にしたいのか
・何のために生み出すのか
といったヴィジョンから始まります。そして、ゲームデザインからグラフィックデザイン、ルールライティング、アートワーク、3Dデザインその他に至るまで、私たちはあらゆることに全力で取り組み、細部に至るまで汗を流しながら、最高のゲームを作り上げていきます。私たちのゲームをお楽しみください。’’

30人程度のメンバーが在籍している

他の代表作は、
2018:Disney Villainous(600位)
2019:Jaws(800位)


パンナムも実在企業テーマだが、映画原作などの版権モノが得意な印象

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Disney Villainous(2018)


また、同スタジオ最大のヒットは2019:Horrified(184位)
街を荒らすフランケンシュタインやドラキュラを追い出す協力ゲーム
一度プレイしたが、シンプルでありながらゲーマーも楽しめる工夫が見られ、好感を持った


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Horrified(2019)

パンナムから大きくそれるが、Horrifiedの単評を今後書く予定がないので、ここで少しだけ触れておく


1-5人用の協力ゲーム
おおざっぱな作り、サイズ感、ターゲット層、プロフィールはパンデミックとだいたい同じ

アクションポイント制、完全公開情報
よく言えばシンプル
欲を言えば奉行問題への配慮が欲しかったかもしれない

他プレイヤーと協力して3体のクリーチャーをやっつけるのだが
本作の最大の魅力は3体の敵キャラをカスタマイズできる点にある

パンデミックの病原菌、イーオンズエンドのネメシスがHorrifiedではクリーチャーなのだが、それが人狼、透明人間など7体用意されている

この敵クリーチャーはイーオンズエンドと同じで、1枚のボスシートで管理されている

敵によって体力や挙動がユニークなので、
「今回は初心者も入るから、ボスは弱いやつ2人+中くらいの1人にしよう」

みたいな微調整ができる


敵パーティを編成するだけでもけっこう楽しいごっこ遊びができるが、HorrifiedはBGG
Gコミュニティで有志がオリジナルの敵キャラを多数作っており、そこにも魅力がある

ファン拡張の作られやすくする因子としては以下が挙げられる

①実装量の少なさ

Horrified以外だと、イーオンズエンド、テラフォの企業カードなんかはカード1枚なので比較的手軽
Rootの氏族なんかもファン拡張が作られ得るが、ボード以外にコマも要るため敷居が高い

②協力ゲームであること

多少バランスが狂っていても問題が生じにくい
対戦ゲームであるガイアの氏族、Scytheの陣営のファン拡張なんかは、より入念な調整が要求され、ちょっとハードルが高い

③敵パーティのカスタマイズ性

Horrifiedでは敵3体で編成するので、もしオリキャラが強すぎる/弱すぎる場合でも、遊び手のさじ加減でカバーが利く




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(2)テーマ
パンナムはパンアメリカン航空の略
同社はカリスマ経営者、ファン・テリー・トリップが1927年に創業した

ちなみにパンナム(ガングロのアクセント)よりは、パナム(キャノンのアクセント)の方が原語に忠実

①黄金時代 1928-1968

パンナムは最初はカリブ海の弱小航路しか持たない零細企業だった
トリップの読み、勘、人脈、カネを引っ張ってくるパワーによって躍進
買収攻勢を繰り返し、30年代に太平洋/大西洋横断路線をそれぞれ確立
1939-1945の第二次大戦期間はいったん成長停止
米空軍の徴用に従い航空機とパイロット、乗組員を提供

パンナム/トリップにとってもメリットもあり、米軍部/政府との関係性を強めた
戦後も米政府の後押しを受けながら順調に拡大、60年代には黄金期を迎える



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NYのパンナムビル
繁栄の象徴、1963年設立当時は商業ビルでは世界一の高さだった
パンナム倒産に伴いメットライフビルに名称変更された


1968年にはトリップが円満に引退
ワンマン経営者のしくじり企業史あるあるだが、トリップの引退後に急激に衰退


②衰退~経営破綻 1969-1991

以下の6要因が連鎖し、パンナムは衰退していった

①ジャンボジェット(ボーイング747-SP)の大量生産

ジャンボジェットはパンナムの特注でボーイング社がデザインした機体
ニューヨーク―東京間をつなぐ驚異的な航続距離
そして300人の旅客数

当時はとにかく革新的で、ジャンボジェットは世界の空を狭くした
パンナムの稼ぎ頭だったのだが
ボーイング社が大量に作って他社にも売りまくったため、相対的な価値が目減り
1機300人も運べてしまうキャパも相まって供給過多となり、高嶺の花だったフライトが大衆にとってややありふれたものとなってしまった

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②オイルショック

1973/79年
燃料高騰が航空業界全体の逆風に

③組合の強さ

パンナムは伝統的に組合が強く、従業員の賃金が高すぎることで有名だった
オイルショックを受けても給料カットは断固拒否された

④規制緩和(ディレギュレーション)

オイルショックを受けて航空チケットが高騰
カーター大統領は、
「航空業界は社会インフラだから、新規参入を規制してきたけど
あまりに国民の声が大きいし、かつ業界も健全化するべきだと思うから、自由化します」


カーターのもと航空規制緩和法(ディレギュレーション)が施行
パンナムは激しい価格競争/サービス競争の波にさらされることに

⑤ハイジャック/テロ

パンアメリカン航空の企業名から「汎アメリカン主義」を連想
米政府や軍部とのつながりも相まって帝国の象徴とみなされ、ハイジャックやテロの標的に

⑥買収の失敗

逆風続きのパンナムにとどめを刺したのは自分の悪手だった
国内線の強化のためにナショナル航空を買収したが、既存の国際線とのネットワーク構築をうまくできず
そのわりに、元ナショナルの社員の給与をパンナム水準に引き上げざるを得ず、高くついた
また、システム統合や制服統一などにかかる諸経費も痛かった

この買収失敗が決定打となり、パンナムは1991年に米連邦破産法第11章(チャプター・イレブン)を申請
経営破綻した


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本作はトリップ就任→退任までの40年、黄金期の1928-68年だけを切り取っている
プレイヤーたちはパンナムの周りで商いを営む航空会社だ
空港を誘致し、少ない資本金をはたいて航空機を買いそろえ、世界各地に航空路線を確立する

パンナムはいわば超強力なNPC
アメリカを起点にそこら中の路線を手当たり次第に買収していく

本作ではパンナム様に路線を買収してもらって利鞘を稼ぎながら、逆にパンナム株を買い集め、業界内の最有力プレイヤーを目指していく


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(3)メカニクス


①4ワーカー固定のワカプレ

基本構造はワーカープレイスメントだ
4ワーカー固定で増員はなし
5種20スペースほどで、途中で少しだけ新スペースが増える

②ところてん式の競り

アメン・ラー(2003)ホームステッダーズ(2009)のようなところてん式の押し出し競りを採用している

より高い額を出せるなら、元々いたワーカーを追い出せる
追い出し合いを終えると解決フェイズに移り、各ワーカーの効果を解決していく

ところてん式の競りは、味付けによって鬼のようにインタラクティブにも締められるし、ゆるく仕上げることもできる

たとえばホームステッダーズはギチギチに締め上げたところてん競りだ
天井ナシの1ワーカーのワカプレなので、どんな温厚なプレイヤーが打っても激しい追い出し合いが生じる
パンナムは無料のアクションスペースも多く用意されており、かなり緩く作られている
他者と蹴り出し合いをして値を吊り上げてもいい
反面、うまく他者とのバッティングを避けられると、利の良いアクションがノーコストで打てたりする

③路線開拓

ワカプレで、
空港コマをボード上に配置
飛行機コマを個人ボードに買ってくる
航空券カードのゲット

といった感じでリソースを準備して、そのリソースを消費して路線を開拓する
路線開拓は率直に言って楽しい
けっこうな下準備や工夫が要るのだが、路線開拓によって定期収入が得られる
また、自分のカラーのデカい飛行機コマを盤面に出せる
「自分が苦労して場に出した飛行機が、この航路をせっせと往復してわが社に利益をもたらしてくれている」
という
そういう喜びがある

少しだけ難点を挙げるなら、3人戦だとマップがちょっと広すぎるかもしれない
路線開拓はネットワーク構築のような面がある
相手の建てた空港や、持っている航空券を見て、
「あ~、あの人は南米航路に本気だな
自分はちょっと外してアジア航路あたりに地盤を作るか」

みたいな読解をする
これがけっこう自由にやれてしまう
早取りや陣取りもあるにはあるのだが、もうちょっとマップを絞って、絡みを持たせた作りの方が好みかもしれない


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④飛行機コマが若干見分けづらい

パワーの違いによって4種あり、造形がとても凝っている
ただ、大きさ、かたちがけっこう似ていて見間違うことがある
マップに出してしまえば見分ける必要はなくなるのだが、個人ボード上で機体間がもう少し判別しやすいと良い
「個人ボードをスペーシングして、各パワーの飛行機を整列させる」などで解決できると思われる

⑤ダイスと買収

路線開拓は定期収入がわいて美味しいのだが、買収にはそれ以上のうまみがある
パンナムに買収してもらえると、
・5-14ドルの臨時ボーナス
・飛行機コマの回収


2点メリットがある
「アクワイア」の合併ボーナスに若干似ている
現金のボーナスは言うまでもなくデカい
飛行機コマは疑似的なワーカーみたいなものなので、これを回収して再利用可能にできるのもありがたい

買収路線はダイスによって決まる
このゲーム、遊ぶとそこはかとなく90年代っぽさを感じるのだが、ダイスがその最大の要因だと捉えている
中量級以上のゲームでダイスを用いるとだいたい悪さをするので、筆者はあまり好まないが、パンナムの実装は的確だと評価する
プレイヤーたちは弱小航空会社の社長で、業界最大手のCEO、ファン・トリップの気まぐれで買収先が決まる
このフレーバーを再現するにはダイスはたぶん最適な実装だ

⑥対外投資

パンナムの勝利条件はとてもシンプルだ
パンナム株をいちばん多く持つこと
毎ラウンド収入をもらったあとに、「何株買いますか」とNPCパンナムに持ちかけられる
株価は5ドルから始まって、だいたいゲーム終了時には7-11ドルくらいになる
基本的には下がらないので、早いうちに買っていった方が良い
ただ、ゲーム中の競りでけっこうなお金が必要なので、どれだけ投資に回すかが悩ましい

この勝利点周りの作りは、ワレスのティナーズトレイル(2008)の対外投資にかなり近い
洛陽の門(2009)レイクホルト(2018)の実装にも近いものがある
カネを手元にジャブつかせないための排水装置だ
パンナムの実装はプレイヤーにとって程よく悩ましく、かつテーマにもそこそこ沿っており、良いプレイ体験を与えてくれる

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Tinner’s Trail の対外投資トラック


⑦イベントカード

各ラウンド用に用意されたカードから、ランダムで1枚引く
イベントによってパンナムの株価(勝利点の変換レート)が決まる
株価以外でも全員がちょっとした恩恵を受けたり、次のパンナムの買収計画の一部が露見することもある
同じ株価変動ゲームのチューリップ・バブル(2017)なんかに似ている

フレーバーテキストもちゃんと用意されているので、
「この時代にはEU方面で特需があった
だからパンナムがヨーロッパ路線の買収を狙ってるのは見え見えだし、かつ株価も堅調に伸びている」
的な
そういう楽しさ、テーマを強化する作用がある

⑧発展カード

イベントとは別で、「カタン」の発展カードみたいな要素がある
パンナム、筆者にとってはおおむねOKなゲームで、ちょっと粗い部分も味だと感じるのだが、このカード部分の粗さはあまり好みでない

カードスペースにワーカーを置くと解決フェイズでドローできる
発展カードとだいたい同じ感じで、8-10種、40枚くらいのデッキからランダム引きする
カードによって強弱、使いやすさの違いがあるが、どれもだいたい6ドル程度の価値を持つ
他のどのアクションでもそうそう1ワーカー6ドルのパフォーマンスは出せない
本記事では省略するが、ドローアクションをすると次ラウンドの手番順を若干有利にしてくれることもあり、カードドローに1ワーカー置いておくのが安定択となりすぎるのだ

カードの価値を理解し始めた中盤からは、単にスタプレから順に3マスのドロースペースを埋めていくことになる
ここのプレイ感がかなり良くない
流れ作業でワーカーを置いているだけで、プレイヤーが選択していないからだ

おそらく自分だったら、1ワーカー削って3ワーカーのワカプレにして、毎ラウンド自動で1ドローさせる
構造に大きな変化はないため
少しだけ運要素を削って、「パンナム株の少ない(負けている)プレイヤーから順に1枚ずつドラフト」あたりでもいいかもしれない



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(4)総評

パンナムはオリジナルの魅力を持った、まとまりの良い佳作だと評価する
特にテーマの再現性は抜群であり、航空業界史にちょっとでも興味があるなら手放しで勧められる


PanAm-Routes


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フィル・エクルントは、

・Bios:Genesis/MegaFauna/Origins(バイオス3部作)
・High Frontier(ハイフロンティア)
・Pax Pamir/Emancipation(パックスシリーズ)


を代表作に持つスウェーデン人のゲームデザイナー

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Bios:Origins(バイオス:オリジンズ)をプレイさせてもらい、
「このデザイナーの頭の中はいったいどうなってるんだろう」
と強い興味を持ったため、記事化することとした


想定する読者は、
・Bios、シエラマドレ、ハイフロンティアってフレーズを聞いたことがある
・上記作品群がどういう意図のもと作られたどんなゲームなのか知っておきたい

くらいの方

―――

〔1〕基本情報

〔2〕インタビュー
 (1)デザイン全般

 (2)Bios:Genesis 
 (3)Bios:Megafauna 
 (4)Bios:Origins 
 (5)High Frontier
 (6)Paxシリーズ
 (7)テストプレイ、ルール観、科学主義とボードゲーム







〔1〕基本情報
エクルントはアリゾナ大学で航空宇宙工学を修了したロケット工学
現在60代程度だと思われる
スウェーデンのストックホルム在住
いわゆる兼業デザイナーで、1992年シエラマドレ・ゲームズを設立
シエラマドレは科学、歴史、先史、環境史の教育に関するファミリーゲームを作るレーベル

代表作は以下

1988年:Lords of Sierra Madre/シエラマドレの領主たち
1997年:American Megafauna/アメリカンメガファウナ
2010年:High Frontier/ハイフロンティア
2011年:Bios:Megafauna/バイオス:メガファウナ
2012年:Bios:Origins/バイオス:オリジンズ
2012年:Pax:Porfirianaパックス・ポルフィリアーナ
2014年:Greenland/グリーンランド
2015年:Pax Pamirパックス・パミール
2016年:Pax Renaissance/パックス・ルネッサンス
2016年:Bios:Genesis/バイオス:ジェネシス
2018年:Pax:Emancipation/パックス・エマンシペーション


とても長いリストだが、
Bios:Genesis/Megafauna/Originsの地球3部作
High Frontier=宇宙航行モノ
Paxシリーズ=歴史モノ

の3系統に大別される
なお、エクルント作でもっとも人気なのはPax Porfiriana(2012)で462位
デビュー作のLords of Sierra Madre(1988)をアレンジしたもので、1910年のメキシコ革命がテーマ
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Pax Porfiriana(2012)
ボックスアートは革命当時のメキシコ国旗で、現代と微妙にデザインが異なる


2020年、同じくストックホルムに拠点を持つIon Game Design(イオン・ゲームデザイン)と合併
イオンはもともとリードデザイナーのジョン・マンカーを擁する7-8人規模の会社で、エクルントは2人目のシニアデザイナーとして迎え入れられた
シエラマドレの屋号自体は、イオン:シエラマドレ(ION:SMG)の重量級レーベルとして残すとのこと

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Expedition Zetta(J.Manker,2018)


なお、息子のマット・エクルントも兼業のゲームデザイナー
昼間はアリゾナ州で検事をやっているとのこと
マットの代表作は父との合作のPax Porfiriana(2012)と、単独でのPax Transhumanity
(2019)

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Pax Transhumanity(2019)


【表記】
Eklundはスウェーデンが起源のハウスネーム

カタカナではエクルンドと表記されることが多いが、筆者が聞いた感じエクルント、ないしはエックルントに聴こえるため、本記事ではエクルントと表記する
公式表記が存在するならそちらに表記を合わせる可能性がある




―――――――――

〔2〕インタビュー

(1)デザイン全般

ボードゲームのデザインを始めたきっかけを教えていただけますか?

子どものころ、何かにハマる人は多いと思う。
特定のメディアとかアートフォームが、なぜか大好きになってしまったり、熱中してしまったりする。
私にとってはゲームデザインがそれだったんだ。
普通に近所の友だちとゲームするのも好きだったけど、思い返すと、ただプレイして楽しんでいた時期は本当に一瞬だった。
物心ついたときから、何かを組み替えたり、追加するのに熱中していた。

「シエラマドレの領主たち(1988)」が最初に出版したゲームだ。
もっと昔の未出版のものもあって、たとえば、友達と一緒に手作業で印刷した複葉機のゲームとか。スター・トレックや密輸人がテーマのゲームとかも作ったね。こういうのは中学生くらいからずっと好きで、今でもゲーム作りのテーマに選ぶことがあるよ。



ゲームプレイとデザイン、どちらが好きですか?


デザインだ。
私はゲームプレイは好きだけど、あんまり上手じゃないんだ。


ゲーム作りで何より面白いのはね、再現なんだよ。
諸要素を組み合わせて、テーマにした時代の人々の視座、意志、動機のありようを再現する。
これが何よりも魅力的なんだ。
あとは、作ったゲームを遊んでもらうのも好きだ。
多種多様な人格を持つプレイヤー、テスターはどう反応し、どうプレイするのか。
そういうのを見るのも楽しい。

あと、僕のゲームは、砂場遊び(サンドボックス)のような特徴を持つ。
砂場ではどんな遊びをしてもいい。
サンドボックスのなかで起きたことは外部環境や現実世界とは一切の関わりがない。
できるだけ自由度を高く作って、プレイヤーに自由に遊ばせるんだ。
好きな方向に好きに進んで、欲しいものを取る。
環境のなかでプレイヤーたちが何を選ぶのか。
その結果ゲーム/歴史がどのように展開するのか。
これを見るのがいちばん楽しい。
勝敗も大事といえば大事だけど、こういったプロセスに強い興味を抱いているんだ。

 

(2)Bios:Genesis

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バイオス:ジェネシスは2016年に出されました。
その翌2017年には2版をキックスターターで開始されています。
このあたりの経緯を伺えますか?
どうして1年で版を改めたか、また、キックスターターを選んだ理由は?


ちょっと長い話になる。
まずアメリカン・メガファウナ(1997)のリメイクとしてバイオス:メガファウナ(2011)を作った。
そのあとに、バイオス:メガファウナとオリジンズ:人類の起源(2007)を統合してバイオス:オリジンズ(2012)が生まれた。

そのあとジェネシスに至るんだけど、
「バイオス:ジェネシスを第1作とし、改めて3部作シリーズとしてBiosを位置づける。
ジェネシスを出したあとはメガファウナとオリジンズの2版を出して、各ゲームをコンティニューしてプレイできるようにする」

上記がキーコンセプトだった。
自分のなかではこれまでにない実験作だった。
かなりハードルを上げて、納得がいくまで作り込んだ。
実際2016年に完成したわけだけど、オリジンズ初版から4年もかかっている。
テストはだいたい1000-2000戦はやったね。
楽しかったけど、とても苦労したし、ハードだった。

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で、何個生産するかを決める段になって、
「ゲームとしては間違いなく面白い。
でも、どれくらいの人に刺さるだろう?
これはちょっとまともな個数は売れないんじゃないか」

と見積もったんだ。
テーマの難しさ、とっつきづらさだがその理由だった。

ジェネシスは、生命の起源を基にしたゲームなんだけど、テーマが生化学なんだ。
バイオケミストリー。
恐竜やキリンはみんな大好きだけど、分子鎖やアミノ酸はどうだろう…?
ちょっと尻込みしちゃうよね。専門用語もやたら複雑だし。


「まあこのテーマでこの重さだし、焦らず1~2年かけて完売すればいいか」

と思って、気持ち多めくらいで刷ったんだ。

でもこれが本当に早く完売した。
2016年のエッセンシュピールでお披露目予定だったんだけど、僕が会場に到着する前に、ほんとに瞬殺で完売しちゃったんだ。
小売店は動揺していた。
というかほぼキレていた。
売る仕事がなくなっちゃったわけだからね。

「とりあえず初版のフィードバックを踏まえてジェネシスの2版を今作っています。
良いものになりそうです、あと今後はきちんと多く刷ります」

と説明して、どうにか場を納めてもらった。


で、なんでキックスターターというプラットフォームを選んだかだね。
これはシンプルで、マーケットの需要がわからなかったからだね。
・重ゲーを遊ぶ層のうち、どれくらいが関心を示すのか
・旧版を買ってくれた方のうち、何%くらいがアートとルールを変えた新版を買ってくれるのか
・新しくBiosシリーズを知った人をどれだけ巻き込めるのか

このあたりを把握するのが目的だった。


ジェネシスの制作エピソードをもう少し伺えますか?
ゲームの内容など?


いちばん難しかったのは、プレイヤーのアイデンティティの付け方だった。
プレイヤーは何がしたい何者なのか。

 バイオス:ジェネシスは本当に変わったゲームで、プレイヤーは生命体を担当しない。
各プレイヤーは脂質核酸色素アミノ酸といった、細胞内物質を担当する。

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有志のアップグレードトークン
リン脂質、二重らせんのDNA、色素(?)、アミノ酸


プレイヤーの担当要素によってできること、機能が異なる。
ときに協力し合ったり、敵対的に何かを奪い合ったりする。


また、自他の境界があいまいなのも大きな特長だ。
たとえばたまたま相手プレイヤーの生命体を飲み込んで、自分の組織に取り込むことがある。これは単なる貪食ではなく、内部共生体*という、より
複合的な、ハイブリッドな有機体になる。
プレイヤーは単に飲み込んで有利になろうとしていただけなのに、より状況が複雑化するんだ。

*内部共生体/endosymbionts
ある細胞に別種の細胞が取り込まれて共生すること。葉緑体やミトコンドリアなどの細胞小器官は、元は内部共生体だったとされている。

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あとはゲームバランスと史実との整合性を取るのも苦労した。
はるか昔、海底火山の高温下で生命が創発した。
科学再現を重視するなら、生命が誕生する確率はかなり低く絞る必要がある。
でも、絞りすぎたらゲームバランスが崩れる、運ゲーになってしまう。
テンポよく最初の生命を創発させたラッキーなプレイヤーがいち早く拡大再生産を開始、他全員は置き去り。
そんなゲームにしないために、かなりタフに調整する必要があった。

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科学的に未解明な事象が多いのも制作を難しくしていた。
・原核生物と真核生物がどちらが先か
・RNAの元になったような物質は存在したのか
・RNAワールド*は実在したのか

*DNAを主媒介としている今の世界を指して、分子生物学でDNAワールドと呼ぶことがある


ゲームに取り入れたい要素は無数にあった。
でも、全部入れようとしたらハイフロンティアを軽く超える究極に重いゲームになってしまう。
できるだけ絞って、タイトに仕上げるのがいちばん大変だったね。


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(3)Bios:Megafauna


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Biosシリーズ2作目である「バイオス:メガファウナ」、およびその前身のアメリカン・メガファウナについてお話を伺えますか?
テーマはどこから持ってきたか?
バイオス:ジェネシスとくっつけるために改変した部分など?

メガファウナは本からアイディアをもらった。
三畳紀の歴史についての本を読んでいて、「これはゲームになるために存在する一節だ!」と叫びたくなる瞬間があった。
三畳紀は2億5000万年前の時代区分で、その前のペルム紀に大量絶滅が起こったんだ。

たくさん動物が死んで食物連鎖の再編が起こったんだけど、原始哺乳類と原始恐竜がちょうど対等な力関係で、優位性を競って激しく対立していた、と本には書いていた。
ここからメガファウナは生まれたんだ。

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写真は別デザイナーのパンゲア(2019)で、ペルム紀の大量絶滅をテーマとしている


哺乳類も恐竜もキャッチ―なテーマだ。
恐竜が嫌いな男子は探す方が難しい。クマやキリンだって人気だ。
遊び手の感情を自然に動かしてくれるから、ジェネシスよりは断然ゲームに落とし込みやすかった。

メガってタイトルだけあって、プレイヤーの主目的は担当種族のサイズを大きくすることだ。
サイズアップして、捕食しやすく/されにくくなりながら、最終的には生態系の頂点にを目指す

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2版を作るときはまず、
「せっかくなら映える生物種だけじゃなくて、すべての生命を網羅したい」
と考えた。
昆虫も、植物も、菌類も出したかった。
気候や居住可能性に関するパラメータを組み込んで、生態系をゲームのなかで構築しようとしたんだ。
史実に忠実にすると、特に環境に適合的なものもあれば、覇権は取れそうにない弱い種族もあった。
ただこれはボードゲームだから、ゲーム開始時では完全にフラットな状態にして、「どの系統もこの惑星の覇権を取れる可能性がある」という風にデザインした。

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2版で植物や菌類を出すなら、各系統の分類方法も変える必要があった。
バイオス:メガファウナでは脊椎動物しか出さなかったんだけど、で分類していた。
恐竜の歯の最大の特徴は定期的に生え変わることだ。サメとかと同じだ。
哺乳類は永久歯を持つ。
メガファウナの2版は、もっと幅を広げて作ろうと思っていたから、歯ではなく、最終的に骨格による分類を選んだ。
内骨格(人間や哺乳類など、よくある骨格)
外骨格(昆虫、カニ)
水中骨格(棘皮動物、クマムシ)
細胞骨格(植物、菌類)

プレイヤーはこの4種の骨格のうちどれかを担当する。
どの種族の最終目標も、
「肺を作って、好気呼吸を獲得したい。
呼吸で莫大なエネルギーをブン回して、肉食獣として生態系の頂点に立ちたい」

だ。
それぞれの骨格には強み、弱み、クセがある。
カンタンには攻略できないように作ったよ。

あとは、2版でのUIの調整として、ジェネシスとメガファウナで、生命体に必須な4要素を同じ色で統一した。
それぞれのカラーは、メガファウナ/ジェネシスで記すと、

感覚器(眼、鼻、耳、神経系、脳)/アミノ酸

循環器(心肺、筋骨格系) /脂質

消化器/色素

生殖器/核酸


この4色はジェネシスではプレイヤーカラーだったが、メガファウナではプレイヤーが獲得する能力として扱われる。
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メガファウナ2版には拡張モジュールが付いていると伺いましたが、そのあたりのお話も伺えますか?


火星と金星でのマップとシナリオもある。
もし火星や金星に生命が誕生したとしたら?
それはどういったもので、どういう分岐進化を遂げ、どうなっていっただろうか?

という疑問をベースにしたSFだね。
上級者向けの、シビアな気候モジュールもある。
オリジナルルールだと対戦相手だけ見てればよかったが、気象モジュールを入れるとジェットコースターのように環境が激変する。
激しい気候変動にも適応しながら生存競争しないとならない、マゾい方向けの拡張だね。
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火星マップ

あと、メガファウナのいちばんの面白さって突然変異なんだけど、2版では突然変異をかなり起こりやすくした。

突然変異が起きると、プレイヤーは2択の分岐進化先を選べる。
たとえば、エレクトロロケーション(電気定位)を取れる。
電気定位は実際にバクテリアなどが持つ能力で、電場によって外敵と自分の位置関係が把握できる。
電気定位を突然変異させると、エコーロケーション(反響定位)に発展させられる。
反響定位はクジラやコウモリの持つ能力だ。
声帯から超音波を発して、海底や洞窟の反響を感知する。
どこに何があるかを把握して、海中のオキアミや洞窟内の蚊といった相当小さな獲物の場所まで定位できる。

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あるいは、別な分岐進化をたどれば赤外線センサーも獲得できるかもしれない。
センサーがあればガラガラヘビが持つような暗視能力が得られる。

2択を選ばせるのはメガファウナに通底する構造だ。
感覚器に限らず、頭やしっぽといったビジュアルも分岐進化でプレイヤーに選ばせている。
プレイヤーのセンス次第で、かなり自由度が高くキャラをカスタマイズできる。
昼間は光合成して暮らすおとなしい植物だが、夜になったら好気呼吸を開始して肉食活動を開始する
そんなハリウッド映画級のモンスターも作れるかもしれない。

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眼の誕生
感覚器が突然変異を経ながら進化していく過程がわかりやすく描かれている
本記事のような話題が好きな人には勧められる



(4)Bios:Origins

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オリジンズは3部作の完結編です。
20万年前の地球で、

・ホモ・サピエンス

・ネアンデルタール人

・デニソワ人

・ホビット(ホモ・フローレシエンシス)

の古代人類のいずれかを担当し、繁栄を競います。
制作エピソードなどを伺えますか?

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オリジンズの制作でいちばん思い出深いのが、マップの作り方だった。

「アメリカ大陸は、シベリアにいた人類も、ヨーロッパ側にいた人類でも発見はできたはずだ。
どちらからでも渡る可能性を持たせた、正確な地図を描きたい」
と思っていた。

今の学説では、アメリカ先住民インディアンの祖先は、シベリア経由で渡ってきたとされる説が有力だ。
しかし、アメリカ東岸ではヨーロッパ側のミトコンドリアDNAが見受けられることから、
「ヨーロッパから渡ってきた人類もごく少数いたのかも」
とも考えられている。


オリジンズでは、氷タイルの除去タイミングによって、シベリアにいるデニソワ人でも、ヨーロッパにいるホモサピエンスでもアメリカに上陸できるように作った。

このマップを作ってるときに、「グリーンランドってすごく面白いぞ」って気づいたんだ。
原始人類の航海術だと、大西洋を横断なんて絶対できない。
だからヨーロッパからアメリカに漂着するには、必ずグリーンランドを経由する必要があった。

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中央の白い土地がグリーンランド
ノルウェー→アイスランド→グリーンランド→カナダと刻んでいくルートが現実的と思われる



史料は発見されていないが、たとえばシベリア側から来たデニソワ人と、ヨーロッパ側から来たホモサピエンスがグリーンランドで出会う可能性があったと私は考える。
デニソワ人はホモサピエンスから分岐した亜種だとされている。
1万年以上前に分岐した東西人類が、木も生えていないグリーンランドで最初で最後の再会をする。
そして海と氷で途絶された孤島に取り残されて、どうにかして生存する術を探す。
もはや文学だ、ここからプロットが展開する未来しか見えない。

ゲーム作りのために調べものをしていると、こういう思わぬ発見をよくするよ。

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(5)High Frontier

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「ハイフロンティア」
が私のいちばんのお気に入りです。
普通の重ゲーをやるときは、勝敗がいちばん気になるんですが、ハイフロンティアってそういうゲームじゃないんですよね。
誰が勝つかとか、何点取るかってあまり大事ではなくて。
前やったとき、同卓した友人が、終盤にひときわパワフルなソーラーセイル*を完成させたんですよ。
そこからはもう、勝敗なんて半ば無視して、コストを踏み倒して内太陽系を飛び回る快感の虜になっていました。


*ソーラーセイル
フォトンセイル、太陽帆、宇宙ヨットとも
ロケットを用いない非ロケット系の移動手段
ロケットエンジンと比べて推力が小さいが、太陽光で動くため料を消費しない
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ソーラーセイルのメカニクスをそんなに気に入ってくれたなんて嬉しいよ。
非ロケット系の挙動を、ロケット系と同じマップ上で成立させるのには本当に苦労した。
加速スピードから燃料の消費量まで、何もかもが違っていたからね。
とても難航したけれど、最終的には「物理的な距離ベースじゃなくて、消費燃料を基準にマッピングすればいい」とひらめいたときは最高だった!雷が落ちたような瞬間だったよ。

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(6)Paxシリーズ
パックスシリーズは、基本的にやや小さめの箱でカードがメインコンポーネントのゲームだと認識しています。
これまでは科学テーマの、分厚いヘヴィゲームが多かったですが、どういった事情があるか伺えますか?
販売や製造のしやすさなど?



作りやすさ、売りやすさはとても大きい。
ドイツでは500グラムが1つのラインなんだ。
500g以下であれば、ドイツから送料が4ユーロ固定で世界中どこでも送ることができる。
小さいと買った人もしまう場所を選ばない。
軽いと持ち運びやすい。
ただコンパクト路線は並行して作るだけで、これからも大箱も作っていくよ。

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(7)テストプレイ、ルール観、科学主義とボードゲーム

テストプレイのプロセスについて伺えますか?

まだ勉強の途中だから大それたことは言えないけど。
制作プロセスのアキレス腱と言ってもいい。
ビッグサイズのゲームのテストプレイでなにより大変なのは、テスターへの負荷だ。
注意深く運用しないと、テスターを壊してしまう。
自分はデザイナーだからいくら負荷をかけても問題ないけど、テスターに疲労を溜めるのは本当に良くない。

私のゲームは重くて、テストの頻度も早いんだ。
さらにテストのたびにヴァージョンがまるっきり変わっていく。
テスターには、「次の回にはどうせ使わん知識だ」となかば諦めながら、毎回ちゃんとルールを頭に入れて、それなりに上手に打つことが求められる。
それは本当にありがたく、過酷なことだよ。

だから、いちばん最初にやった工夫は、複数のチームを持つことだった。
今では、ソロでテストしてくれるツテが何人かいる。
私はソロプレイがかなり好きな性質だから、まずソロヴァージョンを自分で試す。で、次にソロ用のテスターにテストしてもらう。
ソロテストが制作のメイン工程なんだ。
自分以外の3人のテスターを集めて3時間拘束するテストと比べて、かなり負荷が減らせる。


ゲームのルールについてどうお考えですか?
伺っているお話から察するに、「ルールは可変的であり、公式ルールも変化していく」と考えておられるタイプのように見えます。


まったくそのとおりだね。
ゲームを世に出すまではデザイナーの仕事だ。
しかし、膨大なプレイヤーに遊ばれることによって、ルールは進化し、洗練させられる。
ウィキペディアと同じだ。1人の人間にできることには限界があるが、世界中の様々な背景を持つ人間で取り組めば良いものになると思うよ。


エクルント作品には共通して、プレイしながら学習できるような感覚があるのも楽しいです。
教育とエンタテイメントのミックス(エデュテインメント)というだけでなく。
エクルントのゲームをプレイすると、科学や歴史の流れを掴む助けになると考えています。
また、本や映画、ドキュメンタリーとの最大の違いは、プレイヤーの選択が結果に作用することだと思います。
作品とプレイヤーが相互作用的(インタラクティブ)だからこそ体験できる、ユニークな魅力です。


そのとおりだと思うよ。
優れたシミュレーションゲームは、この世界がどのように機能しているかを教えてくれる。世界をより理解しやすくしてくれるね。
私は、ゲームが映画や本に対して持つ優位性は、「プレイヤー全員が同じルールでプレイしなければ成立しない」って点にあると思う。
我々は同じ宇宙に住んでいて、どの時代のどんな文化圏にいようが、本質的には同じ法則下で生きている。
これは科学がいちばん大事にしている物の見方なんだ。
いつ、どこで、誰が再現しても同じ結果が得られる場合、その知見は特に価値が高いとされる。

ゲームは科学主義と相性が良いと思うんだ。
ドイツでもモンゴルでも、別の惑星であっても、いつでも、どこでもゲームは同じようにプレイされる。
当たり前のことだ。
「世界は主観的な感情とは別に、ファンダメンタルな法則に従って客観的に挙動している。
また、人間はどこにいようが本質的な違いはない」

という科学的な視座は、ゲームに親しんでいる人間ならスムーズに受け入れられる。
これは、教育者や哲学者には持ちえない、ゲームプレイヤーならではのアドバンテージだと考える。



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